zoku勇者 ドラクエⅨ編 68
決戦・帝国 1
「……来たぜ、ガナン城だ、もう本当に後戻りは出来ねえぞ……」
「……」
「……はうっ!?な、何だよお、一斉にオイラの方見るなよお!
だ、大丈夫だってば……」
城門前の橋を無事通過出来れば目の前に聳えるのは巨大な扉……。
この向こう側に待ち受ける物……。
「よし、……先に進むぞ……」
「……ひいい~……、ガクブルガクブル……、下は毒の沼地じゃ
ないかあ~、お、落ちません様に……」
「!?う、うっ、何だこれっ!!身体が……」
「ジャミルっ、大丈夫かい!?」
「しっかりしてっ!!」
「モンーっ!」
「……ひゃあーーっ!!」
橋を渡ろうとしたジャミルの身体を黒いオーラが包み込もうとする。
慌てて橋から離れるが、まだ身体がビリビリしていた……。
「くっ、闇の結界だ、畜生……、何処までもつまんねえ小細工しやがって……」
「そんな……、これじゃ中に入れないわ……」
「ほ?……、おーほほほ!」
「……オホンっ!」
「……処じゃ、ないですね、とほほ~……、すんません……、って、
モンっ!きゃーやめてえぇーーっ!!」
「……モンは今日から弛んだダウドを成敗するアゴ侍になるモン!
……アゴゴーーっ!チンアゴゴーーっ!!」
「……何だそりゃ……、アイツまた変なモンに影響されたかな……、あ、
モンは元から変か」
「……ならなくていいですーーっ!!」
(やれやれ、本当に何処までもバカだって~の……、でも、どーすんのよ、
ジャミ公……)
城内に入れなそうと聞き、浮かれようとしたダウドにアルベルトが一喝。
そしてモンにアゴ攻撃で仕置きされる。お前もういい加減に往生際を
良くした方がいいと思うが、ヘタレはやはり何処までもヘタレなんである……。
守護天使ジャミル……、それこそが帝国城を守る邪悪なオーラです……
「この声……、セレシアなのか?来てくれたんだな……」
「セ、セレシア様なの……?」
「セレシア様……」
「うわあ~……、女神様だあ~……」
4人を見守るかの様に聞こえて来た優しい声。女神セレシアの
導きの声だった……。
……今こそ私の祈りによって道を開きましょう……
「……あっ、結界が消えたみたいだ!もう大丈夫だ、セレシア、
ありがとな!」
……今の私ではこれが限界の様です、ジャミル、あなたの力でどうか
邪悪なオーラの根源を絶って下さい……
セレシアの声は其処で途絶える。ジャミルはセレシアに感謝しながら
再び前へと進みだし橋を渡った。しかし……。
「ほーっほっほっ、ほっ、ほっ、ほっ……」
「……だ、誰だっ!?……テメエ、ゲルニックかっ!!」
今度は先程のセレシアの声とは違い、汚い笑い声が聞こえて来た……。
漸く先に進めると思った矢先、扉の前に立ちはだかる妨害者……、
帝国三将が一人、フクロウ面の基地害爺、ゲルニック将軍と部下の
鉄鋼魔神2匹だった……。
「……ほほほ、お久しぶりですね、ジャミルさん……、でしたかね、
お元気でしたか?」
「冗談じゃねーっつーのっ!何が元気かっ!こっちはあれから
禄な目に遭ってねえってんだよっ!……おい、フクロウ爺!
怪我したくなかったら其処をどけっ!邪魔だっ!!んで、
イザヤールは何処にいるっ!教えろっ!!」
仲間達はジャミルの側に寄って固まって戦闘態勢を取る。それを見た
ゲルニック、腸が煮えくり返る程不愉快な思いをしており、凄い形相に
なり、髪?……頭の毛?が逆立ち、身体を震わせ首を横に傾けた……。
「……まさかあなた如きがカデスの牢獄を解放するとは思いも
寄りませんでした、それにしてもゴレオン将軍も迂闊な……、
お陰で私まで巻き添えで皇帝陛下に大目玉を食らいましてね、
思い出すだけで屈辱……、……ホッホ、こう見えて温厚な私は
相当頭にきているんですよ、全身の血が煮え滾る程にね……、この
憤りを収める為、精魂込めて念入りにブチ殺して差し上げましょう!!」
ゲルニックは怒りの形相で4人を睨む……。大人しくイザヤールの
行方など教える筈が無し。今は戦うしか無い。何としても此処を
突破しなければならない。早速待ち受けていた最初の試練だった……。
「ジャミル、鉄鋼魔神達は僕がやる、ジャミルはゲルニックに集中して!
アイシャとダウドは僕達のサポートを!」
「よしっ、アル、頼むぜっ!モンは何処かに隠れてろっ!」
「モォ~ン!」
「任せてっ!」
「ひょえええ~……、ううう~……」
「……行くぞっ、悪いけどお前達は一気にカタを付けさせて貰うっ!」
「アルっ、バイキルトよっ!」
「有り難うっ!食らえーーっ!……ギガ……スラーーッシュっ!!」
「!!!」
アイシャからバイキルトを貰い、初っぱなから飛ばすアルベルト。
ギガスラッシュで一気に鉄鋼魔神達のHPを致命傷状態に削って
しまう……。取りあえず、回復でしか余り動けないダウドは、
最初からあんな大技使って、アル、MP大丈夫なのかなあ~
……、と、見ていてハラハラ……。
「……ぐううっ!?」
「ホホホ、此方はどうしましたかな?」
一方のジャミル……。ゲルニックのメラミ集中攻撃で少々追い詰められ
不利な状況に陥っていた……。
「……元々の防御力が低いのが致命傷の様ですな、……ッホホ!」
「ざけんなっ、このフクロウ爺めっ!」
ジャミルはドラゴンキラーを構え直し、ゲルニックを睨む。負けじと
ゲルニックもバカにした様に、まん丸な目玉を思い切り、……カッ!と、
開くのだった……。
「強がりはおやめになったら如何です?あなたは私の力で魔法耐性が
弱い身体になっている筈ですよ……」
「るせえっ!んなモン平気だっ!」
「……ほお、では、特大のメラミをプレゼント致しますか、恨みを
込めさせて頂きまして、……ほほほほ、ほ~っほっほっ!」
「ジャミルーっ!大丈夫かい!?」
「お待たせーっ!今、ジャミルにもバイキルトを掛けるわね!」
「回復もするよお~!」
「……皆っ!」
「おのれ……、させてなるものですか!……それっ!!」
其処に、仲間達も駆け付ける。だが、そうはさせまいと、ゲルニックは
仲間達へと強烈なバギマの猛連打攻撃を浴びせ、サポートを妨害するの
だった……。
「……うああああっ!!」
「いやああーーっ!!」
「ひ、酷ス……、ううう~……」
「……ほほほ、ほーほほほほっ!」
「畜生……、止めろっつてんだっ!フクロウ爺!オメーの相手は
この俺だろっ!仲間に手ェ出したら許さねえっ!!」
「ほお、どう許さないと言うのですか!?本当にあなた、ゴレオンを
倒したのですか?……嘘でしょう、嘘に決まっていますーーっ!
ほーほほほほっ!!どら、攻撃してみなさい、あなたのお仲間達に
もう一度……、バギマをお見舞い致しますーーっ!!」
「うう~……」
「……や、止めろおおーーっ!!」
何処までも非道なゲルニックはジャミルの顔を見てニタニタ笑う。
そして倒れているダウドの頭に自身が持っている杖の先をグリグリと
押しつけるのだった……。
「……みんなに意地悪するのは止めるモンーーっ!バカモンーーっ!!」
「!?モ、モンっ!……あ、あのアホっ!!」
「……あだだだだ!な、なんなんですかこれはっ!?いだだだだっ!!」
……隠れていた筈のモン……、皆の危機にいても立ってもいられず、
飛び出して来てしまい、ゲルニックの頭に飛びつくと頭を囓りだした……。
「モン、モモモモォ~~ンっ!モギャーーっ!!」
ゲルニックの頭にカオス顔で必死で噛み付くモン。何が起きたのか
良く理解出来ていなかったゲルニックは慌てて頭の上のモンを
追っ払おうとするのだが……。
「あいたたた!な、なんですかっ、これはっ!?……モンスター?
しかも雑魚のモーモンですと……、よくもこの私にっ!やってくれましたね、
許しませんよおーーっ!ホーホホホっ!」
「……モ、モンっ、こっちに戻って来いっ!早くっ!」
「モンちゃん!おいで!」
「モキャー!」
「……お待ちなさい、雑魚モンスターとは言え、この天才の私の
頭に噛み付いたのですからっ!ええ、簡単に許す筈がなかろうがあーーっ!
ホホホ!」
「……ホホホホうるせーって言ってんだよっ、このクソ爺っ!」
「ブーモン!」
「……うっ、こ、これは……、毒ガスっ!?……ぎゃああァァーーっ!?」
モンはゲルニックに一発放屁、さっさと皆の所へと飛んで逃げた。
ちゃっかりと定位置、ダウドの頭の上に乗る。
「ただいまモン!」
「……ただいまじゃないよお!全く、無茶する処、本当に益々飼い主
そっくりに……」
「……はあ、僕も改めて同感だよ……」
「んだよっ、ダウドもアルもっ!俺の方見んなっ!」
(あーあー、もう、帝国三将だか何だか、もうこいつらにかかれば、
シッチャカメッチャカ、大概滅茶苦茶になんのよネ……、おじーちゃん
相手が悪かったネ、お気の毒サマ……)
「い、今よっ!……メラミーーっ!」
「……小癪なっ!雑魚が放つそんな雑魚魔法、この私に効くととでも
思っているのですか!?……マホカンタっ!!」
「……きゃあーーっ!!」
ゲルニックはマホカンタを唱え、魔法はそのままアイシャに跳ね返り、
逆にダメージを食らう。ダウドは急いでベホイミをアイシャに唱えた……。
「……アイシャ、大丈夫?」
「モォ~ン……」
「うん、平気よ、ダウド、有り難う、でも、こんな最初から回復魔法を
使わせてしまって、ごめんなさい……」
「ううん……、気にしないでよお、相手が嫌らしいのが悪いんだから……」
「しょうがねえだろ、ダウドの言う通りさ、気にすんな、それよりも……、
やっぱり此処はアイシャには引き続きサポートに徹して貰って、俺と
アルで突っ込んで短期戦で攻めた方がいいな……」
「……そうだね、ゲルニック以外にも、まだ帝国三将の一人が残ってる
筈だからね……、余り長引かせられないよ……」
「……あ、後……、確か皇帝のガサナダイ……だっけ?」
「ガナサダイだよっ!よう、覚えとけっ!」
「……あ~う~、学校のテストに出てもそんな魚みたいなネーム
覚えたくないよお~っ!あ、あと……、あああっ!イザヤールの事
忘れてたあーっ!!」
「……ホ~ホホホっ!」
4人は目の前で笑う基地フクロウ爺を目を見据えて睨む……。
こんな処で躓く様ではこの先、とても帝国を落とす事など
無理だと……。だが、そんな4人の思考とは裏腹に、気になる
事があり、ある企みがゲルニックの中で湧き始めていた。
(……あの雑魚モンスター、モーモン……、一体何故あんなに
してまで人間共と一緒に行動しているのです……?何が奴を
そんなに動かしているのですか?人間とモンスターとの絆と
やらですか……?フン、そんな下らない物……、ほう、これは
面白いでは無いですか、とても興味が沸いて来ました……)
「……コホ、雑魚の皆様、大変お名残惜しいですが、私は一旦此処で
轢かせて貰います……」
「……は?」
「え、ええ?」
「……何ですと……?」
折角覚悟を改めて決めたと言うに、突然のゲルニックの態度に4人は
騒然とする……。
「……よ、良かっ……」
「ヘタレっ!良くねえってんだよっ!おい、爺!テメエ何考えてんだっ!
逃げるのかっ!怖じ気づいたんかっ!!」
アルベルト達ももう一度戦闘態勢の構えを取るが、それを見たゲルニックは
ウザそうなツラをした……。
「うるさいですねえ、此方には此方の考えがあるのです、まあ、楽しみに
待っている事です、では改めて、城内にてお待ちしております、無事に
辿り着ければの話ですが、……それでは……、ホ~ッホッホッ!」
「モ、モン……?」
「あ、待てよっ!おいっ、爺ーーっ!!」
ゲルニックは煙と共に姿を消す。いきなり戦いを中断し、一体何を
考えているのか、ジャミル達はゲルニックの行動に何か一瞬不気味な
物を感じたのだった……。
「はあ、冗談じゃねえや、何れ決着を付けなくちゃなんねえのは事実だ、
しゃ~ねえ、皆、このまま先に進もう……」
ジャミルの言葉に仲間達も頷く。だが、ダウドは自分の頭の上のモンの
様子がおかしいのに気づく……。
「ん?モン、どうしたのさあ?」
「……モン、何か急に怖くなったモン、ゲルニックの顔、怖いんだモン……」
「何だ、いつものオメーらしくないな、お前は俺と一緒にあのカデスを
切り抜けた勇者だろ、ていっ!」
ジャミルはいつものデコピンポーズで軽くモンのデコを突く。勇者、
その言葉にモンに少し笑みが戻った。
「もう、だから無茶するからよ、大丈夫よ、モンちゃん、私達が
いるんだから!」
「モン……、アイシャ……、モン、勇者だモン……、モモン♪」
モンはダウドの頭からアイシャの胸に移動。モンはアイシャに
優しくハグして貰うのだった。しかし、去り際にゲルニックは
しっかりモンから目線を反らさなかったのにジャミルも皆も……、
全く気が付いていなかった。この事が後に4人を追い詰め、危機に
追い込む事になる……。
帝国城・城内……
「……」
「……ゲルニック将軍、どうされた?何処か負傷でもなさったのか?
戦いから途中で戻って来るなど、しかし、見た処、別に対して怪我も
していない様だが……、私が始末すると言っていたのはハッタリ
だったのか……?」
「フン、私は非常にデリケートでしてね、戦う事しか脳の無いあなたと
違いましてな、非常に不愉快な事がありましたので、少し作戦を練って
もう一度体制を整えようかと思った処です、ホホ……」
「そうか、だが、そなたの評判は最近余り良くない噂を部下達からも
薄々聞いている、……武人として呉々も卑劣な振る舞いはしない様……、
では、失礼……」
「……ギュメイ殿、あなたこそ早く持ち場にお戻りになった方が
どうですかな?モタモタしておればあのガキ共は直ぐにでも城内
最深部、陛下の元に突撃して来ますぞ……」
「……それだけの実力があるのなら、本当に是非、手合わせを
願いたい物だな……、無事にこのギュメイの元まで辿り着いて
貰わんと我としても張り合いがないわ……、しかし、それ以上、
皇帝陛下の元には進めさせんぞ……、ガナサダイ陛下は我が命に
代えてもお守りする……」
ギュメイ将軍は持ち場に戻って行く。その姿をゲルニックは
小賢しそうに見つめていた。
「主を守る、たった一つの目的を果たす事しか考えておらん、何と
頭の硬い男よ……、胸クソが悪いわ、……吐き気がする……、だが、
やはり頭は使って当然です、例え……、どんな手段を使おうとも……、
ホ~ホホホっ!」
「さてと、爺は一旦逃げてったし、これで一応は城内に入れるな、
気合い入れてこうぜ!」
「ああ!」
「頑張りましょ!」
「うう~……」
いつものヘタレの気の無いお返事。扉を開け城内に入り早速目に付いた、
正面に倒れている巨大な柱……。内部は既に廃墟と化し、普通の人間の
兵士の姿も見当たらず崩壊寸前だった。ヘタレはこれらの惨状を見て益々
嫌になり、やる気を無くしてしまったのか……。
「……もう、これ、廃屋スポット状態だよお~……」
「ダウド、モンと一緒に頑張るモン!」
「ん?……うん、そうだね……」
「お前ら来たぞっ!モンスターだっ!」
「ひゃ、ひゃあーーっ!?」
ジャミルの言葉に我に返るダウド。まず出迎えてくれたのは、
キラーマシン2体。2回攻撃が非常に厄介な殺人マシーンである。
守備力も非常に高い強敵だった。
「……流石、終盤近しだけあってモンスターも大分厄介になって来たな、
けど、負けるかよっ!」
皆は戦闘態勢に入る。更に援護でフロストギズモ数体も出現。
4人はあっと言う間に取り囲まれる……。
「フロストギズモは私がっ!ジャミル達はキラーマシンの方をお願い!」
「分かったっ、無茶すんなよっ!」
「ええいーっ!イオラーーっ!!爆発しちゃえーーっ!!」
「……アイシャ、すご……、フロストギズモ一掃しちゃっ……、あ、あれれ?」
「ダウドっ!!」
「……うわあーーっ!!」
キラーマシンは狙いをダウドの方へ……。2匹ともダウドに迫って来る
勢いである。ダウドは自分が狙われてしまっていると思い、ハルベルトを
振り回しながら、頭上のモンに安全な場所に逃げるようにと……。
「えいっ、この野郎っ!……モン、早く逃げてっ!!……どりゃあーーっ!!」
「モ、モン……」
「……oh~……、(チ~ン)……」
ダウドはハルベルトでキラーマシンの股間らしき部分を突いた。機械でも
感じるらしく、キラーマシンは痛そうだった……。
「もう~っ!ダウドったらっ!……バカっ!!」
「わ、わざとじゃないよお~……」
「よしっ、行くぞっ!此方も遠慮しないで行かせて貰うよっ!」
アルベルトは武器を弓に持ち替えるとキラーマシン目掛け、
さみだれ撃ちを連発。4回連打攻撃に一匹は確実に仕留めた。
だが……。
「……」
「モンーーっ!?」
「……ジャミル、モンちゃんがっ!」
「……危ねえっ!!」
「し、しまったっ!僕の不注意で一匹外してしまったっ!
……モンーーっ!!」
キラーマシンは逃げようとしたモンの前に回り込む。そして無言で
モン目掛け、弓を轢こうとした……。
「オマ、エ……、ハ……」
「モン……?」
「……ニンゲンドモ、テヲクム……、サイアク、ノ……、クズ、
カス、ダ……」
モンの耳に……、微かにキラーマシンの声が聞えて来た……、
様な気がした。はっきりとは聞き取れなかったが、まるで
自分を罵っているかの様な……。キラーマシンの弓がモンの
正面に迫り、モンは動けなくなってしまうのだった……。
「……ええーいっ!こんにゃろーーっ!だあーーっ!!」
ジャミ公、キラーマシンに向け、渾身の一撃を振り下ろし、脳天に命中。
キラーマシンは完全に機能停止し、倒れた……。
「ふう~、モン、大丈夫か?」
「……モン、うん、だいじょぶモン、ジャミル、みんな、ありがとモン……」
モンはそう言うと再びダウドの頭の上に乗る。……ジャミルはやはり、
モンを此処に連れてくるべきでは無かったのでは無いかと今更ながら
後悔した……。覚悟はしていたが、やはり今までとは敵の格が違い過ぎる、
……ヘタレの頭の上で遊びながらちんぽこちんぽこ太鼓を叩いて冒険を
していた時とは状況が全く違うと……。
(ね、ジャミ公……)
「んだよ、寛いでばっかのガングロはよ……」
(ア、 アタシだってやるときゃやるってーのッ!んなコトよりさ、
さっきのモンスター、ヘタレじゃなくて、何か異様にデブ座布団ばっか
狙ってたっぽくネ?)
「……気の所為だよ、モンの前で余り騒ぐなよ、大人しく寝ててくれ、
頼むからさ……」
(ふーんだっ、言われなくても分かってマスーーっ!お休みー!)
「モン……、連れてきちまった以上、絶対に何が何でも皆で守るからな……」
サンディは再び静かになる。だが、ジャミルも少し気にはなっていた
様だった……。
「此処は……、モンスターの気配が余りしないみたいだ、少し休憩して
行こうか……」
「……ゲッ!」
4人は城内にて落ち着ける場所を見つける。其処には沢山の本が並ぶ、
元書斎の様な部屋であった。なので、休憩は出来る様だが、ジャミ公は
本の匂いでダメージを食らっていた……。
「此処にある本、大分埃と汚れが酷いけど、読めそう?」
「うん、何とか……、ああ、武器、防具の錬金レシピみたいだ……、
覚えておけば、いつかきっと役に立つよ……」
「相変わらず書いてる人、錬金から逃げてるもんねえ~!……あいてっ!
何でいきなり本棚から本が落ちて来るのさあ~!」
「はあ~、俺にはぜんっぜん、休憩になりゃせんわ!……お?」
「……」
一人、本棚の上で皆に背を向けてモンが寂しそうに座っていた。やはり
様子がおかしい様である。どうにも元気がなくなっていた……。
「……ホ~ホホホ!ホホホホっ!」
「……ニンゲンドモ、テヲクム……、サイアク、ノ……、クズ、
カス、ダ……」
「……や~モン、ゲルニックも、あのモンスターも……、嫌いだモン……」
「よう、モン、どうしたんだ?……な~にいじけてんだよ、ほれ、
こっち向け!」
ジャミルは笑いながらモンを挑発。モンはゆっくりと振り向き、
ジャミルの方を見た。
「……ジャミル、モン、モン……、どうして……」
其処まで言ってモンは言葉を止め、再びジャミルに背を向けるのだった……。
「モン、お前、本当に……」
「お待たせ、そろそろ先に進もうか、此処では覚えられるレシピが
沢山有って大分収穫が出来たよ!」
「おう、そうか……、……モン、行くぞ……」
「モン……」
モンは本棚からダウドの頭の上に飛び乗る。だがいつもの様に
ダウドの頭の上で太鼓を叩く仕草を全くしなくなってしまい、
そのままうとうと、眠った様だった。
「……モンちゃん、疲れちゃったのね……」
「……」
アイシャはモンの頭を優しく撫でる。うつらうつらしながら、
モンはずっと先程キラーマシンから聞こえてきた言葉の意味を
……考えていたのだった……。
(……モンスターは人間と仲良くしたらダメなのモン?モンは……、
皆が大好きモン、もしも……、ジャミル達とさよならしなくちゃ
いけないとしたら……、モン、そんなの嫌モン……、悲しいモン……)
「……何かさあ、この城ってさ、本当にタチの悪い迷路みたいだよね、
……ちゃんと目的の場所まで辿り着けるのかなあ、いや、辿り着けたと
しても……」
「……」
疲れて来た所為で、又ヘタレの愚痴が炸裂しまくっている。今回は特に
酷く……。その度にジャミ公も切れそうになるのだが、ダウドは今回、
独り言だから気にしなくていいよお……、と、誤魔化すんである。廃墟の
城の中を……、4人は何度も同じ場所を、彷徨っては迷い、行ったり
来たりしていた。
「たくっ、ダウドの野郎っ!」
「ジャミル……」
「……あん?」
ジャミルの服の袖をアイシャが引っ張り、モンの方を指さす。今までなら
いつでもどこでも暴けていたモンが……、只、ダウドの頭の上でじっとして
いたままだった。あれからおならもしない。
「本当に動かねえな、あいつ……」
「その……、あんまりやられるのも困るけど、今日はどうしてダウドの頭、
叩かないのかしら……」
「僕、思うんだけど……、少しモンも大人になったんじゃないのかな……」
「でも、やっとモンちゃん、又喋れる様になって……、元気も取り戻したと
思ったのに、何だか私、寂しいの……、そうね、モンちゃんだっていつまでも
子供じゃないものね……」
アイシャとアルベルトのやり取りに、ジャミルはかつてのカデスでの
出来事を思い出す。モンは追い詰められたジャミルを助ける為、
モーモンの進化形、大人の姿のマポレーナとなった。だが、まだ
大人になるのが怖い、皆と一緒にいたいと言うモンは、自ら力を
封印し今の元の姿に戻る。……人間の子供がいつか誰でも大人に
なる様に、モンは本当に身も心も大きく成長する時が近づいて
いるのではないかとジャミルは思うのだった。……突如。
「はううう~……、……!?じ、地響きっ!?あわわわっ!!」
「……モンっ!?モン~……」
城内に響き渡る地響き……。ダウドは慌てながらも頭の上のモンを支え、
必死に庇うのだった……。
「落ち着けってのっ!モンスターだよっ!!」
「……余計落ち着かないよおお~!!」
「来るわよっ!」
……今度現れたのはボストロール数体。どうりで地響きがした訳である。
……しかも、アーレー山で、イザヤールにこいつらを大量召喚され、
潰されそうになったトラウマがジャミルに苦いトラウマとしてふつふつ
蘇って来た……。
「とにかく行くっきゃねえ!前よりは互角に戦える程俺らだって
LVが上がってる筈だ!行くぞ、このハゲデブっ!」
「……あ、ジャミルっ!ま、また君は無茶をっ!」
ジャミルは言うが早いか、ドラゴンキラーを構え、ボストロールの
群れに突っ込んで行く。……が、折角剣を構えたと言うに、ジャミルは
ボストロールのハゲ頭に蹴りを噛ますのだった……。
「た、確か……、3時代にもこんな事があった様な……、あ、あれれ?」
「モン~……」
ダウドはまた、モンの様子がおかしくなっているのに気づく……。
ボストロールからも聞こえて来た謎の声がモンに届いていたのだった……。
「……フン、ニンゲンノドレイカ、アワレダ……」
「モンスターノ、カザカミニモ、オケン、キサマノヨウナヤツハ……、
キエロ……」
「キサマハ……、ニンゲンニダマサレテ、イルノダ……、オロカナ……」
「……止めてモンーーっ!モンは、モンは……、奴隷なんかじゃない
モンーーっ!シャアーーっ!!」
「わわわっ!モ、モンーーっ!!」
「……モンちゃんっ、どうしたのよっ!」
モンはダウドの頭から離れ、ボストロールに飛び掛かろうとする……。
それを待っていたかの様に、ボストロールはモンを一斉に取り囲もうと……。
「……こいつらっ!止めろーーっ!!」
「モ、モン……、ジャミルーーっ!!」
咄嗟にボストロールからモンを庇うジャミル。だが、集まっている
クソデブ……、ボストロールは容赦せず、にやりと笑うと、今度は
ジャミル一人目掛け一斉攻撃を開始し、ジャミルは集中ダメージを受け、
窮地に追い込まれた。
「……は、早く、逃げろっ、モンっ!……う、ううっ!!」
「や、やーモン……、モンの、モンの所為……、ジャミルが……」
「……ジャミルっ、今行くっ!モン、下がってっ!」
「……アルベルト~……、モン……」
アルベルトは急いでモンを下がらせ、ジャミルの援護に
ミラクルソードをボストロールの一匹に叩き込む。続いて、
アイシャのイオラ連打で、どうにか数匹はボストロールを倒す事が
出来た……。そしてダウドも急いで回復魔法の詠唱に入った。
「ジャミル、大丈夫っ!?今、ベホイミを掛けるからっ!」
(あ~あ、もう、スゲーコトになってるし、……デブ座布団、マジで何
やってんのよッ!)
「モン、モン……」
モンは益々混乱していた。自分の所為でジャミルが大怪我を
負ってしまった……。自分の所為で……。負傷したジャミル、
そして、先程のボストロールの言葉が繰り返しモンの中で
リピートし、モンを苦しめていた。
「やっぱり……、モン、役立たずモン……、このままのモンじゃ……、
みんなの力になれないんだモン……」
そしてモンはあの時、マポレーナの力を自ら拒否した事を猛烈に
後悔し始める……。
……そうです、あ・な・た、は……、ク・ソ、です……
「……モ、モンっ!?」
傷心のモンに囁く様に突然聞こえて来た声……。その声の人物は
4人組の前にゆっくりと姿を現すのだった……。
「て、てめっ!ゲルニックっ!……フクロウ爺っ!!」
「ホ~ホホホホっ!ま~たお会いしましたね、皆さん!」
「……何だよおお!まだボストロールだって残ってんだ
よおおーーっ!!冗談じゃないよおおーーっ!!」
「い、一度逃げた癖に、又何なのよっ!卑怯者っ!!」
「……ホ~ホホホっ!ええ、残念ながら、私が用があるのは、今は
あなた達ではありません、用があるのは其処の雑魚モンスターですっ!」
「!?」
4人の前に再び姿を現したゲルニック……。奴は自身の杖の先を
モンの方に向ける。ジャミル達はモンを急いで庇う体制を取った。
「……ざけてんじゃねえぞっ!モンに何の恨みがあるっ!!」
「……非常に気に要らないのです、モンスターが下級の人間共と
仲良しこよしなどと、まあ、其処のモンスターも下級なのには
間違いはありませんがね、人間とモンスターの絆など無い事を
証明してあげましょう!この私がっ!……ホーホホホっ!
取りあえず、皆さんはお眠りなさい、お休みなさい……」
「……う、うっ!や、やべえっ!!……モ、モン……」
「ラリホーマだっ!……こ、これ……を……、食らったら……」
「嘘……、嫌……、嫌よ……、モン、ちゃん……」
「……確か、これも……、3時代に……、こんな、事……、あうう~……」
「ホ~ホホホっ!!」
ゲルニックはジャミル達目掛け、凶悪ラリホーマを放ったのである……。
強烈な眠りの効果の魔法に耐えられず、4人は昏睡状態に陥る……。
そして、モンも……。
「み、んな……、ごめん、モン……、モン……」
(……ちょっとッ!中のアタシまで眠いんですケドっ!!……う~、
も~、ダメ~……)
「……ホホホ、作戦は成功ですっ!どら、最後の仕上げです、
あなた方はこの人間共を何処かに閉じ込めておいて下さい、
邪魔されると厄介ですからね、全てが終わったら、このクソ共は
皇帝陛下に直に献上する事に致しましょう、やはりこの天才的
頭脳の私の勝利ですっ!……クク、ギュメイのバカの悔しがる
ツラが目に浮かびますよ、ふむ、まずは……」
「……」
ゲルニックは倒れているモンを見、暫くの間、嫌らしい
笑いを止めなかった……。そして、ジャミル達は生き残った
ボストロール達の手により、全員捕らえられてしまうの
だった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 68