甘美なひととき
私が美沙を知ったのは、今日のように何気ない日のことだった。特になにもない平穏な日、そう思っていた。
だがしかし、そうではなかった。彼女に出会ったのである。
私はいつものように仕事を終え、そのまま家に帰るのは億劫だったので、バーに行った。最近1人で飲むことが多くなった。むしろそれを望んでいた。
妻との関係は冷え切っていた。2人の間には、もう愛はなかった。別にふざけて困らせたわけではない。私には、愛などといったものは似合わなかったのかもしれない。私は、冷めた男だ。いつも拠りどころを探している。糸が切れた凧のようにふらふらと彷徨っている。
いつものようにそんなことを思い、そろそろ2人は潮時なのかと考えていた。
「すいません、お隣いいですか?」
すっかり自分の世界に入っていたので、自分に言われているのだと気づくのが少し遅かった。もしや私に言っているのか、そう思って彼女のほうを向いた。
これはこれは。私の目が活気付いていた。彼女の魅力に吸い込まれてしまったのだ。私の意識が完全に持って行かれている。これを一言で表すなら、まさに一目惚れだ。
「どうぞ」
私はなんとか平然を装って答えた。
彼女が隣に座る、その1つの動作をじっと見ていた。彼女は、ピンクのレースブラウスを着ていた。下は絹のギャザーパンツ。失礼とは承知だが、体を上から下へと目で追ってしまった。
彼女はカクテルを頼んだ。グラスを持つ手に色気を感じた。彼女の手はまぶしいくらい白く、指は細く長かった。
髪型は、長めのバングが特徴的で、長い髪の毛先にはゆるめのパーマがかかっている。色はオレンジブラウンだ。
見れば見るほど、私は彼女の魅力の虜になっていた。私は尻尾を振って欲情する犬と同じだ。私の心臓が音を立てて動いていた。
「よかったら、一杯ご馳走しますよ」
私は精一杯スマートに言ってみせた。
「え、あたしですか?」
彼女はちらっとこっちを向いた。
「あなたです。私でよかったら…」
「本当ですかぁ?ありがとうございます!」
彼女は喜んで声をあげた。笑った顔がとても可愛らしい。声は少し高めだ。
「よく1人で来るんですか?」
「そうですね~、最近は1人で飲むことが多いですね。なんかそのほうが落ち着くかなぁって」
「それわかりますよ。私も最近はここに来て1人で飲んでますね」
「そうですか!同じですね。この店結構気に入っちゃってます」
話し方がキャピキャピとしている。若さがにじみ出ている。
「私もここの雰囲気は好きです。お洒落で、静かなところが」
「わかりますそれ」
彼女はカクテルを頼んだ。
「おいくつなんですかぁ?」
「私かい?33歳です」
「へぇ~、そうなんですか。確かにそれくらいかなぁと思ってました。なんか落ち着いた大人な感じ」
「あなたは?」
「あたし?いくつに見えます?」
彼女は小首を傾げてみせた。
「そうですね…20歳前半くらいですかね。話し方と比べて服装はカジュアルな感じだ。24、5くらいでは?」
「アタリです。24歳です。そんなに話し方幼いですかぁ?」
「そういう意味で言ったわけではないんだが、若さを感じただけです」
「そういうもんですかね」
彼女はアヒル口を作ってみせた。私はそのしぐさに心を奪われた――。
「どうしてあたしに声をかけたんですか?」
「それは、あなたが魅力的だからですよ」
「…見た目のクールな感じとは違って、口のほうはベタなんですね」
彼女はくすくすと笑って言った。
「今夜は楽しかったです、ありがとうございました」
「いえいえ、私のほうこそ楽しかったです。またお会いしたいです」
「あたしでよかったらぜひ!」
「また来週ここに来てもらえますか?」
「はいいいですよ。…ええっと」
「あぁ、私は、高野誠司です」
「あたしは、新妻美沙です。よろしくです」
そういって名刺の交換をした。
「よかったら、連絡先も…」
「…ずいぶんといきますねぇ」
携帯で連絡先を交換した。
「ではまた」
「はい、また来週」
こうして、その日は終わった。
別れ際に、来週と言っていたが、また会えるとは正直期待していなかった。だから、翌週にバーに行ったら、先週と同じ席に座っていて、驚いた。同時に嬉しかった。
その後も何度かそのバーで会った。会うたびに、私の目には彼女が美しくなっているように見えてしょうがなかった。彼女の行動の一つ一つが、私をまるで挑発するようにみえた。どこまで我慢できるかを試すように。その言葉やしぐさに、私は堕ちていった。
もはや、私の中の煮えたぎる思いが爆発しそうになっていた――。
「今日はなんか口数が少ないですね」
「そうかな」
「そうですよ~」
私は緊張していた。彼女の目を見るたびに、私の体は飛び跳ねてしまう。もう…我慢できない。今にも彼女を壊してしまいそうな勢いだ。
「美沙、聞いてくれないか?」
「なんですかぁ?」
「君が欲しい、君の裸を汚したい。君は…美しい」
「…男の人って、これだから困るんですよね」
彼女はくすくすと笑って言った。
私は彼女とホテルに入った。
「綺麗な夜景ですねぇ」
「そうだね…」
体が疼いていた。
「シャワー浴びてもいいですか?今日外回りが多くて、汗かいたんですよ」
「そんなのいらないよ」
がばっと抱き寄せた。立ったままキスをする。蛇と蛇の交尾のように濡れた舌がくねり合う。舌を味わう。彼女の吐息が鼻にあたる。体が、ぞくぞくっとする。
キスをしながら、シャツのボタンを一つ一つはずす。すかさず、背中に手を回して、ブラジャーをはずす。パチンと音が鳴って、ブルンととび出た巨乳が露わになる。
両手でその巨乳の感触を十分に愉しんだ。あまりの柔らかさから、寄せたりたぷんたぷんにした。
「遊ばないでください…」
顔を赤くして、恥ずかしそうに彼女は言った。
「おっと、失礼」
次に、乳首を口いっぱいに含んで吸う。舌先で乳首を転がす。
「ん、ああぁ…うぅ…」
甘噛みする。噛みながら舐める。
「あっ…ああっ…」
彼女は、息をつめて、首をそらす。体が震えていた。
私は、左の手を白い太ももにはわせた。むちむちとした感触。滑るようになめらかな肌。丁寧に上から下へなぞった。
そして、スカートの中に手を入れた。スカートをめくると、うすベージュのレースショーツが現れた。リボンが3つついていて実にかわいらしい。
彼女を座らせて、すっと、指を侵入させる。ぬめったヒダヒダをやさしくなぞる。
「あん…うん…んん…」
彼女は素直な反応を示した。私はそれを見て、さらに興奮した。
足もとに回り、両ひざを立てて、開かせた。そして、全て脱がした。
「おぉ…」
思わず息を呑んだ。実に魅力的だった。彼女の体は、いやらしくて、美しい。私も服を脱いだ。
足を思い切り開かせて、淡紅の秘裂を舐める。小陰唇を片方ずつ、唇の間に挟んで舌を動かす。舌の動きに神経を集中させ、クリトリスを刺激する。
「うんっ…んはぁ…!」
彼女はそれまで以上に大きな声をあげた。彼女の素直な反応を見るたびに、私は彼女をもっとめちゃくちゃにしたいと思った。
舐めながら指を入れる。第1、第2関節を細かく動かし、指の向きを上下変えたりして、緩急をつけて刺激した。
「うわぁ…ゆ…指が入ってるよぉ…あぁ…!」
さらに奥へと指を入れていった。
「痛くない?」
「…うん…だ…だいじょぶ…き、きもちいいぃ…」
彼女はとろんとした目をして、口元は笑っていた。
「あっ!あん!誠司さん…!あぁ…!」
彼女は果てた。彼女は目を閉じて、息遣いを荒くしている。
「誠司さんのも…」
今度は彼女が足元に回り、ペニスに優しく指を触れる。
「元気ですね。すっごい大きくなってるし、がっちがちだよぉ」
ゆっくりとしごきながら、舌を這わす。
下半身に電流が走った。ぞくぞくとした快感がたまらない。
「うまいね」
「ほれはほうお」
彼女は舐め回しながら言った。口腔が、すっぽりペニスを包み、舌がその周りをくねる。ジュルジュル音をたてて前後運動をする。芸術的なフェラチオだった。
「美沙」
私は、起き上がって、彼女を押し倒した。
彼女は腰を振って、私のペニスを迎え入れた。
「ああっ!誠司さん・・・!」
私は彼女を抱き寄せ、彼女はそれを受け入れた。
彼女の蜜壺は、私のそれを包み込み、じわじわと締めつけていった。
「すごい!すごいよ、美沙。入ってるよ・・・!」
彼女の固くなった乳首と私の乳首がこすれ合う。私は、腰を上下に振り続けた。
「ああん!もっともっと!あたしに・・・ちょうだい!」
彼女は激しくよがり声をあげた。私はさらに腰の動きを早めて、突いた。大きく引いてズンと突いた。締め巻きが強くなる。
「あぁ、う・・・う・・・ん・・・はぁ・・・!」
ビクンビクンと身体が波うつ。彼女の顔は、萎え切っていたが、満足そうだった。
「美沙・・・?」
私は引き抜いて、彼女の隣に横になった。
「はぁ」
一息ついて、私は、彼女の髪を撫で、頬にキスをした。そして、明日に備えてシャワーを浴びた――。
私は翌日も仕事があったので、そのまま出勤した。疲れが残っていたが、なんとか乗り切った。
いつものように電車に揺られながら、家に帰った。特に後ろめたさはなかった。
「ただいまー」
返事はなかった。
「律子、いるのか?」
居間へ向かう。すると、妻はソファに座っていた。
「どうした?」
私は、カバンを置いて、妻に尋ねた。
「昨日、何で帰ってこなかったの?会社は行ったみたいだけど・・・」
「それは・・・」
「別にどうでもいいけど・・・帰んないなら、そう言ってよね」
妻は冷たくあしらった。私は、1つため息をついた。
「なあ・・・律子・・・」
「なぁに?あなた」
「別れよう」
甘美なひととき