zoku勇者 ドラクエⅨ編 53
裏切りの天使・最大の危機
「さ、今日からアンタらも気分変えて、よしっ、天界へ戻るヨっ!」
「分かってるよ、確か、ダーマ周辺に有る、青い木の処から箱船を
呼べるんだったな」
「♪また空飛ぶお船に乗るんだモン!でも、昨日みんなご馳走
バクバク食べ過ぎて、太ってるから重くてお船が落っこちるかも
知れないんだモン!デブカルテットモン!」
「……この野郎!自分の事を棚に上げるでないっ!!」
「……モンちゃんたらっ!もうっ、失礼な事言わないのっ!!」
(確かにね、昨日……、一応躊躇はしてたけど、凄い勢いでケーキ
食べ捲ってたもんね、アイシャ……)
「何っ!ダウドっ!?何か言った!?」
「いえ、何でもないよお……」
エルシオン学院とさよならをし、4人は自分達の船に戻って来ていた。
支度も制服からいつもの装備品スタイルにチェンジ。だが、今まで学院で
過ごしていた分、気持ちの切り替えは中々大変そうだった。
「えーと、僕達の姿は天使界でも見える様になっているんだよね……」
「いきなり行って驚かれないかしら……」
「大丈夫だって!ま、オムイの爺さんも呑気な爺さんだからよ、
変な事でも起こさなきゃ特に問題ねえって!モンだって普通に
見えてるけど、皆全然大丈夫だしな!」
「そうだよね、一番変なのジャミルだもんね、……あたあーーっ!」
「ヘタレ、うるっさいっ!とにかくダーマまで行くぞっ!……ルーラっ!」
そう言うワケで、今日から又、4人組の通常の冒険が幕を開ける。
地上に落ちた7つの果実を全て揃えたその先へ待ち受ける物……、
試練、新たな旅の始まりだった。
「此処だ、この木から……、けど、サンディよう、どうやって船
呼べばいいんだよ……」
「……念じるッ!とにかく念じるのッ!」
「無茶苦茶言うなあ~、んーと、……来い来い来いっ!……は、
箱船ええーーっ!!」
「は……、上……」
「天の箱船だわっ!」
「……ホ、ホントに来たよおーーっ!!」
アルベルト達3人が空を見上げると、確かに汽笛が鳴る音がし、
黄金の船が頭上を飛んでいる……。箱船は急降下すると、青い木の
根元目指し、地上へと降り立つのだった……。
「うわー、マジで来たっ!俺ってスゲー!よっしゃよっしゃ、
さあ乗るぜっ!」
一番最初にジャミ公が搭乗。その後にサンディが続き、サンディの
助けにより、船の姿が見える様になっている仲間達もゾロゾロ続く……。
「箱船ちゃん、暫くゴブサタだったケド、大丈夫でしょーネ、
……こーしてこーして、ピッピッピ……、よ、よしっ!動いたッ!
アンタら、しっかり掴まってんのヨッ!」
「お、おっ!?」
「船、動き出したみたいだ……」
「……ひゃ、ひゃあーーっ!!」
サンディがコントロールパネルをいじくると、箱船は何にも
心配する必要無く、大空へと飛び立つ。天界目指して。全員
ご馳走を食べ過ぎていたとしても、墜落する心配など全然無し
……。4人は空の旅を暫く楽しむ事にした。が、やはり1人だけ
本心は、楽しめていないお方も……。
「天気もいいし、この調子だと、結構早く着けそうだな、
……いつまで目、瞑ってんだよ……」
「……見ない見ない見ない、……オイラ絶対に下は見ないよおおーーっ!!」
頑固ヘタレにジャミルは呆れる。ま、暫くの間、仕方ねえなと
思いながら……。箱船は何事も無く、大空を飛び続けた。
「マ、果実がアト、何個あんのか知りませんケド、とにかく集めた分は
献上すべきよネ!」
「……その必要はない……」
「え、えっ……?」
「……きゃっ!?」
「だ、誰誰誰ーーっ!誰の声だよおおーーっ!?」
突如として……、平穏だった空の旅は突然ブチ壊れそうに……。
4人とモン、サンディ以外、乗っていない筈の船内に謎の声が
響き渡った。特に、無事に到着するまで怯えていたヘタレは、
大パニックと化す……。
「畜生っ、侵入者かっ!?誰だっ!!」
「シャーモンっ!!隠れてないで姿を現すんだモンっ!!」
「……別に今更怯える必要も、驚く必要もないと思うが……」
「あ、あああ、……アンタはっ!?」
「……久しぶりだな、ウォルロ村の守護天使、ジャミルよ……」
「……このハゲエエーーっ!!」
「その口の悪さ、相変わらずなっておらぬ礼儀の無さ……、
相変わらずだな……」
眩しい光りと共に船内に現れた、輝く光る頭……。あの日、
天使界が崩壊し、地上に落ちたジャミルを探しに向かったまま、
消息不明になっていた……、ジャミルの師匠でもある、上級天使、
イザヤールだった……。
「このヒト、ジャミルの知り合い?アタシ、この天の箱船でバイト
してます、サンディって言います!」
「……」
「……モロ、ガン無視?」
「知り合いなのかい?ジャミル……」
「ああ、天界での俺の師匠だったんだよ、行方不明でさ、でも、
アンタ何で……」
アルベルトにそう呟くジャミルだが、イザヤールの様子が異様に
おかしいのには直ぐに感づいた。ジャミルを見る目つきが全然違う。
彼からまるで敵意丸出しの殺意を感じ取っていた……。イザヤールは
ジャミルに近づいて行く……。
「……おい、ちゃんと答えろよ、皆アンタの事、心配してたんだぞ、
特によう……」
「今はどうでもいいのだ、そんな事は……、ご苦労であった、さあ、
集めた女神の果実を全て私に渡すのだ……、さあ……」
「……だからっ、ちゃんと理由を言えってのっ!説明しろよっ!!」
「此方もお前に言う必要は無いと言っている……、しかし、やはり
お前が女神の果実を集めていたとは……、だが、これだけは伝えておく、
天使界に果実を献上する必要はない、それだけだ……」
「……な、何だとっ!?」
イザヤールは更にジャミルに接近すると、早く果実を差し出せとばかり
片手を伸ばす。いきなり、集めた果実を渡せとは、イザヤールの行為は
天使界に牙を剥く、裏切りとも呼べる行為であった……。
「あなたは……、本当に天使界の方なんですか?……ジャミルの
お師匠様なんですよね?どうしてこんな事をなさるのです……?」
「お前……、人間の者だな、何故天使である私の姿が……」
イザヤールは先に口を開いたアルベルト、そして、アイシャ、
ダウドの方も見る……。だが、又直ぐに目線を再びジャミルの
方へと向けた。
「素直に私の言う事に従え、ウォルロ村の守護天使、ジャミルよ……、
でなければ、こいつらがどうなるか分からんぞ……」
イザヤールは剣を取り出し、ジャミルを鋭い目で睨み付ける。果実を
渡す事を拒めば、彼は本気でジャミル達に襲い掛って来る勢いである。
だが、ジャミルも負けていない。此処まで果実を集めるのにどれだけ
苦労したか……、そう簡単に、はいそうですかと、あっさり渡す訳には
いかない。ジャミルは仲間達を片手で庇うと、自身もヴァルキリーソードを
構えた……。
「あわわわっ、チョ、これ、マジやばいってっ!アンタ、ダイジョーブ
なんでしょーネっ!」
「……分からん、サンディ、俺にもしもの事があったら皆を頼む……」
「ジャミルっ、何言ってるのよっ!ねえ、あなたも天使様なんでしょ、
お願い、……こんな事やめてっ!!」
「モギャーモンっ!!」
「……アイシャっ、よせっ!」
アイシャは震えながらもモンを両手でしっかり抱え、イザヤールへと
訴えるが、聞く筈が当然無かった……。
「渡す気がないのなら、強引にでも奪う、迷いは無い、それが
私の使命……、死んで貰おう、ウォルロ村の守護天使、ジャミル、
……私の不毛の弟子……」
「……うるっせええーーっ!このハゲーーっ!!」
「……ああ、ジャミルうううーーっ!!」
見ている事しか出来ない仲間達……、そしてダウドが絶叫する……。
イザヤールに一撃であっさりと、剣で身体を斬られたジャミルは
その場に崩れ落ちるのだった……。
「……哀れな……」
「身体……、動かねえ……、な、何で……だ、よ……、う、
……ちくしょ、うう……」
「さあ、女神の果実よ……、我が手元に来るのだ……」
「う、うう……」
「ちょっとッ!アンタっ!!……ジャミ公、しっかりしなさいったらっ!
ど、どーしちゃったのッ!!」
「ああっ!!」
集めた全ての女神の果実がふわりと宙に浮かび、イザヤールの手元まで
飛んで行き、消えた。果実は皆、イザヤールに奪われてしまったのだった。
動けないままのジャミルは……。
「これで、我が目的は果たせる、……早く戻らねば……、むっ?」
「やめろおおーーっ!果実を返せーーっ!!」
「……アルーーっ!!」
「無茶したら駄目だよおーーっ!!」
「モオーンっ!!」
動けないジャミルに代わり、アルベルトがイザヤールに斬り掛かる。
だが、イザヤールは自分に突っ込んで来たアルベルトを軽々と波動で
弾き飛ばすのだった……。
「何も出来ない下等の下界の人間如きが……」
「だ、駄目だ、……やっぱり、僕じゃ……」
「……酷いわ、幾ら天界のお偉いさんだからって、も、もう
許さないわよっ!」
「アル、しっかり!今、回復魔法掛けるよお!」
アイシャもダウドもアルベルトに急いで駆け寄るが、アルベルトは
黙って首を振る。
「ダウド、僕の事よりも、ジャミルを……」
「アルっ、アルっ!しっかりしてよおーっ!……気、気を
失っちゃったのか……、ジャ、ジャミルっ!!」
アルベルトに言われ、ダウドは慌ててジャミルの方を見る。
イザヤールは再びジャミルの方へと接近している……。
「……止めろ、このハゲ……、俺のダチに……、仲間に手エ出してみろ、
許さねえぞ……」
「貴様が悪いのだ、下級天使は上級天使には逆らう事は出来ない、
それが天界の掟、主君には絶対だ……」
「……何が主だよ、テメー、天使界を裏切ろうとしてんじゃねえか……、
ふざけんな……」
「私は間違ってなどっ!」
イザヤールは動く事の出来ないジャミルに向かって再び剣を
振り下ろそうとする。だが、それをアイシャのメラミが阻止
しようとするのだが……。
「……また、雑魚が……、何故揃いも揃って……、人間よ、何故、
天使であるこの私に逆らおうとする……」
「ぜ、全然効いてない……、でもっ、諦めたりしないわっ!」
例えメラミでも、今のアイシャ程度の魔力では上級天使である
イザヤールにとって、線香花火の零れ火が腕に当たった様な物で
しかないのだった。それでも自分に刃向かおうとしてくる人間共に
イザヤールは怪訝な表情をした。そして、遂にある行動に出る……。
「お前達は邪魔だ、引っ込んでいて貰おう、私の目的は……」
「……きゃ、きゃっ!?……うそっ!!」
「な、何これえ~、MPが……、吸い取られてるよおーー!!」
「魔法さえ使えなければお前達など何も出来んだろう、其処で
大人しくしている事だ……」
「……だ、駄目っ!!」
イザヤールは、アイシャ、ダウド、アルベルト、そしてジャミルから
全てのMPを吸い取ってしまい、自身の力に代えたのだった。4人は
雅に最悪の状況に突入する……。
「……アンタっ!もうっ、いい加減にっ!!」
「……」
「何でもないデースっ!あはは~……」
しろとサンディがしゃしゃり出ようとしたが、イザヤールに睨まれ、
そそくさとジャミルの中に消える……。次はモンが皆を守ろうと、
アイシャの前に出、イザヤールに威嚇、牙を剥いた。
「……シャアーーっ!!大好きな皆を虐めたら絶対許さないんだ
モン!!」
「モンちゃんっ!駄目っ!……逃げてーーっ!!」
「分からん、益々分からぬ、こんな雑魚モンスターまでもが……、
ええいっ!邪魔だっ!!」
アイシャが必死で止めようとするが、引き下がろうとしない
モン目掛け、容赦しないイザヤールの刃がモンの身体を貫き、
モンはその場にバタリと倒れるのだった。そして、倒れたモンの
身体から光りが溢れ出すと同時に、何かが浮き出てくる。それは……。
(……デ、デブ座布団っ!!)
「これは、女神の果実の欠片……?そうか、このモンスターが
余計な知能を得ていた訳を漸く理解した……」
「やめろ、イザヤール……、モンにまで手を出すな、モンは……、
う、うっ!」
俯いていたジャミルは力を振り絞り、何とか顔を上げようとするが、
イザヤールはジャミルへの暴行を止めようとせず、今度は剣の先を
ジャミルの喉元へと近づけた。
「……貴様、このモンスターが果実を身体に取り込んでいた事を
知っていたのだろう、何故、今まで黙っていた、お前のその行為
こそ天使界に反する立派な裏切り行為であろう、これも私が
預かっておこう……」
「やめろっ!……うああーーっ!!」
イザヤールはジャミルを蹴り倒すと、モンの身体に取り込まれていた
小さな果実の欠片までも手に入れ、回収してしまう。果実が身体から
消えてしまえば、モンは……。普通のモンスターに戻ってしまう事も
あるが、その前に、斬られたモンの身体はピクリとも動かないのだった。
「うそ、うそうそ、嫌、嫌、嫌……、モンちゃん……、ジャミル……、
どうしよう、どうすればいいの……?このままじゃ、モンちゃんが
死んじゃうよ……、薬草を塗っても反応してくれないの……、
何をしても……」
「……ア、イ、ち、ちく……しょ……」
アイシャの泣き声が聞こえる……。だが、ジャミル自身、身体が
動かず、どうする事も出来ず、只、歯がみしながらアイシャの
泣き声を耳に受けるしか今のジャミルには出来ないのだった……。
「モ、モン……、う、うう……、い、嫌だ、嫌だよおお……、
……うわあああーーっ!!」
「……むっ?」
「……よくもやったなあーーっ!!オイラを舐めるなあーーっ!!」
これまでに何度も切れた事はあったが、今回ばかりはいつもと違い、
ダウドは本気だった。怒りで我を忘れ、砂塵の槍を振り回し、
イザヤールを追い詰める。ダウドを舐めていたイザヤールも、
流石に少し焦り出す……。
「……疾風突きだあーーっ!お、お前なんかっ、……船から
落ちろおおーーっ!!例え魔法なんか使えなくたってっ!
……モンの敵イイーーっ!!」
「一寸の虫にも五分の魂か、成程……、だが、所詮、弱者は弱者……、
纏めて死ね……」
だが、一瞬だった。上級天使とダウドとでは格段に力の差が
有り過ぎた。イザヤールに首を掴まれ、絞められたダウドも
気を失ってしまうのだった……。
(ヤバいっ、ヤバいよっ!このままじゃ、ジャミ公も皆も殺されちゃう!
ア、アタシがっ、ナントカしないとっ!……でもっ!)
「哀れな……」
イザヤールは倒れたままのジャミルを見、呟く。悔しさが溢れ、
何も出来ないままジャミルは完全に気絶、アルベルトも、
ダウドも……。アイシャもモンを抱き締めたまま、恐怖と
悲しみの中、動く事が出来ず……。
……イザヤールよ、ご苦労であった、約束通り女神の果実は我が
帝国に送り届けるが良い……
「はっ……」
(だから、だから、何なのーっ!ナニ、今の声ーーっ!!)
「目的は果たした、さらばだ……」
(!?えっ、ナニナニナニっ、ちょっとおおーーっ!!)
サンディは思わずジャミルの中から飛び出す。イザヤールは
それ以上はジャミルに手を出さず、船の扉を壊し、外へと
飛び出して行ってしまったのである……。
「ああっ、果実も持って行かれちゃうっ!……こ、こうなったらっ、
アタシがっ!……って、えええーーーっ!?」
「イザヤールさん、守備は如何ですかな?」
「……ゲルニック将軍か、私のお目付役で来たのか、
ご苦労な事だ……」
闇竜に乗っているイザヤールの横を、まるで同等のスピードで
フクロウの様な顔の男が、並走している。人間の老人なのか、
その無表情の顔から感情も分からず、全く詳細が掴めない
不気味な男であった……。
「ホーッホッホッホ、……滅相もない、偶々此方に用があった
だけですよ、……とは言え、我々があなたを完全に信用して
いないのも又事実……」
「案ずるな、果実はこの通りだ……」
「ホホッ、それは素晴らしい!……では次は此方に手を貸して
頂きましょうか、ドミールの地を目指します、そして、空の
英雄を亡き者に……、我が帝国が誇る、この闇竜バルボロスも
力に満ちていますよ、……少しお見せしておきましょうか……」
「何?マジで……、何言ってんの?ドミール?空の英雄……?!
ド、ドラゴンがっ!!」
バルボロスと呼ばれた闇竜が雄叫びを上げ、嘶く。バルボロスは
天の箱船目掛け、ブレスを放出。ダメージを受けた箱船は瞬く間に
傾きはじめ、地上への落下、船の崩壊が始まる……。箱船に乗ったまま、
気絶して意識の無いジャミル達は箱船からずり落ちそうになるが……。
「……ああっ、お、落ちるーーっ!ジャミっ!……う、うう~、
重くて、ダメ……」
サンディは何とかジャミルを引っ張って助けようとするが、
無理だった……。彼女の目の前で、アルベルトもダウドも、
アイシャも、モンも……、無残にも皆地上へと落ちて行くの
だった……。
(うそ、ジャミル、死んでないよネ、天使なんだもん、アンタ
死んだりしないよネ……?)
発光体のサンディは必死で倒れているジャミルに呼び掛けるの
だが……。あれから、ジャミルは見知らぬ土地へと墜落し、意識を
失ったままでいた。だが、微かに息はしている。回りには沢山の
人間達が集まり、ジャミルを見て何やら騒いでいる。どうやら此処は
小さな村らしい。怪訝そうな表情をしている村人達の中で、たった1人、
ジャミルを心配している者がいた。
「ねえ、おにいちゃん、……大丈夫……?」
(こ、こうなったらっ!)
ジャミルを心配してくれている、小さな少年……。サンディは
ジャミルを突っつき、まだ息はしてますよーと、ばかりに無理矢理
ジャミルの手を動かす。
「この人、まだ生きてるよっ!凄いケガだよっ!早く手当しなくちゃっ!!」
「……」
だが、誰も少年の言葉に皆、応えようとせず、そのまま誰しも無言を
貫き、見て見ぬフリをするのだった……。
「……何でみんな黙ってみてるのっ!いいよっ、ボクが助けるっ!
しっかりして、おにいちゃん!!」
……それから、どれぐらいの時間が過ぎたのか……。ジャミルは漸く
目を覚ます。気がつくと、又自分は見知らぬ部屋のベッドで寝かされて
いた。だが、側に仲間はいない。アイシャも、アルベルトも、ダウドも、
モンも……。
「やっと、お目覚め……?」
「サンディ、俺、どうして……」
ジャミルはどうにか身体を起こしてみる。痛みはまだあるものの、
どうにかイザヤールの呪縛は解けている。そして、あの箱船での
惨劇を思い出していた……。
「サンディ、他の皆は……?」
「……分かんない、取りあえずこの村に倒れてたの、アンタだけみたい、
……残念だけど……、アンタのお師匠様がやったんだよ、黒い竜に
跨がってさ、その竜が箱船をハカイしたの、果実もそのまま持って
行かれちゃったヨ……」
「そうか……」
ジャミルは項垂れ、ベッドの毛布を掴む。モンがイザヤールに斬られた後、
アイシャが泣いていた声が嫌と言う程今も耳にこびり付いている……。
その後、何も出来ないまま、そのまま意識を失い、気がついたら此処にいて、
果実も奪われ、仲間達とも離れ離れになった……。
「……」
「ちょっ!な、何落ち込んでんのっ!アンタらしくないじゃん!
しっかりしなさいヨっ!……バカッ!!」
「……うるっせー!俺は落ち込んでなんかいねーぞっ!誰がっ、
……畜生、糞ハゲ……、畜生……」
「……ジャミ公……、って、誰か来るしっ!」
「……」
サンディは慌てて発光体に戻るとジャミルの中に隠れる。ドアノブが
ガチャリと開き、中に入って来たのは、後ろ髪を括ったヘアスタイルの
小さな少年。村に墜落し、気絶していたジャミルを唯一心配し、介護して
くれたのだった。
「よかったーっ!目を覚ましたんだね、おにいちゃん!本当に良かったねーっ!」
「あ、ああ……」
少年はパタパタとジャミルに駆け寄って来る。苛ついていたジャミルは
不思議と気持ちを落ち着ける。この少年のお陰で自分は助かったのだから。
仲間達の行方もとても心配だが、まずはこの少年にお礼を言わなければと
深呼吸をした。
「助けてくれてありがとな、俺はジャミル……」
「おにいちゃん、ジャミルってゆうんだね!そっかそっか、ボクは
ティルだよ!ケガが酷かったから、もうダメなんじゃないかって
思ってたけど、ホントに良かった!」
ティルは人なつっこい笑顔をジャミルに見せる。その笑顔を見ていると、
ジャミルは、さっきまで苛ついていた自分が心底情けなくなるのだった……。
「あのね、さっきのことだけど、空の上を真っ黒い大きなドラゴンが
飛んでいたんだよ、……その後、川の側で倒れていたおにいちゃんを
見つけたんだよ……」
黒い大きなドラゴンとは、サンディが言っていた、箱船を破壊したと
言うドラゴンで恐らく間違いは無かった。……ジャミルは思い切って、
アルベルト達の事もティルに何か知らないか尋ねてみようと思った、
その時……。
「余所者はもう気がついたのか……?」
「あ、おじ……、はい、村長さん……、もう大丈夫みたい……」
又ドアが開き、別の人物が顔を出す。頭の禿げたおっさんだった。
だが、この話には付き物の、どうも感じの悪い様なおっさんである。
……しかも又村長。ジャミルは正直、ハゲはもう見るのも嫌であった。
そして、案の定……。
「……ケガが治ったのなら夜に村の教会へ来い、寄り合いを行なう、
お前にも話を聞かせて貰うぞ……」
「……」
「え、えっ、村長さん、どうしてジャミルさんを村の寄り合いに呼ぶの……?」
「……ティル、お前も今はこの村の人間なのだ、……文句は言わさん……」
「はい、村長……さん……」
「分かったな、余所者、夜、必ず教会に顔を出す様に、それまではこの村に
滞在する事を許してやろう……」
「……ごめんなさい、ジャミルさん、そう言うワケなんだ……」
村長はジャミルの顔を見ないまま、部屋を出て行き、ティルも
ジャミルに挨拶し、部屋を後にする。やはり、此処の村長も碌な
モンではないらしい事をジャミルは薄々感じ取っていた。
夜になるまでは自由に村を回っても良いとの事。ジャミルは村を
回り、仲間達の事を尋ねてみたが、誰も無反応で冷たく知らない
ねえの一点張り。皆の事は心配だが、どうも此処では何も教えて
くれそうになく、ジャミルは落胆する。何とか動ける様になった
とは言え、身体もまだ本調子では無い結、村の中央に有る橋の袂で
少し休んでいた。
「……何だってんだよっ、畜生……」
「私は旅の詩人ですが、あなたも余所から訪れたのですか?」
「ん?ま、まあ……」
休んでいると、詩人らしき男がやって来た。彼もこの村の者ではなく、
余所者の様だった。
「お気持ちお察しします、私はこの村に眠ると言う伝説を求めて
やって来たのですが、誰も皆、この村の人は私を相手にしてくれません、
どうにも余所者には冷たい場所の様です……」
「伝説か、ま、そうだろうな、何か事情があるんじゃね?俺には
分からねーけど……」
「はあ、そうなのですかね……、では、失礼……」
詩人は行ってしまい、ジャミルは橋の袂から流れる川を覗き込む。
早くこんな村脱出して、仲間達を探して無事を確認しないと
落ち着かなかった。だが、夜、教会に来いとこの村の村長は
言っている。それに、自分を助けてくれた少年、ティルを
ほおっておけなかった。彼も何か事情がある様であり、どうも
村長には煙たがられ、村から迫害されている様な、感じに
見受けられたからである。
「……皆、しぶといからな、大丈夫さ、無事だって信じるしか……」
「ひゃ、ひゃ、ひゃ……、な、何と恐ろしい、恐ろしや……」
「……?」
見ると、爺さんが地面に蹲り、頭を抱え怯えていた。ジャミルは
気になり、何を怯えているのか尋ねてみると……。
「く、黒い竜が……、炎を吐きながら、この村の上空を飛んで
いるのを見たんじゃ、思い出すだけで、恐怖じゃ……、過去にも
この村は黒竜に襲われ、滅ぼされ掛けたと言う……、まさか、
あのその時の竜の再来なのか?だとしたら、な、何と恐ろしや……」
「……」
爺さんは頭を抱えたまま立ち上がると何処かへと立ち去る。
イザヤールの犯した罪、もしも、黒い竜がこの村を襲った
原因が自分にも少なからずあるとしたら……。やがて、夜になり、
言われた通りジャミルは村の教会へ足を運ぶ。……中に訪れた
ジャミルを、先に待っていた村人達の目線が一斉に襲う。その
光景はまるでこれから法廷へと向かう罪人を迎えるかの様だった。
「どうも……」
「来たな、では、話を始めるぞ……」
目の前の偉そうな剥げ頭の髭親父。こう言う容姿の糞親父は
正直、もう見飽きている為、ジャミ公はウンザリ。腕を組んで
用意された椅子へと、足を組み、どかっと腰を降ろす偉そうな
態度を取った。
「何て態度の不貞不貞しいガキだ……」
「まあ、図々しいにも程があるわよ……」
「何でティルはこんな奴を助けたんだ……」
村人達が小声で囁いているのが聞こえたが、ムッとし、切れていた
ジャミ公は構わず、そのまま平気で爆音をブッと一発噛ますと
集まっている村人達に向かって舌を出した。
(……ま、まったくもー、ジャミ公ってバ……)
「フン、いいのさ、ガングロ、黙ってな……」
「皆の者、腹は立つだろうが、今は堪えてくれ、何せ今はこの
余所者から話を聞かなくてはならないのだからな……」
「……その余所モンの俺が一体何を知ってるってんだい?」
「ならば聞かせてもらおうか、お前と黒いドラゴンの関係を……」
「……」
村人達がざわざわ騒ぎ出し、ジャミルに向かって罵声を
上げ始めるが……、やはり、完全に無関係だよとは
言える筈がなかった……。
「確かに俺はあの黒いドラゴンに襲われてこの村に墜落したのさ、
でも、これだけは本当だよ、俺はあのドラゴンとは一切関わりねえ!
仲間だってドラゴンに襲われて行方不明なんだよっ!!」
「ほお、では、お前はあの黒竜に襲われ、この村に流れ着いたと……?」
「……そうだ……」
「ウソをつくなっ!なら、どうしてドラゴンに襲われて生きて
いられるんだっ!!」
「そうだよっ、余所者の言う事なんか信じられるかいっ!!」
「お主がウソをついてあのドラゴンと手を組んでいる事も
否定出来んのじゃ!!」
村人達はジャミルに向かって一斉に大ブーイングを始める。
あーっ、うっせーなあと、今許されるなら、此処に集まって
いる奴らにオーバーヘッドキックを噛ましてやりたい心境の
ジャミルだった……。だが、其処に教会の扉を開き、急いで
駆け込んで来る者が。
「ティル……、お前は……」
「ティルっ!?」
「はあはあ、ジャミルさん、ごめんね、村長さんと皆が
酷い事を……、どうしてっ、みんな酷いよっ!何でジャミルさんの
言う事を信じてあげないのっ!?」
「……余所者だからだ……」
「!!」
村長は一言、ティルに向かってそれだけ言い放つ。ティルの瞳に
みるみる涙が滲んだ。
「……よそもの、よそものって、そればっかりっ!……もういいよっ!!」
「……ティルっ!!」
ジャミルが呼び止めるが、ティルは泣きながら教会を飛び出して
行ってしまう。にも、係わらず、集まっている大人達は我関せず
だった。ほおっておこう、まるで自分達には関係ないと、でも
言う様に……。
(ジャミ公、あのコ、早く追い掛けなくっちゃだよッ!)
「……ああ!」
「余り係わらないで貰おうか、そもそもお前が此処に落ちて来たり
なぞしなければ、あれも余所者のお前に係わる事もなかったのだ……」
「……何だと?」
だが、ティルを追い掛けようとするジャミルに、村長は又も冷たい
態度を取るのだった……。
「あやつも余所者だ、この村にきたばかりで馴染んでおらんのだ、
だから余所者のお前に肩入れしようとするのだろうな、同じ余所者
同士な……」
「……っ!」
「さあ、今日は此処いらでお終いにしよう、皆も済まなかったな、
こやつがドラゴンと関係があろうがなかろうが、お前が早く村を
出て行けばいいだけの事、これ以上この村と係わらないで貰いたい
物だ……」
村長と村人達はゾロゾロ教会を出て行く。残されたジャミルは
唇を噛み、怒りを堪えてその場に暫く立ち尽くしているしか
出来なかった……。
「ねー、ジャミ公、これからどーすんのよ……」
サンディが妖精モードで飛び出し、ジャミルに聞いて来る。
何時の間にか、夕方に詩人と会った橋の近くまで来ていた。
「出てけっつんだから、出て行くしかねーだろ、此処にはアル達も
いねーみてだし、でも、出て行く前に、ティルにもう一度会って
謝らねーとさ、俺の所為で……」
「はあ~、……あれ?」
「どうしたんだ?」
「な、なんか今、動いたよーな、あの草むらの陰から、ガサガサって……」
サンディに言われ、正面を見てみると、確かに草場の陰で何かが
ごそごそと動いている。犬か何かなのではと思ったが、ジャミルは
草場の方へそっと近寄ってみる……。
「おーい、何かいるんかー?出て来いよー!」
「モォ~ン……」
「モン?どっかで……、モ、モンっ!?」
「まさカっ!?デ、デブ座布……」
「……シャアーーっ!!」
草場の陰から飛び出して来たのは……、モーモン。だが、
ジャミルにはすぐに、そのモーモンが行方不明のモンで
あると言う事を直ぐに理解する。モンはカオス顔で
ジャミルの頭に飛び乗ると、太鼓を叩く仕草をしたのだった……。
「♪モン、モン、モォーンっ!」
「モンっ、オメー、無事だったんだなっ!良かったなあーっ!
あはははっ!」
「ジャミル、喜んでばっかいられないヨ、だって、デブ座布団さ……」
「そう、か……、モン、お前、もう……」
「モォ~ン……」
ジャミ公は頭の上に乗っているモンを降ろし、抱き上げるとモンの
顔を見た。確かにこれは紛れもない、これまでずっと一緒に旅をして
来たモンに間違いは無かった。イザヤールに斬られた物の、どうにか
無事だった様である……。モンが無事だったのは、恐らく女神の果実の
欠片のお陰だったのだろうと。だが、イザヤールに身体を斬られ、果実の
欠片はモンの身体からもう消えてしまい、モンは言葉を喋れなくなって
しまっていたのだった……。
zoku勇者 ドラクエⅨ編 53