zoku勇者 ドラクエⅨ編 92

繋ぐ絆

「お前達も邪魔するとこうですよっ!食らいなさいっ!!」

「……シャーー!ウギャーー!!」

「……バカっ!伏せんのよッ!早くッ!!」

ゲルニックはモンとサンディの方にもメラゾーマを放出。
ジャミルを助けようと無茶をしようとするモンの頭を
急いで地面に叩き付けて伏せさせる。間一髪で、メラゾーマは
二人の頭上を通過し、どうにか避けられた様だが……。

「外しましたか、私とした事が……、だが今はこんな糞共の
相手をしている暇は有りませんのですよ、では、さらば!
ホホホー!」

「……ゲルニックっ、……ま、待てっ!……ジャミルーーっ!!」

アルベルトは何とか頭を上げ、立ち上がろうとするが、ゲルニックは
既に姿を消した後だった。伝説の装備を奪い、そして、装備品の継承者で
あるジャミルも……。

「……ア、アル、どうしよう、ジャミルが……、浚われちゃったわ!」

「アイシャ、落ち着こう、僕達が冷静にならなくちゃ、幸い近道は
出来たんだ、もう一度、彼処を通って奴に追い付こう!」

「ええ!」

「悔しいモンっ!ゲルニック、絶対に絶対に許さないモン!ウギャギャの
ギャーー!!待っててモン、今、二人を回復するモン!」

「モンちゃん、ありが……」

「お~い、おお~い!!」

モンが精霊の歌を歌おうとしたその時、何処かで聞いた様な声が
後ろから聞こえて来る。

「ダウドっ、モ~ンっ!!」

「ヘタレっ!アンタ今頃っ!!」

「「……ダウドっ!!」」

アルベルトとアイシャが声を揃える。結局、やはりいつもの事ながら、
散々いじけておいて、それでも結局は戻って来てくれるのだが……。
今回、アイシャはジャミルがゲルニックに連れて行かれてしまった事で
錯乱し、戻って来たダウドの顔を見た途端……。

……パァンッ!

「……ふぇっ!?ア、アイシャ……」

「……バカっ!ダウドのバカっ……!」

不安と怒りから、ついダウドに手を出してしまい、頬に強烈な
ビンタを一撃お見舞いしたのである。ダウドの頬には紅葉マークの
手形跡がしっかり付いた……。

「モォ~ン!ダウドのバカモンっ!」

モンもダウドの頭に齧り付く。いつもの事ながら、皆に何を
怒られても覚悟しているダウドである……。それでも……。
やっぱり、どうしても、自分はジャミルと、皆と一緒に
いたいんだと。

「アル、アイシャ、モン、サンディ……、皆、本当にごめんよ、
まずは傷を急いで回復……、って、ちょっと待って、何か一人
足りなくない……?」

ダウドは傷だらけのアルベルトとアイシャの姿に気づき、まずは
お詫びに回復魔法を掛けようとするのだが、あと一人、どうしてか
姿が見えない人物に焦り始めた……。

「どうして……?どうして、ジャミルいないの……?ねえ……」

「……アイツもやっぱ復活してたのッ!前に倒したゴレオンて
奴みたいにサ、卑怯な手を使って皆を騙して、ジャミルの伝説の
装備も奪って……、ジャミルも連れて行かれちゃったのッ!!」

「そんな……、嘘……」

「嘘じゃないんだよ、ゲルニックはエルギオスに新たに伝説の
装備の破壊を任命されたんだ、そして、伝説の装備の後継者で
あるジャミルの命も狙っている……、今は君に説教している暇は
無い、本当に申し訳ないと思うなら、又力を貸して欲しい、
ダウド……」

「アル……、オイラ一緒に行くよ!本当にごめん!!ベホマラー!!」

ダウドは精一杯、心を込めベホマラーを詠唱する。そして、改めて、
皆と一緒にジャミルの救出作戦、打倒エルギオスとの決戦に向かう
決意をする……。

「一緒に行くモンっ!ダウドっ!!ウシャーー!!」

「モン……、うん……」

モンもいつものダウドの頭の上、定位置に飛び乗る。普段は
太鼓叩きで困らせているが、やはりモンはダウドに勇気を
与えてくれるのである……。

「でもっ、お仕置きしておくモン!……ブーーッ!!」

「……あぎゃあーーーっ!?」

「全くもうっ、ホントにホントに、どうしようもないんだからっ!
……ジャミルがね、ダウドの事、俺は信じて待つって、……そう言って
くれたんだからね……」

アイシャはダウドから顔を背け、ポツリとそう言葉を漏らす。
涙声で……。

「ふ~、アンタラもマジでお人好し!一体全体、何回このヘタレに
騙されたら気が済むんだか!……ホントに申し訳ないと思ってんの
なら、さっさとジャミ公助けに行きなさいよッ!グズグズしてる暇は
ないんだからネ!」

「分かってるよお、サンディ……、皆さんから後で仕置きを受けるのは
覚悟してます、でも、今はジャミルを助けなくちゃね、行こう!」

ダウドの言葉に頷くアルベルトとアイシャ。だが、近道ルートを
通れるとは言え、ジャミル救出に間に合うのか、今はとにかく
急ぐしか無い……。ジャミルの無事を信じ……。そして、ジャミルが
連れて行かれた頃、セントシュタインのリッカの宿屋に滞在させて
貰っているカナトの身にも異変が起きていた……。

「……チョメ助さん、本当なんですか!?……カナトが倒れたって!!」

「ええ、パスタが入っている鍋のお湯を降ろそうとした際、
急に倒れてしまったらしくて、厨房中大騒ぎです、取りあえず、
幸い火傷はしなかった様ですが、今、皆で部屋に急いで運んで
様子を見てるんですが……」

「カナト、……どうしたのっ!ああ……」

「リッカ、落ち着きなさい、今、手の空いている従業員達が
様子を見てくれているわ、あなたは此処にいて、ね……?」

「ロクサーヌさん、でも……」

「私達がいるんだから大丈夫よっ!あなたはカウンターを離れたらダメ、
本日のお客様がまだまだいらっしゃるんだから!万が一の事があれば
直ぐに医者を呼ぶわ、だから、リッカ、落ち着いて……」

レナはリッカの肩に手を置く。リッカを安心させる様に
言葉を掛けた……。

「レナさん、分かりました……、ロクサーヌさん、カナトの事、
どうかお願いします……」

二人はリッカの顔を見て頷き、急いでカナトがいる寝室まで
走って行く。寝室では手の空いている従業員達が交代で
カナトの様子を見守っていたが……。

「こりゃあ酷い、凄い熱だぜ……」

「す、直ぐにロクサーヌさん達もこっちに来てくれる、お願いして
医者の手配を頼もう!」

「……カナト坊ちゃん、本当にどうしたんですか、お客様達が
あなたの作る食事を楽しみに待ってますよ……、どうか、どうか
元気になって下さい……」

「……」

カナトの耳にはそう呼び掛け、励ましてくれる従業員の声が
耳に届いていた。だが、どうしても体が動かず返事を返す事が
出来ない……。だが、一つだけ、分かる事があった。恐らく、
伝説の装備と、ジャミルの身に何か異変が起きたのだと……。

(……僕には、まだガーディアンの力が本の少し残っているから……、
もし、伝説の装備に何か異変が起きているのなら、それはかつて
伝説の装備を守る宿命の守護者だった僕の方にも通じて災いが起きる……、
ジャミル……)

「ホホ、それでは今からこれより、伝説の装備の破壊、そして……、
その主となりし者の殺害の儀式を行う……」

ゲルニックに拉致されたジャミルは、8階にある大広間にて、既に
意識を取り戻していたが、祭壇に寝かされた状態で、手足を鎖で
縛り付けられ、今雅に、絶体絶命の危機に陥っていた。ジャミルを
助けに向かおうとしている仲間達であるが、行く手を阻む強力な
モンスター達に妨害され、苦戦している……。普段は特攻担当の
ジャミルが離脱している所為もあるが……。流石に本作ではダウドも、
必殺、オイラはヘタレ、一抜けた!は、使う事はもはや不可。

「……ジジイ、何が儀式を行うだよ、他に誰もいねえだろ!
見てねえっての!てか、オメー、俺にこんな事しやがって、
そっちのケと趣味があったんかい!キモホモジジイ!」

「フン、まだ減らず口が叩けるか……、いい加減に眠っていろ!
この糞ガキ!」

「……あう、うううっ!」

ゲルニックは持っている杖からバギを放出。かまいたちが
ジャミルの体を切り刻む。それでもジャミルは、この野郎、
負けて溜まるかと歯を食いしばった。苦痛に耐え、静かに
目を瞑ると、誰かの声が聞こえて来た様な気がした……。


ジャミル、駄目だよ、負けては……、挫けないで……


「カナト……?」


約束……、待ってる、またキミと、皆と一緒に……


「カナト……、そうさ、あの鎧、剣、兜……、全部カナトが命懸けで
俺に託してくれたんだ、絶対に渡さねえ、今度は俺が絶対に
守ってみせる……」

「それでは、まずはこの糞厄介な装備から……、……あ、あちちちっ!
何ですかこれはっ!……そうですか、直接は私が触れられない様に
してあると……、小細工を……!ならば、この私の魔法で全て
ズタズタに破壊して差し上げます……!ホホホ!」

「無理だよ、アンタに伝説の装備は破壊出来ねえ……」

「黙っていろと言っているのです!見ていなさい!私の魔法で今、
……メラゾーマ!」

「……」

ゲルニックは伝説の装備を強奪したはいいが、直に触れられない為、
球体に閉じ込めたままの装備に魔法をブチ当て、破壊しようと
していた。だが、やはりどうしても上手くいかないらしい。球体が
壊れないのである。何回やっても……。ゲルニックの顔に段々汗と
青筋が浮かんで来た。ジャミ公はその間に、自分を縛り付けている
この鎖をどうにか外せないかと手足を何とか動かそうとしていた……。

「……う~!外れろっ!このーーっ!!」

「ハア、ハア……、おかしい……、何故だ、何故……、
エルギオス様に復活させて頂いて、私の魔法力は最高に
なっている筈、こんな事が……」

「くそっ、くそっ!外れろーーっ!!アホーーっ!!
糞うんこーーっ!!」

「……こ、この……」

ゲルニックはふと、隣で暴れているジャミ公の方を見る。先に、
公害のやかましいこのクソガキを殺してしまう方が手っ取り
早いと……、球体の処理から手を一旦放した。

「ホホホ、安心しなさい、そんなに暴れなくても今、楽にして
差し上げますよ……」

「!?あ、あっ!!や、止めろっ!来んなっ、……ドSM変態
ジジイーーっ!!」

ゲルニックがジャミルに近づく。ゆっくりと。ジャミルの顔を
見つめ、ニヤリと笑うと、顔の真上で杖を振りかざした……。

「黒焦げになって死になさい、伝説の装備よりも早く始末して
貰えるのです、嬉しいでしょう?ホホ、ホホホーー!?」

「……な、何だ?」

ゲルニックに再び戸惑いが走る。今度は又、球体に包まれている
伝説の装備が光り出した。先にジャミルに手を出そうとした
ゲルニックは又激怒……。

「いい加減にしなさい!こっちをやろうと思えば、あっちが暴れ出す!
……洒落臭いわ!こうなったら纏めて両方とも一辺に破壊殺してくれる!
そうすれば、どちらかは消滅す!ホホ、ホホホホーーっ!?あっ、アッ!?
つういーーっ!?」

だが、球体も負けておらず、更に輝きを増し、球体ごとゲルニックに
体当たりした。ゲルニックは更に激怒、再び球体を捕まえようとするが
逆に熱い炎に包まれ、雄叫びを上げた……。

「……のぎゃあーーー!!ま、負けませんよ、こんな事でっ!わ、
私はあああーー!!」

「マジで何が起きてんだよっ!この体さえ動けば……、自由が
利けば!うっ、ううーーっ!!」

「ジャミル……」

「カナト……?本当にカナトなのかっ!?」

今度は声で無く、ジャミルの前に突如現れたカナト……。夢か幻か……。
幻でも夢でもいいからと、ジャミルは必死でカナトに呼び掛けるのだった。

「ジャミル、キミと伝説の装備に異変が起きているのを直ぐに
感じ取れた、僕はまだ、完全に人間になっていない、僕の中には……、
まだ本の少しだけ、ガーディアンの力が残っている、だからこうして
残った僅かな力を使ってキミに呼び掛けているんだよ……」

「そっか、カナト、お前……、ありがとな、ごめんな、俺がドジ
踏んじまった所為で……、わざわざ俺の為に来てくれたんだな……」

カナトはううんと首を振る。そして静かにジャミルへと微笑み掛けた。

「ジャミル、信じる事、どうか諦めないで……、僕も付いてる、
絶対に悪者になんか聖なる力を渡しちゃいけない……、何所まで
出来るか分からないけれど、僕の中の最後の力をどうかキミへ……」

カナトの魂がそっとジャミルの手に触れた。その時……。

「カナト……、うっ!……うっ、あああーーっ!?」

「く、糞ガキがっ!な、何をやらかしたっ!……ア、ア、アアアーー!!
……ギャアーーーッ!?」

急いでジャミルへと再び魔法を放出しようとしたゲルニックへ
異変が起こる……。遂に球体が割れ、中へと閉じ込められていた
光が溢れ出し、ジャミルの元へ飛んで行く。そしてそのまま
ジャミルを包み込んだ……。

セントシュタイン・リッカの宿屋……

「ちょっとっ!カナトっ!アンタしっかりしなさいよっ!死んだら
駄目なんだからっ!……カナトっ!!返事しなさいっ!!」

「あああ、レナさん!このままじゃもう……、カナト坊ちゃんの体が
限界ですぜ!」

「レナ、やっぱりお医者さんを呼びましょう……!」

「わ、分かってるわよっ、ロクサーヌっ!冗談じゃないわよっ!せ、折角
ウチに来てくれた救世主を……、こんな処で失って溜まるもんですかっ!
アンタ、ちゃんと助からないと許さないわよっ!!」

「……レナさん、ロクサーヌさん、み、皆さん……」

「カナト……!!」

「カナト……」

高熱で意識不明だったカナトが漸く目を開けたのである。まだ少し
苦しそうであったが、皆に笑顔を見せた……。

「突然ご心配お掛けして本当に申し訳ありません、僕、何とか大丈夫
だったみたいです……、ちゃんと、力も……、送れた……、また生きてる……」

「バカねっ!何訳分かんない事言ってんのよっ!とにかく医者を呼ぶからね!
大人しくしてなさいよっ!!」

「はい、レナさん……」

「はわわーーっ!!大変だーーっ!!」

ロクサーヌとレナが見守る中、他の手の空いている従業員達は
医者を呼ぶ準備でリッカの元へカナトの状態を報告に行ったり、
宿屋内はてんやわんやだった……。

ジャミル……、僕に出来る事はこれで全て……、後はどうか……、
頼んだ、よ……

「あれ?これ、俺の剣だ、それに、鎧も……」

「……!こ、これは一体どう言う事だっ!小僧に伝説の装備の力が
戻っただと!?そんなバカなっ!!……く、くそっ!!」

ジャミルは急いで利き腕の中に戻った伝説の剣で自分を拘束
している鎖を叩き切る。直ぐに起き上がり、ゲルニックが
飛ばして来たメラゾーマをひょいっと飛んで避けて交わす。

「ジジイ、残念だったな!」

「……こんな事がっ!……がっ、がっ、ガアアーーーッ!!」

「狂ってアヒルになったかっ!ざまあっ!!」

「……ゆる、さんーーっ!!食らえっ!大いなる大魔法の
怒りををっ!!」

怒り狂ったゲルニックは更にメラゾーマを連打で何発も
放出してくる。流石に、避けきれるかっ!?と、ジャミルも
真剣に目を見張った……。

「メラゾーマっ!!」

「う、うおっっ!?ま、又、何事っ!?」

だが、後方からもう一つ、メラゾーマが放出され、ゲルニックの
メラゾーマとぶつかり合う。そして、更に飛んで来る氷のフォース+
五月雨撃ち……。完全にゲルニックの魔法の方が押されている。そして、
氷のフォースの勢いはゲルニック本人を包み込み凍り付かせた……。

「「ジャミルっ!!」」

「皆っ!!」

後ろを振り返ると、アルベルト、アイシャ、モン、サンディ……。
漸く仲間達が追い付いて助けに、援護に来てくれたのだった。ジャミルは
仲間達にニカッと笑ってみせる。……再びジャミルの体に伝説の装備が
纏っているのを見て、アイシャは安心したのか涙を溢した……。そして、
仲間達の更に後ろから……。

「あの、あの、ジャミ……ル、その……、やっぱり、怒ってる……よね?」

「ダウド……」

申し訳なさそうにジャミルへチラチラ、上目遣いでちょこちょこと
ヘタレが出て来た。やっぱりなあと、思う反面、今回もちゃんと戻って
来てくれたんだなあと……。

「取りあえず、話は後だ、サポートに回ってくれるか?ダウドっ!!」

「……う、うんっ!!」

「よ、よくも、またしても……、こ、この私を……、ホホホ、
ホホホーーーっ!!」

不安そうだったダウドもぱっと笑顔を取り戻す。と、同時に、
ゲルニックを包んでいた氷が割れ、再びゲルニックが復活……。尚、
血走った眼球は飛び出る寸前、呼吸はハーハー、お怒りも、もう
かなりの様である……。

「……お前ら、もう纏めて全員ブッ殺してくれるわい……、ひひ、ひひ、
ひひ~ひい……、ですが、私は一体何をやりたいんでしょう?ああ、
エルギオス様にお力を頂いて、復活して、お前達を倒すのだった、
ふひひ、ひひい、ひいい~……、私はそのらめのそんらい……」

「ジジイ……、ゲルニック……」

ゲルニックは口から血を吐き、笑いながらジャミル達を只管
睨んでいる……。もうその姿は狂気に走った哀れな老人の
成れの果てにしか見えなかった……。

「今度こそ成仏しなっ!けど、その前にお前も地獄へ行かなくちゃな!」

「たーわーけーたーこーとヲォォォ……!!ヌフォォォーー!!」

後はもう、勝利は目の前だった。ゲルニックはもう魔法も一体何所に
ぶつけようとしているのか、本当に最後は哀れであった。ジャミルの
伝説の剣の刃がゲルニックの体を斬る……。こうして、復活した
ゲルニックも再び眠りに付く事になった……。

「おのれ、口惜しや……、だ、だが、ワガ、テイコクハ、フメツ……」

「……」

ゲルニックの体が消滅して行く。そして、もう一人、復活した
帝国三将、あと一人がこの先に、必ず最後に立ちはだかる筈。
きっと、ゴレオン、ゲルニックなどとは比べ物にならない強敵に
なるかも知れない事はジャミルも覚悟していた。

「……良かった、ジャミル、君が本当に無事で……、お疲れ様……」

「うんッ!あんたってバ、マジヒヤヒヤモンなんですケド!?でも、
ホントにおもしれー奴ッ!!」

「モンっ!ジャミルーっ!!」

「ああ、心配掛けたな、皆、俺は平気さ、しぶといからよ……、お?」

「……バカっ!ジャミルのバカっ!!」

ゲルニックとの死闘が終わり、アルベルト、サンディ、モンが
ジャミルに声を掛けてくれる。そして、このお方も。ギュッと
ジャミルの腕を強く掴むと、そのまま体にすり寄る。……自分を
安心させるかの様に……。

「アイシャ、……あの、その……、だから……、えーと……」

「「じい~……」」

「モンも大人のお勉強するんだモン……、ウシャ、ウシャ……」

「……モンっ!む、向こう行ってろってのっ!……参ったなあ~……」

「ウシャシャのブ~!……うっふんモン♡」

「……コラーーっ!!」

ジャミ公は自分達を見つめている数人の視線に気づき、困ると真っ赤に
なり、慌ててアイシャを突くが。アイシャが離れないのである。困った
なあ~と……。

「……後で、ジャンボフルーツパフェ、それから、ホットケーキセット、
チョコケーキ、それで許してあげる……」

「……うわ!?アイシャ、お前よう~……」

「いいのっ!もうこの際太ってもいいのっ!ジャミルのバカっ!
べえ~だっ!」

「……汗」

アイシャは頬を膨らませ、ジャミルを脅迫すると漸くジャミルから
離れた。赤く真っ赤になり、腫れ上がった目を擦りながら。そして、
もう一人、困ったお方が……。

「あの、あのね、ジャミル、その、オイラ……、あうあう……」

皆の後ろに隠れ、おどおどしていたダウドがジャミルの前に出る。
他のメンバーはもう何も言わず、後はジャミルに任せる事にした。

「ダウド、もういいよ、マジで怒ってねえから、今回はデコピンも
ゲンコツもナシだ……」

「本当にっ!?ジャミルっ!!」

「ああ……」

「え、えっ!?」

見守っていた他のメンバーは呆気に取られる。これで今回
済んじゃうの!?……。と。だが甘かったんである。性悪
ジャミルが仕置きせずに済ませる筈が無く……。

「デコピンは今回は休みだ、但し、今から新しい仕置きを思いついた、
さ、腕出せ……」

「あ、あの、ジャミル……、あの、怒ってないって、言ったよね?
あはは、はは、ははは……?」

ダウドは悪寒を感じ、数歩下がり始める。ジャミルの顔がどんどん
嫌らしくなっていった……。ジャミルは自分の指2本に息を強く
吹き掛け……。

「丁度、新仕置きを思いついた、……連打しっぺだ、よし、行くぞ……、
歯を食いしばれ」

「……ちょ、ちょちょちょちょ……、だから待っ……、ア、アーー!?」


仕置き連打しっぺ・初回サービス×10


「……うぎゃあーーーーーー!!」


「……今度から、デコピンとしっぺ、交互でやるからな、いいか!?」

「……酷いよおお~、ジャミルううう~……、アホーー!!」

こうして、やる事はやる。やっぱりヘタレはジャミ公に仕置きされた。
見守っていた、仕置き常習犯のアイシャ、モンも不安になる……。
アルベルトは笑いを堪えるのに必死で耐えていたのだった。

「もう大丈夫です、しかし……、あなた方ももう少し考えた方が
良いのでは?この子はまだこんなに小さいお子さんじゃないですか、
恐らく、慣れない環境とで、疲れも出てしまったのでは?今後過激な
労働は控えさせる事です……」

「は、はあ……、ですが……」

「申し訳ありませんでした……」

「それでは、私はこれにて、お大事に……」

再び、セントシュタイン・リッカの宿屋内・とある寝室にて。漸く
駆け付けてくれた医者にカナトの様子を見て貰い、治療を終えた直後の
事。手厚く治療を施して貰い、体の状態もすっかり良くなっていた。だが、
医者は従業員達が、成長期でまだ体が未熟なカナトを働かせている事に
疑問を持ち、無茶な労働を控えさせる様に伝えて言ったのである。今回の
事は、カナトの疲労が原因では決してないのだが……。真相を伝える事は
誰にも出来ない。

「本当に有難うございました!」

漸く、少し仕事の手が落ち着き、寝室で様子を見守っていたリッカが
去って行く医者に頭を下げた。レナ、ロクサーヌ、他の従業員達も……。
だが、やはりレナは噴火寸前。

「……冗談じゃ無いわよっ!だから私は最初から言ったのよっ!
無茶だってっ!嫌、アンタが決めた事だから、私はこれ以上何も
言えないけど!でも、今後は本当に考えた方がいいんじゃない?
不貞不貞しい体力バカのアンタとは違うのよ、この子は……」

「レナ、落ち着いて……」

「レナさんっ!酷いですっ!誰が体力バカですかっ!でも、カナトは
本当に凄く頼りになるから……、私も調子に乗って、無茶なお願い
し過ぎちゃったかな、あなたの事も考えないで……、ごめんね、カナト……」

「……違うよ、悪いのは全部僕なんだ、体調を崩したのも全部僕が
自分で悪いんだ、リッカも皆さんも、僕にとても気を遣ってくれて
いる、僕、お給料なんか要らないから、このまま此処で皆さんの
お手伝いがしたいんだ、お願いだよ、迷惑じゃなかったら、僕を
此処で働かせて……、どうかお願いします……」

「!カナト、迷惑だなんて、そんな事……!」

リッカは必死で頭を下げるカナトの姿に困ってしまう。その姿に
見守っていた従業員達も。ロクサーヌも心配そうな表情でレナの
方を見ている……。

「だ、だから……、あの……、あーもうっ!リッカの言う通りっ!誰も
迷惑だなんて一言も言ってないでしょっ!む、むしろ、もうアンタが
居ないと困るんだから、お客さんにも評判良いし……、それに働いて
貰うのにお給料あげなくちゃ労働違反になるでしょっ!バカねっ!」

「……レナさん……」

レナは相変わらずの早口、ツンデレ全開節でカナトに捲し立てるが、
カナトを見つめるその目は本当に温かく、心からカナトの事を本当に
心配していた……。

「リッカ、又私が意見を言っちゃう様で申し訳ないと思うけど、
やっぱりこの子の成長の為に、暫くは様子を見ながら働いて貰った
方がいいと思うの、夜は労働を控えさせるとか……、ね、子供は
子供らしく、伸び伸びとしていなくちゃ……」

「はいっ、レナさんっ!じゃあ、今後はちゃんと、カナトのお仕事の
時間も調整しながら決めたのでいいかな?ね?」

「うんっ!勿論っ、僕ももう無茶しません、これからもどうか
宜しくお願いします、皆さん!!」

見守ってくれていた従業員達もうんうん頷いて、リッカとカナトの
会話にほっこり。漸くほっと一安心する。全く、人に心配ばっか
させて……、と、ブツブツ呟くレナの姿にロクサーヌもニコニコ……。

「……何よ、ロクサーヌ、だから人の顔見て笑ってんじゃないわよっ!」

「いいえ~、さあ、カナト、今日はゆっくり休むのよ、食事が出来たら
レナにお届けして貰いましょうね……、ふふ……、さあ、私達も仕事に戻らないと……」

「……ちょ、だから何でそうなるのよっ!ロクサーヌ、ちょいお待ちっ!」

「♪~」

ロクサーヌはカナトに手を振りながら寝室を後にする。その後を慌てて
追掛けて行くレナ。何かあったらいつでも遠慮せずに言って下さいと、
他の従業員達も仕事に戻って行った。

「じゃあ、カナト……、私もロビーに戻るね、本当に何かあれば、
いつでも呼んでね、皆、側にいるんだからね!」

「うん、ありがとう、リッカ……、忙しいのに本当に有難う……」

「ううん、お互い様だよ、さあ、もう一眠りするのよ……」

リッカはカナトのベッドの毛布を掛け直してやると、彼女も部屋を
出て行く。皆、居なくなった後、此処の宿屋の皆の優しい気持ちに
感謝しながら静かに目を閉じた。そして。

「……あの時、お医者様は僕の体を調べても何とも言わなかった……」

危機に陥ったジャミルに力を送ったのがガーディアンとしての
カナトの本当の最後だった。僅かに残っていた力でジャミルを救い、
そして、完全に人間となった事を実感していた。もう、天の箱船を
見る事は出来ないし、サンディにも会えないだろう。これからは、
本当に本当に……、セレシアが言っていた様に、生まれてから死を
迎える、カナトの人間としての生涯が始まるのだろうと……。

「でも、信じられない、僕がこれから大人になるなんて……」

僕はこれから、この世界でどう生きて、どんな事を学んで年老いて
行くのだろうか。ちょっぴり不安で、そして楽しみでもある。
これからの自分の未来を想像している内、いつの間にか眠りに
ついてしまっていたのだった。いつの日かカナトにも、運命の
出会いが訪れ、恋をしたりする日が来るのかも知れない……。

「そう、カナト君が……」

「ああ、もう駄目かと思った時、アイツの声が聞こえて……、気づいたら
伝説の装備もちゃんと元に戻ってたよ……」

「カナト……、会いたいんだモン~……」

「そうだね、彼の事だから、仕事、頑張り過ぎて無茶をしていないか
ちょっと心配だね……」

「……オイラ、反省してます、カナトと比べられたら、く、比べ
ないでえ~……、オイラ……、うっ、うっ、うう~……、で、でも……、
これがオイラですもん~♡」

「全く、アンタ達、ホンッと、(ジャミダウ)コンビで揃ってバカっ!!」

無事にゲルニックも成敗し、ジャミルは自分の元に戻った伝説の装備、
そして、利き腕の中に握られた伝説の剣を見る。この戦いが終わったら、
皆で又、リッカの宿屋へ押し掛けてぱーっとどんちゃん騒ぎしようぜ!と、
ジャミルは皆に笑って見せるのだった。仲間達も頷く。きっと、その日は
来る。明るい日々は必ず戻ると。

zoku勇者 ドラクエⅨ編 92

zoku勇者 ドラクエⅨ編 92

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-23

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work