さよなら、メカ白姫

「あれ?」
 それは。不意の。
「………………」
 何だったのだろう。
 この感覚は。
(うーん)
 わからない。
 けど、それは確かに。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 突然。
「何をするんですか!」
 当然の。
「パカーンをしたんだし」
「そういうことじゃないです!」
「だったら、どーゆーことだし?」
「どういうって……えーと」
「アホだしー」
「アホじゃないです!」
 なんてされよう、そして言われようだ。
「いいかげんにしてください」
 あの子だったら。
「えっ」
 それは。
「………………」
 またも。つかみどころのない。
「ぷりゅーっ」
「きゃっ」
 ギリギリで。
「だ、だから、なんでパカーンするんですか!」
「パカーンするし」
 当たり前だと。
「ボケッとしてるアリスに気合入れんだし」
「そんなこと頼んでないです!」
 あわてて。
「大体、ボケッとなんて」
 ことは。
「う……」
 して。いて。
「ぷりゅー」
 じりじり。
「ちょっ、迫らないでください!」
 あせって。
「あ」
 と。
「白姫(しろひめ)」
「何だし?」
「あの」
 どう伝えよう。迷うも。
「感じません?」
「ぷりゅ?」
「足りない……というか」
「アリスののーみそがだし?」
「違います!」
 どこまでもひどい。
「そういうことじゃなくて」
 やはり。うまく。
「ぷりゅー」
 すると。
「あり得ないし」
「えっ」
「ぷりゅふー」
 重い。ため息。
「え、ちょっと」
 何が。
「同じだし」
 ぷりゅっくり。うなだれ。
「アリスと同じなんてあり得ないんだし」
「え……」
 それは。ひょっとして。
「ぷーりゅー、ぷーりゅー」
 パンパカパカパカ、パンパカパカパカ。
「……え?」
 突然の。
「な、何をしてるんですか」
「きとーだし」
「祈祷!?」
 なぜ。
「祈りをささげるんだし。シロヒメのかれーな舞踏によって」
「舞踏……」
 パンパカパカパカ、パンパカパカパカ。
(た……)
 確かに。華麗なステップで。
「白姫、本当に何でもできますね」
「何でもできてしまうんだし。賢いから。賢くてかわいいから」
「はあ」
「そんな賢いシロヒメが」
 憂いの。
「アリスと同じように感じてしまうなんて。アホなアリスと同じように」
「アホじゃないです」
 と、はっとなり。
「やっぱり、白姫も何か」
 パンパカパカパカ、パンパカパカパカ。
「い、いえ、あの」
 話を。
「ぷーりゅー、ぷーりゅー」
 呪文のようなものまで。
(そもそも)
 なぜ、祈祷なのか。
「追い払うんだし」
「えっ」
 何を。
「よくないものをだし」
 どういう。
「アリスと同じもーそーをいだいてしまうなんて。きっと悪いものがとりついて」
「なんでですか!」
 なんて言われようだ。
「悪いものじゃないですよ!」
 断言が。
 なぜか。
「とりつかれてるのはひてーしないんだし?」
「う……」
 そう言われてしまうと。
「ぷーりゅー、ぷーりゅー」
「あの、だから祈祷は」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 不意を。
「アリスを蹴ってじょれーするし。払うんだし」
「そんなこと、誰も頼んでませーん! やめてくださーーーい!」
 そのときは。
 まだ。

「!」
 閃光。
「伏せてーーーーーっ!」
 絶叫。同時に自分も倒れこむ。
「くぅっ」
 爆風。
 破壊的な意志をこれでもかと感じさせる暴威が頭上を吹き抜けていく。
「白姫! ユイフォン!」
 無事を。
「返事をしてください! 平気ですか!」
 応えは。ない。
「白姫ーーーっ! ユイフォーーーーン!」
 声の限り。
(はわわわわ……)
 顔を上げられないまま。
(どうしましょう……どうすれば……)
 そこに。
「っ!」
 ローター音。その響きはこれまで何度も。
(逃げないと)
 もうそれほど遠くない。砲撃の直後か同時には発進していたのだろう。
(逃げ……逃げなきゃ……)
 あせるばかりで。
(で、でも、白姫とユイフォンが)
 放っていけるはずがない。友だちなのだから。
(でも)
 どうすれば。
 無力。
(ううう)
 涙。どうしようもなく。
(助けて)
 心からの。
(葉太郎〔ようたろう〕様……)
 敬愛する。その人の。
(お願い)
 祈るしか。
 もう。
「!」
 ズン! 不意に。
「え……ええっ!?」
 下から。
(まさか)
 自分の知らない〝敵〟が。
(これ以上)
 前から。上から。それに加えて。
(だめ……)
 決して。あきらめないというその想いもくじけそうに。
「きゃっ!」
 一際大きな突き上げ。
 そして。
(えっ)
 聞こえた。

『PU・RYU』

 いななき。
 のはず。
 間違えたりはしない。いやしくも従騎士(エスクワイア)として。
 でも、それは。
(違う)
 はっきり。
(だって……)
 そこからが。
(どうして)
 わからない。けれど。
「っ」
 気づいたとき。
「あ……あ……」
 手遅れ。完全に。
 空を覆う。
 無数の。
 それぞれが槍を。
(槍……)
 異質。自分が見知ってきたものとあまりに。
 回転している。
 その音が不気味な響きとなり空間を埋め尽くしている。
「はわわ……」
 腰が。
「!」
 一斉に放たれる。地上への。
「っっ……」
 本当に。もう。

「おたから探しだし!」
 能天気な。
「……え?」
 耳を。
「いま、なんて」
「ぷりゅー」
 信じられないと。
「アリスは耳も悪いんだし? 頭だけじゃなくて」
「悪くないです」
「仕方ないし」
 ぷりゅやれ。
「アリスは頭がおたからみたいなもんなんだし。いつでもおめでたいんだし」
「なんてことを言うんですか」
 ひどすぎる。
「う。アリス、おめでたい」
「ユイフォンまで!」
 いいかげんに。
「大体、なんで『お宝』なんて話になるんですか!」
「ぷりゅぅ?」
 首を。
「なに言ってんだし」
「いや……」
 それは、だからこちらが。
「なるんだし!」
 力強く。
「ご先祖様が言ったんだし!」
「いや、それは」
 正確には。
「ぷりゅぅー?」
 険悪に。
「シロヒメのかけーは信用できないってゆーんだし?」
「言ってませんよ、そんなこと」
 すると。
「馬力(うまりょく)なんだし」
「そ……」
 それは。
(バリキではないんですよね)
 その〝力〟が。
「高まってるってゆーんだし。おたからに違いないんだし」
「い、いや」
 微妙に。
「それが宝とは」
「馬力は馬の力なんだし」
「はい、そう聞いて」
「だから、決まりだし!」
 なぜ。
「ぷりゅぅー?」
 またも。
「馬に価値がないってゆーんだし?」
「い、言ってないです」
 どうして。
「なら、おたからだし」
 なんで。
「白楽(はくらく)が言ったのは」
 ある地点でその高まりを感じる。そういうことだったはずで。
(それが)
 いつの間に。
「うー」
 すると。
「まだつかないの?」
「せかすんじゃねーし」
 言って。
「いま回すから」
(回す?)
 何を。
「ぷりゅー」
 クルクルクルクル。
「あ、あの」
 それは。
「プーレットだし」
「プーレット?」
「そーだし」
 ぷりゅ。うなずき。
「探検にプーレットはつきものだし」
「い、いや」
 聞いたことが。
「知らないんだしー?」
 またも。見下す目で。
「こーやって針がくるくる回って方向を教えてくれるんだし」
「そ、それは」
 コンパス? とカン違いしているのでは。
「ぷりゅ」
 止まる。
「あっちだし」
(ええぇ~……)
 そんなやり方で。
「あの」
 いまさらながら。無茶なことはやめて戻ろうと。
 そもそも、自分たちだけというのが。引きずられるような形でここまで来てしまったが。
「楽しみだしー」
 うきうき。
「古代馬遺跡の宝物なんだし。きっと、すごいおたからなんだしー」
「な……」
 またも。
「何ですか、それは」
「馬遺跡をひてーすんだし?」
「いや、だから」
 否定とか、そういう問題では。
「馬力が高まってる場所なんだし。馬遺跡があるに違いないし」
 そもそも、それが何なのか。
「ここは〝騎士の世界〟なんだし」
「それは」
 その通りで。
 卵土(ランド)。
 そう呼ばれる世界に自分たちはいる。
 無限と思えるほどありとあらゆる乗騎を駆る者たちが覇を競い、長きにわたって平穏が訪れたことのないという地に。
「騎士の世界に馬の遺跡があるのはとーぜんなんだし」
(ええぇ~……?)
 そういうものなのか。
 確かに、様々な生物だけでなく非生物までも騎士と共に戦う中で、馬はまた他とは違う独自の存在感があるのかも。
(馬力……なんて言うくらいですから)
 しかし。
「ぷりゅぷりゅぷりゅ~♪ ぷりゅってぷりゃるかぷりゅりんこ~♪」
(……って)
 独自すぎる。
 というか、正直、馬離れしていて。
「何なんですか、いきなり」
「捧げてるんだし」
「捧げてる?」
「そーだし」
 またわからないのか。鼻を鳴らし。
「遺跡にだし」
「はあ」
「伝説の馬遺跡だし。きっと、マジン的なものが眠ってるんだし」
 いつ、そんな〝伝説〟が。
「『魔神』じゃなくて『馬神』だし」
 どちらでも。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
「さっきからアリスはぜんぜん気合入ってねーんだし! 馬遺跡なめんじゃねーし!」
 だから、そんな遺跡があるのかも。
「歌うし!」
「ええっ!?」
「歌を捧げんだし! シロヒメと一緒に!」
「そ、そんな」
「わかった」
「って、ユイフォン!?」
「せーのっ」
 再び。
「なんでもぷりゅぷりゅ~♪ シーロヒーメーちゃーん♪」
(それは)
 自身をたたえる歌なのでは。捧げると言うより。
(それに『何でもぷりゅぷりゅ』って)
 意味が。
「『なんでもぷりゅぷりゅ』のところは、ちゃんとお尻ふるんだし」
「振り付けもですか!?」
 さすがに。
「なんでもぷりゅぷりゅ~♪」
「い、いや」
 無理で。
「ぷりゅぷりゅ~♪」
「ユイフォン!?」
「見るんだし、このノリのよさ」
 確かに。
「無駄に歌うまいのがちょっとムカつくけど」
「なんでですか」
 すると。
「うー」
 じー。
「ユ、ユイフォン?」
「アリス、やる気ない」
「そんな……」
 むしろ、あるほうが。
「捧げないとたたりがある」
「そうなんですか!?」
「馬神、こわい」
 ううう……ふるえる。
「い、いや」
 本気に取らないでほしい。
「怖いんだし」
「白姫まで」
「たたりもあるんだし」
 だから、そんな。
「ぷりゅー」
 にらまれる。
「うー」
 こちらも。
「いえ、その、あの」
 プレッシャーが。
「わ……わかりました!」
 あっさり。
 そして、ヤケで。
「ぷ――」
 直後の。
「!」
 砲撃だった。

(あれ?)
 自分は。
(天国)
 陳腐な。
(けど)
 とても。気持ちが。
(なんだか)
 知っている。誰かの。
 そのぬくもりに包まれているような。
 安堵感。
「ありがとう」
 ございます。口に。
 そこでようやく。
「あ……」
 しゃべった。自分がだ。
「はわわっ」
 あわてて。
「きゃっ」
 ゴチンッ。
「ううう」
 情けない。
 思い切り。透明な天井に。
「えっ」
 我に返り。
「え? えええ?」
 自分は。
「あの、ちょっ」
 早くも。パニックに。
「落ちつきたまえ」
 その声は。
「!」
 真正面。透き通る壁越し。
「だ……」
 誰だ。
 正確には、何だ。
(けど)
 その『何か』が。
 こちらに。
「ふむ」
 感心したような。
「なるほど」
「っ」
 びくっ。思わず。
「なかなかの素材だ」
(え? え?)
 何を。言われて。
(言われて?)
 その『声』は。
「粗削りだが光るものがある」
(光る……)
 それは、むしろ。目の前の『相手』のほうが。
「と言うのだろう」
「へ?」
 間抜けな。
「キミたちの世界では」
「………………」
 声が。
 声。と。
 それはそう呼んで。
(違う)
 いや、近い。こちらの世界では。
「そう、その通り」
 パチパチ。
 拍手。をするように。
「騎力(きりょく)だ」
「……!」
 そうだ。
 自分の見も知らない異なる世界。
 そこで意思が通じる。
 それは。
「騎力なんですね」
「そう」
 あらためて。
「あっ」
 再び。我に。
「な、なんですか!? なんで自分は」
「んー」
 困ったという。
「素質はあるのになあ」
「えっ」
「足りない」
「そ……」
 それは。
(アタマが)
 ということなのか。
「だ、だって」
 涙。
 本当に。どういう状況なのかわからないのに。
「アホなんだしー」
「!」
 間違いなく。
「し……」
 名を。
「白姫!」
「ぷりゅ」
 そこに。
「あの、その、あのっ」
 とっさに。
「アホだしー」
「アホじゃないです!」
 ようやく。
「なんでですか! なんでそっちに」
 壁の。向こう側に。
「ぷりゅー?」
 意味不明と。
「いるんだし」
「それは」
 わかっているから。
「どうして」
 そちらとこちらに分かれているのかと。
「治ってないんだし」
 ぷりゅー。重い。
「深刻だし」
「えっ、え?」
 それは。こちらのことを。
「何が」
 不安のまま。
「アホだし」
 かくっ。
「アリスのアホはちりょーしても治らなったんだし」
「なんでですか!」
 と、はっと。
「治療?」
「そーだし」
「そうだよ」
 共に。
「って」
 知り合いなのか。並んで立っているその――
「博士(はかせ)騎士」
「!?」
「と呼ばれているね」
(き……)
 聞いたことが。
「ハカセで構わないよ」
 言われても。
「ねー、ハカセー」
 屈託なく。
「アリス、もうダメなんだしー?」
 なんてことを。
「だめだね」
「ええっ!」
 肯定!?
「やっぱりだし」
 ぷりゅ。重々しく。
「アリスのダメダメさはちりょーしても」
「やめてください!」
 いいかげんに。
「だめだよ」
(ううっ)
 そんな。知らない人物(?)にまで。
「そんなに興奮したら」
「へ?」
「めっ」
「………………」
 どう。リアクションを。
「ハカセ、甘いしー」
「だって、重傷だったからね」
「ええっ!?」
 それは。自分が。
(で、でも)
 すくなくともいま痛みのようなものは感じない。
「問題ないんだし」
 その通りで。
「アリス、無駄にじょーぶだし。死なないし」
(なっ……)
 なんて言われようだ。
「ちょっとくらいダメージがあっても問題ないし。『ダメ』ージがあっても」
 そこに力は。
「ユイフォンも、まあ、てきとーに何とかなんだし」
「適当って」
 やめてもらいたい。
「あっ」
 そこで。
「ユイフォン!?」
 すぐ隣。透き通る筒状の物体の中に。
「大丈夫ですか、ユイフォン! ユイフォン!」
「う……」
 目を。
「ユイフォン!」
「アリ……ス……」
 こちらを。
「うるさい」
「え?」
「寝られない」
「寝っ……ええっ?」
 そんな悠長な。
「ホントに人騒がせなアリスだし」
「いや、ちょっ」
 この状況で騒がないほうが。
「馬騒がせでもあるんだし」
「ある」
「そ、そんな」
 だから。
「く……くくっ」
 そこへ。
「あははははははっ」
 笑っている。
(わ……)
 笑って。いるのだろう。
 つるんとした。
 金属のそこに表情らしきものはまったくうかがえないのだが。
「あの」
 あらためて。
「ハカセ……さん?」
「いかにも」
「………………」
 なんとも。人間味あふれるというか。
「あのですね」
 何と。言葉に迷いつつ。
「あなたは」
 核心を。
「機印(キーン)の人ですよね」
「いかにも」
「……!」
 肯定。あっさり。
「じ、じゃあ」
 あの攻撃も。この『人』が。
「ああ」
 察したようで。
「イエス」
「!」
「なーんて」
「な……」
 どっちなのだ。
「なんてアリスだし」
 ぷりゅぷん。
「ハカセに助けられておいて」
「えっ!」
 助けられた?
「ハカセなんだし。このカプセルを動かしてくれたのは」
「え……いえ、あの」
 どういう。
「んー」
 思案する。素振りを。
「すこし込み入っているんだ」
「はあ」
 それは。そうだとは。
「まあ」
 パチン。指を鳴らすような。
「!」
 底が。
「きゃあっ」
「あうっ」
 共に。悲鳴を。
「痛たた……」
「あう……」
 カプセルは中空に固定してあった。
「アホだしー」
「なんでですか!」
 心外な。
「間抜けだしー」
「そ、それは」
 否定。できないところが。
「違います!」
 それでも。
「がんばってます!」
「くくっ……」
「あ」
 また。笑われ。
「何なんですか……」
 もう。
「よかった」
「ええっ!?」
「本当に」
 確かな。
「元気になったみたいで」
 慈愛の。
(あ……)
 違う。
 自分の知る。破壊者たちと。
「あなたは」
 居住まいを正す。
 と、はっとなり。
「ありがとうございましたっ」
 頭を。
「ありがとう」
 隣でも。
「って、ユイフォンはおぼえてるんですか?」
「寝てた」
「ですよね……」
「でも」
 迷いのない。
「わかる」
「っ」
 そうだ。自分も。
「お礼は」
 おだやかに。
「まず友だちに言わないと」
「えっ」
「う?」
 共に。
「それって」
「白姫?」
「そーなんだし」
 ぷりゅ。胸を張り。
「カンシャするし」
「え、えーと」
 具体的に。
「意識のないキミたちをここまでつれてきたんだよ」
 ここ――
「あ、あの」
 そもそも。
「ここは一体」
「えっ」
 意外という。
「知っていて来たんだよね」
「ぷりゅ」
 うなずく。
(まさか)
 あり得ない。
「ここはキミたちが目指していた」
 言われる。
「古代の馬遺跡さ」

 卵土も。昔からいまのような卵土であったわけではない。
「はい」
 話を聞きながら。
(博士……)
 というか、先生というか。
 とにかく、おとなしく『講義』に耳を傾ける。
 かつての。
 果てなき戦いが続く現在とはまったく違い、至高なる〝姫〟と騎士たちによってあまねく世が平和に治められていた時代。
「この遺跡はね」
 指を。振るような。
「そのころの馬たちに関係する遺跡だと言われている」
「じゃあ」
 本当に。
「馬遺跡……だったんですね」
「ぷりゅぅ?」
 どういうことだと。
「やっぱり疑ってたんだし?」
「え」
「シロヒメのゆーことを」
「い、いえ」
 疑う疑わない以前で。信じるほうが無理で。
(でも)
 見渡す。
 古代を思わせる。石造りめいた建造物の合間合間に、金属製の装置が垣間見える。どういう仕組みのものかはまるでわからないが、それでも。
(遺跡……)
 そういった。時の重みを感じさせて。
 そして、時間以上にこちらの知識や常識との隔たりを見せつけられる思いの。
「実際、危なかったよ」
「えっ」
 不意に。
「破壊作戦の最中だったからね」
「は、はあ」
 我ながら。間抜けな返事だとは思いつつ。
「あっ」
 聞き逃せない。その単語。
「破壊作戦!?」
「そうだよ」
 あっさり。
「機印はこの地下遺跡を破壊しようとしてるんだ」
「な……」
 なぜ。
「んー」
 思案する素振り。
「どこから説明しようか」
 できる限り。前から。
「感じんだし!」
 そこへの。
「ゴチャゴチャ言ってんじゃねーし。馬の力を信じんだし」
「馬の力って」
 バリキ。ではなく、ウマリョクの。
「まあ、確かに」
 うんうん、と。
「それがここを守ったとは言えるかな」
「ええっ!?」
 本当に。
「そーなんだし」
(って)
「ぷりゅっへん」
 我がことのように。
(ちゃんと)
 わかって。言っているのかと。
「馬は騎士に仕えるもの」
「っ」
「そして、騎士を守ろうとするものでもある」
「それは」
 わからなくは。ない。
(そんな)
 馬の力が。ここに。
「どういう」
 あらためて。
「まあ」
 とたん。
「よくわからないんだけどね」
 かくっ。
(そんな)
 この『人』まで。
「だって」
 悪びれず。
「それを調べにここへ来たんだから」
「あ……」
 そういう。
「言ったでしょ」
 またも。教師めかし。
「博士だって」
「はあ」
 確かに言われたが。
(博士騎士……)
 聞いたことが。
「あっ」
 いまさらながら。
「騎士なんですか」
「そうだよ」
 軽い。
「ということは、その」
「んー?」
「………………」
 いや。
 悪者ではない。はず。
 自分たちを襲った械(かい)騎士たちとは。
「そうだね」
 納得と。こちらの不安を。
「ワタシは」
 堂々。
「ハカセだ」
 かくっ。
(い、いや)
 何の答えにも。
「つまり、興味は研究対象にしかない」
「えっ」
 研究対象。
「それって」
 ここのこと。
「遺跡に博士はつきもの」
 どこか得意げに。
「キミたちの世界ではそうなんだろう」
「え、いや」
 それは大学の教授か何かでは。
「なんでもいーから、ぼーけんすんだし!」
「し、白姫」
 こちらもこちらで。
(なんで、そんなに)
 短絡的なのか。
 まだまだわからないことが多すぎて。
「馬遺跡なんだし」
 欠片もひるまず。
「だから、シロヒメが行かなきゃだめなんだし」
「それは」
 そうかも? しれないが。
「ぷ!」
 そのときだ。
「いたし!」
「えっ」
 いた?
「待つしーっ!」
「え、ちょっ」
 何が。
「!」
 見た。
「え……え?」
 それは。小さくともはっきり。
 馬のシルエットだった。

(って)
 たまらず。
(小さすぎますよ!)
 そうなのだ。
 生まれたばかりの仔馬より。
 それが。
「待つんだしーっ!」
 パカラッ、パカラッ! 広い遺跡の中にヒヅメ音がこだまする。
「ま、待ってくだ」
 それは、むしろ。先頭切って駆けていく。
「白姫ぇーっ!」
 止まらない。
 自分たちもそれを追うことに。
(こんな)
 大丈夫なのか。謎の遺跡をわけもわからず。
「いいんじゃないかな」
「は!?」
 何が。
「害意はない」
 そんなこと。どうして。
「キミたちだよ」
「えっ」
「助けてもらっただろう」
「………………」
 つながらない。
「この遺跡に」
「えっ」
「おいおい」
 あきれたように。
「いくらワタシでも、大怪我を負ったキミたちを完全治癒させるようなことはできないよ」
「で、でも」
 事実。自分たちはこうして。
「ふふっ」
 ちっちっ。指をふるような。
「この遺跡の力だよ」
 それは。
「馬の」
 力――
「言っただろう」
 再び。講義の。
「馬は主に仕える」
 その通りで。
「この遺跡にかかわる馬たちは」
 しみじみと。どこか。
「本当に人間が好きだったようだね」
「え……」
 人間が。
「だからこそ」
 同意を求めるように。
「ね」
「あ……」
 つまり。自分たちが入れられていたあのカプセルは。
「操作はワタシがさせてもらったけど」
「そ、そうなんですね」
 くり返しの。
「ありがとうございます」
 けど。それは。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 いきなり。
「なんでですか!」
「なに、グズグズしてんだし」
 気に入らないと。
「ぷりゅぷりゅするならともかく」
「なんですか『ぷりゅぷりゅする』って!」
 意味が。
「とにかく、アリスのせいなんだし!」
 ヒヅメさし。
「アリスのせいで逃げられちゃったんだし!」
「ええっ!?」
 そんなことを言われても。
「いた」
「えっ」
「ぷりゅ?」
「ほら」
 指さした。その先。
「いたし!」
 白い小さな塊が。壁と機器の隙間にもぐりこむようにして。
「アタマ隠してしっぽ隠さずなんだし!」
 確かに。
「ど、どうしましょう」
「ぷりゅー」
 ためらいの。
「イジメるようなことはもちろんダメだし」
「はあ」
「アリスは手を出しちゃだめなんだし。危ないから」
「えっ」
「アホだから何するかわかんないし」
「こっちがですか!」
 すると。
「う」
 あっさり。
「つかまえた」
「あ……」
 思いがけず。
「つかまりましたね」
 おそるおそる。
「危ないし!」
「きゃっ」
「アホなアリスが何をするか」
「何もしません! やめてください!」
「うー」
「ユイフォンまで、そんな目で!」
 散々な。
「ぷっりゅっりゅっりゅっりゅ」
 すると。
「え……」
 それは。
「笑ってんだし」
「笑ってる」
 いななきで。
「え、えーと」
 たちまち。恥ずかしく。
「アリスのアホも役に立つんだしー」
「なんでですか」
 勢いも。
「かわいい」
 すりすり。
「あっ、シロヒメにもすりすりさせんだし」
 競って。
(う……)
 あらためて。
(馬……)
 としか。
 白馬。
 しかし、そのサイズが。
「ミニシロヒメだし」
 はっと。
「白姫、いま何て」
「ぷりゅ?」
 首を。と、すぐさま。
「ぷりゅはっ」
「うっ」
 共に。
「ぷー……」
「うー……」
 沈黙。そのまま。
「おやおや」
 見渡し。
「どうしたのかな、お嬢さん方」
「………………」
 応えが。
「うーむ」
 思案の。
「そうか」
 手をポン。な。
「お腹が空いてるんだね」
「なんでですか!」
 硬直も解け。
「減ってないのかい」
「減っては」
 ぐぅぅ~……。
「はわわっ」
 いた。
「アリス、恥ずかしいしー」
「恥ずかしい」
「そ、そんな」
「ぷりゅはっ」
 またも。
「まさか」
 ぷりゅりゅりゅりゅ……信じられないと。
「この子を食べるつもりで」
「なんてことを言うんですか!」
「だって、食べちゃいたいくらいかわいいし」
「確かにそういうふうには言いますけど」
「やっぱり」
「って、食べません!」
 どういう疑われようで。
「ぷっりゅっりゅっりゅっりゅ」
 またも。
「こんなかわいい子を」
「食べません」
 いいかげんに。
「……あ」
 そこで。
「あ、あれ」
 思い出しかけた。何か。
(えーと)
 どうしても。
「ふむふむ」
 そこへ。興味深そうに。
「変わっているねえ」
 ひょい。猫をつまみあげる要領で。
「う!」
「何すんだし、ハカセ!」
「ふーむ」
 抗議を聞き流し。
「不思議だ」
「そーだし。不思議なほどかわいいんだし」
「そういうことでは」
 ないことを。
「魔法生物ではないねえ。もちろん自然のものでなく、まして機械でもない」
「当たり前なんだし」
 胸を張って。
(何が)
 どう『当たり前』なのかと。
「あの、じゃあ」
 あらためて。
「何……なんですか?」
「不明」
 あっさり。
「ただ、かわいいということは事実だねえ」
「そーなんだし!」
 力いっぱい。
「かわいければ、それで問題ないんだし」
 問題なしとは。
「う!」
 そのとき。
「い、いた」
「いるのはわかってんだし。もう見つけてんだし」
「うーうー」
 首を。横に。
「何なんだし、ユイフォ」
 止まる。
「ぷ……」
「あ……」
 無数の――〝目〟。
「はわわわわわわ……」
 陰から。隙間から。暗がりから。
 いっせいに。
「きゃあーーーっ!」
「ぷりゅーーーっ!」
「あうぅーーーっ!」
 悲鳴が。ヒヅメ音に飲みこまれていった。

(うう……)
 悪夢。
(は……はわわわわわ)
 数えきれない。〝白〟がこちらに向かって。
『何してんだし、アリス!』
『さっさとお世話すんだし!』
『なに、グズグズしてんだし!』
『だから、アリスはアホなんだし!』
『ぷりゅーっ!』
 悪夢だ。
『PU・RYU』
 はっと。
 その中に。
(あなたは)
 知って。いる。
 知っているのだ。
 なのに。
(どうして)
 自分は。
『PU・RYU……』

『PU・RYU・N・NA・SA・I』

(え……)
 謝罪。
 思いもよらない。
(なんでですか)
 わからない。それでもはっきり。
(悪くありません)
 言えた。
(あなたは、何も)
 そう。
(だって)
 自分たちは――


「ぷりゅ」
 それは。
「………………」
 違和感。
「ぷりゅ?」
 首を。
「ぷりゅ!」
 気がつく。
「ぷ……」
 自分が。自分から。
「ぷりゅーっ!」
 いななきが。
「ぷりゅ、ぷりゅ、ぷりゅ」
 あたふた。
「ぷ……ぷ……」
 どうしよう。どうしようも。
「ぷ!」
 さらに。
「ぷ、ぷ、ぷ……」
 ここは。
 どこ。
 真っ白な。
 世界。空間。
 そこに。
「ぷりゅーーーっ! ぷりゅーーーっ!」
 ただ。いななくしか。
 このわけのわからない状況に。
「ぷりゅ」
「!」
 反応が。
「ぷりゅ」
「ぷりゅぷりゅ」
 次々。保護色のように。白い空間のそこかしこに。
「ぷ……」
 こんな。これはこれで。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「ぷりゅっ」
 いきなりの。
「ぷりゅぷりゅうるせーんだし、アリス!」
「ぷ……!」
 まさか。
「やっぱり、アリスだったんたし。無駄にやかましいから」
 それは。
「し、白姫」
 なのかと。
「ぷりゅ」
 うなずかれる。
「でも」
 どうして。
 確かに白馬ではある。
(けど……)
 なぜ。こんなに小さく。
「ぷりゅー」
 不服げな。
「なんでだし」
「えっ」
 逆に。
「なんでなんだし」
「い、いや」
 聞かれても。
「なんで、アリスまでかわいくなっちゃってんだし!」
「は?」
 思いがけない。
「そ、そんな」
「って、その気になってんじゃねーし!」
 パカーーーン!
「ぷりゅっ」
 小さなヒヅメで。
「ぷ!」
 思い出す。
「ぷりゅぷりゅ! ぷりゅりゅ!」
 自分も。同じ。
「なに、だから『ぷりゅぷりゅアピール』かましてんだし」
「なんですか『ぷりゅぷりゅアピール』って」
 お互い。いななきで。
「ま、待ってください」
 混乱。
「自分も、その、小さな白姫に」
「パクリだし」
「は?」
「ぷクリだし」
「なんですか『ぷクリ』って」
 ますます。
「シロヒメのかわいさを真似しようと」
「い、いや」
 そういう次元ではなく。
「シロヒメのかわいさをうらやんで」
「うらやんでは」
「シロヒメのかわいさに嫉妬して」
「嫉妬してないです」
 いいかげんに。
「ぷ」
 そこへ。
「ぷー」
「え、えっ?」
 じー。見つめられる。
「あ」
 はっと。
「ひょっとして」
 自分たちがこのようになっているなら。
「ユイフォン」
「ぷ」
 うなずく。
「本当に」
 信じられないながら。
「ぷっりゅっりゅっりゅっりゅっ」
「きゃっ」
 横から。突然の。
(わ……)
 笑って。
「あー、おかしい」
「!」
 まさか。
「ハカセですか!?」
「いかにも」
「………………」
 自分たち以外まで。
「ど、どういうことなんですか」
 全員が。同じ姿。
「こういうことだね」
 指を。でなくヒヅメを。
「ワタシたちはワタシたちでない」
「えっ!」
「データだ」
「ええっ!?」
 どういう。
「そうかー。そういうことだったんだ」
 納得を。自分は。
「い、いや」
 こちらはまったく。
「きゃっ」
 不意に。明滅する赤い光。
「な、なんですか?」
「非常事態のようだね」
「えええっ!?」
 急すぎる。
「大変なんだし」
「た、大変なのは」
 十分に。
「なんだかわかんないけど、大変なんだし」
 だから。
「あっ」
 自分たち以外の。
 白い空間を占めるように無数にいた小さな白馬たち。
 それが。
「み、みんな」
 動いている。整然と。
 まるで、工場を思わせるような正確さで。
「回路だよ」
「えっ」
「装置とも言える」
 ますます。
「馬(うま)機関と言うべきかな」
「うま……」
 途方もない。
「ワタシたちはその中にアクセスしているらしい」
 中? アクセス?
 まったく追いつかない。
「っ」
 不意に。頭上に。
「外だし!」
「あ……」
 確かに。自分たちが歩いてきたと思しき荒野の映像が。
「!」
 そこに。
「こ、こんな」
 戦争。
 まるで。
 空を、地を。埋め尽くす機械の騎士。
「本腰だねえ」
 悠揚と。それでも緊張をにじませ。
「最初のは威力偵察くらいのつもりだったんだろう」
「そんな」
 声が。
「どうして」
 聞かずには。
「ここに何が」
 あると。
「馬遺跡」
 簡潔。
「言っただろう」
「言いましたけど」
 それが。どうして。
「ぷうう……」
 ふるえ。
 それを感じつつ。
「大丈夫ですよ、ユイフォン」
 根拠はない。
「大丈夫……」
 それは。自分にも。
「大丈夫だし」
「白姫」
「馬の力を信じんだし」
「馬の」
 いまは。
(力……)
 信じたい。いや、信じられる。
 まったくあわてることなく動き続けている小さな馬たち。何かを操作しているような様子はない(馬なのだから)。それでもそこに。
「回路だよ」
 再び。
「それぞれが」
「え……」
「運んでいる」
 運ぶ。
「動くよ」
 それは。
「!」
 変化が。
「動くし!」
 ゆれている。
 ここではない。
 画面の。映し出された荒野が。
「はわわわわ」
 徐々に大きくなっていく地ゆれ。現実であることを示すように、機械の軍団もその進行を止めている。
「な、何が」
「高まってるし」
「えっ」
「馬の力だし!」
 いなないた。直後。
「!?」
 一際。大きな。
「な……」
 隆起する大地。
「ななななな」
 理解が。それでも画像は刻々と変化を続け。
「来るし」
 来た。
「きゃーーーっ!」
 ゆっくりと。
 地を割り。その威容をあらわにしたのは。
「馬!?」
 白い。
 ボディが灼熱の日差しを受けて神々しく輝く。
「すごい」
 あぜんと。
「大したものだねえ」
 こちらも。
「馬の力だし」
 ぷりゅ。重々しく。
「い、いやいや」
 馬の力?
 スクリーン越しではあるが、周りの騎士たちとの比較ではっきりわかる。
 巨大。
 自分たちが知っている馬をはるかに超えて。
「え……」
 知って――
(じ、自分は)

「行くんだし、メカプジラーーーっ!」

「!」
 それは。
『PU・RYU』
 応えるように。
「ああっ」
 前進。
 機械の騎士たちが我に返ったように各々の槍を構える。
「!」
 砲撃が。空から、地上から。
『PU・RYU』
 止まらない。
 ゆっくりと。しかし、着実に部隊に迫る。
「やるんだしーっ!」
 大興奮。
(こ、こんな)
 素直に。よろこべるような気持ちには。
(だって)
 混乱。
 こんな巨大な馬を見るのは初めてで。そのはずなのに。
(知ってる)
 その感覚が。どうしても。
「そこだしーっ! 蹴散らすしーっ!」
 こちらはますます。
「馬をいじめたらどんな目にあうか思い知らせんだしーっ!」
 ここまでの目には普通あわないと思うが。
(守り神……)
 そんな。言葉が。
「あっ」
 撤退。明らかに。
 算を乱しながらも、懸命に隊伍を組んで後退していく。
「大勝利だしーっ!」
 高らかに。
「はー、スッとしたんだし」
(そんな)
 アクション映画の感想ではないのだから。
 劣らない迫力ではあったが。
「ついでにアリスもパカーンしたら、もっとスッとするし」
「や、やめてください」
 なんてことを。
「ぷりゅ」
 そこで。
「ぷりゅー」
 困ったように。
「蹴れないし」
「え」
 ほっと。する一方。
「それって」
「ぷりゅ」
 うなずき。
「見た目がかわいすぎるんだし。愛らしすぎるんだし。パカーンするなんてとんでもないんだし」
 の割には、されたような気もするのだが。
「どういうことなんだし。見た目かわいくて、中身アリスって。何の呪いだし」
「呪いって」
 他に言いようが。
(でも)
 この不可思議な状況は。
「まあ、遺跡に呪いはつきものだけど」
「いや……」
 馬遺跡だと賛美していたのでは。
「なんか悪いことしたんじゃねーんだし、アリス」
「してませんよ」
 していない。はずで。
「………………」
 けれど。
 胸のこの。
(自分は)
 痛み。罪悪感。
 それがどうしても。
「ごめんなさい」
「やっぱり」
「あ、いえ、そういうつもりじゃ」
 あわてて。
「じゃあ、どーゆーつもりだし」
「どういうって」
 説明が。
「それでも、あの」
 伝えたい。
 伝わる。はず。
 なぜなら。

「PU・RYU」

「ぷ……」
「う……」
 共に。
「あ……」
 ふり返る。
 変わらない。一見。
 違う。
 わかった。
 他の小さな白馬たちを後ろに従えて。
 先頭に。
 金属の。
 それでもはっきり。
 優しい。
 あたたかな。
「PU・RYU」
「!」
 あふれる。
「メカ白姫ぇーーーっ!」
 飛びこんでいた。

「本当に」
 あらためて。
「メカ白姫なんですね」
「PU・RYU」
 うなずきが。
「メカ白姫……」
 じわり。胸に。
 思い出す。
 共に過ごした――
「……あれ?」
 そこで。
「メカの……白姫?」
「………………」
「えーと」
 軽い。困惑。
(どういうことに)
 なるのだろう。
「ぷりゅー」
 すりすり。
「あ、あの」
 当の〝本馬〟は。
「メカシロヒメ、かわいいしー」
「い、いや」
 かわいいのはいいのだが。
「あの、白姫は」
「ぷりゅ?」
 首を。
「メカ白姫のことを」
 おぼえて。いて。
「ぷー……」
 視線が。
「ぷりゅ!」
 はっと。
「そーだし! 未来の世界のシロヒメなんだし!」
「は、はい」
 そうだ。そんなことを。
「シロヒメ、とってもかわいいんだし。あまりにもかわいくて、未来にもシロヒメが生み出されてしまったんだし。未来の世界の馬型ロボットなんだし」
「はぁ」
 確かに、そんなことを。
(でも)
 おかしい。
(自分たちは)
 なぜ。忘れていたのか。
(あんな)
 事件の数々。忘れられるはずが。
(そもそも)
 この状況だって。
(ミニ白姫……)
 それも合わせ。
「騎士は機械馬の夢を見るか」
「えっ?」
「だね」
「あ、あの」
 どういう。
(夢……)
 そんな。まさか。
「あり得るじゃないか」
 先んじて。
「いま」
「あ……っ」
「ここ」
 そうだ。
 様々なことが起こって忘れかけていたが、自分たちはいま。
(とんでもない)
 状況だ。十分に。
「馬力」
「っ」
「これまでにも体験しているだろう」
 馬の。
 力。
「けど」
 それが。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「ぷりゅっ」
 悲鳴。悲いななき。
「な、なんでですか!」
 蹴れないと言ったばかりで。
「とんでもねーアリスだし」
「ええっ」
「許せないんだし!」
 本気の。
「メカシロヒメは馬じゃないっていうんだし? 馬力がないって言いたいんだし!?」
「そんなことは」
 自分が言いたいのは。
「PU・RYU」
 そこへ。割って。
「メカ白姫」
「ぷりゅー」
 不服ながら。
「まー、メカシロヒメに免じて許すんだし。ありがたく思うし」
「は、はあ」
「メカシロヒメは優しいんだし。シロヒメと同じで」
 彼女『が』優しいということにはもちろん異論はない。
「うー、メカ白姫」
 すりすり。
「懐かしい」
「ユイフォン……」
 そうだ。やはり、これまでのことは。
「夢」
「ぷ?」
「う?」
「なんですね」
 いまの。この状況も。
「そうだね」
 うなずく。
「彼女のデータ世界にワタシたちが取りこまれている。そう考えていい」
「あっ」
 馬力。
「乗っている」
「そう」
 ヒヅメを。
「キミたちの騎力と彼女の馬力が共鳴し合ってね」
 世界を。一つに。
 一体に。
「だから」
 この姿に。ここではこれが。
「納得だし」
「えっ」
 そんな簡単に。
「ここはメカシロヒメの世界なんだし」
「PU・RYU」
 そうだと。
「だから、みんなかわいいんだしー」
 すりすり。
「え、えーと」
 そういう解釈でいいのか。
「あの」
 それでも。
「自分たちは」
 確認したい。なぜこのようなことになっているのか。
「PU……」
 言葉に。詰まるように。
「PU・RYU・N・NA・SA・I」
「っ」
 また。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「ぷりゅっ」
 こちらもまた。
「なに、メカシロヒメを困らせてんだし」
「こ、困らせるなんて」
 そんなつもりでは。
「助けたいんです!」
 心から。
「だって」
 それは。
「友だち」
 当然の。
「ですから」
 ためらいなく。
「ぷりゅー」
「うー」
 視線が。
 それでも、ゆらぐことなく。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「ぷりゅっ」
 ゆらいだ。
「なにカッコつけてんだし、アリスのくせに」
「カ、カッコつけているわけでは」
「当たり前なんだし!」
 ぷりゅびしっ!
「当たり前のこと、偉そーに言ってんじゃねーし!」
「それって」
 つまり。
「メカシロヒメ」
 向き合う。
「何にも言わないでいいし」
(い、いや)
 言ってはほしいが。
「力になるし」
 その想いは。
「力になる」
 自分たち。全員が。
「PU――」
 それは。
「――RYU・GA・TO・U」
 感謝の。
「水くさいし」
 微笑。寄り添い合う。
「感動だねえ」
 パチパチ。正確にはパカパカ。
「それはそれとして」
「ぷりゅー?」
 機嫌悪く。
「なに水差してんだし、ハカセ」
「差したほうがいいかなって」
「ぷりゅ?」
 どういうことかと。
「どうやら」
 つぶらな瞳が。険しく。
「侵入者だよ」

「危ないし!」
 いななき、するどく。
「ふほー侵入だし! ストーカーだし!」
「い、いや」
 興奮する前に、まず。
「どこに」
「ここだよ」
 あっさり。
「ここって」
 つまり。
「メカ白姫の……中」
「ふほー侵入だし!」
「いやいや」
 そういう問題では。
「ハッキング」
 そうだ。
「それって」
「機印だろうね」
「やっぱりだし!」
「えっ」
「同じだし! ハッキングとストーキング!」
「いやいや」
 最後の『キング』だけ。
「どーせなら、ぷりゅーキングするし!」
「何ですか、それは」
 意味が。
「とにかく、落ちついてください」
 落ちついて――
「!」
 いや。
「あ、あれって」
 すでに。
「ああ」
 うなずき。
「落ちついていられる状況じゃないねえ」
「はわわわわわ」
 世界が。空間が。
 変わっていく。
 リバーシのように。
 白から黒。
「逃げんだし、メカシロヒメ!」
 本能的な。
 しかし、否やはない。
「アリス!」
「はい!」
「まかせたし!」
「えっ」
 それは。
「シロヒメたちが逃げるまでくい止めんだし! 命かけて!」
「命かけて!?」
 とんでもないことを。
「ぷ……!」
 と。ふるえが。
「できないし」
 がくっ。
「それは」
 そう。のはずで。
「かわいいし」
「う……」
「やっぱり、見た目かわいいんだし。アリスのくせに」
 かわいくなかったらよかったと。
「!」
 などと。煩悶する余裕などなく。
「逃げるしーっ!」
「ま、待ってくださーい!」
 あわてて。
 続くしかなかった。


「はわわわわわわわ」
 次々と。
 塗り替えられていく。
 押し寄せる。すぐ背後まで。
「ど、どうすれば」
 そもそもが。まだほとんど何もわかっていないに等しい世界で。
「ハカセ!」
 たまらず。
「んー」
 走りながら。
「難しいね」
「そんな」
 なんとかしてくれると。
「メカ白姫くーん」
 問いかける。
「キミの見解は?」
「PU・RYU」
「そうか」
(ええっ!?)
 理解を。
「やはりね」
「ちょっ、ハカセ……」
 本当に。
「ワタシたちは」
 立ち止まり。ふり向く。
「あ……」
 その姿が。
「異物だ」
「えっ」
「なんてこと言うんだし!」
 ぷりゅぷん!
「それって、あれだし? 『いぶつこんにゅー』のイブツだし!?」
「って、白姫!」
「ぷりゅ?」
 首を。
 と、その姿も。
「戻ってる」
 こちらも。
「じゃあ」
 自分の。『手』を。
「みんな」
 元の姿に。
「異物だよ」
 あらためて。
「ワタシたちは」
「………………」
 つまり。
「あちらも」
「っ」
 迫る。黒。
「ということは」
「ということは?」
「戦える」
「……!」
 そうか。理解はまだ追いついていないが、それより。
「どうやって」
「んー」
 そこで。
「さあ」
「ええっ!?」
 そんな。そこまで思わせぶりに。
「きゃーーっ」
 迫る。
 すぐ目の前まで。
「気合だし!」
 するどく。
「気合だし! 気合だし! 気合だし!」
「そ、そんな」
 連呼されても。
「すぅー」
 息を。大きく。
「ぷ――」
 咆哮。
「ぷぅー! やぁー! たぁーーっ!!!」
(ええぇっ!?)
 気合。確かに。
 けど、それが何に。
(あ……)
 止まった。
 いや、侵食は続いている。
 しかし、明らかに。その勢いが。
「ぷぅー! やぁー! たぁぁぁーーっ!!!」
 再び。
(おお……!)
 ひるむかのように。そしてわずかだが後退を。
「アリスたちもやんだし!」
「えっ」
 気合を。
「魂の叫びをぶつけんだし! 雄たけびのいななきだし!」
 意味が。
「あ、でも」
 いななけない。元に戻ったいま。
「カラスの真似だし!」
「は?」
 どういう。
「カラスの鳴き声だし!」
 なぜ。
「やんだし! 『アホー』って!」
「どういうことですか!」
 それに、実際そんなふうに鳴くのは聞いたことが。
「すっごい向いてるし」
「向いてません!」
 そこだけは。
「っ!」
 などと言い合っている間にも。
「早く!」
「ア……」
 選択肢は。
「アホーーーッ!!!」
 なかった。
 泣きそうな思いで。『バカーッ』と言いたい気持ちで。
「アホーーーーーーーッ!!!」
 もう一度。
「おおー」
 感心の。
「引いていくんだし」
 確かに。
「アリスのアホは効くんだし」
「やめてください……」
 泣きたい。
「アリスがアホで本当に」
「だから、やめてください!」
 いいかげんに。
「叫ぶ? ユイフォンも」
「へーきみたいだし。アリスのアホ声で助かったし」
「なんですか、『アホ声』って」
「ありがとう」
「うれしくないですよ……」
 泣きたい。
「PU・RYU・GA・TO・U」
「う……」
 それには。
「どういたしまして」
 応えないわけには。
「で、でも」
 あらためて。
「どうして、自分たちが」
「ワクチンだよ」
 そこへの。
「ワクチン?」
「そう」
 指をの。
「あえて異物を取りこむことで、それを抗体とする」
「はあ」
 わかったような、わからないような。
「とにかく、シロヒメたちがメカシロヒメを守ったんだし」
「PU・RYU」
 そうだと。
「アリスがアホでぷりゅがとう」
「ありがとう」
「だから、もうやめてください!」
「しかし――」
 そのとき。
「PU……」
 バチィッ!
「!?」
 火花。
「PU……RYU……」
 苦しげな。
「メカシロヒメ!」
 あわてふためき。
「どうしたんだし! 悪者はやっつけたんだし!」
「負担」
「ぷりゅ!?」
「言っただろう」
 静かに。
「異物だって」
「っ……」
 それは。自分たちも例外でなく。
「メカシロヒメーーーーっ!」

 夢を。
 見ていた。
 ロボットが。
 それでも。
 いや、だからこそ。
 記憶(メモリー)。
 それは。
 かけがえのない。
 むしろ、すべてと。
 メカ白姫。
 そう。呼ばれるより過去の。
『――――』
 それは。


『気分はどうだい』
 気分。
『PU――』
 うまく。言語化できない。
『ああ、ごめん』
 先に。謝罪を。
『………………』
 いつも。
 この『人』は。
『無理はしなくていいんだよ』
『PU・RYU』
 していない。首を。
『そう』
 優しい。
『………………』
 こちらのことを。いつも。
『馬はね』
 語る。
『友だちなんだ』
『PU?』
 どういう。それは自分たちも。
『聞いて。――――』
 名前を。
『僕を見て』
『PU?』
 ますます。
『PU――』
 見る。言われた通り。
『どう?』
『PU?』
 またも。
『ああ、ごめん』
 謝罪が。
『わからないよね』
『PU・RYU』
 うなずく。
『どう思う?』
 再び。
『僕のことを』
『PU……』
 それは。
『PU……RYU……』
 思う。想い。
『………………』
 言語化が。
『よしよし』
 頭部に。手が。
『――――はいい子だよ』
 いい子。ますます。
『……――――』
 名前を。
『うれしいんだ』
『PU……』
 何を。何も。
『キミが』
 やわらかく。
『とてもいい子で』
 金属の。鼻先を。
『………………』
 わからない。
 けど。
 この感覚は。
 もちろん、触れられているということははっきり認識している。
 それでも。
 それだけではない。
 何か。
『PU』
 分析できないまま。
 ただ。
 記憶(メモライズ)する。
『RYU』
 消したくない。消えてほしくない。
 なぜか、そう。
 認識した。


「PU、PU……RYU……」
 バチバチッ! スパークが激しく。
「メカシロヒメ!」
 悲鳴が。
「どうしたらいいんですか! ハカセ!」
 こちらも。
「負担を下げるしかないんだが」
「それって」
 つまり。異物であるところの自分たちがここから。
「難しいね」
「えっ」
 なぜ。
「た、確かに、どうやってここに来たのかよく覚えてませんけど」
「それもあるんだが」
 声が。かすかに。
「!」
 気がつく。
「どうして」
 また。
 黒い。
 それがじわじわと。
「ア……」
「待つんだ!」
 叫ぼうとしたところに。
「アホはもういい!」
「ええっ!?」
 言われ方が。確かに言おうとはしていたが。
「これ以上は危ない」
「あ……」
 アブナイと。そこまで言われるほど。
「負担が」
「あっ」
 そうか。
「そうなんだし。アリスのアホは負担デカいんだし」
「どういうことですか!」
 などと言っている間にも。
「じ、じゃあ、どうすれば」
「………………」
 沈思。
「叩くしかないね」
「えっ」
「けど、叩いたらアリスのアホがより深刻に」
「どこを叩く気ですか!」
「じゃあ、蹴るし?」
「やめてください!」
「敵の大元だよ」
 冷静に。
「でなければ、侵食は止まらないだろうしね」
「わかったし! おーもと、たたくし!」
「白姫……」
 そんな簡単に。
「で、どこにあるし」
「当然」
 迫る。黒の波を。
「あの向こうだろうね」
「行くし!」
「って、白姫ぇ!」
 無謀すぎる。
「待って」
 意外な。止めたのは。
「メカ白姫、どうするの?」
「ぷ……」
 苦しむ。いまも微弱ながら放電を続けているその姿に。
「こちらの大元は彼女。つかまったらおしまいだ」
「じゃあ、どーすんだし!」
 動けない。
「彼女のことは」
 前に。
「ワタシにまかせてもらおう」
「ハカセ!」
「まあ、そう呼ばれる身だからね」
 面はゆげに。
「データを守るくらいのことは」
 指をふるう。ように。
「!」
 出現。
「得意なほうさ」
 バリア。まさにそう呼びたくなる。
「おー、ハカセ、すごいしー」
「いえ、感心している場合では」
「その通り」
 同意の。
「あくまで侵食を止めるだけだからね。それもいつまでもつかわからない」
「頼りないし!」
「だからこそ」
 真剣な。
「切り札はキミたちだ」
「ぷぅ……!」
 ふるえる。
「そうなんだし」
 ふつふつと。
「シロヒメたちがやらなくてどうするし! メカシロヒメ、友だちだし!」
「ですよね!」
「う!」
 共に。気合が。
「アリス! ユイフォン!」
 高らかに。
「行くんだし! 突っこめーだし!」
「え?」
「う?」
 命令――
「いえ、あの、白姫は」
「後から行くし」
「い、いやいや」
 こういうときは一緒に。
「何のためにアリスたちがいると思ってんだし」
「へ?」
 何のためとは。
「実験だし」
「じ……」
 どういう。
「よくわからないものが出てくるし。そこにアリスを突っこませたらどうなるのかなー、という」
「何ですか、それは!」
 わけが。
「ワクワクするし」
「白姫だけがですよ!」
 こちらはまったく。
「!」
 などと言っている間にも。
「『アホー』はなしだよ」
「あっ」
「アホがなかったら、アリスそのものが消えてしまうし」
 どういうことだ。
「じ、じゃあ」
 どうやって。この向こうへ。
「突っこむ」
「ユイフォン!?」
「メカ白姫のため」
「それは」
 そうだ。グズグズしては。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン! パカーーーン!
「きゃあっ」
「あうっ」
 立て続け。
「きゃあーーーーっ」
「あうーーーーーっ」
 そのまま。黒に向かい。
「っ!」
 ぶつかる。
「え……」
 退く。こちらにふれるのを恐れるように。
「さすが、アリスだし」
「えっ、あの」
 さすが? なのか。
「アリスがアレだってわかるんだし。ばっちいんだし」
「なんてことを言ってるんですか!」
 大体。
「ユイフォンだって」
「ユイフォンもばっちいんだし?」
「アリス、ひどい……」
「えっ、ち、違いますよ」
 そういうことではなく。
「急ぎたまえ!」
 そこへ。
「異物同士であっても決して安全なんかではない! 正確にキミたちを認識したら取りこまれる可能性は高い!」
「はわわっ」
 危険極まりない。
「っ……」
 それでも。
「行きます」
 変わらない。決意は。
 友だちの危機なのだから。
「ぷりゅーっ!」
 いななきが。
「なにカッコつけてるし、アリスのくせに!」
「カッコつけてるわけでは」
「シロヒメだって行くし! 行くに決まってるし!」
(だ……)
 だったら。最初から。
「ぷりゅさーて」
 脚を。
「今度はもっと遠くまで」
「って、蹴らないでください!」

(本当に)
 こちらで。合っているのか。
(ううう)
 不安。
 周囲を覆う黒に飲みこまれてしまいそうな。
(い……いやいやっ)
 頭を。
「何してんだし、アリス」
 不機嫌そうに。
「ただでさえ、この黒いのがうっとーしーんだし。すぐそばでうっとーしーことすんじゃねーし」
「白姫は」
 平気。なのかと。
「ぷりゅふんっ」
 胸を。
「どんなに黒くたってシロヒメが負けるわけないし。『白』ヒメなんだから」
「い、いや」
 そういう問題では。
「さっきだって『ぷーやーたー』でやっつけたし」
「というか何なんですか、それは」
「変身すんだし」
 意味が。
(でも)
 安心できる。というか。
 右も左もわからない状況で、このふてぶてしさは確かに心強い。
「ありがとうございます」
「ぷりゅ?」
 またも。わけがわからないと。
「まー、いんだし。このまま進むんだし」
「はいっ」
「アリスには助けられるし。アリスのばっちさには」
「ばっちくないです!」
「汚ギャルなんだし」
「なんてことを言うんですか!」
「シロヒメはぷギャルだし」
 わけが。
「う?」
 そのとき。
「待って」
「えっ」
「どーしたし、ユイフォン」
「うー」
 にらむ。目の前の黒を。
 いや、その向こうの。
「ある」
「えっ」
「いる」
「どっちだし!」
「うー」
 困ったように。
「でも、何か違う」
「違うって」
「うー」
 難しいと。
「もどかしいし!」
「ごめんなさい」
「でもまあ、でかしたし、ユイフォン」
「ありがとう」
「ぷりゅーわけで」
 真剣な目に。
「しんにゅーしゃ発見なんだし」
「は、はい」
 おそらくは。
「しんちょーに行くんだし」
「はいっ」
「『ぷーやーたー』とか、蹴ったりしたらだめなんだし」
「それは全部、白姫で」
 念には念を。
「やらないでくださいね、絶対」
「うるせーんだし。あんまりしつこいと、前フリだと思うし」
「ふ、ふってないですよ」
 あわてて。
「とにかく行くんだし」
「は、はい」
 高鳴っていく。鼓動を感じつつ。
「ぷりゅ足、ぷりゅ足、ぷりゅり足ー」
 忍び足で進む。
「まだなんだし、ユイフォン?」
「わからない」
「あてになんねーしー」
「うー……」
「やめてください、ユイフォンを責めるのは」
「大体、こーゆーのはシロヒメのほうが向いてんだし。野生のカンがあんだし」
「いや、白姫、野生じゃないですし」
「それでも白馬にはするどい感覚があるんだし! そこらへんのアリスやユイフォンとは違うんだし!」
「だったら」
 率先して何か見つけてほしい。
「ぷりゅ!」
 ピーン! 耳が立つ。
「来たし」
「来たんですか?」
 何が。
「そこだー! だし!」
「!?」
 そこに。
「あ……」
 違う。
 これまでのただの黒とは。
「っ!」
 それは。立体感を伴って。
「来るし!」
 来た。
「えっ!?」
 影は。三つ。
「えっ、ちょっ」
 どう見ても。
 いや、表面に見るべき特徴的なものはない。周囲と同じ黒。
 しかし、そのシルエットは。
「影絵」
 ぽそり。つぶやく。
(そうですよ……)
 まさに。しかも、それは。
(自分たちの)
 影。
 三体が。それぞれの。
「ブラックアリスだし!」
「ええっ!?」
 その呼ばれ方は。
 しかし、確かにそうとしか。
「ブラックユイフォンもいるし! それに」
 ぷりゅりゅりゅりゅ……わなわなと。
「ブラックシロヒメまでいるんだし。ブラックな『白』ヒメって意味わかんないんだし」
 確かに。
「アリスはまだわかるし。腹黒いから」
「なんでですか!」
「きっと、アリスの中の悪い心のカタマリなんだし」
「ええっ!」
 そうなのか。
「ほぼ同じ大きさって。つまり、アリスは悪い心だけでできてるんだし」
「そんなことないです!」
 ない。はずで。
「だったら、白姫たちはどうなるんですか!」
「ぷりゅ!」
 信じられないと。
「あれがシロヒメの悪い心だってゆーんだし!? いい子だけでできてるとひょーばんのシロヒメの!」
「なんですか、その評判は」
「とにかく、ないし! あんなのニセモノだし!」
「あっ」
 そうだ。偽物というか。
(自分たちの)
 言われていた。
 これは、つまり。
(分析……)
 それは。
「た、大変ですよ」
 ふるえる。
「あれにさわられたら、自分たち、とんでもないことに」
「ばっちいから?」
「そういうことではないです!」
 そんなことより、もっと。
「消される」
「ぷりゅ!」
「取りこまれちゃう……とかで」
 よくはわからないが。それでも危険なことは間違いないはずで。
「危ないし」
 こちらも。ようやく。
「悪いアリスになんかさわられたら、頭の悪さがうつってしまうんだし。アホになってしまうんだし」
「アホじゃないです!」
 こんな状況でも、まだ。
「!」
 来た。
 思いがけない俊敏さでこちらに。
「う!」
「ユイフォン!?」
 前に。
「えっ」
 止まった。
「やっぱり」
「ど、どういうことですか、ユイフォン」
「さわれない」
「え……」
「黒いアリス、ユイフォンにさわれない。アリスだから」
 それは。
「えー、ユイフォンもばっちいんだしー?」
「ち、違う」
 首を。
「ユイフォン、アリスじゃないから。だから、さわれない」
「そうですよ」
 これまでだって。
「自分たち、ここまで来れたじゃないですか」
「来たし。アリスのばっちさに黒いのが嫌がって」
「それはもういいです!」
 本当に。
「分析できてないものには、たぶん接触できないんです。警戒するんです」
 こちらを。伺うようなその様子に。
「それぞれを分析し始めたみたいですけど、まだ完全じゃなくて。それで違う相手にはまだ手が出せないんじゃ」
「ヒヅメは出せるんだし?」
「だから」
 そういうことでは。
「ゴチャゴチャめんどくせーんだし!」
 じれったく。
「みんな、パカーンすればいーんだし!」
「ちょっ……」
 だめだ。すくなくとも『白姫』同士がふれることは。
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 悲鳴を。
「きゃーーーーーーっ」
 飛ぶ。
「きゃっ」
 落下。
「……!」
 こんな。無防備に。
「っ」
 来る――
「え……」
 ずざざざざっ。逆に。
 同じ影をもったその相手にまで。
「なんで」
 あぜん。
「作戦せーこーだし」
「えっ」
 一体。
「ダブルパワーだし!」
「ダブルパワー?」
「正確には、ダぷりゅパワーだし」
「なんですか『ダぷりゅ』って」
 脱力を。
「シロヒメがアリスをパカーンしたんだし」
「あ……!」
 いまさらながら。
「なんで、こっちを蹴るんですか! 危ないじゃないですか!」
 向こうに攻撃するものと。
「危なくないんだし」
「危ないです!」
「シロヒメがパカーンしたから、アリス、無事だったんだし」
「え?」
 どうして。
「アリスだけだったら、ただのアリスなんだし。けど、そこにシロヒメのパワーも加わったんだし」
「い、いや」
 加わった? ただ蹴られただけで。
(でも)
 事実。その「わけのわからなさ」を警戒したのかも。
「ぷりゅーわけで、アリスをパカーンし続けながら」
「やめてください!」
 それはさすがに。
「じゃー、どーするってゆーんだしー。そーしないと進めないんだしー」
「そんな」
「一緒に行く」
 そこへ。
「固まって行く。そうすれば、たぶん、大丈夫」
「で、ですよね」
「なに、さっきからかしこそーなこと言ってんだし。キャラにないことすんじゃねーし」
「いいじゃないですか、いい提案なんですから」
 というわけで。
「ぷりゅー」
「うー」
「はわわわわわ……」
 ぴったりと。身体を寄せ合い。
 この先も何が待ち受けるかわからない黒の中を進むのだった。

 いつまで。
 時間の感覚もとっくになくなり。
「メカ白姫は」
 不意の。
「どうして」
 はっとする。気配。
「なんだし、アリス。メカシロヒメがどうしたんだし」
 こちらもぼうっとなりかけていたのだろう。あわてたように。
「いえ、あの」
 自分も。ほとんど無意識に。
「………………」
 それでも。それは。
「どうして、メカ白姫なんでしょう」
「ぷりゅーっ」
 パカーーーン!
「きゃあっ」
 目の覚める一蹴。飛ばされた先であわてたように黒が引く。
「何をするんですか!」
「ぷりゅー」
 怒りの。
「どーゆーことだし。メカシロヒメがメカシロヒメじゃいけないんだし?」
「いえ、あの」
 そういうことでは。
「白姫はメカじゃないじゃないですか」
「そーだし」
「メカ白姫はメカなわけで……」
 だから。なぜなのかと。
「メカだったら、シロヒメじゃいけないんだし?」
「いえ、その」
 意味が。
「なんで白姫なんですか」
 それは。
「白姫じゃないメカ白姫でも」
 意味が。こちらも。
「かわいーからだし」
 当然と。
「シロヒメがかわいいから、メカシロヒメはシロヒメをもとに創られたんだし」
「い、いやいや」
 それでは。つじつまが。
「シロヒメがかわいくないってゆーんだし」
「そういうことでは」
 なく。
「遺跡ですよ」
 なぜなら。
「ここへ来る前の、あの場所は」
 かなりの時間の経過を感じさせた。
 つまり。
「メカ白姫はずっと前からメカ白姫だったんじゃ」
「ぷりゅぅ?」
 首を。
「意味ふめーだし」
「う……」
 確かに。我ながら。
「だから、その」
 言葉を探しつつ。
「メカ白姫は白姫が生まれる前からもういたんじゃ」
「違うし」
 すぐさま。
「逆だし」
「逆?」
 どういう。
「メカシロヒメははるかな未来に創られたんだし。未来の世界の馬型ロボットなんだし」
「い、いや」
 それは。
「夢……というか」
「ぷりゅりゅぅ?」
 またも。
「だ、だって、そう言われたじゃないですか」
 こちらも。うまく説明はできないが。
「夢……」
「ユイフォン?」
 そこへ。
「なんで?」
「えっ」
「なんで」
 ぽつり。
「みんなで同じ夢見てたの」
 その疑問に。
「え、えーと」
 それこそ。説明が。
「確かに、おかしーんだし」
「白姫……」
「アリスはおかしくないけど。いつでもはくちゅーむだから」
「どういう意味ですか」
 良くない意味なのは。
「おかしくないんだし。おかしいから」
 もはや、どちらの意味か。
「ぷりゅはっ」
 すると。
「そういうことだったんだし……」
「う?」
「何かわかったんですか」
「ぷりゅー」
 身体を。離し。
「うつったんだし」
「え?」
「アリスのおかしいのが! シロヒメたちに! だから、いっしょにはくちゅーむを見てしまったんだし!」
「う!」
「見てないです、白昼夢は!」
 その。はずで。
「だって」
 夢じゃない。
 いや、これが夢だとしても。
「いるんですから」
 確かに。
「メカ白姫は」
 いる。
 夢ではない。
 出会ったのは、夢の中であったとしても。
「いるに決まってるし」
 当然と。
「いる」
 こちらも。
「だから」
 そこで。
(どうして)
 当初の疑問に。
 存在できないはずなのだ。
 こちらの――卵土の存在であるのだとしたら。
 いや、それ自体はむしろ納得ができる。機械騎士の国・機印というものをいまの自分たちは知っている。それは、未来から来たというより実感として腑に落ちるもので。
(それが)
 自分たちの世界に。
 夢――とは正確には異なるかもしれないが、接触を。
 それも納得できないことではない。
 実際、自分たちもこうしてこちらの世界に来てしまっているわけで。
(けど)
 三歳だ。白姫は。
 それを模倣する理由も、また時間的整合性も。
「まどろっこしーし!」
 がまんできないと。
「メカシロヒメはシロヒメと同じでかわいいから! それでいーんだし!」
「そんな」
 けど、確かに。いま優先すべきは。
「見て!」
 そのとき。
「あっ!」
 黒の大海の中に沈みそうな。
 白。
「ミニシロヒメたちだし!」
 そうだ。このことも。
 と、それより。
「助けましょう!」
 いまは。
「ミニシロヒメ、いじめんじゃねーしーっ!」
 先頭を切って。
「ぷりゅ!?」
 はっと。こちらを見るつぶらな瞳たち。
「ぷりゅー」
「ぷりゅぷりゅー」
「みんな、お待たせだしーっ!」
 いななき。
「ぷりゅーっ」
 後ろ蹴り。その勢いに吹き払われるように黒が引いていく。
「ちょっ、白姫、あまりやりすぎるのは」
「ぷりゅ!」
 負担。そうだ。
「ぷりゅー」
 不服ながら。ヒヅメ先を抑え、背後を守るように立ちはだかる。
「ぷりゅぷりゅー」
「ぷりゅりゅー」
 ありがとう。口々に。
「ぷりゅいたしましてなんだし」
 誇らしく。
「でも」
 どうして。こんなところに固まるようにして。
「あっ」
 気がつく。
 薄皮一枚。かろうじて。
 そんな悲壮さで守り通したそれは。
「何だし?」
 あわく輝く。あたたかな。
「!」
 広がる――


『メカシロヒメだし!』
 笑顔。
『熱いヒヅメをかわしあったんだし! もう友だちなんだし!』
 迷いのない。
『よろしくお願いしますね、メカ白姫』
 同じく。
『よろしく』
 みんな。
『PU・RYU』
 応えた。そのときから。
『メカシロヒメは優しいいい子なんだし。メカのシロヒメなんだから』
『だったら、白姫ももうすこし優しくしてください』
『優しくして』
『うるせーし! どこが優しくないってゆーんだしーっ!』
『きゃあっ! そういうところですよーっ!』
『や、やめて』
 そこは。にぎやかであたたかくて。
 どこか。
 彼と。
 一緒にいた時間に似ていて。
『PU・RYU』
 自分も。
 このあたたかさの中で。
『行くんだし、メカシロヒメーっ!』
『悪い妖怪やっつけんだし! メカシロヒメはメカカベやるし!』
『馬の惑星なんだし! メカシロヒメは馬と人とをつなぐ希望なんだし!』
 夢を。それは。
 可能性。
 望んでいた。
 様々な。
 だから。
 失いたくない。
 時間。
 共に分かち合うことのできた。
 確かな。
 PU・RYU。
 確か……な――


「っ」
 我に。
「いまのって」
 目を見かわす。
「ぷりゅ……」
「う……」
 やはり。同じものを。
「メカシロヒメ……」
 その瞳に。
「ずっと……ずっと……」
 光る。
「かわいそうなんだし」
「白姫……」
 それは。自分も。
「かわいそう」
 さらに。
「っ」
 思わず。
「かわいそうじゃありません!」
 口に。
「だって」
 そうだ。
「自分たちが」
 いた。
 いいや、いる。
「待たせてしまったんだし」
 ぽつり。いななく。
「だから」
 顔を上げ。
「その分、いーーっぱい、たーーーっくさん仲良くするんだし!」
「う。する」
「そのためにも」
 きっ! あらたなる決意の。
「やっつけんだし。メカシロヒメをいじめる悪者を」
「はい!」
「う!」
 気持ちは。同じ。
「ぷりゅりゅっ」
「ぷりゅぷりゅっ。ぷりゅっ」
 そこに。
「どーしたし、ミニシロヒメたち」
「ぷりゅっ」
 鼻先を。
「!」
 黒。
「はわっ!」
 同じ。
 しかし、濃度が。密度が違う。
 はっきりと。
「な、何ですか」
「いるんだし」
「えっ!」
 それは。
「敵」
 自分たちの友を。傷つけようとする。
「あの向こうなんだしーっ!」
「し、白姫!」
 飛び出す。
 とっさにそれに続き。
「!」
 突き抜けた。

ⅩⅢ

『間に合わなかった』
 それは。
『馬鹿な。姫を守る騎士たちが』
 ノイズ混じりの。
『それでも』
 確信を。
『姫は必ずお戻りになられる』
 自分にも。言い聞かせるよう。
『お迎えするんだ』
 そして。
『キミが』
 優しく。
『姫のために駆ける脚となり、その身をお守りする鎧となる』
 希望を。
『キミなら』
 それが。最後の。
『ごめんね』
 それから――
 どれだけの時を経ただろう。


「っ」
 また。
「メカシロヒメの記憶だし!」
 いち早く。
「!?」
 それが。
「あ……ああっ」
 消えていく。
 いや、飲みこまれていく。
 黒に。
「何すんだしーっ!」
「ま、待ってください!」
 必死に。
「はわっ……わ……」
 巨大な。
 械騎士たちを圧倒した雄姿そのままの。
(あの)
 データを。取りこんで。
「ブラックメカプジラだし」
「!」
 とんでもない。
「こんな」
 その威容。などという言葉ではとても追いつかない。
 圧倒的。
 眼前を覆い尽くす。
 いや、この空間自体をも。
「そんな……」
 どうしようもない。
 大軍をも一蹴した。それを自分たちだけで。
「ひるんでんじゃねーし」
「っ」
「ブラックメカプジラはしょせんニセモノなんだし。本物のメカプジラとはぜんぜん違うんだし」
「えっ」
 いや、見た目は。
「違うし」
 言い切る。
「だって」
 真剣な。
「メカシロヒメの思い出はここにあるんだし」
「あっ」
 ほんのわずか前。
「守り通したんだし」
 そうだ。黒にのみこまれそうな中、最後の最後まで。
「シロヒメたちとの大切な思い出なんだし! それをシロヒメたちが守らなくてどーすんだし!」
「……はい」
 その通りだ。
「守らないと」
 それでも。
 視界いっぱいに立ちふさがるこの途方もない存在に対して。
「いまこそだし」
「えっ」
「メカシロヒメの想いを」
 光が。
「力に変えんだし」
「し、白姫」
 何を。
「叫ぶんだし」
「ええっ!?」
 それは。無理で。
(あ……)
 違う。
 ここはもうおそらく『中』ではない。
 侵食の手を伸ばす敵の本陣。
 だったら。
「やってください」
「やるんだし」
 言われずとも。
「すぅぅぅーーー……」
 大きく。息を。
「ぷ――」
 そして。
「ぷーーーーーやーーーーーーたーーーーーっ!!!」
 いなないた。
「!?」
 直後。
「え……えっ!?」
 光が。ふくれあがる。
「はわわわわ……」
 後ずさり。
「きゃあーーーっ」
 間に合わず。吹き飛ばされる。
「ぐふっ」
 落下。
「な……」
 何が。
「!」
 いた。
 目の前に。
 白い。
 巨大な黒と対峙して。
「プジラ」
「っ」
 まさか。
「じ、じゃあ」
「う」
 うなずく。
「変身した」
「えーーっ!?」
 というより、巨大化したのでは。
(言ってましたけど)
 変身するとは。
(きっと)
 想いの力も一つになって。
(そうですよ)
 だから。こんな奇跡が。
「ううう……」
 首が痛くなる。それほどの巨体の両者。
 白と黒。
 デジャヴ。
 かつても見た。
 あのときは、白と白だった。
(見た……)
 と。現実とも夢ともつかない。
 記憶からも消えていた。
 それでも。
(あれは)
 思い出。大切な。
 その時間を共有した者にとって。
「あ」
 と。思い出す。
 あの対決の前に自分は。
「きゃあっ」
 ズンッ!
「き、気をつけてください! また踏みつぶしたりしないでください!」
「ぷりゅ?」
 その大きさに見合った。重く響くいななき。
「そんなことはどーでもいいし」
「よくないです!」
「強敵なんだし」
「えっ」
「ここにいるのは」
 するどく。前を。
「心のないメカプジラなんだし」
「……!」
 そうだ。
 その心はいま。
「負けないし」
 力強く。
「正義の大馬獣(だいばじゅう)プジラが」
 いななく。
「悪のメカプジラ、やっつけんだしーっ!!!」
 ビーーーーーーーーッ!!!
「!」
 突然の。
「ぷりゅーっ!」
 ギリギリ。身を投げ出して光線を回避する。
「な、なんて、メカプジラだし」
 冷や汗が。
「いきなりビーム出すなんて。やっぱりワルモノだし」
「プ、プジラぁ」
 たまらず。
「大丈夫ですかぁ! 無茶はしないでくださぁい!」
「無茶は」
 立ち上がる。
「しなくちゃ勝てないんだしーっ!」
 飛び出す。
「!」
 ビーーーーーーーーッ!!!
「ぷりゅーっ!」
 逃げない。今度は。
「ぷりゅぷりゅキーーック!」
 すでに破り方は。
 恐れることなくヒヅメを。
「!?」
 変わる。軌道が。
「ぷりゅっ!」
 かすめた。
「プジラぁっ!」
「ビーム、曲がった」
 信じられないと。
「ぷりゅりゅりゅりゅ……」
 顔をしかめ。
「何でもありだし」
 それでも。立つ。
「さすが、ワルモノなんだし」
「そんなことを」
 言っている場合では。
「これで決まったし」
「えっ」
「正義の味方が」
 ひるむことなく。
「ワルモノに負けるわけないんだしーっ!」
 立ち向かっていく。
「プジラーっ!」
 無謀だ。
「ああっ!」
 ビーーーーーーーーッ!!!
「ぷりゅーっ!」
 引かず。正面から。
「ぷーーーやーーーたーーーっ!!!」
 ほとばしる。
「!?」
 いななき。咆哮が。
 波動に。
「きゃあっ」
 激突。衝撃が突風となって押し寄せる。
「あうーっ」
「ユイフォン!」
 飛ばされそうなところをあわててつかまえる。
「はわわわわわわ……」
 拮抗。
 どちらが押し勝つのか。
「がんばってください、プジラーーーっ!」
「がんばってーっ」
 声援。せめてもの。
「!」
 膝を。
「プジラ!?」
 はっと。
(ビームが)
 かすめた。そのダメージが。
「プジラーーーーっ!」
 吹き飛ぶ。
「ああっ!」
 衝突で圧縮されたパワー。それが巨体をも容赦なく。
「きゃっ」
 ズゥゥン!
 大地が。正確にはそうでないものが。
「ぷりゅりゅりゅりゅ……」
 ふるえる。脚で。
「負けないんだし」
 立ち上がる。
「プジラだけじゃないんだし」
(……!)
 それは。
(そうですよ)
 友の想いも。背負って。
(自分にも)
 何か。
「あっ」
 そうだ。この『世界』でなら。
「声を」
「う?」
「もっとです!」
「う!?」
 驚かれるも。
「負けないくらいです! できるはずなんですよ!」
「で、できる?」
 何がと。
「プジラを助けるんです!」
 息を。大きく。
「すぅ――っ」

「アホーーーーーーーっ!!!」

「ぷりゅ?」
 こちらを。
「ぷりゅーっ」
 ブゥゥゥゥオンッ!
「きゃーーーっ」
 ヒヅメが。いつもとは比較にもならないほど巨大な。
「ああ、危ないですよぉっ!」
 洒落にならない。
「ぷりゅ」
 ぎろり。はるかな高みから。
「どーゆーことだし」
「えっ」
「プジラに向かって『アホ』って。大馬獣、なめてんだし?」
「ち、違いますっ!」
 あわてて。
「う!」
 そこに。
「プジラ、後ろーっ」
「ぷ!?」
 身構えるも。
「!」
 一瞬遅く。超合金のヒヅメが今度は。
「ぷりゅーーーっ!」
 激しく。後方に。
「プジラーーーーっ!」
 大変な。
「ぷりゅっ」
 こらえる。
「え……」
 怒りの。
「なに、邪魔してんだしーーーっ!」
 突進。
 黒の巨馬を吹き飛ばす。
「プジラ!」
 逆転を。
(やっぱり)
 自分の声が。想いが。
 ここでも力に。
「ぷりゅ」
 ぎろり。
「え……」
 また。
「後できっちりカタつけるし」
「な、何を」
「アリスに『アホ』呼ばわりなんてとんでもない侮辱だし。アホのアリスなんかに」
「アホじゃないです!」
「正確には、プ辱だし」
「なんですか『ぷじょく』って!」
 とにもかくにも。
「ぷりゅーっ」
 威気高く。突撃を。
「よかった」
「ええっ?」
「やる気出た」
「出ましたけど」
 これも。力になったとは。
「ぷりゅぷりゅぷりゅぷりゅぷりゅーっ!」
 立て続けの。
(これって)
 押している。
 それでもヒヅメを止めることなく。
「ぷ……!」
 浮いた。
「えっ!?」
 何が。
「ああっ!」
 いつの間に。
 黒いたてがみ――正確にはそれを模した部位からクレーンのようなものが伸びて。
(ほ、本当に)
 何でも。ありの。
「離すし! 離すんだし!」
 ブォン、ブォン! 勢いよく脚は振られるが決定的な打撃とはならず。
「ぷりゅーーーーっ」
 放り投げられる。
「プジラーっ!」
 ズォォン! 先ほどにも増して。
「大丈夫ですか! しっかり――」
 そのとき。
「っ」
 向けられる。
「え……」
 冷たく光る目。
「まさか……」
 ズン!
「きゃあっ」
「く、来る」
 ズシン! ズシン!
「はわわわわわ……」
 同じ。
 敵にとっては。
 異物。
 わざわざ調べるまでもない。
 懐の中。
 それこそ体内から排出するように消してしまえば。
「に、逃げましょう」
「どこに」
「どこって」
 黒で支配された。
 かろうじて、自分たちの周りだけが。
(どこにも)
 ズシン! ズシン!
「あ……ああ……」
 もう。
 目の前に。
「っ」
 だめだ。このまま。
「………………」
 来ない。
(……え?)
 顔を。
「!」
 止まって。いた。
 こちらの目の前すれすれのところで。
「な……」
 なぜ。
「PU……RYU……」
 はっと。
「メカプジラ!」
 それは。
(あっ)
 きっと。
 吸収したデータの中に。わずかながら。
(それが)
 止めてくれた。
(自分たちが)
 友だち。だから。
「ぷりゅーっ」
「あっ!」
 そこへ。
「プジラ!」
 組みつく。
「返してもらうし」
 かすかに。動揺の。
「メカプジラから……メカシロヒメから取ったもの! 全部返してもらうんだしーっ!」
 そして。
「ああっ!」
 見た。
 黒の中から。にじみ出す。
「ぷりゅぅぅぅぅ」
 逃がさない。懸命の。
 そこへ。
 白い。
 光。
 無数の糸のようなそれに包みこまれ。
「!」
 はじける。
「あ……」
 目を。
「メカ……プジラ」
 違う。
 けど同じ。
 白銀の。
 鋼皮を鎧のようにまとった。
「ぷりゅぅ……」
 重々しく。
「生まれ変わったし」
「えっ」
 確かに。見た目は。
「カンペキなんだし」
(完璧……)
「生まれ変わったプジラは」
 いななく。
「プーフェクトプジラなんだしーーーっ!!!」
 咆哮。
 比べものにならない。
 その直撃を受けた相手だけでなく。
「きゃーっ」
「あうーっ」
 こちらまで。
「パ……でなく、プーフェクト?」
 共に。目を回し。
「なんだかよくわからないけど、とにかく強い」
「で、ですね」
 うなずく。
(だって)
 友情で結ばれた。その力が。
「ぷりゅーっ!」
 突撃。真っ向からの。
「あっ!」
 ビィィィィィッ! 光線が。
「効かないんだしーっ!」
 ピシャァァァッ!
「ああっ!」
 弾かれた。
「バリア!?」
 まさに機械というか。当然これまでにはできなかったことだ。
「すごい」
 その力を。まざまざと。
「行くしーっ!」
 跳躍。
「!」
 今度は、機械にはできない生命力あふれる動き。
(二つの)
 力が。一つに。
「ぷりゅぷりゅキーーーック!」
 得意の後ろ蹴り。これも。
「!」
 重い。
 装甲によってこれまで以上の力強さが。
「見て!」
「あっ」
 火花が。黒いボディの表面に。
「効いてる」
「効いてますよ!」
 確信を。
「もうすこしですよ、プジラーっ!」
「プーフェクトプジラだし!」
 そこはと。
「ぷりゅーっ!」
 ますますの。気合を乗せ。
「プーフェクト・ビィーーーーム!」
「ええっ!」
 ビームまで。
「ぷーーーーやーーーーたーーーーっ!!!」
 咆哮。共に。
「!?」
 ほとばしる。
 超波動。
 ただの光線とはまるで違う。もはや大砲というべき。
「すごすぎる」
「は、はい」
 息を。
「あ……!」
 直撃を受け。黒から白煙が。
(い、いえ)
 違う。
 それはあらたな。
(メカプジラの)
 ひび割れから。あふれ出す。
 とどまることなく。
「もうすこしだし」
「えっ」
「返してもらうし! メカプジラの全部!」
 そのとき。
「あっ!」
 不意の。猛進。
「ぷりゅ!?」
 こちらも意表を突かれ。
「ああっ!」
 組みつかれる。先ほどとは逆に。
「プジラ!」
「プーフェクトプジラだしっ」
 それでもの。
「離すんだし! おーじょーぎわ悪いし!」
 ジタン! バタン!
「何を……」
 不安が。
「!」
 目が。不気味な点滅を。
「ぷりゅっ。ぷりゅっ」
「えっ」
 足もとで。
「どうしたんですか、ミニ白姫」
「ぷりゅぷりゅっ。ぷりゅっ」
「あ、あの」
 わからない。だがそのあせりだけは否応なく。
「ぷりゅーっ、ぷりゅーっ」
 身ぶりヒヅメぶり。
「ぷ……!」
 その必死さが。離れていても伝わって。
「逃げるんだし!」
「えっ」
 突然の。
「なんで」
 こちらが有利なのでは。
「ジバクだし!」
「えっ!」
 自爆!?
「そんな」
 しかし、機械なら。
「に、逃げないと」
 つぶやき。はっと。
「プジラは?」
 このままでは。
「プーフェクトプジラだしぃぃ……」
 訂正している場合では。
 しかし、全力でふりほどこうとしても、のしかかった巨体はまったく動く気配がない。
「ど、どうし……」
 あわあわ。どうすることも。
「ぷりゃーーっ!」
 いななきが。こちらに向けて。
「きゃあっ」
「あうっ」
 吹き飛ばされる。
「プ、プジラ!」
 ごろごろと。地面を転がるころにはだいぶ距離が。
「何をするんですか! 自分たちは」
 何も。
「そんな……」
 まさか。
「!」
 閃光。
「プジラーーーーーーーッ!」
 巨大な二つの影が。完全に包みこまれるほどの。
「あ……ああ……」
 間に合わない。
 もう。
 どうにも。
「やめてください……」
 こちらを助けて。自分だけが。
 そんな。
 そんなことをするような。
「違うじゃないですか……」
 それでも。最後に。
 それが本当だと。
「見て!」
「っ」
 あわてて。涙を。
「え……!?」
 光が。消えない。
「これって」
 どれほど巨大な爆発でもこんなことは。
「見て」
 再び。
「あ……」
 消えていく。
 正確には小さくなっていく。
 ゆっくり。
 そして。
「プジラ!」
 シルエットが。
「プーフェクトだし」
 やはりの。
「吸収してる」
「えっ」
 そうか。
 爆発もまた『データ』とは言えるわけで。
「すごいですよ」
「すごいんだし」
 爆発が。消え。
「えっ」
 そのまま。どんどんとシルエットも。
「ええっ!?」
 止まらない。
「ち、ちょっ」
 一体。
「プジラーっ!」
 もはや。そう呼べないほどに。
 それどころか。
「!?」
 消えた。
「ちょっ、なっ」
 あわてて駆け寄った。そこに。
「ぷりゅ?」
「!」
 がく然。
「な……」
 絶叫。
「なんで、ミニ白姫になっちゃってるんですかーーーーっ!」

ⅩⅣ

 激闘済んで。
「………………」
 なぜ。こんなことに。
「白姫……」
 思わず。
「なんですよね?」
「ぷりゅ」
 うなずかれる。
「ですよね……」
 脱力。
「はぁ」
 座りこむ。そこに。
「ぷりゅ」
「ぷりゅ」
「ぷりゅぷりゅ」
「きゃっ」
 たくさんの。
「あ……」
 見分けが。
「え、えーと」
 とにかく。
(危険なことはもう)
 終わった。のだと。
「あの」
 おそるおそる。
「メカ白姫のところまでつれていってもらえますか」
「ぷりゅ」
 あっさり。
「ぷりゅー」
「ぷりゅぷりゅー」
 先導されて。
「ミニ白姫たち、かわいい」
「はぁ」
 かわいいことはかわいいが。
「ぷりゅーっ」
 パカァン!
「きゃっ」
 いつもより。衝撃は小さいものの。
「な、何をするんですか!」
 はっと。
「白姫……?」
「ぷりゅ」
 うなずかれる。
「やっぱり……」
 脱力。再びの。
 わかりやすいというか。
「ぷりゅぷりゅ。ぷりゅっ」
「い、いや、ミニ白姫たちがかわいくないというつもりでは」
「ぷりゅっ」
 当然と。
(うう……)
 わかりやすい。
「……あ」
 思い出す。自分たちも一度。
「えーと」
 変わっては。いない。
 隣を見るも、やはり変化はない。
「う?」
「あ、いえ」
 あいまいに。
(大体、ミニ白姫たちだって)
 何なのか。はっきりしたことは。
 それも含めて。
「行きましょう」
 答えが。きっと。


「手の施しようがない」
「えっ」
 耳を。
「彼女たちに合わせると『ヒヅメの施しようが』かな」
「い、いやいや」
 何を。唐突に。
「ヒヅメの恩返し」
「えっ!」
「昔話だよ」
 たんたんと。あえて感情を抑えるように。
「昔々」
 そして。
「世界から馬が消えました」
「ええっ!」
 思いがけない。ショックの。
「そんな」
 いるではないか。
 ペガサスやユニコーンなら。
「あ……」
 違う。
 翼や角を生やした。それは正確には〝馬〟ではなく。
「どうして」
 認めてしまうような。
「どうしてだろうねえ」
 とぼける。というわけでなく。
「そちらの世界もだろう」
「えっ」
「だんだんと」
(う……)
 そうだ。
 馬は。
 必要とされなくなってきている。
 世界の多くの地域で、人の力となり共に支え合ってきた存在が。
「……!」
 と、そこで。
「いま」
 聞き間違え? いや。
「『そちらの世界』って」
 自分たちのことを。
「わかるよ」
 当然と。
「言ったじゃないか。こちらの世界の馬は消えたと」
「あ……」
 だから。
「そして、姫も消えた」
「っ」
「間に合わなかった」
 それは。記憶の欠片で。
「夜にヒヅメの降るごとく」
 先ほどから。
「な、何なんですか」
 不安ばかりが。
「ハカセ」
 詰め寄る。
「ちゃんと」
 言ってほしい。ごまかすようなことなく。
「弱ったな」
 頭をかく。人間らしい仕草を。
「強いんだ」
「強い……」
 それは。
「強いですけど」
 械騎士の軍団を一掃した。
 その力を強大な敵から奪い返しもした。
「どっちも」
「近い」
 はっと。
「近づきすぎた」
「それって」
 どういう。
「言っただろう」
 静かに。
「馬はいなくなった」
「はい……」
 こちらでは。
「世界には想いが降り積もった」
「えっ」
 先ほどから。詩人のようなことを。
「想い」
 くり返す。
「近づけたんだ」
「あ」
 ようやく。
「メカ白姫が」
 うなずく。先んじて。
「そうなんですね」
 目を。
「だから」
 自分たちは。
 出会った。
「それで」
 メカ『白姫』なのだ。
 想いのこめられた。
 その想いをそのまま形にした。
〝本物〟が。
 それが。
 彼女を――決めた。
「望んでいたことでは。いや、存在そのものの望みとでも言おうか」
 頭を。
「ああ、うまく言葉にできないな。さっきからまるで詩のようなことばかり」
 自覚はあったのか。
「ありがとうございます」
 それでも。伝える努力を。
「白姫は」
 見る。
 ずらりと並んだ。
「う……」
 圧巻。
 黒に侵食されかけた空間を。今度は見渡すばかりの。
「白姫」
 呼びかける。
「ぷりゅ」
 いっせいに。
「………………」
 絶句。
 わかりやすい。思っていた。
 それが、もう。
「白姫」
「ぷりゅ」
 同じだ。
(これが)
 近づきすぎたと。
「どうなるんですか」
 おそるおそる。
「見ての通り」
 つまり。
「ここへ入るために姿を借りていたのとは次元が違う」
「じゃあ!」
「我々は異物だ」
 かぶせるように。
「彼女は違う」
「………………」
「違わなすぎた、と言うべきか」
 視線を。
「そんな」
 では。このまま。
「PU・RYU」
「……っ」
 いななき。
「メカ白姫!」
 やはり。小さいものの。
「ですよね? そうですよね?」
「PU」
 うなずきを。
「あの、その」
 けれど。
「その……」
 言葉が。
 どう。言えば。
(白姫を)
 返してほしい。
 そう。
(そんな)
 言えるはずが。
 ずっと。求めていた。
 名前まで自分のものとして。
 それくらい。
 なりたかった。
 その。
「あ、あのっ」
 それでも。
 自分たちは。
「ぷりゅーっ」
 パカァン!
「きゃあっ」
 あざやかな。
「なな、何を」
 はっと。
「白姫!?」
「ぷりゅー」
 にらまれるも。
「白姫ですよね! 白姫なんですよね!」
 他に。こんな乱暴な。
「どうして」
 すると。
「メカ白姫、いじめるから」
「ええっ!?」
 横からの。
「い、いじめてなんていませんよ!」
「いじめようとしてた」
「そんなこと」
 それは。
「いじめ……では」
 だったら。
「ユイフォンは」
 見る。
「白姫がいなくなってもいいんですか?」
「いなくならない」
「でも」
 このままでは。
「いなくならない」
 再び。
「いるから」
「いますけど」
 いまは。
「ぷりゅっ」
 こちらも。
「白姫……」
 事態を。わかって。
「……う」
 だめだ。
「いやですよぉ」
 止まらなく。
「ずっと一緒だったじゃないですか」
 どうしようも。
「こんな……こんな」
 そのとき。
「っ」
 響く。
「これって」
 歌っている。
「あ……」
 小さな――『白姫』たち。
 だからこそ。
「………………」
 心が。
 あたためられていく。
 静かに。
 優しく。
「みんな、歌、上手」
「ですね」
 悲しみ一色だった。胸に。
 確かに。
「ぷりゅは世界を救うんだし」
「はい……」
 うなずき。かけ。
「……え?」
 そこに。
「し……」
 はっきりと。元の姿の。
「白姫!」
「ぷりゅっ」
 はっと。
「ぷ、ぷりゅ?」
 わたわた。
「シロヒメ……」
 あぜんと。
「戻っちゃってるし」
「戻っちゃってますよ!」
「どーゆーことだし!」
 興奮して。
「メカシロヒメ!」
「っ」
 そうだ。どういうつもりで。
「あ……」
 様子が。
「メカ白姫?」
 動かない。
「どうしたんですか、メカ白姫」
 答えない。
「え……ええっ」
 何が。
「これは」
「白姫?」
「違うし」
 頭を。
「白雪姫だし」
「えっ」
 どういう。
「知らないんだし?」
「知ってはいますけど」
 童話のことなら。
「白雪姫なんだし」
 くり返す。
「メカシロヒメが」
「ええっ!?」
 思いもよらない。
「ち、違いますよっ」
「違わないんだし」
 頑なに。
「眠ってしまったんだし」
「それは」
 確かに。お話ではそうだが。
「アリスが」
 ぷりゅぎろり。
「毒リンゴ食べさせたんじゃねーんだし?」
「なんてことを言ってるんですか!」
 否定。すぐさま。
「じゃあ、なんで動かないんだし! 大きなのっぽのメカシロヒメになっちゃってんだし!」
「い、いや」
 大きなのっぽ――になることはなるが。
「動かないのは」
 わからない。突然すぎて。
「ハカセ!」
 やはり。
「………………」
 沈黙。おもむろに。
「……そうか」
「なにが『そうか』だし! 自分だけで納得してんじゃねーし!」
「確かに」
 うなずき。
「こうするしかないのか」
 それは。どこか。
「ハカセ……」
 不安が。また。
「はっきりゆーんだし! どーなっちゃったんだし!」
「正解だよ」
「ぷりゅ?」
「そう……」
 おもむろに。
「白雪姫さ」
「えっ!」
「ぷりゅ!」
 共に。
「やっぱり、アリスが」
「食べさせてないです!」
 そんなことより。
「そのときまで」
 静かに。
「眠り続けるんだよ」
「そんな……」
 やはり。
「それって」
「そのこともある」
 先んじて。
「それだけじゃない」
「じゃあ」
「万が一にも」
 真剣な。
「奪わせてはならない」
「……!」
「なぜなら」
 手を。胸に。
「姫のためにこそ」
 それは。
「あっ」
 いま。はっきり。
「そうだったんですね」
 だから。
「メカ白姫は」
 自分たちの。
「真緒(まきお)ちゃんが」
 いたから。
 最初に争うようなことになったのも。自分の存在意義とも言える存在のすぐそばに。
 求められていた本来の――そう呼んで過言でない。
「メカシロヒメ……」
 動かない。そこに鼻先をすり寄せる。
「水くさいんだし」
 そうだ。
「自分たちは」
「う」
 近づく。
「友だちです」
「友だち」
 当然と。
「マキオだって」
 確信を。
「きっと、メカシロヒメに会いたいんだし」
 動かない。まま。
「あ……」
 光る。
「これって」
「ぷりゅ……!」
「う……!」
 涙。
「メカシロヒメ……」
 鼻先を。いっそう優しく。
「さびしい想いはさせないんだし」
「はい」
「う」
「すぐに」
 ゆるぎない。
「マキオと一緒に帰ってくるし」
 それは。
 全員の。
「また、みんなで一緒に遊ぶんだし」
 返事がなくとも。
「じゃあ」
 ふり返らない。
「行くし」
「はい」
「う」
 並んで。
「あっ」
 止まる。最後に。
「さ――」
 その先は。
「………………」
 言えない。だから。
「……おやすみなさい」
 そう。
「今度は」
 笑顔で。
 お互いに。
『PU・RYU』
 聞こえた。
 気がした。

さよなら、メカ白姫

さよなら、メカ白姫

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-06-11

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. ⅩⅢ
  2. ⅩⅣ