頽落風景
炸裂する浮動性眩暈。俺は直立することができない。俺の足取りは酩酊さながらにふらついている。だが俺は素面だ。至って正常だ。そう言い聞かせる。そうしていないと〈存在〉が揺らぎ、危うくなりそうだからだ。モノとヒトとの境界が失われ、周囲が酷く平面的に、のっぺりしたものに見える。俺の眼は、俺の頭はおかしくなってしまったのか?俺が歩いているのは廃墟の中なのだろうか?廃墟には現実性がない。俺の眼に映る風景には現実性の欠片もない。現実の現実性が剥離し、とんでもない地獄に突き落とされてしまったように思える。だが俺は思い直す。現実性の過剰もまた、地獄ではないか......。現実性があろうがなかろうがここは地獄、現実とは地獄のグラデーションに過ぎないのだ......。そう悟った俺は気が重くなり、足取りが重くなる。自己との一切の繋がりを喪失した風景に置かれることの耐え難い疎外感、孤立。だが俺は耐えねばならない、どこへ行っても地獄であるこの世界で、この身が、孤影悄然のこの身が〈痛み〉の塊に成り果てようと、この命尽きるまで耐え忍ばねばならない......。風景は依然として現実感を欠き、冷めた他人のようだ。冷めた他人と馴れ合うより、独りでいることに甘んじた方がましだということか......。〈眩暈〉は次第に悪化する。存在のぐらつき。俺は本当に存在しているのだろうか?かつて存在したことがあったろうか?例えようもない不安に陥る。人生は地獄より地獄的だ、と言った人間がいた......。俺の地獄は今に始まったことじゃない、生まれ落ちる以前から定められていた運命だった......。現実......現実!ああ、俺も慥かな現実を生きてみたかった!この〈眩暈〉と和解して、現実における存在を謳歌したかった......。だがそんなことは夢物語だ。俺は生きながらにして死んでいく存在の廃墟だ。俺の抵抗も虚しく、俺の〈眼〉は狂っていく。風景は朽ちていく。精神も、精神世界も、歴史も実存も朽ちていく。俺は堕ちていく。頽落する風景の中に無造作に抛られ、荒廃していく〈現実〉の底へ堕ちていく。
頽落風景