まるくてとうめいであまい

「ながそね、あれ見てください」
「ん? ああ、サイダー? か」
「ラムネですよ、ながそね」
「? 違うのか」
「はい! 違います!」
 今夜は夏祭り。長曽祢虎徹の片腕に抱きかかえられた浴衣姿の小さな審神者は、そう得意げに、両腕を彼の首元に回しながら言った。審神者の視線の先には瓶の絵が描かれた看板付きの出店が建っていた。氷水に浸された縦長の細い透明な瓶がいくつもそこにある。
「ながそね、サイダーとラムネの違い、ご存知ですか?」
「いや、知らないな。聞かせてくれるか? 主。欲しいんだろう? ラムネ」
「あ……ほしいです! えっとですね」
 一本、と長曽祢虎徹が小銭と共に指を出せば、店主は快くそれを受け取った。そして、ポンと音を立てて瓶が開けられる。軽快な音と共にしゅわしゅわと柔らかな発泡音がした。よく冷えたそれを受け取れば、瓶の中のビー玉がゆらりと揺れた。
「ビー玉が入っている方がラムネなのですよ。だからこれはラムネなのです」
「ほう、そうだったのか。主は物知りだな。……ほれ、そのラムネだ」
「あ、しゅわしゅわ、飲めません……ながそねが飲んでください」
「お、おい!」
 ほしいと言っておいてなんだそれは、と長曽祢虎徹は仕方なく瓶に口を付ける。淡い甘さが微かな微炭酸の刺激と共に舌の上で遊んだ。
「ビー玉がほしかったのです」
「ビー玉くらいどこでも買えるだろう?」
「ビー玉が入った、ラムネの瓶もほしかったのです。……お花を活けたいので」
「はは、活け花が最近の趣味か。我が主は」
「は、はい。そうです、そうですよ。あとは……ふふっ」
「どうした?」
「いいえ、なんにも! あっ、飲み終わりましたねながそね」
 大柄な長曽祢虎徹にとって、瓶に入ったラムネはあっという間の味だった。中に入ったビー玉が今度はころりと音を立てる。くださいくださいと腕の上で小さく跳ねる審神者を宥め、瓶を手渡す。祭りの出店の光を反射した瓶は、きらきらと美しく輝いていた。
 その小さく開かれた口元に……審神者は唇を当てた。長曽祢虎徹は目を見開く。
「あ、おい」
「ふふ、これがしたかったのです」
「……こら。ませたことをするんじゃない」
「だってながそね、ちゅーしてくれないんですもの」
「まったく……」
「ふふっ。ここ、甘いです」
 ころころとビー玉が鳴った。ころころと少女が笑った。

まるくてとうめいであまい

まるくてとうめいであまい

長曽祢虎徹×星 夏祭り

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-03-02

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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