あたらしい憲法のはなし(真正版)



・はい。では新しい憲法のお話をしていきたいと思ひます。

・はい。では早速質問です。憲法とは、どれほど重要なものでせうか?

・然うですか。あまりに重要すぎて寧ろ身近ではないために触れる機会がなかったんでせうか。

・私には私の知ってる憲法があります。

・あなたの知ってる憲法は一つしかありません。

・落ち着きなさい。今からするお話は、「新しい」憲法のお話です。あなたのした憲法のお話もこれまでの憲法からしてみれば正しかった。しかしこれからはまた違ふのです。変るのです。ただそれだけのお話です。わかりましたね?

・いえ、事情が変るのであって、憲法が変るわけではありません。

・憲法はこれからですね、幾つもに分けられます。

・もちろんですとも。しっかりと憲法を変へるための手順を踏んでのことですから。

・しかし憲法を「変へる」のかといふと、変へません。これからは幾つも憲法がある感じのやうになりますが、どれも重要なことには変りませんし、一番大切なことが書かれて居ることも変りません。

・いかにも、憲法には陛下のことや皇室のことや軍事のことやお金のことなど色々な事が書かれて居ます。そして憲法は時代に沿って変へていかないといけないもの、もしくは時代に関係なくてもより良い憲法にするために変へていかないといけない場合があります。でも例えばお金のことに関する箇所だけを変へようと思っても、憲法といふもの自体に変更を加へることそのものが大変に珍しく難しく、また一度そのやうなお話を呟かうものならお金のことだけでなく軍事のことも国民のことも司法のことも全部を全部変へてしまはうとしてるんではないか?といふ誤解も招いてしまふのでした。

・然うなんです。なので内容ごとに別々の憲法として互いに存在し合ふ方がより自然で親切な憲法になるのかなって考へるわけですね。

・ええまあ、変へないといふのは手順のお話なので、憲法を変へる必要といふのは勿論のことあるわけです。

・どうしましたか。

・然うですか。

・憲法なのかどうか、わかりませんか。

・ええ然うですとも。先生もね実は、新しい憲法は果して憲法なのか?って思ふわけです。

・それに新しい憲法といふのは幾つもあるので、一つ一つは「憲法」とは名乗って居ません。だからどれが憲法なのかもっとちゃんと知る必要がありますね。

・それは私が思ふにですね、一つ一つが誰でも物凄く重要な決まり事だってすぐわかるやうな本当に重要なものばかりですのでその重厚感で今まででいふ憲法といふ風格を表現しようとしてるんではないんでせうか。

・ええ。例へば天皇に関する原則。例へば人として他人に対して尊重すべき基本倫理と国民としての心構へ、国民として享受できる当然の恩恵などを定めた人法。例へば国の政の基本を定めた第二次法、、、どれもすごい大きな大事な決まり事ではありませんか。

・ええ然うですとも。

・ええまあ、、、上に立つといふよりも変へることがより難しいといひませうか。

・いふなれば、然うかも知れません。何か特別なモノ、といふわけではないのです。

・すべては法に則るのですから、条件を満たさなければ変へられないし、条件を満たせば変へることが出来ても何ら可笑しいことではありません。「憲法」が特別なものである必要はどこにもないのですから。

・不安ですか。ひょっとして、これからもっと不安に感じてしまふかも知れませんね。

・これからはまた別の「新しい憲法」についてのお話をしませう。

・いえ何も、間違ったことは言って居ません。新しい憲法です。新しい憲法としては例へばですけど、本務官憲法だとか景勝憲法だとか日本銀行に関する憲法だとかがあります。これらは皆、憲法です。

・ええ、何せこれらは別に、憲法ではありませんから。

・何を慌てて居るのですか。憲法を幾つもに分けたものは憲法ですけどそれ以外は憲法ではないのです。簡単なことではありませんか。

・それがどうしたんですか。何を惑はされてるんですか。

・先生の言ふことが、信用できませんか。

・まあ良いのです。私のことを信用するか云々などより、「憲法」といふ言葉に信を置きなさい。憲法といふのならそれは全部、憲法なのです。それだけのことなのです。

・ええ。憲法ですよ。

・まあ、憲法ではないかも知れない時もあるかも知れませんけどね。

・私がですか?私が何か可笑しなことを言ってるんですか。

・何をそんなに取り乱してるのですか!事を大袈裟にするのはやめなさい。

・苦しいんですか?

・然うなんですか。

・く、く、く、苦しめ!

・あなたの望んで居る憲法はもう存在しない!

・憲法は死んだ!これからは憲法なしで生きていくんだな!

・、、、、といふ冗談なのです。わかりますか?

・はて、私に言はせてみれば憲法は、全くどうにもなって居ません。

・正直に言ふと憲法と思はれたり呼ばれたりする法が存在して居ようと居なからうと、この国にとっては何ら重大なことではありません。

・然う。然うなのです。無茶苦茶になってしまふ。だから憲法はなければならない。

・ええ、ですから、憲法とはつまり、自分自身の知性のことを謂ふのでした。

・わからないのですか。ではあなたから見た世界には憲法など存在しない。そして私が見た世界には存在して居ます。しかしそれを憲法だとは呼ぶこともない。しかしそれを憲法と呼ばれたとしても別に否定することもない。憲法とは然ういふものなのです。

・あなたのその憲法は単なる贋物に過ぎません。幻想に過ぎません。

・その贋物を崇め、崇めてることにして、丸でやるべき事をやれて居るかのやうに振舞続けるのはもうやめなさい。

・あなたが見せる何気ない振舞ひ一つ一つこそが積み重なって、反映されて、気づいたらそこに憲法がある。その振舞ひとは優越感を否定することであり、偏見差別を戒めることであり、心がこもって居ようが然うでなからうが誰かの人命を大切にすることであり、そして自分とみんなの価値を知らうとして知ることである。

・そのやうなことが出来ない人だとは、先生にはとても思へません。

・さあ、立ち上がるより自らを省みなさい。突飛なもの、突飛と思はれるものを崇めるより誰にでもわかるものを創り出しなさい。

・良き顔です。わたしには不滅の大典の表紙のやうに見えました!

・冗談です。しかし、冗談ではありません。その佇まひなら大丈夫です。さあ行きなさい。わたしも行きます。助けはしません。すぐ横を歩き、離れもしません。

・憲法の旅。ええ然うですね。まだ無きものを遥かに求めて、実は答へは自らにあった。そのやうなとこに行き着きなさい。わたしも行きます。さあ、いざ、どこかへ。

あたらしい憲法のはなし(真正版)

あたらしい憲法のはなし(真正版)

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-07-31

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