『くちなし』

土の中に眠るアタシだけの
愛しい秘密にくちづけを


『くちなし』


すぐに帰るよと
嘘吐きな貴方はいつも言う
待っているわと
馬鹿なアタシは信じて笑う

飾られるだけの駒鳥は
綺麗な声で鳴くことしか知らない
他のことは考える必要もない
だから貴方の為に今日も歌うの

だけど繰り返される嘘に
信じる心がいつしか赤く染まり
疑いという悪魔が囁いた
愛してるなんて言葉だけ

小さな疑いはやがて毒となり
とうとうアタシの胸を食い破った
こんなに赤くなってしまっては
もう元には戻れないわ

美味しい料理に最愛の魔法をかけて
飲み干すワインには悲しみを混ぜて
最後の晩餐はフルコースで味わって
貴方とアタシの最後の夜よ

倒れゆく姿はスローモーション
傷ひとつ付けたくないのに
滲む血をくちづけで拭えば
後はアタシに任せてね

下拵えも得意なの
物言わぬ貴方を綺麗に切り分けて
庭に埋めてしまうまでのランデブー
土を被せて出来上がり



「さあ、何の花を植えようか」

『くちなし』

『くちなし』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-07-09

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