光の傷
さぁこの手を取って!駆け出していこう!
たとえその手が痛くとも、私は貴方と一緒に居たいんだ。
どうして…って貴方は私の「神様」だから!
どこへ行こうか?何をしようか?
泣きじゃくってもいいんだよ。
また忘れてしまったの?
貴方は独りじゃない。
独りじゃないんだよ。
……以上は幻聴だ。
有り得ないことだ、堕ちた部屋であやす様に木霊する声。
現状を網羅していない声など、聴こえるわけが無い。
たとえ、自らの声色であっても、此処に存在するのは、真っ黒な言葉だけ。
闇が立ち込めて、押し潰される体躯。
頬を伝うものが何か、私には知り得ない。
今日も神様が降り立つことはなく、
果敢な勇者だけで、悲惨な戦いが繰り広げられる。
休息などない。あるわけがない。
傷付いた身体は血を流すことはなく、観測されることもない。
たった1つに激情がどれだけ詰め込まれていようとも。
過去は何も語らない。
今差し込む夜明けだけが、現実を知らしめる。
独りだと。
酷く傷む手は、真っ赤に染まって、
崩れる身体は、亀裂を増やしていく。
願っても贖っても自己満足で済まされていく。
そうして、空しく終わる未来のままだった。
それでも今日も盲目に幸福を味わう。
誰にも気づかれないよう、悟られないよう、只管に。
静かに蝕まれていることに自ら気づかないまま。
疑義を抱く必要はない、はずだった。
溌剌に生きる上辺も信じられなくなって、言い聞かせるように呟く。
「これでいい。これが幸せ」なのだと
「これで誰も傷つけない」
言葉を吐く度に、理解も濁流に呑み込まれて、
迷路から抜け出せないまま、
汚れだけは確かに深く根差していく一方で。
きっとこれは悪魔のせいだ。
奴らは襲ってくる。
飽きもせず、私を陥れようとする。
「本当にこれでいいのか」と
「お前はそれで満足なのか」と
叫ぶ。跳ね除けるように。
総て、私のせいと知っていても。
「ねぇ、どうか視えているなら、答えて」
両手を固く絡ませても返事はない。
あるわけが無い。
空想の神様はこの世に絶対いる。
崇高な宗教は私を救ってくれる。
なんて、あまりに盲目すぎる。
街は何事もないように静かで。
声に出しても誰にも届くことはない。
呆れるほどやるせなさを感じていても、激情はやがて去っていく。
眠りにつくように。
少女は白い世界で錆びた夢を見る。
過去の繰り返しを。古びたテープを巻き戻すよう何度でも。
黒い言葉がない場所へと。
本を大事そうに抱えて、壁に凭れうたた寝をする少女。
「…どうしてその本を持っているの?」
それは、私だけの秘密なのに。
少女は目を開く。その真っ直ぐな瞳を。
「だってあなたの中にあるから。」
夢の世界に逃げていけば、幸せに苛まれる。
呆れる程、擦り切れる程、ありきたりな物語。
ここは始まりの場所。
一生色付くことの無い、無垢な再会。
真っ白な世界で待つ愚直な子。
無くしたくない、と思い続けた。
私の元から去ってしまう想い。
幾度となく違う未来を選択しようとも巻き戻る。
また、傷が一つ。
「さぁこの手を取って!
待ち侘びていたことを共有しよう。
そして、もう二度と離さずいられるように。
たとえまた忘れても、痛くても、もう亡くさないように!
しっかりと刻みつけておきましょう!?
忘れないで。過去を。
忘れないで。私を。
そうすれば、もっと楽しいことが待っているんだよ!
この手を離さないで、駆け出して行こう!
ずっと、一緒にいようね!」
そしてまた救済の無い、愚かで生意気な人生を。
光の傷