死を超えた罰

倫理観を無視するとどうなるのか?

トントン、と音が鳴る
「静粛に。」
「被告人、山本大志を……」
「死刑に処す。」
被告人は泣き叫ぶ。
彼は裁判の直前、早く死にたいなどとほざいていたが、死刑と堂々と言われた瞬間これか。惨めな犯罪者だ。
「いやだ!やめろ!!」
……そこまで泣き叫ぶ気持ちも分かる。
なぜなら、『死刑に関する法律が変わったから』だ。

20XX年、政府はある宣言をした。
「これより、全ての死刑囚の死刑方法を増やします。」
「これは罪の重さによって種類が変わります。」
絞首刑や無期懲役などをはじめ、生き埋め刑、執行人の暴行による死刑、精神から崩しにいく死刑、薬剤による死刑……
もちろん国民からは「倫理観に疑問を感じる」「死刑囚だって人間なんだ」など、批判の声が多くあがる一方、「罪の重さに比例して刑罰を重くして何が悪いのか」「遺族も納得できるだろう」と、賞賛の声も多数出てきた。
自分としては、賛成派である。

そしてそんな自分は、現在刑務官として働いている。

彼らの「最期」に立ち会うのが仕事だ。
だが、最近はその意味が少しずつ変わってきている。

最初のうちは、いわゆる「旧来型」の死刑だった。
淡々と、規定に則って進む。誰も彼もが、ある程度の覚悟を持って最期を迎えた。
だが――制度が変わった今では、そうはいかない。

「次の死刑囚、山本大志。執行内容、第四種・精神撹乱型。補足指定、B区画“夢の檻”。」

無機質なアナウンスが響く。
俺は手にしていた書類を一度読み返し、無意識に息を吐いた。

「……よりによって、あれか。」

“夢の檻”――それは、死刑囚の精神を崩壊させるために設けられた施設のひとつだ。
名目上は“死刑”だが、実際には「死を乞わせる」ことを目的とした制度。
死なせる前に、心を壊す。自分が何者で、なぜここにいるのかすら分からなくする。
そして最後には、本人の口から「死なせてくれ」と言わせる。
それがこの第四種の死刑の“完成”なのだ。

俺はB区画の扉を開けた。
中にいた山本は、すでに椅子に拘束され、薄く目を見開いていた。

「や、やめてくれ……っ!なぁ、頼む!俺、反省してる!もう一度やり直すから!」

言葉にならない懇願。目からは涙。鼻水。
これが、「死を軽く口にした」男の末路か。

俺は淡々と告げる。

「これより第四種死刑を執行する。……お前が、自分の名すら忘れるまでな。」

記録係がスイッチを押す。
音もなく、室内に特殊な薬剤が噴霧されはじめる。
“夢の檻”の始まりだ。

そして俺は、何度も見てきたその過程を、またひとつ見届けるのだ。

「今日もお疲れ様。これは報酬だ。黙って受け取れ。そして、これに対して何も感じては行けない。胸に刻んでおけ。」

署長は厳格な口調で俺に報酬を渡した。

「こんなの、何に使えばいいんだって話だよな」

同僚の武内信介は言った。

「あんな最悪な死に方したやつの遺産みたいなもんだろ?つまりこの金は、あの死刑囚自身だ。」

言っていることは理解できる。ただ、そんなこと言われたらここから先こんな仕事できない。

「というか、さっき『第4種』とか『B区画』とか言ってたけど、なんの事だ?」

「B区画ってのは、AからZまである区画の中の1区画に過ぎない。」

なんで俺と同じく10年はこの仕事してるのにわかってないんだ?と思いながら俺は説明する。

「そして、第何種とかの説明についてだ。まず、罪の重さによって死刑方法が変わるのは知ってるよな?」

「ああ、それは知ってるさ。10年前ちょうど発表されたんだからな」

「そして、死刑方法は確か10種類ある。」

正直、どこからが第何種かと言う判断は知らない。弁護士や裁判官はわかるだろうが。

「第1種『ギロチン』中世のものを取り入れた。首切られた時は脳内の物質が感覚を麻痺させ快感まで感じる。だから第1種なんだ。」

武内はへーと言わんばかりの顔で聞く。

「第2種『絞首刑』今まで通り、オーソドックスな方法だ。」

「第3種『地刑』この刑はさらに分割できて、生き埋め、捕食など、自然界のものを使う死刑だ。正直、俺はこれの捕食刑は第5種に入ってもいいほど辛いと思ってる。」

なかなか人が動物に食われるのはインパクトがあって苦手だ。
武内は身震いしていた。

「第4種『精神刑』さっき見たやつだ。通称『夢の檻』と言われる。まず音が反響せず、足首ほどの高さの水が張られた部屋に死刑囚を入れる。さらに死刑囚はずっと点滴を指され、カフェイン入りのため寝る事は許されない。そして問題なのが、この死刑は裁判所では『懲役30日』と呼ばれることだ。死刑囚は本当に30日だと錯覚し、部屋の中で30日間を待つ。」

この第4種が絶望と言われるのはここから。

「そして死刑囚は5回だけ何日経ったかを我々に聞くことが可能だ。5回を使い切ればもう誰とも会話は出来ない。」

「え、その状態で30日なんて楽勝じゃないか?」

「そこからだ。実際には、我々は死刑囚に経った日数よりもかなり短く伝える。そして彼らに絶望を届けるんだ。」

「え……じゃあこれってどうやって死刑するんだ?」

「勝手に死ぬまで」

「え?」

「勝手に、死ぬまでだ。」

武内は唖然としていた。

「実際に30日で外に出すわけが無い。そして勝手に死ぬまでであり、『心が壊れるまで』でもある。」

やっぱり何度考えても、これはあまりにも辛い。

「そして死が来る時、死刑囚はにこやかに死んでいく。これが『夢の檻』と呼ばれる所以であり、第4種に選ばれている理由なんだ。」

続けて俺は説明する。
「第5種『刃物刑』包丁、ナイフなど、刃物を使う死刑だ。この死刑の辛いところは、今まで見た中でいちばんグロテスクなところだ。なぜなら、死刑囚に刃物を刺すのは俺たちであり、その中で死んでいくのを俺たちは見るんだ。安心しろ、ここから先の6から10は全部俺たちより先輩のやつがやる……」

ほ、良かったと武内は安堵した。

「俺たちが第5種をやらない訳では無いがな……」

武内の顔から光が消えた。

「さて、この辺だろう。」

「え?第6種から10は?まあ聞いてて鳥肌だったからあんまり聞きたくないけど……」

「実は、俺たちはまだ6から10の後半を執行することは出来ないんだ。」

え?と武内は困惑する。
俺は武内に、ある一定の条件を満たしたものだけがこの死刑を執行するよう命令される。
こんなのだれがやりたいんだって?……強いて言うなら、みんな仕事のストレス発散のためだろう。
そしてその条件は、

・第1種から第5種をすべて執行したことがある者
・刑務官として10年以上働いた者
・筆記試験と面接試験を突破した者

この3つである。
いま自分たちは10年目なので、この条件だけ満たされることになる。

「というか、お前そう言うってことは第6種から第10種は知らないのか?」

来るであろうと思っていた質問に俺は答えた。

「ああ、さっきの条件を満たしたやつだけが知れる。刑務官の間でよく聞くだろう?『ブラックゾーン』って言葉。」

「なんかカッコイイよな、それ。俺それの意味知らないで死刑執行場所として使ってたわ。」

こいつの間抜けさには心底ウンザリしているが、なぜかデスクワークはとても優秀なのが癪に障る。認めざるを得ないが。

「おい武内!森久保!何してる!はやく事務所に戻って仕事を片付けろ!」

署長の怒号が飛んできた。

「はいはい、今行きますよ〜」

俺たちは皮肉げに小さい声で返事した。

「ところで、ブラックゾーンって結局なんなんだ?」

間抜けさに気を取られていて忘れていた。

「ブラックゾーンっていうのは、第6種から第10種のことだ。わかりやすいだろ?」

少し皮肉を混ぜて俺は言った。

「ああ、すっげえわかりやすい。でもそんな名前付けられたらなんか気になって知りたくなるよな。」

それはわかる。

デスクに着きパソコンを開く。まずメールをチェック、次にTo-Doリストに沿って仕事を進める。毎日これだけだ。

ふとデスクの写真に俺は目を移した。

「……ひとみ…」

昔、俺には婚約まで決まっていた恋人がいた。籍も入れる予定だった。
そんな中、事件は起きた。
あの日は彼女の家でデートの予定だった。
しっかりヘアセット。ブレスケアも欠かさず。
準備は整った。そして僕はインターホンを押した。

返事がない。
電話をかけた。

応答なし。

鍵が空いてる。
俺は背筋に悪寒を感じた。

部屋の中は普段匂ってくるいい匂いの奥に、どこか鉄臭い、いや、血なまぐさい臭いが漂っている。

バスルームの電気だけついている。

浴槽の中には、彼女の抜け殻があった。

俺は彼女を揺さぶりつつ警察に通報、次の日犯人は捕まった。

「被告人、野村たつき。」

「主文、被告人を死刑に処す。」

よかった、適切な刑が課された。
これでひとみも……

「あーよかったぁ!!!」

……!

「俺ぇ、ずっと前から死にたかったんですよ〜。だからそこら辺のやつの家の鍵ピッキングして殺したんす。」

「被告人!静粛に!」

「ふざけるな!!!!!お前のせいでひとみは……ひとみは……!!!!」

「森久保さん落ち着いて!……」

「ゆうき!焦らないで!」

「くそ……くそがぁぁ!!!!!!!」

確かに楽しかった……嬉しかった……ここまで自分を愛してくれる存在を……親以外に知らなかったから……
でも…ごめん、ひとみ。今は、君の顔を見たくない。あの記憶が蘇ってしまうから……
でも…忘れたくない…忘れてはいけないと思ってる。だから僕は、君の写真を手放さない。
もう、僕や君みたいな人を生み出したくない。そのために俺は刑務官になったんだ。愛してるよ、ひとみ。

つい感極まってしまった。少し涙が出てきた。

「なんだゆうき!泣いてんのか?……っあ」

武内はひとみの写真を見て察したようだ。

「……そうだよな…ごめん、ゆうき。また思い出しちゃったんだな…」

「……ああ、大丈夫。大丈夫だから…」

自分を隠して、淡々と仕事をこなす。これこそ、刑務官に向いている人の特徴だと、自分で勝手に思ってる。

「森久保!武内!」

また署長の怒号が聞こえてきた。呼んでいるだけだろうが、声のせいでいつも怒られることを覚悟する。

「今日のデスクワークはこれで終わりだ。」

……このセリフは、俺たち刑務官の中で絶望を指す。

「今日から、お前たちは囚人の監視係だ。」

ついに来たかと、俺は覚悟を決めた。武内も顔が強ばっている。

「……少し早くないですか?」

突然武内は署長に言った。しかし、それは俺も思った。ふつう、監視係は4年目、8年目、12年目と、4の倍数の経験年数の刑務官がやるものだ。それにしては何故か早い。

「人手不足なもんでな、4の倍数から2の倍数になったんだ。つまり10年目のお前ら2人は対象となったんだ。」

仕方ない、覚悟を決めよう、周りのデスクから魂の抜けた声が聞こえてきた。

「俺たちも覚悟を決めよう。」

正直納得はしてない。ただ、これに文句を言ってはいけない。給料が下がるし、何より……ひとみのためにならない。

こうして俺は、監視係として死刑囚を収容、管理をすることになった。

俺はここ、I区画を担当するようになった。武内はというと、署長は優秀なためA区画に配置するとの事。離れるのは正直少し寂しい。
区画のアルファベットは危険度となっており、Zは最も安全、Aは檻を出したら手が付けられない奴らが入るため、殆どの死刑囚は第8種からの死刑を受ける。同じ房に入れたら、殺し合いになるのは目に見えてる。だから全員、独房送りだ。
そんなA区画に配置なんて……運の悪いやつだ。

「それでよ〜おれぁあいつを殺したんだ。」

「不倫した上に殺すなんてお前ひっでえな〜」

談笑が聞こえてくる。もう消灯時間のため注意しなければならない。

「495番!496番!静かにしろ!独房行きになりたいのか!」

「ッチ、うっせえなァ……」

マニュアルに書いてないのに、署長は「注意しろ」だなんて、面倒くさい仕事を増やしてこないで欲しい……


「……なあ、森久保。」

一緒に昼食をとっていた武内はものありげに俺に話しかけた。

「どうした?」

「実は俺…あの試験を受けようと思うんだ。」

以前話した試験。第6種以降の処刑を監督する立場になれる。合格すればもちろん給料は今よりもはるかに高くなる。それと同時に、心への負担も倍どころじゃなくなる。

「ああ、そうか……お前この前面接受かってたもんな。しかも第1種から第5種まで執行したことがある。なら後は、筆記試験だけか。」

「そう……もう対策は済んでて、変なミスさえなければ余裕で合格できる。でも……」

まだ何も言っていないのに、こいつが言いたいことは全部手に取るように読み取れた。

「受かりたいのに、受かりたくない……」

それはそうだろうな……

「金を優先するか、心の負担を優先するか……」

今日はこれ以外の会話をせず、そのまま俺たちは一日を終えた。

後日、武内は合格していた……
ここまで複雑な感情になる合格の報告はこの試験以外ないだろう。


今日も一日が始まった。
いい天気だ。ただ、ここにいる限り心は一生晴れないだろう。

そんなとき、事件は起きた。

ドガーン!!!!
バーーーン!!!!!

耳を疑った。今まで聞いた事のない轟音が響いた。
そして何より、『A区画から聞こえた』。

武内がこちらに逃げてくる。

「逃げろ!森久保!反乱だ!!!」

反乱?ここで?
理解できない。いや、頭が理解を拒んでいるのか。

「森久保!!森久保!!!」

俺を呼ぶ声で少し理解できてきた。
A区画の奴らが反乱を起こしたのか。

「こちらI区画、他区画刑務官を連れて戦闘態勢に入る。」

トランシーバーで報告し、俺は武内やほかの刑務官を連れて事務所に行った。

1人1丁拳銃を持ち、臨戦態勢に入る。

それにしても、どうやってあの爆発を起こした?
ここで支給されるものに爆発するものなどない。

色々考えたが、そこに武内が突っ込んだ。

「奴らは粉塵爆発を利用したんだ!」

そういえばこの前、購入希望アンケートに小麦粉とマッチを頼んだやつがいた。
クソ、なぜその時気づかなかったんだ。粉塵爆発の原理なんてとっくに勉強したはずなのに。

そんなこと考えても仕方ない。とりあえず応戦だ。狙いを定め……

「やめろお前ら!打つな!」

「そいつらは死刑囚だ!全員然るべき種類の死刑を宣告されたんだ!今ここで殺してみろ!遺族の願いは届かない!」

はっと思った時にはもう遅かった。
俺は既に1人の死刑囚の胸を撃ち抜いた。
その死刑囚はK区画、死刑囚の中でもかなり軽い(第1種~第2種)やつだ。

「……は?」

署長は唖然とした。

死刑囚の大軍の中ではそいつだけが胸を抑え、もがき、苦しんでいた。
そいつの周りに仲間が集まる。

「……はっ!お前ら!奴らを抑えろ!」

ドタドタと刑務官たちは奴らを抑えに行った。

俺はやってしまったのか?
遺族の願いを無視して、望まぬ死に方で殺してしまったのか?
今までミスなく仕事はこなしてきた。
もう使命は全うできないかもしれない、ひとみ。
ごめんなさい。

騒ぎが終わったあと、俺は署長に呼び出された。

署長は黙り、机に座っている。
ドンッと机を叩き言った。

「やってくれたな……」

改めて自分のした事を実感する。

「お前は遺族の思いを考えず、自己判断で誰も望まない死を生んだ。」

「わざとじゃありません!俺は……」

「黙れ!!!!」

圧に押されてしまった。

「……後日、死刑囚に追加の刑を加えると共に、お前の裁判を行う。覚悟しておけ。」


そう言われ3日後、俺は法廷に立っていた。

「主文、森久保ゆうきを……」

俺は唾を飲む。おおかた、何を言われるか予想はついている。
もうこの仕事はできない。ごめん、ひとみ。みんな。

「第10種『完全死刑』に処す。」

「……は?」

俺は全く自分が何を言われたかわからなかった。

「今……なんて言った?」

あの日ぶりだ。あの絶望感。感じたことがある。

「被告人の勤務先の刑務所に収容することとする。区画はA区画、執行される死刑は第10種『完全死刑』以降、これを変えることは……」

「ふざけるなっ!!!!!」

裁判官の言葉を遮り俺は反抗した。

「何故だ!どうせ死ぬ野郎を撃ち殺しただけなのに!遺族だって死刑を望んでいた!!」

「静粛に!」

俺は署長と武内に抑えられ、法廷を後にした。

「嫌だ!離せ!」

署長は俺の腕を掴みながら叫んだ

「お前は国に逆らった!うちの刑務所は国が直接管理している……もちろん、俺も国の人間だ。」

新たな事実に俺は驚きを隠せなかった。

「俺は国に逆らってなんかない!俺は本来される予定だったものを先にやっただけだ!お前らは俺を始末するって正義があるかもだけどなぁ!!俺にだって!俺の正義があるんだよ!!!」

「これはぁぁぁ!!!!不当な裁判だぁ!!!!!!!!」

心に溜め込んでたものが全部溢れる感覚がした。皮肉だが、死の間際は自分を1番さらけ出せる瞬間なのかもしれない。

俺は突然目隠しをされ、口にガムテープを貼られた。

視覚と発言権を奪われた。


気がつくと俺は無機質な部屋に居た。

「……こ…こは…?」

状況を整理している中、壁上部のスピーカーから声が聞こえてきた。

「あー、あー、聞こえるか?」

……!!!……野郎…

「出せ!ここから出せ!俺をどうする気だ人殺し!!!」

「人殺しなのはお前もだろう?」

図星を突かれた。
確かに、俺は人殺しだ。
でも、それは『悪を滅ぼすための殺し』だ。
俺は何も間違った殺しをしていない。
そう、信じたい……

「お前は法廷で言われた通り、第10種『完全死刑』に処される。」

くそ……あれは夢じゃなかった。

「『完全死刑』とは何をするか、わかるか?」

返事はしたくない。でも……

「…………わからない。」

「そうか。そりゃそうだよな。」

気の抜けた返事。今に見てろ。

「まあいい。それでは、これより第10種『完全死刑』を執行する。」

ああ……俺は死ぬのか…

そんなことを考える暇もなく、身体中に激痛が走る。

「ああ…!!あぁあああああああぁああああああああああああああああああああぁぁぁあぁああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

何だこの痛みは。まるで全身が焼けるような、皮膚が溶けるような痛みがある。
いや、「ような」じゃない、「焼かれている。」
明らかに、全身に火がついている。
俺は全身を使って必死に体の炎を消そうとした。しかし、体をはらえばはらうほど痛みが増していく。
意識が……遠のいていく……

ひとみ……いまそっちに行くよ……

最期に見たのは、部屋中に水がまかれ、体の日が消えた景色だった。
しかし、消化した時にはもう遅かった。
意識はもう……

「………………え?」

何故だ?
なぜ俺は、生きているんだ?
そしてここは……どこだ?……無人島?

「目が覚めましたか。」

防護服のようなものを着た人間がそこには立っている。

「あなたは確かに、先程全身を焼かれ死にました。では……なぜ生きて、ここに立っているのでしょうか?」

俺は意味がわからなかった。人は死んだら生き返らない。俺は確かに死んだ。じゃあ、なぜ俺はここに立っている?なぜ生きている?

「我々政府は、新たな薬を発明しました。」

薬……どんな効果か、すぐに俺はわかった。

「死んだものを生き返らせる薬。」

「そんな薬が、なぜ世界に広まらないか?それは……この国が『無倫理観国』だから。」

「今の首相は刑法を変え『無倫理観国』を目指し、結果としてこのような第10種『完全死刑』を作り上げた。」

一度に色々な情報が入ってくる。
それと同時に、身体中からまだ燃えていた時の痛みが少しづつフラッシュバックしてくる。

「この第10種『完全死刑』は、目的は『死ぬこと』では無い。」

『死より苦しく生きること』

その言葉を聞いて、俺は全てを察した。

「お察しの通り、お前はもう死ねない。」

「たとえ体を真っ二つにされようと、原型もなく潰されようと、お前自身が『死ぬ』という事実には辿り着かない。」

「薬があればな。」

俺はもう無理だと思った。
この国の政府を、人間を、全てを、ずっと恨んでやる。
たとえ地獄に行こうと、俺はこの国を恨み続けてやる。

「この島には大量の毒蛇が這いつくばっている。逃げようものなら島の周りにいる他の職員がお前を島の中に連れ戻す。」

もはや逃げ場はない。俺はここから先、ずっと『死ぬ痛み』を受けながら生きていくのか。

「そしてお前には、ここで追い打ちをかけようと思う。」

いきなり何を言い出すかと思ったら。
もうこれ以上辛いことはあるのか?

「どうせこの先人間社会には戻れず、一生死にながら生きていくんだ……なんて矛盾だろうな。」

「お前の愛しているひとみのことだが……」

「お前がひとみの名を口にするな!!!!」

思わず口走ってしまった。

「まあ焦るな。お前がお風呂場で揺すっていたあのひとみは……」

なんだ……なにかあったのか……?

「ひとみじゃない。」

…………

………………

……は?

何を言っているんだ?
確かにあそこにいたのはひとみだった。だって!……俺のプレゼントした服を着て、なによりあのミサンガを付けていた!

「あれは……『ひとみの双子の妹』だ。」

……そんなわけない

「そんなわけない!!!!!!!!!」

「服、ミサンガ……たしかにあれはひとみ本人のものだった。さて、全てを話そう……」


あの日、お風呂場にはひとみの双子の妹が死んでいた。
妹はひとみ本人のミサンガと服を身につけていた。
ひとみは……自分から森久保を離すために、妹を囮にした。
わざわざミサンガと服を渡し、「私のお下がり、あげるね。」
そしてひとみは……自身の妹を殺害した。

野村は、ひとみの友達だった。
ちょうど自殺志願者だった野村は、裁判で冤罪をかけられ、そこで森久保を煽るようにひとみにいわれていた。

そしてひとみは殺人罪として逮捕、一般人の野村を巻き込んだとして死刑宣告、翌月すぐに死刑執行。森久保はニュースなど見ない……気づけなかった。

「これが……ひとみの全てさ。」

受け入れられない。
受け入れたくない。
嘘だ……

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……

俺のひとみは……そんな……

知らない間に首と足を蛇に噛まれていたらしい。
俺はまた死んだ。
失望とともに。
死んだはずなのに、生きている……結局、生きることがいちばん辛いのか。


「森久保……」

武内は空いた森久保の机を見て呟いた。

「お前は……こんな目に会うべきだったのかな?」

武内は納得していない。
森久保の残したひとみの写真を見る。

「……今なら言っても…いいよな。」

武内は呼吸を整えて言った。

「ありがとう。」

死を超えた罰

死を超えた罰

  • 小説
  • 短編
  • ホラー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-06-14

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