【第9話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました
ザルティア帝国の回復術士ルークは、帝国城内で無能と呼ばれ冷遇されていた。
他の回復術士と比べ、効率の悪い回復魔法、遅い回復効果は帝国城内の兵士らに腫物扱いされていたのだ。
そんな彼の生活にも突如終わりが訪れた―――。
横領という無実の罪を着せられ、死刑を言い渡されたのだ。
回復術士として劣等生だった彼はついに帝国城から排除される事となった。
あまりにも理不尽な回復術士ルークの末路―――。
だが、それが最期ではなかった。
秘められた能力を解放した回復術士ルーク・エルドレッドの冒険の始まりだ。
【 第9話 未知なる能力②】
アメリアが魔物を全滅させた後、馬に跨がり直すと森の奥へと進んでいった。
俺は彼女の背中にしがみつくようにして座っていた。
「さて。そろそろ行きましょうか。暗くなる前にどこかで野宿しないと」
「あ、ああ」
さっきの戦闘で完全に度肝を抜かれていた俺は、ただ頷くことしかできなかった。
アメリアの圧倒的な強さに言葉が出ない。
確かに騎士団内でもトップクラスに位置する実力だとは聞いていたが……
まさかあんなにも凄いとは思ってもみなかった。
改めて幼なじみの凄さに驚きを隠せなかった。
馬は再び森の中を駆け出した。
蹄が小石を蹴り上げて跳ね飛ばす音がする。
「・・なぁ。本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって。きっとどこかにあるわよ~」
相変わらずアメリアの声には自信があったが
彼女の視線は忙しなく左右を行き来しているのがわかる。
「えっと。だいぶ日が落ちてきてるんだけど」
俺は空を見上げた。西の空が赤く染まり始めている。
「うん。やっぱりちょっと焦った方がいいかもね」
「ちょっ・・!?」
「仕方ないじゃない~!初めて来た場所なんだから!」
確かに俺もアメリアも初めて来る国だ。
地図もコンパスもないのだから、迷うのも仕方がない。
アメリアを責めるのは筋違いか・・。
「ルーク!あれを見て!」
アメリアが指差した先に何かが見えた。
木々の間から黒い穴が覗いている。
「あれは・・・?」
「洞窟みたいね」
俺たちは馬を止め、慎重に近づいた。
洞窟の入り口は大きく口を開けている。
奥は暗くてよく見えないが時折風が吹き抜ける音が聞こえる。
「どうする・・・?」
「ここで立ち往生するよりはマシね。入ってみましょう」
アメリアは馬から降りて剣を手にした。
俺も彼女の後に続く。
「明かりは?鞄には入ってなかったけど」
「大丈夫。私が魔法で灯りをつけるわ」
アメリアは右手を前に突き出し小さく呟いた。
すると彼女の掌から淡い光が放たれ始めた。
光球が宙に浮かび辺りを照らし出す。
「さあ。行くわよ」
「・・・ああ」
俺はアメリアの後に続いた。
洞窟の中は予想以上に広かった。
天井は高く足元は凸凹しているが歩きにくい程ではない。
二人で警戒しながら奥へと進んで行った。
「何か聞こえる・・・?」
水が滴るような音が微かに響いている。
「もしかして・・・」
アメリアが前方を指差した。
そこには大きな空間が広がっていた。
中央には崩れかけた遺跡のようなものが見える。
「これって・・・遺跡?」
「そうみたいね。かなり古いみたいだけど何かの施設だったのかも」
俺たちは慎重に遺跡に近づいた。
壁には苔が生え柱は傾いている。
だが造りはしっかりしていて頑丈そうだ。
「ここで休むのはどう?ルーク」
「ああ、悪くないと思う。ただもう少し探索してみよう。魔物がいないとも限らないし」
俺たちは遺跡の中を慎重に歩いた。
安全を確認するまでは休むわけにはいかない。
「気をつけないと。何が潜んでるかわからないから」
特にこれと言った仕掛けがあるようには感じなかった。
それが油断を招いてしまったのかもしれない。
次の瞬間──
パキッ。
「え!?」
俺の足元が突如崩れ落ちた。
「うわぁっ!」
体が宙に投げ出され下へと落ちていく。
アメリアが手を伸ばしたが遅すぎた。
「ルーク!!」
アメリアの叫びが遺跡に響き渡った──
俺の体は奈落へと飲み込まれていったのだ。
【次回に続く】
【第9話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました