胡蝶~君と一緒に最高の幸せを見つけよう~
君は今幸せですか?
僕は君がいるだけで
君が僕を慕ってくれるだけで
君が僕の名前を呼んでくれるだけで
ただそれだけで幸せだよ。
だから僕から君にたった一つだけお願いがあるんだ。
君の笑顔をいつまでも僕に見せてよ。
僕らは二人で一人。
辛い事や苦しい事は二人で乗り越えよう。
君は安心して笑っていて。
僕が君を守るから。
叶うはずのない幸せ
僕たちが何をしたの。
ねえ、何とかいってよ。
誰でもいいから僕らに生きる意味を教えてよ。
まだ、薄暗いロンドンの町は冷たい春の風で冷え込んでいた。東の空にはまだ太陽は見えないこの薄暗く人々が温かい布団で寝ている頃に僕らは活動しなくてはならない。
ア「おはよう」
エ「おはよっ」
ア「今日も寒いね。早く行こうか」
エ「うん、そうだね」
お互いの手を取って歩き出す。
僕らは顔も声も身長も体重も髪型までも同じの双子だ。僕が姉のアリシア。隣で元気に楽しそうに笑っているのが妹のエリシア。僕らは性格は異なっているもののとても仲の良い双子だ。
僕が自分事を『僕』と呼ぶのはまだ先のこと。
どこにでもいる普通の仲良しの姉妹。
だが・・・現実は・・・僕らは普通の子供なんかじゃなかった。
もういつの記憶なのかは覚えていない。それぐらい昔に、
女「ごめんね、もうあなたたちとはいれないの。ごめんなさい」
そう言って僕らの頭を撫でると僕らに背を向けは歩き始めた髪の長い女性に必死に泣いて叫んだ。
ア「どこ行くの?」
エ「寒いよ。怖いよ。寂しいよ」
ア・エ「「置いて行かないで!!」」
どんなに泣いて叫んでも女の人は振り向くこともなく去ってしまい現れることは二度となかった。
僕らはロンドンの町はずれに実の親に捨てられた。
僕らが邪魔だったのか。何か嫌われる事をしたのか。何故捨てられなければならなかったのか分からない。ただ、目の前にあったのは捨てられたという現実だけだった。
それから僕らは二人で助け合って励ましあって生きてきた。親がいなくても家がなくても普通と違っても僕らは大丈夫。二人なら辛いことでも苦しいことでも乗り越えられるから。
エ「やっぱりまだ人いないね」
ア「まだ寒いもの。みんな昼間に来るよ」
ロンドンの町の少し外れた所に小さな川が流れている。
僕らは毎日そこで水浴びするのが日課だった。
ア「行くよ」
エ「いつでもいいよ」
ア・エ「「いっせーのーでー」」
僕らは服を脱ぎ川に飛び込んだ。
ア「冷たっ」
エ「でも気持ち~」
春の水はまだ冷たく僕らの体は無数のナイフで刺されたような激痛に襲われた。
それでも、僕らは体がふやけるまで水の中で遊んだ。
水から上がり、捨てられていたタオルで体を拭った。服を着てロンドンに戻る。ロンドンに戻ると、ロンドンは多くの人々で溢れていた。
ア「今日も人多いね」
エ「うん、仕事っていうんだよね?楽しいのかな」
世間のことは僕らは何も知らない。仕事は楽しい事なのか。家族とはいいものなのか。何も知らないけど二人でこんなのかな?とかああいうのなんだよきっと!と想像を巡らせることが僕らには楽しかったからそれで満足していた。
エ「アリシア、お腹空いたね」
ア「そうだね。今日も行こうか」
エ「今日は何食べようかな」
ア「食べれるものなら何でもいいよ」
そうして僕らはある場所に向かった。
人「いらっしゃーい」
人「今日は新しい食品が入ったよー」
ロンドンの市場はいつもおいしくて新鮮な魚や果物が入荷する。それが、僕らの毎日生きていくための宝箱でもある。
ア「心の準備はいい?」
エ「いいに決まってんじゃん。もう数えきれないほどしてるんだから慣れたよ」
ア「よし、行くよ。またここに集合ね」
ア・エ「「よーい、スタート!!」」
僕らは一斉に走り出す。
理由は一つしかない。
人「泥棒だ!!そっち行ったぞ!!捕まえろ!!」
人「キャー!!こっちも!!」
人「またあの双子だぞ!」
生きるために市場に食べ物を盗みに行くためだ。
僕らに食べ物を買うためのお金があるわけでもなく食べなくては二人で飢えて死んでしまう。毎日毎日食べ物を盗むにつれ始め感じていた罪悪感は無くなり今ではちょっとしたゲームのような感覚になっている。
ア「おかえり」
エ「ただいま」
両脇に食べ物を抱え僕らは市場を後にした。
市場の大人たちがなんか騒いでいるのが聞こえるがいつものことなのでもう気にも留めなくなった。
ア「はい、エリシアの好きなリンゴとナシ」
エ「わぁ、ありがと。さすがお姉ちゃん」
ア「ありがとう。エリシアはどうだった?」
エ「ごめんね、パン一個だけだった」
泣きそうな顔して言うエリシア。
ア「いいよっパン一個でもすごいじゃん。あそこの爺さんうるさいから一個でも取れたらもう満足」
僕はエリシアの頭を撫でていうと、
エ「ありがとう」
さっきの泣きそうな顔とは一変して眩しい笑顔を見せながら抱きついてきた。
エリシアの笑顔が僕は好きで好きでたまらなかった。
ア「早く食べようか」
僕らはリンゴとナシ、パンを半分にして食べた。
リンゴやナシはとても甘く、パンはふわふわしてとてもおいしかった。
エ「ああ~もうなくなっちゃったね」
ア「食べたら無くなるのは当たり前だから仕方ないよ」
エ「ねえ、アリシア」
ア「ん?なに?」
エ「アリシアは今幸せ?」
いきなりエリシアは僕に真剣な表情で聞いてきた。
ア「いきなりどうしたの?」
エ「私幸せってなんなのかわからないんだ」
今が幸せかどうかなど考えたことなかった。
ア「僕もわかんないよ。考えたことないし、まず幸せってどういう時に幸せ!!っていうのかもわかんないもん」
エ「じゃあカラムに聞きに行こうよ。カラムならきっと教えてくれる」
瞳を輝かせ僕の手をぐいぐい引っ張るエリシア。僕はエリシアに引っ張られるままについて行った。
カラムは、捨てられていた僕らを拾ってくれたおじいさんだ。
拾ってくれたと言ってもカラムもこのロンドンの町はずれで暮らしている家なしの人だから生活が変わることはなかったが、それでも世界で唯一僕らを娘と呼んでくれ僕らに名前までくれた優しく時には厳しく接してくれるので僕らもカラムを知らない内に親代わりのように接していた。
だが、カラムは歳を取るにつれ僕らの面倒を見れなくなり今では自分のことだけで精一杯になってしまったのでカラムの負担にならないように僕らはカラムと共に生活するのを止めこうして時々遊びに行くようになった。
カラムは町はずれの川の近くに住んでいた。
ア・エ「「カラム!!お久しぶり」」
カ「来たのか。今日も娘たちは元気そうだな。安心したぞ」
カラムは笑いながら僕らの頭を撫でてくれた。
ア「カラム元気だった?」
エ「もう歳なんだから無理しないでよ」
カ「見ての通りだ。そうだな。ありがとう」
カラムは僕らを川原へ連れて行って温かいお茶を入れてくれた。
ア「やっぱ、カラムはすごいね」
エ「僕らお茶なんて作ったことないよ」
カラムは笑いながら言った。
カ「簡単だ。火は熾せばいいだろう。お茶の葉はお前たち同様盗んだ。鍋とコップはごみ箱から拾った。簡単だろ?」
カラムは自慢げに僕らに話した。僕らは声には出さなかったが「「僕らにも出来る」」とエリシアと目を合わせて笑った。
カ「そういえば、お前たちは今日は何の用事で来たんだ?」
カラムはお茶を注ぎながら僕らに聞いた。
エ「そうだ。忘れるところだった。あのね、カラム。幸せってなに?」
エリシアの質問にカラムの顔は徐々に笑いを無くしていった。
カ「・・・なんでそんなこと聞くんだ・・・」
エ「幸せがなんなのか知りたいんだ。カラムならわかるよね?教えてよ」
カラムはためらうかのように話始めた。
カ「幸せがなんなのかは私もよくはわからない。だがこんなのが幸せというのかも知れないということはわかる。幸せは家族がいて、友と呼べるものがいてそして心から信じあえるものがいれば幸せと呼ぶのではないだろうか」
カラムの言葉に僕らは思考回路が止まった。
エ「カラム・・・私たち家族も友達も・・・信じれる人もいないよ・・・いるのはたった一人の姉さんとカラムだけだよ・・・僕は・・・だったら・・一生幸せになれないの?」
エリシアの目からは大粒の涙が流れて頬を濡らしていった。
カラムはエリシアの涙を拭って「すまん」とただそうつぶやいた。
ア「叶わない事だって生きてたらあるよ。家族や友達がいなくても僕はエリシアやカラムがいるだけで幸せだよ」
僕はエリシアの頭を撫でながらそうとしか言えなかった。エリシアはカラムに抱きつき静かに疲れ果てるまで泣いていた。
普通の人が幸せと思う幸せは僕らには叶えることも願うことも出来ない。
なら、僕らは僕らが幸せと思える幸せを探せばいい。
僕の・・・僕らの幸せって一体何なんだろう。
胡蝶は優雅に飛び立ちロンドンの町へと消えて行った。
強く成りたかった・・・ただ・・・それだけ
私には世界で一人だけの姉さんがいる。
アリシアは姉さんはどんな時でも優しく強くて私の自慢の姉さんだ。
私達には、親はいないけどアリシアが私の姉さんであり母でもあった。
アリシアがいれば、暗くて怖い夜も食べ物がなくて飢えてる時もどんな時でも耐えれる。
泣き虫な私とは違って私はアリシアの涙を見たことがない。
アリシア、あなたは今何を考えてる?
私の知らない姉さんの素顔を見せてよ。
エ「・・・ひっく・・・ひっく・・・」
私のすすり泣く声が辺りに響きわたる。
カラムに真実を聞いた私は思わず泣いてしまい落ち着いた頃には漆黒の闇が辺りを支配する夜になっていた。
雲一つなく綺麗な月とたくさんの星が空を埋めつくしていてほんのりと明るかった。
ア「いつまで泣いてんの?もう泣かないの」
不意にアリシアが私の頭を撫でてくれる。
アリシアの手は温かくとても安心する。
エ「・・・ごめんね。私が知りたいっていったのに・・・」
ア「いいよ。気にしないで。カラムはああいったけどさ。僕考えたんだ。僕らは僕らが幸せって思える幸せを見つけよう。二人でさ」
アリシアの笑顔にまた私の目から涙が噴き出してくる。
エ「ありが・・・とう・・・」
私の目の涙を拭いながら、
ア「ほら、また泣く。可愛い顔が台無し。ほら笑う」
私は躊躇いながらも笑って見せた。
ア「そっちのほうがずっといい。僕の妹は笑ってくれてなきゃダメだよ」
私はあることを思い出す。
・・・アリシア、何年も気になっている事をあなたに聞いてもいい・・・
エ「アリシアは・・・なんで・・・自分の事を僕って呼ぶの?」
長年ずっと気になっていた事をアリシアに聞いた。
今までに聞く機会は幾度となくあった。
だが、怖くて聞くことが出来なかったのだ。
少しの沈黙
ア「ふふふっ」
エ「!?」
アリシアは奇妙に笑い出した。
ア「いつか聞かれるんじゃないかって思ってたけどまさか今日とはね」
エ「ごめん・・・でも気になったから。嫌なら言わなくてもいいよ」
ア「隠す事もないし教えてあげるよ」
アリシアは私の手を握り話始めた。
ア「僕らってさ、親いないでしょ。まあカラムはいるけどね。でももう歳だからそんなに頼ることは出来ない。それにエリシアは泣き虫で臆病者だからね。僕決めたんだ。大切な者は僕が守ろうってさ。だから女じゃダメだと思ったんだ。女は弱くて非力で何も出来ない。でも、男なら強くてたくましく戦うことが出来る。体は女でも中身は男になることが出来る。もうエリシアを泣かせなくて済むと思ったんだ。それから僕は自分の事を僕って言ってるんだ」
エ「私・・・女って事だから弱くて非力で何も出来ないんだ・・・」
ア「気にしなくていいんだ。エリシアは無垢で可愛い女の子の方があってる。僕はダメだ」
アリシアの手が小刻みに震えだした。
エ「アリシア?」
ア「僕は結局は男になれないんだ。強くなろうとしても大切な人を守りたくても僕はその時になると怖くなって自分を守るので精一杯になる。情けないよね・・・。今日もエリシアを泣かせちゃった。僕は・・・弱い人間だ」
アリシアはばれない様に隠したつもりだろうが私にはその時はっきりと見えた。
アリシアの目から一滴の涙が頬を伝い落ちていくのを。
エ「アリシアは弱くなんかないよ」
暗い闇の中では胡蝶の姿はどこにもなかった。
すべてが消えていく
僕たちは家族も温かい家も何一つ無くずっとこのドブのようなところでひっそりと生きていた。
汚くてボロボロな服を身にまとい、髪なんかもボサボサだけどたった一人でも僕らの事を思ってくれる人がいるだけでも嬉しかった。
あの事件が起こるまでは・・・。
エ「カラムはどこで私たちをみつけたの?」
カ「なんども言ったのにまだ聞きたいのか。エリシアの好奇心には困ったものだ」
僕はカラムの右手、エリシアは左手を握り町を散歩していた。
カラムは歳をとるにつれて歩く事をしなくなっていった。だが、それでは体に悪いと僕らは時々カラムを連れ出して運動をさせているのだ。
ア「仕方ないよカラム。エリシアはすぐ物事を忘れちゃうから」
カ「それもまた困った事だ」
声を高々にカラムは笑った。
エ「なんでもいいから教えてよ」
カ「やれやれ。お前たちを見つけた時は暗い夜だったよ。大きな電柱の下に段ボールが置いてあってな。そこに目をバンバンに腫らしたお前たちがいたんだ。いっぱい泣いたんだろうな。しばらく声がガラガラで聞けたもんじゃなかったわ」
陽気なカラムの笑い声が辺りに響く。
エ「笑う事ないじゃん」
ア「でもさ~カラムが私たちを拾ってくれなかったら死んでたかもしれないね。カラムに感謝しなきゃ」
エリシアは僕の顔を見て言った。
確かにそうだ。
カラムが僕らを見つけてくれなければ今の僕らはいたのだろうか。
エ「ありがとうカラム」
エリシアの言葉に僕も、
ア「そうだね。ありがとうカラム」
感謝の気持ちを込めてお礼をした。
カ「なんだ。改まっておかしな娘たちだ」
ア・エ「「いいの」」
僕らの声は重なりあった。
カ「それじゃまたな」
エ「バイバイ。また来るよ」
ア「体に気をつけて」
別れた時にはもう辺りは真っ暗だった。
僕らは深い眠りについた。
だが、
人「火事だ!!火を消せ!!早く逃げろよ!!」
知らない男の人の声で眠りは妨げられた。
エ「なに?」
エリシアは不安そうに僕の腕をつかむ。
その手はかすかに震えていた。
ア「大丈夫だよ。僕がいるから」
僕は辺りを見渡した。
いつもは暗いはずの町は赤一色に染められ熱気を帯びていた。
人「お前たち何してるんだ!!ここはあぶない!!さっさと逃げろ!!」
不意に男の人に怒鳴られ僕らは男の人が指差すほうへ逃げた。
エ「どこいくの?」
ア「わかんないけどとにかく逃げなきゃ」
僕らは闇雲に走った。
エ「まって!!」
突然エリシアの足が止まった。
ア「何してんの?早く逃げなきゃ!」
エ「カラムも連れて行かなきゃ」
エリシアの言葉に僕は大切な人の存在を忘れていたことに気付いた。
僕らはカラムの家へと急いだ。
ア「カラムいる?」
エ「火が来るよ!逃げなきゃ!!」
家には誰もいなかった。
ア「もう行ったんだよ。僕らもいそがなきゃ」
エリシアの手を強く握り再び走り出す。
僕が君を守る。死なせなんかしない。僕らは二人で一人なんだから。
だが、僕らの足はある一点を見つめて動くことを止めた。
見てはいけないものを見てしまった。
そこには一人の老人が倒れていた。
腹部から血を流し衣服は血で染まっていた。
エ「・・・カラ・・・ム・・・」
来ている服装を見てその老人がカラムだということに気づいた。
ア・エ「「カラム!!」」
僕らはカラムに駆け寄った。
ア「どうしたのこの傷!?ひどい血だよ」
エ「カラム何とか言ってよ!!」
カ「・・・歳・・・だからな・・・逃げそびれた・・・みたいだ・・・」
口を開いたカラムはとても弱々しかった。
エ「カラム、早く逃げようよ。逃げたら手当してあげるから」
エリシアは必死にカラムの体を起こそうと手を引っ張った。
カ「・・・もう・・・無理だ・・・ここで終わりだ・・・」
ア「なに言ってんの。僕らにはカラムしかいないんだよ。あきらめないでよ」
カ「・・・ごめん・・・な・・・最後まで・・・いれなくて・・・わしもお前たちと見つけ・・・たかったよ・・・本当の幸せを・・・」
カラムは僕らの手を握りながら静かに瞼を閉じそしてもう開くことはなかった。
エ「カラム?ねえ、カラムってば・・・なんか言ってよ。また私の名前を呼んで。娘って言ってよ」
エリシアの声に僕の目から自然と涙があふれ出た。
エ「やだ・・・やだよ・・・二人だけにしないでよ・・・ずっといてくれるっていったのに・・・」
なにが守るだ。結局何一つとして守れてないじゃないか・・・
僕は自分の非力さ無力さを改めて知った。
エ「死んじゃやだーーーーー!!!!!」
エリシアの叫び声と鳴き声は炎に消され児玉することはなかった。
町は僕らの鳴き声をかき消すかのようにより一層激しさを増して燃え上がった。
ずっとずっといると思っていた大切な人はその日を境に僕らの前から姿を消した。
炎を纏った胡蝶は必死に遠くへ行こうともがいたがその願いは叶うことなくその身は地へと消えて行った。
生きて生きて
炎はすべてを奪い去っていった。
家も、町も、そして大切な人達の命さえも・・・。
次の日、町はいつものような静けさを取り戻していた。
火事の原因は国の兵士が町に火を放ったのだと風の噂で聞いた。
僕らのような家も家族もいない人間が国にとって邪魔だったのか、いらないものを排除しようという考えだったのかそれはわからない。
ただ、カラムは僕らの住んでいる国が殺したという事だけはわかった。
僕らはカラムの遺体を二人で何もない静かな川原に運んだ。
そしてそこに穴をほりカラムのお墓をつくった。
ア「カラム、ここなら静かだからもう起こされることないよ」
隣では、顔を赤くしたエリシアが僕の手を握って泣いている。
ア「エリシア、泣いてもカラムは帰ってこない。もう泣きやみな」
エ「・・・お父さん・・・みたい・・・だったのに・・・ずっと・・・いるっていったのに」
ただ泣いているエリシアの頭を僕は撫ぜる事しかできなかった。
僕らが一体何をしたというのだろう。
物心ついた時に実の親に捨てられ、親代わりであり世界でたった一人の大切な人を国によって殺された。
僕らは特別な事を願った訳じゃない。
ただ・・・僕らは・・・誰でもいいからたった一人でいいから僕らを認めてくれる人が欲しかっただけだ。
僕らはそんな願いすらも叶える事は出来ないのだろうか。
僕らはカラムのお墓を後にした。
そして、何も残っていない町っへと戻った。
エ「アリシア、もう嫌だよ」
ア「うん。僕もやだ」
エ「なんで生きていなきゃいけないの?こんなに辛いなら苦しいなら私生きていたくないよ」
ア「辛い。悲しい。寂しい」
僕らは見放された存在。なら生きていても意味はない。
ア「二人で何も苦しみのないところに行こうか。もう・・・自由になろうか」
エ「うん」
僕らはと手を重ねカラムの眠る川原へと足を進めた。
もう僕らを苦しめるものはない。
僕らは自由な蝶だ。
ア・エ「「カラム、今行くよ」」
僕らは川へと飛び込んだ。
水の冷たさと吸い付く服により身動きもままならない。
意識が朦朧とする。
エリシアも同じだろうか。
エリシアの手絶対に離さないよ。
僕らは双子。ずっとずっと一緒。
?「あれ?あそこにいるの人じゃない?」
僕らは見捨てられてなんかいなかった。
傷だらけの胡蝶は小さな花園へとたどり着いた。
出会い
世の中には生まれてきていい存在と生まれてきてはいけない存在があるのだろう。
僕たち姉妹はきっと生まれてきてはいけなかった存在。
親に捨てられ、国に捨てられ、大切な人を奪われた。
僕らはなんでこうなってしまったんだろう。
でも、時々思うんだ。
もし僕らが親に捨てられていなかったら、綺麗で温かいおうちで過ごしていたら、一緒に遊ぶ友達がいたら、温かい食事が食べれていたらもっと楽しくて幸せな世界が待っていたんだろうね。
ねえ、エリシア。
もう悔いも後悔もなにもないけどひとつだけ最初で最後の僕の願い。
僕たち次生まれてくる時もまた双子がいいね。
ア「・・・ん~・・・」
重い瞼をゆっくりと開けると眩しい日の光が目に差し込み顔をしかめた。
徐々に日の光に慣れていき、目を開けると白い天井が見えた。
ア「・・・ここ・・・どこ・・・」
体を起こそうとすると今までに感じた事のない激痛が体中を走った。
僕は自分の体に違和感を感じ、体を見た。
足や手にできた擦り傷や切り傷の上に包帯が丁寧に巻かれていて顔にできた傷も丁寧に手当されていた。
それに僕がずっとよこになっていたのは布団の上だった。
ア「布団なんて生まれて初めて」
僕はゆっくり体を起こしてベッドからおり辺りを歩き回った。
歩くとギシギシなる木の床。冷たくてひんやりとした壁。透明で外の景色が見える窓ガラス。ふわふわの布団。
すべてが初めてだった。
ア「すごい。エリシアにも見せてあげたいな」
僕は思い出す。
ア「エリシアは?エリシアがいない」
そうだ。僕らは川に飛び込んだんだ。
じゃあエリシアはまだ川にいるの?
?「きゃ~こっちこっち」
?「おいっ待てってば」
外から人の声が聞こえた。
僕は頑丈そうな扉を開ける。
扉は音を立てて開いた。
眩しい日の光と心地のいい風に私は包まれる。
扉の向こうには花畑とたくさんの子供たちがいた。
エ「アリシア~」
固まっている僕にエリシアが飛びついてきた。
ア「エリシアよかった。生きてた。大丈夫?痛いところない?」
エリシアも僕と同じようにいたるところに包帯を巻いていたけど僕はエリシアを見てほっとした。
だってエリシアが笑っていたから。
「大丈夫だよ。心配性だな~。あっそうだ。アリシアこの人達がね助けてくれたんだよ」
僕はエリシアの指差す方向を見た。
そこには7人の子供がいた。
ル「やあ、俺はルギ。驚いたよ。川を流れてくるんだからさ。もう体は大丈夫か?」
べ「私はベル。よろしくね」
ビ「俺ビースト。よろっしく。ちなみに俺も女なんでそこもよろしく」
ピ「みんな一気に話すぎ。彼女困ってんじゃん。ごめんね。困ったことあったらいいなよ。私ピノ」
コ「そういう姉さんこそ話しています。コアノールです。よろしくお願いします」
へ・シ「「君たちも双子だね。お揃いだ。」」
へ「僕は兄のヘイリー」
シ「妹のシアリー」
へ・シ「「よろしくね」」
僕は7人が差しだしてきた手を握った。
ア「アリシアです。よろしくお願いします。助けてくれてありがとうございました。」
ル「気にすんな。今日から家族が増えたな、みんな」
「「「お~」」」
ピ「エリシア、あそぼ」
エ「うん!」
エリシアは僕から離れて遊びに行った。
でも僕はそれどころではなかった。
「か・・・ぞく?」
ル「ああ。妹ちゃんから聞いたぞ。お前親に捨てられて町はずれで暮らしてたんだろ。国の兵士にまで殺されかけてさ。ここにいたら殺される心配も飢えて死ぬ心配もなにもいらない。お前は今日から俺らの家族の一員だ」
ルギは大きな手で僕の頭を撫でた。
ル「ほら、お前もあっちであそぼうぜ」
ルギは僕の手を引いたが僕はルギの手を振り払い叫んだ。
ア「・・・どうして・・・どうして優しくする!?同情なんかされたくない!僕の・・・僕たちの何がわかるっていうんだ!見せかけの優しさと同情なんか・・・そんなものいらない!」
ルギはしゃがみ込み僕を抱きしめた。
ア「ちょっ!離せ!またそうやっ「わかるよ」・・・えっ?」
ル「お前の気持ちわかるよ。捨てられた悲しみも、いつ一人になるかわからない恐怖も、大切な人を守りたい強さも全部わかる」
ア「うそ・・・だ」
ル「ほんと。俺もついこないだまでお前と同じ生活してたから。ここにいる奴らはみんな同じだ。親に捨てられて、国に捨てられて明日死ぬかもしれない恐怖と不安を抱えながら生きてきた奴らだ。だからお前の気持ち痛いほどわかる。でも、もう頑張らなくていい。辛いなら辛いって言って悲しいなら泣いて、楽しいなら笑え。お前は十分頑張ったんだ。だからもう感情を押し殺して生きて行かなくていい」
ア「でも・・・僕らは生きていちゃいけない存在なんだ」
ただ、僕たちは自分たちの居場所がほしかっただけ。
だが、それすらもかなわなかった。
だから僕は・・・
ル「生きていたらいけないなんて誰が決めた?お前は生きていていいんだ。お前やお前の妹も悲しまなせない。絶対に」
ア「僕らはただい居場所が欲しかっただけなのに」
ル「お前の居場所ならあるだろ」
ルギは僕から離れて、
ル「ほら、ここにさ。ここはお前の居場所だ」
手の先には、みんながいた。
楽しそうに走り回って歌っていて仲がよくてそしてみんな笑っている。
ア「・・・本当に・・・僕はここにいて・・・いいの?」
ル「もちろん」
ルギは笑って僕の手を握った。
今まで存在を認めてくれた人はカラムしかいなかった。
カラムが殺されてから僕たちは誰にも存在を認めてもらえなくなっていつか消えてしまう気がして怖かった。
初めて生きていていいと言われた。
初めて存在を認めてくれた。
初めて本当の居場所が出来た。
ア「ありがとう」
気づけば僕は泣いていた。
ル「あっそうそう。俺ここでは『兄さん』って呼ばれてるからよろしく」
ア「え?」
ル「わかりましたか?妹アリシア」
ア「妹?」
ル「そう。お前は俺の可愛い妹。わかった?」
ルギは僕の頭を撫でて言った。
他人からもらえる喜びとはとても心地のいいものだと僕は思った。
ア「わかった・・・・・・・・・・兄さん」
花園では胡蝶たちが舞を踊っている
胡蝶~君と一緒に最高の幸せを見つけよう~