zoku勇者 ドラクエⅨ編 66
神の国へ……
「あ、ジャミル、お帰り!やっぱり凄いなあ、お前の師匠は!」
「ええ、散らばった7つの果実を全部集めて持ってくるなんて……」
「これで天使界も漸く救われるのね……、でも、あの後、イザヤールは
一体何処へ行ってしまったのかしら……」
天使界の天使達は、誰一人として真実を知らない。だが、一体何故
イザヤールはジャミル達からわざわざ果実を奪い取り、天使界に
持って来たのだろうと、4人は考えれば考える程訳が分からず混乱する……。
4人組はオムイの部屋に向かう途中、彼方此方で天使達から
イザヤールについての話を耳にする。やはり誰一人として
イザヤールの悪い話はまだ伝わっておらず。彼は未だ天使界の
優秀な大天使、英雄のままだった。此処の天使達から話を聞く度、
ジャミルはオムイにも本当に真実を伝えていいのか……、悩み始めた。
「ふん、何か凄い人気だよねえ、イザヤールってさ、皆早く事実を知って
欲しいよ!オイラ達がどれだけ酷い事されたのかをさ!」
「モン~……」
「……ダウド、止めるんだ……、ジャミル、僕達は全てジャミルに
任せてるから、どうするか、君の判断にね……」
「そうよ、どっちにしたって大丈夫だと思うわ、私達は何れ帝国へ
行くんだもの、その時にイザヤールを捕まえてはっきりさせちゃえば
いいのよ!」
「うん、皆、ありがとな……」
ジャミルはそう言って黙る。ダウドはイザヤールに対してまだ相当険悪感が
消えず。先程のラフェットの話のイザヤールと、自分達を箱船にて襲いに
掛ったイザヤールと……。……どちらのイザヤールの姿もジャミルの脳内で
ちらついていた。
「でも、ジャミル、本当に大丈夫?気分が悪いの……?」
「ん?……だ、大丈夫さ、一つだけ言える事は、奴はいつもいつでも
頭だけは光ってるって事さ!あ~ははは!さ、行こう、オムイの
爺さんの部屋はもうすぐだ!」
アイシャに心配され、ジャミルは今は何も考えず、無理矢理イザヤールの
イメージを統一しておく。やはりオムイには真実を伝えなくてはならない、
そう思ったのだった。オムイの部屋の前にはいつもの護衛の門番がおり、
ジャミルの姿を見ると急いで出迎えてくれた。
「おお、ジャミルか、待ちかねたぞ!長老オムイ様がお待ちかねだ!」
「うん、今来たとこさ、此処にいる皆は地上での俺の仲間の……」
「うむ、話は聞いておる、さあ中へ!長老オムイ様はお前の報告を
大変待ち侘びておられたのだ!」
他の3人も門番に挨拶をし、ジャミルについて行き、部屋の中へと通される。
オムイは再び帰還した無事なジャミルの姿を見ると、喜んで駆け寄って来た。
「爺さん、久しぶり!ただいま……」
「ジャミルよ、漸く帰ったのだな……、捕らわれた天使達の救出誠に
ご苦労であった……!」
「ああ、色々あったんだけど……、まずは俺のダチの紹介っと、地上での
仲間さ、アルベルト、アイシャ、ダウド、それから、前にも此処に来た事
あったから覚えてくれてるかな、改めて、モーモンのモンだよ、宜しくな!」
ジャミルはオムイにも軽い調子で仲間達を紹介。噂は既にオムイにも
伝わっているらしく、対して警戒もせず、驚いていなかった。
「おお、そなた達が……、儂も話は聞いておる、ジャミルが随分世話に
なったの、儂は天使界を治めている長のオムイじゃ、宜しくの……」
オムイは仲間達に手を差し出し握手を求める。やはりジャミルの知り合いと
言う事で特に抵抗も無く、地上の者でも安心している様であった。
「初めまして、オムイ様、お初にお目に掛ります、僕はジャミルと共に
旅をしております、アルベルトと申します」
「こんにちは、私はアイシャです、どうぞ宜しくお願いします!」
「オイラ何の変哲もありません不束者ですが、ダウドで~す、これでも
頑張ってるんですよお~……」
「モンモン♪」
「うむうむ、儂もこうやって地上の人間と話が出来てしまうとは……、
長生きはするもんじゃ、全てが終わったら天使界と地上の人間達との
交流を本格的に始めてもいいかも知れんの……、お前さん達の様な
者が此処に来れるんじゃて……」
「じ、爺さん……、マジ……?」
実現出来るか出来ないか分からない、夢の様なオムイの爆弾発言に
一同目を丸くするが、それも良いかもしれないと、ジャミル達は顔を
見合わせ、笑うのだった。
「さて……、ジャミルよ、地上では一体何が起きているのだ、詳しく
話しておくれ……」
ジャミルは長老オムイに地上での出来事を報告、魔帝国ガナンの事、
グレイナルの死、帝国に捕まった自分はカデスの牢獄に連行され、
拉致されていた事、そして……。
「なんと……、……あの魔帝国ガナンが本当に人間界に蘇ったとは……、
信じられん、年若いお前は知らぬだろうが、魔帝国ガナンとは数百年前に
滅びた邪悪なる帝国……、人間界を征服する為、力を追い求めた挙句自ら
滅びた筈なのじゃ……」
「……」
「……ジャミル、先程お主が話してくれた、師であるイザヤールに裏切られ
女神の果実を奪われたと……、しかしだな、女神の果実はこの通り確かに
天使界へと戻っておる、この女神の果実を届けたのは他でもないイザヤール
なのじゃ……」
オムイは輝く黄金の7つの果実をジャミル達に見せる。間違いなく、それは
ジャミル達から奪った本物の女神の果実である……。
「爺さん……」
「で、でも、そんなの信じられない!……オイラ達、あの箱船の中で
イザヤールに襲われて、み、みんな……、バラバラになっちゃって、
引き裂かれて……、ちゃんと全員再会出来るまでどれだけ辛くて
悲しい思いをしたか……、モンだって……」
「モ、モン~……」
「ダウドっ、だから止めないかっ!……オムイ様、大変ご無礼を……」
「ううっ……」
錯乱するダウドをアルベルトが必死に咎め、オムイに謝罪する……。
ダウドはあの時の事が傷になったまま、思い出すと相当辛い様で
あった……。
「……人間の少年、お主にとってとても悲しい思いをさせてしまった
様で申し訳なかった……、しかし、あの時……、イザヤールが天使界に
戻って来た時、確かに……、その時の事、どうか話を聞いてくれまいか?
ジャミル、お主もの……」
「爺さん、分かったよ……」
そしてオムイはイザヤールが女神の果実を天使界に持って来た時の事を
4人に語り始めるのだった……。
「……長老オムイ様、天使ジャミルに代わり、このイザヤール、女神の
果実を全て持ち帰りました……」
「おお!それはまさしく女神の果実!イザヤールよ、ご苦労であった……、
じゃが、女神の果実探しはジャミルに命じていた筈、何故おんしが持って
来たのじゃ?」
「……私とジャミルは人間界にて再会したのち、共に女神の果実を探して
おりました、手分けして彼方此方を探し回り7つの女神の果実を全て
見つけだしました……、しかし、天使界へ帰る途中ジャミルとはぐれて
しまいまして……、次期にあいつも戻る事と思われますかと……」
「むう……、全くジャミルにも困ったモンじゃの……、イザヤール、誠に
ご苦労であった、これできっと人間界も落ち着きを取り戻す事じゃろう……」
「はっ、では私はこれで……」
「なんじゃ、イザヤールよ、弟子の帰りを待っていてやらんのか?」
「……私にはこれからやらねばならぬ事があります故、オムイ様、
不毛の弟子ですが、ジャミルの事をこれからもどうか宜しくお願い
します、……あいつはアホでお調子者で、暴けてばかりですが、
磨けば光る良い物を沢山持っています……、それでは……」
「イザヤールが……、んな事言ってったのか?」
「ジャミル、……儂はイザヤールから確かに女神の果実を受け取った、
あやつが裏切り者だとは儂はどうしても考えられぬのだ、じゃが
おんしがウソを付く筈もない、……一体どうなっておるのだ……、
今は考えても拉致があかぬな、守護天使ジャミルよ、天使界には
こう伝えられておる……」
女神の果実が実る時神の国への道は開かれ我ら天使は永遠の救いを得る……、
そして道を開き我らを誘うは天の箱舟……
「……とな、女神の果実は天使界へ戻った、儂は言い伝えを信じ神の国へ
行ってみようと思うのじゃ……」
「神の国……」
「髪の国?髪の毛の国モン?おじいちゃん、カツラを貰いに行くモン?」
「……モンちゃん、違うでしょ、めっ!」
「アイシャ、プップモン!プップモン!」
早くも次の行き先が決まりそうだった。だが、又更にジャミルの胸中は
複雑に……。先程オムイに食って掛かっていったダウドは何も言わず、
すっかり黙りこくってしまっていた……。
「言い伝えが何処まで本当かは分からぬがもし神がいらっしゃるならば
必ずや世界を救って下さる筈じゃ!守護天使ジャミルよ、お前は儂と
共に天の箱舟で神の国へ向かうのじゃ……」
「……ええ?俺らも爺さんと一緒に神の国へ?皆もいいのかい?」
「!」
「無論じゃ、そなたらはどんな時でも一緒なのじゃろう、人間達よ、
どうかこの天使界、そして地上の人間界を救う為に共に力を合わそう……」
「勿論です、オムイ様!有り難いお言葉有り難うございます、
このアルベルト、これからも二つの世界を救う為、貢献致します!」
「私も頑張ります!」
「ん、しょうがないよね、イザヤールの事は今はおいといて、オイラも
頑張ります……」
「シャー!モンも殺るんだモン!」
「……モン、字が違うよ……、字が……、余り変な事覚えない様に、
教えない様にね、パートナーさん、頼むから……、それからね、モン、
ちゃんと言葉を勉強したい時はなるべく僕の方に言うんだよ……」
「モンプ?」
「……腹黒っ!だから俺の方見んなよっ!!」
オムイは天使界だろうが何だろうが、アルベルト達も段々慣れて来て
しまったのか場所を弁えないドタバタ連中でも微笑ましい目で見つめて
いた。この子らなら、きっと歪んだ世界を必ず変えてくれる筈……、と。
「あ、屁が出る屁が!」
……パンッ!!
「え~っと、失礼致しました、僕、つい、これをやってしまうんです……、
どうもお見苦しい処を……」
アルベルトはつい、手が出てしまいまして……、みたいな顔をするが、
ジャミルを直視、その顔は闇の様にドス黒かった……。
「ほう、アルベルトは面白い物を持っておるの、折角縁が有った事じゃし、
今度もっとゆっくりとジャミルとの旅の話や、地上の事も落ち着いたら
色々聞かせておくれ……」
「は、はい、是非!」
「……爺さん、そいつに話を聞くのは頼むから止めてくれ!」
「アルのスリッパ仕置き、久々に見た様な感じ……」
「本当ねえ~……」
「うるっせーよ、おめーらっ!……腹黒っ、後で覚えてろっ!!」
「もう忘れた、ごめん……」
「……うぎゃーーっ!!」
「♪ぽ~ん、ぽ~ん、アゴちんぽこち~ん、ちん、ぽんこち~ん♡」
「……あたたたっ!ま、又人の頭叩くう~!勘弁してよおお~……」
「……モンちゃんっっ!!」
……4人組のテンションもすっかりいつも通り。その場はドタドタ又
やかましくなるが、ファンキー爺のオムイは、ほっほほっほ、手を叩いて
踊って喜んでいた……。して、暫く後、皆が暴れた後、話は再び元に
戻る……。
「さて、真面目に話を進めんとのう……、……?」
「ぴーかぴかっ!ぺちぺちっ、てかてか、モンっ!」
「……モ、モンちゃんっ!駄目だって言ってるでしょっ!」
「モンプップーだ!」
モンはオムイの頭も太鼓にしたいらしく、話を妨害しようとするが、
アイシャに直ぐに取り押さえられ、慌てて連れて行かれるのだった……。
「……天使界は邪悪な光に襲われ人間界では魔帝国ガナンが復活した、
神の国と言えども何が起きるか分からんからのう、皆の者、いざという
時は宜しく頼むぞ……」
「任せとけ!」
「お任せ下さい!」
「皆でオムイ様を守りましょ!」
「♪モンーっ!」
「はいい~……、(……で、でも、たまにはオイラも守ってね……)」
「うむ、わしは天の箱舟で待っておるよ、準備がすんだらお前達も
来ておくれ……」
オムイはのそのそと部屋を出、一足早く箱船の方へと向かう。
……オムイが部屋を後にしたのち、4人は改めて打倒帝国を
心に誓う。そして、此処に来てジャミルは今まで伏せていた
ボンの事、自分がカデスに幽閉されている間、ジャミルも
囚人達もどれだけ酷い目に遭っていたか、帝国の行う卑劣で
残酷な行為を漸く皆に伝える事が出来た……。
「そうだったの……、その、ボンさんが……、ジャミルを……」
「……ああ、俺がこうして此処に無事に戻って来れたのもボンの
お陰なんだ……、皆の事話したら凄く会いたがっててさ、俺も……、
皆にボンと会ってダチになって欲しかったよ……」
「……酷い事するなあ、オイラ聞いてるだけでもう……、耳が痛いよ、
……うう~、心も痛い……、ぐすっ……」
「本当に……、帝国め……、絶対に許せない……」
「……モン、モンも思い出すと悲しいんだモン、……でも、ボンの事、
悲しい思い出だけにしたくないモン……」
「そうだな、俺もそう思うよ、だから……、皆で絶対に帝国を倒そう、
いつか笑顔で俺もボンの事を思い出したいんだ、平和な世界を
取り戻すんだ、……絶対にっ!」
ジャミルの言葉に頷く仲間達。4人は手と手を重ね合わせる。そして、
ジャミルは思う。いつかボンが再びこの世界に新たな命として戻って
来た時……。願わくば、新しい命が見る空がどうか明るい大空で
ある様にと……。
(……ボン、見ててくれよ、俺達、絶対負けねえよ……)
決意を固め、4人組もオムイの部屋を後にし、オムイが待つ箱船へと
向かう。道中、沢山の天使達がジャミル達を激励、励ましてくれたの
だった。……箱船へ移動するその前に、ジャミルはもう一度、捕まって
いた天使達が身体を休めている根っこの部屋へと寄り、天使達に
イザヤールの話を伝える事に……。
「何だと?イザヤールが女神の果実を天使界へ持ち帰ったと言うのか?
そんな……、一体どうなっているんだ……」
「だが、ジャミル、お前からイザヤールは女神の果実を奪い、魔帝国
ガナンへと持ち去ったのだろう?」
「……俺も……、その辺の事は全く分からねえのさ、奴に会って真相を
確かめるまでは……」
「確かにイザヤールは天使界を裏切り女神の果実を暗黒皇帝
ガナサダイに捧げた筈だ、しかし……、ではどうして女神の果実は
天使界にあるのだ、イザヤールは一体何を考えている……」
「……」
「人間界へ降りた天使達はみな帝国兵に捕らえられ天使の力を
奪われました、未だガナン帝国城には沢山の仲間が捕らえられ
力を奪われ続けている様です……」
「うん、俺達も一刻も早く捕まっている天使達全員を助け出す
つもりだ、頑張るよ!だからあんたらは此処でゆっくり療養して
吉報を待っててくれや……」
「ええ、頼みましたよ、ジャミル……」
「期待しているぞ……」
「お前は皆の希望の星だ、だが、帝国は残虐非道だ、何を仕掛けて
くるか分からない、呉々も気をつけてくれ……」
「……」
ジャミルは根っこの部屋を後にする。天使達にはああ言ったが、やはり
イザヤールの事が気に掛って仕方がないのだった……。部屋の外に出ると、
アイシャを始め、仲間達が駆け寄って来た。
「お帰りなさい、ちゃんとお話出来た?」
「モン!」
「ああ、伝えられる事は全部伝えたよ、後は神の国、その先……、
帝国へ行くしかない、イザヤールの真意を今度こそ、……奴を
とっちめて確かめねえと……」
「でも、オイラ達……、帝国に……、イザヤールに勝てるのかなあ~、
ドキドキ……」
「ダウド、今から色々考えないんだよ、僕らは先に進むだけだもの、
例え何が待ち受けていようともね、そうだろ、ジャミル……」
「……そうだな、もう引き返せねえからな……」
アルベルトの言葉にジャミルは頷き、遙か遠い下界の方を
見つめるのだった……。
「神様の国ってどんな処なのかしら、ワクワクしちゃうわ!」
「でも……、天使の人達だってまだ誰も言った事のない場所だって
聞いたよお、……不安だなあ、オイラ達、外に叩き出されないかしら……、
あ~、怖いよおお!」
アイシャは何だか観光気分、ダウドはいつも通り不安定な方向にしか
考えず、アルベルトは少し心配になる。
「何か美味いモン食えるといいな!」
「モンモン、ジャミルのバカ、モンを食べちゃイヤなんだモン!
シャーっ!」
「……だから噛み付くなよっ、バカモンっ!」
「……」
そしてこのコンビは何考えてんだかいつも通り。嫌、何も考えて
いないだろうが。
「みんな、とにかく気を抜かないで行こう、特に其処のジャミルさん、
食べる事ばかり考えてるんじゃないんだよ、……分かった?」
「んだよっ!またスリッパ近づけるなっ!腹黒っ!!」
「……うふふ~♡」
と、アルベルトはジャミルを注意するが、彼がカデスにいる間の話を
聞いて、どれだけ辛い目に遭っていたか、すっかり痩せてしまった
身体を見て、腹もまだ相当減っているだろうと言う事は理解している。
だから、又状況が落ち着いたら皆で美味しい物を思いっきり食べに
行こうと伝えるつもりでいた……。かくして4人は天使界の頂上で
停車している天の箱船へと移動。頂上にはオムイをはじめ、アギロ、
サンディが箱船の側で待っていた。
「来たか皆の者、ではこれより天の箱舟にて神の国へと向かう事に
しよう!」
「ねーねー、ジャミ公~、このおじーちゃんダレ?」
「おま、前に天使界に来た事あるだろ?見た事なかったのか?長老の
オムイ爺さんだよ……」
「ん~、よく覚えてないし~!ま、いいじゃん!アタシはサンディ、
この箱船のアシスタントサポートしてんのよ、宜しくネ!」
「おお!あなたは天の箱舟のキャンペーンガールの方ですな、儂は
天使界の長老オムイ、お見知り置き下され、ええと……、其方は……?」
「俺は天の箱舟の運転士アギロと申します、其処のジャミルとは共に
血と汗を流し、同じ臭いメシを食った仲でしてね……」
「へ、へへ……」
「それはそれはご丁寧に、……さて運転士どの、あなたにお願いが
あります、ジャミルの活躍により女神の果実は天使界に戻りました、
言い伝えに従い我らをどうかこの天の箱舟で神の国へと連れて行って
下され……」
「何と、神の国……、では、女神の果実が……」
「……かつて神はこの様に命じられました、女神の果実が実ったならば
この天の箱舟に天使を乗せ神の国まで連れて来いと……、つまり今こそ
神の国へと向かうべき時なのでしょう……、時は一刻と迫っております……」
「分かりました、では俺にお任せ下さい!ようし!じゃあ神の国まで
一っ走り参りましょうぜ!よし、ジャミル達も乗った乗った!」
「おっしゃ!」
「……うう~、また船旅かあ~……」
「ほらほら、行こう……」
項垂れるダウドの背中をアルベルトが突き、オムイ、4人組、モンが
箱船へと搭乗。オムイがうっかり転ぶといけないので、オムイの搭乗には
アルベルトが身体を支え、サポートを行った。
「どら、失礼致しますぞ……」
「オムイ様、大丈夫ですか?」
「うむ、すまんのう、それにしても、これが天の箱船とは……、ほほう、
中身はこうなっておるのか……、女神の果実と同じ黄金の光に包まれて
おる……!流石神の創りたもうた舟じゃ……」
「神の国かあ~、……水着持ってった方がいいかな?」
「えっ?サンディ、神の国って水浴び出来る処があるのっ!?」
「……アイシャ、僕らは観光で行くんじゃないんだから……、はしゃぐのは
慎もう……」
「わ、分かってるわよう、……ア、アルったら……」
珍しくアルベルトに注意され、アイシャは頬を膨らませて顔を赤くする。
オムイもいる手前、注意しておかなければならない所為もあるのだが。
「神の国、美味いモンあるかな……」
「……そして君はしつこい、いい加減にしろっ!」
……パンッ!
「ダウドが気持ちわる~いにならない様にモンが付いててあげるモン!」
「……余計酔うよおお~~っ!!」
船内ではオムイも加わった事により、賑やかな船旅となった。モンの
下ネタ太鼓にオムイは手を叩いて喜んでいる。……こ、困るよ、モンは
……と、アルベルトは赤面。神の国に付くまでの間、どうにか緊張感も
忘れられそうであった。だが。
「ジャミルよ、少しいいかの?」
「ん?爺さん、何だい?」
「……儂はお前さんにもう一度問うておきたい事がある、
……イザヤールの事じゃ……」
「……」
「……本当に……、あやつはお前達を襲い女神の果実を奪ったのか?
それは本当に事実なのか……?」
「……嘘じゃない、本当さ……」
「そうか……」
オムイは顔を曇らせる。オムイはどうしてもイザヤールの事を信じたいの
だと思った。気持ちはジャミルにも分かる。だがあの時、女神の果実を奪い、
4人をバラバラに引き裂いて別れさせたのは紛れもなく、イザヤール本人
なのだから……。
「……イザヤールが何故その様な事をしたのか儂には分からぬが、
あやつは確かに天使界へ女神の果実を届けた、魔帝国の下部である
筈がない、……儂はイザヤールを信じておる、勿論ジャミル、お前の
事ものう……」
「……爺さん、ありがとな……」
「ともあれ女神の果実は7つ揃った、言い伝えが真実であるならば
いよいよ神の国へ行ける筈じゃ!そして神にお会い出来たなら世界を
救って下さる様、儂からお願いしてみよう、……ううむ、緊張して来た……」
オムイは自分の座席へと戻って行く。神の国、其処には果たして何が
待ち受けているのか……、色々考えるとジャミルも催して来た……。
「アギロ……、この船ってさあ、……便所ある?」
「……ああん?」
やがて、神の国へと距離も近くなって来た頃……。
「ふう、天使界が豆粒の様に見えた時は心底驚いたわい、天の箱舟とは
正しく神の奇跡、処で運転士アギロ殿、あなたはこの天の箱舟に乗られて
長いのですかな?」
「……ええ、そうですね、神が天の箱舟をお創りになったその日から
運転士として乗り込んでおります……」
「ほほう~……」
「……」
4人は顔を見合わせる。ジャミルも、アギロが普通の人間ではないと言う
事は理解したが、しかし、大昔から存在しているらしい、天の箱船を運転
出来る奴って一体何モンなんだと……。
「て、言うか、そんな昔から天の箱舟に乗ってるってサ、テンチョーって、
すげーオッサン……、爺さんじゃん………」
「うるせいっ!俺は店長でもおっさんでもねえ!!ってか、誰が爺さんだっ!
運転士だ!って言ってるだろうが!……おっと、さあ着きましたぜ、此処が
神の国です……」
「うわわわ、等々着いちゃったのかあ~……」
「おおっ!?何かスゲー、デケェ豪華な庭園みたいな感じだな!」
「本当だ……、凄い景色だね……」
「私にも見せてーっ!」
「……プ~」
4人は押し合いへし合いで、窓から外を見ようと大騒ぎである。……まだ
吐きそうなダウドの頭の上でモンが一発屁を放いた。
「天使界代々の長老の悲願が等々叶うのじゃな!」
「オムイ様、では参りましょう……」
「んじゃ、アタシ達も行こっか、みんな!」
「「ラジャー!」」
「……臭いよおお~……、うう~、モンのアホう~……!」
「モ~ンモン♪」
「うわあ……、スゲ……」
「モンモン!」
「此処が……、神の国……、間近に見ると本当に凄いね……」
「ステキな処ねえ~……、まるで何処かの王子様が住んでいそう!」
「……島が、空中にあっちこっち島があるっ!で、でも……、足場が
ないよおーーっ!!」
4人組は改めて、神の国の風景をしっかり目に焼き付ける。空中に浮かぶ
彼方此方の島。目を凝らし前方を見上げると、微かに遙か高い頂上に宮殿
らしき建物が聳えている……。
「……おお、なんたる神々しさ、なんたる美しさ……、此処が神の国……!
ジャミルよ、お前達もこの神の国の美しさをよく目に焼付けておきなさい……」
「あ、ああ……、……」
ジャミルはオムイにそう答えるものの、今は実際、美しい風景よりも
何よりも、空腹が襲って来て仕方がないのだった……。早く飯にありつけ
ねえかなと……。
「さて……、我らが神に女神の果実をお届けせねば、どちらにいらっしゃるの
じゃろうか?」
「……このまま上に真っ直ぐ登って行けば宮殿がある筈ですぜ……」
「おお、運転士殿は流石お詳しいの……、ほほう、運転士殿によれば
この道を真っ直ぐ進んでゆけば神の宮殿があるのじゃな、しかし……、
長い階段じゃのう……」
「……」
4人組は改めて正面を見つめる……。果たして終わりがあるのか
分からない様な滅茶苦茶距離が長そうな上空への光の階段……。此処を
上って行けと言うんである。
「……無理ですーーっ!」
「言うと思った……、無理でもなんでも登るんだよ!ダウドだけ君一人、
此処に残る訳にいかないんだからっ!」
「……えう~……」
「……アゴモンっ!」
そしてアルベルトに諭されるヘタレ。……ヘタレの頭の上でモンが
アゴで突いた。
「頑張りましょ、ダウド!そうよ、この長い距離の階段を完走したら、
私、きっと20キロは痩せられる筈よ!」
……こっちもまた始まったとジャミルは思ったし。だから大体元が
細いのに、それ以上痩せたら骨になっちまうよとジャミルは思うのだが、
言ってもアイシャは聞かないので。
「ジャミル、お前達は先に行っておれ、儂は後からゆっくり向かわせて
貰うからの……」
「でも……、オムイ様、大丈夫ですか……?」
「アルベルト、心配しなさんな、オムイ様には俺が付いてるからよ、
此処には宮殿以外にも彼方此方珍しい場所がある筈だ、滅多に来れる
場所じゃねえからな、しっかり探索して来い!」
「は、はあ……」
アルベルトは心配そうにオムイの方を見るが、オムイは、な~に、
これぐらいいつも天使界でも世界樹の元へ行く時にはいつも登り降り
して鍛えておるからの、大丈夫じゃとピースサインをした。
「じゃあ、アギロ、爺さんを頼むよ……」
「任せときな!」
「みんな、行こう!」
「はあ~い、アタシはいつも通りアンタの中に入らさせて貰いま~す!
着いたら起こしてよネっ!」
「……こいつ……、ぜんっぜん、変わってねえ……」
(お休みー!)
「いいなあ、サンディ……」
サンディは発光体になると久しぶりにジャミルの中に姿を消す。ダウドは
そんな彼女を心底羨ましく思うのだった……。そして……。
「……こ、この光の階段……、どうか途中で消えたりしません様に、
どうか……、どうか、……ひゃーーっ!!」
「……ダウド、下を見るなっつーのっ!」
最上階への階段を登り始める4人組……。先はまだまだ相当長く、
前途多難である……。
「お?あれは……」
「扉だわ!」
早速壁にぶち当たる。行く手を遮る大きな謎の扉。この先にも更に道が
続いているのは確かだが、どうやっても扉は頑丈で開きそうにない。
……ジャミ公は試しに扉を蹴ってみるが。
「いってえええ~……」
「何やってんの、君は……」
足が痛くなるだけだった……。
「ガジガジモン!」
「……モンちゃん、扉を囓っちゃ駄目でしょ!」
「参ったな、う~ん、どうやって開けりゃいいんだい……」
「これはもう諦めて戻りなさいって言うお告げ……、……嘘ですーーっ!
神聖な場所でスリッパ出しちゃ駄目だよおーっ!アルーーっ!!」
「……やれやれ、ん?この扉……」
「ジャミル……?」
「文字が刻まれてる……」
「ええ、僕には何も……」
「私にも見えないけど……」
「モンも分かんないモン……」
「……な、何でもいいから無事に戻れます様にィ~……」
「俺には文字が見えるんだ、不思議だな……、汚れ無き心持つ者にのみ……」
仲間達は騒然……。扉に刻まれている文字はどうやらジャミルだけが
読めるらしく……。
「……扉は開かれる……」
……汝汚れ無き心を持つ者よ、神の元へ進むがよい……
「あ、あっ!扉が……!凄い!」
「開いちゃったわ……」
「ジャミルが開けゴマで扉を開けちゃったモンっ!」
ジャミルが文字を読み終えた途端、音を立て、重そうな扉が開き、
更にその先へと続く、階段の姿がお目見えしていた……。
「……何だ、結局開いちゃったのかあ~、ちぇっ……」
「……何だダウド、さっきから……、何か言ったか?」
「何でもないですよお~~っ!」
「さ、これで先に進める筈だ、行こう……、って、何だよ、アルまで……、
だから、あんだよっ、オメーその不思議そうなツラはよっ!」
「いや、僕には……、勉強嫌いの君にそんな力があるなんて、
びっくりで……、本を見ただけで吐き気を催す君が……」
「……失礼だってのっ!腹黒っ、テメーデコピンするぞっ!それに俺は
この話じゃ天使っつー設定なのま~た忘れたんかっ!」
「……そ、そうだったね、ごめん、忘れてた……、プチデビルじゃ
なかったね……」
「うん、それに汚れ無き者にしか開けられない扉って言うのが凄く
胡散臭いよね……」
ぴんぴんデコピン×SP
……4人組はジャミルを先頭に更に先へ進む。結局、デコピンを
食らったのはダウドだけである。ジャミルは噴火し、カッカカッカ、
蟹股でドスドス先に歩いて行った……。漸く次の場所へと出る。今度は
左右に虹が掛った道が……。
「うげえ~……」
と、ダウドが早速嫌そうな顔をする。まさか、まさか、寄り道
しないよね?……と、思っていたら、案の定……。
「わあ、綺麗な虹の道ねえ、彼処も渡って行けるのかしら?」
「多分な、爺さん達も色々探索して来ていいって言ってくれたし、
寄り道して行くか……」
「そうだね、何か情報が手に入るかもだしね……」
「!!や、やめようよお~!あんな虹、重量オーバーで、と、途中で消えたら
どうするのさああーー!」
「……重量オーバーって……、失礼ねっ!!」
「……またそうやって悲観する、落ちたらそん時だろ?さ、行こうぜ!」
「あ……、行っちゃった……」
ジャミルは構わず、まずは皆と左の方向の虹の道を通過。その場に
残されたのは、ダウドだけになり、慌てて後を追うのであった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 66