zoku勇者 ドラクエⅨ編 64

囚われの天使達

「さあ、モン、立ち止まっていられねえぞ、俺ら此処での最後の
仕事をしなくちゃな、動かねえと、……大丈夫か?」

「モン、モンはモンのままでいていいんだモン、ジャミルに元気を
貰ったんだモン、だからもう大丈夫モン!」

「よし、偉いぞ!其処で見ててくれな、すぐに終わらせるからな!よーしっ!」

「モーン!」

「いっくぞおーっ!この野郎ーーっ!!」

ジャミルは抱いていたモンを側に下ろすとドラゴンキラーを持つ。そして
結界発生装置目掛けて思い切りドラゴンキラーを振り下ろした。
……今まで囚人達を捕らえていた悪魔の根源を絶ち切る為、力の限り
怒りを込めて……。

「はあ、はあ……」

「ジャミル、大丈夫モン!?」

「ああ、大丈夫だ、終わったよ、ほれ……、粉々にぶっ壊して
やったわ、はは……、ざまあみろ……、ストレス溜まり捲って
たから久々にすっきりした……」

「モンーっ!」

モンは再びジャミルに飛びつく。ジャミルはモンに笑ってみせるが内心は
心が揺れていた。結界発生装置を壊せた事をちゃんとボンにも報告して
やりたかった。もう、自由になれるんだぞと……、此処から出られる、
大丈夫だと。笑顔でボンに伝えたかった。ちゃんと。

「……」

「あ、誰か来るモン!」

「ん……?」

「おおーいっ、ジャミルーっ!」

「アギロの……おっさん……」

「やったじゃねえか、遂にな!ジャミル、お前ならやっぱりやってくれると
信じてたぜ!」

手を振って駆け込んで来る人物。アギロだった。ジャミルはアギロが
無事だった事に安堵。だが、どうしてもちゃんと確認して聞いて
おかなくてはならない、辛く悲しい事もあった。

「アギロ、あんたも無事で何よりだったよ……」

「ああ、あれぐらいでくたばる俺じゃねえさ!ははっ!」

「モンモン、アギロ、モンだモン、モン、ちゃんとまた自分でお話
出来る様になったモン、だからちゃんとご挨拶モン、宜しくモン!」

「おおー!そうだったのか、偉いな、モン、じゃあこれからは俺とも
沢山話が出来るって事だな!ガハハ!良い子だ良い子だ!」

「モォ~ン♪」

アギロはごつい手で自分に挨拶をして来たモンの頭をわしゃわしゃ撫でる。
アギロが此処に来てくれたと言う事は、もう本当にカデスは崩壊寸前
なのだろうと。

「アギロ、他の皆は、それに……」

「ああ、何人かは逃がしちまったが、皆で大半の帝国兵はやっつけたよ、
地獄の牢獄カデスももう終わりだ……」

「そうか、良かった……、それで……、ボンは……」

アギロは呟いたジャミルの言葉に自分も言葉を止めた。そして一瞬
戸惑った様な表情をするが、すぐにまたジャミルへと言葉を続ける。

「……ジャミル、悪いがもう少しお前さんには手伝って欲しい事があるのさ、
頼めるかい?」

ジャミルもアギロの顔を見上げる。ボンの事を訪ねた途端、アギロが一瞬
顔を曇らせたのもしっかり見ていた。……だからもう全て分かっていた。
今はこれ以上何も言わず、もう少しアギロに付いて行く事にしたのだった。

「分かった、俺で良ければ引き続き出来る事はするよ、行こう……」

「おお、ありがてえ!実はな、前にお前さんにも話した事があると思うが、
今まで俺らがぶち込まれていた牢獄の下の階に、更に謎の地下があるって
話をさ……」

「うん、そんな話聞いたっけ、確か……」

「そうだ、このカデスの牢獄にはまだ助けてやらないといけないヤツらが
残ってる、地下牢に捕まってるって言う特別な囚人達の事だ、帝国兵も
追っ払った今が囚人達を助けられる絶好のチャンスだ、だが流石に
俺一人じゃキツいからな、此処は是非、ジャミルにも協力して欲しいんだよ」

「よし、行こうぜ!モンも大丈夫か?」

「行くモーン!」

「それとな、牢獄の前にもう一つ一緒に行って欲しい処があるんだ、
色々付き合って貰っちまって悪いなあ……」

ジャミルは頷き、まずはアギロが先に用があると言う場所へと立ち寄る。
其処は……。

「この部屋、確か……、ゴレオンがいた部屋か、あんまり長居したく
ねえな……、猪ブタくせえや……」

思えば最初に訳も分からず此処に連れ込まれ、ジャミルはゴレオン達に
リンチされ、散々な目に遭った場所だった。一刻も早くこんな部屋は
出たいのだが、アギロが用があると言うのだから仕方なく、大人しく
待つしかないのだった……。

「なあ、なるべく早くしてくれるかい?急かす用で悪ィんだけど……」

「すまんなあ、おっとこいつだ……、この中に……、おお、あったあった!」

「……?」

アギロは部屋に置いてあった宝箱を何やらごそごそ探っており、何か
見つけた様である。どうやらホイッスルの様であるが……。

「それ、笛かい?」

「ああ、オレの大事なモンだ!ああ、良かったーーっ!」

ジャミルは首を傾げるが、アギロにとってはよっぽど大切な物らしい。
更にアギロは宝箱からもう一つ、奇妙な形の鍵を見つけジャミルへと
放り投げる。ジャミルは慌てて鍵をキャッチ。

「ジャミル、その鍵があれば地下牢に捕まっている囚人達の牢を
開けられる筈だ!」

「ホントか?特殊な鍵なんだな、……奴らが隠しちまった訳だ、成程……」

「よし、ジャミル、その鍵はアンタにやる、それがあればありと
あらゆる世界中の扉を開けられる筈だ!」

「ええ!?い、いいのかよ、俺が貰っちまって……」

「ああ、それがありゃお前さんの旅の助けにもなる筈だ、待たせちまって
悪かったな、さあ地下へ急ごう!もう此処には用はねえからな!」

ジャミルがアギロから手渡された鍵。それは重要アイテムの最後の鍵である。
世界中の扉を開けてしまう最後の鍵。ジャミルは有り難く鍵を
受け取らせて貰う。

「モォ~ン、プープー……」

「モンの奴、寝ちまったか、無理もねえか、疲れちまったんだな、
頑張ってくれたよな、……ありがとな……」

「プウ……」

ジャミルは背中に張り付いているモンにそっとお礼を言った。
尚、返事は尻の方から聞こえて来た模様。辛い試練を超え、
モンは再び言葉を取り戻した。女神の果実の力では無く、今度は
自分自身の力で言葉を取り戻し、再び喋れる様になった。ジャミルは
一刻も早く仲間達と再会して、モンの事を教えてやりたくて、びっくり
させてやりたくて、あれこれ色々考えている内、久しぶりに自然に
笑みを溢していたのだった。

「アギロさーんっ!」

「おお、お前ら!」

見張り塔を出、地下牢へと向かうジャミル達の元へ走って来る数名。
戦いを生き残った囚人達である。だが、その中にやはりボンの姿は……。
それでもジャミルは希望を持ちたかった。もしかしたら怪我をした
だけで、まだ……。はっきり遺体の確認をするまではどうしても
悪い方に考えたくなかったのである。

「……ジャミルさんはご無事で!?」

「ああ、俺は大丈夫だよ……」

「よかったぞい、心配したぞ……、何事もなくて何よりじゃったよ……、
アンタはもう儂の孫みたいなモンじゃからのう……、うんうん……、
よく頑張ってくれたの……」

「爺さん……」

ジャミルを心配してくれる爺さん。兵に鞭で暴行を受け、死にたい
死にたいと嘆いていたあの爺さんである。死にたいと言いながらも
こうしてしっかり戦いを生き残っていた。大した爺さんである。

「皆、俺らはもう少ししなくちゃならねえ事があるんだ、お前らにも
負担掛けちまって悪いが広場の方ももう少し頼んだぜ……」

「分かりました、アギロさん達もお気を付けて……」

囚人達はアギロに頭を下げ広場へと戻って行く。皆を見送るジャミルの
肩をアギロが優しく叩いた。

「さあ、行こうぜ、こっちだ!」

「あ、ああ……」

ジャミルとアギロは一路自分達が幽閉されていた牢屋へと戻る。其処の更に
下の階へ始めて踏み込む。帝国兵達が頑なにガードしていた場所でもある。
一体何が待ち受けているのか……。

「……ヘタレがいたらギャーギャー喚きそうだな、プッ……」

「むにゃむにゃ、ダウドのあたま……、またちんぽこしたいモン……、
モン……」

想像して吹くジャミル。そんなジャミルをアギロは不思議そうに眺めた。

「ジャミ公、どうした?もしかして怖くなったか?」

「……いや、俺じゃねえよ、俺のダチだよ、一人臆病なのがいるんだよ、
だからもしも今、この場にいたらなあと思って、って、おい、おっさん……、
何でアンタまで俺をジャミ公言うかなあ!?」

「い、いや……、俺は只、何となく言いやすいからだな、つい……、
そうか、前からそう呼ばれてたのか、はは……、悪かった、悪かった!」

ジャミルは頬を膨らませてブンむくれる。こうして、遂にアギロにまで
ジャミ公言われる羽目になったんである。

「……ムス~……」

「よし、この階の筈だが……」

「アギロ、あれっ!」

「ジャミル!?」

何かを見つけたのか、さっきまでふて腐れていたジャミルが駆け出す。
アギロも急いで後を追うが、ジャミルは牢屋の一つを頻りに
覗き込んでいる。

「あれ、繭だ……、微かに中から声がするんだ……」

「何てこったい……」

アギロも牢屋の中を覗き込む。確かに牢屋の中には光を放つ巨大な
繭の様な物が数体吊されている……。そして繭の中から苦しそうな
声がアギロにも聞こえたのである……。

「モン……?ジャミル、あのマユさん、中に誰か閉じ込められてる
モン?大変モン……!」

「モン、起きちまったのか、それにしても……、帝国の奴らマジで
何考えてんだっ!」

「……やはり帝国が捕らえていたのは天使だった様だな……」

「!?地上に降りて、今まで行方不明だった天使達って、まさか……!」

「ああ、見てくれジャミル、恐らく牢の中にいるのが帝国が探している
特別な連中だ、そのマユみたいなモンの中に天使達が捕らわれているんだ、
とにかく助けださないとな、ジャミル、急いで牢を開けて彼らを下ろして
やってくれ!」

「あ、ああ……」

ジャミルはアギロが異様に天使の事に詳しく、冷静で微動だに
しないのが気になったが、今はそんな事を気にしている場合では
ないのだから。

「……苦しい……、力が……吸い取られる……」

「もう……ダメよ、動けないわ……、お願い、もう酷い事しないで……」

「うう……、此処まで……なのか……」

「待ってろ、今助けてやるぞ!もう暫くの辛抱だぞっ!」

「よしっ、開いたぜっ!」

ジャミル達は急いで牢屋内へと駆け込み、吊されている繭を下ろし、
繭を全て解剖。……やはり中から現れたのは、天使達だった……。
だが、皆、呼吸荒く息も絶え絶えの状態である。もう少し救助が
遅ければと思うとジャミルはゾッとした……。

「皆、大丈夫か!?……しっかりしろっ!!」

「……こ、この気配はジャミル?こ これは幻なのか……?」

「ああ、俺だよ……、このアギロのおっさんと一緒に皆を助けに来たのさ!」

「本当にジャミルなのか?お前が助けに来てくれるとは……、と とにかく、
有り難う……」

「……苦しいわ、どうしてこんな事に……」

ジャミル達は暫くの間天使達を見守る。漸く天使達は口が少し聞ける
様になり、此処に捕らえられた目的と課程を話してくれた……。

「帝国の奴らはこの繭を使って私達から天使の力を吸いとっていた、
……此処だけじゃない、ガナン帝国にはまだ仲間達が捕らえられて
いる筈なんだ……」

「ガナン帝国の兵士達には普通の人間には見えない筈の天使達が
見えてしまうの、地上に降りた私達は為す術も無く帝国軍に
捕らえられてしまったのよ……」

「奴らは天使の力を闇竜バルボロスに与える事で操っているんだ……、
暗黒皇帝ガナサダイ……、なんて恐ろしい男だ……、うう……」

「ガナサダイ?暗黒皇帝……?そいつが全ての根源なのかな、アギロ……」

「……あんこの皇帝モン~、きっと毎日毎日鉄板の上で焼かれて嫌に
なっちゃうんだモン、コワイのばっかり出てくるんだモン、でも、
負けられないんだモン……」

「あのなあ~、……ま、いいか……、モンも又元気になって来てる証拠か……」

「まだ何とも言えんが……、皆、どうやら全員動く事もままならない
様だな、多分俺達が回してたあの機械は天使の力を吸い取る為の物
だったんだろうな……」

「何てこったい、あの変な機械が……」

ジャミル達が回していた機械。帝国に従うしかなく、言う事を聞くしか
出来なかった状況とは言え、自分達は毎日恐ろしい機械を回していたん
だと……。あの機械が本当に天使達を苦しめていた根源だったのなら……。
そう考えると悔しくて溜まらなかった……。

「……とにかく皆を外に運び出そう、そうすれば後はどうにかできる筈だぜ!」

「ああ、急ごう!」

ジャミルはアギロと協力して天使達をどうにか外に連れ出すのだったが……。

……それから、ジャミルとアギロは皆のいる囚人広場へと移動。
其処で待ち受けていた悲しい現実と直面する事に……。

「ボン……」

「済まねえな、ジャミル……、亡骸と対面させてお前さんを
悲しませたくなかったし、何よりももう、ボンを静かに眠らせて
やりたかったんだよ……」

「ああ、アギロ、分かってるよ、皆も……、ありがとな……」

「モォォ~ン……」

「くう、無念じゃ……、まだ未来も命ある若い者が何故……、
儂みたいな老いぼれがどうして生き残ってしまったんかのう……」

「……おい、爺さん、それ以上悲しい事言わないでくれ、アンタは
まだまだ生きろって事じゃねえか、……貰った命、これからの人生、
大事にしてくれよ……」

「アギロ……、うう、そうじゃのう……、わしゃまだまだ生きないとのう、
この戦いで散っていった仲間の分までのう……」

皆はこの争いで無残に命を散らし倒れ、既に埋葬されている仲間達、
……そして、ボンの墓前に集まり静かに黙祷を捧げていた。ジャミルも
胸に手を当て、静かに祈る……。

「……ボン、ごめんな、俺の……、俺の所為で……」

「ジャミル君、それ以上言ったら……、僕、怒るよ……」

「ボン……!お前!」

「モンっ!?」

「えへへ、旅立つ前にもう一度……、君に会いたくて、僕、
待ってたんだよ……、君の姿をもう一度見てから行こうと思ったん
だけど……」

ジャミルとモンの前に現れたボンの幽霊。静かにジャミルに笑顔を見せた。

「君、何だか凄いなあとずっと思ってたけど、僕が死んだ後も僕の姿が
見えちゃうんだね、本当に凄いや!まるで天使様みたいだね!」

「……モン、だってジャミルは本当に……」

「いいってんだよっ!……あのな、お前も殺されたってのに何で
そんなに明るいんだよ、もう勘弁してくれや、俺がどれだけ……」

「うん、やっぱりジャミル君て優しいんだね、ずっと僕の事心配して
気に掛けてくれてたんだね、僕、本当に大丈夫だから……、撃たれた
時は確かに痛くて苦しかったけどね、でもだって最後に大切な友達を
守れたんだもん、僕、自分のした事は間違ってなかったと思うんだ……、
だってやっと只のデブを卒業出来たんだよ、あはは!」

「ボン……、オメーって奴は、たく……」

ジャミルはボンの顔を見つめる。彼のその顔は、心から自分自身に
誇りを持っている様な表情であった。何も出来ず、弱虫だった自分が
最後に命を掛け行った事。それがボンにとって何よりも嬉しかったの
だと。

「でもね、君の友達に会えないのは残念だったなあ、心残りは
これだけかな、後はもう又生まれ変わるだけだし、僕のボンと
しての人生はこれで終わるけどね、ジャミル君、それから、モン、
出会えて良かった、有り難う……」

ボンはジャミルとモンに静かに手を差し出す。……ジャミルが
その手に触れようとしたその時、ボンの身体が光り出した。昇天の
時間が近づいて来ていた……。

「あっ、これで僕、本当に時間みたいだ、……じゃあ、そろそろ行くね、
アギロさんや皆にも宜しく伝えてね……」

「ボン、俺のダチにもきっと伝えるよ、此処で出会った大事なダチの
お前の事をさ……」

「……うん、ありがとう!また、何処かで、いつか……」

「ボン、バイバイモン……」

「でも、僕ちゃんと空飛べるかな、デブだから落ちないか心配だなあ……、
あ、飛べた!」

「……おいおい……」

「バイバイ、ジャミル君、モン!」

「……また、な……」

ボンの姿が再び光り、空へと消えて行く。ジャミルは自分の所為で
ボンの最後を苦しめてしまった事をずっと悔やんでいた……。だが、
ボンは最後は明るく、丸っこい優しい笑顔を見せ、ジャミル達に
さよならをし、来世で又新しい人生を切り開く為、空へと旅だって
行ったのだった。

「ジャミル……、お前さん、さっきから空に向かって一体誰と喋って
おったんじゃ?」

「……うん、爺さん、何でもねえ、大丈夫さ……」

「ジャミル……」

ジャミルはアギロの前に立つ。そしてそっと言葉を溢した。

「アギロ、ボンは……、アイツ行っちまったよ、誰を恨むでもなく……、
アギロや皆に有り難うって、宜しくって、旅だって行ったよ……」

「……ジャミル、おめーさん、やっぱり……、……!?」

「アギロさん、……た、大変だっ!」

「おおおーーっ!?」

アギロもそう言葉を溢した瞬間……、囚人達が突如騒ぎ出した……。

「……ジャミルーっ!バルボロスモンーっ!!」

「っ!な、何でいきなりっ!畜生っ!……帝国の奴らの復讐と
嫌がらせかっ!!」

突如空に出現する巨大な黒竜……。間違いなく、闇竜バルボロスである……。

「クックック……、油断したな、これで勝ったと思っていたのか?
馬鹿めが……、聞こえて来る、聞こえて来るぞ……、破滅の羽音が……、
クケケケケッ……!これで貴様達はお終いだ、帝国に逆らう者に災いあれ!」

「……うああーーっ!?」

バルボロスはブレスを放ち、カデスの牢獄を爆撃する……。生き残った
ジャミル達皆全て此処で根絶やしにするつもりである……。

「……アギロっ、このままじゃ皆がっ!」

「モン~……」

「……冗談じゃねえですぜ!……ヤ ヤツは、この牢獄ごと道連れに
俺達も焼き払うつもりだ!あ、あんなのが相手じゃどうしようも
ありませんよぅ!」

「……おおう、折角助かった命も……、倒れた皆が切り開いてくれた道も……、
又閉ざされてしまうのかのう……」

「弱気になるんじゃねえっ!けど、んな事言われても空飛んでるのが相手じゃ
どうしようもねえじゃねえか……、よし、ここは俺が何とかする、
だからお前達は振り返らず真っ直ぐ逃げやがれっ!」

「!?い、幾らアギロの旦那でも何とかするなんてムリですっ!」

「……いや、オレはアギロ、旦那を信じるぜ、……この命は旦那に
預けたんだ!」

「……アギロの言う通りじゃ、どうせ一度は捨てた老いぼれ死に損ないの
この糞爺の命、儂はアギロ殿の言葉に掛けてみようかの……」

囚人達は皆一斉にアギロの方を向いて頷く。アギロも皆の言葉に
感謝するのだった……。

「皆、有り難うよ!大変だったけど、俺はお前らと会えた事忘れねえぜ!
生きていたら又何処かで会おうぜ!」

「さよなら、皆……、俺もあんたらの事、忘れねえよ、絶対……、
また会おうぜ!」

「ジャミルさんも元気で……!」

「達者でな!」

「ジャミル、呉々も身体には気をつけるんじゃぞ……」

「……モンーっ!?早くしないと、うんちバルボロスが来ちゃう
モンーーっ!!」

「よーしっ、オメーら走れーーっ!さっさと行けーーっ!!」

「「それっ、逃げろおおーーっ!!」」

囚人達は皆一斉に走り出す……。皆が一斉に散らばり走って行くのを
見届けるとアギロはある物を取り出す。だが、バルボロスは逃げる
囚人達に向かってブレスを放出する寸前だった……。

「けど、アギロっ!一体笛なんか取り出して何してんだよっ!!」

「まあ、慌てなさんな、……さて、それじゃ始めるとするかい!」

「あ、ああっ!?あれって……」

「天の箱船モンっ!!」

何と……。アギロが空中のバルボロスに向かってホイッスルを吹くと
同時に、壊された筈の天の箱船が再び姿を現したのだった。ジャミルも
モンも一体何が起きているのか分からず騒然……。天の箱船は
バルボロスに体当たりすると、バルボロスを思い切り轢いた。
……轢かれたバルボロスは直ぐに逃走……。何とも間抜けな
瞬間だったが。

「よし、取りあえずはこれでよしと!」

「……おい、おっさんっ!よしじゃねえってのっ!ちゃんと説明……っ!」

「するからよ、ほれ、今は早く箱船に乗れっ!置いてっちまうぞ!
……重傷の天使達もちゃんと天界に送り届けなきゃなんだからよ、
ほれほれ!」

「……あ~うう~……」

「……ありゃ?あのドラゴンが去って行くぜ……」

「……じゃ、じゃあ……、俺達本当に助かったんですねっ!」

「何が何だか分からんが、どうやら儂は又寿命が延びてしまったようじゃ、
ほほほ……」

久々に箱船の中へと入るジャミルとモン。あの時、一度バルボロスに
粉々に破壊された筈の天の箱船が……、再び姿を現し、……そして
バルボロスを轢いた。取りあえずは逃走してくれたらしいが、何れ又
必ずあの闇竜は必ず姿を現すだろう。その前に、ジャミルは仲間達と
合流し、結束を固め、もう一度帝国と戦う為の力を付けなければ
ならない。……イザヤールの真意もはっきりさせなければ……。

「……ガングロ?」

「黒い悪魔モン!」

船の中にいたのは、暫く此方も行方不明だったガングロギャル妖精こと、
サンディだった……。

「……誰が黒い悪魔よッ!って、アホジャミルとデブ座布団っ!?アンタ
また言葉喋れる様になったん!?」

「……うるせーよ、……誰がアホかっ!」

「ウシャーー!」

「……あんたさぁ、なーに勝手にユーカイされてくれちゃってんのッ!?
こっちはあんたが消えてからひとりぼっちでサ、天の箱舟を探しだして
修理して……、その間、ずっと心配してて、……と、とにかくもうすっごい
メーワクしたんですケド!?」

「そうか、お前も一応は心配しててくれたんだな、……悪かったよ……」

「!!べ、別にィ、心配なんかしてないってのッ!おまけに勝手に
こんな見知らぬ土地に呼び出すしー!そーゆーのありえなくない!?
……って、そーいやどうやってこの天の箱舟を呼び出したのよ?
いつの間にそんなテクを!?ねーねー、教えなさいよッ!!ねーッ!?」

サンディは相変わらずの強烈な香水臭と化粧臭い顔をジャミ公に
近づける。そして質問攻め。ジャミルも疲れているので勘弁して
くれと思うんである……。其処へ。

「お取りこみ中の処失礼……」

「なによ~?アタシに断りなくあんたナニ勝手に乗りこんでんのさ!?
……って、……あ、あ、あ 、あなたはっ!?」

「……」

「アギロ……」

車両にずんぐりアギロが姿を現す。アギロはじっとサンディを
見ていたが……。

「……テンチョーっ!?テンチョーじゃないッスかぁーー!?」

「モンーっ!?」

「おいおいおい、アギロっ、アンタこのガングロと知り合いだったのか!?
もしかして、サンディがずっと探してた奴って、アギロのおっさん
だったのかっ!?」

だが、アギロはジャミルにも何も答えず。只管黙ったままサンディの
方から視線を反らさず。……かと思うと、いきなり大声でサンディを
怒鳴りつけた……。

「誰がテンチョーだっ!?ちゃんとアギロさんと呼べといつも
言ってるだろう!……ともあれ久しぶりだな、俺がいない間も
とにかく元気にだけはしていた様だな、しかし驚いたぞ、お前と
ジャミルががまさか知り合いだったとは……」

「へっ?テンチョーこそ、このハネなし天使と……?」

「……まあ色々あってな、……ん?」

ジャミ公はぼけーっと、口を菱形に開け、訳分からんと言った表情に……。
そもそもアギロ自体、最初から得体が知れなかったが、やたらと
天使の事に詳しく、普通には見えない筈の天使の姿が見えてと。
そしてガングロがずっと探し求めていた人物だったと言う事も
知る。だが、何がなんだが一辺に色々と考えなければならない事が
襲って来て、ジャミ公はパニックに……。

「ジャミル、どうして俺が此処にいるか訳が分からないという顔だな、
……仕方が無い、教えてやろう、……囚人達のリーダーとは仮の姿、
その正体は……、なんとっ!天の箱舟の責任者っ!アギロ運転士その人
だったのだぁ~!」

「……」

アギロは両腕を横に突き出し、シャキーン!の、ヒーローポーズを取る。
だが、ジャミ公はまだ放心状態で固まったまんまである……。この
おっさんも、大分ぶっ壊れ始めていた。

「……何言ってんスか、テンチョー、今のかなりサムかったですよー……、
ほら、ジャミ公固まっちゃってるしー!」

「……ま、まあ、込み入った話はおいおいするとして、取りあえず
天使界を目指すとしよう、捕まっていた天使達は後ろの車両に寝かして
あるんだ、まずは彼らを届けなくてはな!」

「!ま、待ってくれ、その前に俺も行かなきゃ行けない処があんだよっ!」

固まっていたジャミルは漸く我に返る。天の箱船の責任者、そして
運転士であった事から、アギロは他の者とは違う、恐らく普通の人間
では無い事が判明した。だが今はそれよりも、行かなくてはならない
場所がある。ずっと心配してくれているであろう、ジャミルにとって、
大切な仲間が待っていてくれる場所へ……。

「俺、ダチに会いに行きたいんだ、頼むよっ!バルボロスとの
戦いに負けて、あのカデスへ連れて来られたんだ、……ダチとも
離ればなれになっちまったんだよ、この先、帝国と戦うには仲間の
力が必要なんだ、俺一人じゃどうしても……」

「そうか、それじゃオメーさんの連れもかなり心配しているな、よし、
行ってやろうじゃねえか!但し長居は出来ねえぞ、仲間と会ったら
直ぐに連れて箱船に戻って来い、いいか?」

「ま、しょ~がないよネ、テンチョー、いっちょドミールの里まで
かっ飛ばしてあげて下さいっ!其処にジャミルの仲間がまだいるん
なら待っててくれる筈だかんネッ!」

「そうか、ドミールだな、よしっ、飛ばすぞっ、しっかり掴まってろっ!」

「♪へいへ~い、んじゃま、いきますかッ!」

「……アギロ、ガングロも……、サンキューな……」

「モン~、皆に久しぶりに会えるんだモンー!モンも嬉しいモンーっ!」

「だなっ、あははっ!」

「モ~ンっ!」

ジャミルとモンははしゃぎ合って喜び合い、アギロとガングロに
心から感謝。あの日、カデスへ連行された日から、奴隷として
捕まっていた辛い毎日も漸く終わり、やっと本当に心から又
笑える日が来た。きっと信じていた、必ず皆と会える日が来ると……。


……ドミールの里……

「はい、アイシャ、お水まいとくね、此処んとこも大分花が咲いたねえ~!」

「ダウド、ありがとう、そうね、荒れていた土地にもお花が咲いて
段々元の様に戻って来たもの……、自然の力って凄いわ……」

ジャミルが行方不明になり、既に一ヶ月が経過していた。それでも
仲間達は信じて、必ずジャミルが戻って来てくれる事を願いながら
復興ボランティアに精を出し、ドミールの地へ滞在していた。

「二人とも、休憩しよう、お昼だよ!」

「ありがとう、アル!わあ、もうそんな時間なのね!」

「うん、時間立つのは早いよねえ、今日ももう半分過ぎちゃったね……」

「そう、ね……」

アイシャはそう呟きながら空の彼方を見上げる。そう、黙っていても
時間はどんどん過ぎて行く。もう一ヶ月もジャミルのいない時を
過ごしている。アイシャはダウドとアルベルト、二人に見つからない
様に時々一人で涙を溢していた。

「分かってるの、分かってるのよ……、私達、元の世界にいた時から
ずっと……、こんなの当たり前だわ、しょうがないのよ、でも……、
どうしてこんな事ばっかり繰り返すのよ、どうして……」

「……あ、アイシャっ!?」

「っく、……ひっく……」

今日は駄目だった。耐えられなくて、二人のいる前で涙を溢した。
迷惑を掛けない様、健気に振る舞ってずっと堪えて来た。でも、
どうしても駄目だった……。

「アイシャ、そろそろ宿屋の中に入ろう、今日は風も強いし、風邪を
引いてしまうよ……」

「あははっ、アルってば、つまんないダジャレ言ってるよおー!」

「……オホンっ、ダウドっ!」

「ひい~っ!すんませーんっ!」

ダウドはアルベルトがさっとスリッパを取り出したのを見て
慌てて硬直。アイシャはこんな時、ジャミルがいてくれたらと思い、
毎日胸を痛めていた。また、ジャミルと一緒に笑い合いたい、心から
皆で……。再び涙目でふと、空を見上げるのだった……。

「……箱船?」

「アイシャ、ど、どうしたのさ……」

「……今、金の列車が見えたの……、天の箱船よ……」

「ま、まさか……!?」

「でも……、箱船は壊されたんじゃないの……?」

「おおーいっ!!」

「……嘘、こんな事って……、ジャミルだわ……」

「ええーーっ!?」

ダウドとアルベルトも驚いて頭上を見上げる。確かに空には黄金の列車……。
以前、サンディに力を貰い、皆も箱船の姿は見える様になっている。窓から
手を振り身を乗り出す人物……、ジャミ公だった。

「モンーっ!」

「ジャミル……、モンちゃんも!ねえ、アル、ダウド……、これ、
夢じゃない、夢じゃないよね!?」

「う、うん……、間違いない……、よ……」

「ジャミルうう~……、オ、オイラ、オイラ……」

「やっほーっ!俺、帰って来たぞーっ!」

「……やっほーじゃないよっ!アイシャ、大丈夫だよ、あの非常識
モンは間違いなくジャミルだよ、帰って来たんだっ!」

「そう、そう、ね……、アル、本当に……、本当にジャミルなのね……」

「よーしっ、俺、今そっちに行くからよ、待ってろーーっ!」

「「……ええええーーっ!?」」

3人は思わず声を揃える。ジャミルはモンを抱えると天の箱船から
地上目掛け、一気に飛び降りたんである……。やはりこんな非常識な
事をする野獣はジャミルしかおらず、本人で間違いない事を仲間達は
確信したのだった……。

「ありゃ、相変わらずアイツマジでバッカーっ!ま、ジャミ公なら
死なないっしょ!」

「うむ、ジャミルーっ、俺達は先にダーマの青い木まで行っているからな、
早くルーラで追い付いて来いよーーっ!!」

「あーりがとーーっ!……うわーーっ!?」

「……きゃーーっ!?」

だが、着地失敗。地上へと格好良く降りようとしたジャミ公は地面に追突。
頭ごとめり込んだのである……。

「……いっ、てえええ~……」

zoku勇者 ドラクエⅨ編 64

zoku勇者 ドラクエⅨ編 64

SFC版ロマサガ1 ドラクエⅨ オリジナルエピ 下ネタ オリキャラ ジャミル×アイシャ クロスオーバー

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-05-12

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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