【第12話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました
ザルティア帝国の回復術士ルークは、帝国城内で無能と呼ばれ冷遇されていた。
他の回復術士と比べ、効率の悪い回復魔法、遅い回復効果は帝国城内の兵士らに腫物扱いされていたのだ。
そんな彼の生活にも突如終わりが訪れた―――。
横領という無実の罪を着せられ、死刑を言い渡されたのだ。
回復術士として劣等生だった彼はついに帝国城から排除される事となった。
あまりにも理不尽な回復術士ルークの末路―――。
だが、それが最期ではなかった。
秘められた能力を解放した回復術士ルーク・エルドレッドの冒険の始まりだ。
【第12話 遺跡の精霊使い①】
信じられないような勝利だった。
ゴブリンキングは確かに強敵だったはずなのに
自分の身体が予想以上に動いたことに驚きを隠せない。
「これを・・・これひとりで?」
俺は息を整えながら自分の手を見つめた。手のひらには奇妙な模様が浮かび上がっていた。
「なんだ……これは?」
俺がその模様に意識を向けると周囲の景色が一変した。
視界の中に木々の姿が見え始める。
――あれは・・・処刑場の森?
まるで透明なスクリーンを通して森を眺めているかのようだった。
確かに、帝国兵に処刑され命を落とした場所。
そして、目覚めた時には周囲の草木は全て枯れていた。
そう自分を中心に全て枯れて―――
「まさか・・・」
俺は気づいた。
自分の体内にある力が、あの森の木や草の生命力そのものであるということに。
俺は、あの森から生命力を吸い取って生き返ったのか?
信じ難い推測だったが確信めいた感覚が胸を満たした。
森の生命力を吸い取った事で、刺された傷も塞がり
更にはゴブリンたちを蹂躙するほどの力も手に入れた。
さっき岩から剣を生成できたのも恐らく森の生命から派生して身についた能力の一部なのだろう。
だが、次の瞬間──
「うっ!」
俺の身体から眩い光が溢れ出した。
金色の粒子が宙を舞い周囲を包み込んでいく。
それは俺を中心に渦巻きながら拡散していった。
「なんだこれは……?」
俺は驚愕しながらもその光をコントロールしようとした。
意識を集中すると光の渦が俺の意志に応えるように動いていく。
ゴブリンキングたちの亡骸を覆うと──
カシャッ……カシャッ……
骨が砕け皮膚が崩れ落ちる音が響いた。
光に触れた魔物たちの死体が次々と朽ち果てていく。
まるで時間を早送りしているかのように。
やがて全ての死体が砂のように崩れ去り洞窟の床に溶け込んでいった。
「今度は・・・何が起こってるんだ?」
また新たな能力が発現でもしたのだろうか?
俺は自分の能力に驚きを隠せなかった・・が、その時──
俺の中に何かが流れ込んでくる感覚があった。
温かい……そして力強いエネルギー。
それはゴブリンキングたちの「力」そのものだった。
(この力は……あいつらの……?)
自分の中に別の存在が混ざり合っていく不思議な感覚。
恐れながらも俺はそれに身を委ねた。
そして俺は理解した。
これが俺の新たな能力なのだと。
死した者の力を吸収し自分のものにする力。
あるいは生命力を自在に操る力。
確証はないが確信していた。
―――俺の能力は「生命力」そのものを操る力なのだと。
ゴブリンキングを倒した時感じた異様な力強さ。
それはただの錯覚ではなく実際に俺の中に流れ込んできた力だったのだ。
――でも……まだ足りない。
俺の直感が告げていた。
この力はまだ発展途上にある。
もっと学び成長しなければならないのだと。
俺は右手に浮かぶ模様を見つめた。
これが全ての鍵なのかもしれない――。
『生命力操作』
俺は、自らの能力をそう呼ぶことにした。
***
「――とにかく・・・アメリアと合流しないとな」
俺は洞窟の奥へと続く暗闇を見据えた。
そこには上層へ続く石造りの階段があった。
先ほどの戦いの疲れを忘れさせるほどの力が足元から湧き上がってくる。
意を決して俺は階段を上り始めた。
一段一段踏みしめるごとに、あの恐ろしい体験が幻だったかのように思えてくる。
けれど掌に残る微かな熱と全身を貫く確かな力の存在が現実だと告げていた。
やがて視界が開けた。
そこは先ほどアメリアといた遺跡だった。
崩れかけた石柱が並び古代文字が刻まれた壁面が月明かりに照らされている。
だが、アメリアの姿はなかった。
「まいったな・・・。この遺跡、そこまで広くなかったとは思うんだけど」
彼女も心配しているはずだ。
俺は周囲を慎重に調べながら進む。
祭壇のような台座を回り込んだそのとき――視界の端に不自然なものを見つけた。
壁の一部がわずかに盛り上がり小さな扉が埋め込まれている。
「こんなところに扉が・・・?」
指先で埃を拭うと木製の取っ手が現れた。
慎重に押してみると抵抗もなく扉は開いた。
ギィ・・・
音と共に内部の暗闇が露になる。
覗き込んだ俺の目に映ったのは――
「・・・え?」
そこに少女が倒れていた。
目を閉じたまま床に横たわる白髪の少女だった――。
【次回に続く】
【第12話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました
投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。
夏風邪(扁桃炎?)に罹り、しばらく寝込んでいました。
まだまだ本調子ではありませんが、できる限りは書いていこうと思います。