【第13話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました
ザルティア帝国の回復術士ルークは、帝国城内で無能と呼ばれ冷遇されていた。
他の回復術士と比べ、効率の悪い回復魔法、遅い回復効果は帝国城内の兵士らに腫物扱いされていたのだ。
そんな彼の生活にも突如終わりが訪れた―――。
横領という無実の罪を着せられ、死刑を言い渡されたのだ。
回復術士として劣等生だった彼はついに帝国城から排除される事となった。
あまりにも理不尽な回復術士ルークの末路―――。
だが、それが最期ではなかった。
秘められた能力を解放した回復術士ルーク・エルドレッドの冒険の始まりだ。
【第13話 遺跡の精霊使い②】
部屋に入ると白髪の少女はそこにいた。
薄暗い室内で埃まみれのベッド代わりと思われる布の山に横たわっている。
「なんで……こんなところに?」
俺は恐る恐る声をかけてみた。
――ー返事はない。
だが胸がかすかに上下しているのが見える。
近づくと少女が目を閉じたまま浅い呼吸をしているのがわかる。
衣服も泥にまみれで明らかに衰弱した様子だ。
「・・とりあえず治療しないと」
俺は両手を少女に向けた。
『ヒール』
柔らかな緑色の光が少女の全身を包み込む。
擦り傷や腫れた部分が次々に癒えていく。
驚いたことに通常なら消耗するはずの魔力がほとんど減っていない。
むしろ体の奥底から力が溢れてくるような感覚さえあった。
「よし」
傷が完治したのを確認し俺は少女の横に座った。
ふと見ると彼女の肩に干からびたパンのかけらが落ちている。
長時間、食事を摂っていないのは明らかだった。
「待っててくれ」
俺は荷物からパンと水筒を取り戻した。
「食べ物だ。食べられるか?」
声をかけても反応はない。
俺は慎重に少女の前にパンと水筒を置いた。
数秒後・・・
閉じていた少女の瞳が微かに震えた。
薄く開いた瞼の奥に琥珀色の瞳が現れる。
焦点が合うと同時に少女は驚いたように体を起こそうとしたが・・・
「うぐぅ・・・ッ」
力が入らない様子で再び布の山に倒れこんだ。
「無理に動かないで」
俺が慌てて支える。
少女の顔が警戒に歪んだ。
「・・・誰?」
掠れた声。喉が渇いているのだろう。
「俺はルーク。この遺跡に仲間と来ていたんだけど・・・はぐれちゃってね」
俺は優しく微笑んだ。
少女はしばらく俺を見つめて――
「―――『エリザ』」
ぽつりと名乗った。かすかに震える声だった。
「エリザか。君はなんでこの遺跡に?」
俺が尋ねるとエリザはゆっくりと語り始めた。
「えっと。森の奥にある精霊使いの部族で生まれ育ったの」
「精霊使い?」
「うん。自然と対話し精霊の力を借りて生きる一族。
でも、うちの村って色々と厳しい風習があってね。基本的には村で生まれ育ったらその村から出られないの」
エリザは遠い目をした。
「それに私、成人したから。村の男と必ず結婚しなきゃいけないって事になって。
それで、変な男と婚約させられそうになったから村を抜け出してきたの」
「なるほど・・・そういう事だったのか」
村の風習に耐えられず、集落から逃げてきたという事か。
閉鎖的な集落ではたまに聞く話ではある。
「うん。村を出たはいいけど王都まで遠いからさ。食料も水もなくなってきて。
どうしようってなった時に、この遺跡を見つけたのは偶然だったの。
幸い地下に小さな湖があったから、水分の確保には困らなかった」
エリザは更に言葉を続けた。
「でも、ゴブリンキングたちがこの遺跡に侵入してきちゃってさ」
「あー・・・いたね。確かに」
「うん。私お腹が空きすぎて精霊使いの力も使えなかったから
あいつらを追い払うこともできなくて」
「そうだったのか。それで君は食料も水も底を尽きて動けなくなってたのか」
「うん。もうダメだって思ってた時にあなたがやって来たのね」
「そういう事になるのかな?」
「うん。本当に助かったわ。ありがとう」
エリザはペコリと頭を下げた。
長い白髪がサラサラと肩に垂れる。
「大丈夫。もう安心して。とにかく今は食べることが先決にしないと」
俺はアメリアが持たせてくれたパンと水を再び差し出した。
「食べて。ゆっくりでいいから」
エリザは頷きパンに手を伸ばした。
一口一口噛み締めるように食べていく。
よほどお腹が空いていたのかすぐに一枚平らげてしまった。
続いて水筒を差し出すと喉を鳴らして飲み始めた。
「・・・おいしい」
エリザの表情に少しずつ生気が戻ってくるのがわかった。
俺は安堵の息をついた。
「そういえば、君はいくつなの?」
俺はエリザに年齢を尋ねてみた。
「うん?二十歳」
「え?同じ年?」
正直、10代半ばぐらいだと思っていたが――。
「もっと子供だと思ってた?」
エリザが少し意地悪そうな顔で俺を見た。
「まぁ……もう少し年下なのかなって」
確かにエリザは小柄だし顔立ちもどこか幼さを残している。
だが水を飲み終えた今、彼女の肌にはわずかながら血色が戻ってきていた。
瞳にも徐々に力強さが戻り始めている。
「――あれ?」
よく見ると……想像以上に成熟した体つきをしていた。
埃まみれの服の上からでもわかるほど胸元がふっくらとしている。
小柄な見た目が幼さを強調していたのだろうか。
こうしてみるとスタイルがよく十分に女性らしい体だ。
・・・大きさはアメリアと同じぐらいだろうか?
思わず視線が奪われてしまう。
「ん?何?」
エリザが気づいたと同時に
俺は思わず視線を逸らした。
無意識のうちに彼女の身体を凝視してしまっていたことに気づき顔が火照る。
「どうしたの?」
エリザが不思議そうに首を傾げる。
「いや、な……なんでもない」
「ふーん」
俺は慌てて目を伏せた。
初見では子供っぽいと思っていた彼女の身体は、年相応以上の発育ぶりに少し戸惑ってしまった。
マイペースな印象も相まって、不思議な魅力を持つ女の子だ―――。
【次回に続く】
【第13話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました