『世界の毛布とわたし。』

『世界の毛布とわたし。』

朝の季節。

『音楽。』

大海の旋律。
子猫が駆け踊る歌声。
真夜中の懐に誰もが包まる。

あなたしかうたわない。
あなたしかうたえない。
神さまをきゅっと掴まえてしまえるその一瞬に驚いて、ひとは光の雨音たちを舞台へ贈る。

捧げられたきらめきはあなたへ還るだろう。
やがて、朝として。


『かえりみち。』


きみたちが知ろうとした夜の何が悪だったのか。
きみたちが知らずに置いていかれた夜の何が悪だったのか。

説明なんかひとつもいらないから僕はその夜を殺せない。

還る場所がどうして涙の海にくれるのか。
なぜさえずり飛び立つ音をさえぎるのか。
証明をこえたその理由こそを教えてくれ。


『はなれたこぶね。』


どうしてすくわれたがっているの?
そうきいたわたしは、あなたにはかわいそうにずっとみえていた。

すくうようにつながれてははなされる。

かわいそうなわたしはしっていた。
あなたはじぶんのあなをわたしのかおにみる。
すくえなかったのはわたしもおなじだ。
あなたのきずがみえていたのに。


『宝物。』


腹が立つばかりの日々をアイデアと愛でデコレーションする。
レスポンスのネットワークが激しい世界へ対抗するために。

あたしが生き抜くくだならさをあたしは笑わない。
海月みたいに漂う人びとを全員おいて、きみたちを連れてゆこう。
たぶんきみたちは笑えない。
想像の海原が大きすぎて。


『おうち正月。』


白うさぎのしっぽみたいなおもちをぜんざいに浮かべた。
おいしいに罪悪感はちょっと静かにしていて。
東京の海原にキッチンの小舟。
いただきますで、ここではないどこかへ旅立つ。
中心にいて孤独をつかのま忘れられる航海。


『出発。』


いのちをつなぐように手渡されたコーヒー。
手作りのパンに私のからだに合わせたいろをのせる。
できあがった湯気たちに微笑まないことは失礼な気がする。
だから少しだけ今だけ。
元気をさきどりしたい、朝。


『ワンルームの孤独。』


「おまえを殺したい夜。朝は、ぼくのもの。」

「あますことなくたべちゃえば、夜はわたしのもの。」

騒がしい真昼はふたりの世界で滅亡。

焼け野原と真白。

『繋ぐ。』

きみは素直で良い。
それが良い。
操ろうと嘲笑う手に怯える必要がそもそもないから。

こころのなかみたいな世界をいつか、飛び出せ。


『わすれんぼ。』


大嫌いの夜空に好きの星々。
よく視える。
町を流れる恋風ばかりの歌に苦笑して、宇宙にまたねと手を振る。

私のあしもとには埋葬された記憶。
慰撫するよう、しきつめられた花のいろに哀しみの温度を覚える。

私は本当は思い出したかったのだ。
その指をほどく合図をする前に。


『世界。』


思わずカメラを向けようとした鈍い雲の隙間。
水色のたなびき。
この地上で何を選ぼうとすでに関係づく。
私の手に取る物が異国の力強い腕に支えられているように。

私は地球の裏側にひそむ。
宇宙に底はあるのかという問いに表舞台は微笑む。
異国の君は口をつぐむ。
現在を、その眼に宿して。


『道。』


貴方が切り捨てた課題をひろう人びと、見つめあう人間のまなざしたちがこれからの厳しさの荒野を立ち尽くすのかもしれない。

立ち尽くしてもなんてたくましいのか。
正解が出ないのなら化学反応で応えたい。


『幸福論。』


やさしさはとりひきじゃあないよ。
やくそくはおもいだすものだよ。
そらだけはあなたをうらぎることはできないよ。
まえばかりみていられるきみはたくさんのしあわせにかこまれているよ。

あしもとにあふれるはなばな。
やりすごすにはうつくしすぎる。


『日曜日の大人たち。』


紅茶のパッケージのメッセージに、こころ安らぐ朝だ。
時間がないないと焦る日常を抜け出したんだね。

ひとつのアイデアで喜べる私、休日を流れるまま楽しむ私。

僕は違うってそれも良いんじゃない。
笑えなくてもそれがあなたなら。


『魔法。』


「これしかやってこなかったの」
彼女の言葉に、こころのなか返す。
これを、やってきたんだ。
技術はもう彼女を離さず消えないだろう。

できない状況はときたま降る雨。

それでも諦めたいときは教えて。
背中へ可能性の風を贈るから。
そのてのひらに、思い出を生かしたまま歩けるよう。


『日常。』


熟れた甘さに負けないよう紅茶の渋みで流した。
学んだことは生活に生かすことで育てるね。

笑う私とあなた不在の日。
私のこころがほんとうはなんて言っているのか誰も知らなくて良い。
怒りばかりの景色におやすみの言葉を。


『生まれる。』


木の芽が膨らんでいる。
季節は過ぎる。
内包された生命に待った、はないのだ。

桜の香りを紅茶で先取り。
満たすよ。渦のように。

やがてしぼりだされた私の一滴が微笑みを呼ぶよう。
祈って手打ち。

霧のなかのひかり。

『国境。』


帰り道。見上げた鉄線。
出るなというより入るな。
連なりの棘。
護るためだと声。
大きすぎる何もかも。

尻尾のように揺らぐ芒に小さく息をつく


『案内人は女。』


空ばかり見ているわけじゃない。
道ばかり見ているわけじゃない。
ただ前を向いているわけでもない。

ふらふら探しているというより、行きたい方向がそうだったのだ。

正しい理由はない。

ときどきふりかえる。
それだけは説明できる。
ついてきているか励まし確かめるため、だ。


『最果て。』


冬の真中、空が遠い。
自然は嘘をつかない。
人類に優しくはない。
ひこうき雲がいたずらに通り過ぎる。
わかるやしっているがこれほど無力な言葉だと思ったことは、私はない。
今生きているという事実が絶対的だ。
そう思うことも初めてだ。

勝ったことは一度もない。


『終わりの始まり。』


カーテンをしめきる薄暗い部屋で、薬を飲みながら征服を考える。
今じゃ世界なんて流行らない。
すでに誰かのもの。

猫が欠伸をするようつまらないよねって私は呟く。
貴方は苦笑するしかない。
人がいくらルールを決めても手中におさまらない天然。
空と海。
私は征服するなら貴方の秘密がいい。


『祝いの言葉。』


白湯とブラックコーヒーをゆっくり飲む。
矛盾だらけの選択でも世界は動く。
その安らかな日常をいつかあなたが食べるようナイフを入れる。

非日常がやってくる。
無遠慮な電話のコール。

パーティーの招待状のように華やかだったならほんとうは良かったのにな。


『わたし。』


恨んでいるのだろうと黒い手数が差し伸べられる。
私はちらりとそれに笑いかけ赤いコックピットへ乗り込む。
目指しているものは今や宇宙の未来なのだ。
終わりたくない世界が慌てて取り引きを開始する。

たった1人の神さまが片方の眉をあげたことを私は知らない。
空の向こうを夢見ていたから。


『傷跡。』


メディアに嘘を吐かれても小さく削られるだけで、感動しなくなった。
お金にはきっと2種類あるのだ。
生きているものかすでに息絶えているものか。

生きているお金は躍動するよう血が流れている。
それを嘲笑うと痛い目みるよ。
金でも紙でも電子でも。


『じゃあね。』


秘密の鍵ではなくて梔子の手紙が欲しかった、あの頃。
さようならのかわりにおやすみの音を君のまぶたへ。

お酒も煙草も奪ってあげる。


『近未来の機械。』


ふだんは口に入れない時間に紅茶を含む。
遠くの故郷の光景を眺め、その綺麗さに癒される。
片手に何処でも運べて映し出されるようになった現代。

スマートフォンはすべてつつぬけだからこそ、私のもとへもその景色が届く。

奪われて与えられて優しげな雨が降る。
私のまなざしに。


『食と空。』



頭痛を癒すために拵えたおにぎり。
ひとくちが胃に染み入るよう美味しくてほんとうに病んでいたならこの感情は無い。

しぶとくたくましい身体とすぐしょげるこころへ水をやる。
身体とこころはあたたかい感動をかえす。
どれも私だけれど最期、空にもっていけるものは、どれ。


『極彩色の空間。』


果物の鮮やかさのような色どりで染まる私の指先。
描けるわ。
時間を凍らせてまで。


『ふたり。』


「この町を嫌いになれてほんとうに良かった。だから飛べるみたい」
彼女の空色の便箋に桜が舞う。
私は胸に仕舞い込んだ薔薇のメッセージカードを彼女へ贈る。

同じよ。
でも、地に這わせた祈りを覚えていてね。
きっと貴女を受けとめる。

風のように彼女は移り変わる。
私は海と大地の音色を聴く。

世界の毛布とわたし。

『引力。』


狂う行為をしたからといって人はそう簡単には狂えないのだと寂しく教えたきみ。
幸せになれないのではなくならないのだと笑う苦しさへ、どんな言葉も贈れなかった。

私は空洞を手渡し残響を聴く。
きみの有力は私の無力で補おう。


『蜘蛛の糸。』



豊かな美しい音が哀しみであれば誰ひとり苦しまなかったのに。
唇をとがらす私にあなたの冷たい心音と体温の安らかさ。
誰も赦してくれなくてもいいとでも言いたげな仕草を、あなたは私に焼きつけた。


『ちいさなけんか。』



雪空の下、ベンチで笑っていて心臓を冬に鷲掴みにされている。
世界は貴方のものねとうつむく私は迷い猫。

夜空は私にちょうだい。


『少女。』


彼は困ったように笑んで在るだけの苦しみを私へ贈った。
そんなに優しくならなくたって、名前を呼べば良かったの。
産まれるように咲ってあげたのに。


『未来のこども。』


こどもたちの目はとても真っ直ぐだ。
真っ直ぐに迷うことなく鋏のごとく。
間違われた存在を、刻む。

あの子等は赤く透き出るくちびるで明日の夢を語るのだ。
その明日から切り取る、きみたちが見なかった風景。


『街。』


大人だって笑うんだよ。
こどもみたいに声のかたまりをふるわせて。
大人だってときどきいなくなるんだよ。
そしてサンタクロースみたいに約束を守ったりする。

大人だって目をあけて現実を見るの。
うつむくきみたちの涙が、青空へ浮かぶ方法を考えるために。

不完全な人間が大人という仕事をしている。
こころ苦しくって飛ぶことがやめられないのよ。

未来の産声が、さざ波のように聴こえるから。

『世界の毛布とわたし。』

親愛なる夜と霧へ。
朝焼けの町から。

『世界の毛布とわたし。』

Xのポスト(短文)をまとめました。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2025-02-26

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 朝の季節。
  2. 焼け野原と真白。
  3. 霧のなかのひかり。
  4. 世界の毛布とわたし。