幸せの喫茶店

とある町の小さなお店
そこでは「(しあわ)せ」を売っている

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 梅雨に入りしばらくした日の夜
私は仕事帰りに寄ったコンビニで傘を盗られ雨で濡れていた。
仕事はうまく行かず、傘まで盗られ…ここしばらくいいことがない気がする
雨宿りする場所を探していると小さな喫茶店(きっさてん)を見つけ、中に入った。
 コーヒーとパンの匂い。なぜかとても(しあわ)せな気分になった。
「いらっしゃいませ。」
奥から老紳士(ろうしんし)が出て来て私をカウンター席へと案内し、私の前にコーヒーとタオルを差し出した。

みたところメニューは無く、提供されたものを食べるらしい。

私は雨で濡れた服を拭き、コーヒを見つめた。コーヒーは苦手だ
ただ、出された以上飲むしかない

一口飲んで見るとそれはとてもおいしく、苦手だったはずのコーヒーを私は飲み干していた。
コーヒーを飲み終えて少しした頃、老紳士(ろうしんし)は私の前にたまごサンドを置いた。
たまごサンドも美味しく、一口、また一口とすぐに食べ尽くしてしまった。
 雨宿りで入っただけのはずが、私の心はすっかり(しあわ)せで埋め尽くされさっきまでの嫌な気分もどこかへ行っていた。
 お会計を済ませ店を出ようとすると老紳士(ろうしんし)が傘とビニール袋を差し出してきた。
私はお礼を言い受け取って店を出た。

 家に帰りビニール袋の中を見ると店で食べたたまごサンドが入っていてた。
パックを見ると付箋が貼ってあり、読んでみると
「雨降る夜のお客様 あなたに(しあわ)せが訪れますように」と書かれており、私の心はまた(しあわ)せで埋め尽くされていた。

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次の日の朝
「よし!行ってきます!」
朝食にあの卵サンドを食べた私は、いつもより軽い足取りで仕事に向かった。

幸せの喫茶店

幸せの喫茶店

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-06-20

CC BY-NC-ND
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CC BY-NC-ND