仮病

治癒のつもりで書いているけれど
本当は治癒を望んでいない
だって完全に治癒されると言葉とはおさらばだから
治りたがらない病人に病人の資格はないって
三島が太宰に言っていた
まあでもみんなそんなもんだろう
薄っすらと病んだ状態をみんな維持したいと思っている
慢性状態のまま長続きさせたいという算段
全快することを恐れている卑怯者
自ら病気を作り出そうとする
言葉の世界がそうやって膨らんでいって
そのおかげで人類が世界を支配できたのなら
もうこの星は偽の病気に覆われてしまっているのだろうか




坊主は色も音も形もないなんて簡単に言うけれど
形を否定しきるのは難しい
戦場から戻ってきたジョーは
色も音も臭いも味も奪われてしまった
彼に残されたのは形だけだった
人間という生き物は形からはなかなか逃れられない
形は色、音、臭い、味よりも客観的で普遍的だ
形だけは全身で把握できる
形は皮膚と深く関係している
人間は皮膚なしで生きていけそうにない
人間は形なしで生きていけそうにない
形は人間についてまわる
形がないと言ってしまっていいのだろうか
色彩が剥奪された形状だけの世界
それは空間世界のことだ
形状だけの世界を見出した時に
科学も生まれたのだろうか
人間と形の関係を問い直したことで
近代が始まったのだろうか




こんな僕でも昔は結構オシャレに気を使っていました
服を買うのは結構好きでした
当時はそれなりに稼いでいたから
あまり気にせず高い服でも買っていました
それなりに着飾って街中に出るのは
やっぱり気分がいいものです
自然の世界にある黄色が好きでした
特に春は黄色が目立つ時期で僕は好きです
春はその辺の草むらを歩いているだけで
浮かれた気分になってしまいます
自然の黄色は見ていて気持ちがいいものです




逆上の裏返し

それなりに生きてきて色んな環境を経験して
色んな交流もあったけれど
これまで続いた人付き合いは一つもなかった
友達もいない
何かが根底からまちがっていたようだ
どこにいても同じだった
ここにいるべきではないなという焦燥感
どうしてここにいるのかという閉塞感
それらの負の感情が
かえって私をやる気にさせる
この場でとどまって何かをなしとげようと
変に意気込んでしまう
かえってという言葉が好きだ
私の人生はいつでもそうだ
かえって○〇をしてしまう
いつでも逆上の裏返し
内に抱えた矛盾はなかったことにして
ずっと外側はやってきた
過去を振り返れば努力の数々
どうでもいい努力だったけれど
自分の過去なので全否定はできない
過去が重たすぎて
何もしたくなくなるけれど
もう少しがんばろう




書き言葉

本を読んでいると
言葉の世界の向こう側に何かあるのではないか
人間は本当に言葉で終わる存在なのか
そんな大それたことを
そんなどうでもいいことを
考えるときがあります
話し言葉だけだった時代が長く続いて
書き言葉の時代が突然やってきた
書き言葉を覚えてから
文明化は加速していった
話すに比べると
書くという行為はまだ幼い
書いて読むことで築かれる世界がある
話し言葉の世界と書き言葉の世界
両世界はまったく異質なのに
同じようなものだと思ってしまう
書いたり読んだりしてどこへ行く
人間と言葉と思考の関係は
この後どうなっていくのだろう




思考と感覚

思考と感覚の間にずれがある
このずれをなんとかしたいが
なんともならない
心身問題というものは
このずれを表す一つの在り方なのだろう
少しずつ感覚の方へ寄っていっている
思考が感覚に引きずられ続けている
その過程の中で科学も生まれたのだろうか
言語的思考が数理的思考に浸食される
外側と内側はどうしようもなく断絶されている




他人の視線

自分のために書くことができない
いつも何かしら他人の視線を想定して書いている
他人に見られているという意識がないと
何も書けないのかもしれない
じゃあその他人って誰なのだろう
自分の中で勝手に作りあげた他人が
自分に文章を書かせようとしてくる
初めに書こうとしたのは自分だったはずなのに
他人が見張っている
えたいの知れない他人が見ている
私は他人のなすがままに書く
自分の中の他人と実際の他人がいる
他人ばっかりで疲れてしまう
自分はもうどこにもいないのかもしれない
自分をいかに希釈させるか
それが人生の課題なのだろうか




正論

正論は人の心を傷つける
正論は人を苦しめる
正論は取り返しのつかない事態を招く
正論は社会から除外されることもある
ほどほどに嘘をついておいた方がいい
嘘は心を活性化させる
嘘は団結力を生む
嘘はなごやかな雰囲気を作り出す
正論にこだわる奴は馬鹿だ
正論は争いの火種になりやすい
それでも無視され続けた正論は
やがて社会に対して復讐する
苦しくても正論と向き合わないといけない
正論と対峙するとたいてい人生を踏み外す




海に行きたい
煮詰まってくると海に行きたくなる
和歌山の南の方へ行きたい
串本とか須佐美とかはきれいです
見老津駅で一度下車してみてください
和深駅もおすすめです
和歌山の海は岩がたくさんあって楽しい
自然もすごくきれいです
五月あたりがとても気分がいい
クソ暑い夏に行くのもいい
これからの人生がいやなことばっかりだったとしても
今この景色を見ている瞬間は本物だ
そう思いながらずっと水平線を見ていました




超自我

病んだふりはもういいよ
いい加減働けよ
おまえの自意識なんてどうでもいいんだよ
どうにもならない感情なんてどうにかしろ
奇声を上げれば構ってもらえると思ってるのか
もういいもういいよ
さっさと働けよ
おまえの奇行ぶりはなんにもおもしろくないよ
全部人まね全部猿まね
さっさと正気に戻れよ
いやもともとおまえは正気なんだよ
逸脱者になれる才能なんてないんだよ
なんのとりえもない凡庸な人間のくせに
えらそうなんだよ
いつまで狂人ぶっているんだ
まわりに迷惑をかけて調子にのりやがって
カッコ悪いだけなんだよ
普通にキモいから
自称病人とかプークスやな
言葉遊びはもうやめろ
さっさと働け

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-10

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