『詩集。』
どこに置いたら良いか迷ったものを保管庫かわりに置いていきます。
よろしくお願いいたします。
整理中です。
ノベルデイズさんからもひっぱってきました。
『8/15』
背中暗闇の遠さ、レンズを向ける。
沈黙の小箱を開けて世間を鮮やかに映し出したいから。
お相手真正面柔和な受け答えを誰かが飲みこみ、噛み砕きやがてそれらは紙面に正しく配置される。
僕以外の数多の手のひらによって。
いつの時代か。
僕は生きる延びるためペンをはしらせた。
ペンは、二度とそんな僕の名前を呼んでくれなかった。
言葉は語っても聞いても嘘をつく。
僕は今。
カメラで背中暗闇を破る。
お相手腹の底腑に落ちないことばかりだと肩をすくめる。
円滑とは程遠い劇場を生き抜くのだ、その背中は。
視線の温度よりレーザーの到達速度より捉えたい。
あなたが見届けた光景を糧に、あなたの背が物語る歴史を僕は朝焼けにする。
暗闇は光る。
荘厳、激烈、寂寥、鬱屈。
大戦明け見上げる太陽の色。
忘れないとずっと昔、死んだあなたと僕が笑った。
始まりだと、現代を生きるあなたと僕が、厳しくまなざしを交わす。
カメラ越しで。
『さすらい。』
かくして僕たちの未来は終わった。
意外と楽しげに腕をひらひらと振りベースラインとドラムのリズムに腰を踊らせながら、あり得たはずの僕たちの未来は実にあっけなく消失となった。
もちろん鮮やかな朝焼けも来なかったし真夜中の底が、僕たちの爪先が冷えるまで蠢くこともなかった。
なぜなら誰ひとりにもたいした秘密なんてなかった街だから。
しかし僕はなんとなく思うのだ。
手垢がついたゴシップひとつで世界が救われるのならそれがいいんじゃないかと。
本物の恐怖の前に大変な予言は意味を成さず威厳あるバイブルは燃えて塵芥だ。
本物だって世界の裏側でひっそりにやついているほうがきっと性に合っている。
こんな偽物ばかりの街につきあうことはないし、僕たちだってひきかえのように未来まで終わらせたのだから、本物はそろそろそれで赦してくれはしないだろうかという事情は、僕の勝手か。
僕たちの今に神はいない。
未来は終わった。
この街にたいした秘密はない。
小鳥が羽根広げて空と遊ぶ。
森の葉群がちらちらと笑う。
雲が、ヴェールのように陽光を隠す。
曇天模様。通学も通勤もまっすぐ道なり。
僕は頬杖ついて俯瞰する。
虹の想い出と僕たちのいくすえ。
罪悪の街をクリーンに、なんてレッテル。
格好悪くて唇が痛い。
名づけるなら、ここは未来がない街だ。
それは今しかない街。
神ではなく、たかがゴシップひとつで救われてしまったしょうもなく愛しい。
僕たちが生きた街。
やがて僕たちの物語は風化する。
数多の星数のような僕たちの思いは眠る。
僕たちにとって都合の良い神なんていない。
特に国と国の諍いの理由になるような、神は。
しかしあの宇宙のまなざしの存在だけは、なぜか僕たちを見放さない。
それは理由すら超越している。
本物は何処かできっとにやついている。
世界の裏側、安楽椅子を揺らせ僕たちのエンディングを地球上ウィルスのごとく撒き散らす。
こうやって世界は始まる。
笑い片目をつむる頭脳に、世界の表層にいる僕たちはなすすべはない。
放るように与えられた幸運と選んだ未知を手に僕は終わった未来のアルバムを鞄にしまう。
僕の両手はこれで埋まった。
いつかだれかが僕が駅に置き忘れた古ぼけた鞄に触れる。
パンドラの箱か。
いいや、タイムマシーンみたいなもの。
公然の秘密があふれてくるぜ。
僕は笑った。
今しかない街の膨れ面を指でつつくように。
『おおぞら。』
いやなこといっぱいのおもいでだったけど、ぼくはぼくのおなかのなかにみつけた。
ころころ、ほうせきがいつもなっていたんだ。
しんでかなしかったけどぼくはさいごまでぼくをちからいっぱい、はなさなかった。
うれしくてちょっとわらった。
なにもてにはいらなかったじんせいだ。
だからぼくはかるくまあるく、うかんだ。
うちゅうまでゆっくりたびにでる。
ろけっともじんこうえいせいもおおいそぎだけど、それよりすぴーどはでないけど、けしきをみながらとんじゃう。
うらやましいっていったって。
きみはつれていって、あげない。
『春あらし。』
リボンの首輪を風がほどく。
小雨の天井をすりぬけてそれはゆくだろう。
空にも負けず青さにナイフを静かにいれるようなあしあと。
子猫、前足のワルツ。
流れ出すリズムに踵を跳ねて皆が踊った。
飛行機雲からきこえる世界の合図。
かつて大空を飛び交う猛禽の瞳。
子猫の鏡のまなざしに映る。
ちりりと居場所を鳴らす鈴は濡れたアスファルトに転がった。
秘密なんてないさ。
言えないことがたくさんあるだけ。
子猫のはなうたに青緑の葉群はざわめき。
艷やかな紅。穏やかな黄。静かであたたかな灰の花びらたち。
空も地もふきぬけるよう、存在を揺する風止まぬ。
子猫は、ゆく。
有罪も無罪もあるものか。
僕はゆく。
曖昧さの花嵐のなか、ゆく。
この春に人間となって。
『地球。』
くじらは大海で天空の揺らぎを夢見る。
猿は、果実の艷やかな丸み、その手触りをずしりと想う。
蝶はぬるいそよ風に羽ふるわせ柔らかな花のベッドで遊ぶ。
ダンゴムシは岩場の若緑流れる清水の涼やかな音を、黙って聴く。
鶴は小さな瞳をもって広がる雪原を見下ろし、詩を朝焼けに捧ぐ。
宇宙の微生物は孤高の温度の一雫を食べる。
くじらの夢を猿は知らなかった。
猿の想い出に蝶は気がつかない。
蝶の遊びがダンゴムシにはわからずダンゴムシの楽しみを鶴は想えない。
鶴は、宇宙の微生物の孤独を生涯見ることができない。
人間。
人間はふしぎ。
くじらを見る。
猿を見る。
蝶やダンゴムシを見て、鶴を見た。
やがて宇宙の生命を見る。
地球に張り巡らされている血液のような、人間の物語。
破壊するための脳か、護るための手足か。
どちらにせよ僕たち100年世代。
太陽がいつかのテクノロジーを笑った。
テクノロジーは地球を見捨ててひとっ飛び。
地球は人間以外の生き物でゆるやかに保たれている。
僕たちのバトンはいつも宙に頼りなく泳ぐ。
神さまはじっと視る。
人間以外の神さまはじっと人間の命を視る。
赤ん坊をあやすように。かつての父母の深い眼差しをもって。
世界の終わりに僕たちは生きる。
言葉を超えた畏敬を星空の海原へ出せない手紙のように、差しだしながら。
『ヒーロー。』
ヒーローを見てみたい?
目の前にいるじゃないか馬鹿だな。
きみをいつだって見てる。
いまどきの英雄は透明な薄桃ネイルでハンドルを切る。
PCからの指令を笑みで軽く波乗り。
電子マネーでランチに花を咲かせている。
多様性のワンショットをきみに魅せている。
きみはそんなヒーローたちの苗。
怒られるときみはすぐうなだれる。
意見を言われるときみはすぐ信じないと決意する。
ヒーローの苗はヒーローたちの高笑いに黙り込む。
それが仕事だとでも言うように。
世界からきみを護りながら、その世界へ放たないといけないミッション。
背負うヒーローの背中はちょっと近ごろ寂しい。
きみの目の前のヒーローたちもかつては、苗。
きみと同じ。
違うことがひとつだけ。
世界は大雨降り繰り返されるワイパー。
諸行無常という流れる水滴がだいぶ厳しい。
大人ってずるいなってそりゃそうだよ。
ずるくないと足もと見られる。
きみのためのヒーロー。
ネームプレート下げたヒーロー。
きみの存在が力強く支えているんだ。
きみが消えちゃったらだいぶ哀しい。
いつかきみもこの世界の茨を踏みしめ高笑いをするのだろう。
厳しさの怒りのなかきっと気がつく。
世界は、誰のためにも在らない。誰のものにもならない。
だからこそ世界から護り放つ命というものがこの世で尊いもののひとつであるということが。
ヒーローを見てみたい?
目の前にいるじゃないか、馬鹿だな。
『DNA.』
この夜と思い出は僕たちのなかで育つだろう。
やがて開花し朝と未知を呼ぶ。
顔を上げそこに僕たちは視る。
夜の希望と夢の名残。
始まりはいつも静かだ。
夜と思い出が呼んだ朝の光が僕たちの存在を照らしてあばく。
夜と思い出に名をつけよう。
乗り越えられないものを揺らぎながら乗りこなすため。
忘れられないものを確かなかたちにするため。
終わりや始まりを僕たち自身で日常にする。
歩いてきた道を僕たち自身が受けとめる。
広い世界のなかで僕たちは必ず生活をしていく。
そんなふうに大地へ根をはる傲慢さと可能性を、僕たちは自ら信じた。
迷い立ちすくみ、正しくはなく、それでも本当は自分自身だけではなくなにかを大切に護りたがっている。
ずっと前の、夜と思い出が僕たちの存在をふいに揺るがす。
日常という現実の手触りを思い知る僕たちはそれでも、朝と未知を認めたい。
それが乗り越えられない夜と忘れられない思い出を、色濃く生きる僕たちの決意だから。
僕たちは今、それぞれの場所、誰かから呼ばれる名前に返事をする。
同時に美しかった夢から目覚めるようこころのなかで名乗った。
僕は、僕であると。
そうすることで僕たちはまだ知らないけれど懐かしい。
朝を、両の手のひらでやっと受け取る。
終わりを告げて始まりにすることを繰り返す。
存在に名前をつけ、その名前を呼び、存在に名前を呼ばれ、自分自身のかたちを覚えていく。
ただ僕たちの内側はずっとさよならできないものであふれている。
その存在の重さを知るたび誰かへ伝えたいこころが、世界へ遺したい願いが増えていく。
いつか僕たちの存在は消える。
誰かの夜と思い出となる。
彼らは僕たちに名前をつける。
乗り越えられないものを乗りこなすよう。
忘れられないものをちゃんと刻むように。
それらを日常として迷い、ときに立ちすくみ正しくはなく、それでも彼らは歩き出す。
僕たちが呼んだ朝焼けは彼らの存在を照らし嘘なくあばいてしまう。
朝と未知を、彼らもまたその目に焼きつける。
僕たちをとおし自分たちの存在を彼ら自身が知る。
人間である傲慢さと可能性を諦められないまま、生きる。
朝を生き抜いて夜と思い出になった僕たちはもう知っていた。
生きるためには他の存在を壊さなくてもいいこと。
世界が思いどおりにならなくても生きていていいこと。
誰かをなにかへ無理に変えなくても微笑み合えること。
僕たちが、生きる理由はいつだって存在すること。
朝と未知を選択することは僕たち自身にゆるされている。
だからこそ彼らに僕たちを乗り越えて欲しいこと。
前に進んで欲しいこと。
なあ、聞こえるか。
きみもいつか誰かの夜と思い出になったら、わかる。
でもできれば。
この朝と、きみの未来のまっただなか気がついて欲しい。
せっかく花が開いたのだ。
きみのなかで僕たちはいつだって深く呼吸をしている。
きみは静かなまなざしでふたたび前を向く。
光のあたたかさを享受し自由に広がりゆく学びをたずさえて。
なにを願おう。
次世代へ星を託すために。
きみをこえ、僕たちをこえ、のびやかに生き残る存在。
おはよう。
その名を、きみは無理に呼ばない。
ただ明日へ穿つよう笑って声をかける。
灰色の土地で終わりない真紅を育てるよう。
暗がりを灯す優しさの意味を、贈る。
人間の命へ。
『さびしいかみさま。』
さびしいかみさまのお話をしましょう。
さびしいかみさまは皆と同じようにこの世界にいます。
冷ややかにしんとして暗闇がすうっと触れてくるような世界のなかに。
さびしいかみさまはあるとき思いました。
うそをつこう、と。
この世界が鈍色にほころび落ち枯れやがて荒廃していくのであれば、温かい彩りの花々が咲きほこりみずみずしい緑が踊るような、うそをつこう。
さびしいかみさまは知っていました。
自分のうそを信じる人々はだれひとりもいないこと。
いつか必ず絶えていくまで苛烈な世界はひたすら繰り返されていくこと。
そんな世界を生きる皆には嘘が必要ないことはわかっていました。
それでもうそをつこうと、さびしいかみさまはそっと思いました。
この世界はどこまでも真っ当でした。
真っ当に、ゆっくりと崩れていく荒涼とした世界に淡い色の花々も生き生きとした緑たちも決して芽吹くことはありません。
季節はめぐらず月ものぼらないからです。
凍えそうな薄い空気と歪に隆起した瓦礫たち。
幾千の墓標の濃い影。
この世界のことをさびしいかみさまは哀しいとは思いませんでした。
どこまでいってもほんとうしかこの世界にはなかったからです。
ほんとうの上にうそは息づきます。
さびしいかみさまはこの世界のなかでせいいっぱいうそをつきます。
ほんとうのばかりの世界ではうそはほんとうになることはありません。
その上で、さびしいかみさまは贈り物を届けるように世界へ向けてうそをつきます。
誰にも届かない贈り物です。
誰でも壊そうと思えばすぐに壊せるものをさびしいかみさまは護るようにうそをつきました。
そのうそは世界やそこに息づいている人々を救いません。
そよ風が吹くようにただ、弱く通り過ぎていくだけです。
うそは、ほんとうばかりの世界やみんなにとって意味も理由もないことでした。
さびしいかみさまの存在は世界や人々には見えません。
皆、歴史や神話に残っていくようなほんとうのことこそが欲しいからです。
それでもとるにたらないうそをさびしいかみさまはつきます。
世界が豪雨でかたくなに黙りこむとき、柔らかい色の花びらを涙のように夜空から降らせるような、そんなうそ。
ほんとうばかりの世界と皆を見つめるとき、さびしいかみさまは微笑みます。
誰ひとり騙される人がいないうそをつきつづけるさびしいかみさまは、いまも世界の片隅にいます。
ほんとうばかりの世界の、どこまでも広がるさびしさを静かに見つめています。
さびしいかみさまはなにもできないかみさまです。
優しい色のうそをつくことぐらいしかできないかみさまです。
いてもいなくても、ほんとうばかりの世界では誰も困りません。
誰も困らないからこそ、さびしいかみさまはこの世界にいられるのです。
さびしいかみさまにはひとつだけ役が与えられています。
ほんとうばかりの世界の終わりをちゃんと見届けることです。
すべてが消えたとき、さびしいかみさまは今までついたうそをよりあつめ、物語ります。
誰も知らない楽園のような物語です。
それでもたしかに物語にはほんとうばかりの世界のかけらたちが、きらきらと輝きます。
さびしいかみさまはさびしくありません。
世界のさまざまな彩りの輝きがさびしいかみさまの胸のなか、いつまでも残るからです。
弱いさびしいかみさまにはうそが必要です。
それだけのことでした。
さびしいかみさまは今だってほんとうばかりの世界でちいさなうそをついています。
皆のまえで。
『ワールド。』
ヒーローがさようならを告げた世界。
そんな軋んだ世界の端っこ。
僕だけのワンルーム。
そこには哀しみと怒りが化けて出てくる。
僕は知っている。
ヒーローがいなくたって世界は変わらずさびしく動いていくこと。
今誰もが尽きることない哀しみと怒りを再利用して。
この部屋で僕は見る。
倒されることを待っているような情けないもの。
でもそれが産まれたのは誰のせいでもない。
だから誰もが立ち止まることなく通り過ぎていくだけ。
見逃し続けるもの。
僕にそっくりな、化けもの。
僕は告げる。
震える手でそれを指さす。
『これは僕だ』
世界中が可笑しそうに声をたてた。
救わないよと笑った。
僕はそれと目を合わす。
それは疲弊しきった老人のようにも見捨てられたこどものようにも見える表情をしていた。
なにか違うよな。
僕は苦く笑う。
そしてはっきりと言う。化けものに。
こんな世界は、なにか違うよな。
僕は化けものを倒さない。
世界のなかのワンルーム。僕はそれと生きていく。
きっとうまくは救えない。でも、それは助からなければならない。
僕は世界を受け入れたいから。
だってどうあがいたって僕は世界で息をしている。
化けものよ。こたえてくれ。
黙り込むより言葉にならない咆哮で。
僕は必ず聞き取る。
渦巻く哀しみと怒りのずっと奥底。
おまえの痛みを僕は、僕自身に染みわたらせる。
そしてもう一度言うのだ。できるだけ優しく。
『これは僕だ』
世界にはいろんな化けものがたくさんさまよう。
誰のせいでもない生まれなら化けものは悪くない。
世界の無関心を哀しんで怒ってもさびしいな。
化けものと僕で暮らすワンルーム。
僕たちは世界を笑う。
しようがねぇよなあって気楽に笑う。
ワンルームのドアを外へ向けて僕は開ける。
世界の寒い風が吹く。
ふりむけば化けものが部屋の中僕に手をふっている。
僕は手をふりかえす。
僕たちはお互いをまっすぐに見る。
ヒーローが救わなかった哀しみと怒りのど真ん中で、死なないために。
やがて僕は、僕の心臓から銃を取り出す。
銃口のまなざしは世界をじっと見すえる。
世界の今は銃口だらけだ。
ロシアンルーレットのように誰かには実弾。
世界の事実は恐ろしい。
まなざしからぶっ放せ。
実弾より速く愛より重く。
金より広がって信仰より深い。
ひとしずくの人生を、僕の黒い瞳から。
世界の片隅、誰かの化けものがまた産声をあげる。
どこかのワンルームに響く咆哮。
扉は外へと開かれる。
ヒーローはいない。
死なないために交わる視線とふり返す指先。
世界をひとり歩き出す。
誰もが心臓に銃を持ち銃口のまなざしをたずさえている。
化けものではなく、この身体が。
『詩集。』