とある雪だるまについて
彼の話す世界の歴史
一人、いや一つ、不思議な雪だるまがいた。
道ゆく人に襲いもせず、優しくもせず、何もせず、ただ突っ立ってるだけ。それだとただの雪だるまだが、彼はしっかり自我を持ち、魂を宿していた。
なぜ過去形か?それは、時間軸がこの世界とは違うから。未来でも過去でもないが、非現実的ではある。
私は、神のちょーーっとしたミスでこの雪だるまのいる異世界に飛ばされた。そのミスは…あとで話そう。
その世界で私は、いわゆる"冒険者"というのをやっていた。そう、ただただ冒険してただけだ。
そしてたどり着いたのが"ケンボーの雪原"。名前の由来は、多くの冒険(ぼーけん)者が挑んだから。この国の地名は本当にふざけた名前ばかりだ。
とにかく、その雪原に彼がいた。彼は皆に"雪怠man"と呼ばれていた。そして、私は彼と話をした。
彼はこう言った。
「世界は一度破滅へ向かった。滅びかけたのだ。しかし、ワレワレは生きている。世界は、救われた。」
そして長ったらしい説明を1分ほどした。
正直、そんなワケあるかい、と思った。でも、彼は真剣だった。まるでその目で世界が滅びる様を見たようだった。
彼が言うには、とある冒険者が、滅びかけた世界を救ったようだが、その冒険者は国がどれだけ調べても、何の情報も出てこなかったらしい。だが、国はそのような検索履歴はないと言っている。雪だるまの作り話か、国家視点では手遅れだったのか。
雪怠manは、きっと今もどこかのクリスマスツリーのてっぺんに刺さっているだろう。
つづく
彼の生活 その1
彼はどのような生活を過ごすか。彼の生活は、彼の話す世界変貌の前、最中、後で大きく変わっている。まずは変貌以前での生活を見ていこう。
彼はもともと、雪原の入り口あたりにスキー場を持っていた。朝起きたら点検、開場して、案内、集計など全ての仕事を1人でする。なぜなら彼1人で運営していて、従業員も雇ってないからだ。よってとても忙しい日々だったが、彼は幸せに感じていた。モンスターでありながら、雪だるまであることもあり、人間からも好評であった。むしろ利用客の過半数が人間であった。売り上げも上々、体は冷たいが懐は温かい、ビジネスモンスターになった。史上最も人間社会に影響を与えたモンスターと言って良いだろう。
これが世界変貌前の雪怠manである。
彼の生活 その2
世界変貌真っ只中の雪怠manの生活は、それ以前に比べ、あまりにもひどかった。魔物たちによる激しい侵攻に人間たちが反撃する際、魔物と同一視されていたモンスターたちも抹消対象となった。いうまでもなく、雪怠manのスキー場には誰も来ないどころか、人間たちに破壊された。財産も盗まれた。家も破壊された。雪怠manに対しての攻撃もあった。彼は命からがら雪原の奥まで逃げていった。そして、そこでひっそり、1人で暮らしていた。
ある時、3人の冒険者がやってきた。その冒険者たちは、かなり実力のあるものたちだったそうだ。やはり、雪怠manとその冒険者たちは戦った。
結果は、敗北。冒険者たちに負けた雪怠manは、しばらく雪に埋もれ、身動きができなかった。そして雪の中からようやく脱出した後は、ついにひっそり暮らすことさえも止めてしまった。
景色になったのだ。
彼のやりたいこと
世界が平和になってもなお、雪怠manは景色になり続けた。人間が来ても、無視していた。話しかけられても、答えなかった。なぜなら、本当の、普通の雪だるまになろうとしていたから。
私が話かけても答えなかった。もちろんそうだ。何を言っても答えない。諦めかけていたが…あることを思いついた。
「そうだ!君、僕とスキー場を作らないかい?」
そう言った時、少し動いた気がした。
「…スキー場じゃなくてもいいけど、みんなが楽しくできる場所を、作ろう!誰にも壊されない平和な、幸せな空間を"今度こそ"作ろう。」
そう続けたら、ついに彼は反応した。
「なんだよ。俺のことについて聞きたいって言ってたのに。知ってるじゃんかよ。それとも、なんだ、別のことなのか?」
「別のことも聞きたいし、詳しいことも、だよ。」
そうして彼はいろいろなことを私に話してくれたのだ。
彼は一つ、やりたいことがあるらしい。
スキー場ではない。
彼がやりたいのは、戦った冒険者たちに対する仕返しだ。
とは言っても、そう激しいものではない。
ただ、何かの勝負で勝ちたいだけだ。
しかし、3人の冒険者のうち、1人はすでに亡くなっており、1人は隠居している。
そして、英雄と呼ばれた最後のもう1人は、魔王との決戦後誰もその姿を見ておらず、未だ行方不明だ。
それどころか、チャプター1でも言った通り、国家規模で調べても出てこない上に、国は捜索をしていないというのもあり、存在自体が怪しくなっている。
このように、戦った冒険者3人に勝負を挑むのはとても無理であった。
だからどうしたのかというとー
私が勝負を受けた。
とある雪だるまについて