私の王子様

 親もきょうだいもいない私には、藤四郎の刀た ちが少し羨ましい。でも私は、刀ではないから、みんなときょうだいにはなれないのだ。それが少し、寂しい。
「乱くん……」
「あるじさん、どうしたの? ダメじゃない。 ちゃんとお布団に入らないと」
「う、眠れなくて……。乱、ちょっとお話聞いてほしいの」
 私は寝所から抜け出して、部屋の外の縁側で不寝番をしている乱くんに話しかけた。浮かぶ満月が乱の白い頬をなぞっている。乱くんは頷くと、ここに座りなよ、とぽんぽんと床を叩いた。私は彼の隣に座る。
「乱くん、あのね」
「うん、なあに」
「私、やっぱり寂しい」
「寂しい?」
「ここに人間が、私しかいないこと。私は主で、みんなの家族じゃないこと。……わかってる、わかってるよ、それが当たり前だって。それが審神者だって?でも、寂しいの」
「……あるじさん」
乱くんが俯く私の顔を覗き込む。金の糸がさらさらと彼の肩にかかって流れた。
「……あるじさんがどんなに寂しくっても、ボク たちはあるじさんの家族にはなれないよ」
「……うん」
「ボクたちとあるじさんの繋がりは、そういうものじゃない。……でもね」
乱くんは立ち上がり、庭へすたすたっと走り出す。
そしてくるりと私の方を振り返った。綺麗な髪が、月の色をした長い髪が、きらきらと翻って光る。両手を広げて、私に「おいで!」と言う乱の声に、私は思わず裸足のまま駆け出す。近づけば、彼は私をぎゅっと抱きしめた。驚いたけれど、嫌じゃない。乱くんの腕はとてもあたたかくて、私は泣きそうになってしまった。
「ボクはね、あるじさんを守るよ。あるじさんの一番近くで、あるじさんのいっちばん強い護 り刀になるんだから!」
「それって、王子様みたい」
「え?ふふっ! じゃああるじさんはお姫様だ ね!」
「お姫様……」
「守るよ、ボクのお姫様。ボクの大切なひと」 「乱くん……うつ、うぅ……」
「あっ! もう泣かないで! ……ううん、 やっぱり泣いていいよ」
「うん……うん、乱くん、だいすき。私、寂しくなくなっちゃった」
「ボクも大好きだよ。うん、ずっとそばにいるからね」
 乱藤四郎。私よりほんの少し背の高い、王子様。ふりふりふわふわの王子様。月の髪の、王子様。満月が私たちを見ている。お月様、この涙は悲しいから出る涙じゃないの。彼の月色の髪は、太陽がのぼれば太陽色に輝いて、瞳はきっと真昼の空の色。だから、彼はいつだって私と一緒なのだ。それが、とても嬉しいから、とてもとても、嬉しいから、私はぽろぽろと彼の胸の中で眠くなるまで涙を流すのであった。

私の王子様

私の王子様

乱藤四郎×澄 月色の髪の王子様

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-02

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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