メープルの森

可愛い動物たちの日常を覗いて見てはいかが?美しい木漏れ日の森に古びた時計、切り株の机、優雅なティータイム!ぜひ、心癒されていってくださいm(_ _)m

お茶の時間ですよ( *´꒳`* )

(し〜んとした森。時計の音も聞こえない。ふわふわの葉っぱの上に、うさぎのメープルが飛び跳ねながらやってくる)

メープル「クルト〜!ティオ〜!もうティータイムの時間なのに、どこ行ったの〜!?……って、あれ?時計、動いてなくない??」

(遠くの木の枝からフクロウのティオが、メガネをずらして見下ろしている)

ティオ「動いてないねぇ。ていうかこの森の時計、300年くらい前から止まってるよ。」

メープル「えっ!?じゃああたしたち……ずっと……」

ティオ「うん。ずっと“そろそろおやつの時間かも”のまんまだね。」

(もさっ、と横の草むらからナマケモノのクルトが半分寝たまま出てくる)

クルト「……じゃあ……今からが……ちょうど……ティータイム……?」

ティオ「たぶん一生ティータイムかもね。」

(みんな、ちょっと考えてから、ふわっと笑う)

メープル「ま、いっか!おやつ食べよー!」



ティオ「今日は……もみじクッキー、紅茶、ドングリケーキだね。」

メープル「すごいでしょ!こんなにとってこれたんだよ!」

クルト「すごいねメープル、こんなにおいしそうなおかしと紅茶なんて、どこからとってきたの?」

ティオ「まさか……クマさんのとこからとってきたの!?」

メープル「そんなまさか!ぼくがクマさんのとこからおかしをとったら、食べられちゃうよ!」

メープル「これはリスさんからもらってきたんだよ!あ、どうせだしリスさん呼ぶ?」

ティオ「うん、呼ぼう呼ぼう。リスさん、話すといつも早口で何言ってるか半分くらいしかわかんないけど。」

クルト「……でもテンション……たかくて……すき……」

(メープルが森の奥に向かって、大声で呼ぶ)

メープル「りすさーん!!おかしありがとー!!ティータイムしよー!!」

(がさがさがさっ、ぱぱぱぱっ!!音速で枝を飛び回りながら登場)

???「えっなにっ呼んだっいまっえっまじでおかし?食べるの?わたしも??」

(葉っぱの上に着地したのは、ちっちゃな体にふわふわのしっぽ、目がきらきらした元気すぎるリスの「チュチュ」)

チュチュ「ドングリケーキどう?あれ、なんとね、バター入ってるの!リス界じゃ高級!テンションあがる!」

ティオ「やっぱりわかんないとこあったけど……おいしそうなのは伝わってきた。」

クルト「……ドングリ……うまい……」

(みんなで丸くなって、ふわふわの葉っぱの上に座る)

メープル「じゃあ、時計は止まってるけど、ティータイム……はじめよっか!」



(空はゆるふわなピンク色。時間は止まってるけど、幸せだけが進んでいく――)

ガサゴソガサゴソ……

メープル「ん?なにかいるの?」

ティオ「ヒツジのシーさんじゃない?いっつもどこかから隠れて出てくるし。」

クルト「シーさん……おいで……いっしょに……」

クルトは寝てしまった。

メープル「なんだシーさんか。ねえシーさん!こっちにおいでよ!」

ガサゴソガサゴソ……
返事は無い。

ティオ「いつもなら出てくるのに……おかしいなあ」

チュチュ「ちょっとちょっと!僕特製のどんぐりケーキともみじクッキー、いらないの?」

チュチュが草むらをかき分けた。

チュチュ「うわあああああああああ!!!!!」

チュチュの悲鳴が森中に響き渡った。

メープル「チュチュ!?どうしたの!?」

草むらから出てきたのは、怯えたチュチュと…
何かに頭を撃ち抜かれたクマのベイだった。



(みんなの目の前に転がる、静かすぎるクマのベイの姿。ティータイムの空気が、一瞬で凍った)

ティオ「……これは……ただの事故じゃない……誰かが、明確に、狙ってる。」

メープル「……そんな……誰が……?」

チュチュ「ぼく……見ちゃったかもしれない……さっき森の奥で、黒い影が……立ってた……」

ティオ「森の奥……?そこは“しずまりの古木”がある方角だ……」

(ティオの目が、月明かりの中で静かに光る)

ティオ「……この森には、昔から言い伝えがある。“時の止まった森には、目を覚ました何かが棲んでいる”……」

(メープルがぎゅっとチュチュの手を握る)

メープル「ぼくたち……どうすればいいの……?」

ティオ「……まずは、シーさんを探そう。もしあれが彼女の見たものだったなら……次に狙われるのは、僕たちかもしれない。」

(クルトはまだ寝ている。が、彼の目の奥が、ほんの少しだけ開いたような気がした――)

ティオ「まさか……」

メープル「ティオ?なにかしってるの!?」

ティオ「前に本で読んだんだよ……」

チュチュ「……な、何を見たの?」

ティオ「ニンゲンの存在」

メープル「…………!!」

チュチュ「ニ、ニンゲンって?」

ティオ「ニンゲンは、サルさんたちやゴリラさん、チンパンジーさんと似ている姿をしていて、とても頭が良く、時に動物を……」

チュチュ「……動物を…はっ!!」

チュチュはベイを一瞬見た。

ティオ「殺して、食べる。」

メープル「やめて!それ以上言わないで!」

クルト「ティオ!……だめだよ!」

ティオ「……え?メープル?クルトも、何が?」

クルト「メープル……お父さん……」

ティオはしまったと解説したことを強く後悔した。

チュチュ「え!?なに!?メープル!?」

クルト「ごめんねチュチュ……メープルは……」

「お父さんを……ニンゲンに……」
殺されたんだ。



(しん、と森が沈黙する。チュチュの声もティオの言葉も、風に消える)

(メープルは、ふるふると耳を震わせながら、前を見ている。だけど、その目はもう遠くの思い出を見ていた)

メープル「ぼくのお父さんは……すっごく力持ちで、やさしくて……森で一番大きい葉っぱをいつも見せてくれて……」

(声が、少し震える)
「でも、帰ってこなかったんだ。あの日、森の端に“光るもの”を見に行くって言って……」

ティオ「メープル、ごめん……」

クルト「……ティオは、わるくない……でも……あのとき、森に落ちた“ひかるかけら”……それがニンゲンの道具だった……って、本に……」

チュチュ「そんな……そんな存在が本当にいるの?……森の外から来て、こんなこと……」

ティオ「実在する……と、言われてる。だけどずっと昔にいなくなったって、ぼくたちは思ってた。森の時間が止まってからは、誰も見てないって……」

メープル(小さく)「でも、ベイが……撃たれたってことは……まだ、“そこ”にいるんだ……」

(ふわふわだった空気が、今にも破れそうなほど、静かになった)

メープル、ティオ、クルト、チュチュの間では確実に、空気がどすんと重くなっていた。

メープル「お父さん……お父さん……!」

ティオ「メープル……」

チュチュ「なんで……」

ティオ「……え?」

チュチュ「なんでニンゲンは……僕たち森のいきものを殺すの?」

ティオ「……」

チュチュ「なんで食べないのにベイを殺したの!?どうして僕たちを殺そうとするの!?」

ティオ「チュチュ!!」

ティオは落ち着けと言わんばかりにチュチュを怒鳴った。

ティオ「……生きるためさ」

チュチュ「…………は?」

ティオ「僕たちだって、虫たちや魚、葉っぱを食べてる。そしてそれらもみんな生きてる。僕たちが生きるには何かを殺すしかないんだ……」

チュチュ「だからって!なんでベイやメープルのお父さんを!」

ティオ「本で読んだんだ……とても強かったメープルのお父さんやクマたちは、ニンゲンにとって『害獣』として駆除される。」

「ニンゲンにとっては、ぼくたちは生きるために必要であり邪魔である、矛盾した存在なんだよ。」

(風の音が、葉を揺らす。誰も、すぐには言葉を返せなかった)

(メープルは俯いたまま、両手で頭を抱えていた)

メープル「……わかってるよ……そんなの……」

(ぽつりと、声が落ちる)

メープル「わかってるよ……誰かが生きるためには、誰かが死ななきゃいけないって……。でも、ぼくのお父さんは……」

(メープルの目に、ぽたりと涙が落ちる)

メープル「……ただ、森の外を見たかっただけなんだよ……!」

(ティオが口を開こうとしたそのとき、クルトが静かに立ち上がった)

クルト「……ティオ……チュチュ……」

(眠っていたと思っていたクルトの目は、ずっと開いていた)

クルト「……ぼくたち……どうする……?」

(誰もすぐには答えられなかった)

(ティオが、小さく息を吐いた)

ティオ「……答えを探しに行こう」

(みんながティオを見る)

ティオ「ニンゲンがなぜ森を出て、ぼくたちを襲うのか。なぜ、今また戻ってきたのか。どうすれば共に生きられるのか……」

「……わからないなら、見に行くしかない」

チュチュ「……森の外に、ってこと……?」

ティオ「そう。ぼくたちで、確かめに行こう。森の真実を」

(沈黙があった。だけどその沈黙のなかに、決意が芽生えていた)

メープル「……行くよ。お父さんが、見ようとした世界。今度こそ、ちゃんと見てやる……」

(森の奥から風が吹いた。葉っぱが、未来の方角を示すように、ざわりと揺れた)

ティオは沢山のニンゲン界にまつわる本を持った。
クルトはみんなの睡眠用具と食料を持った。

「ちゃんとパジャマや布団は持ってきたから、安心して寝れるよ。」

チュチュは冒険のため望遠鏡や方位磁針を持った。
メープルはその他必需品とお父さんの似顔絵を持った。

メープル「前お父さんが行った方角はこっちだったからその方角に行こう」

ティオ「いや、それはやめた方がいいと思う。」

メープル「なんで?」

ティオ「前そこで撃たれたなら、そこで待ち伏せしてる可能性が高いだろう?」

メープル「あ、そっかあ」

クルト「じゃあ……どっちにいく?」

チュチュ「こっちとかいいんじゃない?人気もないし、もってこいだと思うよ」

チュチュはかなり険しい道を選んだ。

ティオ「いや、そっちも危ない。僕たちがもしかしたら怪我をするかもしれない。」

チュチュ「もう!じゃあどっちに行くの!」

ティオ「こっちさ」

ティオはほどよく人気がない、安全そうな道を羽指した。

ティオ「さあ、探しに行こう。真実を。」

(森の木々が、少しずつまばらになっていく。葉の隙間から、白くてまぶしい空が見え始めていた)

メープル「……森って、こんなに明るかったんだね」

チュチュ「うん……なんか、いつもより空が広く感じる」

(クルトはきょろきょろと周囲を見回しながら、そっとメープルの横に並ぶ)

クルト「メープル……こわくない……?」

メープル「ちょっとだけ。でも、やっぱり……ちゃんと見たいんだ。お父さんが最後に見たもの」

ティオ「……“境界”まで、あと少しだよ」

(そのとき――)

カサ……ッ

(草むらが、わずかに揺れた)

チュチュ「!? また草むら!?」

メープル「シーさんじゃないよね……?」

ティオ「動かないで……」

(その“気配”はすぐに消えた。けれど――)

クルト「……なんか、におう……」

(鼻をひくつかせたクルトが、ぽつりと呟く)

クルト「森のにおいじゃない……もっと、金属っぽい……なんか、ツンとする……」

ティオ「……やっぱり、“こっち側”に来てる……ニンゲンが……」

ティオ「……っ!!!」

ティオはキラキラ光るものを見た。

ティオ「みんな!逃げて!」

直後、バーンと耳を痛める音が森中に響いた。

木々に止まっていた鳥たちは一斉に羽ばたく。
地表にでてきたミミズやモグラは急いで土の中へ潜る。
幸いにも、そこに大きな動物は誰もいなかった。
僕たちを除いて。

ティオの叫びと同時に、メープルたちは咄嗟に身を伏せた。

チュチュ「な、なに今の!?撃たれたの!?!?」

クルト「耳が……キーンってしてる……!」

メープル「ティオ!大丈夫!?」

ティオは目を見開いたまま、ただ一点を見つめていた。
その視線の先には、さっきまで立っていた木。
……そこには、大きな“穴”が開いていた。

ティオ「……やっぱり、銃だ。間違いない。これは“警告”……!」

メープル「け、警告……?」

ティオ「当てる気はなかった。でも、もし一歩遅れてたら……」

(ティオは一瞬、喉が詰まったように言葉を止めた)

ティオ「ニンゲンは……“森の中にまで来てる”」

チュチュ「……もう、戻れないんだね……」

(遠く、誰かの足音が響いていた。重たい、規則正しい音。)

クルト「に……ニンゲンだ……!」

メープル「走って!!」

森の奥へ、ただひたすらに――
まだ“知らない真実”の中へと、僕たちは走った。

闇雲に光の射す方へ向かった。

ティオ「……っあ!」

ティオは絶望した。
赤黒い液体を流したシーさんが転がっているのを見たからだ。

メープル「シー……さん?」

チュチュ「さっきの銃撃で狙ってたのは僕たちじゃなくて……」

ティオ「見たらダメ!走って!」

木陰から大きな姿が見えた。

ニンゲンだ。

シーさんに近づいていく。
刃物を取りだした。

ティオ「見ないで!走って!」

シーさんがどうなったのかは……


ひたすらに走った。
ほんとうに、ただひたすらに。
はぐれない事だけを意識して。
森の出口が見えた。
もう少し。
全てがわかる。

チュチュ「これが……」

ティオ「うん……ニンゲンの世界だ。」

そこは建物が並び、とても発展した文明……
"だった跡が残っている。"

メープル「でも……ボロボロだね」

メープルの言葉の通り、その場所には無数の建物が並んでいた。
だけど、どれもこれも……壊れていた。

チュチュ「壁が崩れてる……」

クルト「窓ガラス、ぜんぶ……割れてる……」

(アスファルトはひび割れ、鉄のポールは錆びつき、標識は倒れていた)
ティオは一歩、瓦礫の上に踏み出した。

ティオ「……何があったんだ」

(その時、クルトが何かに気づいて立ち止まった)

クルト「……ねえ、ティオ。これ……ニンゲンの足あと?」

地面にはいくつもの足跡。
それは、ひとつの方向へと続いていた。
森へ向かう、あまりにもしっかりした足取り。

ティオ「……僕たちと、すれ違った?」

メープル「じゃあ……」

チュチュ「まだ、いるの……?」

――カチッ。

チュチュが踏んだのは、金属のかけらだった。
それは、ベイを撃ち抜いた“それ”と、まったく同じ形をしていた。

ティオ「ニンゲンは……森へ入っていった。そして、この世界は、もう……」

チュチュ「……誰もいないの?」

クルト「……ねえ……」

メープル「……?」

クルト「誰か、いるよ」

(その声と同時に、建物の影から、“白い何か”がこちらを見ていた)
人間のような、小さなシルエットだった。

???「た……たすけて……」

そこから出てきたのはニンゲン……のようだが、どこか見覚えがある。

ティオ「モンちゃん!?」

白い何かはサル……それも"アルビノ"だった。

メープル「モンちゃん!なんでここに!」

モン「こっちのセリフだよ……どうやってここにきたの?ニンゲンは……?」

ティオ「大変だったよ……銃を撃たれて、ベイとシーさんも……」

モン「そっか……」

メープル「というか最初、何を言ってたの?僕たちの言葉じゃなかったよ。」

モン「ああ、それはね……」


モンのおじいちゃんは『動物園』で飼われていた。

「こんち、わ」
「こんにち、わ」

モンのおじいちゃんは「お喋りおサル」として人気を博していた。
そしてその子供も、孫も、動物園で育てられ、親の寿命が尽きるのをこの目で見てきた。
そんなある日、動物園は閉店した。
そこにいた動物は逃がされたが、中には処分された動物もいた。
そして閉店した理由は、10数年前に起きた人同士の争いによる、世界の終わりによるものだった。

モン「僕が生まれた頃には、既におじいちゃんは亡くなってて、ニンゲン界も崩壊していたんだ。だから動物園は閉まったし、今森で生きている動物のごく一部はトラウマになって外に出ないようにしてる。」

メープル「そんなことが……」

ティオは俯いて黙っている。

チュチュ「ティオ……辛いよね……」

ティオは突然羽ばたき、4匹を置き去りにして飛びさっていった。

一同「ティオ!」

ティオ「本で見た。どこかに『資料館』というものがあるはずだ。そこにニンゲンの歴史の全てが……」

直後、バーンと音が鳴った。

ティオは、撃ち落とされた。

さっきのニンゲンに。

……静寂。
羽音はもう、聞こえなかった。

クルト「……ティオ……?」

メープル「ティオ!!!!!!」

羽ばたいていた空の先、どこか遠くのビルの上に──
ニンゲンのシルエットが、銃を構えて立っていた。

メープル「なんで……!!なんでだよ!!!!」

チュチュは足が震えていた。
クルトは言葉も出せないまま、空を見上げていた。
モンだけが、誰よりも冷静な目をしていた。

モン「……もう、あいつは完全に“狂ってる”よ」

メープル「……?」

モン「きっと、人間が滅びる直前まで戦って……気づいたら、自分以外、いなくなってたんだ」

クルト「じゃあ……あの人間は、ずっとひとりぼっちだったの?」

モン「……そういうこと。ずっと、誰とも話せずに、何かを恐れて、何かを憎んで、生きてきた」

チュチュ「じゃあ……僕たちのこと、ただの“敵”だって思ってるの……?」

メープル「違う!そんなの違うよ!!」

メープルは涙を流しながら叫んだ。

メープル「ティオは、真実を知りたかっただけなんだ!!お父さんが、なんで死んだのか、なにが起きたのか知りたくて!!」

クルト「ティオ……」

メープル「僕たちは、戦いに来たんじゃない……!!」

メープルは顔を上げた。

メープル「ティオの遺志を……ぼくが継ぐ!!」

その目は、炎のように燃えていた。

モンは、その目をまっすぐに見て、そして静かにうなずいた。

モン「資料館の場所、知ってるよ」

チュチュ「ほんとに!?」

モン「でも、行くにはあのビルの下を通るしかない……そこには、あの人間がいる」

クルト「……通らなきゃ、ティオの願いは叶えられない」

メープル「行こう。ティオのために」

──そして、4匹は、再び歩き出した。

ビルの手前まで4匹は来た。
屋上には依然として例のニンゲンが佇む。

メープル「今だ。」

ニンゲンが別の方向を見ているうちに、4匹は倒壊寸前のビルに入っていった。

クルト「なんとか生き残った……」

チュチュ「安心するのはまだ早いよ!急ごう!」

看板が見えた。『資料館』だ。

メープル「ここにニンゲンの全てが……」

中には1枚の絵のようにまとめられた『歴史』がある。
ここに全てがある。

「2020年、新型コロナウイルスが大流行」
1行ずつモンが読み上げる。
「2069年、第3次世界大戦の始まり。この世の国全てが戦争に参加した。全ての国は敵同士だった。」
ここからは全てその場で書いたような文字が並べられている。おそらくニンゲンの字だろう。
「2070年、アフリカ大陸の国は全て大国の植民地にされた。」
「2096年、アメリカ合衆国と復活したソビエト連邦、大英帝国が三つ巴で戦争になる。」
「2100年、私は死ぬ、息子と孫に次ぐ。歴史を語り継げ。」
ここから字の形や大きさが変わった。
語り継がれていった歴史。最後の方に目を移す。
「2368年、第三次世界大戦は幕を下ろした。結果、全ての国は破綻、人類はおそらく私以外残っていない。」

モン「……」

メープル「……え?どういうこと……?」

メープルは絶望を隠せなかった。

メープル「ニンゲン同士で争って……自滅?」

モンは一番端にある少し離れた行を読み上げた。

「2369年、今この瞬間、この街は私と共に爆破される。」

クルト「っ!」

クルトは理解したようだったが、もう遅かった。

ドガーン!!!

街中に轟音が鳴り響く。

全てに、終わりが来た。

人類史にも、メープルたちの旅も。

ニンゲンはわかっていたようだ。

もうこれから生きていてもどうしようもない。

ならせめて、綺麗に消えていこう。

さようなら。

……真っ白な光に包まれ、世界は、音もなく静かに崩れていった。

だけど──

???「……う、ううん……?」

……目が覚めたのは、焼け焦げた森の中。

そこには、倒れていたはずのティオがいた。

ティオ「……あれ?ここは……? 僕……生きてる?」

風が、静かに吹く。
焦げた空気の中、誰かの羽ばたきが、遠くに聞こえた。

ティオ「メープル……チュチュ……クルト……モン……?」

──誰も返事をしない。

ティオの翼には、深くえぐられた傷跡が残っていた。
焼け焦げた建物、地面に転がる資料の断片。
けれどその中に、奇跡のように無傷な「1ページ」だけがあった。

《この記録を読んだものへ。
我々人類は滅びた。
でも、これを読んだあなたが“生きている”のなら、お願いだ。
もう争わないでほしい。》

ティオは、それをそっと抱きしめた。

ティオ「……僕は、生き延びた。なら……伝えなきゃ」

ゆっくりと、ティオは森の方へと歩き出す。

世界が滅びても、想いは、まだ──

終わりではない。

ティオは飛ぼうとするが、羽が撃ち抜かれている。

猛急ぎで森に帰ってきた。

やはりもう遅かった。

森中の動物たちはさっきの爆発による飛んできた瓦礫に下敷きにされ、あるものは原型を留めず、あるものは助けを乞いながら死んでいき、あるものは失った羽を下ろして絶望した。

ティオ「……」

ティオは全てを悟った。

ティオ「……謝るよ。」

メープルたちに対する謝罪を始めた。
ティオは蹲った。

「メープル、クルト、チュチュ、モン。
みんな、ごめん。」

一呼吸つけてから全てを謝った。

「僕がニンゲンを呼んだこと」


ティオは声を震わせながら、途切れ途切れに言葉を紡いだ。

「僕が……ニンゲンの歴史に興味を持って……“知りたい”なんて思わなければ……
あんな危ない世界にみんなを連れていくことはなかった……」

焼け焦げた森。
もう花の香りも、虫の声も、どこにもなかった。

「僕は、本で知っていたはずなのに……
争いの歴史も、悲劇も、全部知ってたのに……」

ティオの目から、静かに涙がこぼれた。

「それでも……好奇心に負けて……
“希望があるかもしれない”って、勝手に思い込んで……」

「……それで、全部……失った。」

ティオの羽から、黒く乾いた血がぽとりと落ちた。

「僕が……ニンゲンを呼び寄せた。
飛んだ音に気づいて、後を追って……
あいつが来て、爆弾を……全部、僕が……」

風が、冷たく吹いた。

──誰も責めなかった。
けれど、誰ももう、返事をしなかった。

ティオは静かに、崩れるように地面に伏せた。

「ごめん、ごめん、ごめん……」

焼けた土を、何度も何度も叩いた。

だけど。

──ふと、ティオの肩に、小さな重みが乗った。

???「……もう、いいよ。」

かすかな声。けれど間違いなく、生きている声。

顔を上げると、そこには──

メープルが立っていた。

羽は片方焼け焦げ、体もボロボロ。
けれど、確かに、生きていた。

ティオ「……メープル……!」

メープルは微笑んだ。

「ティオ、もう泣かないで。僕たちは……まだ終わってない。」

ティオの瞳に、ほんのわずかに光が戻った。

──終わっていなかった。

まだ、何かが、始められるかもしれない。

ティオは最期にメープルの手を握ろうとした。

ティオ「メープル!」

手をとった。

ティオ「メープル……?」

幻覚と本物の区別もつかなくなっていたティオは限界が近づいてきていた。

ティオ「……は……はは。」

ティオ「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

終わっていない。

それさえも、終わっていた。

僕たちの旅
ニンゲンの歴史
遺伝子の後継

全てが、終わった。

ゆるふわなんて、なかった。

あの平和な日常は、全て消えた。

仲間たちも、消えた。

ティオの視界には、真っ暗な闇が広がった。

「クルト……ありがとう……ゆっくり寝るよ……」

静寂さと絶望が残った森の中。

そこで残った"命"はなんだろう?

それは、「植物」。

再び植生を始めた植物たち、新しく進化し始める植物たち。

世界の動きが始まる。

その瞬間、時計の針が再び動き出した。

メープルの森

ここまで読んで頂きありがとうございます。
初めてなのでまだ抜けている部分が所々……
さて、1度全部読んでくれたなら、「ティオの最初のセリフ」を読み返して見てほしいな〜と思います。そして、時系列を整理してくださると何かが見えてくる……
何はともあれ、ありがとうございました!

メープルの森

かわいいウサギ、ナマケモノ、フクロウがてんやわんや!美しい森と共に、彼らとティータイムでもどうですか??

  • 小説
  • 短編
  • 冒険
  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2025-05-26

Copyrighted
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