錆磨き(さびみがき)
ずっと鉄錆を磨き続けている。列になって。列には私の他に何十人、いや何百人といるだろうか。端は見えない。鉄錆を磨いたからといって、別段、きれいな鋼にまた戻るわけではない。だが布だとか、やすりだとか、とにかく毎日手近にあるもので、錆を磨く。日に数回、監督が来る。私は錆にアルミ箔を貼りつけて、見せる。ピカピカではあるが、ちょっと鉄には見えそうもない。でも監督は手に取ると、微笑んでうなづく。私に返す。私は一応、監督が見えなくなってから、アルミを外してまた錆を磨き始める。
私はある日、全く錆を磨かなかった。それでもアルミを貼って監督に見せると、満足そうに笑ってくれた。
その日からも、ずっと鉄錆を磨き続けている。アルミ箔も、もうずいぶんボロボロになってしまった。
錆磨き(さびみがき)