15歳

 審神者が審神者になって一年が経った春から、審神者はいつも着ていた学生服を着なくなった。黒のブレザーにプリーツスカート。それらを脱ぎ捨てておそらくまだ慣れてないであろう和装に身を包んだ姿を、鶴丸国永はしっかり見ていた。鶴丸国永じゃなくても見ていた。
「きみ、もうあの服は着ないのか? 毎日のように着ていたじゃないか」
「だってあたし、もう中学生じゃないんですよ」
「なんだ、そんなことか」
「そんなことって! 鶴丸さんひどい!」
 まだその緋袴に千早に着られている感の否めない審神者は、いつも通りに鶴丸国永に憤慨した。一年経って、審神者はずいぶんと立派になった、と鶴丸国永は思う。最初の頃はそれはそれはひどいものであった。何かに焦っているかのように重傷でも進軍させ、一度二度と刀剣破壊も引き起こしていた。そんな愚かな少女を、いつだって見ていてやろうと、笑い飛ばして馬鹿にしてやろうと、いつだったか、鶴丸国永は自分に誓ったのであった。
 それが今では手際も采配も良くなり、審神者として成長を果たしている。これで一年なのだから、人間の子どもの成長は著しい。
「いや今のはすまなかった。きみは立派になったさ、これからもっと成長していくんだろうな」
「な、なんですかあ急に。鶴丸さんらしくない」
「褒めたらこれだ……。ほら、こっちに来い」
「や、やです」
「ならこっちから行くか」
「ひえっ!」
 以前、この審神者の友人の刀に愛だの恋だのと説かれたことがある。あれから考えてみても、やはりいつだって笑い飛ばして寄り添ってやるのが自分の愛だという結論に達する。鶴丸国永にはその感情が恋かどうかはまだわからない。だが、人の身を得て生まれた感情を、この目の前の少女を見て生まれた感情を、自分だけのものだと大切にしたかった。
 だから抱き寄せた。ぐいっと。
「つ、鶴丸さん?」
「そうかあ、きみはもう審神者なんだな。きみはきみなりに、覚悟を決めたってわけか」
「……そうですよお」
 鶴丸国永の腕の中で、審神者はそう呟いた。ああ、こんな小さな少女に覚悟を決めさせてしまうなんてなあ。鶴丸国永はそう思いながらも、腕の中の少女が震えもせず身を預けてくることに、少しばかりの嬉しさを抱いた。
「……鶴丸さん」
「なんだ」
「あたし本当は、高校はもっと可愛い制服が良いって、思ってたんですよ。スカートはチェック柄がよかったし、セーラー服でもいいし。でも、いいんです、これで」
「……可愛い服なら、審神者でも着られるだろう。なんなら買いに行けば良いさ。選んでもらえよ」
「選んでもらうって……誰に?」
「そりゃ、短刀たちとか……ああ、いや、」

 一呼吸。審神者が鶴丸国永の腕の中でもぞもぞと動いた。

「俺とか」
「鶴丸さんに!? えー」
「なんだよ。嫌なら構わないが?」
「べ、別に、嫌なんて言ってません。びっくりしただけ」
 審神者が鶴丸国永を見上げる。目と目が合う。その目はいつもみたいなおどおどしたものではなく、きらきらとしていた。
「あたしについてきてくださいね、鶴丸さん」
 それを見た鶴丸国永は、一つの願いを抱いた。どうかまだ、少女の心を持ち続けていてくれ。審神者になって俺たちと地獄に堕ちる覚悟ができたとしても、少女であり続けていてくれ。と。
「仕方ないな」
「仕方ない!? 鶴丸さんが言い出したんでしょ!」
「はは、そうだったそうだった。ついていくさ、どこまででも」

15歳

15歳

鶴丸国永×雪 中学の制服を卒業する時

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-02

Derivative work
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