タクシーの運転手

第一回

「いやはや、どうもどうも」
 彼は、軽くおじぎをして客を車に乗せた。
「どこに行かれますか?」
 彼は客の女性に問いかけた。
「千束の4丁目」
 彼女は小さな声でぼそっと言った。
「千束の4丁目?4丁目…、あぁ、もしかして吉原ですか?」
「え?え、えぇそうよ…」
 吉原とは、東京都台東区千束四丁目、および三丁目の一部で、現在は日本一のソープランド街として知られている。
 確かに彼女は、化粧が濃く、服装・髪型が派手でいかにもそっちのほうの仕事をしてそうな感じがする。偏見かもしれないが。
 彼女は、吉原と聞かれて恥ずかしかったのか、バツが悪そうに、髪の毛をいじっていた。
 少し車を走らせ、信号で止まったら、彼が口を開いた。
「僕ね、吉原行ったことありますよ、プライベートで」
「え?本当ですか?」
 彼女は、とても意外だと驚いていた。そもそもそんなことを初対面で言うのはなかなかのことだろう。
「本当ですよ。映画でさくらんを見て、気になって行ってみたんです。さくらんはおもしろい映画でした。土屋アンナがやはりよかったです。僕ああいうのが好みですね」
「えー、そんな理由で?」
 これまた意外すぎて、彼女の顔が綻んだ。車内の空気が少し明るくなったように感じた。今までの客もそうだが、どんな人でも彼の話を聞き、彼と話していくのだ。彼の天性の才能というべきか。
「あと、別に好みのタイプなんて聞いてないですよ」
「そうでしたね。どうもぺらぺらと無駄なことを話す癖がありましてね。まぁ気になさらないでください」
 微笑みを浮かべる。
「話すのは結構ですけど、運転には気をつけてくださいよ」
「大丈夫です。僕ゴールド免許なんです」
 後ろをちらっと向いて、自慢げに言った。
「そもそも、タクシーに乗るには第二種運転免許というのが必要で、これは普通の自動車の免許よりも格上なんですよ」
「へぇー、そうなんですか」
 彼女は足を組みなおした。
 その後はしばらく沈黙が続いた。外はもう真っ暗だ。吉原まではまだ少しあるようだ。
 信号で止まると、また彼は口を開いた。
「そういえば、お仕事は何をなさっているのですか?」
「ん、さっき吉原って言ったんだから、察しはつくでしょう…」
 嫌そうに顔をしかめて答えた。
「そうですか。答えたくないときは答えなくていいですよ。そういうときは誰にでもありますからね。ちなみにどんな感じのお仕事ですか?」
「か、体を、売る仕事」
 ためいきを一つついて、口先だけで答えた。
「そうなんですか。それはすごいですね。人のために尽くすお仕事なんて偉いですね」
「べ、別にそんな綺麗な話じゃないです」
「綺麗とか汚いとかじゃなくて、僕は、そういうのも立派な仕事だと思うんです。人のために一生懸命働いて、その分の代金をお客様が払っていく。それがお店の売り上げとなり、自分の給料となる。それはめぐりめぐって社会に貢献してます。だから、もっと堂々としていいと思いますよ」
「はぁ、それは、どうも…」
 彼女は、深く座りなおした。そして窓のほうに目をやった。遠くをじっと見ていて、何かを思い出しているようだった。
「私、自分に自信が持てなくて。自分のやってることに後ろめたさを感じるんです。いつも『寂しい』とか『愛されたい』とか言ってます」
 窓のほうを向いたまま、彼女は言った。
「そうですか。原因は仕事でしょうか。仕事そのものがあなたに合っていないのか、それとも職場に問題が?」
「両方だと思います。職場ではキャリアごとの上下関係が厳しくて、新人はこき使われます。時にはいじめられたり。でも仕事が忙しすぎて、人付き合いのことなんて考えてられないんです」
 彼女はとつとつと話し続ける。
「なるほど。それでもその仕事をやめないのは何か理由が?」
「はい、そうしてもお金が必要なんです」
「そうですか。なら覚悟を決めたほうがいいですね。明確な目標があるなら、それに向かって走るだけです。でも目標を達成する方法は、一つだけでなく、いろいろあるということを忘れないでください」
 彼はハンドルをきりながら、諭すように言った。
「どうもありがとうございます。大丈夫です。ちょっと感傷的になっただけですよ。今の仕事をやめる気はありません」
「そうでしたか。不平不満はためておくと苦しいものです。時には発散することも必要です。社会を生きていくには、ストレスは欠かせません。それと同時にストレスを解消する方法も」
「そのようですね。上京してきて痛感しました」
 ふと周りを見渡すと、怪しいネオンの店が増えてきた。吉原に着いたようだ。
「ここらへんで降ろしてください」
「はいわかりました。お疲れ様でした」
「私の話聞いてくれてありがとうございました。少しすっきりしました」
「いえいえ、僕が勝手にしたことですよ。少しでも役に立てたのなら光栄です」
「十分すぎます。では」
 彼女は車から降りて、立ち去っていった。
「いやー、それにしても綺麗な女性だったな」
 そして再び彼の車は走り出す。
 どこまでもどこまでも。

第二回

「いやはや、どうもどうも」
 彼は、軽くおじぎをして客を車に乗せた。
「どこに行かれますか?」
 彼は客の女性に問いかけた。
「吉祥寺の駅前へお願いします」
 彼女はさらっと答えた。
「吉祥寺ですね。中央口のほうでよろしいですか?」
「はいそうです」
 彼女はサングラスを頭にかけていて、左足を上にして足を組んでいる。
「吉祥寺はいいですよね。学生の頃よく行ったものです。ジャズ喫茶やライブハウスがたくさんありますしね。僕こうみえてサックスを吹くんですよ」
「へぇー、そうなんですか」
 彼女は興味なさそうに、上を向いて言った。
「ははっ、どうでもいい話ですね。そういえば、お仕事は何をなさっているのですか?」
「…何に見えます?」
 首を少し傾げ、試すように彼女は言った。
「ん~、そうですね~。それは、何か資格が必要なお仕事ですか?」
「いい線いってますね。確かに必要です。ちゃんと専門の学校に行って資格を取りました」
「そうですか。それは男性の方もいらっしゃいますか?」
「それは…どうでしょう。だいぶ少ないと思いますけど、ほんの少しいるかもしれないです」
「なるほど。では、そのお仕事の人は職場に何人くらいいるんですか?」
「普通は1人です」
「あぁ、なるほど。だいたいわかってきましたよ」
「これでわかるんですか!?」
 話に乗ってきたようだ。
「おそらく、保健室の先生ではないかと」
「えぇ~、すごい!よくわかりましたね!ははっ」
 手を叩いて、笑っている。
「やはりそうでしたか。看護師かどうか悩みましたが、最後の質問ではっきりしました」
「なるほど~、いやほんとにすごいですね!」
 車内の空気が少し明るくなったように感じた。
「保健室の先生…。正式名称は養護教諭でしたよね」
「そうですよ。よくご存知で」
 声のトーンが少し高くなっていた。
「保健室の先生っていいですよね。担任の先生や学年の先生にも言えない様な学校生活での悩みや一部個人的な悩みも聞いてもらえて、他の勉強を教えている先生とはわけが違いますよね」
「確かにそれはよく言われることですよね。私も相談相手によくなります」
「やはりそうですか。僕もよく仮病で保健室に行ったときにはお世話になりました」
「いますねそういう人!まったく何を考えているんだか…」
 テンションも上がってきて、彼の言葉にいいリアクションをとるようになっていた。
「あなたのような綺麗な方だったら、そりゃ保健室に行きたくなりますよ」
 後ろをちらっと向いて、笑いながら彼は言った。
「口八丁ですね」
 まんざらでもないといった様子で微笑む。
「確かに、そういう人たちが大半なのかもしれないですね。だって、来るのはだいたい男子ばっかり」
 うんうんと彼は頷く。彼が頷き始めたら、聞き役に転換するという意思表示だ。
「私自身もちょっと期待しちゃいますよね。やっぱかっこいい男子がきてくれたほうがうれしいし、不細工な男子が来たら残念に思うし」
 ほぉ、と彼は相槌をうつ。
「今私が担当しているのは高校なんですけど、高校生にもなると男子はマセてきますからね。電話番号とかメアドとか聞いてきて、放課後連絡してきたりするんですよ」
 そんなことが、と彼は相槌をうつ。
「気分がいいときは、その誘いに乗っちゃいますね。なんか別に悪くないなって」
 そういうもんですか、と彼は相槌をうつ。
「最近は、草食系も好みだけど、がっつり来る子も好きですね。精一杯大人ぶって、低い声で迫ってくるの。まぁガキのやることなんで、かわいいもんですよね」
 ははっと笑いながら彼女は言う。
「まぁこんな感じだから、私女子受けは悪いんですよね。しょうがないっちゃしょうがないんですけど」
 少しトーンを低くして言った。
「それは仕方ないですね。女性の嫉妬は怖いものです」
「まったくその通りです」
「何はともあれ、いろいろな生徒に必要とされていいじゃないですか。羨ましいです」
「ふふっ、そういう見方もありますよね」
 舌を出して彼女は言う。
「見方よってだいぶ変わってきますからね」
 信号が青に変わった。
「まぁ私今の仕事は好きです。あ、男子といちゃつくのが好きっていうんじゃなくて。昔は小学校を担当したこともあるし。要するに子どもが好きなんですね」
「それはいいことですね。好きこそものの上手なれ、と言いますし。それなら安泰ですね。僕もいろいろな仕事をやってきましたけど、今の仕事が一番しっくりきてます」
「ですね」
 目を細めて彼女は答えた。
 話が一段落着いて、沈黙が流れた。彼女はこれ以上語ることはなかった。
「着きましたね。ここでよろしいですか?」
「はい、ここで降ろしてください」
「わかりました、お疲れ様でした」
「どうも、お話楽しかったです」
「僕も楽しめました」
「では」
 彼女は車から降りて、立ち去っていった。
「いやー、それにしてもエロい体つきの女性だったな」
 そして再び彼の車は走り出す。
 どこまでもどこまでも。

第三回

「いやはや、どうもどうも」
 彼は、軽くおじぎをして客を車に乗せた。
「どこに行かれますか?」
 彼は客の男性に問いかけた。
「新宿歌舞伎町」
 ドスの効いた声で答えた。
「はい、わかりました」
 車を走らせた。
 客は薄手のブルゾンにスラックスという服装だった。いかつい顔をしていて、近寄りがたい印象だった。
 長い沈黙を破ったのはやはり運転手の彼だった。
「そういえば、お仕事は何をなさっているのですか?」
「あぁ?見りゃわかるだろ!」
 強い口調で返された。
「すいません、ちょっと見当がつきません」
 彼は臆することなくそう言った。彼はどんな相手に対しても、おおむね同じように接することができるようだ。
「ったく、言わなきゃいけないのかよ…。ヤーさんだよ!」
「ヤーさん…、ヤクザの方ですか」
 何のためらいもなく、さらっと言った。ヤクザと聞いてもまったく怖がる様子もない。
「お前、ずいぶんとケロってしてんな。なめてんのか!?」
 助手席を蹴って怒鳴った。
「いやいや、そんなつもりはないです。いろいろなお客さん乗せてますからね。どんな方が来ても驚くことはないんですよ」
「はーん、なるほどね。どおりで肝が据わってるわけだ」
「僕なんかまだまだですよ」
「ふん」
 ヤクザは腕を組んで座っている。
「それで歌舞伎町にはどのようなご用件が?」
「はぁ!?なんでそんなことを言わなきゃいけないんだよ!?」
「ただ気になっただけです」
 声を荒らげてもまったく動じない。
「…お前、図々しい奴だな」
 怒っても無駄だと悟ったのか、抑えた。
「別に答えたくないならいいですよ。他の話題にしましょう」
「あぁあ、わかったわかった、言わなきゃ他の話題になるなら言うよ!事務所に帰るんだよ!」
 声を荒らげ投げやりになってきた様子。
「事務所に帰るんですか。こんな時間までいったい何を?」
「はぁ~、あんたよくそんな喋る気になるなぁ」
「そういう性分なんですよ。気になさらないでください」
 2度ため息をついてヤクザは口を開いた。
「仕事だよ仕事。今日は兄貴のシノギの手伝いをしてたんだ」
「兄貴っていうのは他の組織の先輩のことですよね」
「あぁ、そうだよ。よく知ってるな」
「この仕事長いですからね。今日はどんなシノギをしたんですか?」
「そ、そんなこと口が裂けても言えねぇよ…」
「そうですか。言えないならいいですけど…。運び屋とかですかねぇ」
「う…」
 痛いところを突かれたように、口ごもった。
「図星ですか?流石にそれは言いにくいですね。リスクが高いですからね」
「…しょうがねぇだろ。俺ぁまだ新人だから…」
 だんだん声が小さくなっていた。
「新人さんでしたか。それじゃ忙しいわけだ。顔に疲れが出てますよ。一日中働きづめですか?」
「そうだな。部屋住みは大変だよ。電話番が難しい。忙しすぎて、今日カップラーメン一個しか食ってねぇや」
 とつとつとヤクザが語りだした。運転手の彼はうんうんと頷き始めた。
「でさぁ、10時くらいに若頭が事務所に来たんだよ。この若頭がめっちゃ厳しいんだ。今日も怒られて殴られちまった…」
 そう言って左の頬を見せてきた。運転手の彼はバックミラーでそれを確認した。
「あぁ痛そうですね」
 顔をしかめて言った。
「いやー、若頭の腕っぷしはすごいよ」
「そのようですね」
「俺もいずれは成り上がりてぇよな」
 ヤクザははっきりとそう言った。
「出世欲ですね。まだ駆け出しの頃は、いろいろな壁にぶつかると思いますけど、次のステップへと必ずつながっているので、諦めずにがんばって下さい」
 少し沈黙が流れ、ヤクザは下を向いている。運転手の彼の言葉が身に沁みているのだろうか。
「ち、まさかタクシーの運転手に励まされるとはな」
 そう言うと、それ以上は何も言わなかった。
「はい、着きました。一番街でいいですか?」
「あぁ、頼むわ」
「はい、わかりました。お疲れ様でした」
「…ありがとな」
 そう言い残し、彼は去っていった。
「いやー、それにしても変な服装だったな」
 そして再び彼の車は走り出す。
 どこまでもどこまでも。

第四回

「いやはや、どうもどうも」
 彼は、軽くおじぎをして客を車に乗せた。
「どこに行かれますか?」
 彼は客の女の子に問いかけた。
「どこでもいいわ、遠くに行ってちょうだい!」
 彼女は若かった。見た目と同様に中身も幼いように感じた。
「それは困りますよ。僕が勝手に行き先を決めたら、連れ去ったみたいな感じになるじゃないですか」
「うるさいわね!つべこべ言わずに車走らせなさいよっ!」
 彼女は車に乗ったときからイライラしていた。髪をくしゃくしゃにして怒鳴り散らした。
「まぁまぁ、お客さん、行き先が決まらず行き当たりばかりしていると、時間もお金もかかってしまいますので」
 何を言われても平然としているのが彼である。
「ん~、しょうがないわね~。じゃあ東京駅に行って」
「はい、わかりました」
 彼はハンドルを握り、アクセルを踏んだ。
「そういえば、お仕事は何をなさっているのですか?」
「はぁ?見てわかんないの?学生よ」
 彼女は学生服を着ていた。スカートは短め。上にはカーディガンを着込んでいた。
「そうでしたか。中学生の方ですか?」
「そうよ、よくわかったわね」
 彼女は携帯をいじりながら流すように答えた。
「それで東京駅にはどのようなご用件で?」
「そんなの当たり前じゃない、電車に乗るのよ」
 彼女は相変わらず携帯をいじりながら答える。目線は完全に携帯のほうに集中している。
「いやいや、この時間じゃ電車はもうないですよ」
「はぁ?なにそれ!?どういう意味よ!」
 彼女は携帯をいじるのを止め、彼のほうを向いて尋ねた。
「こんな遅い時間じゃもう終電もなくなっているでしょう」
「あ…」
 彼女は、やってしまったと顔をしかめ、また髪をくしゃくしゃにしていた。
「どうします?どれでも東京駅に行きます?」
「え…い、行くわよ。始発まで待つわ…」
「始発ですか。長いですよ。あと3,4時間は待つことになると思いますが」
「え~、そんなにぃ?」
 彼女は下を向いてしまった。
「ついてないわ」
 彼女はぽつっと呟いた。
 そして、長い沈黙が流れる。
「そろそろ着きますが、どこで降ろせばいいですか?」
「どこでもいいわ、そこらへんの道端」
 力の無い声で彼女は言った。
「それは無理です、その服装ならおそらく補導されます」
「どうでもいいもん」
「一体どこに行きたかったんですか?」
「行き先なんて最初からないわ、ただ遠くに行きたかっただけ」
 彼女は窓のほうを向いてそう言った。
「家出ですか?」
「そう」
「そうですか。それはまた大変ですね」
「とにかく遠くに、うちの知らないところに行きたかった。逃げたかったっていうほうが正しいかな」
「なるほど。僕もたまにありますよ。日常から抜け出したくて遠出するの」
「でもそれはうちのとは違うわ」
「そうですかね?」
「そうよ」
 彼女は諭すように言った。
「とりあえず放ってはおけないですね」
「え?」
「僕のタクシーを降りた後で何か問題が発生したら困りますからね」
 駅が見えてきた。
「とりあえずタクシー乗り場に向かいましょう」
「え、なんで?」
「あそこなら朝までタクシーを止めていても大丈夫でしょう」
「それって…」
「始発がくるまで待ってましょう」
 ハンドルを右に切りながら彼は言った。
「本当にいいの?」
「僕は全然いいですよ。あなたのほうこそいいですか?」
「うちは、どうせ行くあてがないから…」
「じゃあ決まりですね」
 そう言って彼はタクシー乗り場に停めた。
「ふぅ、あと3時間半くらいですね」
 彼は腕時計を見て言った。彼女は窓の外から周りを見渡している。
「寝てもいいですよ」
「こんな状況で寝れるわけないじゃない!」
 ばっと彼のほうを向いて言い放った。
「安心してください。大丈夫ですよ」
 彼にとっては別に気になることでないようだ。
「絶対寝ないからね!」
 彼女はそっぽを向いてしまった。
「好きにどうぞ無理はしないでください」
「3時間半か~。暇だな~」
「そういえば、何で家出をしたんですか?」
 彼は帽子をはずして、彼女に尋ねた。
「えぇー、言わなきゃいけないの?いろいろ大変だったんだよ」
「無理にとはいいませんが、せっかくですから」
「…まぁいいわ。話してあげる。朝まで付き合ってくれるんだしね」
 彼女は運転席によっかかり、話し始めた。
「いくつか不幸が重なっただけなんだけどね」
 彼女は体育座りをして、身を縮こめていた。彼はうんうんと頷く。
「うちね、彼氏がいたんだけど、最近別れたの」
 それは残念ですね、と彼が相槌をうつ。
「理由はね、一方的で、他に好きな子ができたんだって」
 それはずいぶんと身勝手ですね、と彼が相槌をうつ。
「で、その子がうちの親友だったの。親友だと思ってた子って言ったほうが正しいかな」
 それはずいぶんと込み入った話のようですね、と彼。
「それでめっちゃケンカした。小学校のときから一緒だったけど、あんなにケンカしたのは初めて」
 腕を伸ばして、一息つく。
「まだ話は終わりじゃないよ。その頃家族ともうまくいってなくてね」
 運転手の彼はだんだん頷くだけで、言葉を発しなくなっていた。
「原因はパパの浮気だった。ここでもかって思ったよ」
 彼女は少し鼻声になっていた。
「うちは親友も彼氏もいなくなったから、家族に甘えたかったけど、2人はケンカばかりしてて、うちのことなんか見てくれなかった」
 彼女は鼻をすすり、ためいきを一つつく。
「だから、うちは独りぼっちになった」
 かみ締めるように言った。
「それが…すごくつらいの…。今まであったものが、ふって音も立てずに無くなった感じ。なんか急に何もないところに置いていかれたみたいな…」
 そう言い終わると、彼女は泣き伏せた。しゃくりあげながら。
「うっ…うっ…寂しい…寂しいよ」
「それは、かわいそうに」
 運転手の彼が口を開いた。
「…もういろんなことが嫌になって、今日パパとケンカして、家飛び出してきた」
 涙を手で拭いながら、再び話し出す。
「ちょっと落ち着きたい」
 彼女は外のほうを見て言った。
「心の洗濯は大事ですよ。生きていれば嫌なことは必ずありますからね。たまにははじけてもいいんですよ」
「うん」
 彼女が頷く。
「あなたは感受性が豊かな方です。その涙を見ればわかります」
「そ、そんなに泣いてないもん」
 慌てて再び顔を手で拭う。
「今はまだつらい出来事で視界が閉ざされ、何もできない状態ですが、いつか必ず目を開いて歩きだせるときがやってきます。大丈夫です。あなたはまだ若いし、これからがありますから」
「だといいけどね。パパとママとうちの三人家族はどうなるんだろ…」
「それも大丈夫ですよ。完全に縁が断ち切れたわけじゃありません。家族はどこまでいっても家族です。決して離れることはありません。どんなことがあってもその関係が崩れることはありません。あなたは、パパとママの子です。そのパパとママと一緒にいるのが一番良いし、絶対そうなります」
 彼ははっきりと言い切った。その目には全く曇がない。
「そこまではっきり言われちゃうと信じちゃうな。確かにそうかもしれない。そうであってほしい」
「友情や恋愛でも同じです。それが真のものだったら、どんなことがあっても壊れることはないです。もしも壊れたなら、縁がなかったと思って、割り切ったほうがいいですよ」
「うん。深いね、なんか」
 しみじみと彼女は言う。
「おじさん、なんかすごいね。わかりきってるっていうか、そういうのって年の功っていうのかなぁ」
 彼女は彼のほうに体を向けた。
「年うんぬんというより、経験ですね。いろいろな人と出会い、いろいろなことがありましたからね。嬉しいことも、悲しいことも、楽しいことも、悔しいことも、いろいろ」
 彼は頭をかきながらそう言った。
「すごいなぁ、パパにもそんなこと言われたことないよ」
「僕が少し変わっているだけかもしれないですが」
 ははっ彼は笑う。
「確かに。おじさんちょっと変だもん。普通こんなことしないよ」
「普通がどうとかはあまり気になりません。ただ自分の気持ちに自然と従うだけです」
 彼は席に深く腰をかけてそう言った。
「さらっとそう言えるのがまたすごいわ」
 彼女は目を輝かして言った。
「おじさん、名前は?」
「名乗るほどの者ではないですよ」
「いいじゃん、別に。うちはユイっていうの」
「ユイさん、ですか。かわいらしい名前だ」
「おじさんは~?」
 ねだるように彼女は言った。
「しょうがないですね。僕は職場では、タカさんと呼ばれてます」
「タカさん?本当に?」
「さぁどうでしょう」
「嘘なわけないよね。じゃあタカおじさんだ!」
 彼女ははしゃぎながら言った。
「おやおや、こんな時間なのに元気ですね」
「そんなことないよ。てかおじさんこそすごいね。こんな時間まで仕事して」
「慣れればなんてことないですよ。この仕事長いですから」
 この後も2人はいろいろ話した。そのうちに外は明るくなっていた。
「はっ!あれ?うち寝てた?」
「そのようですね。話の途中で、急に静かになったなと思ったら、寝てましたね」
「なんなら起こしてくれればよかったのに!」
「いやいや、これから電車に乗るっていうのに一睡もしないんじゃ危ないですよ」
「電車…。あぁ、え?」
 彼女は外を見た。もう夜は明けて朝になっていた。
「嘘、もう朝?案外早かったな~」
「そうでもないですよ。結構話してましたよ」
「それくらい話に集中してたってことよ」
「それは良かったですね」
 彼は帽子を被った。2人はタクシーを降りた。
「…じゃあ、そろそろ帰るね」
「そうですね。お気をつけてください」
「うん、いろいろとありがとう。バイバイ、タカおじさん!」
 彼女が手を振ったので、彼も手を振り返した。彼は彼女の姿がだんだん小さくなっていくのをずっと見ていた。
「いやー、それにしても今日はいい天気だ」
 そして再び彼の車は走り出す。
 どこまでもどこまでも。

第五回

「いやはや、どうもどうも」
 彼は、軽くおじぎをして客を車に乗せた。
「どこに行かれますか?」
 彼は客の男性に問いかけた。
「川崎病院に向かってください」
「はい、わかりました」
 彼はハンドルを握り、アクセルを踏んだ。
「そういえば、お仕事は何をなさっているのですか?」
「普通の会社員ですよ」
 彼はスーツを着ていた。ぴしっと着こなしていた。
「川崎病院にはどんなご用件が?」
 時間は14時過ぎだった。途中で会社を出てきたのだろうか。
「実は、妻の出産に立ち会うことになりまして…」
 彼は頭をかきながら答えた。
「そうですか。それはおめでたいことですね」
 運転手は微笑みを浮かべた。
「あ、どうもありがとうございます」
 軽くお辞儀で返す。
「出産に立ち会うとは、抵抗はなかったんですか?」
「いや~、抵抗ありましたね。でも、『そばにいてほしい』と言われてしまってね。ははっ…」
 彼は苦笑いしながら言った。やはり立ち会うのは少し嫌なようだ。
「少し緊張してるんですよね。情けないことに」
 力なさそうに彼は言った。
「そうですか。確かに、結構衝撃的なものですからね」
「運転手さんも経験が?」
「昔の話ですけどね」
 ははっ短く笑って答えた。
「なんか同僚から聞いた話だと、血がドバーッと出るらしいんですよ。血は苦手じゃないですけど、さすがにびっくりしますよね…」
 彼は妙に姿勢よく座っていた。緊張して体が硬くなっているようだ。
「あと、妻がすごい顔して苦しんでるのはあまり見たくないかなぁ、なんて思ってるんですよね」
 彼は口の周りを撫でながらそう言った。
「そうですね。僕はどちらかというと、夫は妻の出産に立ち会ったほうがいいと思ってます。あなたが不安である以上に、彼女は不安だ思います。特に何もしてあげられなくても、そばにいて、見守ってあげるだけで、力になれますよ」
 運転手は励ますように彼に言い聞かせた。
「そうですか。こんな弱気な気持ちじゃ、妻に申し訳ないですよね。はい、ありがとうございます!」
 彼は深くお辞儀をした。
「いやいや、そんなたいしたことは言ってないですよ」
「謙虚ですね」
 彼は感服したように言った。
「そういえば、もうお子さんのお名前は決めたんですか?」
「はい、決めました。美桜という名前です。美しいと桜という字です」
「それはそれは、可愛らしい名前ですね。美桜ちゃんですね」
「ははっ、少しシンプルな名前かなぁと思っていたんですけどね」
 車内は笑い声が響き、和やかな雰囲気になっていた。
 大きな病院が見えてきた。
「病院が見えてきましたね。中入りますね」
 入り口まで車は入っていった。
「はい、着きました。ここでよろしいですか?」
「はい、ありがとうございました。いい言葉を頂きました」
 お金を渡すとき、彼は軽く運転手と握手をした。
「いやいや。お気をつけてください」
「本当にありがとうございました。では」
 そう言って彼は車を降りて、病院へ走っていった。
「いやー、それにしても難しそうな男性だったな」
 そして再び彼の車は走り出す。
 どこまでもどこまでも。

第六回

「いやはや、どうもどうも」
 彼は、軽くおじぎをして客を車に乗せた。
「どこに行かれますか?」
 彼は客の男性に問いかけた。
「…」
 黙ったままだった。
「あの~、お客さん。どちらに?」
「はっ、すいません。えっと…」
 男性は目が虚ろで、ぼーっとしていた。
「…青木ヶ原樹海に」
 小さい声で言った。
「はい、わかりました」
 彼はハンドルを握り、アクセルを踏んだ。
「そういえば、お仕事は何をなさっているのですか?」
「僕ですか?普通の会社員でした」
 下を向いたまま答えた。
「そうですか、では今は?」
「今は…」
 彼は黙り込んでしまった。彼の服装は、擦り切れたネルシャツに穴の開いたジーンズにスニーカーというものだった。
「それで青木ヶ原樹海にはどのようなご用件で?」
「それは…」
 またも彼は口ごもってしまった。言いにくそうだった。
「答えたくないときは答えなくていいですよ。そういうときは誰にでもありますからね」
 車は信号で止まった。
「おやおや、混んでいますね。少し時間がかかりそうですよ」
「そうですか…」
 返事はしたが、言葉を聞き取るのが難しいほど小さな声だった。
「青木ヶ原樹海は、富士の樹海とも呼ばれますよね」
 再び運転手は話し始めた。
「僕も行ったことあるんですけど、案外普通でしたね。『自殺の名所』なんて言われてますが、普通の深い森でしたね。そもそも、そんなイメージがついたのは、松本清張の『波の塔』で取り上げられたかららしいのですが」
「ず、ずいぶんと詳しいんですね…」
 彼は少し動揺していた。
「方位磁針が使えないというのも、実は嘘らしいです。青木ヶ原樹海は、溶岩の上にできたので地中に磁鉄鉱を多く含んでるので、少しは狂うことはあるかもしれませんが、使えなくなるほどではないそうです」
「は、はぁ…」
「今となっては、携帯も普通に繋がるみたいですよ。それと同じで、ハンディーGPSも使えるので樹海内の探索は結構容易にできるらしいです」
 今日の彼はいつもよりよく話している。客が話さないときは、運転手自身が話すことが多い。
「なので、『青木ヶ原樹海は自殺の名所』という神話は、もう時代遅れな気がします。『絶対に誰にも知られずにひっそりと自殺したいなら樹海』というのも通用しないと思います。多分、探索者にすぐ発見されてしまうので。世間がそういうイメージを植えつけてしまったから、自殺する人が増えてしまったというのもあるのではないかと」
 淡々と運転手は話し続けた。客の彼は、下を向いて聞いていた。少し足が震えているのがわかる。
「まぁ、まだ整備されてないところもありますからね。遊歩道を外れるとさすがに危ないです。100メートルぐらい離れてみたんですけど、あれはやばいですね。特徴のない似たような風景が続いてきて、だんだん足場が悪くなってまっすぐ進めないからなかなか元に戻れなくなるんですよね。僕はすぐ危険だと思って、引き返しましたけど」
 運転手は頭を掻いて、笑いながらそう言った。恥ずかしい話をしているかのように。
「ははっ、つまらない話でしたね。すいません」
 運転手は左手で帽子を直してそう言った。
「いや…わざわざ行き先についての詳しい情報を教えていただき、ありがとうございました…」
 彼は、そのとき初めて頭を上げた。
「おっしゃられた通り、僕は青木ヶ原樹海に、自殺に行こうと思っていました」
「そうでしたか。確かに、わざわざタクシーを使ってまで行くところではないですからね。察しはついていましたが」
「なんか、心の内を言い当てられている感じでした…。確かに、僕自身、自殺するなら樹海に行こうという、安易な気持ちでいました。それはやはり、『みんなそうしてるから』というのがあったからでしょう」
「そうですね。そのほうが、安心してしまいがちですからね」
 うんうんと頷いている。
「それを言い当てられたとき、どうもあなたはただ者ではないと思いましてね」
「いやいや、たいしたことはないですよ。この仕事長いですからね」
「そうであったとしても、なんかすごいと思いました。あの、僕の話、聞いてもらえませんか?」
 彼の目は、さっきまでの目と比べて、生気があった。
「どうぞ。僕はどちらかというと、自分が話すよりも、人の話を聞くのが好きなんですよ」
「それならよかったです。ありがとうございます」
 軽くお辞儀をして、彼は話し始めた。
「最初に言ったとおり、私は普通の会社員でした。…そうだと思っていました」
 含みのある言い方を彼はした。
「最初に疑問に思ったのは、残業するのが当たり前だと、上司に言われたときでした。残業代が出るわけではないのに、上の方から残業を押し付けられました」
 それはひどいですね、と相槌をうつ運転手。
「そのうえ休日返上も当たり前のような感じでした」
 はぁ、それはそれ、と相槌をうつ運転手。
「まぁ、それはなんとか耐え抜きました。このご時世、仕事があるだけでもありがたいと思っていましたから」
 そのとおりですね、と運転手。
「次に疑問に思ったのは、新入社員が試用期間中に退職していったときですね。いくらなんでも、それはおかしいと思いませんか?就職率が低下している中、そんなことがあるものかと思いました」
 運転手は頷いた。
「それから、だんだんと自分の会社に対して、疑念を抱くようになりましてね。その後も、次々とおかしなことが明らかになっていきました。有給をとらせてくれなかったり、労働組合がなかったり、福利厚生がなかったり、定年退職・円満退社をした社員がほとんどいなかったりと…」
 彼の体は震えていた。それは怒りで震えているようだった。
「さらにひどかったのは、自社製品、自社株の購入を強制されたことですね。普通の会社じゃあ、考えられないことですよね。そのとき思ったんです、ブラック企業、と」
 ブラック企業とは、従業員に劣悪な環境での労働を強いたり、関係諸法に抵触する可能性がある営業行為を従業員に強いたりして、必要があれば、暴力的強制も辞さない企業のことである。
「気づくのが遅かったです…。変だなと思ったときに、すぐに行動すればよかったんです…。そう気づいたとき、すぐに辞めようと思いましたが、なかなか辞めさせてもらえませんでした。「どこにも行けなくしてやるぞ!」などの脅しやがらせをされました…」
 彼は涙ぐんでいた。
「僕は、怖かった。その企業の脅しもそうだが、仕事をやめてしまっては、どうやって家族を養っていくんだ、と思うと、怖くて怖くて…。ただでさえ、不況だと言われているのに…。私はなかなか、そのことを家族に言い出せなかった。いつも笑顔で迎えてくれる、子どもたちを見ると、余計に…!ううっ…」
 彼は涙を手で拭った。が、次々と流れてくる涙を手だけでは押さえ切れなかった。
「それで、自殺を?」
「はい、そうです…」
 彼は泣き崩れていた。
「あなたは、いいお父さんですね。働き者で」
 運転手は口を開いた。
「もっと、家族の方に頼ってもいいと思いますよ。1人で抱え込むことはないんですよ。家族は助け合うものです」
「う、は、はい」
 彼は鼻声になっていた。
「でも、無責任ですよ、あなた。子どもを養うために働かなきゃと言ってたのに、今は死のうとしている。まぁ、苦しいのは、話を聞いている限り、痛いほどよくわかりました。でも、これで終わりにはならないと思います。あなたはまだ若い、再起だってできるはずです」
「ぼ、僕に、本当にできるんでしょうか?」
「大丈夫です。そんな気負うことはないです。そんな急ぎ足で、人生を走ることはないんです。一歩一歩確実に歩くことのほうが大事です」
 後ろを向く運転手。
「それに…」
「それに?」
 少し間を置いて、
「自殺するほどのエネルギーがあるなら、ちゃんと明日を生きてください」
「あ…」
「自殺するよりも、明日を生きるほうが全然楽ですよ。だって、怖くないですから。死ぬのは怖いです、誰でも」
 朝日の光が、車の中に差し込む。
「うっ、うっ、は、はい!ありがとうございます!」
 彼は、深く頭を下げた。
「おや、いろいろ話していたら、着きそうですね。どうします?」
「ど、どうしましょう…。さすがに、戻るわけにはいかないし」
「確か、この辺りにバス停があるはずです。富士急行バスです。それに乗れば、富士吉田駅に行けます。あと、西湖の南に民宿があったので、そこを利用するのもいいかと」
 すらすらと、地図も見ずに運転手は言った。
「そうですね~。まだ、そんなに遅くないので、バスに乗って帰ろうかなと思います」
「わかりました」
 運転手はハンドルを切った。
「本当にありがとうございます。あなたは僕の命の恩人ですよ!」
「いやいや、そんな大それたものではないですよ。ただ及ばずながら、お言葉をかけただけですよ」
「その謙虚さ、見習いたいですね」
 彼はうんうんと頷き、関心していた。
「すいませんが、お名前を教えてはいただけないですか?」
「いやそれはちょっと…。過去にも何度か聞かれたことありますが…」
「そんな堅いことおっしゃらないで」
 最初に比べて積極的な彼。すっかり元気を取り戻したようだ。。
「そうですね…僕は職場では、タカさんと呼ばれています」
 やはり本名は名乗らなかった。
「タカさん、ですか。僕の名前は、伊藤慎です」
「慎さんですね。いい名前だ」
「それはどうも。タカさんか、職場ではどんな感じなんですか?」
「割と普通ですよ。仲のいい同僚や面倒をかけてる後輩もちゃんといますよ」
 運転手は微笑みながら言った。
「そうですか。なんか頼りになりそうですからね。きっと信頼されてますよ」
「そうですかね。そうだと嬉しいです」
 謙虚に笑った。
「そろそろ、バス停ですね」
「もうですか…。本当短い間でしたけど、ありがとうございました。よければ、また会いたいです」
 名残惜しそうな顔を浮かべる。
「そうですね。僕はいろいろなところを、この日産・セドリックセダンで走っていますからね。もしかしたら、また会えることがあるかもしれません」
「そうですか、じゃあそのときを、楽しみに待ってます」
 彼は笑顔で答えた。その笑顔は実にまぶしかった。
「はい、着きました。お疲れ様でした」
「どうも。またいつか!」
 そう行って、彼は車を降りて行った。彼が手を振ったので、運転手も振り返した。
「いやー、それにしてもグランジみたいな服装だったな」
 そして再び彼の車は走り出す。
 どこまでもどこまでも。

タクシーの運転手

タクシーの運転手

彼はタクシーの運転手である。 今日もどこかで、自慢の愛車である日産・セドリックセダンにいろいろなお客を乗せている。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-01-26

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