
茸人
茸のSFです
天の川銀河系から、我々のキノコ銀河系に謎の宇宙船が到着した。
キノコ銀河系には何億という星がある。その真ん中あたりに、ゴンバという恒星があり、その回りを二十一個もの惑星がまわっている。ゴンバを中心に21の惑星からなるゴンバ系である。われわれは第八惑星のフンゴの人間である。フンゴがキノコ銀河系で最も文化が成熟し科学の発達した星である、そういうこともあり、キノコ銀河の大統領星はフンゴとなっている。フンゴ人はキノコ銀河系の発展途上の星に行って、先進科学の発展を指導していることからどの星からも敬われている。
我々の食べ物はキノコという胞子生物で、それしか食べることができない。自然にも生えていて、昔のフンゴ人はそれをとって食べていた。しかし、今では、天然キノコに毒が生じるようになり、食べられキノコは、培養キノコしかない現状である。よりよいキノコが開発され、培養される事で、食べ物は安定して供給され、フンゴ人の健康はすこぶるよい状況である。
フンゴ人の祖先はキノコを主食とするサルと呼ばれる動物である。それが何千万年かかけて進化しフンゴ人にいたった。ということで、能力の進化したフンゴ人は無毒のおいしいキノコの生産に成功し人口は見る見る増えたのであった。
世界中に食料キノコの培養工場がつくられ、フンゴ人の食料をまかなっており、今まで安定した食糧供給をおこなってきている。ところが、今、フンゴ星で大変なことが起きていた。どの工場でもキノコの発育が悪く、五十億人いるフンゴ星人の食糧問題になってきているのである。このままでいくと数十年後には人口は減る方向になるだろう。
栽培キノコに異変の原因は遺伝子の老化だといわれている。より生産性の高いキノコの遺伝子しか残してこなかったのがいけなかったようだ。いろいろなキノコの培養をしておけばよかったのだが、食料のために遺伝子操作でかぎられた種類しかいかしておかなかった。今自然界にあるキノコはすべて有毒で、しかも昔から比べて、さらに毒性が強くなってきている。
そのようなとき、どこかの宇宙船がただよって、キノコ銀河にはいりこんできたというわけである。その宇宙艇は、宇宙パトロール艇に牽引され、防衛研究所に収納された。
宇宙船の中を透視線で調べると、宇宙人の死体が少数確認された。宇宙人は二メートルに届かないほど小さかった。われわれの半分ほどの大きさである。ただ、その星人の姿は、我々フンゴと同じように二本の手足と頭と胴があり、二本足で歩いていた優れた星人であることが推測された。
厳重な防疫体制のもとで、宇宙船の中に係官がはいった。宇宙船にはとても精巧にできたマシーンで、高度なコンピュータが搭載されていた。宇宙船の中にあった星人の死体は、異星人研究所に運ばれ、からだの解析が始まった。
捕獲した宇宙船がどこからきたのか大変な謎だったが、船内に残されていた図などを詳細に解析した結果では、かなり遠い銀河系であることがわかった。
さらに、時間はかかったが、宇宙船のコンピュータを作動させることに成功した。これはゴンバ星の科学者がいかに優秀か示すものである。異なった思考方法により作られたマシーンは想像できない分だけ解析は難航する。ともかく、この宇宙船のコンピューター言語があきらかになったことで、この宇宙人の星の解析が飛躍的にすすんだ。
星人たちの言語体系も明らかにされ、数千光年はなれたところにある、天の川と彼らが呼んでいる銀河の、太陽系という恒星系からきたことがわかった。恒星の名は太陽で、八つの惑星があり、第三惑星の、地球と呼ぶ惑星から来た星人たちだった。
地球人のからだはフンゴ人とおなじように細胞組織によって構成され、酸素を利用して生命活動が行われていたことが明らかにされた。そうなると、構造も推測でき、キノコなどの栄養を吸収、酸素を吸収、それをもとに細胞を構築し、化学反応で生命維持を行うのは我々とほぼ同じだった。
さらに重要なことがあった。搭乗していた地球人は十人ほどで、フンゴ人と同じように、茸を食していたことがあきらかになったのである。というのも、長い旅行を装丁したのであろう、宇宙船の半分を占めているほど広いキノコの培養室があった。培養中だったと思われる大きなキノコが茶色くかさかさになり折り重なっていた。かさかさにしなびているが、かなり大きくて、フンゴ人の赤ん坊ほどの大きさだ。我々の星のキノコと同じだとすれば、我々の星でも食用として栽培できる可能性がある。
どのような味がするキノコなのだろう。茶色く枯れてはいるが、胞子を培養すればよいのである。そのキノコには毒もなく、我々の体によい成分がたくさんふくまれることがわかった。宇宙キノコと呼ばれ、キノコ研究所で培養試験がはじまった。宇宙船にあったキノコ培養施設を参考にフンゴにも同様の培養施設をいくつかの地域に作った。
地球の文化の研究も進み、難破船は宇宙博物館に展示され、フンゴ人たちは家族で見にいった。背の高さはフンゴ星人半分ほどしかない地球人の模型の展示は子供たちに人気があった。星人たちが着ていた服が再現され、博物館の記念品売場で売り出したが、小学生にぴったりで飛ぶように売れた。
地球の宇宙船がきてから5年ほどたった、
キノコ研究所の培養室では宇宙キノコが増殖し始めていた。ずいぶんと伸長が遅いキノコである。菌糸はフンゴ星にあるキノコとはずいぶん異なり、目で見えるほど太く、大きな網のボールを培養土の中でつくった。そこから菌糸の枝がでてくると、表面に子実体の頭が出てき始めた。
時間はかかったが、地球人の大きさと同じほどの大きなキノコが育ってきた。フンゴ人のこどもの背丈とおなじだ。
キノコ研究所の所長が記者会見して、その写真を見せ詳細な説明をした。
新聞記者から質問がでた。
「写真を見ると、ずいぶん大きいキノコですが、みんなこの大きさに育つのですか」
「いまのところ、そうだ、ずいぶん立派で、食糧難は解消されるだろう」
「もう食べてみたのですか」
「毒がないことは分かっているが、培養が大変で、菌糸から頭が生えたときに、とろうとピンセットで触れると、あっという間に縮んでしまったので、ふれないように大事に育てている、まだ大きくなったキノコはないので、味についてはわからない」
「キノコがいろいろな色をしていますが、異なった種類のキノコなのですか」
フンゴ星のキノコは何種類かあるが、種類がちがうと形が異なるが、色はどれも真っ白である。
「異なった種類かどうかはまだ明らかではない」
フンゴ人の食べられるものはキノコだけである。地球人たちが食べていたキノコの栽培がうまく行けば、フンゴ星の未来も開けてくる。
その後もなんどか、蕈研究所との記者会見が行われた。
「とても発育が遅いのですが、子実体は一メートルになりました、長い間、傘がゆらゆらゆれているだけで、傘はまだ開いていません。われわれは宇宙キノコの胞子をとって、どんどん増やしたいのだが、まだそこまでたっしていない」
「難破船がきて八年も立っています、培養はすぐはじめたのですね、ずいぶん発育の遅いきのこですね」
「その通りだが、この培養がうまくいくと、フンゴ星は食料危機をのりこえることができるので、みていてください」
あるテレビ局で宇宙キノコ特集をくみ、記者がキノコ研究所に取材に行った、テレビ記者が特別に入室を許され栽培状況を中継した。
「地球という星からやってきたキノコは、まだ成長途上ですが、大きさは小学生ほどになっています。所長さんの話では、発見されたときより数倍の大きさになってしまったのは、地球という星の重力より、我々の住んでいるフンゴの重力が小さいからだろうと、はなしています。これは食料として大変有益なものになると思います」
記者はそういって、培地の上にニョキニョキ生えている宇宙キノコを指さした。
赤、黄色、白の蕈の傘はまだ硬いままである。
大変なことがおきたのはその翌日だ。
キノコ研究所がおそわれた。貴重な宇宙キノコがすべて持ち去られ、培養担当の研究員八人は盗賊たちに眠らされ盗まれたことに気づかなかった。守衛も同じように気を失っていて、研究所員の出入り口が開けられたままだったという。
研究員や守衛の話では、いきなり眠くなったと証言していることから、空気中に睡眠薬のようなものがまかれたのだろうと考えられた。しかし、睡眠薬の成分は空気中にも、被害者の体からも検出されなかった
宇宙キノコは誰がどこに持ち去ったのか手がかりは全くなかったのである。
キノコ研究所では、培地に残されていた菌糸を大事にそだてようとしたのだが、すぐに枯れてしまいなにもなくなってしまった。
残されたのは映像だけであった。
そのような事件からだいぶ経ってからである。亜熱帯地域にある一つの食料キノコ工場に異変が起きた。食料キノコが生えなくなったのである。食糧庁とキノコ研究所で調査団が結成され調査が始まった。
調べられた結果では、キノコの培地の成分が変わってしまっていたためであることがわかった。フンゴ星のキノコには全く適さない培地であった。
キノコ研究所から派遣された調査員の一人が、大事なことに気がついた。
「培地の成分が、宇宙キノコの培地に似ていますね」
その研究員は、宇宙キノコの培養に携わっていて、盗まれたときに管理をしていた一人だった。
食料キノコの工場の係員は培地に手を加えるようなことはしていないと言った。
しばらくすると、キノコの生えなくなった食料キノコ工場の培地に、宇宙キノコが生えてきた。
キノコ研究所は、工場のある地域とは、飛行艇で十時間とずいぶん離れている。盗まれた宇宙キノコがその地域に持ち去られ、胞子が散ったのではないかと考えたが、盗んでなぜそこに持ち込まれたのか疑問に思った政府は、宇宙防衛軍に協力を頼み、大々的な調査を始めた。しかし、なかなかわからなかった。
一方、研究所で数年かけて育った宇宙キノコとは違って、亜熱帯のそこの工場の宇宙キノコの生育ははやく、あっというまに、フンゴ人の小学生ほどの大きさになった。宇宙キノコも食料になると考えていた政府は、キノコ研究所にそこでの培養を指導するようにいいわたした。
キノコ研究所の所長は、その地で記者会見し、テレビ記者に言った。
「盗まれた胞子の成熟した宇宙キノコは、この地域のどこかに持ってこられ、傘を開いたキノコから放出された胞子が、この地域の工場にはいり、宇宙キノコの菌糸がはびこってしまったのだと考えられます。
宇宙キノコの胞子が発芽し、食料キノコの菌糸を分解して、自分に会った培地に作り替え、自分の菌糸をのばし、子実体をだしたのでしょう」
そのような説明を国民にしたのである。
培養室の中には、培地いっぱいに広がった菌糸から赤、黄色、白の大きな宇宙キノコがニョキニョキ生えている。
「今日、記者のみなさんに、このキノコを刈り取って、味をみてもらおうと考えています」
キノコ研究所の所長がそういうと、記者たちから、おーっという、声があがった。
工場の培養担当の者が培養室に入り、大きな赤い傘のキノコの柄の下をナイフで切ろうとしたときに、そのフンゴ人はぱたっと倒れてしまった。
みんな驚いてみていると、赤いキノコが、ぴょいと培地から飛び出し、かぶせてあった透明のドームをつきやぶって、空中を浮遊して、培養室からでてきた。
呆気にとられていたフンゴ人たちは、目の前にきた赤いキノコが、
「おまえら、これからは、我々のこということをよくきけ」
といったにも関わらず、誰が言ったのだと、あたりをみまわした。
培養室から、他の宇宙キノコたちが、傘でドームをつき破り、宙を飛んででてくると、回りを取り囲んだ。ずい分頭の固い茸である。
そこでやっと宇宙キノコがしゃべっていることに気がついたのである。
「我々は、フンジー星人だ、キノコ銀河の星で生まれたのだが、その星は大昔にブラックホールにかわり、それを察知した我々の祖先は、すんでいる星が破壊される前に胞子を放出した、からイからに包まれている我々の胞子は、真空でも生きている。それが宇宙にただよい、キノコ銀河から天の川銀河にながれついたのだ。その中の恒星系の惑星に到達した。それが太陽系の地球だ。地球上で、我々の胞子は発芽し、菌糸をのばした。そして、我々は育った。そのころ、やっと宇宙旅行に行けるまで科学の発達した人間世界を、征服したのだ、彼らを奴隷にし、遠距離宇宙船を作って、キノコ銀河に戻ってきた、ということだ、地球人は宇宙船の中で死に絶えたが、我々の胞子は無事にここにきたというわけだ」
テレビで記者会見を見ていた、防衛庁長官はすべてをさとった。
テレビでは、宇宙キノコがしゃべり続けていた。
「この星の住人は、我々の言うことにしたがえ、そうしなければ、食用キノコの栽培はできなくなる、おまえたちは飢え死にだ、それがいやなら、我々の住みよい星に変えるので手伝え」
防衛長官は、大型宇宙艇を密かに作ることを命じた。できるだけたくさんのフンゴ人をこの星から逃がすのだ、
キノコ研究所に電話をかけた。
地方の食料キノコ工場にいかなかった副所長がでた。
「ほかの地方のキノコ工場に、よそから胞子が入り込まないように気をつけるように注意を促し、いそいで、缶詰など食料保存キノコの生産を始めるよう言ってください」
と伝え、大統領府にことの次第を伝えるためでかけた。
防衛庁長官は大統領に言った。
「迷い込んできた宇宙艇のキノコは食料キノコではなく、あれが宇宙艇の主人だったのです、宇宙艇の主だと思っていた我々に似ていた地球人は、奴隷にされていた者たちにすぎません」
テレビで宇宙キノコが言っていることを見ていた大統領もうなずいた。
「それで、あの麻酔力のあるフンジー星人の胞子で食料キノコが全滅されてしまうと、我々は死滅します。いまのうちに、できるだけたくさんのフンゴ人をほかの星に移住させなければなりません」
「わかった、全国民に私から、逃げる準備をするように言おう」
「保存用の食料キノコの生産は、キノコ研究所にたのみました」
「わかった」
「大統領、怖い相手ですが、幸いにもキノコには手がありません、何かを作ることができないのです、だが、あの麻酔力のある胞子にはかないません」
「逃げるが勝ちだな」
およそ1%のフンゴ人たちは、ありったけの宇宙船でキノコ銀河の住める星にむかった。
地上に残ったフンゴ人は、フンジー星人に支配され、食料のキノコの生産を許されたかわりに、宇宙キノコのために培地を管理しているのである。
フンゴ星を飛び出したすべての宇宙船で思わぬことが起きていた。食料用キノコの培養室から宇宙キノコが生えてきた。フンジー星人である。
やがて、宇宙船にのっていたフンゴ人は食糧がなく、すべて生き絶えてしまった。フンジー星人も培養室で茶色く枯れていった。ただ胞子だけは殻に包まれて生きていたのである。
宇宙船は宇宙の果てまでさまよい、ふたたび、キノコを主食とする星に到着するだろう。そこで同じことが繰りかえされる。こうやって、手足のない茸人であるフンジー星人は、手足を持つ星人が開発していく宇宙の中で、領地を広げていくのである。
茸人