『藤棚』

長い髪を結い上げる姿を
何も言えず見上げてた


『藤棚』


今日は少し日差しが強いと
歌うような口振りで
ハンカチを扇子代わり
長い首から漂うGUERLAINミツコ

いつまでも少女のように
貴女は笑うからアタシは
緩やかなウェーブの髪が揺れるのを
息も忘れてただ見惚れてた

おかっぱのアタシは少し俯いて
揃えた襟足の涼しさを味わう
ちょっと前まで寒かったのに
時が過ぎるのは早いわ

慈しむ愛情は限りなく与えるばかり
それを受け取るだけでいい日々は
いつか必ず終わるから愛しくて
ふとした瞬間死ぬほど寂しいの

いつかアタシから告げる別離は
決して悲しい事のはずがないのに
いつまでも守られていたくて
その柔い手を放したくなくて

すっかり大人になった頃
鏡を見ては今日の貴女を思い出して
言い知れぬ郷愁を味わうのだろうか
移り変わらぬ愛もあると夏の気配と共に



「見上げれば二人が好きだった一面の紫」

『藤棚』

『藤棚』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-04-21

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