自創作小説
自創作マンガの補強をする目的
これだけ読んでも意味がわからない
ポイズン あっぷあっぷ
9時。赤いケトルの注ぎ口が白煙をはく。蒸気口が高温で鳴いて、ポイズンはやっと本から顔を上げた。パタリと閉じた小説を、ブックカバーのイラストのない方を下にして机に放る。コンロのつまみを捻ってその動線のままに細い指先を指しながら食パンの焼け具合を確認する。オーブントースターのつまみがジリジリと時間を縮める。パンはほんのり色づいた。食べごろかと言われればもう少し待ちたい気もするそれを、ポイズンはかまわず引き出した。
今日は朝から騒がしい同居人はどこかにいってしまった。
同居人の方が早く起きるから、いつもは朝食の準備は同居人がする。朝食といっても、パンをオーブントースターでキツネ色に焼いて、ジャムとスプーン、余力があったら目玉焼きとサラダが時たま並ぶくらいの、ささやかな朝食。当初ポイズンは、遅く起きるんだから朝と昼を一緒にするといったのだが「朝メシを食うのが俺ん家のルール!」と同居人が食卓につかせるモノだから、そんな日々を一緒に過ごしたのだから、今や、朝食を食べなければ一日が始まらない気がするポイズンだ。
一口かじったパンを皿に適当に放って、スクリーンの前に着くとポイズンはニュースをチェックする。誰それが起訴されたとか、なにがしの値段が高騰だとか、無資格でなんとかとか、いささかセンセーショナルな話題が躍る。ポイズンはため息を吐きたい気分になる。いつだって社会には一定の澱みがある。誰かの不幸が、死がある。かといってキラキラ幸せなニュースを見るのが楽しいかといえば、自分と比べて落ち込んだり、そもそもどうでも良かったりする。ポイズンは自分の良心を自覚しているが、見知らぬ誰それがの幸せを誰彼かまわず祝ってやれるほど純粋じゃないし、善人じゃない。役に立つのはどちらかと聞かれれば、絶対に、自分に害があるかもしれない方だし、と思うポイズンだ。
マウスでスクロールして行き着くのも暗いニュース。カーソルを合わせてクリックする。
パッと開かれたページの冒頭に「小学生女児が遺体で発見 殺人事件として捜査」と太文字が現れた。
小学生女児が遺体で発見 殺人事件として捜査
10月23日午前7時ごろ、目連市の住宅街にある公園で、小学4年生の小森あやかさん(10)が遺体で発見された。司法解剖の結果、頸部を強く圧迫されたことによる窒息死と判明。外部からの力が加わった痕跡があり、何者かに首を絞められた可能性が高いと見られている。現場の状況などから、同庁は殺人事件と断定し、捜査を開始した。
小森さんは前日の夕方、自宅を出たまま行方が分からなくなっており、家族が警察に捜索願を出していた。遺体が発見されたのは、自宅からおよそ500メートル離れた公園の遊具付近で、通行人の通報によって発覚した。
現時点で容疑者は特定されておらず、警視庁は近隣住民への聞き込みや防犯カメラの解析を進めている。近隣の学校では、児童の安全確保のための対策が強化されている。
警察関係者は「早期解決を目指し、全力で捜査にあたっている」とコメントしている。
ホットミルクティーをごくりと嚥下する。
小学生の遺体。
ポイズンはもう当分あっていない妹を思い出した。
ポイズンはつい半年前まで、今の同居人とではなく、家族と過ごしていた。高校3年の春まで。今はもう戻れないと知っていながらも、時折こうして、胸をちくりと刺すために浮き上がる。
早2時間。ある程度興味のあるものから必要なものに目を通した。
カーテンは閉め切って、電気も反射がうざったいから消している。スクリーンが青白く照らす薄暗い部屋は、マウスをカチカチと鳴らす音だけが時間の経過を刻む。
ポイズンは一人の時間が嫌いだ。だから、自分が社会から爪弾きにされなければならなくなった時、無意識に道連れを探していた。ソレが同居人であり、ポイズンは快く手を取ってくれた同居人を離したくはない。彼は優しい。その上、かわいそう。かわいそうな彼は自分に求めるが求めすぎない。尽く温かいモノを手放しかけたポイズンが必死に縋るに格好の人物だった。
ポイズンは独りが嫌いだから、彼が手を引いて行ってくれない時は、時間も他人も何もかも拒絶していいこの部屋に篭っておく。時間をそのまま保存しておく。ポイズンの唯一生きていける箱。ポイズン自身も、一等の割れ物だとわかっているから、自分を大事にしまっておく。もちろん、できれば同居人の彼も。
ただし今日は、同居人に客があった。
優しくてかわいそうで慈悲深い同居人は、ポイズンの様な追われる人間を救ってやろうと奔走する。ポイズンも手を貸す。ポイズンはそれで、レーザーのとなりに居る理由を見つけて、やっと生きれる。手を貸してやるが、そのせいで唯一生きられる場所を脅やかす。知らない形の他人が、自分の、安定した世界に不安定な形で加わる。
不完全な延命法。まるで毒だとポイズンは笑う。どうしようもない現状をどうにかする手段だと言うのに、一方で、決死の賭けである。
そして、その、大事に封をした箱は、その彼によって問答無用で開かれる。
「ポイズン! 開けてくれ!」
ガチャガチャと忙しなく空回りするドアノブが同居人の帰宅を告げた。
同居人は合鍵を持って出たはずで、こんなに騒がしくしなくても問題なく部屋に入ることが出来るはずだった。それに、レーザーは目立たない様に多めに気を配る質だ。だと言うのに、おかしい。思うポイズンは、迷惑ごとの予感に頭を打たれた。
自創作小説