はずむ、とろける

 上に飾られるのは真っ赤ないちごとピンク色のカシスのシャーベット、メレンゲクッキーはハートの形。中にも切られたいちごが入っていて、底はチョコレートでコーティングされたコーンフレークに真っ白なミルクプリン。それに遠慮なくスプーンを突き刺して口に運ぶ。それぞれに堂々と色を主張していた者たちが今度は口の中で溶け合って、その甘味で手を取り合う。
 パフェとは見た目も味も、何から何まで夢のようなお菓子だと、少年は思うのだ。

「美味しい?」
「ええ、とっても!」

 場所は万屋街の喫茶店。時刻は午後三時。加州清光と少年審神者は窓際の席に向かい合って座っていた。足元の荷物入れに新しい季節物のワンピースが入った紙袋を入れて、ふたりはデートの真っ最中。体が弱く、なかなか本丸の外に出られない審神者が珍しくここ最近は調子が良かったものだから、せっかくだし出かけようと、こいびとたちは手を取り合ったのだ。
「ん、よかったね」
「ここに来たのもずいぶん久しぶりだったから、季節のパフェのタイミングに来られてうれしいわ」
「主、果物好きだもんね。……。……大丈夫? 疲れてない?」
「大好き。ええ、大丈夫よ。やっぱり調子がいいの。加州さんといるからかしら」
「俺たちいつも一緒でしょ? 無理はしないでよ?」
 白い頬を薄桃色に染める審神者に、加州清光は微笑んでそう返し、自身が注文したクリームソーダのストローに口をつけた。しゅわしゅわと口の中で泡が弾ける。加州清光はクリームソーダが好きであった。目の前の少年と出会わなかったら知ることもなかった、新しい刺激的な味。そう、彼はかれと出会ったことでさまざまなものを知った。甘い菓子の味も、好きなひととこうして手をつなぐことのあたたかさも。
「もう。今日はいつもとは全然ちがうわ、加州さん」
 ふう、とわざとらしくため息を吐いて、審神者はパフェに乗っていたハート型のメレンゲクッキーを指でつまんだ。そして、それを加州清光のストローから離したばかりの唇に押し当てた。
「んむ」
「私たち、いつも一緒にいて……それはとっても幸せなことよ。でも今日はいつもよりもっと幸せなの。おしゃれして、お化粧して、おひさまの下で手をつないで……いつもはみんなの加州さんを、今日は私がひとりじめ。……うふふ、これ食べて」
「……。そうだった。今日一日、俺の花さんだった」
「そうよ。あなたの花よ、私の加州さん。幸せね、とっても嬉しくて楽しい」
 ぱくり。さくり。メレンゲクッキーが彼の口の中に消えていった。クリームソーダに比べればずいぶん素朴な優しい甘さが加州清光の舌を包む。
 彼はこの甘さを知っていた。審神者を想うと口の中いっぱいに広がる味と、よく似ている。そう思い出した瞬間、加州清光はどうにもこうにも嬉しくなってしまい、胸が弾む思いがした。そして、クリームソーダの上、溶けかけのバニラアイスにちょこんと乗った、真っ赤なチェリーを指でつまんだ。
「花さん、あげる」
「あら、いいの? クリームソーダのさくらんぼは特別よ。ひとつしかないもの」
「パフェのクッキーも特別でしょ? 交換。特別なものの」
「そういうことなら。ふふ、ひとつしかないものを交換って、すてきね」
「あんただから良いの」
「私だって、加州さんだから良いのよ」
 あ、と開けたかれの口に彼は果実を入れる。審神者はにこにことしながら、ころころとそれを口の中で転がした。
「主、この後はどこに行く?」
「加州さんはどうしたい?」
「じゃあまた服屋に行きたい。ワンピース一着じゃ足りないよ、あんたに着てほしい服」
「ええ、選ぶの付き合って。加州さん」
 でももう少し、ここで、このままで。ふたりはスプーンで甘味を掬いながら、ゆっくりとふたりきりの時間を舌の上でとろかせた。

はずむ、とろける

はずむ、とろける

加州清光×花 デートしてる

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-02

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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