無心に創作

木下です。

吉谷氏とお話をさせていただいた若造である。
僕は先生のようになりたくて、吉谷スタイルを真似てみた。

一つは、自らを作家のたまごと呼ぶのをやめた。できるだけ心を無にして原稿と向き合うように心がけている。
もう一つは、執着。作家への執着。これも無にした。

とは言ってみるものの、やはり実践するのは、かなり難しく厳しい。先生はまるで精神と時の部屋から出てきた人みたいだ。何だか修行のように感じる今日この頃。

先生とは呼ぶなと言われたのだが、どうしても呼んでしまう。既に憧れの人物である。

先日、電話でも少し話をさせていただいた。コンクールの件。出版賞のことをお聞きした。先生は仰った。

「受賞を目指すのもいいが、それを意識する時点で無にはなれていないのだよ」
そして、
「その道もいいのだが、賞をとれたとしても、それで本心が納得いくかどうかは別だ」
と。

全く奥の深いお言葉。

吉谷先生曰く、出版は自費出版であっても企画出版であっても、それはどちらでもいいとのこと。
自分の納得いく本をつくるのか、そうでないのか、よく検討することが大事だと。

実は先生から内緒話をお聞きした。
出版社の編集長の言葉で、
「吉谷さんの新作、賞に応募されていたら、グランプリでしたよ」
とのこと。先生に尋ねると、
「敢えて賞には出さなかった。なぜか。競争して決める作品ではないと思ったから」

僕は一瞬背すじが伸びた。
先生は後に言われた。

「私は再度編集長に礼を述べたい。今でも感謝している」と。

一冊の本にかけた思い。
僕も見習って実践躬行とまでは言いきれないが、納得のいく執筆に励みたいと強く心に刻んだ。

無心に創作

無心に創作

木下くんの決心

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-07-03

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