zoku勇者 ドラクエⅨ編 65
天界ゴーゴー
「……ううう~……」
地面に頭がめり込んで抜けず、困っているジャミ公を余所に、モンが
ちょこちょこと前に出て、皆にお久しぶりの挨拶を交わすのだった。
「みんな……、お帰りモン!……心配掛けてごめんなさい、モン……」
「……モンちゃんたらっ!めっ!ただいまでしょっ!もう~っ!」
「モン~!♪」
「!?え、えええ!ちょ、ちょっと待ってっ!」
「ダウド、ど、どうしたんだい!?」
「ダウド……?」
アルベルトとアイシャは心配するが、ダウドは喜びで身体が震えだした。
モンのある様子に気づいたからである……。
「モン……、ま、また喋ってるよお、ちゃんと話ししてる……」
「あ、ああっ!?」
「そ、そう言えば……、モンちゃん……」
「モン、また喋れる様になったモン、果実の力じゃなくて……、ジャミルが
モンに勇気をくれたんだモン!モンに大切な事、教えてくれたモン……」
「モンちゃん……、おいで……」
「モォーーンっ!!」
「お帰り、モン……」
「……モン、モンーーっ!って、……あああーーっ!?」
……モンは皆に飛びついた後、久しぶりの定位置に乗る。そしてこれ又
久しぶりの下ネタ太鼓を始めるのだった……。
「♪やっぱりダウドの頭の上は落ち着くモン!ぽーこぽーこ、アゴ
ちんぽこモーン!アゴシャーーっ!ちん♪」
「あ、あはは……、でも、モンが元気そうで本当に良かったよ……」
「本当にもうっ!……うふふ、ふふっ!良かった、本当に……」
「……何か異様にパワーアップしてるしーーっ!?……あああっ!
又これからこれ、毎日やられるんだねえ、とほほのほお~……」
「……のな、おめーら何か忘れてるだろーーっ!おおーーいっ!?」
後ろから聞こえて来た罵声に皆は慌てて振り返る……。モンが又喋れる様に
なった事の喜びで、このお方をすっかり忘れていたんである……。
「ジャミルっ、大丈夫っ!?」
「全くっ!……このアホおーーっ!」
「うるせーっ!ヘタレに言われたくねえーーっ!!」
「全くはどっちだか、はあ……」
「……腹黒もうるせーぞっ!」
「……」
仲間達は慌ててジャミ公を引っこ抜きに掛る。巨大な野菜を
抜いているのでは無いのだが……。数分後、ジャミ公は漸く
地面から救助された……。
「はあ、前の話でもこんな事あったなあ~、俺ってマジバカだ、
とにかく助かった……、は……」
「ジャミル……」
実は全然助かっていないかも知れなかった。顔を上げると、目の前には
仁王立ちのアルベルト、今にも鼻を垂らして飛び掛かって来そうなダウド。
……そして、涙目のアイシャ。
「ご、ごめん、な……、俺、本当に皆に心配掛けてばっかりで、進歩ねえな、
ははっ……」
「ジャミル、その格好何よ……、装備品も付けてないし、シャツも
ボロボロで……、顔も足も真っ黒……、彼方此方傷だらけじゃないの
よう……」
アイシャはズタボロのジャミルを見て、この一ヶ月間、皆と離れ離れの間、
ジャミルに一体何が起こっていたのか察すると又ボロボロ涙を溢し始めた。
顔の傷跡は牢獄で兵やゴレオンにブン殴られた跡が痣になって残ってしまい、
隠しようがなかった……。本人は至って元気なのだが、ずっとジャミルの
安否を心配していたアイシャ、アルベルトとダウドにとって、ジャミルの
こんな姿を見るのはたまったモンではない……。
「ごめんな、皆……、俺も沢山話したい事があるんだ、でも、直ぐに
また急がなくちゃ、ダーマの青い木の処で、知り合った仲間が待ってる
のさ、又、天界に行かなくちゃなんだよ……、落ち着いたら絶対ゆっくり
話すから、……もう一人知り合った、大事なダチの事もな……」
「ジャミル……」
ジャミルをそっと見つめるアイシャ。ジャミルはそう呟きながら空の
彼方を見上げ、遠い場所へと旅立って行ったボンの事を思うのだった……。
「分かったよ、でも……、少し支度するぐらいバチは当たらないよ?
ほら……」
アルベルトは指で宿屋の方を指す。まずは風呂に入れと言っているんで
ある……。
「だよねえ、そのカッコじゃ、幾ら何でも……」
「ふふ、当然お腹も空いてるわよね?」
ジャミルはやっぱ適わねえなあと思いながら照れてぼりぼり頭を掻く。
此処一ヶ月間、禄に風呂も入らせて貰っていない所為でもあるし、
衛生面も悪い汚い処にずっとぶち込まれていた訳だし、もうそこら
中が痒くてどうしようかと困っていたのだった。
「ジャミルもモンとおそろでカイカイモン!」
「……モン、うるせーよっ!……カイい~……」
「そうだよっ!テンチョーも今日一日ぐらいならゆっくりして来て
いいって言ってるし!休んでる天使達も少しは状態が落ち着いてる
からさッ!……アンタの所為で箱船の中、も~、くっさくてしょーが
ねーんですケドっ!?」
「……サンディっ、あなたも無事だったのね!」
「あったりまえっしょ!ま、とにかく又アタシも宜しくネ!皆、
このアホをとびっきりに綺麗にしてやってよネっ!んじゃーねっ!」
サンディは言いたい事だけ伝えると、メンテもあるから忙しいのよと
箱船の方へ戻って行った。アルベルト達も取りあえずサンディの無事な
姿を見れてほっとする。だが、化粧くせーオメーにクセー言われたか
ねえやいとジャミ公は又ブンむくれた。
「さ、許可もちゃんと出た事だし、君はまずお風呂に入る入る!」
「行ってらっしゃい!」
「ごゆっくり~……」
「へえ~い、へい、モン、じゃあ風呂貸して貰うべ……」
「モン♡」
と、言う訳で、ジャミ公とモンは許可を借り、宿屋の特別風呂へと。無論、
汚した風呂は後でちゃんと自分で掃除するんである。
「ぷはああ~、生き返る~、天国じゃ、ふうう~……」
「……ジャミル、モン、手が背中に届かないモン、背中流して欲しいモン……」
「はいよ、待ってな……」
「モン!」
ジャミルはモンの背中に石鹸を付けたスポンジでごしごし擦り、
洗って流してやる。モンも久々に気持ち良さそうである。
「よし、モン、はよお湯に入れ入れ!」
「モンモン~♪ぽかぽかモン~!」
ジャミルはモンの幸せそうな表情を見ながら温かいお湯に浸かり、又
皆に会えた事、ずっと皆が待っていてくれた事に、自分も心から幸せを
噛みしめるのだった。……同時に、ボンを此処に連れて来てやれなかった事、
……もっとボンと一緒に沢山の話をしたかった事、皆にもちゃんとボンを
紹介したかった事、……悔やんでしまい、悲しみが襲って来るのだった……。
「……ジャミル……、またお顔に元気なくなってるモン、……ボンの事モン?」
「ん?あ、ああ……、けど、何時までもくよくよしてても仕方ねえもんな、
元気出さなきゃな、ボンが悲しむからよ、あいつに守って貰った命、大切に
しなくちゃだな……」
「モォ~ン……」
「……どうも申し訳ありませんですのう、もっと良い防具を提供
したかったんですが、儂らの店もあの惨劇でほぼ潰れてしまいまして……、
ウチもこんな物しか……」
「いや、有り難う、おっちゃん、当分はこれで十分だよ、動きやすいしさ、
ありがとな!」
「いえ、此方こそ、有り難うございます……」
ジャミルの風呂も済ませ、4人組は元防具屋店主の露天商に来ていた。
ジャミルの防具を新たに新調する為であったが、この防具屋もあの
惨劇で店を潰されていた。防具屋と言うよりは、どうにか焼かれなかった
少しばかりの品を売って生計を立てている、フリマの様な感じだった。
……もう何処の店も皆、そんな苦しい状態である。
「でも……、本当にそれで大丈夫?」
「ああ、コレ着てると何か3時代に戻ったみてえ!ははっ!」
「うん、やっぱり似合ってるわよ!」
「……けど、余り又調子に乗らないんだよっ!君はっ!……こら、
聞いてるのかっ!!」
ジャミルは旅人の服を着て大はしゃぎであった。風呂に入って久々に
気分が良いのか、格好も身軽になり、そこら辺をぴょんぴょん飛び回って
いる状態……。重い鎧よりは防御力よりも何よりも、軽装を好む所為も
あるので。
「ジャミルさん、皆さん、いよいよ本当に行ってしまわれるんですのう、
お気を付けて……」
其処へ見送りにグレイナルの元世話係の婆さんと村人達が。旅立つ
4人組を見送りに来てくれたのだった。
「皆さん、長い間本当にお世話になりました……」
「ありがとモン!」
アルベルトが代表で頭を下げると、続いて、アイシャ、ダウドも。
ダウドの定位置の上に乗っているモンも真似してぺこりと頭を下げた。
そして、最後にジャミル。
「……俺ら、グレイナルの事、ずっと忘れないよ、婆さんも皆もどうか
元気で……、有り難う……」
「ええ、グレイナル様はいつもあなた方を遠い場所からきっと見守って
いて下さる筈じゃ、どうか、お気を付けてのう……、儂らも又、必ず
この里を建て直してみせます、グレイナル様が心から愛したこの
ドミールの里をのう……」
4人は婆さん、村人達にお礼を言うと、ドミールの里を後にする……。
もう絶対にこんな悲劇は起こさせない事を誓い、必ず帝国を倒し、
皆が安心して過ごせる安らかな時代を取り戻す事を約束して……。
「はあ、それにしてもマジびっくりッスよ~、テンチョーとジャミ公が
仲良く一緒に拉致られてたなんてさぁ……、ホント、何が起こるか分かん
ないですよ、この世の中……」
「……だからその呼び方はよせと言っているだろう!だが、ジャミルが
いなければ俺達は一生カデスから出られなかったかもしれんな、これも
天使様のお導きと言う奴なのか……」
「へえ~、アイツがねえ~、ま、確かにさ、セイチョーしてるのは
分かりマスけど、頭の方はさっぱりだと思いマスよう~!?」
「……誰の頭がさっぱりだっ!このガングロめっ!!」
「おお、ジャミル、早かったな!」
「あ、ホント、結構早かったね、もうちょっとグダグダしてくるかと
思ったケド!お帰り!」
車両のドアが開き、ジャミ公軍団が箱船に乗り込んで来る。ジャミ公を
先頭に、アルベルト、ダウド、アイシャ、モン……。
「あの、こんにちは……」
「お前らは、ジャミルの言っていた連れだな?俺はアギロ、ジャミルには
世話になった仲だ、この箱船の真の運転士である、宜しく……」
アギロはごっつい手を仲間達に差し出す。ジャミルの後ろにいた
アルベルト達も急いでアギロに挨拶を。
「僕はアルベルトです、宜しくお願いします……、此方こそ、ジャミルの
事を有り難うございました、感謝します……」
「初めまして、私、アイシャと言います!」
「オイラはダウドです、えへへ……」
「うむ、やはり皆若いな、宜しい!これから長い付き合いになる、
宜しく頼むぞ……」
「はあ、また天使界行くんですねえ~……、もう、船の姿が見えなかった
時は本当、最悪だったよお~……」
「♪ぽーこぽーこ、アゴ、ちんちんち~ん!」
「コラっ、ダウドっ!……モンも太鼓叩かないっ!す、すみません……」
「ん?姿が見えなかったとは……?しかし、通常の人間はこの船が
見えない筈だが、そう言えば、お前達はこの箱船が目に見えている様だが……」
「うん、アタシがデスね、ちょいちょい~で奴らにも船の姿が見える様に
してあげたんスよ!だって、じゃなきゃ、ギャーギャーウルセーんだモン!」
「う、うっ……」
サンディの視線はヘタレの方に向けられる。最初の乗車の時、目に
見えない空を飛ぶ箱船の中で、怖い怖いと騒ぎ捲った張本人なので……。
「ウルセーんだモン……、シャー!うるせーのはガングロの方なんだモンっ!」
「何よッ!デブ座布団のコトなんか一言も言ってねーってのよッ!」
と、まあ、又ケンカを始めるサンディとモン。アギロは汗を掻きつつ、
取りあえず、二人を放っておき、話を引き続き、ジャミル達に聞く
事にした……。
「……そう言う事、だから、皆も普通に天使界でも活動出来るって事さ、
まあ、実際に天使界で真面に行動するのは今回が初めてなんだけどさ、
多分オムイの爺さんも許してくれるんじゃねえかな……」
「そうか、ジャミルの友達なら俺も心配ないと思うが、だが、呉々も
天使界で羽目を外さない様にな……」
「ええ、僕らも常に礼儀正しく、それは心得ているつもりです!」
「はあーいっ!私も気をつけます!でも、天使界の中を歩けるって、何だか
とっても楽しみ!ワクワクしちゃう!」
「……とほほのほお~、い、いきなり……、人間が来たとかで、
どうか牢屋にぶち込まれません様に……、え~う、え~う……」
「……はあ、久々に一服やりてえ……、っと、今のは失言、お~ほほほ!
モン、窓から外でも見に行こうや!溜まってるから屁も出ますよ~っと!
あらよっ!……ブッ!」
「お~ほほほ!モン♪ブッ!」
「……ま、全く……、あのバカコンビは……」
「でも、ジャミルが元気になってくれたもの、本当に良かったわ……」
「良くないよお!……くさいよおーー!!」
……人間よりも、何よりも羽目を外すのは、この、元・羽無し天使が一番
心配である。段々、又賑やかさも戻りつつ有りまして。何はともあれ、
傷ついた天使達を乗せ、箱船は一路天使界を目指す……。
「あ~はははっ!……はあ……」
「ジャミル……、モン?」
「……こうやって、バカやって……、自分に気合い入れて、皆にボンの
事を話そうと思ったんだけど、やっぱ駄目だ、まだ思い出すだけで
辛くてさ……」
「ジャミルがちゃんとお話出来る様になったら、それでいいと思うモン……」
「……ああ、……絶対許さねえぞ、見てろ……、帝国め……」
「モン……」
「さ、そろそろ天使界につくよッ!あんたらちゃんと準備は出来てんのッ!?」
「俺らはいつでも大丈夫だけど……、なあ……」
「うん……」
「ええ……」
「ダウド、大丈夫モン?」
「……おええ~……、帰りの事も考えると……、もうイヤ……、
おげげ……」
仲間達は心配そうにダウドの方を見る……。例によって又船酔いした様で、
大変な事態になっていたのだった。
「うう~、下界の皆さん、ごめんなさい……、もしかしたら空から
オイラのゲロが……」
「……いいってばっ!ほら、落ち着いたら降りる準備するんだよ!
時間がないよ!!」
「アルうう~……、うう~、鬼~……」
「お前さん、酔いやすい体質なのかい?大変だな、ほれ、気分が収まるか
分からんが、ハーブの飴だ、2、3個はある、口に収めときな……」
「モン、ハーブは苦いから嫌、歯磨き粉の味がするんだモン、飴はやっぱり
あま~いイチゴがいいモン♡」
「モンちゃんたら、我侭ねえ~……、ふふっ!」
「♪モンモン!」
アイシャはこうやって再びモンとお喋りが出来る様になった事に本当に
嬉しそうである。そんな二人の姿を見て、ジャミルも一安心。又見られる
様になった安らぎの光景にほっとしていた。
「……アギロさ~ん、ありがとう~……、ぼえっ……、!?うっ、
……ぐ、ぐぐぐぐ!」
「……おいおいおいっ、大丈夫かっ!?」
「アホっ!あーあー、何やってんだよっ!!」
「……だ、だずげで、ぐるじいい~……、ぢ、ぢっぞぐずる……」
ダウドはアギロから貰った飴を口に入れるが、急いで全部口に
押し込んだ為、喉に詰まりそうになった。……ジャミル達は
ダウドの背中を叩いてやったりで大騒ぎ。今回の騒動屋は
ジャミルではなく、ダウドだった。んなこんなで、漸く箱船は
天使界へと……。
「さあ、天使界だぞ、地上にいる時も言ったが、ジャミル以外の
お前さん達は呉々も粗相の無い様にしてくれよ、生身の人間が此処を
訪れるのは、はっきり言って前代未聞だからな、……船酔いの兄ちゃんも、
いいか……?」
「……大丈夫れす……、むっぷ……」
アルベルト達は頷くが、ダウドは口を押さえたまま返事……。本当に
大丈夫なのかいとアギロは不安になる……。
「しっかりしなさいよっ!ヘタレっ!天使界にゲロでも落として
くれちゃったら、アンタ、それこそ絞首刑だよっ!!」
「……ひええーーっ!?」
「……サンディ、脅かすんじゃない、さあ、今度こそ本当に行ってきな、
俺達は此処で待ってるからな、何かあったらいつでも言ってくれ!」
「ああ、宜しく、事がすんだから直ぐに戻って来るから!よし、皆、俺の後に
付いて来てくれ!」
ジャミル達はまず、捕まっていた天使達を連れ、根っこの部屋へ……。
久しぶりの天使界の中で、身体が弱っていた天使達もあっと言う間に
生気とエネルギーが戻り始めていた……。しかし、アルベルト達に
とっては初めての天使界内。やはり不安は有る様だった……。仲間達は
根っこの部屋の外でジャミルが出て来るのを待っていた。
「何か……、やっぱりみんなジロジロこっち見てるよおーーっ!ジャミル、
早くしてーーっ!!」
「ダウド、落ち着きなよ、騒いだら余計に変に思われるよ……」
「そうよ、私達は決して悪い事の為に此処に訪れたんじゃないんだもの……」
「ちゃ~んとジャミルが天使の皆にも後でお話してくれるから大丈夫モン♪」
そして、根っこの部屋の中では……。
「気分はどうだい?」
「ああ……、懐かしい天使界だ、漸く帰って来れた……、世話になったな、
ジャミル、お前が助けに来てくれなければ私達は今頃……」
「魔帝国ガナンの所為で弱った身体も天使界にいれば何れ回復する
事でしょう……」
「我々の事なら心配は要らん、ジャミルよ、お前は長老オムイ様に
地上で起きた事を報告して来てくれ、魔帝国ガナンの復活、カデスの
牢獄の事、闇竜バルボロスが蘇った事、……それから……」
天使の一人は其処で言葉を止める。ジャミルも何も言わず、そのまま
言葉を発せず……。
「お前の師である……、イザヤールが天使界を裏切った事を……」
「……」
「お前には辛い役目かも知れんがイザヤールが裏切った事を長老オムイ様に
どうか報告をしてくれ……、イザヤールがお前から女神の果実を奪い魔帝国へ
持ち去った事をな……、魔帝国ガナンは天使を捕まえその力を悪用し、闇竜
バルボロスを復活させてしまった、カデスの牢獄に有ったあの繭が天使から
力を吸い取るのだ……」
ジャミルは天使の一人から又、衝撃の事実を知った。天使から奪い取った
力で闇竜バルボロスは復活したと……。
「……ふう、あんな状態が何年も続いていたら俺は一体今頃どうなっていたか
分からないよ……」
「この部屋で身体を休めていれば魔帝国ガナンに奪われた天使のチカラも
徐々に回復するでしょう、けれど……、ガナン帝国城には未だ沢山の仲間達が
捕らわれている様です……」
「でも、俺……」
ジャミルも当然イザヤールの裏切りを許せなかった。天使界を裏切り、
帝国に付いたばかりか、女神の果実を奪い、モンを傷つけ、自分達も
一時引き裂かれて、バラバラにされてしまった……。だが、イザヤールが
許せないと同時に、何故かモヤモヤした気持ちが浮かび上がって来る……。
「ジャミル、やはり迷っているのですね……、でも、大切な事です、
このままでは又、何れ同じ悲劇が起きてしまうでしょう、どうか迷わず、
あなたはこの事を長老オムイ様にお伝えして下さい、お願いです……」
「頼む、魔帝国ガナンが蘇った事を長老オムイ様に報告を……、これは
もう世界の危機だ、長らく滅びの地であったガナン帝国城には何千もの
兵士の姿が見える、……このままでは人間界の国々は何れ魔帝国ガナンの
奴らに攻め滅ぼされるだろう……」
「分かったよ、大丈夫さ、……帝国は沢山の人間の命を奪ったんだ、
絶対許すもんか……」
ジャミルは天使達の前で誓う。散っていったカデスの仲間達、そして、
自分を庇い、傷つき、倒れたボンの事を思うとイザヤールへの迷いも消えた。
非道の帝国に加担したイザヤールを絶対に許さねえと……。天使達と固く
握手を交わすと根っこの部屋を後にする。
「……うわわ~!来ないでええー!オイラ達……、あ、怪しいモンじゃ
ないよおおー!」
「モンは怪しくないモン!シャーーっ!」
「あの、私達、ジャミルの友達なんです!」
「どうか僕達を信じて下さい、もうすぐジャミルがちゃんと説明して
くれる筈です!」
ジャミルが根っこの部屋から出ると……、集まって来た天使達に仲間達が
取り囲まれ、エライ騒ぎになっていた。無理もないが……。
「……おかしいわ、翼も頭の輪もないじゃないの!どうして人間が
天使界に普通にいるの!」
「俺達天使の姿がどうして見えるんだっ!!」
「そうだ、おかしいぞっ、……こいつら変な力で天使界を乗っ取りに来た
人間なのかっ!?」
「……い、急いでオムイ様にっ!!」
「……あ~もううっ!このままじゃオイラ達、本当に絞首刑になっちゃう
よおおーーっ!!」
「ダウドっ、縁起でも無い事言わないでっ!」
「……ま、待てよ、皆っ!」
「ジャミル、お前……」
其処に漸く救世主現る……。根っこの部屋から出て来たジャミルは
集まっている天使達に急いで大まかな事情と説明をするのだった……。
「聞いてくれ、此処にいる皆は俺の大事なダチだよ、これまでずっと
一緒に困難を乗り越えて一緒に頑張って来た大切なダチさ!だから
全然何の心配も要らねえよ、……そりゃちょっと癖があって変な奴ら
だけどさ……」
「ジャミル……、聞こえてるんだけど……、一言多いよ、君……」
「もう~っ!変なのはジャミルじゃないのようーー!」
「シャーーっ!!」
「そうだよお、ジャミルが一番変なんだよおーーっ!!」
「……あいててて!コラ!寄って集って頭殴るな!噛み付くな!オムイの
爺さんにもこれから事情を話しに行く処なのさ……」
「ふ~む……、ま、確かにお前は変な奴だからな、何でもすぐ手名付けて
しまうしな……」
「う、うるせーっての……」
「そうね、よく見ると悪い顔はしていないわね、ほら、其処の困った様な
顔をしている泣きそうな顔の坊や……、とても愛嬌がある人間みたいね……、
可愛いわね!」
「え……、ええーーっ!?」
「プッ……」
明らかにダウドの事である……。アルベルトはむくれるダウドに吹いたが、
愛嬌が有って可愛いって言われたんだから、いいじゃないかと慌てて
ダウドを突いた。
「なんだよお~、だからオイラ元々こういう顔なんだよお、それに何でも
手名付けるってさあ、これじゃオイラ達、まるで桃太郎のお供じゃないかあ、
きび団子で釣られたみたいな言い方してさあ~、ぶつぶつ……、ぶ~つ
ぶつっ!!」
「……ダ、ダウドっ!ど、どうもすみません!」
「……ぶつぶつっ!!」
しかし、桃太郎ならアルベルトの方が位置的には立場が桃太郎ポジであり、
ジャミ公は猿、アイシャはキジ、ダウドは犬である。
「私達、本当に悪い目的で此処に来たんじゃないんです、それに……、
天使の皆さんとも仲良くなれたら嬉しいなって思います!!」
「モンモン!」
「お嬢さん、君は……」
「ね、モンちゃん、えへへ!」
今までアルベルト達を疑っていた天使達は、モンと共に笑うアイシャの
汚れ無き笑顔に完全に心を許し、仲間達を信頼してくれた様だった。
「分かったよ、ジャミル、彼らがどうやって此処でも我々の姿が
見えるのかそれも気になる処だが、今は一刻も早くオムイ様の処に
報告に行った方がいい、人間の皆、私達はあなた達を信頼しよう……、
歓迎するよ……」
「人間の皆さん、ようこそ、天使界へ!!」
「みんな、有り難う!」
「「有り難うございます!」」
「……ます……」
「モン~♪」
ジャミルも天使達にお礼を言い、アルベルトとアイシャは喜びで声を
ハモらせた。だが、ヘタレはどうも気が収まらないのか、まだ一人
不満顔だった。一旦いじけが始まると暫くは機嫌悪いんで
困るんである……。
「さあ、もう此処では遠慮しなくて平気だぜ、後はオムイの爺さんの処に
報告だっ!……?」
「……ジャミル!」
「ラフェット……」
息を切らし、集まっている天使達の中を掻い潜り走ってくる天使の女性。
ラフェットだった。
「……だ、誰?」
美人にはやはり心配になるのか、途端にアイシャの顔が険しく
なるのだった……。
「アイシャ、ラフェットのおねーさんだモン、モン、前に此処に来た時に
沢山遊んで貰ったんだモン、ジャミルもラフェットにずっと弟みたいに
可愛がって貰ってたみたいモン」
「……弟……、あ、あはは、そっか、そうよねえ~!」
何慌ててんの、アンタ……、と、ダウドは腹で笑うのであった。
「……ダウドっ!何っ、その顔っ!!」
「何でもないですよお~……」
「ラフェット、久しぶりだな、大分遅くなっちまったけど、やっと俺も
こっちに戻ってこれたよ、あ、紹介するよ、俺のダチのアルベルト、アイシャ、
ヘタレ……」
「ちゃんと名前で紹介してよお~~!!」
「いてーっつーのっ!……え~と、こいつはダウドだよ、宜しく……」
「「こんにちはーー!」」
「ええ、もうすっかり有名人よ、噂は聞いてるわ、あなた達はジャミルの
地上でのお友達なのね、私はラフェット、ジャミルがすっかりお世話に
なったわね、改めて、皆宜しくね!」
アルベルト達もラフェットに挨拶する。ジャミルが再び地上へ
赴いている間、彼女も相当心配だった様子。ジャミルはオムイに
早く会わなければならないが、イザヤールの事を先に彼女に伝えて
おこうと思った。けれど……。
「あのさ、ラフェット、イザヤールの事でさ、話が……」
「ええ、私もよ、ジャミルに伝えたい事があるの、此処じゃなんだから、
私の部屋に来て下さる?手間を取らせてしまうけれど……」
どうやら、ラフェットもイザヤールの事で何か話したい事がある様子だった。
4人はオムイの処に向かう前に、まずはラフェットと話をしに、彼女の部屋へ
向かうのだった。
「お帰りなさい!ジャミル!」
「……あ、よう、久しぶりだな、元気だったか?」
ラフェットの部屋の前には彼女の弟子が。待ち構えていた様にジャミルに
飛びついて来た。
「大分暫く前にイザヤール様も天使界に帰ってきたんだよ!」
「……イザヤールが?一旦天使界に戻って来たのか!?」
「うん、でもね、すぐどこかへ行っちゃったんだ、いつにも増して
こわーい顔で人間界へ戻るって言っていたよ」
「私はジャミルと話があるから、あなたは暫く席を外して頂戴、
いいわね?」
「はーい、分かりましたー!じゃあ、ジャミル、またねー!」
ラフェットの弟子は何処かへすっ飛んで行き、ジャミル達は部屋の中へと
案内された。ラフェットはアルベルト達にも椅子に座る様に勧める。
「さあ、どうぞ、あなた達も硬くならなくていいわ、楽にしてね」
「有り難うございます……、それでは……」
「えへへ~、お邪魔しまーす!」
「失礼しま~す、うふふ、不思議、椅子がふかふか!」
ジャミル以外の3人が椅子に腰掛け、モンもダウドの頭の上の定位置に
飛び乗る。そして、最後にジャミルも椅子に座らさせて貰う。しかし、
ラフェットの表情はこれまでに無く、硬い表情をしていた。
「何だよ、硬くなるなとか言って、アンタが一番表情硬いぞ……」
「……いいのよっ、そんな事はっ、それよりもジャミル、あなたイザヤールと
何かあったの……?」
「……」
ラフェットにそう言われ、ジャミルは押し黙る。やはりどうしても
言えなかった。女神の果実を奪われ、イザヤールに襲われた事、
天使界を裏切り、帝国ガナンに行ってしまった事、……どうしても
言う事が出来なかった。
「あいつ、ちょっと前に女神の果実を長老オムイ様に届けに来たんだけど……」
「……は、はあ!?果実を届けに戻って来ただって!?」
「!?」
ラフェットの言葉にジャミルは思わず椅子から立ち上がり、仲間達も
反応……。……あの時、天の箱船に襲撃に現れたイザヤールは確かに
4人を襲い、果実を奪い、帝国に献上すると言っていた筈である……。
「その時にね、おかしな事を言っていたの、自分にはもうジャミルの師匠で
ある資格なんかないんだ……、って……」
「……あいつ……」
「ジャミル……」
仲間達も心配そうにジャミルを見つめる。ジャミルはイザヤールの本音と
真意が益々分からなくなって来ており混乱する……。やはり、帝国に赴き、
イザヤール本人に直に会い、真相を確かめるしかないのか……。
「……もしケンカしたのなら、あなたから仲直りしてあげてね、あいつ、
いっつもムダに悩んじゃうから、それとね、こうも言っていたわ、ジャミルは
本当に強くなったって……」
「……」
ジャミル達はラフェットの部屋を後にする。だが、ラフェットから
聞かされたイザヤールの件で、イザヤールを憎もうとしていたジャミルの
モヤモヤは更に広がって行くのだった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 65