@117

教室で1人ぽつんと居座る私。教室内の笑い声がうるさい。
こんなはずじゃなかった。

4月になり、高校受験が終わって、解放感のあふれた暖かい日差しに包まれながら正門をくぐった。九州トップレベルと言われている超名門校・二夏宮高校に合格した私は、中学校の友達にびっくりするくらい褒め称えられた。
「えぐっっっ、天才すぎる」
「人間じゃねぇーな!!笑」
「一生ついていくわ」
はじめは嬉しかった。が、だんだんと対応するのがめんどくさくなった。いつもの悩みだ。

長い長い春休みの予定を友達との遊びで埋めつくし、毎日はしゃぎながら過ごしていた。きっとこれから先もこんな毎日が続くだろう。そう思っていた。

そして今現在、私は教室の ど真ん中にいる。1人で。
男子は6個、女子は3個ほどのグループがすでにできあがっている。もちろん私は含まれていない。
あれ?どうして?笑
なぜか笑えてくる。中学の時とのギャップが大きすぎてこの現状を受け入れることができていない。
初日のLHRが終わって門をくぐり、電車に乗り、しばらく歩いて家へ行った。誰1人とも話さなかった。話しかけなかったし、話しかけられなかった。なぜか心に穴がぽっかりと空いたような感覚がある。
シワひとつない制服を着たままベッドへダイブし、スマホを開く。通知2件。中学の友達からだ。
『高校どうやったー?イケメンとか笑』『てか友達できそうにないんだが』
あー。そういえば誰の顔もまじまじと見ていない。あの場所にいることに嫌悪感をおぼえて早々と帰ったからだろうか。とりあえず返信。
『意外とみんなノリよさそう。イケメンなんていないよ笑』
あえて2件目のメッセージには反応しなかった。すぐに返信が来た。
『え!もう友達できたん?!はやすぎるよー🥲』
多分変な勘違いをさせてしまった。訂正しようとも思ったがやめておいた。
『まだ1日目やけん明日からもがんばろ』
友達が1人もいないのに頑張ることだなんてできるのだろうか。自分で言っておいて「がんばろう」という言葉が皮肉に思えた。

朝。起きて、ご飯を食べて、歩いて、電車に乗って、正門をくぐって、着席。今日から昼休みが始まる。きっと1人で食べることになるのだろう。朝から教室で行き交う言葉の量が多く、鬱陶しく感じる。合間合間に聞こえるギクシャクとした笑い声。
無理してでも友達がほしいのだろうか。明らかに人に合わせている様子を見ているとバカバカしく思う。

あれ。めんどくさいな。友達って自分の素を隠してまでつくらないといけないようなものなのか。そこまでして友達って必要なのか。友達をつくるってめんどくさい。
これは友達がいる人への嫉妬なのか、自分がぼっちになっていることを正当化しようとしているのか、分からない。
だか、寂しくも感じる。腹がよじれるまで笑いあっていた仲間はここにはいない。義務教育の世界が終わって新しい道へと踏み出したからには1人で歩み続けるしか方法はない。しかたのないことだ。

気づいたら11時55分のチャイムが鳴り終わり、昼休みが始まっていた。
1人で食べよう。手を洗い、弁当箱をとり出す。弁当のふたを開けようとしたとき、肩をつつかれた。
「一緒に食べん?」
突然の誘いに驚き、2秒ほど固まってしまったが、なんとか頷き、一緒に食べることになった。6人の子とともに。全員が初対面なので自己紹介から始まる。円の形になって食べているので全員の顔が見えやすい。

話題は中学時代のことだった。部活や委員会、修学旅行など。特に盛り上がることなく昼休みが終わった。
最初は無理してでも人に合わせないと話は盛り上がらないのか、そんなことを思いながら正門をくぐり、電車に乗り、しばらく歩いて、家へ行った。

朝。起きて、ご飯を食べて、歩いて、電車に乗って、正門をくぐって、着席。もちろん1人。今日も昼休みになったら昨日のメンバーで弁当を食べるのだろう。朝から行き交う言葉の量がより多くなった気がしたが、あまり気にならなかった。

8回目のチャイムが鳴り終わり、昼休みが始まる。
声をかけられるのを待とう。手を洗い、弁当箱をとり出す。弁当のふたを開けようとしたとき、声をかけられると思っていた。だが、私に向けられる言葉はない。卵焼きをつまみ出し口へ運ぶ。ふりかけの袋を開け、冷えたご飯にかける。ミニトマトが口の中ではじける。食べ終わった。声をかけられなかった。そーっとふり向いてみると昨日のメンバーがいた。
私を入れずに6人で。
あー、うん。めんどくさい。

@117

@117

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-05-18

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