【第3話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

ザルティア帝国の回復術士ルークは、帝国城内で無能と呼ばれ冷遇されていた。
他の回復術士と比べ、効率の悪い回復魔法、遅い回復効果は帝国城内の兵士らに腫物扱いされていたのだ。

そんな彼の生活にも突如終わりが訪れた―――。

横領という無実の罪を着せられ、死刑を言い渡されたのだ。
回復術士として劣等生だった彼はついに帝国城から排除される事となった。
あまりにも理不尽な回復術士ルークの末路―――。


だが、それが最期ではなかった。
秘められた能力を解放した回復術士ルーク・エルドレッドの冒険の始まりだ。

【第3話 無能と呼ばれる回復術士③】

「被告人ルーク・エルドレッド!
帝国財政から不当に資金を横領した罪で死刑に処す!」


帝国裁判官が冷酷に宣告した。
周囲からは嘲笑が響く。
俺の隣に立つ裁判官補佐は顔色ひとつ変えずに書類を確認していた。


「横領なんて……俺はそんなことしていません!信じてください!」

「確かに横領の証拠はある。これだけの証拠があれば言い逃れはできない」

「俺は本当に何も知らないんです!どうか再調査を──」

「死刑囚の発言は認められない。法廷は閉廷する」


その宣告と共に、衛兵たちが俺の両腕を乱暴につかんだ。


「お願いです!誰か――!」


抵抗しても無駄だとわかっていても叫ばずにはいられなかった。
しかし応じる者は誰もいない。
ここには俺の味方など一人もいなかった。

***

廊下を引きずられるように歩きながら、窓の外に広がる曇り空を見る。
今にも雨が降りそうな空模様だ。


―――アメリアの姿はない。
彼女は今頃騎士団の一員として帝都の外の森を巡回しているだろう。
まさか俺が死刑になるなんて想像もしていないはずだ。


「ほら早く歩け!死刑囚のくせに無駄に抵抗するな!」

「待ってください!俺は無実なんです!助け──」

「やかましい!さっさと来い!」


乱暴に突き飛ばされ、冷たい石畳の床に膝をついた。
そのまま無理やり馬車に押し込まれた。
扉が閉じる音が、俺の希望を閉じ込めるかのように響く。
そして馬車は処刑場へと向かって走り出した。


馬車の中は暗く狭く、湿った土のような臭いが充満していた。


「なんでこんなことに・・・」


――あの日アメリアが背を向けた時。

――もう一度声を掛けていれば。

――もしくは何か行動を起こしていたら。


今は全てが遅すぎるとわかっていても、そんな後悔が頭の中を渦巻く。


馬蹄の音が不吉なリズムを刻む。
どこかでカサカサと枯葉が擦れる音がした。


自分の運命が残酷に決まったこの日を、きっと永遠に忘れることはないだろう。


***



そして同じ時刻。


帝国城の奥にある豪華な執務室では
50代の壮年の男・宰相バルトロメウスが窓の外を眺めていた。
彼の目は鋭く冷たい光を帯びている。


「宰相閣下。あの無能な回復術士が処刑されるそうです。
報告によると、資金横領の罪で有罪判決を受けたとのこと。」


バルトロメウスの側近らしき若い官僚が報告しながら薄笑いを浮かべた。


「ふん、穀つぶしが。使えない奴を城で飼い続けていては金の無駄遣いだ」


バルトロメウスの目は計算された冷酷さを宿していた。
金銭の出入りについて異様なほど神経質な彼にとってルークのような存在は許し難い無駄だったのだ。
ルークの事がバルトロメウスの耳に届いたのは運の尽きだったと言える。



「そうですね。城に住む人間が一人減れば、食糧供給分のコストも削減できます」

「まったく。帝国のために働く資格すらないゴミめ。
税金泥棒が1人消えるのは喜ばしいことだ」

「あの回復術士は裁判中も喚き散らしていましたが……
最後の抵抗も虚しく処刑場へ送られたそうです」


側近たちの言葉にバルトロメウスは満足げに微笑んだ。
彼の顔には計算された冷酷さが浮かんでいた。


「無実を訴える? 冗談も甚だしい。
無能な回復術士がロクに仕事もせず給料だけを貪っていたのは事実。
我々帝国の財産を食い潰す害虫を1匹駆除しただけのこと」


宰相である彼にとって、回復術士一人など取るに足らない存在である。
恐らく、ルークの事など3日後には忘れているだろう。


バルトロメウスは窓から見える帝都の街並みを眺める。

その時。


バルトロメウスの視線の先で一台の馬車が通りを横切るのが見えた。
それは帝都の外れに向かう処刑用の馬車だった。
御者は急ぎ足で馬を走らせていた。


馬車の中には青ざめた顔で座る青年──ルークの姿があった。
彼はこれから死刑を執行される罪人だ。


バルトロメウスの唇が微かに歪んだ。
冷たい微笑が広がっていく。
その表情には愉悦と冷酷さが浮かんでいた。
やはり彼は残酷な男だ―――。



***


馬車が揺れるたびに俺の体が跳ねる。
手足を縛られたままの俺は身動き一つできなかった。
窓から見える景色が徐々に変わっていく。

帝都の整然とした石畳の道路は次第に荒れた土の道となり、
やがて周囲の建物もまばらになっていった。

最終的に馬車は深い森の中に分け入っていく。


木々の間から差し込む陽の光が妙に暗く感じる。
どれほどの時間が経っただろうか。

馬車が不意に停止した。


「着いたぞ」


衛兵の一人が無言で扉を開ける。
外に出された俺は、そこが森の奥深くにある空き地だと気づいた。
周囲は完全に木々に囲まれ、陽光すら満足に届かない陰鬱な場所で
前方はちょうど崖になっていた。


震える足でなんとか立ち上がる。
縄で縛られた両腕を衛兵に乱暴に引っ張られながら崖の方へと導かれる。

足元の地面が妙に柔らかい。
きっと過去に多くの犠牲者の血が染み込んだ場所なのだろう。



そのとき、俺の脳裏に浮かんだのは幼なじみのアメリアの顔だった。


「アメリア……」


思わず名前を口にする。

最後にもう一度会いたかった。

あの優しい声を聞きたかった。

―――けれどそんな願いは叶わないのだと悟る。


衛兵の一人が無慈悲に剣を抜いた。
刃が冷たく輝いている。


俺の喉が乾いた。
心臓が早鐘のように激しく打ち鳴らす。


「これが俺の終わりか」


自分でも意外なほど落ち着いた声が出た。
まだ生きたいという本能的な思いがあるはずなのに、
なぜか全てを受け入れるような静かな諦めを感じる。


「時間だ」


衛兵の冷たい声が響く。

俺は目を閉じた。死の瞬間に備える。


「さよなら…… アメリア」


次の瞬間、背中に鋭い衝撃が走った。
剣が俺の背中を突き刺し、そのまま心臓へと貫通していく。


痛みと共に意識が急速に遠ざかっていく。
最後に目に映ったのは、暗い森の影だけだった——。



【次回に続く】

【第3話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

【第3話】無能と呼ばれ処刑された回復術士は蘇り、無敵の能力を手に入れました

回復術士の劣等生ルークは、ザルティア帝国に無実の罪を着せられ処刑されてしまった! だが、彼には隠されていた能力があった・・・。 彼自身も知らなかった無敵の能力・生命吸収。 蘇生した彼は、幼なじみであり騎士団員でもあるアメリアと帝国から脱出する。 そして、数々の仲間らとの出会い・・・ 無能扱いされ続けてきた彼の新たな冒険が幕を開ける。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-08-05

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