
スピーチ
「私は・・・」2025年の夏、それは水辺のザリガニも暑さで茹で上がり、鮮やかな赤色に染まってしまうほど、暑い暑い夏の季節のことだった。
「講演を行ってもらえませんか?」急な依頼だった。短期大学を卒業し、二十歳から社会人になった私は同じ世代が遊んだりするのを他所に必死に働き続けた。一社目は自分の成長が感じられず、十カ月で退職し、二社目は五年勤続し、三社目はスキルアップで七年働いた。自分でいうのもなんですが、人よりも三倍は働き詰めの人生でした。
その経験を活かし、地元で起業した私は2025年の夏、高校の母校から講演の依頼をいただいた。「私が話すようなことは何もありませんので・・・」最初は乗り気はなく、依頼を断るつもりでしたが、あまりにも熱心にお願いされるので、しぶしぶ、依頼を了承しました。
講演当日、ニュースでは水辺のザリガニが水温の高さで鮮やかに赤く茹で上がった映像が流れていた。今日は終戦記念日、黙祷だけで終わらせずに卒業生を招いてスピーチをしてもらうという新しい学校の取り組みだった。
体育館の壇上の上からは暑さで参っている在校生の姿が良く見える。簡単な自己紹介を終えた私はポツポツと話を始めた。
「みなさんの殆どがスマートフォン、いわゆる携帯電話をお持ちかと思います。社会的成功者や有名な芸能人、ソーシャルメディアでの様々な情報を目にすると思います。どうかその情報を鵜吞みにしないでください。あくまで参考にしてください。あなた達の人生の答えはあなた達の中にしかありません。世間で目にしたり、聞いたりする情報は何の責任もない人達がただ、発信しているだけに過ぎません。簡単に答えは出ません。人に依存していては遅かれ早かれ倒れます。弱気な性格でもいじめられていても構いません。人生において必要なものはただ一つです。それは、「勇気」です。これから生きていく中で、予想もつかないような困難が待ち構えています。それを乗り越える方法はただ一つ「勇気」です。少なくともいじめられていた、弱気だった私はその「勇気」だけでここまで来ました。多くは語りません。みなさんにもどうか自分の心に「勇気」を育ててください。そうすれば、きっと乗り越えて生きていけると思います。短いですが、以上になります。本日はご清聴いただき誠にありがとうございます」
私は深くお辞儀をして、壇上を降りた。体育館は外で鳴いている蝉の声がよく聞こえるほど静まりかえっていた。
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