LDC監禁日記

とある中学三年生男子を監禁してストレス発散をするだけ。それ以上も以下もないお話。

日常のエピローグ

 「普通じゃない」になりたいと思ったことなんて数えきれないほどある。もちろんいい意味の「普通じゃない」だ。頭がずば抜けて良かったり、スカウトとかされるくらいサッカーが上手かったり、周りに人が集まるくらい人望が厚かったり、異性にモテまくるくらいイケメンだったり。「普通じゃない」人はこの願いを可愛いと思うのだろうか。そんな可愛いものじゃない、俺からすると。ちゃんとした悩みだ。頭は良くはないし特段悪いわけでもない。県予選出場止まりのうちのサッカー部を全国まで連れていけるほどの上手さもリーダーシップもない。イケメンでもブサイクでもない顔面。もちろんモテない。自分一人じゃ何もできないから優秀な人間の下でおこぼれ貰って楽々生きるいわば寄生虫。…なんか中二病っぽい?とりあえず、そんな自分が嫌い、まではいかずとも好きじゃない。もう少し、あと少し何かがあれば____。
 
 新崎(にいざき)中学校3年、飯田和臣(いいだかずおみ)。クラス分けなんてないど田舎の中学校に通っている至って普通な男子中学生。本当に普通だ。クラスじゃ陽キャじゃなけりゃ陰キャでもない、2軍くらいの立ち位置。特に絡むのは同じクラスの「長谷部」、「結木」、「野上」の3人。3人とも陽キャでクラスでも目立つタイプの人間だ。その下、その陰で俺はおいしい思いをして安全に生きてる。「普通じゃない」になれないなら何事もなく過ごしたい。最悪にさえならなきゃいいんだ_____。

「おはよう、長谷部、野上。」
「お、飯田ァ、おは~。」
「おっは~」
朝学校に来ると先に長谷部と野上が来てる。結木はいつも遅刻ギリギリに来る。…朝からこいつらはつまらない話をしてる。誰が誰のことが好き~とか、1年の誰々が可愛い~だとか。適当に同調してヘラヘラしとけば嫌われることなんてない。
 「…でさァ…、あ、渡辺くんじゃァんw」
 「お、おっはよ~w」
長谷部がふざけて渡辺のももを蹴った。軽いノリの口調に似合わずまあまあの衝撃だったそうで渡辺は少しよろけた。
 「うっ…あ、お、おは、よ、う…」
 「どもりすぎだろww大丈夫ゥw?」
…典型的ないじめ。明らかにいじりの範疇を超えている。道徳の授業を聞いてなくとも一般人ならここいらの善悪の判断くらいできる。けれどこの光景を見た一般人の行動は、
 「はははっ!よろけるとか大袈裟すぎだろwww」
笑う。周りに合わせて。見て見ぬふりをする。被害者になりたくなくば傍観者になるだけだ。これが学校という世界を上手く生き抜くためのいわば処世術。別に可哀想だとか思ってない。生きるのが下手くそなのが悪い。
 「渡辺くゥん、今日も体育館裏に来いよォ~w?」
 「…」
渡部は黙って頷いた。
 「おは~…て、またやってんの?」
 「おはよ~結木、またってなんだよ~なんか悪いィw?」
 「いやいや、渡辺くんかわいそぉ~w」
 「うわっコイツクズだww」
 「ははっ!」

 放課後体育館裏。
 「やっほ~渡辺くん、ちゃんと来れて偉いねェ?」
 「偉い超えてもはやアホだろw」
週一くらいのペースでこうやって渡辺を体育館裏に呼び出していじめている。軽く殴ったり蹴ったりして笑って、何が面白いのか。よく飽きないと思う。まあ、こんなクソ田舎でろくな娯楽があるわけがなく、こんなことでしか欲求不満をはらせないのだろう。

 渡辺は鼻から血を垂らし、壁にもたれて俯き座っていた。
 「じゃあな~渡辺くんww」
 「また今度ねw」
体育館裏から離れた俺らはそれぞれ帰路についた。俺だけ方向が違うので一人で帰る。…いつまでこの日々が続くのだろう。そんなことを考えながら自転車を漕いでいるうちに家に着いた。すると、家の前に見覚えのない車が止まっていたのが目についた。不思議に思いつつその車の横を通って家に入ろうとすると急に車の扉がバンッと開き、状況を理解する間もなく車の中からすごい力で引っ張られた。その瞬間、頭に鈍い衝撃がはしり、記憶がそこで途切れた。

非日常のプロローグ

 ムカつく。ムカつくムカつく。トラウマを抉られる光景を定期的に視界に入れなければいけないという憂鬱。

 俺は田舎の小さい会社に勤めるサラリーマンだ。小せえ癖にまあブラック。上司はカス。給料もクソ。アラサーで未婚童貞。お先真っ暗でしかない。生きる糧など何もない。ストレスの掃き溜めもない。溜めるもんだけ溜めてただ月日と年齢を重ねるだけの社会の歯車。それが俺だ。

 いつか、ただでさえクソみたいな日常に一つのストレスメーカーができた。通勤で通る道は中学校が面してる。車を運転しているとはいえ少しは視界に入ってくる。その中学校は体育館が道路側にあり、体育館裏が外からフェンス越しに見えるのだ。

 とある日から退勤時、その道路を通るとき、体育館裏で男子中学生数人が何かしているのが見えるようになった。週一回程見えるその光景を何度も見るうちに何をしているのかが分かった。いじめだ。1対4の集団リンチに近しいいじめ。一人を蹴ったり、殴ったり。学生時代にいじめられた思い出したくなかった記憶を嫌でもフラッシュバックさせるその行為を毎回視界に入れるうちにその光景の不快感の根本を見つけた。いじめている側であろう黒髪中分けの男子。自ら手を下さずただいじめを傍観し、肩を機刻みに揺らしクスクス笑っている。幼稚な思考だとは自分でもよく感じるが、何よりもそいつに不快感を覚えた。そうだ、あの時も俺が一番憎んだのは見て見ぬ振りしたクラスメイトと担任だった。はあ、思い出したくなかった。この欲求不満はどこへ______。

 俺はいいことを思いついた。もう未来なんてどうでもいい。なんでもいい。このまま過労死だか自殺だかしてすべて溝に投げ出し俺の存在を無意味に帰すくらいならやりたいことをやろう。

 行動に出るなら今すぐだ。

 俺は体調不良と理由をつけ仕事を休み、あのガキの後をつけて家を調べた。翌日も仕事を休み、行動に移した。アイツの家の前で車を停めて帰宅を待った。…帰ってきた。アイツが。車を不審そうな目で見て横を通り過ぎようとしていた。その瞬間、素早く車の扉を開け、ソイツの腕を引っ張った。軽く引っ張れた。中に引きずり込めるとすぐに車内に置いておいた拳大ほどの石をソイツの頭に3、4回打ち付けた。すぐに手がぐったりと垂れた。気絶した、のか。やった。やったんだ。もう後戻りはできない。はは、はははは、はははははははははははははは。久しぶりに笑った気がする。あの、引っ張られたときの理解できないとでも言いたげなアホ面。本当に笑える。俺は運転席に着き、少し遠くの倉庫に車を走らせた。

非日常

 30分程車を走らせ、じいちゃんのもう使わなくなり放置されていた山奥にある倉庫に着いた。ちょうど5時をまわっていた。中にガキを放り、両足を1つに束ねるように縄で括った。それ以外は何もしなかった。煙草をふかしながらガキが起きるまで荷物を漁ったりしていた。ソイツの名前は「飯田和臣(いいだかずおみ)」というようだ。中学3年生。(別に何があるわけでもないが。)そうやって時間を浪費していると、ガキが目を覚ました。モゾモゾ動き、腕を使い上半身を起こした。周りをキョロキョロ見回しているソイツと目が合った。
 「お、おい…何だよこれ…お前が俺を攫ったのか…?」
 「…」
 「おいっ、なぁ!無視してんじゃねぇぞクソ野郎!何なんだよ!」
地についていた腰を上げガキに歩み寄った。
 「お、い…何っ…」
その瞬間俺はソイツの腹に向かって足を振りかぶった。ガキが「う˝っ!」っと短く呻き、体を丸めて腹を抑えた。
 「なっ、にすんだよクソ野郎っ!!いってぇ…うぅ…」
ガキが足の縄を外そうとした。焦っているのか雑な手つきでろくに外せそうもない。そうやってゴタゴタしている間に次は顔面に蹴りを入れた。
 「ぅぐっ!!!いっっっっ____!!!!」
声にならない悲鳴を上げた。続けてもう一度顔、顔、腹、顔、腹。鼻血が舞った。短い呻き声が繰り返された。それを数分繰り返した。ビクともしなくなって一旦蹴りを止めた。すると小刻みに痙攣しながら再び「う˝、う˝ぅ˝…」っと呻き始めた。すると腕を使いイモムシみたいにゆっくりと地を這い、俺から逃げようとしていた。俺は作業台か何かであっただろう机の上に置いてあった工具入れを漁った。目当てのものを見つけてそれを手に取った。そして逃げようとするガキの左足を掴んだ。ビクッっと身を震わせこちらを、俺の右手に目をやると同時に状況を理解したのかとっさに全身をバタつかせ抵抗した。
 「い˝、ぁあっ、ぃやあっっ!!」
俺は自身の右手を、右手にあるものを、___金槌を掲げ、ソイツの左足に思いっきり振り下ろした。ゴッッ__と鈍い音が響いた。
 「い˝っ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ、あああああああああいいいっ、うううううううぅぅあああっ、いいいいいいいいいいいいっっっうぅっっ!!!!!!」
うつ伏せのまま叫んだ。悲鳴が、鼓膜に響いた。最初は少し快感だったが、ずっと聞いていると耳障りななってきた。俺はソイツの髪を鷲掴み、一度、二度、三度地面に打ち付けた。「う˝、ぅ˝っ」と呻いた後、静かになった。顔を見ると、白目をむいて気を失っていた。その面は汗と鼻水と涎と、それで薄まった血でビシャビシャに汚れていた。俺はガキをそのままそこに放って倉庫を出た。

〼月12日

今日から日記を綴ろうと思う。俺の監禁日記。ただ、仕事で疲れている事実に変わりはない故軽く、短くあったこと、というか遊んだことを書き記していく。今日午後10時、仕事終わりに倉庫に付くとガキは床に突っ伏していた。昨日は気を失っていたが、今は寝ているようだった。腹を蹴り、強制的に起こした。ソイツは呻いてすぐに起き、泣き出しそうな目でこちらを見ていた。俺はそこら辺から簡易的な椅子を引っ張り出し、そこに座り、まだ済んでいなかった夕食をソイツの目の前で食べ始めた。羨ましそうな目でこちらを見るガキの腹がなった。妙に落ち着きが無くなりゴゾゴゾしていた。が、足が動かないので何も出来なかった。食欲が無く、夕食の弁当は半分近く残した。俺はそれをガキの頭からかけた。俺の食べかけの弁当だったもので頭が汚れた。ガキは地面に落ちたものを拾ってゆっくり食べ始めた。動きは細々としていた。滑稽だと、思った。

LDC監禁日記

LDC監禁日記

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • 青年向け
更新日
登録日
2025-05-16

CC BY-NC
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CC BY-NC
  1. 日常のエピローグ
  2. 非日常のプロローグ
  3. 非日常
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