E・B・I

「海老フライ」
「海老ふりゃー」
 もう一度。
「海老フライ」
「海老ふりゃー」
「海老フ・ラ・イ」
「名古屋人イジメ?」
 おい。
「あー、のど乾いた。みそ飲もー」
 おい!
「難しいよー」
 言われる。
「難しい」
 認める。
「ドラゴンズファンはさー」
 疑義。
「外野フライのことも『外野ふりゃー』って言うの?」
 それは。
「知らん」
「知らんかー」
 お互い。
「何のため?」
「ん?」
「だから」
 いまさらながら。
「なんで、名古屋人をもよおさせるの?」
 もよおすって。
「あっ、よそわせる? じゃなくて、もちはこべらせる?」
 何がなんだか。
「よそおわせる」
 訂正。
「あー」
 ぽん、と。
「それ」
 手抜きだなー。
 や、言葉抜き?
「名古屋弁は」
 あらためて。
「弁当の名前ではない」
「知ってる」
 終わった。
「あってもいい」
 らなかった。
「おかずはやっぱり海老ふりゃー?」
「違う」
「違うの」
「主食」
「主食!?」
「衣はパン粉。つまりパン」
「あー!」
 納得と。
「名古屋人の身体は海老フライでできてるんだね」
 無茶苦茶な。
「そうだ」
「そうか!」
 納得した。
「おかずは?」
「ん?」
「海老フライのおかずは?」
「………………」
 当然。
「キャベツ」
「え……」
 止まる。
「ない」
 ない!?
「トンカツとかさー、油ギッシュなのならわかるけど」
 油ギッシュって。
「そこはみそカツな」
「あー」
 納得。
「みそカツとかさー、みそギッシュなのならわかるけど」
 変わってる。
「みそギッシュって」
「味つけはみそ」
 それはそうで。
「中もみそ」
 全部みそ!?
 まさに、みそカツ!
「衣はパン」
 そこは。
「最初に小麦粉をまぶして、それをといたみそにくぐらせて」
 そこはみそか!
「それがミソ」
 意味が。
「みそにパン粉をまんべんなくつけて」
 確かにつく。
「揚げる」
 うわー。
「みそギッシュ」
 間違いない。
「名古屋全肯定」
 名古屋=みそか。
「……いや」
 そこは。
「違う」
 言える。
「松阪を知ってるか」
「食べる!」
 聞いてない。
「サーロイン? ヒレ?」
 だから。
「イチボ!?」
 希少部位か。
「すぎゃー」
 名古屋弁なのか。
「すぎゃーでなーきゃ」
「すごいでないか」
 一応訳す。
「ないし」
「ない?」
「にゃー」
「にゃー!?」
 大ショック。
「にゃぁぁ……」
 しおれる。
「知ってるか」
 構わず。
「松阪は」
「イチボ!?」
 そんなに好きか。
「みそ」
「へ?」
「肉」
「肉みそ?」
 そうでなく。
「そうでもある」
「おー」
「みそをな」
 焼肉に。
「つけて食べるという」
「!」
 ふるえる。
「都市伝説?」
 じゃない。
「儀式?」
 でもない。はず。
「新鮮な肉をみそにお供えするという」
 神か。
「焼く前にみその中に入れて」
 普通にみそ漬けだ。
「……あ」
 ということは。
「有りか」
「え……」
 さー。引かれる。
「直はない」
 確かに。
「大みそか」
「?」
「だけの特別な儀式で」
 そんなものはない。
「年越しみそ」
 あー。
「あり得る」
「やっぱり」
「年明けも」
「ええっ!?」
「京都は」
 お雑煮が白みそと。聞いたことが。
「名古屋は……」
「赤だし?」
「具は海老フライ」
「縁起がいい!」
「もちでなくういろう」
「完璧だ!」
 そんな。
「未来が来ればいいのに」
「夢か!」
「正月だし」
 嫌な初夢だけど。
「だったら、鏡ういろう」
「うわー」
 見た目、違和感なし。
「ういろうつき」
 つくものか、あれは。
「羽根つき」
 それはもう別の。
「羽根ういろう」
 ハイブリッド。
「羽根の生えたういろうが名古屋の空を埋め尽くす」
 怖いって。
「怖い!」
 わかってるよ。
「大よろこび!」
 よろこぶのか。
「ういろう採り放題!」
 確かに。
「名古屋人はケチ!」
 ズバッと言うなあ。
「神社に両替機がある」
 それは知らなかった。
「近くにはういろう屋も」
 それはケチ関係ない。
「お金をためる」
 たまるよ。
「たまり漬け」
 みその?
「肩まで」
 お風呂!?
「ふろふき」
 確かにみそはつける。
「脳みそ」
 それも『みそ』とは。
「侵食」
 侵食!?
「脳がみそに」
 そういうことでは。
「みそが支配する」
 人間を?
「毎朝、みそ汁を飲むように」
 それは普通に。
「古来、日本はみそだった」
 マジ!?
「しょうゆなんて新参者」
 あー、定着したのは江戸時代以降って。
「マヨケソは言うに及ばず」
 そうだろうけど。
「塩は?」
 ピクッ。
「みそは古くから日本を支配した」
 スルーか。
「みそ原理主義」
 名古屋が?
「ありがとう」
 お礼?
「気づかせてくれて」
「どういたしまして」
 お互い。
「日本の中心は名古屋」
 おー。
「位置も真ん中」
 確かに『中京』だ。
「すべては名古屋から始まった」
 そうなのか。
「崇めよ」
 おおっ。
「みそを」
 そっちか。
「海老フライを」
 名古屋飯も。
「ういろうを」
 胸に。手を当て。
「ういろうの白は心の白」
 そうだったのか。
「名古屋人の心はういろうのように白い」
 ケチって言ってたけど。
「ういろうと賽銭のお釣りが名古屋人のすべて」
 乏しいなー。
「脳はみそ」
 イヤだなー。
「手足は海老フライ」
 ハイブリッド。
「フライだけに」
 意味が。
「上手にあがっております」
 だから意味が。
「手羽先」
 は?
「うまい!」
 どっちの意味で。
「ういろうと賽銭のお釣りと演芸場が名古屋人のすべて」
 初耳だ。
「目みそ、耳みそを馬鹿にする」
 そんなことわざはない。
「みそを馬鹿にすることは許されない」
 もう十分。
「天罰」
 どんな。
「天むす」
 名古屋飯再び。
「天みそ」
 またものハイブリッド。
「天におわします我らのみそは」
 みそ教!?
「すべての叡智はみそである」
 新事実!
「神のみそ知る」
 あー、うん、古典的な。
「もはや神」
 そういう言い方もするけど。
「信じるものはすくわれる」
 早くも勧誘。
「おたまで」
 みそ汁つくるときとか。
「あたまで」
 そこから!?
「脳みそ」
 それはエグい。
「なごやかになろう名古屋」
 突然のキャッチフレーズ。
「名古屋か?」
 疑問形。
「名古屋……か」
 ガタガタガタ。
「違う」
 何が。
「名古屋じゃないかも」
 だから、何が。
「名古屋じゃなかったらどうしよう」
 どうしようとも。
「もう、みそ汁が飲めない」
 そんなことは。
「つけられない」
 みそを? みそに?
「ひいっ!」
 突然。
「く、来る……」
 何が。
「みそ……」
 やっぱり。
「みそがつけてくる」
 どっちの意味で。
「ああっ、つけられる!」
 ガタガタガタガタ。
(幻覚が)
 禁断症状。
「みそを……みそをぉぉぉ!」
「落ちつけ!」
 懸命に。
「ここでみそに手を出してみろ! いままでやってきたことが無駄になっちまうぞ!」
「いままでやってきたことが……」
 と。はっと。
「いままで」
 単に。
「名古屋の」
「だな」
 ズーン。暗く。
「知られてはいけない機密情報をリーク……」
 どこがどう。
「どうしよう!」
 どうしなくとも。
「……なっちゃう」
「えっ」
「名古屋に」
 何が。
「名古屋人になっちゃうよ!」
 誰が。
「おまえだーっ!」
 俺か!?
「名古屋化」
「は?」
「とってもいい人に」
 それは。
「いいんじゃないか」
 なごやかに。
「みそのおかげ」
 そこまでの。
「みそには必須アミノ酸が豊富に含まれてる」
 らしい。
「だから」
 ざっくりしてるなー。
「みそは地球を救う」
 そこまでの。
「歌おう」
 なぜ。
「名古屋人の歌」
 あるの?
「みゃみゃみゃー、みゃみゃー、みゃみゃ~♪」
 いいの?
「ぎゃぎゃぎゃー、だぎゃぎゃぎゃ~♪」
 だから、いいの?
「名古屋弁は歌になる」
 それっぽくは。
「名古屋歌になる」
 うまい。
「大みそ歌」
 おー。
「紅白歌合戦」
 それは当然。
「赤みそと白みそ」
 やっぱり。
「赤が勝つ」
 名古屋だから。
「赤星」
 それはビール。
「たまに白」
 えっ。
「ういろうの白」
 あー。
「ういろうの白は心の白です」
 聞いた。
「ういろうの白は白目の白です」
 それはあまり。
「白魚の白です」
 それはあり。
「白酒の白です」
 いつまで。
「ひなまつり」
 跳んだなー。
「どっちが勝つ?」
 勝ち負けあるの。
「ひまなつり」
 釣り勝負!
「白魚しかつれない」
 あれって釣るもの?
「結果負け」
 どっちも。
「あーあ」
 がっかり。
「い、いや」
 なんで?
「約束の地へ」
 えっ。
「導いて」
 どこ?
「ミートピア」
 そんな肉屋はありそう。
「すべてがみそ」
 みそ屋に行け。
「新宿に」
 え。
「いまでも昔ながらのみそ屋がある」
 あるんだ。
「求めてる」
「は?」
「都会が」
 みそを?
「すさんだ心をなごやかにしてほしいと」
 あー。
「名古屋化してほしいと」
 それは求めてない。
「あっ!」
 ふるえる。
「名古屋も都会……」
 確かに。
「裏切られた」
 どういうイメージだ。
「動物園もある」
 あるね。
「しゃちほこしかいない」
 そんなことはない。
「海老フライしか」
 どちらも動物じゃない。
「お城もある」
 それは微妙に都会の条件では。
 いや、動物園もだけど。
「名古屋城」
 あるけど。
「名古屋ジョー」
 名前っぽい。
「名古屋ショー」
 ん?
「出演・海老フライ」
 出演が?
「おー、あがったあがったー」
 どういうショー?
「アガる」
 テンションが?
「下がる」
 何が。
「カラッと」
 舞台から? グズグズしないって。
「海老フライからすべて始まる」
 すべて。
「ABフライ」
 あー。
「C」
「?」
「見事な反り具合」
 形が。
「クリスピー」
 そちらの意味も。
「完璧」
 だな。
「名古屋城」
 戻った。
「屋根に」
 海老フライ?
「しゃちほこ」
 おっ。
「あれは火災避け」
 そうなの?
「しゃちは水を吐く。それで」
 へー。
「名古屋は燃える」
 えっ。
「名古屋火」
 なごやかじゃない。
「海老フライが焦げる」
 それどころじゃ。
「あげないと」
 そうだけど。
「プレゼント」
 ん?
「あげてあげる」
 ややこしい。
「むすぶ」
 ん?
「天むす」
 え?
「なんで……」
 がっくり。
「そこでフライじゃなく天ぷらに」
 なんでだろう。
「陰謀」
 そこまで。
「フラむす」
 あったらいいな的。
「フラムす」
 動詞?
「フラむそう」
 決意表明。
「フラムそう」
 ニュアンスが。
「かわいそう」
 何が。
「名古屋人が」
 なぜ。
「燃やされて」
 名古屋火?
「あげられて」
 はあ。
「空に」
 は?
「ほら、海老フライ雲」
 そんなものはない。
「名古屋人の魂は死して海老フライとなる」
 そうだったのか。
「そして、食べられる」
 嫌だな。
「ありがとう」
 合掌。
「どうぞ、なごやかに」
 いや『やすらかに』だろ。
「じゃなくて、海老」
「は?」
「なごやえび」
 わかりにくい。
「海老は天に昇って龍になる」
 そんな伝説が。
「ドラゴンズ」
 おー。
「エビフライズ」
「えっ」
「もともとは」
 いや、語呂悪くない?
「エビフリャーズ」
 ちょっとよくなった。
「エビフラムス」
 フラむすがないから。
「エイブラムス」
 誰?
「エイブラムス名古屋」
 だから、誰?
「二世俳優」
 いるの?
「名古屋章の息子」
 嘘でしょ!?
「あっ!」
 気づいたと。
「タロウの角は海老フライがモデル……」
 嘘だって!
「名古屋城がモデル……」
 しゃちほこだし。
「エイブラムスの砲塔も」
 それは戦車。って、反ってないよね?
「知らなかった」
 こっちもだよ。
「海老フライも侵食を」
 みそだけでなく。
「名古屋化が止まらない」
 確かに。
「みんな、なごやかに」
 いいこと。
「大学も」
 大学?
「名古屋科」
 あー。
「名古屋しか教えない」
 かたよってるなー。
「まさにここ」
 そう。
「名古屋が」
 ふるえ。
「なくなる」
 え。
「名古屋イコール日本に」
 いやいや。
「名古屋イコール世界に」
 いやいやいや。
「地球に」
 いやいやいや!
「もうなってる」
「えっ」
「気づかないうちに」
 そんな。
「だから」
 こちらを。
「こんな話をしてる」
 それは。
「……あー」
 納得が。
「ここは」
 気づいた。
「名古屋だったのか」
「そう」
 うなずく。
「海老フライの衣の中」
 そして。
 言った。
「はじけてる」
「うまい!」

E・B・I

E・B・I

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted