zoku勇者 ドラクエⅨ編 75
続・ラテーナの記憶
「皆、下がっててくれ、アイツは俺達に襲い掛って来る気
満々だ……、ならよ、やられる前にこっちから行くっ!
……うああーーっ!!」
「ジャミルっ!……止めてーーっ!!」
「……愚かな……」
アイシャが絶叫する中、ジャミルはドラゴンキラーを構え、
エルギオスに突っ込む。エルギオスはそんなジャミルに
ほくそ笑む。次の瞬間、ジャミルは身体の自由が利かなくなり、
ドラゴンキラーを破壊され、あっさりとエルギオスの前に倒れる。
下級天使は上級天使に絶対逆らう事は不可能。特にエルギオスは
イザヤールの師匠なのだから。……今のジャミルが勝つ事など
到底無理であった。
「上位の天使には逆らえぬ天使の理、……戦う価値も無い……」
「ジャミル、ジャミル、しっかりしてっ!……酷いっ!どうして
こんな事するのっ!」
アイシャは涙目で倒れたジャミルに必死で呼び掛け、そして……、
エルギオスを睨んだ……。
「またジャミル傷だらけモン……、や~モン、や~モン……」
「ダウド、まだ間に合う、……ジャミルに急いで治療を!!」
「……あ~ううう!!な、なんでェェ~、いつもいっつも……、
こうなるのさあーー!」
ダウドも錯乱しながらジャミルに回復魔法を掛け捲る。最初は
あの天使を回復するつもりだったのに、……どうしてジャミルの
方に回ってしまったのかと……。
「あなたは……、一体何なんですっ!?僕達はあなたを助ける為、
命懸けで此処まで来ました、……それなのに……、答えろっ!!」
しかし、エルギオスはアルベルトの叫びなど全く聞いておらず、
構わず憎悪の言葉を、気絶しているジャミルへとぶつけるのだった……。
「……300年間捕らわれていた私の憎しみがどれ程の物かお前には
想像出来まい、しかし、その憎悪の念こそが私に力を与えたのだ、今や
私の存在は神をも超えた、かつて私が放った閃光はお前も見ただろう?
神は死んだのだ!」
「神は死んだ……?まさか……」
「あ、あっ……」
アルベルトもアイシャも思い出す。神の国の神殿で見た惨劇の跡を……。
あれは間違いなく、エルギオスが起こした悲劇、神の国を滅ぼしたのは、
エルギオスだったのだと……。
「……今こそこの私が神に成り代わり至高の玉座につこう……」
「……ま、待てっ!エルギオス!……アッ!?」
エルギオスは翼を広げると残っているアルベルト達に閃光を放つ。
そして宙に舞うと一気に地底から外へ脱出、上空へと飛び立ったの
だった……。
「……闇竜バルボロスよ!我が元に来たれっ!」
「……何だか、外で竜の泣き声がするわ……、こんな地底の底からでも
はっきり聞こえる、それにこの感じ……、何が一体今、起きているの……?
……きゃあっ!?」
「モ、モンーーっ!?」
「……地鳴りかっ!くっ!!」
エルギオスはあのバルボロスを手元に呼んだのである。バルボロスを
操っていた黒幕も、全てエルギオスの仕業であった……。地底に残って
いる仲間達は必死でバルボロスが引き起こしているであろう、雄叫びの
振動に耐えていた……。
「ククッ……、人間共を滅ぼす前にまずは神の国を我が居城に
してくれようぞ……!」
エルギオスはバルボロスを連れ、何処へと飛んで行く……。やがて、
帝国全域を襲っていた激しい振動も漸く収る……。
「お、収った……、のか?」
「ねえ、ジャミルはだいじょーぶ……?」
サンディは倒れて眠ったままのジャミルの表情を覗き込んだ。
かろうじてダウドのお陰で、顔色はかなり良くなって来ている
様だった。
「大丈夫、傷は完全に完治したよお、……ごめん、ヘタレて申し訳
ないけど、オイラ少し休んで良いかな?疲れちゃった……、もうMPも
そんなに残ってないんだ……」
「うん、有り難う、ダウドも頑張ってくれたからね、もう少し此処で
休んで行こう……」
「ダウド、お疲れ様……」
「うん……」
ダウドはアルベルトとアイシャに一瞬笑顔を見せるがすぐに黙りこくる。
アルベルト達も混乱していた。一体何の為にこの地底まで来たのか……。
真相を知ってしまい、全ての黒幕の正体も分かりつつあった事で皆の心は
複雑になっていた……。自分達が行った事で、堕天使としてエルギオスを
復活させてしまったのかも知れないと……。
「ジャミル、ゆっくり休んでね、モン……」
「有り難うね、モンちゃん、もう少し休んだら、直ぐにジャミルは
元気に目を覚すわ……」
「……モォ~ン……」
「ハア、思いっきり負けちゃったね~、でもあのエルギオスってヤツが
帝国を操ってたの?」
「……」
疲れているのか、その場にいる誰一人サンディに返事を返す気力も
既に無くなっていた。だが、構わずサンディは言葉を続ける。
「アイツ、一応天使……、なんだよね?どうしてあんなキモい姿に
なっちゃったんだろ?」
「サンディ、それは僕らが考えても今は分からない事だよ、
もう少しジャミルを此処で休ませて、目を覚したら待って
いてくれている天使達を連れて急いで天使界に戻ろう、
……とにかく……、この事をオムイ様に報告しなければ……」
「あれ?だれか来るんですケド……」
「!!」
サンディの言葉に仲間達は咄嗟に警戒態勢を取り、ジャミルを守る
姿勢に入る……。こんな危険な地底地帯に絶対に自分達以外、敵以外は
訪れる筈が無いと……。だが、現れたのは……。
「……エルギオスっ!!」
「アンタっ!ラテーナじゃん、こんなトコまで、ま、ケナゲっちゅ~か……」
地底に訪れたのは、……エルギオスを只管探し続ける幽霊の女性、
ラテーナであった。だが、一人でブツブツ見えない空間に向かって
呟いているサンディの姿を見、アルベルトは激怒する……。
「サンディ!こんな時にふざけないでくれっ!!誰も来ないじゃないか!
今、僕らがどんな状態に置かれていると思ってるんだっ!!」
「待って、アル……、ねえ、サンディ、ラテーナさんが来てるのね?」
「アルベルト、サンディは本当にふざけてないんだモン、幽霊のお姉さんの
ラテーナが来てるんだモン」
「え、えっ……?そう言えば、ラテーナって、確か、魔獣の洞窟の封印を
解いてくれた……」
「ふう~っ、ネ、あんたら、このマジメ君に冷静になるよーに伝えてヨ、
このまんまじゃアタシが悪者になっちゃうじゃん!」
「ええ……、アル、私達には姿は見えないけれど、あの時、
ナザムで離ればなれになったダウドと私達を引き合わせて
くれたのも、ラテーナさんのお陰なの……」
「うん、重傷だったオイラをね、助けてくれたんだ、オイラ、
幽霊は苦手だけど、ラテーナさんには会ってみたいなあ~、
……な~んて、ワガママかな、えへ……」
「……アイシャ、ダウド……、サンディ、分かった、ごめん……、
僕も少し苛々し過ぎてたみたいだ……」
「ま、分かればいーケドさ、それよりも……」
サンディはラテーナの方を見る。またエルギオスとすれ違い、
会えなかった事に、此方もかなりショックを受けている様にも
見えた……。
「無理も無いわ、正直、又こんなにジャミルを傷つけられて……、
私だって本当は悲しくて、怒りを何処にぶつけたらいいか
分からないの……」
「アイシャ……、……」
「エルギオス……、今度こそ……、今度こそ会えると思ったのに……」
「あんたが探してる相手ってマジ基地の……、本当にアレだったの?
ジョーダンかと、でも、……もう行っちゃったけど……」
「そう、やっぱり……、あの人はここにいたのね、……また、
手が届かなかった……」
「……此処、何処だ?……俺、また……、……」
「もうっ!怪我がまだ治りきってないのに勝手に抜けだしたりして!
ダメじゃない!……エルギオス、……この前の戦いであなたの傷は
悪化してるのよ、もっと自分を大事にして……」
「……エルギオス……?……!!」
「……ナザムはいい村だ、此処で暮らす様になって改めてそう思う
ようになったよ、ラテーナ、私はこれからもこの村を守り続ける事を
誓おう……、そして……」
意識不明のジャミルの目の前にいる二人の男女……。どうやら、又
自分は夢を見ており、誰かの記憶の中に飛ばされた様だった。今回は
違う、もう誰の記憶の中にいるのかは直ぐに理解出来た。ラテーナ、
そして……。
「えっ?……エルギオス、本当に……?」
「ああ、いい村だよ、心から本当にそう思う……、君の事も守りたい、
約束しよう……」
「エル、ギオス……、嬉しい……」
明らかに、この前見たラテーナの記憶の続きの様だった。あの時、
村を守った天使の傷ついた青年はエルギオスであったと言う事も
理解出来た。だが、信じられなかった。記憶の中でラテーナに優しい
微笑みを見せるエルギオス、……帝国に捕まりぼろ切れの様に
なりながら鎖に繋がれ、憎悪の固まりとなった堕天使のエルギオス……。
どうしても本当に同一人物なのか、ジャミルはとても理解出来なかった……。
「これはその約束の証だ、受け取ってくれ……」
「エルギオス、これは……?」
「この星空の首飾りは天使が近づくとその力に反応して輝き出すと
言う特別な物だ……」
エルギオスがラテーナに渡した星の首飾り。それはジャミルも以前に
ナザムで見た事があった。ナザム村の守護天使像の足下に隠して
おいたと言うラテーナの宝物を彼女に届けた。あの時、探して彼女に
渡した大切な首飾りはどうやらエルギオスから託された物らしかった……。
「……願わくば、この首飾りが常に輝きと共にあらん事を……」
「エルギオス、本当にあなたはこれからも……、ずっと側に居て
くれるって事……?」
「勿論……」
「……エルギオス……」
ラテーナはエルギオスの手をそっと握りしめる……。其所へ……。
「……こ、ここにおられましたか、天使様っ!」
部屋に傾れ込んで来た老人。ラテーナの父親である……。
「……お父さん!どうしたの?」
「実は……、大変な事が……」
父親の話によると、恐らくこの間の復讐なのだろうが、帝国軍が又
ナザム村に向け、不審な動きを高めているらしいと……。
「帝国が私を狙っていると?こりない奴らめ、何度来ようが
蹴散らしてくれる!」
「……お、お待ち下され、帝国の奴等、この間とは比べ物にならぬ
大軍らしいですぞ、幾ら守護天使様でも傷を負った身体で奴らと
戦っては無事では済みますまい……」
エルギオスは厳しい目線でラテーナの父親の方を見た。ラテーナは
不安で溜まらなくなる……。
「……ではどうするというのだ?戦わねば村は守れぬぞ……」
「天使様は裏山の泉のほら穴に隠れていて下され、帝国兵共には
天使様は既に天使様の国に帰られたのだと、何とか言い聞かせ
ましょう……」
「しかし、それでは……」
そんな事で帝国兵が簡単に大人しく退く筈が無い、やはり戦うしか
ないであろうと、エルギオスは硬く目を瞑った……。
「……私からもお願い、あなたがこれ以上傷付くのを見たくないの、
大丈夫、きっと大丈夫だから……」
「……分かった……」
「ああ、エルギオス……」
ラテーナは再びエルギオスの手を取る。エルギオスはラテーナの事を
心から信頼していた。彼女の言う事なら本当に安心出来る、大丈夫
なのだと……。この時は……そう思えた。
「ラテーナ、お前は天使様に付き添って隠れていなさい、……それと、
タンスの奥の秘伝の薬を万が一の時の為、あれを持って行きなさい……」
「お父さん……?」
「……で、では、わしは帝国軍を村の外で引き留めておくから
後の事は頼んだぞ……」
ラテーナの父親は急いで外に出て行く。その姿をラテーナも
エルギオスも見つめていた……。だが、実際この場にはいる
筈の無い、ラテーナの記憶を見ているジャミルだけはラテーナの
父親の言葉と、不自然な動きに感づいていた……。
「急ぎましょう、エルギオス、余り時間が無いわ、この首飾り……、
着けてたら帝国軍に見つかってしまうわね、……隠しておかないと……」
「……ラテーナ?」
ラテーナは一旦部屋を出た後、直ぐに戻って来る。彼女が首飾りを
天使像の足下に隠した理由を漸くジャミルは此処で知る事になった……。
「これでいいわ、さあ行きましょう、エルギオス」
「……あ、ま、また……、!?」
再び記憶の場面が飛び、ジャミルは違う場所へと送られていた。
其所はラテーナの父親がエルギオスに隠れている様に伝えた場所。
……泉のほら穴。
「此処ならそう簡単には見つかりっこないわ……」
「ラテーナ……」
「エルギオス?」
「……ラテーナ、やはり私は村に戻ろうと思う、……守るべき村から
逃げ出した上、敵に背を向けるなど守護天使として許される事では
ない……」
「そう……、そうよね、あなたならそう言うと思ってたわ……、でも、
このままあなたを行かせる訳にはいかないわ、せめて……、これを
飲んでいって……」
ラテーナはそっと持参して来た薬の入った小瓶をエルギオスに渡す。
父親が先程、持って行けと念を押した秘伝の薬らしい。だが……。
「……これは?」
「村に伝わる秘伝の飲み薬よ、傷にとてもよく効くの、お父さんが
使ってくれって……」
「人間の薬が私の身体にどれ程効くか分からぬが……、有り難く
使わせて貰おう、ラテーナ、感謝する……」
「……」
ラテーナはエルギオスが薬を飲み干すのを見守る。だが、その表情は
悲しそうな表情にも見受けられた……。直後、薬を飲んだエルギオスの
身体に異変が起きる。目眩、引きつけを起こしたのである……。
「ううっ……、これは眠り薬……?どう……して、だ……、
ラテー……、ナ……?」
「あいつ、何て事を……、親父とグルだったってのかよ!い、嫌、
ラテーナはそんな奴じゃねえ!けど……」
記憶を見守っているジャミルも騒然……。ラテーナがエルギオスに
渡した薬は眠り薬だったのだった。エルギオスを帝国に引き渡す為の
罠だったのかと、一瞬疑いたくなったが、この後、ラテーナの行動は
全てエルギオスを守ろうとしていた事だった事を知る。
「……ご免なさい、エルギオス……、でも、こうしなければあなたは
きっと村の為に戦い、深く傷付く事になる……」
「ラテーナ、あんた、やっぱり……」
これがラテーナのエルギオスへの想いであった。彼女はどうしても
エルギオスを戦いに赴かせたくなかった。こうする事でエルギオスを
守ろうとした。例え、自分が悪者になったとしても……。
「……そんなの私には耐えられない、例えあなたを裏切る事になっても……」
ラテーナは倒れているエルギオスの手を取り、そっと握りしめた。直後、
沢山の男達のけたたましい声と、金属の擦れ合う音、……集団の足音が
ラテーナの耳に聞こえて来た……。
「おおっ!?間違いなく、翼の男が倒れておるわ!」
向かって来たのは本当に帝国軍の兵士だった……。エルギオスを
隠す暇もないまま、ラテーナは絶体絶命の危機に陥る。しかも、
帝国兵と一緒にいるのは……。
「な……、何故帝国兵が此処にっ!?……て、帝国なんかに
エルギオスは渡さないっ!私がっ、必ずあなたを守って見せるっ!!」
「ラテーナっ!……くそっ!!」
見ている事しか出来ないジャミル……。此処は彼女の過去の記憶の中。
ラテーナはエルギオスを庇う様に帝国兵達の前に立つが、兵達はバカに
した様に彼女をじろじろ見て鼻を鳴らした。
「なんだぁ、この女はぁ?」
「……む、娘にだけは酷い事はしないで下され!」
「……お父さん……?」
「村人には手を出さないと言う約束だった筈ですぞ!」
「……やっぱりかっ!……あんの爺っ!!」
帝国兵と一緒にいるのはラテーナの父親であった。エルギオスを
助けるフリをして騙し、村の為、娘の為……、陰で帝国と連携し、
エルギオスを帝国に差し出してしまう作戦を最初から企てていた。
ラテーナは絶望と悲しみで顔が真っ青になる……。
「お父さん!どうして……!?ひどい!騙したのねっ!!」
「これも村を守る為なのじゃ、分かってくれ、ラテーナ……」
「村の為、村の為って、守護天使様を帝国に売るっていうの!?
そんな事、私が許さないわ!エルギオスっ!さあ、目を覚まして
エルギオスっ!!」
「ううっ、……ラテー……、ナ?」
「逃げましょう、地の果てでも何処までも!私と一緒に、さあ!」
ラテーナはエルギオスを目覚めさせる。彼と共に何処までも逃げよう、
逃げ切ろうと思っていた。しかし、此処でエルギオスの目を覚まさせて
しまった事で、事態は更に悪化し、……エルギオスとラテーナの絆は
永遠に途切れる事に……。
「貴様ああーーっ!!」
「お待ち下され!こ、この娘は……、翼の男をまんまと誘き出し眠らせた
協力者なのです……」
「……お父さんっ!何て事をっ!エ、エルギオス……」
「どうかその手柄に免じて無礼はお許し下されます様……」
「爺っ!いい加減にしろっ!……くそっ、何とか出来ねえのかよ、
このままじゃ、あんまりだ……」
「ラテーナ、……ま……、さか……、君が……?そ、うか……、
そう……」
「……エルギオスっ!!」
エルギオスは再び気を失ってしまう。身体よりも心に受けた大きな傷と、
ラテーナへ芽生えた不審と誤解を抱いたまま……。ラテーナは何とか
エルギオスへと誤解を解こうと必死で呼び掛けるのだが……。飲ませた
眠り薬の効果は半端ではなかった……。
「……違う……、そうじゃない、そうじゃないの、エルギオス……、お願い、
どうか信じて、私……は……」
エルギオスの側に跪き、がっくりと肩を落とすラテーナの前で、帝国兵は
容赦せず、更なる非道へと出る事に……。
「……まあいい、翼の男さえ手に入るなら後はどうでもいい事だ、
お前達、その男を鎖に繋いで運びだしておけっ!」
「ハッ!」
兵の隊長が部下に命令し、ラテーナの見ている前でエルギオスは
鎖に繋がれ、何処かへ連れて行かれてしまう。以後、エルギオスは
この時の状態のまま、300年間、鎖に繋がれる事になる……。
「……エルギオスっ!エルギオスーーっ!!お願い、止めてーーっ!!
エルギオスとどうか話をさせて頂戴!!……エルギオス……」
「へへ、さて残るは、……この二人だな、始末しておけ!」
「……!」
隊長が再び部下に命令を下す。目的のエルギオスを捕獲した今、
ラテーナとその父親にはもう用が無い。殺してしまえと言って
いるんである……。
「……や、約束が違うではないか!!お願いじゃ、止めて下され!!」
「……お父さん……」
「ダメだっ!ラテーナっ、逃げろっ!……く、くそっ!!」
ジャミルは硬く唇を噛む。無理だとは分かっているが、そう
目の前にいるラテーナに呼び掛けたかった。……悔しくて
悔しくて仕方が無かった……。
「言っただろう?翼の男さえ手に入れば後の事はどうでもいいとな……」
「ひ、卑怯者……、あ、ああ……」
「くっ……、ラテーナっ!お、お前だけでも……、にげろおおーーっ!!」
「……爺さんっ!!」
「……お父さんーーーっ!!」
ラテーナの父親は生身のまま帝国兵に突撃し、兵にばっさり剣で
斬られ……、その場に倒れ一瞬で絶命した……。
「……ぐ、ぐふううう~……」
……ラテーナは自分の目の前で、エルギオスを連れて行かれ、最後には
父親を失う事になったのだった……。
「……お父さんっ……、……待ってて、エルギオス……、
此処で死んでも……、私はきっとあなたを見つけだすわ……、
あなたが何処に居ても、例え何年、何100年掛っても、
必ず……」
ラテーナは父親の遺体の側に寄り添い、俯いていた顔を上げ
遠い空を見上げた。彼女の側に近づく帝国兵の足音。其所で
風景は何も見えなくなり、ジャミルの視界は又真っ暗になる。
……その後、ある出来事が彼女を救い、その場では一命を
取り留める。九死に一生を得、エルギオスを探し続ける旅を
していたが、帝国に漸く乗り込んだ際、結局命を落としてしまう。
幽霊となった後でも、只管エルギオスを探して彼方此方彷徨い
続け、彼には会えないまま、既に300年の月日が経過し、今に至る……。
「……う、うう、……、あれ?俺……」
「……ジャミ公、マジ、あんま心配させないでヨッ!毎度毎度
ヒヤヒヤするじゃん!」
「……皆……」
「ジャミル、目が覚めたのねっ!」
「♪モン、モン~っ!」
「無事で良かったよお~~、って、……今後もこの言葉、避けられ
ないんだろうな、心配ばっか掛けてさ、ブツブツ……、でも、
本当に良かった……」
「うん、皆、いるよ、ジャミル……」
ジャミルが目を覚すと、心配そうに見守ってくれている仲間達の姿が……。
そして、もう一人……。
「ジャミル、久しぶりね……」
「ラテーナ……」
夢の中で見たラテーナと、今、来てくれたラテーナは容姿が全く
変わっていない。300年前と……。だが、一つだけ違うのは、
彼女はもうこの時代には、現世に何時までも留まっていては
いけない人間なのだと言う事……。
「来てくれてたんだな、俺、夢の中で又あんたの記憶を見た、
エルギオスの事も知った、アイツが豹変した訳も……」
「そう……、……あの人は……、エルギオスは何も悪くないの、
悪いのは全て私……」
「……」
ラテーナはそう言ったきり、黙ってしまい、ジャミルもこんな時、
どう言ったらいいのか分からないままだった。確かに、今エルギオスを
止めなければ世界が滅んでしまうかも知れない。だが、元はと言えば、
エルギオスが人間に失望し、精神が崩壊してしまった原因を作ったのも、
心無い人間達の悪意が全ての元凶を引き起こしたのも事実なのだから……。
「アタシもサ、彼女から事情聞いたよ、……そんな事があったんだねえ、
そりゃあ、あのエルキモすも人間を恨んじゃうワケだわ……、ね、
ジャミ公……」
「……そうだな……」
「僕らも……、その、サンディがラテーナさんから聞いた話を
教えて貰った、正直、今はまだ……、僕は何とも言えない、頭が
混乱している……」
アルベルトはぽつりとそう呟いた。同じく、サンディからラテーナの
過去の話を知ってしまったらしきアイシャとダウドも……。どう答えて
いいか分からないのだろう、複雑な面持ちになり、黙ってしまっていた。
やっとジャミルが目を覚した事で安心したのか、モンはダウドの頭の上で、
ジャミルと交代ですっかり眠ってしまっている。
「ハア、多分サ、エルギオス、あんたの事も裏切り者って思ってるんじゃん?」
「……サンディ、よせっつんだよっ!」
「いいのよ、ジャミル、心配してくれて有り難う、私はもう一度彼に
会ってあの時の事を謝らなくてはならないの……、その為に今日まで
こうして地上を彷徨って来たの、あの人が去って行ったのなら私は
それを追うだけ……」
「ラテーナ、待ってくれよ!その、……俺達と一緒に行かないか?」
「……気持ちは嬉しいわ、でも、私は自分の手であの人の行方を捜し出す
つもりよ……、そうしたいの……」
「ラテーナ……」
ラテーナは又その場を去る。ジャミル達に今出来る事は、エルギオスを
探し出し、自分達も何とかエルギオスへラテーナへの誤解を伝え、暴走を
止める事……。それしか出来なかった。
「あの基地っぷりを宥めんのは……、相当骨が折れそうだな……」
「あ~あ、ま~た行っちゃったよ、相手はお空の上だってのに
どうするつもりなのカナ?……さって~、こんな小汚いトコもう
用は無いし、アタシらももどろーよ!」
サンディの言う通り、エルギオスは止められなかったが、事実上、
帝国はもう崩壊している。天使達も無事救出出来たのだから、此処には
もう用はない筈である。だが、天使界に戻り、オムイに事を伝えたら、
本当の黒幕との最後の決戦が始まる……。屈辱と苦しみを与え続けた
筈の帝国を自ら復活させ、陰で操っていた、堕天使と化したエルギオス……。
「おう!ジャミル、お前らも無事だったか!?」
「おっさん……」
「テンチョー……」
現れたのは……、アギロ。ラテーナもそうであるが、アギロも
平気でこんな地底まで一人でやって来るのだから、隠れガッツの
あるおっさんである……。
「急に強い地鳴りがしたと思ったらよ、何か得体の知れない野郎が
バルボロスを呼んで一緒に飛んでっちまっただろ?……なのに
お前さんからはちっとも連絡がないし、戻って来ねえからこっちも
心配してたんだぜ!」
「いや、得体の知れないのはおっさん……」
「……オホン!」
アルベルトは慌てて咳払いし、ジャミルを突く。アギロも得体が
知れないのは仕方ないので、この話はとりあえず、おいといてと、
横に置いておいた。が。
「じゃあ、また、こっちに持って来よう……」
アギロも得体が知れないのは仕方無いので、この話はとりあえず……。
「……持ってくんなってーのっ!!」
ぴんぴんデコピン×連打
「……なんだよおお~~っ!バカジャミルーーっ!!」
「君達、またふざけだしたね……、話が進まないんだけどさ……?」
「「すんません……」」
ジャミルとダウドの前でアルベルトがスリッパをちらつかせる。
でも、やっぱり悲しい事よりも、こんないつもの日常って大切だわ……、
と、しみじみ思うアイシャ。
「おうおう、何がなんだか分かんねえが、オメエらも相変わらず
元気がいいな!それでこそ若者だ!そうこなくちゃな!」
「お、おっさん~……」
「そうですよ~、心配しちまったぜ……、じゃないですよ、テンチョー!
こっちは大変だったんだから!その飛んでったキモいヤツこそがすべての
ゲンキョ-でゲキ強で神の国にぴゅーって飛んで行っちゃったんスよ!」
「……なにぃ!?な、何だとっ!?」
「……」
「ま、まあ待て、落ち着け……、詳しい話は天使界に戻る途中
聞くとしよう、捕まってた天使達は先に箱舟に乗って貰ってる
からな、大丈夫だ、今すぐ戻るぞ!」
「助かるよ、アギロ……!」
「ああ!任せろってんだ!」
ジャミル達はガナン帝国城を後に、救い出した天使達と共に
天使界へ……。本当なら、イザヤールも共に……、一緒に
天使界へ戻れたかも知れなかった……。天使界へ到着の後、
捕まっていた天使達を回復させる為、根っこの部屋へ送る。
その後、オムイに全てを報告する為、長老の間へ……。
イザヤールの死、……エルギオスの事……、隠さず、全てを
伝える為に……。ジャミル達4人は気が気ではなかった……。
「……何と言う事じゃ……、天使界を襲った邪悪な光……、
そして魔帝国ガナンの復活、それらは全てあの天使エルギオスの
仕業じゃったと……、人間界で消息を立ってから数百年……、
よもや魔帝国ガナンに捕らわれたままエルギオスが生きていたとは……、
その上哀れエルギオスは邪悪に心を蝕まれ……、堕天使となって
しまったのか……」
「……爺さん……」
ジャミルから全てを聞かされたオムイは悲しみと絶望に満ち溢れて
いた。予想はして事だが、皆はどうする事も出来ない……。
「……ジャミルよ、堕天使エルギオスは自らが新しき神になる為、
神の国へ向かったのじゃな?」
「ああ、間違いない……」
「……ジャミル、本来ならお前にエルギオスを追い掛け、奴を止めて
欲しいのじゃが……、天使は上位の天使には逆らえぬのが習わし、
もはやエルギオスを越える天使は何処にもおらぬ、……このわしで
さえもな、神よ……、何処におられます、どうぞ神よ、……我が祈り
お聞き届け下され……、怒りに捕らわれしエルギオスの心をどうか
お救い下され、人間界をお守り下され、神よ……」
「……」
「……報告ご苦労じゃった、もう行って良いぞ……」
「爺さん、俺ら、神の国へこれから乗り込むつもりさ、エルギオスを
このままにしておけるかよ!」
「ええ、最後まで諦めたくありません!」
「帝国も倒せたんだもの、後少しだけ、私達も頑張りたいんです!」
「ううう~、やっぱり、戦うのかああ~……、って、弱気にならない
からああ~!モン、アゴで突くのやめてええーー!」
「……アゴシャーー!」
ジャミルも仲間達も、力強くオムイへと自分達の気持ちを伝える。
だが、既に憔悴、失望仕切っているオムイはもう何もかも希望を
見い出せないでいる……。
「ジャミル、今、堕天使エルギオスと戦えるだけの力を持つ者は、
ジャミルを置いて確かに他にはおらぬ、だがお前では上位の天使で
あるエルギオスには逆らえぬのだ……、先程も言ったが、もはや
エルギオスを越える天使は何処にもおらぬ、……このわしでさえも
な……」
「じ、爺さんっ!だから……」
「ジャミル、報告ご苦労であった、オムイ様はとてもお疲れである、
今日の処は下がってくれ……」
「分かったよ……」
部屋門番に追い返され、ジャミル達は長老の間を後にする。オムイでさえ、
ああやって失望してしまった以上、もうどうしようも無い……。後は自分達で
動くしかなかった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 75