zoku勇者 ドラクエⅨ編 38
我侭女王と恋したトカゲ・2
「本当に申し訳ありません、旅人さんのあなた方に手伝って頂けるなんて、
ああ……、何とお礼を言ったら良いのか……、ああ……」
「いや、礼なんかいいから……、それよりも、そのトカゲの特徴とか、
良く行きそうな場所とか……、分かってたら教えてくれよ……」
ジーラは4人に何度もぺこぺこ頭を下げる。無関係のジャミル達を
巻き込み、よっぽど申し訳ないと想っているのか……。通りすがりに
他の侍女達がこそこそ、あの子のドジの所為で私達までユリシス様に
又どやされてしまうわ、迷惑よ……、と、わざわざ聞こえる様に大声で
話しながら通り過ぎて行く光景もちらほら。
「本当に申し訳ないです……、アノンちゃんは首に紫のリボンを
巻いています、あのコはとても臆病でして、大きな音が苦手で人が
いない場所が好きなんです、なので、気合いを入れて拍手などをすれば
驚いて出て来てくれるかも知れませんわ……」
「……」
「なんだよお、ジャミル、なんでオイラの方見てんだよお、もしかして、
これはいい手かもしんね、もしもオイラがヘタレて逃走したら拍手すれば
捕まえられると思ってんだろ……」
「い、いや、そうか、成程、人通りの少ない場所か、じゃあ俺らは
外の方を探して見るか……」
ジャミルの言葉にアルベルト達も頷き、直ぐに行動開始に取り掛かる事に。
「お願いします!私はもう少しこの辺を探してみます、アノンちゃん、
アノンちゃあ~ん!……きゃあーーっ!!」
「おい、ジーラさんや、そこ気を付けておくれ、さっき床掃除を
したばかりだからの、滑って転がったら危ないでのう……」
「もう滑ってまーすっ!」
掃除屋のバイト爺さんとジーラのやり取りが後ろで聞こえたが、構って
いられず、4人は城の外へと飛び出した。だが、ジーラと言う娘は相当の
ドジっ子なのだと言う事は認識出来た……。
「やれやれ、んじゃあトカゲ捕獲作戦と行きますか……」
「そのアノンちゃんてトカゲさんは人のいない処が好きなのよね、
路地裏の方かしら……」
「……オイラもたまには孤独に浸りたい……」
「とにかく徹底的に虱潰しに探してみよう……」
「……アイシャ、モン、カイカイモン、シラミがいるみたいモン……」
そのシラミじゃねえだろとジャミルは思う……。モンは背中を向けて
短い手で背中を懸命に掻こうとする。この暑さの所為でどうやらモンに
ノミとシラミが沸いたらしい。アイシャは後でちゃんとお風呂で綺麗に
洗ってあげるからねと、モンを何とか宥めていた。
「よしっ、真面目に探すぞっ!……トカゲーーっ!!いるなら返事しろーーっ!!」
「やっぱり、ジャミル、真面目に探す気ないね、いつもの事だけどさ……、
特に暑くなってくると頭おかしくなるよね……」
自分の事を棚に上げるダウドの突っ込みにアルベルトは取りあえず
苦笑しておいた。
「トカゲ、トカゲ、げっ、げっ、げげげの~……」
「……オホン、ジャミル、真面目にアノンを探そうね……」
「ふぇえ~い……」
後ろからアルベルトに後頭部をスリッパをグリグリと押しつけられながら、
ジャミルは、覚えてろこの陰険腹黒め……と、思うのだった。
「よし、此処はどうだ?木陰だし、人もいねえ、この辺で拍手を……」
4人が取りあえず来てみたのは、城の横にある人通りの少ない場所。
此処で試しに拍手をしようと手を叩こうとしたが……。
……ぶっしょいっ!!
手よりも先に、ジャミルの尻の方が発動してしまい……、他のメンバーは
パニックになった。
「きゃー!いやあーーっ!ジャミルくさああーーいっ!!」
「し、新型系の……、毒系の最悪のおならだっ!!」
「ぶっしょいってなんだよおーーっ!!くさいよおーーっ!!」
「負けたモン……、モンももっと修行しないとだモン……」
(……アタシさあ、アンタの中にいるんだからさあ!隠れてても
臭ってくるんですケド!?チョーくせーーっ!)
「……うるっせーっ!てめーらっ!屁ぐれーでギャーギャー騒ぐなっ!!
……お?」
「きゅ、きゅう~……、きょ、きょ……」
よたよたと……、建物の陰から……、小さな金色のトカゲが出て来た。
間違いなく、ユリシス女王のペットのアノンである。ジャミ公の発した
毒ガスの所為で、相当まいってしまったらしく、観念して出て来たのだった。
「ほれ見ろっ、やっぱ俺ってスゲーっ!な?あっさり捕まったな!
やー、良かった!」
「……良くないだろーーっ!目を回してるじゃないかーーっ!!」
「きゅうう~……」
何はともあれ、アノンは無事捕獲出来た為、4人は急いで城へと戻る。
ジーラは無事な?姿のアノンを見て、大粒の涙を流し、再び4人に
ペコペコ何度も何度も礼を言い、頭を下げたのである。
「きょっ、きょっ……」
「おお、そのトカゲは正しく、アノンちゃん!でかしたぞ、よくぞ
アノンちゃんを捕まえてくれた!礼を言おう、よし、すぐに女王様に
会わせてやるぞ!……それにしても、アノンちゃん、お主、少し汗を
掻いておるのではないかな……?」
「きょっ……」
「……き、気の所為だよ、暑いからなあー!あはっ、あははは!」
「……汗」
誤魔化すジャミ公に他のメンバーも冷や汗を掻くのだった。この国は
砂漠地帯のど真ん中、本当に只でさえ暑い場所なのに……。そして数分後、
大臣の計らいで4人は謁見の間へと漸く通される事に……。大臣、4人の
他にはジーラを始めとする侍女集団の姿もあった。恐らく、ジーラの犯した
ドジをこれから連帯責任で取らされる……、様な雰囲気だった。ユリシス
女王は確かに絶品の美女、美しいと彼方此方で噂されていた事は確かだった。
だが、その目は鋭く、そして冷たく、只管俯いているジーラに対し、氷の刃の
瞳を向けていた……。
「ユリシス女王様、此方が……、アノンちゃんを捕まえてくれた旅人様達で
ございます……」
「ふん……、そう……」
「……」
だが、女王は4人を見てはおらず、只管ジーラだけを睨み続けていた……。
「ねえ、ジーラ……」
「……は、はいっ!」
ユリシスはジーラに向け、遂に一言言葉を開く。その口調は穏やかでは
あったが、やはりジーラに対し、怒りが籠もった口調である事がその場に
いた全員が感じ取れた。大臣は慌てだし、他の侍女達も動揺、当のジーラも
びくっと身を縮こませた。
「女王様、今は旅人様達が訪れて下さっている事でございますし、彼らは
アノンちゃんを探し出して下さった恩人……」
「大臣、お黙りなさい、今は旅人の事なんかどうでもいいのよ、ねえ、
ジーラ、これまでアノンちゃんが逃げ出すなんて事、今まであった
かしらね?もしかして、あなたが虐めたのではなくて?」
「そ、それは……、でも、信じて下さい!私はアノンちゃんには何もして
おりません!!」
「……お黙り!お前は一体アノンに何をしたの!!」
「そんな、本当に私は何も……、申し訳ありません、いつも通りお世話を
させて頂いていたのですが、急にいなくなってしまいまして……、その……」
「どうせアノンちゃんがいなくなっているその間、喜んで遊んで
いたのでしょう、いつも失敗ばかりする怠け者のお前の事ですものね……」
「……」
ジーラは女王の怒りにそれ以上何も言えなくなり、黙ってしまい、
再び俯いてしまった。ジャミルは黙って見ていられず、女王に対し、
割り込んで口を挟む。
「ちょっと待てってのっ!確かにアンタのペットを逃がしたのは
この人の失態かも知れねーけどさ、俺らも見たよ、ジーラさんは
一生懸命城中を歩き回ってアンタのトカゲを必死で探し回ってたぜ!」
「……そ、そうです、僕らも見ています!」
「オイラ達が証拠人だよお!」
「ジーラさん、アノンちゃんの為に一生懸命でしたよ!!」
「モンモン!シャアーーっ!!」
「皆さん……」
ジャミル達はジーラを庇おうと一生懸命だった。だが、女王はバカにした
様に4人を見、そして最後に変なカオス顔のモンを見た。
「この不細工な人形は一体何なの……、まあいいわ、もう終わった事よ、
ジーラ、あなたは今日限りこの城をクビよ、今すぐ荷物を纏めて出て
行きなさい!!それで今日の事は許してあげます、あなたがこの城から
姿を消す事により……、二度と顔も見たくないわ……」
「じょ、女王……さま……」
「ユリシス様……」
「ふん……、ギロチンを免れるだけまだマシな方ではなくて!?」
「女王様、どうかそのお言葉お下げ下さい!確かにアノンちゃんを
逃がしてしまったのは、ジーラの失態です、ですが、クビなどと……、
余りにも酷すぎます……」
再びその場は騒然となり、大臣も固まる……。失態を犯したとは言え、
ジーラに対し、余りにも酷い問答無用の仕打ちである。黙っていられず、
遂に他の侍女の一人もジーラを庇おうとしたが……。
「お黙りなさい、あなたも一緒に此処を出て行きたいのかしら?」
「そ、それは……」
「……だから待てってんだよっ!!」
「うるさいわね、さっきから……!そう、あなた達がアノンちゃんを
探してくれたのですわね、一応お礼だけは言っておくわ、……あなた方は
黄金の果実を譲って欲しいのだったわね、それは無理な話だわ、だって今
私の手元に果実がないんですもの……」
「!?」
「女王様……」
ユリシスの目線は再びジーラの方へと向けられる。そして又、とんでもない
容赦のない言葉をジーラに浴びせた。
「お風呂から上がったら……、ね、果実が無くなっていたの、ま、どうせ
何処かの嫌らしいドロボーネコが盗んだのでしょうけれど……」
「わ、私、私……、ああ……」
「おーい、ジーラさん、アンタちゃんとはっきり言えよ!盗んでなんか
ねえってさ!このまんまじゃアンタ泥棒扱いのまんま城を追い出されんだぞ!
それでいいのかよっ!!」
「でも、私、私……」
ジャミルはジーラに強く言うが、臆病なジーラはそれ以上何も反論する
事が出来ず……、負けを認めてしまう事に……。更にジーラが犯人だと
完全に決めつけられる悪い事態が起こる。女神の果実を手に城の
女近衛兵が謁見の間へと駆け込んで来た……。
「女王様、大変です!アノンちゃんがいなくなった草むら周辺を
探しておりましたら……」
「まあ、黄金の果実ね……、そう、見つかったのね、これであなたが
果実を盗んだ犯人だと言う事が完全に証明されたわ、私への嫌がらせで、
アノンちゃんに果実を与えて盗んだ犯人にしようとしたのでしょう?
何処まで嫌らしいのかしら!このドロボーネコっ!!」
「だーかーらあああ!!」
「ああ、そうでしたわね、でもこの果実はあなた方には差し上げ
なくてよ?なぜなら、今からこの果実を一切れ残らず全部スライス
して沐浴に浮かべるの、黄金の果実を浮かべたお風呂はお肌を
すべすべにしてくれるの、あなたの探している果実はこんな
名誉な使い方をされるのよ、嬉しいでしょう?さあ、もう謁見は
終わりよ!あなた方もさっさと出てお行きなさい!ジーラ、
アンタもよ!」
「う、ううう~……」
ジャミル達4人はこの場ではそれ以上何も言う事も、何も出来ず……、
謁見の間を素直に出て行くしかなかったのである……。
「やれやれ、どうしてこんな事になってしまったのですやら……、
皆さんもすみませんでしたのう、折角アノンちゃんを助けて
頂いたというに……、ワシにはこれ以上何もできませんです、
本当にすまんですのう……」
無能大臣も只管4人に謝るだけである……。謁見の間の中から、
4人に対する女王の尺に触る声が聞こえて来た。
「さあ、アノンちゃん、今からお風呂に行きましょう、ばっちい
人達に沢山触られましたものね、バイ菌を落とさなくてはね……」
「しかも……、終いには菌扱いかよっ!腹立つなあーーっ!!」
「ホント、意地悪な女王様ね……」
「モンモンっ!頭の上にウンチ落としてやりたいモン!」
「仕方ないだろ、僕らにはこれ以上どうする事も……、でも、
このままじゃ……」
「果実……、どうするのさあーーっ!!」
4人が頭を抱えていると、最後に、暗い表情のジーラが
謁見の間から出て来た。
「私……、等々クビになっちゃいました……、でも……、女王様が
お怒りになるのは最もだと思います……、亡くなった先代国王様は
忙しさにかまけ、ユリシス様はいつも独りぼっちでした、そんな
ユリシス様の心の寂しさの隙間をいつも埋めてくれていたのが
アノンちゃんなのです、……さようなら旅人さん、アノンちゃんを
本当に有り難うございました……」
「ジーラさん……」
ジーラは4人に頭を下げ、礼を言うと静かに廊下を歩き出した。
恐らく自分の部屋へと荷物を纏める準備をしに向かったのだろうと……。
「冗談じゃねえよ、このままじゃ……、果実も何とかして取り返さねえと……!」
「……全くもうっ!何ヨあの女王っ!チョー感じ悪いんですケド!?
ジャミ公、急いで女王を止めなきゃ!アイツ女神の果実をスライス
するとか言ってたよネ!?そんな事になったら大変だっつーの!
ジャミ公、急いで女王達が向かった沐浴場へ急ぐのヨ!」
「そうは言うケドよ、……風呂だろ?まいったなあ~……」
「な、何よ、なんで私の方見るのっ!この際仕方ないわよ!
女王を止めなくちゃならないんだからっ!!」
「よ、よし、大丈夫だな……」
ジャミルは男衆が沐浴場に向かうのに、又アイシャが嫌な顔を
すると思ったが、流石にそんな事に構っていられないらしい。
大急ぎで沐浴場へとダッシュ。
「アル、確か……、1階の奥にそれっぽい様な場所、あったよな!?」
「うん、女性の兵士さんが番付きをしていたよ!」
もう女王を止める為なら、沐浴場に頭から突っ込もうと思った。だが、
やはりガードは堅く、女性近衛兵に摘み出されたのである。特にジャミル達、
野郎3人は近衛兵にゲンコツを喰らった。
「……お前達は女王様の入浴を覗き見する気か!汚らわしいぞ!!」
「んな事言ってられねーってのっ!頼むよ、女王に会わせてくれよ!!」
「私は女の子よ!駄目なの!?」
「……駄目だ!此処はユリシス女王様専属の沐浴場であるっ!」
……沐浴場の扉の向こうから、女王と何人かの侍女の楽しそうな声が
聞こえてくる……。
「さあ、お前達、今から私の入浴の準備をして頂戴、この果実を急いで
全部スライスして!うす~くスライスした果実を湯船に散りばめて
特製の黄金風呂を作るのよ!」
「はぁぁ~いっ!」
「……だ、そうだ、さあ女王様達の邪魔をするでない!さっさと
向こうへ行けっ!」
「こ、こんにゃろう……、何とかしてっ!時間がねえんだよっ!」
「ジャミル、正面からとてもじゃないけど入れそうにないよ、
何処かに沐浴場へ続いている別の入り口でもあれば……」
「……そんなご都合主義、ある訳ないよお~!!」
「……アンタらなんかいい方法考えなさいよっ!!」
「困ったわ、どうしたらいいのかしら……」
「モン~?」
モンは何かに気づいたらしく、其方の方へふよふよ飛んで行く。
慌てて後を追うと、城内の池の側に佇む一人の老婆が……。
「おばあちゃん、こんにちは、モン!」
「おや、可愛いお人形さんだねえ~……、はあ……」
老婆は走って来た4人の顔を見て溜息をつく。そして一言、
言葉を漏らした。
「……女王様が沐浴場をお作りになった所為で、大きな地下水路が一つ、
潰れてしもうた……、あの方も考えを改めてくれんと、この国は深刻な
水不足に悩む事になるじゃろうのう……」
「婆さん……」
老婆は池を見ては息を漏らしている。ジャミルは、この池から沐浴場に
続いてないモンかと思考してみたが……。
「婆さん、俺ら凄く困ってんだよ、女王に話があるんだけど、沐浴場に
行っちまって取り繕ってくれないのさ、……沐浴場に繋がる……、秘密の
通路とか……、知らないよな……?」
暫く池だけを見つめていた老婆は最初驚いた様な顔をしていたが、
やっとジャミルの方を見る。
「わしは詳しい事は分からんが……、この城の屋上に古い水路があっての、
其処から沐浴場へ続いているとか、いないとか……、この頃、城に来ては
勝手に釣りをしている変な男がおる、何でも幼少の頃からこの城に
良く訪れていたそうじゃ、何か知っておるかも知れんのう……」
「!マ、マジでかっ、よしっ、此処でオロオロしてても拉致があかねえ、
行ってみるぞっ!」
ジャミルの言葉に皆頷き一行は再び階段をドタドタ駆け上がり、
屋上へと……。屋上へと辿り着くと、いた。確かに男が一人。
水路で釣りをしていた……。
「おーい、おっさあ~ん!」
「む?誰だい?私の釣りの邪魔をするのは……、この水路に幻の
怪魚が出たと聞き、此処に通い、獲物を狙っているんだよ……、
邪魔をしないでくれよ……」
「俺ら魚なんかどうでもいいんだよ、邪魔する気もねえよ、
ただ一つ聞きたい事があるんだ、この水路から……、沐浴場へ
行けるかもって話、聞いたんだけど……」
……男は釣りの手を一旦止め、ジャミル達の方を見る。
そして首を傾げた……。
「確かに……、おじさんは子供の頃から良くこの城に遊びに
来ていて、色んな秘密を知っている謎のおじさんさ、此処を流れる水は
沐浴場に流れ落ちているんだ、即ち此処に飛び込めばおのずと自然に
沐浴場まで流れ着く訳、だが、そんな事をすれば、君達、大怪我を
してしまうよ!?」
「そうかっ!よしっ、皆……、飛び込むぞっ!」
「ええーーっ!?」
男は再度びっくり。急いで4人を止めようとするが、時間がないと
言い、言う事を聞かない。男に話し掛けて来た少年は、自分は滝壺に
落ちても平気だった石頭だと。だが一人だけ、泣きそうな顔をしている
困った顔の少年がおり、男はこの子は嫌なんだろうなあと何だか
気の毒になった。
「ダウドっ!観念せえーいっ!時間がないっつーのっ!」
「……いーやーだああーっ!!」
「私は平気よっ、モンちゃん、私にしっかり掴まってるのよ!」
「モンーっ!」
……アイシャはぎゅっとモンを両腕に抱え、抱き締める。女の子の
アイシャでさえ、水路に飛び込むのに戸惑っていない。ダウドはもう
人生嫌になった。そうしている内、遂にジャミ公、トップバッターで
水路にドボンと飛び込んだ……。
「ほ、本当にっ!……何と言う無謀なアホ……、いや、勇気の
持ち主の少年なんだ……」
「ダウドっ、……ごめんよっ!さあ、アイシャ、僕らも後に!」
「ええ、行きましょっ!えーいっ!」
「きゃーモン!」
アルベルト、ダウドの背中を押し、水路へと突き落とす。その後、
自分も水路にダイブ。最後にモンを抱いたアイシャが飛び込んだ……。
「君達のアホな勇気に……、おじさんは感動したよ、ああ、どうか
無事でいておくれ……」
して、水路に飛び込んだ命知らず4人組とモンは水の中を凄いスピードで
何処までも流されて行った。時に、くるくる回転しながら……、只管に……。
きっと、洗濯機の中の洗濯物の気分はこんな感じなんだろうなあと、
ジャミルは流されながらそう思った……。
「……ぼー!ぼぼれひゃうごぼょおーーっ!(※訳・もー!おぼれちゃう
よおーーっ!)」
「ぎょぼごぼぉ~ん……(※訳・モォ~ン……)」
(……やべ、マジで俺も……、く、苦しくなってきた……)
後ろの方で、ダウドとモンのガボガボな声が聞こえた。
……ふざけて風呂で4分近く潜水した事のあるジャミ公で
さえ、そろそろ息が続かなくなって来た頃……、漸く光が
うっすらと見え始めた。恐らく沐浴場へと続く水路の出口で
あろう。一刻も早く空気を吸える事を願いながら、4人はそのまま
光の方へ流されていった……。
「あら?何だか……、水の流れが悪い様な……、何か詰まっている様な……」
……うわああーーーっ!!
「キャーーー!!」
「な、何なのーーっ!!」
女王も侍女達も騒然。沐浴場、天井付近から流れて来る水の中から
変な4人組と+モンが一緒に流れて来たからである。漸くゴール地点に
たどり着けたジャミル達であったが、もうヘトヘト、全身びしょ濡れ。
「助かったああ~、ふう~……」
「冗談じゃないよっ!オイラのオールバック崩れちゃったじゃないかあーーっ!!」
「何なのなんなのーーっ!!」
「また……、あなた達なのね……」
侍女達がパニックになる横で、女王は出現した4人組に呆れ、
大きな吐息を。だが、ジャミルはその場で大きく深呼吸を繰り返し、
ダウドはプリプリ怒りながら崩れたヘアスタイルを直しに掛かる。
突然乙女達の神聖な場に乱入、侵入したにも係わらず、恐れ多き
者共である……。
「あっ、女王様、皆さん、どうもすみません、突然お邪魔して
しまいまして……」
だが、礼儀正しいアルベルトだけはきちんと一応謝罪を入れた。
「アイシャ、モンのカイカイ治ったモン!お水でシラミさんも
ノミさんもみんな、一緒に流されて行っちゃったんだモン!」
「うん、良かったね、モンちゃん!でも、ちょっとスリルがあったけど、
中々面白かったね!」
「モンモンーっ!」
「……あなた達……」
「あ……」
女王は腰に片手を当て仁王立ち。鋭い目つきで4人組の方を睨んだ。
「無断侵入してくるなんて、あなた達、相当しつこいわね、大方、
果実を取り返しに来たんでしょうけど、もう遅いわよ、これを
見なさい……」
「……っ!!」
ジャミル達は騒然……。お湯の中に彼方此方に散りばめられた
女神の果実が無残に浮かんでいたからである。……やはり
間に合わなかったのだった……。
「ち、畜生……、俺ら命懸けで……、必死に此処まで来たんだぞ、
なのに……」
「ジャミル……」
「酷いわ……、こんなのってないわよ……、意地悪過ぎよ……」
「モン~……」
「えうう~、……これじゃあ~……、流された意味、ないよおお~……」
ジャミルは怒りで拳を握り震わせる……。そんなジャミルの姿を見、
……仲間達も落胆と失望、……悲しみに暮れるのだった……。
「残念だったわね、でも、お前達もこのままでは済まさなくてよ?
神聖な場に無断侵入したのですからね!まずは纏めて全員牢屋に
入って貰いましょうか!その後、それなりにあんた達に相応しい刑を
考えてあげるわ!楽しみにしていなさい!」
「……この野郎……」
「おーほっほっほっ!惨めなザマですこと!……あら?」
「きょっ、きょっ……」
お湯の中からペットのアノンが現れた。アノンはスライスした
果実の破片を口に加え、ムシャムシャと食べているのである……。
(……ジャミ公っ、駄目だよっ!あのトカゲを止めなきゃっ!!)
「……や、やめろおおーーっ!!」
「あなたっ!アノンちゃんに乱暴までする気なのっ!?このままだと、
問答無用で即絞首刑決定よっ!!」
「きょっ……」
「ジャミルっ!……抑えるんだっ!!も、もう……、間に合わないよ……」
「アルーーっ!放せよーーっ!!」
だが、もう本当に何もかも遅く……、アノンは口にした果実を
既にペロリと平らげてしまう。今にも女王に掴み掛かろうとする
ジャミルを……、アルベルトは必死に止めようとした。だが、
アルベルト本人も悔しくて悔しくて仕方がなかったのだった……。
(ウソ……、もう駄目じゃん……、こんなの酷くネ?……酷いヨ……)
「アノンちゃん、おいしかったかしら?ごめんなさいね~、嫌らしい
変な人達にびっくりしちゃったわね、さあ、もう一度身体を綺麗に
洗ってあげますからね~!」
「きょっ、きょっ……」
「アノンちゃん……?どうしたの?……あ、ああーーっ!!」
「キョーーーーーッ!!」
「ジャミルっ、何だかアノンちゃんの様子がおかしいわよ!」
「ああ、果実の所為だ……、こうなるからっ!!」
「……きゃああーーーーっ!!」
アノンの身体が光り出したかと思うと……、ふわりと空中に浮かぶ。
その後、アノンは恐ろしい変貌を遂げる……。一回りも二回りもある
巨大な大トカゲのモンスターの姿になってしまったのだった……。
モンスターへと変貌を遂げたアノンは、女王の前にそのままズシン
ズシンと迫り、女王をじっと見つめている……。
「ァ、ァァァ……、アノンちゃんが、アノンちゃんがああーーっ!
だ、誰か……、助け……、……ヒィィィィーーっ!!助けてえええ
ーーーっ!!いやああーーーっ!!」
アノンは巨大な身体であるにも係わらず、女王の身体を掴んだかと
思いきや、近くにあった井戸の中へと身を投じ、姿を消して
しまったのだった……。
「ジャミル!アノンが女王様をっ!直ぐに助けに行かなくちゃ!
……ジャミル……?」
だが、アルベルトに言われても、ジャミルはその場を暫く動く
事が出来ず……。女王を助けに行くのに気が進まなかったのである。
少しは懲りりゃいい、痛い目に遭えばいいんだと。そんな気持ちが
ふつふつと浮かび上がる。だが、その気持ちは侍女達が彼女達の本音で
代弁してくれたのだった。
「ふん、いい気味よ、大体普段から我儘放題やりたい放題の
しっぺ返しが来たんだわ、バチが当たったのよ!」
「ほ~んとっ、このままあの女王、いなくなってくれればいいのにっ!!」
「清々するわよねっ!!」
「……ジャミル、早く女王様を助けにいかないとこのままじゃ大変な
事になるわよっ!!」
「けどよ……」
「何だか……、嫌にジャミルらしくないよお~……、どうしたのさ……」
「ジャミル……、モン~……」
しかし、アイシャやダウドにそう言われても、どうしても今回は
助けに動く気持ちが起きず。そんな心境の戸惑っている中、
ジャミルに侍女達も笑いながら声を掛けた。
「心配しなくていいわよ、あなた達、女王様なんかこのまま戻って
来ない方がいいのよ、ほおっておきなさいって!うっかり戻って
来たら、ま~た酷い事されるわよ?」
(……分かってんだよ、このままじゃ……、けど……)
ジャミルの中で二つの大きな気持ちがぶつかり合っていた。早く
女王を助けに向かわなくてはならない、だがどうしても女王の
犯した事を許す事が出来ない、複雑な気持ちが絡み合って……。
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