詩集「from mire」

コーヒーゼリーマウンテン

触れ合うほどに離れていった
壊れた冷蔵庫みたく
思い出を腐らせてばかりいた

冷ややかな肌 まるでコーヒーゼリー

雨が降った
君が煙草の火を消した
良い子はもう帰る時間

本当のところは何が欲しい?
今更何も言えやしなくて
錆びついたような喉が痛い

あの時の事 変えられないかと願うだけ願って
勝手だなって嗤うだけ嗤って
次の瞬間には振り出しに戻って
終わりにしよう 回想だけを映すシアター

触れ合うほどに離れていった
涙流すように垂らされた
シロップとクリーム

冷ややかな肌 まるでコーヒーゼリー

睡眠欲を犠牲にする 着脱のイニシエーション
千切った羽根 掌で抱いて

本当のところは何が欲しい?
今更何も言えやしなくて
錆びついたような喉が痛い

誰かを好きだと言う資格
金があれば買えるのですか
清くただしい青春の在り処
今からでも遅くはないのですか?

触れ合う肌は まるでコーヒーゼリー
この感触に身を預け 沈んで
息絶えて しまえたらね

憂鬱と安寧 まるでコーヒーゼリー
山のように ただそこにある
今も変わらずそこにある
いつまで変わらずいてくれる?
コーヒーゼリーマウンテン
踊るように歩いてく

マゼンダ

天使の夢におちていきたい
あのこの瞳にうつりたいな
嘘つかれても嘘はつかない
きみの本当の名前が知りたい

背中反らして 天井を仰いでる
舌が出てる 喉が震えてる
ばかになるのもあたま使うね
甘いものでも用意しとくよ
体に毒だと言われても
ただ もう少し頑張れると思いたいだけ
吐き出した煙も息も この部屋に溶けて
きみが吸い込む空気になればいい
 
天使の右手が俺に触れて
すべて忘れる準備が出来た

死んでないから生きてんだ
そうやって諦めるのも一つの手か
俺 これからどうなんだ
やっぱ寂しいっていうんなら
口に出す前に腐らせるな

何も繕うことはない
在りし日なんて置いていこう
戯れの生活に魂を売る
情欲を何故恋と呼ぶ
骨と肉と皮と髪
濡れた瞳に光が宿る
命終えたい?
心休まる場所に居たい
天使の右手が空を切り
振り下ろされたら救われる

「真っ白になれないなら
 せめて綺麗なものになりたい」
きみの言葉は僕の願いで
首をしめるのは延命措置 ね
どこにいたって苦しいんなら
何やったって同じだろ
「そんな悲しいこと言わないで」

死んでないから生きてんだ
そうやって開き直るのも一つの手か
俺 これからどうなんだ
天使が俺の名前を呼ぶから
歩き方を思い出せる
眠らぬ街に現れる
星のようなマゼンダの灯り
その嘘偽り
守り抜くこと 夢見てた

白に焼かれ灰になった
黒い闇の中へ行った
「最期にはきっと透明になれる」
きみは強く美しい
そんなことも知らないままで

きみはきみなりに考えたんだ
そう割り切るのも一つの手か
今もぼくらの中で生きている?
そうやっていつか忘れてく
もっともらしいことに思えるね
うしなうことに 慣れたくはないよ

なあ これから どうすればいい

死んでないから生きてんだ
そうやって諦めるのも一つの手か
俺 これからどうなんだ
人々は皆忙しなく
景色は変わらず流れてく
きらきら水面が追いかけてくる
俺 これからどうなんだ
なあ これからどうすんだ
星のようなマゼンダの灯り
悲しみの出口照らす光
守り抜くこと 夢見てた
生きることは汚れることさ
何も繕わなくていい
きみは強く美しい
そんなことも知らないまま

そんなことも知らないままで
いってしまうことはないのに

麻酔

麻酔をかけて
眠るように
消えていくように
 
命繋いでも また
千切れそうで

ホルマリン漬けの風景
取り出してみて
枯れ落ちた言葉
拾い集めて

もう 考えたくもない

麻酔をかけて
苦しみも 幸せも
ここで終わり

ふたり 沼地でワルツを踊る
なんだかよくある話だね

傷跡を見つけて
思わず目を逸らした
あなたは優しく私の手を取り
さわっていてと微笑んだ

麻酔をかけて
眠るように
消えていくように

麻酔をかけて
夢の中で生きて
死んでいくように
消えていくように

春になったら

「いってらっしゃい」
毎朝玄関まできてくれる
か細い声が耳に届く
肩にかかったままのブランケットを握る
あなたの手がとても白いから
おれは今日も靴紐を固く結んだ
焼きうどん作ったから お昼に食べなね

なにしろ 生まれも育ちも全然違う
おれと違って頭良いんだ
いろんなことに 気がついちゃうんだ

なにしろ 生まれも育ちも全然違う
おれと違って繊細なんだ
いろんなことに やられちゃうんだ

石のように意思をなくして
のしかかる 今 やり過ごして
終わりがないことがこんなにも残酷だなんて
きっとあなたは知っていたんだね

冷えて固まった焼きうどん
箸でつまむ度ブチブチちぎれた
それをいっぺんに頬張って
発泡酒で流し込む そんな晩酌を
彼女はベッドに横たわったまま
真っ黒い目で見つめていた

そういうときは冬の空気がやけに冷たくて
おれもなんだか耐えられなくて
やることなすこと 口に出すこと
全部嘘に思えてしまった

いつまでも待つよ
あなたが笑えるなら
なんだってやるよ
また笑ってくれるなら

いっしょうけんめいがんばった
90点であなたを殴った おとうさん
おれはそうはならない

起き上がれない ただそれだけで
朝食を残飯に捨てた おかあさん
おれはそうはならない

あの夜 母さんの震える背中見て
絶対あいつみたいにならないって決めたんだ

いつもキャミソールを脱ぎたがらない
中々見せてくれない
「萎えちゃうから」なんて
聞き飽きた心配も 愛おしかった
浮き上がる肋骨を 両方の手のひらで包んで
頬を寄せたら どくどく聞こえた

あいつはヒモの女を養ってるって
職場でそんな噂が流れた
違うよ そんなんじゃないよ
ちょっと休んでるだけなんだ
いっぱい頑張ってきたから
ちょっと疲れちゃっただけなんだ

携帯の待ち受け 在りし日の彼女
ずいぶんやせた
思い出ごととられてくみたいに
「例のヒモカノ?」
パンの袋 がさがさいわせながら
覗き込んできた 奴のにやけ顔
「ヤりたい放題じゃん」
心の中で唾吐いた

自分の機嫌次第な上司
あわよくばで優しくしてた野郎
陰口叩く暇なやつら
あなたは「もういいの」って
でもおれ絶対許せないよ

真夜中に
泣き腫らした目で おれを起こした
「わたし、もうだめかも」
また増えた 体の傷
それ以上に抉られてる 心の傷

そういうときは冬の空気がやけに冷たくて
おれもなんだか耐えられなくて
やることなすこと 口に出すこと
全部無意味に思えてしまった

いつまでも待つよ
あなたが笑えるなら
なんだってやるよ
また二人で笑えるなら 

いっしょうけんめいがんばった
90点であなたを殴った おとうさん
おれはそうはならない

起き上がれない ただそれだけで
朝食を残飯に捨てた おかあさん
おれはそうはならない

あの日 骨になった母さん抱いて
次こそ守るって誓ったんだ

「何なら食べられそう?」
変わらないものをあなたにあげる
変わっていくこと こわくないように
 
即席味噌汁を ティースプーンでちまちま飲んでる
猫舌の彼女が愛おしかった

こんなこと いつまで続くのか
思わないと言ったら嘘になるけど
少しずつでいいんだ
春はまたやってくるんだ

ジャージー牛乳のアイスクリーム どう?
これ 結構おいしいみたいよ
ミルクがきついなら氷菓にするよ?
こたつで食べる贅沢だよ

「いいのかな」
聞き飽きた言葉も 愛おしかった
「いいんだよ」
なんて言葉も ほんものになる

首元まで布団を上げて
まどろむ彼女が愛おしかった

素敵な生活

明るいうちから こんなことして
滴る液体 ながめて
遺伝子の途方も無い旅路のことを思う

(よくこんなとこまで来たね)

明るいうちから こんなことして
アルコールの匂い 漂わせて
煙と涙 一寸先も分からない

明るいうちから こんな気持ちで
繰り返す度 きみの顔が頭を過って
あれ もしかしてこういうのを恋って
そこまで考えてまたやめた

くだんねぇよ
その場しのぎだよ

「素敵な生活」
ソールドアウト
いつも入荷未定

今日もこの身体で生きた
肯定という名の正当化
ようは依存と自立の狭間
何のために耐えてんの
誰のために耐えてんの

「素敵な生活」
「晴れ晴れと生きるチケット」
ソールドアウト
今日も入荷未定

僕のもの

君の時間を金で買う
君の身体を金で買う
君の体温を金で買う
君の視界を金で買う
君の感情を金で買う
君の愛情 愛情は
僕のもの

誰かの特別になりたいですか?
誰の手も掴めない
愛さないけど愛されたい
卑怯な人間 死ねばいい

口に出さない そう決めて
忘れてしまうのが最善で
ねぇ それ 何回目?

もう僕の感情には何の価値もないから
同じだけ それ以上のもの
もらえるなんて思ってないから 

君の体液を金で買う
その煌めきを金で買う
君の憐憫を金で買う
その目の色を金で買う
君の表情を金で買う
その声の色を金で買う
君の記憶を金で買う
君の過去を 君の未来を
その痛み その痛みを

君の時間を金で買う
幸福の秒数 延ばす為に
その為だけ その為だけに

夜勤をやめた

夜勤をやめた
夜に寝れる

元々夜行性ではないし
習性に逆らうのはつらいことだから

夜勤をやめた
鎖はとれた

もう どこへだって飛んでゆける

冷蔵庫がうなっている
車が一台通り過ぎた
面倒くさくなって
電池の交換をしなくなった置き時計は
とっくに意味を失っている

朝方 ベランダで煙草を吸う俺の隣にいた
寝ぼけ眼で歯を磨くあの子は
今どこで何をしているのか

夜勤をやめた
鎖はとれた

無機質な空間を抜け出し
無秩序な夜の世界を歩く
煌々と光る街に目を伏せて
淡い闇に沈んでいく

天使の右手が 俺に触れる
強く 強く 握っていてくれ
でないと今にも飛ばされてしまいそうだから

天使の口から 俺の名前が零れ落ちる
耳元で 何度も 囁いてほしい
でないと今にも忘れてしまいそうだから

夜勤をやめた
際限なく広がる夜に
持ってもいない夢を見た

手を伸ばせば 簡単に手に入る
それは甘く かわきやすく 壊れやすい

ひとりより ふたりのほうがましという
ふたりより ひとりのほうがましと思う
はじめから ひとりのほうがましと思う
 
空回りする記憶は
朝になってようやく眠った

無償

ただ泣くだけなら 金はかからない
ただ眠るだけなら 金はかからない
一人じゃなくても独りなんて
手垢のついた言葉吐くくらいには
俺は空っぽな人間になった
自分から手放しておいて
"失くした"なんて笑ってしまう
たぶん明日も明後日も
先週と大して変わらない

ティッシュを数枚引き抜いた

今日も俺の身勝手の為に
木が切られ 森は泣いている
今日も俺の身勝手の為に
労働者の汗が流れ落ち
土に染み込んでいった

君の涙拭いたい 無償で
君の声が聞きたい 無性に
誰にも言えないようなこと
俺に吐き出してみなよ

空腹 満たすだけなら 何でもいいよな
暑い寒い 感じないなら 家なんかいらない
苦しみを消す代わりに 幸福を差し出す
その覚悟がないなら
もうお前は何も言うな
誰かの為に 何もかも差し出す
そんな時が訪れたとしたら
もう思い残すことはない

ティッシュを数枚引き抜いた
何必死になってんだ?

今日も俺の身勝手の為に
木が切られ 森は泣いている
今日も俺の身勝手の為に
労働者の汗が流れ落ち
土に染み込んでいった

君の涙拭いたい 無償で
君の声が聞きたい 無性に
誰にも聞かせられないようなやつ
俺にだけさらしてみないか

今日も誰かの身勝手で
この星はまわっているようです
「ぼくの将来の夢は」
そこから先が思い出せねえ
「生んでくれてありがとう」
嘘になっていくのが怖え
嘘つきになっていくのが怖え

怖いんだ
 
テレビがつかなくて
無音の中で凍えてるなら
俺が隣で喋っていようか
未だ枯れることを知らない悲しみ
拭う金もないというなら
俺の手をティッシュにすりゃあいい
君の涙拭うよ 無償で
そうしたいって思った 自然と
そばにいる 共に眠る
今はただそれだけを望んでいる

携帯止まったなら直に話そう
徒歩にはなるけど迎えに行くから
君の声が聞きたい 無性に

だからドラッグストアはまた今度でいいだろう

もし君がいなかったら

流行りの曲って響かないんだ
流行ってるからってわけじゃない
なんか全部他人事すぎて
言ってることが分からない
いたたまれない気持ちになるんだ

ほんとうは恥ずかしげもなく
恋だの夢だの言ってみたい
壊れるくらい愛したい
なんてとぼけたことも言ってみたい

恋とは似ても似つかない
寂しさっていう魔物抱えて
この世で一番おそろしい言葉
口にしてみた
少しだけ後悔した

たとえば君が不死の恐竜で
何千もの人間を食い殺してきたと言ったら
そこでさよならを伝えたとしたら
俺が俺でいる意味ってなんなんだろう

もし君がいなかったら
俺は俺でいられてたのかな
もし君がいなかったら
まだ世界を信じることができてたのかな

愛とは似ても似つかない
恋っていう魔物抱えて
この世で一番おそろしい言葉
口にしてみた この部屋に溶けた
少しだけ後悔した
 
俺がいてもいなくても
なんて話は時間の無駄だね
俺は俺でいることをやめる
君を好きでいるために
俺は俺でいることをやめる
そう決めよう

もし君がいなかったら
俺は俺のままだった
もし君がいなかったら
世界は一つのままだった

もし君がいなかったら
もし君がいなかったら

再生

誰の声かも分からないけど
回る円盤の上で 歩いたり 走ったり
誰の為かも分からないけど
道のはずれ 少し狂った調子で
歌ったり 踊ったり うずくまって泣いたり
それでも回り続けるので
誰も興味はないらしい

「やっぱいける」「やっぱ無理」
リピート再生 聴き飽きた

別に乗り越えた訳じゃない
全部引きずってやってきた
両足に巻き付いてるロープ
切ろうにも浮いちまいそうで怖い
過去なんていくら噛んでも味しないのにさ

ゆうべ見たラファータ
逃げ出してしまわぬよう
両手を合わせ 指を絡ませ
小さな檻をつくり 祈りを捧げた

こんな弾んだ気持ちは 驚くほど永続きしない
一度口に含んだら あとは溶けてしまうだけ
部屋の隅に転がる 埃まみれのラファータ
その温もりを食んだら
少しはましな味がしたんだ

誰の為に 何の為に
考えるな 感じなよ
それが無理なら忘れちまいなよ
「俺」とか「君」とか
自分で言ってて飽きてきてる
なんもないから 切り離したら宙に浮かぶ
いっそこのまま宇宙に行こうか

おれまだやれる ほらまた再生
聴こえるよラファータ
掌のラファータ
いつの間に溶けたんだ?
すすって飲んだら甘かった
泣くな 笑え
悲しむような柄じゃない

洗濯ガール

朝日の橙色に満ちたキッチンで
一杯 水を飲み干した
ベランダに出てみる
天気予報はさほど寒くならないと言っていた
何を着ればいいのか かえって分からなくて
しばらく君の部屋の窓を眺めた
ああ 電子レンジが鳴いている

洗濯ガール 僕はいつも
君のことを見守っているよ

洗濯ガール 僕はいつも
君のことを想っているよ

夕焼けの橙色に満ちたベランダで
君は洗濯バサミを外した
その横顔を 俺は見つけてしまったんだ

寒空の下 濡れた衣服に苛まれ
凍えたその手の冷たさを
思う存分吸い込んで
俺の体はちょうどいい
怖いくらいに心地良い

ここにふたりの箱庭をつくろう
狭い狭い箱の中
ふたりっきりで窒息死
それはそれでいいかも なんて
「言うよねぇ」
ものまね 下手くそだな 俺

人間なんて 薄皮剥げばカビだらけ
俺もそうさ もれなくそうさ
綺麗さっぱり 洗い流そう
闇は泡とともに消え
心は芯から澄み切って
二度と戻れなくていい
二度と返さなくていい
生活という幻の中
ただ一人きりだという気がしてた
夕焼けの橙色に満ちたベランダで
君は季節はずれな曲を口ずさむ
消え入りそうなその旋律に
絡め取られて死んでしまいたい
生活という幻の中
ただ過ぎ去った日々を指折り数えるだった

君の職場の近くにあるカラオケボックスで
ずっと君のことを考えていた
デンモクも触らず ドリンクバーにも行かず
ひたすら君への手紙を書いた
こんな大学ノートのままじゃあんまりだから
便箋を買って それに清書しようと思う
退勤する君をひっそり見送った後
煙草を吸って 少し時間をずらしてから帰った
たぶん俺は頭がおかしいんだと思う

欲望を吐き出す度
突きつけられる愚かさも
脳を蝕む憂鬱すらも
愛おしいと感じてしまう
さすがに浮かれすぎなんじゃないだろうか

人間なんて 薄皮剥げばカビだらけ
俺もそうで 君もそうでしょ?
綺麗さっぱり 洗い流そう
闇は泡とともに消え
心は芯から澄み切って
清らかな朝日が乾かしてくれる
 
夕焼けの橙色に染まったカーテンが
風に揺れるのを眺めていたら
夢の中で 教会にいる君を見た
君は裸で 白いドレスを洗ってた
それはとても美しかった
だからきっと
明日は透き通るような快晴になる
ドレスは更に白さを増して
それを身にまとった君は
あの教会で誓いのキスを交わすのだろう
俺はというと それをただ見てる
結局見てるだけなんだ

子供がたんぽぽの綿毛を吹くように
ばらばらにされた俺の心は
君のバスタオルにくっついて
いつかニトロのように爆発を起こす
それは俺自身も望んでないことだけど
もうどうすればいいのか分からない

洗濯ガール 言葉にするのは難しいけど
「はじまりはそう…」
藍色と月光に満ちたベランダで
君は静かに涙を流した
その雫の煌めきを 俺は知ってしまったんだ

洗濯ガール 僕はいつも
君のがんばりを見守っているよ

洗濯ガール 分かってるんだ
「きっとこれは異常なんだと思います」

洗濯ガール 言葉にするのは難しいけど

洗濯ガール 「僕はあなたが好きです」

今夜 職場まで迎えに行きます
車のナンバーは 4290
歯肉炎(円)で 覚えてください

解熱剤

ここに解熱剤がある
これを飲めば 熱はさめて
何もかも 元通りになる
そして 僕は僕を取り戻す

単純なことを複雑にして
随分困らせてしまったね
散々傷を舐め合っては
「ごめん」の一言で片付けた

狂おしいほど愛してる
そんなの体もたないぜ

一挙手一投足に 一喜一憂
そういうのもう疲れたよ

若葉色の絵の具で塗ってみたって
枯れ葉は枯れ葉に過ぎないよ

ここに解熱剤がある
これを飲めば 熱は冷めて
何もかも 元通りになる
熱をなくして 僕は死体になる

地面に埋まって
いつかそこを通りかかる君に
何も知らない君に 踏まれたい

コーヒーフレッシュリバーサイド

生きるほど 熱をなくしてく
特に悪いことだとは思わないけど

きっと今の俺を見たら
過去の自分は泣いて
未来の自分は嗤う
いつもそんな気がしてた

とりつく島もなく
車の目がやけに冷たい
どうせすぐに 忘れるやつらさ

コーヒーフレッシュ・リバーサイドで
憧れは 憧れのまま
宝石にはならないと知った

コーヒーフレッシュ・リバーサイドを
焼き尽くす炎 眺めるように
不思議と心穏やかだった

生活はまるで 歪なパズル
当然といえばそれまでだけど

後出し 後回し そんなことばかり
それでも続く日々のことを
希望だと思うには青すぎて

わざわざ雨の中に飛び込んで
綺麗な傘を差してるような
そんなやつらを笑ってた

けれど今日の君は とびきり可愛い
ひとまず胸に しまっておこう

どこまでも素直に生きる
そう決めたということを
とりあえず君に伝えておこう

コーヒーフレッシュ・リバーの音が
耳について離れなかった

逃れられないそのイメージに
俺の正気は弄ばれた

コーヒーフレッシュ・リバーの急流
為す術もなく しがみついた

コーヒーフレッシュ・リバーサイドで
俺は一人立ち尽くしてた

詩集「from mire」

詩集「from mire」

  • 自由詩
  • 短編
  • 青年向け
更新日
登録日
2025-05-19

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. コーヒーゼリーマウンテン
  2. マゼンダ
  3. 麻酔
  4. 春になったら
  5. 素敵な生活
  6. 僕のもの
  7. 夜勤をやめた
  8. 無償
  9. もし君がいなかったら
  10. 再生
  11. 洗濯ガール
  12. 解熱剤
  13. コーヒーフレッシュリバーサイド