触れられてほしい場所を求めて

短歌連作50首

触れられてほしい場所を求めて

さきちゃんは感謝の言葉が好きだってだからわたしを好きだったって

知らずでも傷つけている虹の中ひっくり返った小石のひとつ

ひとはみな死んでしまうね今日の夜コロッケだけどだいじょうぶかな

野球帽置き去りにした四年前 不思議なことは不思議とあるよ

蜘蛛の巣が解けていった夏祭り行かれなかったよこんなに晴れて

ゲームから目を覚ましたら先生が微笑んでいてわたしは眠る

高知県四万十市では三十五度超えましたって涙が出ちゃう

悲しみが怖かったから窓ガラスびしゃびしゃのまま家を出ていく

階段を下りてたどり着く夢の底わたしとあなたが踊っています

逢いたくて泣きべそかいて眠りだす猫だけが今わたしを見てる

がんばって運動したら東大に入れるはずの夜が明けている

意味があることかのように愛し合うひとの間で水は汲まれて

ナプキンを使って厚みがなくなったポーチと帰る七階の部屋

呼んで来るだけでうれしくなるからだこころたまには飛びたくもなる

テンポラリー・コンダンス もしもわたしたちが親を知らない子熊だったら

エドワード・ゴーリーを読む日曜の明日にはもう服を着ている

雨が降る音が聞こえる だれにでも触れられてほしい場所を求めて

日が暮れて閉じ込められていくバスのわたしをわたしにしていくものと

性能のよいヘッドホンかもしれない それとも銃を撃つひとですか

わたしではないわたしから告げられる余命のような詩を書いている

決められないときに読むべき本がありわたしはほとんど死んでしまった

前からひとつ後ろからひとつ声をかけてできるオープンサンド

わたしの歯は残るだろうか 火葬場はすこし明るい 手を繋ぎたい

傾いて着席をして図書館は私語寛容な先端技術

家族みたいに隣を歩いていたひとの歩みがすこしずつ遅くなる

国公立大学生のあとに乗るエスカレーターの珊瑚の匂い

死ぬことを待つ停留所 これからはあいさつをしてかまいませんか

切りのよい数字で割っていたような青春がいま終りを告げる

仏前にうなぎを供える夏ひかりあなたはどこにいるのだろうか

背後からわたしを射抜く矢があってわたしの身体は空洞だらけ

帰りでもいいから帰って来てねって言ったじゃないの帰って来てね

耳鳴りもだめですねって言われても新聞なんて買えなかったし

泣かずとも流れるもののひと粒にさよならと名をつけた七月

窓際のサンキャッチャーに惑わされサリンジャー読む十時五十分

ひとをただ愛してしまったそれだけでどうしてこんなに死んでしまうの

ディスコってなんなんだろうね七夕に短冊書いてお祈りがしたい

助けても言えないくらい怖いのに瞬きだけはやめられないの

午後六時半から始まる火事のニュースごはんが赤いなぜなのかあさん

血合いだけ食べて生きてる仙人が教壇に立つ(身震いがする)

雨どいの下で大きくうずくまる見られるものなら見てみればいい

爪の跡がついた名刺をあげますね先生は一生先生だから

楽しんでもかまいませんか世界ではあなたが死んでわたしが楽しんで

水たまり避けて夏帽子引っ提げて十年ぶりに息をしている

涎かけ新調したのね懐かしいひとから順に影踏んでいく

最後まで笑ってくれてありがとう明日会えたらまた笑おうね

ハヤシライスケチャップ足して超ハヤシライスおいしいねおいしいよね

さようならまた会いましょうさようなら大好きだから鳥になってね

カポーティ、ブラッドレイと再会し市内のラーメン屋で語り合う

おはようもちゃんと言えたよ喉の中ぐるぐる鳴ってしまったけれど

仔猫から聞いたよ今夜白鷺が羽ばたいていくたった一羽で

触れられてほしい場所を求めて

触れられてほしい場所を求めて

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-05-18

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