『藤棚』
長い髪を結い上げる姿を
何も言えず見上げてた
『藤棚』
今日は少し日差しが強いと
歌うような口振りで
ハンカチを扇子代わり
長い首から漂うGUERLAINミツコ
いつまでも少女のように
貴女は笑うからアタシは
緩やかなウェーブの髪が揺れるのを
息も忘れてただ見惚れてた
おかっぱのアタシは少し俯いて
揃えた襟足の涼しさを味わう
ちょっと前まで寒かったのに
時が過ぎるのは早いわ
慈しむ愛情は限りなく与えるばかり
それを受け取るだけでいい日々は
いつか必ず終わるから愛しくて
ふとした瞬間死ぬほど寂しいの
いつかアタシから告げる別離は
決して悲しい事のはずがないのに
いつまでも守られていたくて
その柔い手を放したくなくて
すっかり大人になった頃
鏡を見ては今日の貴女を思い出して
言い知れぬ郷愁を味わうのだろうか
移り変わらぬ愛もあると夏の気配と共に
「見上げれば二人が好きだった一面の紫」
『藤棚』