この酔っぱらい!

「あ、むつのかみだ。おーい」
「そこは床ぞ……」
 宴会の真っ只中、審神者の姿が見えないと思ったらこれだ。と、廊下に出た陸奥守吉行はため息をついた。審神者はひんやりとした廊下に頬を寄せてごろりと横たわっていた。
「おんし、もう部屋に戻った方が良いぜよ」
「え? 俺まだイケるって。ちょっと今は暑いだけ」
「いやいかん、戻りや」
「へいへーい。せっかく楽しいのにな……」
「楽しいうちが華」
「へーい」
 審神者が酒に弱いことを、陸奥守吉行はしっかりと分かっていた。それでいて本丸での宴会には参加したがるのだから、困ったものである。甘く優しい酒しか体が受け付けないというのに、次郎太刀や日本号のとっておきの酒を飲みたがる。これも困ったものである。そしてべろんべろんに酔っ払うのだ。次の日まで引きずるのだ。

 よろよろ、ふらり。立ち上がった審神者は陸奥守吉行の胸に倒れ込んでしまった。ああ全く世話が焼ける。陸奥守吉行は彼を受け止めれば、審神者は陸奥守吉行の顔を見てへにゃりと笑う。
「いやぁ、いつもありがとうなあ。陸奥守」
「何や、突然」
「お前さあ、いっつも俺のこと考えてくれるだろ? 俺、それが嬉しくってさあ……」
「おんしは世話が焼けるきな……ああもう、顔が真っ赤や」
「へへ、そんなに赤いか? 赤いだろうなぁ。……、……」
「……うん?」
「すう」
「立ったまま寝ちゅー!」
 ああもう我が主は本当に! 陸奥守吉行はひょいと審神者を抱き上げると、未だ盛り上がる宴の席に「主が潰れた!」と声をかけた。ああやっぱり? いつものか、と大して心配もしない刀剣男士たちに苦笑すると、審神者の部屋へと向かっていくのであった。
「ん……」
 布団に寝かせれば、審神者がむにゃむにゃと陸奥守吉行の着物を掴む。大の大人である彼の思ったよりも幼いその仕草を見て、陸奥守吉行は、今この時くらい幼くて良い。頼ってくれるなら、それで良い。そう思いながら、子ども扱いのように審神者の赤い頬を撫でるのであった。

この酔っぱらい!

この酔っぱらい!

陸奥守吉行×風 審神者は酒に弱い

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-02

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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