zoku勇者 ドラクエⅨ編 89
僕の生きる道・1
「ホホホ!小生意気な糞が!だが、此方には竜小僧が我の手の中に
いると言う事も忘れるな……」
「カナト……」
ジャミルは偽ゴールドドラゴンの目の前で晒し者にされている
カナトの姿を見つめる。何としても、……今度こそカナトを
助けなければと……。
「ジャミル……、ああ、良かった……、ちゃんと伝説の装備の
力を……、継承してくれたんだね、これで、僕の長い役目はもう……、
いつ、消えても……」
「……アホっ!オメーそれでもガーディアンかっ!気持ちを強く
持てって言ったろうが!このままじゃマジで消滅するか奴に
取り込まれるか、どっちかだぞっ!!」
ジャミ公はすっかり弱気になってしまったカナトを必死で励ます。
ガーディアンとしての、役目を担っていたあの頃の強いカナトの
気力をどうしても取り戻して欲しかった……。
「でも、もし……、僕が奇跡的に生き残ったとして、何れこの世界は
消えてしまうんだ、そうしたら、僕も……」
「それなら、カナトも一緒にモン達と一緒に来るモン!」
「……えっ……?」
「そうだっ、それだよっ、カナト、俺達と一緒に来いよ!こんな処、
一人でいちゃ駄目だっ!何としても此処は生き残ってオメーの新しい
道を見つけるんだ!」
「……僕の、新しい道……?」
今にも意識が途切れそうな状態の中で、……又、キミは一体何を
無茶を言うんだとカナトは思った。だが、ガーディアンとしてでは
無く、カナトと言う、自分自身の生き方を見つめろと……。
「……生きられるのかな?僕も、キミ達の世界で……」
「!そうだよっ、何なら俺達と一緒にエルギオスを倒そうや!
力を貸してくれっ!」
「モォ~ン!カナトがいてくれたら100000人力モンっ!!」
「……アホっ!幾ら何でもいすぎだっーのっ!!」
「ブブーのモンモン!」
カナトの胸に再び希望が沸いてくる……。素直な不思議な気持ちが
溢れて涙が出て来る。やっぱり、生きたい、自分は本当は……、まだ
消えたくないのだと……。ジャミルと、……皆と一緒に生きたい。
「生きたい、僕……、皆と一緒に……、キミ達の世界で……」
「カナトっ!?」
「モンっ!?」
「残念だが、竜小僧、その願いは永久には叶わん……、夢物語の語りは
終わったか?よくも又長々と妨害してくれたのう、見せしめに、糞小僧、
貴様の連れを凍り付けにしてくれる、こやつの力でな……」
「あああ!……や、止めろーーっ!!」
カナトが再び苦しみ出す。吸い取った力を悪用されそうになり、カナトが
悲鳴を上げた……。ジャミルは急いで偽ゴールドドラゴンを止めようと
するが、カナトを盾にジャミルの攻撃を妨害する……。思う様に攻撃
出来ず苦戦するジャミル……。
「死ねェーーーっ!!」
「や、やべっ!……皆っ!!」
非道な偽ゴールドドラゴン、アルベルト達に向け凍り付く息発動……。
咄嗟にジャミルが伝説の剣で氷をガードしようとするが、やはり
無茶であり、ジャミルは剣を構えたまま、後方へとどんどん
押されて行く……。
「ジャミル、無茶しちゃ駄目モン!」
「無茶するも何も……、俺、賊だから、盾装備出来ねえし……、
職業によっちゃ盾も貰えたんかな……、うううーーっ!!」
襲い掛る氷雪攻撃に剣を持つジャミルの手も悴み、震え出す……。
このままでは氷に取り込まれそうだった……。
「やはり伝説の装備を継承する相手を間違えたのでは無いか、
セレシアも人間を見る見込みがないと言う事よ!やはり
駄女神よのう!ホホホホーーっ!!」
「……折角、伝説の装備……、カナト、俺なんかでごめん……」
「しっかりしてっ!ジャミルっ!!」
だが、まだ希望は失われておらず。間一髪、気絶から回復した
アイシャがメラゾーマで応戦、凍える吹雪を掻き消す。続いて、
アルベルト、ダウドも。復活した仲間達がジャミルを支える様に、
守る様にして横に並んだ。
「……アイシャ、アル、ダウドっ!!」
「その鎧を見ると、君は本当に伝説の装備の力を継承出来たんだね……」
「はあ~、やっぱりオイラ達がいないと、な~んにも出来ないん
だからあ~!……このヘタレ盗賊!」
「そーだよッ!アンタだって捻くれボウヤの事言えないじゃん!
しっかりいじけてたし!」
……茶々を淹れる、……構いたいらしい、ダウドとサンディに、
切れそうになるジャミルだが、今はんな場合ではにゃいと、気持ちを
冷静にと、強くする……。
「何とまあ、勝てないと分かっているに、しつこい、嫌らしい奴等だ、
いいだろう、此処らで決着を付けようぞ、ホホホーーっ!!」
「るせー!テメエなんかに絶対負けてたまるかよッ!俺らは諦めが悪い、
そうだよ、しつこいんだよっっ!」
……ジャミルの側に寄りそう仲間達。思いは一つ。絶対に生きて
此処から出る。皆で一緒に……。勿論……。
「皆、俺、モンと一緒に考えてた事があるんだ、コイツを倒したら、
カナトも一緒に俺達の世界へご招待ってな……」
「モンモン!」
「それはいいわ!そうよ、カナト君も一緒に!素敵ね!」
「そうだね、その為には早くこの試練を完全に終わらせて
しまわないとね!」
「……もういい加減に戻りたいもんねえ~、後一息っ!」
「何を又、夢物語な事ばかり言っておるのだ、全く本当に
バカな奴等よ!」
偽ゴールドドラゴンが再び攻撃態勢に入る。仲間達はジャミルを
援護サポート、ジャミルも何が何でもと、徹底抗戦の構えを見せ、
覚悟を決めた、その時……。
「ジャミル、皆……、僕も諦めない、こんな奴に絶対に負けないよ……!」
「……カナトっ!!」
「こ、これは……!?何事だ!!……お、おおおっ!この
……竜小僧めが!……に、逃がさんぞ!!」
カナトの身体が光り出す。力を奪われている筈のカナトは自身の
中に強い何かが溢れてくるのを感じていた。今ならもう一度……。
そう思った瞬間、彼は偽ゴールドドラゴンの呪縛から解かれ、
ジャミルの、皆の処へと飛んでいた……。
「ただいま、ジャミル、皆……、僕、まだ消えてないんだね、
不思議だね……」
「……あ、当たり前じゃねえかっ!」
「モ、モォォーーンっ!!……ウギャーー!!」
ジャミルも皆も戻って来たカナトを歓迎。大喜びで迎える。モンも
泣きながらカナトの頭に飛びつくのだった……。
「全くも~、スーパーデブ座布団オーバースギだってのよ!けど、
捻くれボウヤ、何かアンタ、さっきまであれだけ死にそうなツラ
してたのに、血色が良くなってネ?」
「サンディも、心配してくれて有り難う、皆が僕に生きる力を
くれたんだ、ジャミル……」
カナトはジャミルの前まで行くと、片手を差し出し握手を求める。
ジャミルもその手を強く握り返し、仲間達も一緒に手を握り合った。
「一緒に戦おうぜ、カナト!」
「……ああ!」
「ふざけおって、だが、その口が利けるのもこれで最後ぞ、
貴様ら全員我の中でこれからは忠誠を誓ええいいっ!誓うの
だああーー!!」
「ふざけてんのはどっちだよ、ったくっ!カナト……、ほら……」
「ジャミル、これ……」
「お前の銅の剣だよ……」
ジャミルはカナトから借りていた銅の剣をカナトへと再び
手渡すのだった。
「ありがとな、そいつのお陰で随分助かったよ……」
「うん……」
カナトは愛おしそうに銅の剣の柄をぎゅっと握り締めた。力は
奪われているのに、本当に失った力が戻って来ている様な、
そんな感じがした……。
「よし、チャンスは恐らく一度きりだ、二人でアイツに突っ込もう、
大丈夫か?」
「ああ、ジャミル……!」
ジャミルの言葉にカナトは強く返事を返し、目の前の宿敵を
見つめた。何時か現れし主と見極めた勇者に伝説の装備を
継承するのが自分の定めだった。だが、それだけでは
終われない経験と掛け替えの無い宝物をカナト自身も
見つける事が出来た。まさか、異世界から来た者と友達に
なれるなんて……、夢にも思わなかった……。
「もうジャミルは伝説の装備を貰ったんだもんねえ~、だから
ジャミルの試練は一応終わったんでしょ、なら、オイラ達ももう
遠慮せずジャミルをサポート出来るって事、そゆことだよねえ~!」
「そうよ、私達も一緒よ、ジャミル、カナト君!」
「僕ら、皆で行こう、何所までも!」
「モンも殺るんだモン!ウシャーー!!」
「モン、だから、又字が違ってるよ……」
「ウシャブーブー!いいのっ!モンっ!」
注意するが、ふて腐れるモンに、アルベルトは、無事に戻ったら、
又ちゃんとモンに改めて言葉の使い方の学習をさせなければと、
真面目な彼は思ったのである。
「ど~んどん、やっちゃいなさいよっ!アンタ達っ!!」
「行くぞ、カナトっ!!」
「OK、ジャミルっ!!」
「ホホホホーーっ!死ねェーーーっ!!そして我に吸収されよ!!」
ジャミルとカナトは神殿の床を蹴り、同時に飛び出し、偽ゴールド
ドラゴン目掛けて思い切りジャンプする。アイシャは飛び出して行く
二人にバイキルト、ダウドはピオリムで補助を。アルベルトも武器を
弓に持ち替え、後方から五月雨撃ちを連射、放った弓の嵐は偽ゴールド
ドラゴンの眼球に命中する。
「……お、おのれっ!小賢しい真似をっ!!……これでも食らえっ!!」
「……もうオメーの部下は役に立たねえっつーのっ!」
ジャミルはまた性懲りも無く又召喚された殺人華を伝説の剣で
斬り捲る。此処に来た時とは比べ物にならない位の力を手に
入れた事に、ジャミルの胸も高まっていた。だが、こんな事を
繰り返していてもキリが無い、ジャミルは横にいるカナトに目線で
合図を送ると、カナトも静かに頷いた。
「構えろっ!……いっくぞおーーっ!!」
「……うあああーーーっ!!」
「「散れええーーーっ!!」」
ジャミルとカナト、それぞれの武器を頭上に構えると同時に、
声を合わせ、偽ゴールドドラゴン目掛け、制裁の一撃を繰り出す……。
二人の剣裁きが遂に偽ゴールドドラゴンの心臓を貫いた。
ゆっくりと崩れていく偽ゴールドドラゴン……。勝った。遂に
勝利を治めた……。長い戦いに終止符が打たれ、そして、カナトの
使命も……。
「そ、そん、な……、こんな、ばか、な……、うおおおおーーーっ!?」
心臓を貫かれ、偽ゴールドドラゴンは絶叫す……。ジャミルとカナトは
地面に降り立つと、断末魔の敵の姿を目に焼き付ける。神殿の床を
のたうち回るその姿はもうゴールドドラゴンでは無く、素の姿の
女魔法使いに戻っていた……。
「も、元に戻ったみたいだねえ……」
「ああ、奴の最後だ……」
「……」
ダウドもアルベルトもアイシャも、言葉少なく、消えていく
女魔法使いの最後を見つめていたのだった。
「いや、そう、全てアイツが……、私を騙したのよ、……自分の
言う事を聞けば、力を与えてやる、……糞な自分を偉くしてやる、
世界の一つを治めさせてやる、……ふっ、そうよ、どうせ
所詮私は糞、死ぬまで糞よ、それがどうしたのよ、ホホ、
ホホホホーーーっ!!」
女魔法使いは最後に、高笑いを残し、消滅して行く……。そして、
本当にこの世界でジャミル達がすべき事は幕を閉じる……。
「自分で自分の事、糞だなんて思ってたらマジでその通りに
なっちまうんだよ……」
「ジャミル……、あっ!カナト君がっ!?……カナト君っ!!」
「……」
アイシャは急いで倒れそうになったカナトに声を掛ける。
ジャミル、アルベルト、ダウドとモン、サンディもカナトに
駆け寄る……。
「カナト、大丈夫か?……カナトっ!!」
「……ジャミル、皆……、僕、消えないんだ、本当に……、
キミに伝説の装備を渡して……、アイツを倒しても……、僕、
本当に生きてる……?」
「勿論さっ!カナト、オメーはオメーの試練を超えたのさ!」
「僕の……試練……?」
「モォ~ン、モォ~ン、モォ~ン……!!」
カナトはジャミルを始め、皆に見守られながら、絶叫して
泣いているモンの顔を見つめる……。ジャミル達もこの世界に
来て、それぞれの試練を超えた。でも、ジャミルの言う通り、
これまでのカナトが過ごした長い時は、カナト自身の試練でも
あったのかも知れないと……。カナトがそう思えたその時……。
「……あ、あれ?……また揺れ出したよおおーーっ!!」
「ジャミル、じ、地震だっ!!これまでと比べ物にならない
程の揺れだ!!」
怯えて身を屈めるダウド、本格的に崩れ始める神殿の天井を
見上げるアルベルト。モンはカオス顔になり、いつもの定位置の
ダウドの頭に飛び乗ると、興奮して久々にちんぽこ太鼓を叩き、
屁を放出。……マポレーナになっても、やはりモンはモン。
んな急に大人にはなれないんである……。そしてアイシャに、
モンちゃん!こんな時に何してるのっ!と、怒られた……。
「……完全にこの世界の終焉だ……」
「そ、そんな平然とした顔で言わないでヨッ!捻くれボウヤはっ!
ネ、急いで此処から出ないとだよ、どーすんのよ、ジャミ公っ!」
「ジャミル……」
アイシャも不安な面持ちをし、ジャミルの手を握る。やっと試練を
乗り越えたと言うのに、此処で生き埋めでは全てが終わり。だが。
「大丈夫、皆はもうすぐ元の世界にちゃんと導かれる筈だから、
心配しなくていいよ……」
カナトがそう言うなり、ジャミル達、4人の身体が光り始める。
ジャミルは急いでカナトの手を強く掴んで握るのだった。
「言ったよな、オメーも一緒に俺らの世界へ来いってさ!」
「ジャミル……、うん、キミの気持ちは嬉しいよ、でも、僕は
やっぱりキミ達からすれば異世界の者なんだよ、だから……、
一緒に行けるかどうかも分からないよ……」
「……それでもっ!諦めんなっ!最後までっ!絶対大丈夫だってな!!」
「カナト君、私達も祈るわ、あなたが一緒に私達の世界へ行けるように!」
「僕らと一緒に、これからも楽しい事、沢山見つけよう!僕、君に
是非、楽しい本を沢山勧めたいんだよ!」
「本、皆の世界の……」
……真顔で目を輝かせるアルベルトに、ジャミ公は聞いているだけで
吐き気を催した……。
「うんっ、うんっ、オイラも祈るよおーーっ!」
「やれやれ、もう~、ホントにアツイお方達だコト!じゃ、
捻くれボウヤ、そーゆーコトで、これからもこいつらからは
逃げられないと思いなさいネ!ナニセしつっけ~んだからっ!」
「ウシャー!モン、カナトを守ってるモン!……離れないモンっ!!」
やれやれ言いながら、ジャミルの中へと消えるサンディ。モンは
ダウドの頭からカナトの頭上へと移動。カナトを絶対に消させない、
守ると、そう決めたんである……。
「お前らーーっ!もっと強く祈れええーーっ!全員で俺らの世界に
帰るんだーーっ!!」
ジャミルがそう叫ぶと同時に、4人を取り巻く輝きが一層強くなった。
ジャミルがカナトの手を握り、込めた力も……。優しい皆の姿に
カナトは改めて思う。本当に、ジャミル達に出会えて良かったと。
だから……、もし、自分が消えてしまっても、後悔はしないと……。
そして、天使界。此方ではジャミル達の無事の帰還を願い、長オムイの元、
皆で祈りを捧げている……。
「長老、世界樹が……!」
「……おおっ、ま、また黄金に……、しかも光を発しておる、これは……、
お、おおっ!?」
灰色に染まり掛けていた世界樹が再び黄金の輝きを取り戻し、
世界樹の天辺に何故か浮かんでいる4人組の姿が……。
「……俺ら、此処……、天使界……、なのか?」
「も、戻ってこれたんだよお、オイラ達っ!」
「見て!オムイ様と天使界の皆が!」
「僕達を……、皆で迎えてくれたんだね……、嬉しいね……」
オムイと集まっている天使達は宙に浮かんでいる4人の姿を見、
最初は呆然としていたが……。表情が驚きから徐々に喜びに
変わっていく……。
「その鎧は、まさか……、伝説の勇者……?ジャミル、お主、
ジャミルなのか……?」
「そう、爺さん、俺だよ、ジャミル!試練を超えて伝説の装備を
受け継いだのさ!」
「……お主が……、本当に……、おお、おお、おおおお……」
「ジャミル、立派になったわね、今のあなたの姿をイザヤールにも
見せてあげたかった……」
オムイは喜びで震えだし、ラフェットも祝福してくれた。見守って
くれていた他の天使からも歓声が上がる……。それを見たジャミ公、
ドヤ顔になり、いつもの悪調子が出始める……。
「また……、ふざけないんだよっ、ジャミルっ!」
「んだよ、ふざけてねえっつーの!俺の今の姿見たら誰も
ふざけてる様に思えねえだろが!待ってろ皆、今そっちに
行くから!でもこれ、どうやって地上に降り……、???
……アーーー!!」
アルベルトが注意するが、ジャミ公やはりやらかす。地上へと
急に墜落。顔面を打ち、うつ伏せの情けない格好で倒れており……。
やっぱりやりおったと、他のメンバーは頭を抱える。伝説の
装備を纏っていようが、勇者になろうが、ジャミ公はジャミ公。
因みに、アルベルト達はちゃんと普通に地上に降りられたらしい。
顔を赤くして……。
「……んとにっ、もー!ジャミ公バカっ!んじゃアタシ、
テンチョーに報告に行ってきマース!アンタ達もなるべく
早く来んのよっ!時間食ってんだかんネッ!」
「う、うるへえ、ガングロめ、このやろう……、いちちち……、
うう~……、顔がめり込んで動けねえ……」
「……ああ、イザヤール、今のジャミルの姿をあなたにも
見せてあげたかった……」
ラフェットさん、今の呟きはわざとでしょう……、と思いながら、
……ほらっ!と、ジャミルの背中を引っぱたき、アルベルトが
無理矢理叩き起こさせる。ジャミ公は鼻血を垂らしていた。その後、
皆は集まってくれているオムイ、天使界の皆に笑顔で挨拶、元気に
ただいまですー!を言う……。
「お主達も……、ジャミルを支えてくれて有り難うの……、ホホ……」
「いえ、いーえいえっ!何のこれしきっ!慣れてますんで!
オイラ達も自分の試練をちゃーんと乗り越えられましたからっ!
新しい力も習得したんですよお!」
「ドヤモンっ!マポレーナに進化してモンのおならもパワーアップ
プップップッしたモン!」
……そんなモン、パワーアップしなくていいから……、と、心で
ツッコミを入れる苦労人アルベルト。
「ほうほう、それはそれは……、益々頼もしくなって……、これなら
ジャミルも安心じゃのう……」
「も、もう~……、戻って来るなり、恥ずかしいわあ~……」
直ぐに色々ばらし、ツッコミを入れるサンディがいなくなったのを
いい事に調子に乗るヘタレと真似するモンに呆れるアイシャ。
……もうこいつら、後で纏めて引っぱたいたろかと黒い笑みを
浮かべるアルベルトさん。
「……」
「おや、お主は……?はて、見た事のない顔じゃが、ジャミル達の
友達だったかの……?」
オムイは4人組の後方にいた、見慣れない格好の不思議な少年に
気づく。静か過ぎて気づかれなかったのである……。其所で、
今までずっと黙っていた少年……、カナトは初めてオムイに
口を開いた……。
「あの、初めまして……、こんにちは……、あの……」
「ほうほう?」
「爺さん、色々と話すと長くなるんだけどさ、カナトだよ、
俺ら、異世界でダチになって、その異世界が崩壊するから、
こっちに一緒に連れて来たんだ」
「……」
「何と!異世界からの……、どうりで初見の訳じゃ、儂はこの
天使界の長を務めておるオムイと言う者じゃ、どうぞ宜しくの!」
「はあ……」
ファンキー爺オムイ、微動だにせずカナトにピースピース。初めて
見る変な挨拶にカナトは目をパチクリさせた……。
「ピースピース、……あ、後でやってみようかな……?」
「処で、儂ら天使の姿が見えると言う事は、お主も何か
不思議な力をお持ちかの?そりゃそうじゃの、何せ異世界
からのお客さんじゃからの、ホッホ!」
「……」
此処最近のオムイは、天使界を揺るがすエルギオスの暴走、
……イザヤールの死で、心に大変なショックを受け、
塞ぎがち気味であった。だが、又、笑顔を取り戻しつつあった。
……ジャミル、皆さん……、お帰りなさい……
「この声……、セレシア……」
「セレシア……?」
世界樹の方から声が聞こえ、ジャミル達は前を向く。ジャミルの
言葉にカナトも反応する。
「女神様……、女神様のお導きが有り、儂らもお前達が異世界へ
召喚されている事を知った、お前達の無事を祈って欲しいとのう……、
本当にこうして無事に帰って来てくれて儂も嬉しいぞ!」
「そうか、だから爺さんも皆も集まってくれてたんだな、ありがとな……」
カナトも改めて目の前の大きな世界樹を見つめる。じっと見つめて
いると、異様に不思議な気持ちが心に溢れて来るのだった……。
辛い試練を超えて立派になってくれましたね、本当に有り難う……
「うわ!」
世界樹……、ではなく、セレシア本人の姿のビジョンが映し出される。
セレシアはカナトの方をじっと見ていた。
カナト、初めまして……
「あなたが……、創造神グランゼニスの娘、セレシア……、
ですね……?」
「カナト……」
はい……、私の方もこうしてあなたと直に会うのは初めてですね……
ジャミルは心配そうにカナトの方を見る。カナトは異様に
怒っている様に見受けられたからである。アルベルト達も
様子を察し、心配になるが……。
カナト、私はあなたに謝らなければならない事があり、ずっと悩み、
心を痛めていました、……父、グランゼニスの犯した罪を……
「……」
カナトは世界樹の方を向いたまま、そのまま目を逸らす事を
しなかった。黙ってじっと口を噤み、セレシアの言葉の続きを
待っていた……。
父、創造神グランゼニスは、何時か訪れる、世界を襲いし
強大な厄災への戦い……、その為に新たな世界を創り、
ガーディアンとして、伝説の装備の護番のあなたを
誕生させました、そして長い時を超え、伝説の装備を継承し、
その力を受け渡せる者が現れる、けれど、あなたが役目を終えた、
その先に、あなたは……
「な、何と、そなたは……、おお……、カナト殿、そなたは……、
そうであったのか……」
オムイはセレシアから衝撃の真実を知る。やはり目の前の
小さな少年は、只者では無かったのだと……。
……ジャミル、私はあなた方へ、最終決戦へと望む為の試練の為、
異世界へ送りましたが、あなた達なら、きっと……、カナトを
救ってくれるかも知れないと信じていました……
「カナトを……?俺達がか?」
「……」
私はカナトが何れ目的を果たした後、このまま消滅して
欲しくなかったのです、父に目的の為だけに作られた
あなたを救いたかった、父の造りし悪しき呪縛をどうか
乗り越えて欲しい、その為には……、カナト、あなたに
生きたいと思う気持ちが芽生える事……、大切な誰かと
心から一緒に生きたいと思う気持ち、それこそがあなたが
消えない唯一の方法だったのですよ……、ジャミル、あなたなら
きっと……、そう願い、私はあなた方を異世界へと託しました……、
あなたが試練へと赴ける者で、本当に良かったと……、私は
そう思いました……
「おお、おお……、ありがたいの、ジャミル、女神様は、
守護天使のお前さんを信じ、異世界へと送って下さったの
じゃの……」
「……」
セレシアの言葉を黙って聞いていたジャミルもカナトも押し黙る。
セレシアは、根が明るく人を諭す事が出来るジャミルなら、共に
過ごす内、いつの間にか只戦う事だけが使命感のカナトの心を溶かし、
大切な事に気づかせてやれる、そう思ったのである……。
「……う~ん、だけど、やっぱり何かさあ、相変わらずやる事が
強引な女神さ……、あいてっ!」
「……ダウド、いいんだよ、とにかく……、大変な事も遭ったけど、
こうしてジャミルも力を授かって、無事にカナトもこの世界に導ける
事が出来たし、良かったのさ……、ね?」
「そうよ!私達、これからもずっとず~っと友達よ!」
「モンモン!また一緒にトマトが食べられるモン!」
アルベルトはつい、又余計な事を口走りそうになるダウドの
脇腹を突きながらアイシャとモンに笑って見せた。だが、
顔は引き攣っている……。
「皆、有り難う……、でも、セレシア、一つ聞いていい……?
僕は……、この世界に来て、ガーディアンとしての力を失って
しまったのかな……、僕の中から……、何だか戦う力が抜けて
しまい、体が軽くなった様な気がするんだ……」
「!!」
皆は又も衝撃で押し黙る。カナトは無事に此方の世界へと
連れて来れた。だが、同時に明らかにカナト自身に何か異変が
起きているのは明らかである……。
……カナト、あなたは無事に生き存える事が出来、この世界へと
導かれました、けれど、ガーディアンとしての役目が終わり、
あなたは戦う力を失い、人間となったのです、生まれ、そして
いつか死へと進んでゆく、限りある時間の人間へ……
「僕が、……人間に……?」
皆は又、衝撃の事実を知る事となる。カナトが自身で
感じていた異変。カナトは人間としてこの世界に新たに
生を受けた事になったらしい……。
「……だ、だけど、カナトはオムイ爺さんや天使達の姿も普通に
此処じゃ見えてるみたいだぜ?」
……まだ本の少しだけ、ガーディアンであった頃の能力が
残っているからです、ですが、何れ完全に力は衰え、
この世界の人間となるでしょう……
「じゃ、じゃあ……」
「そっか、ジャミルと同じなのね……」
「だよお~……」
「……」
ジャミルは改めてカナトの方を見る。今はこうして天使界でも
ジャミルは普通に過ごしているが、女神の果実を食べ、人間と
なった。何時、天使界の皆の姿が見えなくなり、完全な人間と
なるのか、それはまだ分からない……。
「それなら……、セレシア、僕は人間になってしまったのなら、
これからどう生きたらいいのか分からないよ、ドラゴンに戻って、
この世界の誰にも見つからない山で静かに暮らせればと思って
いたけれど……」
カナト、あなたはもう一人ではありません、素晴らしい友が
いますでしょう、ジャミル達ならきっと、あなたがこの世界で
もう一つの人生を迎える為の新たな導きを施してくれる筈ですよ……
「ま、また……、そうゆう無茶を……、あてててっ!!」
……今度はジャミルがダウドを突っついた……、つもりが、
慌てていた為、つい力が入り、ゲンコツ拳になってしまった……。
「ジャミルのドアホーーっ!!」
「うるっさいっ!静かにしてろってのっ、オメーはっ!……カナト、
オメー、人間になったのなら、それはそれでいいじゃんか、幾らでも
生きていく道はあるさ!開き直って生きようぜ!俺らが付いてるだろ!」
「……ジャミル……」
ジャミルはカナトの肩を軽く叩いて励ます。崩壊する世界から
生き存えたものの、いきなり人間に新たに転生となってしまい、
どうしたらいいのか不安に暮れているカナトを励ましたかった。
だからつい、余計な事を口走るダウドを殴ってしまったんで
ある……。カナトの側にアルベルト、アイシャも側に寄り、
皆で励ます。大丈夫、一人じゃないんだよと……。
「あだだ、カナト、不安にさせる様な事言っちゃってごめんよお~……」
「全くもう!ダウドはアホモンっ!ウシャウシャブー!」
……仕舞いには、モンにまで怒られ、とほほのほ~、状態の
ヘタレであった……。
「皆、本当に有り難う、セレシアの言う通りかな、……異世界に
来てくれたのがジャミル達で本当に良かった……、こんな素直な
気持ちになれたのも嬉しいな……」
カナトは俯いていた顔を上げ、ジャミル達の方を見る。その顔は
喜びで溢れ、涙で濡れていた……。
さあ、カナト、あなたの新しい人生の始まりです、ジャミル、
皆さん、カナトは外見は少年ですが、この世界ではまだ誕生した
ばかり、赤子と同じなのです、どうか、これからカナトが色んな
事を覚えて本当に人間として成長して行く為に、力を貸して
上げて下さい、お願いします……
「ああ、任せとけ!けど、その為にはっ!」
「……エルギオスを、止めないと……、だね!」
「カナト君が平和な世界で安心して生きて行ける様にね!」
「……が、頑張ろおお~……!」
「モンモン!」
ジャミル達は頷き合い、気合いを入れる。最後の戦いに向け、
準備は出来た。何としても、エルギオスとの最後の決戦、
負ける訳にいかないと!
……ジャミル、皆さん、カナトと、そして、この世界の行く末を
どうか……、頼みましたよ………
セレシアのビジョンは世界樹から消え、その場には再び静けさが戻……、
らなかった。
「皆の者、聞いたであろう!これからジャミル達はエルギオスとの
最終決戦に望むのじゃ!……儂らもこうしてはおられんぞ!」
「非力ではあるが、私達天使にも何か出来る事を……!」
「守護天使ジャミルと、その仲間の力に!!」
「「おおおーーーっ!!」」
「皆……」
「地下に回復アイテムがあった筈、用意してあげるわね、それと、
あなた以外のお仲間さん達の装備は足りてる?一緒に探して来て
あげるわ!」
「ラフェットも、ありがとな!」
「「有り難うございます!!」」
「うふふ、そうね、無事に帰ったら何かお礼して貰おうかしら!
お姉さんのお酒のお相手になってね、強いわよ、私!ふふっ!
楽しみにしてるからね!」
この間まで、オムイを始め、天使達はエルギオスの暴走に絶望し、
何もかも失った気持ちになっていた。だが、試練を超え、無事
戻って来たジャミル達の姿に再び活力を取り戻す。エルギオスと
戦う事は出来ないが、ジャミル達の為に、少しでも力になろうと、
奮戦し始めた……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 89