コンタクト眼科医の恋

コンタクト眼科医の恋

コンタクト眼科医の恋

山野哲也はコンタクト眼科医である。このコンタクト眼科医というのはコンタクトレンズの処方、コンタクトレンズを装用することによって起こるアレルギー性結膜炎、角膜の傷、その他、麦粒腫(ものもらい)、角膜異物の除去、などの簡単な治療をする医師である。
いわゆる眼科医とは日本眼科学会が認定する眼科専門医である。
眼科専門医は5年間の眼科医としての常勤の経験が必要で、その上日本眼科学会が行う眼科専門医の試験に通った医師のことである。眼科専門医ほどになれば白内障、緑内障の手術も出来、要するに普通の、というか本当の眼科医である。それにくらべ山野は眼科専門医の資格など持っていない。大学の眼科の医局にも所属したことがないので眼科の臨床経験は一日もない。しかしコンタクト眼科はコンタクトレンズの処方やアレルギー性結膜炎には抗アレルギー薬、角膜の傷にはヒアレインを処方すればいいくらいなので、一週間もやれば出来るようになるのである。山野は大学(奈良県立医科大学)を卒業した後、Uターンして千葉にある下総精神医療センターという所で精神科医として二年間研修した。別に精神科をやりたかったわけではない。山野は医学部に入ってしまった手前、医師になるしかなかったので楽だと言われている精神科を選んだのに過ぎない。実際、精神科は楽だった。2年間の研修が終わった後は地元の神奈川の精神病院に就職が決まった。
なので藤沢市に引っ越して賃貸アパートを借り週4日という条件で働いた。
しかし山野は医師という仕事に生きがいを感じられなかった。
山野は大学3年の時から小説を書きだして小説を書くことに自分の生きがいを感じるようになってしまって医師の仕事はつまらなくなってしまったのである。
それでも山野は医師いがいに出来る仕事もないので精神科を続けた。
出来ることなら精神保健指定医の資格は取っておきたかった。
しかし精神保健指定医の資格は大学の医局に所属していなければ取れないということがわかった。精神保健指定医の資格を持っていないと精神病院に就職も出来ないとわかった。
なので仕方なくコンタクト眼科医のアルバイトをして収入を得ていた。
中央コンタクトが中央コンタクトのコンタクトショップに隣接した所に眼科クリニックを出していて、山野は中央コンタクトの隣接眼科クリニックで仕事した。
精神病院に常勤で働いていた時より収入は、ずっと落ちたが、仕事は楽だし小説を書く時間も持てるので山野に不満はなかった。
眼科クリニックで働いていると時々、中央コンタクトの社員の人がやってきた。
要件は「今度、どこどこでコンタクト眼科クリニックを開きますので院長になってくれませんか」というものだった。しかし山野は断った。なぜかというと、中央コンタクトが求める条件として、週4日~5日は働いて欲しいと言ってくるので、金より小説創作に時間をかけたい山野にとっては、それが嫌だったのである。
そんなことで山野はコンタクト眼科のアルバイトをしながら小説を書いていた。
しかしある時。
「今度、岩手県の盛岡に新しくコンタクトショップと隣接眼科クリニックを開くので院長になってくれませんか」と中央コンタクトの人が言ってきたのである。
条件は土日の週二日で、交通費とホテル代は出すということだった。
山野は二つ返事でこれを引き受けた。
盛岡と場所は遠いが、週二日、という条件が山野の心を動かしたのである。
それで山野は土日に盛岡に行って働くようになった。
土曜日の朝5:00に起きて湘南台→戸塚→東京駅→東北新幹線で盛岡である。
土曜日も日曜日も10:00時~19:00時までである。
新しくオープンした所なのでなのか、あまり患者は来なかった。
クリニックは小さく、待合室に受け付けがあり、その奥が検査室で、その奥が院長室だった。
山野はここでの院長は長くやろうと思っていた。
というのは今までは、どこかのコンタクト眼科クリニックの院長の代診という形で働いていたので院長が休まなければ仕事の募集はなく不規則だったからだ。
しかし院長になれば盛岡と遠くはあるが、毎週二回、土日と仕事が決まっている。
なので中央コンタクトの方からクリニックを閉鎖するか別の院長に替えると言ってくるまで働こうと思っていた。別の院長に替えるというのは、中央コンタクトの方でも出来れば院長は眼科専門医であって欲しいと思っているからである。
盛岡駅と直結しているショッピングモールの中のフェザンの三階が眼科クリニックで二階に中央コンタクトのコンタクトショップがある。
コンタクトを欲しいと思う客はまず、三階の眼科クリニックで検査を受けて、処方箋を出して貰い、それを二階のコンタクトショップに持って行き処方されたコンタクトを買い、その他ケア用品を買う。
眼科クリニックには中央コンタクトのコンタクトショップの社員かアルバイトの人が一人来てくれて、事務と検査をやってくれる。山野はスリットランプで目とコンタクトのフィッティングを見てカルテに「近視性乱視」と書いて中央コンタクトの人に渡す。それだけである。
それで山野は4年間、院長を続けた。
クリニックの仕事を手伝ってくれるスタッフはほとんどが若い女の人でアルバイトが多く3~4ヵ月で変わることが多かった。
スタッフの人がきれいで優しそうな女の人になると山野はすぐに恋した。
しかし山野は彼女たちに親しげに声をかける勇気がなかった。
なので事務的な関係以上になることはなかった。
女が好きになる男のタイプはイケメンで格好いい男だが山野はイケメンではなかった。
なので山野はほとんどスタッフの女に好かれなかった。もつとも嫌われてもいなかったが。それはスタッフの山野に対する、素っ気ない態度でわかった。
しかし山野は可愛いスタッフが来るとすぐに好きになった。
「恋人」という関係でなくても「友達」という関係でも十分満足だったのだが、好かれていない女に親しげに話しかけても女に気がなければ、さびしいだけである。
なので山野は一人さびしく院長室に居るだけだった。
しかし。5年目に新しい女のスタッフが入って来た。
彼女を一目見た途端、山野は「うっ。きれいだ」と思った。
その子は鈴木さんという名前だった。アルバイトなのか正社員なのかはわからない。
鈴木さんも他のスタッフ同様、山野に対しては特別な感情は持っていなかった。
しかし彼女は他のスタッフとは性格がちょっと違っていた。
それは彼女が、あまり物事にこだわらない、おっとりした性格だったということである。
彼女になら「好きです」と告白して彼女が「ごめんなさい」と断っても、それほど気になることはないように思えた。し事実そうだろう。
なので山野は彼女に「好きです」と告白してみたいという気持ちが募っていった。
盛岡に行く週末が近づくと山野は鈴木さんと会えることにワクワクし出した。
「今度行ったら、好きですと告白しよう」と思っていたが、しかしやはり山野は臆病でシャイなので、なかなか声をかけることは出来なかった。
それでも鈴木さんの姿を見れるだけで山野は嬉しかった。
そんなことで鈴木さんが来てから二カ月ほど経った。
・・・・・・・・・・・・
ある時、午前中の診療が終わった時である。
鈴木さんは受け付けに座っていた。
山野は鈴木さんの所に行った。
「ちょっとスリットランプの事でわからないことがあるんですけれど教えてもらえないでしょうか?」
山野は勇気を出して言った。
彼女は「はい」と言って席を立って山野と一緒に院長室に入った。
彼女が院長室に入ると山野はすぐに内カギをかけた。
そして彼女の背後に回って両手でそっと彼女の腰をつかんだ。
そして「あ、あの。鈴木さん。好きです」と告白した。
彼女は動くことなく黙っていた。
なにせそれまでずっと無表情、無感情だった山野に腰をつかまれ「愛」を告白されたのだから。彼女はどう対処していいかわからないといった様子だった。
山野は腰に触れていた片手を彼女の腹に回した。
それでも彼女は嫌がる素振りを見せなかった。
「あ、あの。鈴木さん。ごめんなさい。いきなりこんな事をして。嫌だったら言って下さい」
山野が聞いた。
「い、いえ。別にかまいません」
彼女は答えた。
この答は山野を安心させた。
本当は彼女は嫌なのかもしれない。控えめな彼女の性格のため、そう言っているのかもしれない。しかし山野はもうあまり彼女の心を詮索するのをやめた。
山野は膝を曲げて腰を落とし膝立ちになった。
彼の目の前には鈴木さんのピンクの制服のヒップがある。
山野はそっとピンクのスカートの上から鈴木さんの尻に頬を当てた。
これはかなり勇気が要った。山野は鈴木さんのヒップにさかんに頬ずりした。
「あ、あの。鈴木さん。嫌ですか?」
山野が聞いた。
「い、いえ」
彼女は答えた。もしかすると彼女は嫌なのかもしれない。山野の方が院長という立ち場なので断れないでいるのかもしれない。しかし山野は我慢に我慢をし続けていたので自分の感情を抑えることが出来なかった。手でヒップを触るのはいやらしいが頬ずりをするのは女を愛している意思表示であるような気がした。実際の所は、山野は彼女に対し「性愛」と「恋愛」の両方を持っていた。十分にヒップに頬ずりをすると山野は立ち上がって彼女の正面に立った。
そして彼女の背中に手を回して彼女をそっと抱きしめた。
彼女は嫌がる素振りを見せなかった。
山野はそっと彼女の唇に自分の唇を触れさせた。
タッチだけのソフトキスである。
しかし彼女は嫌がる素振りを見せない。
なので山野はそっと彼女の口の中に自分の舌を入れた。
彼女は拒まなかった。
山野の舌が彼女の舌に触れた。
彼女は拒まなかった。というより触れ合った舌を引っ込めるとそれは相手を拒否している意思表示になるので、拒否する意思表示を示せない彼女にはそれが出来なかったのかもしれない。しばらく舌と舌が触れ合いじゃれあった。彼女の口腔からは性的に興奮した時に出る粘稠な唾液が出ていた。山野はそれを吸い込んだ。あながち彼女も嫌がっているようには思えなかった。
ピンポーン。
クリニックのチャイムが鳴った。
まだ1時にはなっていなかったが午後の患者が来たのだろう。
山野は唇を彼女の唇から離した。
「ごめんなさい。鈴木さん。いきなりこんなことをして」
山野は謝った。
「い、いえ。いいんです。実を言うと私も先生、好きだったので・・・でも先生は私のことをどう思っているのかわからなかったので親し気に話しかけなかったんです」
と彼女が少し顔を赤らめて言った。
患者が来たので彼女は急いで受け付けに行った。
山野も院長室の机の前の椅子に座った。
彼女が裸眼視力、RGテスト、眼圧、などをする声が聞こえてきた。
そして患者が希望するコンタクトを入れての矯正視力を計った。
「先生。2Wのソフトレンズご希望の患者さんです」
そう言って彼女はカルテを山野に渡した。
彼女は今あったことなどなかったかのように平静な態度だった。
山野はスリットランプの上に患者の顔を乗せてもらい、角膜にキズはないか、アレルギー性結膜炎はないかを調べ、コンタクトが目にフィットしているかを調べた。
どれも問題はない。なのでカルテに「異常なし」と書いて彼女に渡した。
その日の午後は結構、患者が多く、彼女と話す時間はなかった。
ようやく18:30時になり彼女はクリニックの前に「本日受け付け終了」のボードを出した。
19:00になりクリニックが終了した。
山野は荷物をまとめて院長室を出た。
早く行かないと、いつも乗っている上りの東北新幹線に間に合わなくなる。
彼女は今日来た患者の事務処理をやっていた。
「あ、あの。鈴木さん。さようなら」
山野は彼女の前をきまり悪そうに通ろうとした。
「さようなら。先生」
彼女はニコッと笑って挨拶した。
「今日はいきなり突飛な事をしてしまってごめんなさい。気にさわりましたか?」
山野は謝った。彼女はニコッと微笑んだ。
「いえ。いいんです。私、先生、好きですから」
この言葉に山野は喜んだ。
「あ、あの。鈴木さん」
「はい。何でしょうか?」
「ちょっと言いにくいんですが・・・・」
「はい。何でしょうか?」
「今、履いているパンティーを貰えないでしょうか?」
山野は勇気を出して言った。
「はい」
彼女は少し恥ずかしそうな顔でスカートの中に手を入れてパンティーを抜きとった。
そしてそれを山野に恥ずかしそうに差し出した。
普通の女の子だったら、そんな変態な要求をされたら、ためらうだろうが彼女はおっとりした性格なので山野の要求を聞いてくれた。
「うわー。嬉しいです。ありがとう」
山野は照れくさそうにそれを受けとった。
・・・・・・・・・・・・
普通の女だったら、そんな事を言われたら恥ずかしくてためらうだろうが、彼女はおっとりした性格なので別に気にしていなさそうだった。
山野は彼女に頼んで立ってもらってスマートフォンで彼女の写真をパシャパシャと数枚、撮らせてもらった。彼女も写真を撮られてまんざらでもない様子だった。
「さようなら」
「さようなら」
こうして山野はクリニックを出た。
最終の上りの東北新幹線こまち号には間に合った。
山野は嬉しさで有頂天だった。
彼女が来てからずっと恋焦がれていたが想いを告白することが出来ず煩悶していた想いが叶ったのである。
山野の性格はそうなのである。
山野はイケメンではないが、そんなにブサイクでもなく彼の評価は「普通」だった。
しかし山野は好きな女に告白するということをしたことが人生で一度もなかった。
山野は極度に神経質で「好きです」と告白して相手に断られることを極度におそれていた。
そして奥手だった。医学部の4年の時に初めて風俗店(SМクラブ)に勇気を出して行ってみた。風俗店といっても働いているのはアルバイトの女の子である。
山野はそこで、きれいな女の子とペッティングした。別にSМクラブである必要もないのだが、SМクラブ以外の他の風俗店がどういうものかわからなかったからである。
きれいな女の子でも山野に好感を持ってくれた。
SМクラブだからといって縛ったりすることはなかった。
縛るのは女の子を拘束して怖がらせるのが目的だが、SМクラブはSコースなら90分3万円、Мコースなら90分2万円が相場だった。90分で相手を解放できると双方わかっている以上、わざわざ縛るのは時間がもったいない。山野は女をペッティングした。Sコースで入っても山野は女の子に顔面騎乗させたりした。
風俗店では店外デートは禁止である。しかし店の中の空間だけというのはさびしかった。
それに風俗店の女の子はエッチが好きで仕事とわりきっている子が多い。
所詮、部屋の中の金銭関係での付き合いである。
なので山野は一度、金銭関係でない異性との付き合いをしてみたかったのである。
その夢がかなったのである。
山野は家に着くと布団の中に入り、鈴木さんの写真を見ながら、鈴木さんがくれたパンティーを鼻に当てて、その匂いを嗅いだ。
「ああ。鈴木さん。好きだ。好きだ」
と言いながら。
ああ、ここに鈴木さんの女の部分が当たっていたんだと思うと山野は激しく興奮した。
そして鈴木さんの写真を見ながらオナニーした。
そしてその晩は寝た。
・・・・・・・・・・
翌日の月曜日になった。
山野の唯一の生きがいは小説を書くことだった。なので図書館に行ってパソコン席でパソコンを開いた。書きかけの小説の続きを書こうかと思ったが、やっと夢がかなって鈴木さんと親しくなれたので鈴木さんとのことを私小説ふうに書こうと思って書き出した。
けっこうスラスラと楽に書けた。
山野は女に飢えていた。いつも頭の中は女のことだった。
しかし「現実の女との恋愛」と「小説創作」を比べると山野にとっては「小説創作」の方が上だった。好きな女と付き合えるのは嬉しい。しかし「現実の女との恋愛」は精神的な心地よい快楽ではあっても、それはやがて消えてしまうもの。しかし芸術はその出来が良ければ形として残るものである。それは世間で認められないかもしれない。しかし山野は小説を書いていればそれで満足だった。山野は「現実の女との恋愛」は虚しいと思っているがそれは風俗の女の子との場合である。今回の鈴木さんは金銭関係でも90分の部屋の中だけの関係でもない。生まれて初めての「生きた恋愛」である。彼女のおっとりした性格ならもしかすると長続きするかもしれないし、一生の伴侶となるかもしれない。そう思うと彼の筆は進んだ。
鈴木さんはおっとりした性格なので前回、彼女に携帯電話の番号とメールアドレスを聞けば教えてくれただろう。しかし山野はあえて聞かなかった。山野はおくゆかしい所があって携帯電話やメールのやりとりが出来てもそれをしたがらない所があった。
それは好きな人が出来るとすぐに電話やメールをするのは趣きがないと思っていたからである。文明の利器を利用してすぐに相手となれなれしくなってしまうのは軽率で、軽々しく山野は嫌だった。好きな人とは会いたくても会えない時間があって、やっと会える方が恋愛のボルテージが高くなると思っていたのである。
実際、日を経るごとに山野の鈴木さんに対する想いは激しく募っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・
そしてとうとう待ちに待った土曜日になった。
山野は金曜日に盛岡に行って盛岡駅前のホテルに泊まることもあったが、土曜日の朝はやくに家を出て、そのまま土日の診療をすることもあった。
それはその時の状況によっていた。
山野は朝5:00時に起き、始発の5:20分の市営地下鉄ブルーラインに乗って東京へ出て、東北新幹線に乗って盛岡駅に着いた。
クリニックは10:00時から始まるが、クリニックには9:50分に着いた。
クリニックのガラスの戸を開けると受け付けに鈴木さんが座っていた。
「こんにちは」
「こんにちは」
何もなかったような挨拶が交わされた。
山野はすぐに院長室に入った。
10:00時になると患者(というか客)がちらほらと入って来た。
鈴木さんは受け付けをして、患者の求めるコンタクトレンズを聞き、裸眼視力、テストレンズによる矯正視力、RGテスト、眼圧、などを書き込んだカルテを山野に渡した。
テキパキと極めて事務的に仕事をこなした。
山野も客に顔をスリットランプの上に乗せてもらい、角膜、結膜、コンタクトレンズのフィッティング、をチェックした。
ようやく12:00時になった。
彼女は「午前の診療は終了しました。午後の診療は1:00時からです」と書かれたボードをクリニックの前に出した。そして受け付けにもどった。
山野はドキドキと高鳴る胸の鼓動を抑えながら受け付けに座っている鈴木さんの所に行った。
「鈴木さん。ちょっと来てくれませんか?」
と聞くと彼女はニコッと微笑んで黙って院長室に入ってくれた。
山野は彼女の背後に回り、前回と同じように彼女の腰を触り、そしてすぐに手を伸ばして彼女の腹を触った。背後から彼女を抱きしめる形になった。
山野が彼女によせる想いは「恋愛」も強かったが「性愛」も強かった。
あまり彼女に近づきすぎると勃起したおちんちんが彼女の尻に触れてしまう。
なので山野は腰を引いて、おちんちんが彼女の尻に触れないようにした。
山野は腰を落とし前回と同じようにスカートの上から鈴木さんのお尻に頬を押しつけた。
「ああ。鈴木さん。好きです」
と言いながら山野は彼女の柔らかい尻の感触を味わっていた。
彼女は「ふふふ」と笑って山野を軽くいなした。
山野は彼女の二本の太腿をタックルのようにからめて抱きしめた。
そして太腿に少し頬ずりしてから、彼女のピンクの制服の短めのスカートの中に顔を入れた。
そして彼女のパンティーの尻に顔を押し当てた。
こうやって順序を踏んでいくと女は警戒しなくなるものである。
尻を手で触るのは痴漢のようで嫌らしいが、頬を当てられるというのは男が女の母性を求めていると女は思うのである。実際、山野は彼女に母性愛を求めていた。
彼女の尻の感触を十分、味わうと山野は前回と同じように、立ち上がって彼女の前に立った。
そして前回と同じように、彼女の背中に手を回して彼女をそっと抱きしめた。
彼女は嫌がる素振りを見せない。
山野はそっと彼女の唇に自分の唇を触れさせた。
タッチだけのソフトキスである。
しかし彼女は嫌がる素振りを見せない。
なので山野は相手の反応を確かめながら、そっと彼女の口の中に自分の舌を入れた。
彼女は拒まなかった。
山野の舌が彼女の舌に触れた。
彼女は拒まなかった。というより触れ合った舌を引っ込めるとそれは相手を拒否している意思表示になるので、拒否する意思表示を示せない彼女にはそれが出来なかったのかもしれない。しばらく舌と舌が触れ合いじゃれあった。彼女の口腔からも性的に興奮した時に出る粘稠な唾液が出ていた。山野はそれを吸い込んだ。あながち彼女も嫌がっているようには思えなかった。山野はもっと彼女の体を愛撫したかったのだが、キスだけでやめておいた。
山野は彼女に対して「性愛」をしたい欲求があったが、彼女は山野の「性愛」を受けたいのかどうかはわからなかったからである。彼女の心はわからない。彼女は山野を嫌っていないから山野がもっと彼女をペッティングしても彼女は嫌がらなかったかもしれない。彼女はそういう、おっとりした子なのである。男の性欲は女に対して積極的だが女の性欲は能動的である。男はいつも発情しているが女はそうではない。女は全身が性感帯だから男の愛撫を受けているうちに男以上に性欲が亢進するものである。そういう男の手技によって女の性欲を開花させることも男には出来るのだが、山野はそれが嫌だった。そういう小賢しい戦術によって彼女の性欲を開花させてしまうことが嫌だったのである。山野は性格の良い人間につけこむことが嫌いだったのである。
しばしのディープキスの後、彼女は舌を引っ込めて唇を離した。
「先生」
「はい。何でしょうか?」
「あ、あの。先生にお弁当つくってきました」
「あっ。それは有難う」
「今持って来ます」
そう言って彼女は院長室を出た。
そしてハンカチで包んだアルミの弁当箱を持ってもどってきて山野に渡した。
「はい。先生」
「ああ。どうも有難う」
山野は弁当を受けとった。
これは山野のペッティングを回避するためではなく彼女の心づくしである。
彼女はそういう心づくしのある優しい子なのである。
弁当はのり弁にハンバーグと卵焼きだった。
女の子にしてみれば、この程度は簡単なことで日常的なことなのだろうが料理など何も出来ない山野にとってはとても嬉しいことだった。
山野は「ああ。この弁当は鈴木さんが作ったんだ」ということを噛みしめながら食べた。
とても美味しかった。彼女も受け付けで同じ内容の弁当を食べていた。
こういう時は、せっかく彼女が作ってくれた弁当なので二人ならんで食べるのが普通の男女だろうが、山野はシャイで女の子と二人になっても何を話したらいいのかわからないので院長室で一人で食べた。
食べ終わると山野は弁当箱をもって受け付けにいる鈴木さんの所に行き、
「有難うございました。美味しかったでした」
と言って弁当箱を渡した。
「そう言ってもらえると嬉しいです」
と彼女はニコッと微笑んだ。
そうこうしているうちに1:00になり午後の診療が始まった。
患者はそれほど来なかったが、クリニックは予約制ではないので、ちらほら来た。
いつ患者が来るかはわからないので、患者がいなくても山野は院長室に居て彼女は受け付けに居た。
ようやく午後7:00になって診療が終わった。
・・・・・・・・・・・
「鈴木さん」
「はい」
「よかったら、焼き肉店に行きませんか?」
「はい。行きます」
彼女は喜んで答えた。
山野はいつも土曜日の診療が終わると、駅近くの東横インホテルに泊まって翌日、診療してそれが終わると東北新幹線で家に返るのだが、鈴木さんと親しくなったので、焼き肉店に誘ったのである。
山野と鈴木さんは焼き肉店で焼き肉を食べながら色々と話した。
「鈴木さん。あなたはどういう経歴でここで働くようになったのですか。というよりあなたは正社員なのですか、アルバイトなのですか?」
「私はアルバイトです」
「そうだったんですか。僕は中央コンタクトの人が来ても事務的なことを話すだけで、その人が正社員なのかアルバイトなのかも聞かないんです。鈴木さんはどっちかなと思っていたんですが、たぶんアルバイトじゃないかと思っていたんです」
「私も正社員で中央コンタクトに応募したんですが、アルバイトということで採用して貰えました」
「そうだったんですか。ところで鈴木さんは高校は女子高ですか。それとも男女共学ですか?」
「男女共学です」
「なら、彼氏とかナンパとかされなかったんですか?」
「それは数回あります。でも相手の男の人にあまり魅力を感じなかったので付き合いませんでした」
「そうですか」
「じゃあ今度は先生の経歴を教えて下さい」
彼女が聞いてきた。
「そうですね。僕は医者になりたいと思って医学部に入ったんではありません。医者は収入がいいからという理由でもありません。僕は子供の頃から喘息で病弱で高校生の時から過敏性腸症候群が発症してしまって、自分の病気は自分で治そうと思って医学部に入ったんです」
「大学はどこですか?」
「奈良県立医科大学です。本当は家に近い横浜市立大学医学部に入りたくて受験もしたんですが落ちてしまって・・・・」
「そうだったんですか。それでどうしてコンタクト眼科クリニックの院長になったんですか?」
「僕は大学を卒業した後、Uターンして千葉県の下総精神医療センターという所で2年間、研修しました。それでその後、藤沢の130床の精神病院に就職したんですが、僕は大学の時、小説を書く喜びを知ってしまって、医者の仕事はむなしいように思うようになってしまったんです。それでそこの病院も辞めることになって。でも精神科いがいの科目はやったことがないし、楽なコンタクト眼科のアルバイトをしていたんです。それで今度、盛岡に眼科クリニックを開くから院長になって週2日、土曜と日曜日に働いて欲しいと誘われてやることに決めたんです」
「そうだっんですか。先生は地元の神奈川県のどこかの病院に勤めていて、ここでの仕事はアルバイトなのかなーと思っていました。もしかするともう結婚もしていて、ローンで家を買ったため、その支払いのためのアルバイトなのかなーと思っていました」
「いやー。僕にはそんな体力はないです。それに僕は結婚したいとも思っていません」
「どうしてですか?」
「僕は結婚とは女性を幸せにしてあげることだと思っているんです。でも僕は病弱ですし、その自信がないんです」
「先生って理想が高いんですね」
と言って彼女は微笑んだ。
「でもあなたのような人となら結婚できるかもしれないな」
山野は独り言のように笑って言った。
「ええ。私も先生のような人となら結婚したいと思っているんです」
本心なのか冗談なのか彼女もそんな事を言った。
「鈴木さんは何だか淡泊な性格ですね。それが魅力なんですが・・・」
「ええ。私、よく友達に、あなた、おっとりしているわね、と言われます」
「普通、女ってもっと、じっとしていられなくて、お喋りで一瞬たりとも黙っていられない人が多いですよ」
「ええ。私もそう思います」
そう言って彼女は微笑した。
「ところで先生は小説を書くんですか?」
「ええ。山野哲也というペンネームでホームページに書いた小説を出しています」
「そうなんですか。すごいですね。あとで読ませてもらいます」
そう言って彼女はスマートフォンを取り出すと「山野哲也」で検索した。
「あっ。本当ですね。先生って本も一冊、出版しているんですね」
「え、ええ。でも自費出版です」
「自費出版でも凄いと思います。先生は作家になりたいんですか?」
「そりゃーなれるものならなりたいですけど・・・プロ作家になるのは大変ですからね。僕にはその体力もないし、そもそも僕の気質からいってプロ作家にはなれないように思うんです」
「そうですか」
「あなたと出会えたことも一つの大きな物語ですから小説に書こうと思っているんです」
「私のことを小説に書くんですか。何だか恥ずかしいです」
「大丈夫です。あなたは素晴らしい人ですから、素晴らしい小説になると思います」
山野がそう言うと彼女はニコッと笑った。
焼き肉を食べながら、そんな事を話して山野は彼女と別れた。
そして山野はいつも泊っている駅前の東横インホテルに泊まった。
山野はストイックな性格だったので、彼女をホテルに呼ぼうと思えば呼ぶことも出来たが、それはしなかったし、したくなかった。
なぜなら山野は彼女と行きつく所までは行きたくなく、彼女を一定の距離をもった憧れの女性にとどめておきたかったからである。それは鈴木さんだけではなく、女全般に対する山野の態度だった。
・・・・・・・・・・
翌日の9:50分に山野はクリニックに行った。
鈴木さんはもう来ていて受け付けに座っていた。
「おはよう」
「おはようございます。先生。昨日の夜、先生の小説のうち、短いのを読みました。先生って恋愛小説を書くんですね。上手いと思いました」
「いやあ。恥ずかしい。僕はエッチな小説もかなり書いていますからね。あまりそういうのは読まないで下さいね」
そんな事を言って山野は院長室に入った。
10:00時になり午前中の診療が始まった。
いつものように仕事中は山野は院長室に居て彼女は受け付けにいて、患者が来るとそれぞれの仕事をした。
12:00時になり午前中の診療が終わった。
山野は受け付けに居る鈴木さんの所に行った。
もう鈴木さんも山野が何を要求しているかわかっていて、黙って微笑して立ち上がり山野と一緒に院長室に入った。
「ああ。好きだ。鈴木さん」
院長室に入るや否や山野は鈴木さんを背後から抱きしめた。
そして腰を落として膝立ちになった。
「ああ。好きだ。鈴木さん」と言いながら山野は鈴木さんのピンクの制服のスカートの上からお尻に頬を押し当てた。
何て大きくて柔らかいんだろうと山野は恍惚としていた。
彼女は、ふふふ、と笑った。
「鈴木さん。ちょっとお願いがあるんですが・・・」
そう言って山野は立ち上がった。
「はい。何でしょうか?」
「これを着て貰えないでしょうか?」
山野はワンピースの競泳水着をカバンの中から取り出した。
「これ。ここのショッピングモールの中の水着売り場で買ったんです。鈴木さんの体ならМサイズで合うと思います」
「はい。わかりました」
と彼女は理由も聞かず山野の要求を受けてくれた。
山野はクルリと後ろを向いた。
女性の着替えを見るのは失礼でおもむきがないからだ。
カサコソと服を着替える衣擦れの音がした。
「はい。先生。着ましたよ」
すぐに彼女が言った。
クルリと山野が振り返ると、ワンピースの競泳水着を着た鈴木さんが立っていた。
それを見た瞬間、山野は、ああ、と感嘆した。
ワンピースの水着姿の鈴木さんがあまりにも美しかったからである。
水着はハイレグではなく、お尻もフルバックの普通のワンピース水着だが、山野は一度、鈴木さんのワンピース水着姿を見てみたいと思っていたのである。
ハイレグではなくフルバックとはいえ、女のヴィーナスの丘はモッコリと盛り上がり、フルバックは彼女の大きな尻を弾力をもって形よく収めて整えていたからである。
体のボリュームのある女は着やせするものである。
ワンピース水着の縁からニュッと弾け出ている太腿、華奢な腕、繊細な手、理想的なプロポーションだった。
山野は急いでスマートフォンを取り出して、パシャパシャと水着姿の彼女を撮った。
そして。
「ああ。好きだ。鈴木さん」
と言って山野は背後から膝立ちになって、水着の縁からニュッと出た太腿を抱きしめ、お尻に頬を当てた。
「ふふふ」
と彼女は山野をいなすように笑った。
山野は健康のため屋内プールでよく泳ぐのだが、たまにプールの女の監視員や水泳好きでやって来る若い女のワンピース水着姿を見ると激しく欲情していたのである。
「ああ。鈴木さんの競泳水着姿を見たいとずっと思っていたんです」
山野は鈴木さんのお尻を水着の上からチュッ、チュッとキスした。
そして前に回って、彼女のヴィーナスの丘の部分にもキスをした。
「あん。恥ずかしいです」
と言いながらも水着ということもあってか彼女は拒まなかった。
山野はいつまでもこうしていたいと思った。
が、鈴木さんは、
「先生。今日もお弁当、作って持って来ました」
と言ったので彼女から離れた。
山野としてはいつまでも彼女に触れていたいと思っていたのだが、彼女の好意を拒むわけにもいかない。
山野はクルリと彼女に背を向けた。
カサコソと服を着替える衣擦れの音がした。
彼女は水着を脱いでピンクの制服を着ていた。
そして受け付けに行って、弁当を持って院長室にやって来た。
「はい。先生。お弁当です」
そう言って彼女は弁当を差し出した。
「ありがとう」
山野は彼女から弁当箱を受けとった。
今回は鯵のフライにほうれん草のおひたしだった。
やがて1:00時になり午後の診療が始まった。
そして19:00に診療が終わった。
「鈴木さん。今日はありがとう」
「いえ」
彼女はニコッと笑って言った。
「鈴木さん。出来たらあなたと大磯ロングビーチに行きたいです」
山野は思い切って自分の思いを告白した。
「そのためにこの水着を買ってくれたのですか?」
「いや。大磯ロングビーチに来る女の客はみんなセクシーなビキニですよ。ワンピースの水着なんか着ていると返って目立っちゃいますよ」
山野は夏、最低一度は大磯ロングビーチと片瀬西浜の海水浴場に行っていた。
もちろん泳ぐためではない。
ビキニ姿の女を見るためである。
片瀬西浜に来る女は肉体に自信のある女ばかりだが、大磯ロングビーチに来る客は遊びに来るのが目的なのである。
山野には彼女がいないので、ビキニ姿の彼女と手をつないで、ビーチサイドや海水浴場を歩いてみたい、というのが山野の夢だったのである。
「僕はあなたのようなきれいな人とビーチサイドや海水浴場を手をつないで歩くのが夢なんです。そんなこと普通の男なら簡単に出来ることなんでしょうが、僕は垢ぬけていないので、しかもネクラなので普通のことが出来ないんです」
山野は勇気を出して言った。
「じゃあ、私、先生と大磯ロングビーチに行きます。いつがいいですか?」
「ええっ。本当ですか。それは嬉しいな。大磯ロングビーチは7月は土日に行きたいですね。土日祝日は人がたくさん来ますから。出来るだけ多くの人に僕とあなたが一緒に居るのを見られたいですから」
幸い明日の7月15日は「海の日」の祝日だった。
「先生。明日は祝日ですね。じゃあ、さっそく明日、行くというのはどうでしょうか?」
「えっ。いいんですか。鈴木さんの都合は大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫です。私、明日は休みですし・・・」
「それは嬉しいです。じゃあ、今日、僕の家に来てくれませんか。それで明日、車で大磯ロングビーチに行くというのは」
「はい。そうします」
こうして山野と彼女は盛岡駅に行って、上りの東北新幹線に乗った。
そして二人で並んで座った。
東北新幹線は時速300km/hで走り出した。
山野は口下手なので女の子と何を話していいのかわからなかった。
なので黙っていた。
彼女もおっとりした性格で沈黙が苦痛ではない女の子だった。
その性格も山野が彼女を好きになった理由である。
鈴木さんはスマートフォンを出して山野の小説を読んでいた。
東北新幹線は仙台、大宮、上野、東京、と止まる駅が少なく2時間で東京駅に着いた。
そして東海道線に乗って戸塚で降り、横浜市営地下鉄ブルーラインで湘南台駅に着いた。
山野は湘南第一ホテルに空きがあるか、スマートフォンで聞いた。
空いていて十分、空きがあるとのことだった。
「じゃあ、鈴木さん。今日は湘南第一ホテルに泊まって下さい。明日の朝、8:00時に車で迎えに来ます」
「はい。わかりました」
そう言って二人は別れた。
山野としては自分のアパートに泊めてもよかったのだが、やはり彼女とは一定の距離をとった関係でいたかったのである。
その夜、山野は翌日、鈴木さんと大磯ロングビーチに行けると思うと至福の思いでなかなか寝つけなかった。
翌日になった。
山野は50万円で買ったホンダのライフに乗って、8:00時に湘南第一ホテルに行った。
鈴木さんはホテルのロビーにいた。
彼女は山野を見つけると、急いでフロントに行き、チェックアウトした。
「あっ。先生。おはようございます」
「おはよう。鈴木さん」
そう言って山野は助手席を開けた。
彼女が助手席に乗り込んだ。
「昨日は眠れましたか?」
山野が聞いた。
「ええ」
「それはよかった。じゃあ、行きますよ」
そう言って山野はアクセルペダルを踏んだ。
「鈴木さん。大磯ロングビーチに行ったことはありますか?」
「いえ。ないです。名前と場所は知っていますが・・・」
「そうですか。昨夜は湘南台のホテルではなく大磯ロングビーチのホテルに泊まってもらってもよかったですね。あそこのホテルからは相模湾の海が目前に見えますから・・・でもこうして、あなたとドライブしていることが僕には凄く嬉しいんです」
山野が助手席に女の子を乗せてドライブするのはこれが初めてだった。
なので山野は有頂天だった。
「先生。私、ビキニ持っていないんですが・・・」
「ははは。大丈夫ですよ。大磯ロングビーチで色々な種類のを売っていますから」
「そうですか」
そんなことを話しながら、山野は車を飛ばした。
やがて大磯ロングビーチに着いた。
もう多くの人がチケット売り場の前に並んでいた。
山野も彼女と一緒に列の後ろに並んだ。
8:30分になり、チケット売り場が開いた。
客がチケットを買ってゾロゾロと場内に入り始めた。
すぐに山野と鈴木さんの番になった。
「チケット大人二人一日券」
山野は最高の快感でそう言った。
山野は夏、最低一回は大磯ロングビーチに来ることにしているのだが、チケット売り場で「大人一人」と言う時が、恥ずかしくさびしかったのである。
他人はそうは思っていないかもしれないが、あの人ひとりで彼女いないのねー、クライわよねー、と言われているような気がしていたのである。
しかし今日は違う。鈴木さんという可愛い恋人がいるのである。
山野はチケット二人分、買うと、その一つを鈴木さんに渡した。
「有難うございます。先生」
「鈴木さん。お礼なんか言わないで下さい。お礼を言うのは僕の方です」
二人は一緒に場内に入った。
入ったすぐの所が、女のビキニ、や、男のトランクス、浮き輪、ビーチサンダル、ビニールシートなど水泳用品を売っている場所だった。山野は鈴木さんに一万円、渡した。
「さあ。鈴木さん。好きなビキニを買って下さい」
「たくさんあるんですね」
彼女はビキニをキョロキョロ見ていたが、なかなか決められなかった。
あまりカットが大きく布面積の小さいのからは恥ずかしそうに目をそらした。
「これにします」
彼女はやっとシンプルなピンク色のビキニに決めた。
「ええ。それがいいですね」
山野もその方がいいと思った。
セックスアピールを意識していない女の方が魅力的である。
シンプルなビキニを恥ずかしそうに着る方が、かえってセクシーなのである。
更衣室の前で二人は別れた。
山野はすぐにトランクスを履いてロビーに出た。
そして鈴木さんが出てくるのを待った。
ほどなくピンクのビキニを着た鈴木さんが出てきた。
彼女もすぐに山野を見つけた。
山野は思わず、うっ、と息をのんだ。
「うわっ。鈴木さん。きれいだ。セクシーだ」
山野が言った。
「なんだか恥ずかしいです。私、ビキニ着るの初めてなので。なんだか下着を着て人前に出ているような感じです」
彼女は顔を赤らめて言った。
「大丈夫ですよ。ここに来る女の人はみんなビキニですから。夏は女の人は解放的な気持ちになりますから。女の人はみんなもっとセクシーなビキニですよ」
二人は並んでロビーからプールサイドに出た。
空は雲一つない快晴で真夏の太陽がサンサンと無限の青空の中で光と熱を放っていた。
もう入場者はかなり居てビーチサイドを歩いていた。
山野が言った通り女はセクシーな露出度の高いビキニを着ている人が多い。
鈴木さんは山野の右に居る。
山野はそっと右手を鈴木さんの方に近づけた。
それは鈴木さんの左手の甲に触れた。
鈴木さんは山野の右手をギュッと握った。
山野も鈴木さんの左手を握った。
「ああ。幸せです。鈴木さん。あなたのようなきいな人とこうして手をつないでプールサイドを歩くのが僕の夢だったんです」
山野にとってはそれが長年の夢だったのである。
夢がかなえられた時の幸福感はたとえようもなかった。
普通の男にとっては彼女を作り手をつないでプールサイドを歩く、なんてことは簡単なことである。誰でも出来る。しかし山野はそういう凡庸なことが出来なかったのである。
山野は自分は今、憧れのビキニ姿の鈴木さんと手をつないでプールサイドを歩いているんだ、という事実を牛が食べ物を反芻するように何度も噛みしめた。
「ふふふ。先生。何だか私たち恋人のようですね」
鈴木さんが笑って言った。
山野はこうやってビキニ姿の鈴木さんとプールサイドを歩くことが夢で目的だったので、「ビニールシートを何処に敷きましょうか」と言いう口実で、彼女と手をつないで大磯ロングビーチの中を歩き回った。
「ここにしましょう」
「ええ」
ようやくダイビングプールの前の芝生にビニールシートを敷いた。
「鈴木さん。あなたの美しいビキニ姿を写真に撮らせて下さい」
「はい」
彼女は立ち上がった。
山野は鈴木さんに「はい。髪を搔き上げて」とか「腰に手を当てて」とか「顔を上に向けて」とか言って色々なセクシーポーズをとってもらって色々な角度からスマートフォンで撮影した。何だが女優を撮影するカメラマンになったような気分だった。
鈴木さんもまんざらでもなさそうだった。
20枚くらい彼女のビキニ姿を撮影した。
「はい。もういいです」
と言うと鈴木さんも、
「先生。どんなふうに撮れたか私にもちょっと見せて下さい」
と急いで山野の所に来た。
「わあ。恥ずかしいわ」
と言いながらも彼女も自分のビキニ姿に満足しているようだった。
その後はビーチで日光浴をした。
「じゃあ日光浴をしませんか」
「はい」
山野と鈴木さんは並んで仰向けに寝た。
こうやって女性と真夏のプールサイドで日光浴をするのが山野の夢だったのである。
彼女も真夏の太陽を浴びる日光浴を楽しんでいる様だった。
「鈴木さん。紫外線は体によくないですからコパトーンを塗った方がいいですよ」
「え、ええ」
「僕が塗ってもいいでしょうか?」
「え、ええ。お願いします」
山野は内心、やったーと思った。
山野はコパトーンを仰向けの鈴木さんの体に隈なく塗っていった。
ビキニで覆われた所いがいは全て。
彼女は山野に身をまかせているかのようだった。
鈴木さんは目をつぶって脱力して、まるで柔らかい生きたお人形さんのようだった。
仰向けの状態の彼女の体にコパトーンを塗り終わると山野は鈴木さんに、
「じゃあ今度はうつ伏せになって下さい」
と言った。
「はい」
山野に身をまかせるのが気持ちいいのか、鈴木さんはクルリと体を反転してうつ伏せになった。山野は鈴木さんの背面にもコパトーンを塗った。
ビキニの縁から出ている所は全て。
ただ単に塗るだけじゃなくて、たっぷりした肉を時間をかけて揉みほぐすように。
彼女も気持ち良さそうに目をつぶっていた。
しかし山野には性的興奮は起こっていなかった。
エロティシズムは精神と肉体が結合して起こる。
なので精神の入っていない肉体は単なる柔らかい物質に過ぎない。
「先生。気持ちいいです。何だか先生にマッサージしてもらっているようで」
彼女も夏の女がみなそうなるように夏の解放的な気分になっているようだった。
そのあと、二人でビーチサイドにある売店で、焼きそばを買って食べ、二人乗りのウォータースライダーで滑走したりして夏の一日を満喫した。
時計を見ると午後4時になっていた。
「鈴木さん。今日は楽しかったです。もう帰りましょうか?」
「ええ」
大磯ロングビーチは午後6時までやっている。
しかし鈴木さんにも明日からきっと何か予定があるだろうと山野は気をつかったのである。
山野と彼女は手をつないでロビーに向かった。
そしてお互い更衣室で着替えて出てきた。
「先生。今日は楽しかったです。夏を満喫しました」
「僕も楽しかったです」
二人は車に乗った。
山野は大磯駅まで彼女を送った。
「先生。今日は楽しかったです。有難うございました」
「鈴木さん。さようなら」
こうして二人は別れた。
山野はその夜、大磯ロングビーチで撮った鈴木さんのビキニ写真を眺めながら寝た。
・・・・・・・・・・・・
一週間経って土曜日になった。
山野は朝5:00時に起きて東北新幹線に乗り盛岡に向かった。
盛岡には9:50分に着いた。
鈴木さんはいなかった。
代わりに別の女の子が来ていた。
こういうアルバイトの交代はよくあることだった。
「おはようございます」
「おはようございます」
「鈴木さんはどうしたんですか?」
「盛岡仲通り店のスタッフが辞めてしまったもので鈴木さんはそっちに行くことになりました。私は千田祥子と言います」
千田祥子さんも可愛かったが彼女は鈴木さんのような、しとやかさ、がなかった。
山野は鈴木さんが来なくなったことで彼女との付き合いはこれで終わりにしようと思った。
鈴木さんは20代で若い。彼女には彼女にふさわしい若い素敵な男と付き合って欲しい。短い期間ながらも鈴木さんという素敵な人と付き合えたことだけで山野にはもう十分だった。彼女の山野に対する想いはわからないが、彼女の人の良さにつけ込んではいけないと山野は思った。
その日、中央コンタクトのエリアマネージャーがやって来た。
クリニックの院長募集に眼科専門医の先生が応募してくれたので山野には三ヵ月後に辞めて欲しいとのことだった。そして経営も医療法人としてやると言った。
山野もそのことは覚悟していた。
眼科専門医は日本眼科学会が認める専門医資格だが、5年間の眼科医としての常勤の経験と日本眼科学会が行う眼科の学科試験に通った医者である。白内障や緑内障の手術も出来る一人前の眼科医である。
山野は眼科専門医の資格など持っていないので、眼科専門医でクリニックの院長をやる人が見つかったら、辞めさせられるだろうことは覚悟していた。もっともここのクリニックはスリットランプと眼底鏡くらいしかなく、手術器具もなく、眼科専門医がやっても山野がやっても同じようなものだが、眼科専門医の方が何かと有利なのは間違いない。
中央コンタクトの方からか、山野の方からか、辞めたいと言ったら院長交代しなくてはならない、という契約書を交わしているので仕方がない。
しかしそのため仕事がなくなってしまった。
なので山野はネットにある医師の斡旋業者の募集で何か自分に出来る仕事を探した。
それで人工透析の仕事の募集があったので、それに応募してみた。
仕事の条件に「経験不問」と書いてあったし、以前から人工透析の仕事は楽と聞いていたので、どんなものかやってみようと思っていたのである。
それで人工透析の仕事をやってみた。
これが結構、簡単で楽だった。
外来の血液透析は一つのクリニックに患者が40人くらいで、「具合はどうですか?」と聞いて、カルテ記載し、透析ナースが求める臨時処方にサインするのと、緊急時に紹介状を買いて救急病院に送ることくらいだった。
これなら最初からコンタクト眼科ではなく、人工透析をやっていれば良かったと山野は後悔した。人工透析というからには、腎臓内科や人工透析の知識が必要で難しそうという先入観があったのだ。人工透析が楽だとわかって、山野も人工透析の本を5~6冊買って勉強した。
理屈がわかると面白いものである。
なので山野は今、人工透析をやっている。
しかし、盛岡でコンタクト眼科をやっていた時に知り合った鈴木さんとの思い出は山野の人生にとって貴重なものとなっている。


2025年4月9日(火)擱筆

コンタクト眼科医の恋

コンタクト眼科医の恋

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-04-09

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