zoku勇者 ドラクエⅨ編 36
今は遠い君へ
一時の休憩を終え、4人は再び遺跡内を動き出す。メタルスライムとは
遭遇出来たが、ややこしい選択肢も……。はにわナイト×3、メタルスライム
一匹。
「面倒くせー、こいつ、火吹いてくるし、俺らのLVが高くても
集団だと厄介……」
と、言ってる間に、はにわナイトにダウドが先制リンチされ、ダウドは
髪の毛を燃やされる。……アフロになったダウドはぎゃんぎゃん吠えた。
「うるせーってのっ!暫く立てば元に戻るだろっ、我慢しろっ!!」
「……びええーーっ!ジャミルのアホーーっ!!」
「とにかく、ま、運だな……、アイシャ、取りあえずチクチク
責めててくれや、はにわには構ってらんねえ、アルもダウドも
メタルスライムだけ集中攻撃だ……」
「了解!」
「ういーす……」
「頑張るねっ!」
アイシャは魔結界を張る。そしてメタルスライムに突っ込んでいった。
そして、今回、運良く急所を突いて一撃でメタルスライムを仕留めたの
だった。
「……あはっ、や、やったわっ!」
「おしっ、偉いぞアイシャっ!!」
「凄いよっ!!」
「やったねえーっ!
「やったモンモン!」
「え、えへへ……」
仲間達に絶賛され、アイシャは顔を赤らめる。サンディにも
アンタ凄いじゃん!と、いい子いい子されてしまう。こんな調子で、
メタルスライム狩りの調子は急に運を増す。遭遇率も上がり、
無事に3匹仕留める事が出来たのだった……。
「……皆、アイシャ……、本当に有り難う、お陰で僕、無事に魔法戦士に
なれそうだよ、本当に有り難う、……僕、僕、何て言ったらいいのか……、
本当に……」
「よ、よせよ、だから、んなに畏まんなくていーってのっ!それに、これで
終わった訳じゃねえだろ、これから又大変だぞ、LV上げだってあるんだぞ、
覚悟してろよ……」
「ああ、分かってるさ!」
そう、転職してからが本当のトレーニングである。恐らく、LVが皆に
追いつくまでは、アルベルトは何度も何度も棺桶に入る事だろう。覚悟の上で
アルベルトは自分に気合いを入れるのだった。……しかし、直後疲れも
堪っていた4人は、揃って一斉に大欠伸を噛ました……。
「取りあえず、暫くはダーマで休もうや、俺もうクタクタだわ……」
「モン、お腹空いたんだモン……」
……それはいつもだわとアイシャは思う。だが、ちょっとある事を
思い出したのである。
「ルーフィン先生、あれからどうしてるのかしら……」
「そ、そうか、此処、ベクセリアの遺跡だったんだよな……」
アイシャにそう言われ、ジャミルも思い出す。最愛の伴侶を失った
ルーフィンはその後、今どうしているのかと、気になって来た……。
「そうだね、行ってみようか、休憩ならベクセリアでも出来るし……」
「オイラも……、休憩出来るなら何処でもいいよお……、疲れた……」
「モンも!ご飯食べられるなら何処でもいいモン!」
……それはいつもだろと、ジャミ公は思う。サンディも、ま、
いいんじゃネ?と了解してくれ、4人は久しぶりにベクセリアにも
足を運び、懐かしいあの人に会いに行こう、ツアー急遽第2弾を
決行する事となった。
「……エリザさん、久しぶり、こんちは……、色々あって、又此処に
邪魔させて貰う事になったんだ、又暫く宜しくな……」
久々のベクセリア。此処に訪れたなら、一番最初にやるべき事、
エリザの墓参りと彼女への挨拶。……彼女の墓前には常に沢山の
花束がいつも絶えない様であった。して、次は当然、元・傲慢
考古学者、ルーフィン大先生の研究室前へ……。以前の様に鍵は
もう掛かっていなかったが、ジャミルはおどけて、エリザ式ドア
ノックで研究室前のドアを叩いた。
「この音は……、はい……」
「や、先生こんちは!久しぶりー!」
「お久しぶりですーっ!」
「モンモン!」
「やっぱり……、ジャミルさん、皆さんでしたか……、ああ……」
ノックの音を聞きつけたルーフィンは直ぐに応対してくれ、笑顔で皆を
迎え入れてくれた。4人もルーフィンと再会の握手をする。ルーフィンは
もうすっかり人当たりが良くなっていたが、研究や仕事に没頭すると
風呂に入らない癖は相変わらずらしく、無精髭、汚れた白衣にボサボサの
髪とぽろぽろ零れている頭のフケはそのまんまだった。
「今、自宅の方の鍵を開けますので、さあ、どうぞどうぞ!ちょっと
散らかってますけど……」
4人は研究室前からエリザとルーフィンの自宅へと移動し、中に通される。
応接間で腰を落ち着け休ませて貰っていると、台所からルーフィンが
クッキーを持って姿を現す。……最愛の妻が生前に残してくれたレシピで
作ったクッキーを……。
「さあ、どうぞ、自慢じゃないですが、暇さえあればクッキーを
作っている間に、僕はどうやら妻よりもクッキー作りが上手く
なってしまった様で……、どうですかね……?」
……エリザがこの場にいたら、ぷんぷん怒りそうであるが……。4人は
クッキーを頂く。確かにエリザが生前作った物よりも遥かに美味しかった。
研究熱心なルーフィンの事、きっとクッキー作りにもとことんチャレンジ
したんだろうなあと、ジャミルはクッキーを掻い摘まみながらそう思った。
「うん、美味いよ、先生!」
「丁度良い甘さに塩加減も最高ですよ!」
「ふう、お茶も合わせて飲むと、本当に美味しいわあー!」
「おいしーおいしーよお!」
「そ、そうですか……、良かった……」
食いしん坊評論家達に絶賛され、ルーフィンは笑顔になる。そして、
このお方は……。
「むしやむしゃ、ばーりばりっ!!ばりばり、ばりばりっ!!ぼりぼりっ!!
……ぶっ!!」
「……こ、こらっ、モンっ!!」
ホラーカオス顔でクッキーをむさぼるモンに慌てて注意するジャミ公。
ジャミ公も意地汚いのだが、飼い主に輪を掛けてその食い意地は数ン倍。
今日は特に腹が減っているので。
「はは、いいんですよ、それにしても相変わらず面白いお人形さんだ……、
……」
「先生……?」
ジャミルはルーフィンの笑顔に何か少し気になる処が見え……。本の一瞬、
ルーフィンが顔を曇らせたのである……。
「は……、あ、ああ、すみません、……」
「先生、何かあったのかい……?」
ジャミルの言葉に反応し、アルベルトもアイシャもダウドも……、
食べる手を止め、ルーフィンの顔を見上げた……。
「はあ、ジャミルさんには直ぐに分かってしまうんですね、僕はどうも隙を
見せてしまう、駄目駄目ですね……」
「なあ、俺らで良かったら、何でも言ってくれよ、力になるよ……」
「……」
ルーフィンは最初、戸惑った様な顔をしていたが……、彼にとっては
余程の事らしく、ジャミルを信頼している所為か、ついぽつりと……、
言葉を漏らす……。
「これは僕自身の問題でして、……こんな事、人に言うべきでは無いのかも
知れませんが、……実はエリザのお義父さんから……、再婚話を持ち掛け
られまして……」
「……さ、再婚!?」
「!!」
「……君が娘の事を想っていてくれるのは親としてもとても嬉しい、
……だが、君には君の本当の幸せをそろそろ考えるべきだと、
いつまでも娘に縛られないで自由に生きて欲しいと、そう……、
お義父さんに……」
「先生……」
「僕の幸せは……、今もエリザの事だけです、……側にいなくても……、
彼女の思い出が此処にあるだけで……、それが……、僕の……」
俯いていたルーフィンはジャミルの方を向いて静かに笑みを見せる。
だがその顔は……、酷く悲しげな、淋しそうな笑顔であった……。
「すみません、こんな話をジャミルさん達にしてしまって、もしも不愉快な
気分にさせてしまったら申し訳ありません……」
「い、いや……」
「僕、最近本当にとても変わったって言われるんですよ、……エリザと
皆さんのお陰ですね、……笑顔は大切なんだって分かりましたから……」
ルーフィンは笑顔のままだった。だが、やはりその今の笑顔は無理を
している作り笑いである。エリザの父親は義息子であるルーフィンの
幸せを心から望んでいるからこそ……。けれど、大切な亡き妻エリザの
思い出を心に留めているルーフィン本人にとってそれは決して望んでいる
幸せではない。
「あ、僕、まだ仕事がありますので、一旦これで、ですが、
ジャミルさん達は此処で宜しければゆっくりしていって
下さると僕も嬉しいです、又、夜には戻りますので……、
積もる話もあるでしょうし、色々と是非、冒険談を聞かせて
貰いたいですから……」
「うん、先生が構わないなら甘えさせて貰って俺ら暫く先生の家で
休ませて貰っていいかい?」
「勿論……」
ルーフィンは4人に手を振ると家を出て行く。のそのそと家を後にし、
歩いて行くルーフィンの頭から白いフケが大量にバサバサと落ちた。
「たくもうっ!ちゃんと風呂ぐらい入りなさいってのっ!臭うじゃん!
……に、しても、あのツラ、いかにもな~んか思い詰めてマスって感じで
陰気で嫌なのよネ~!カッコつけて無理しちゃってサ!」
妖精モードのサンディが飛び出す。……仕方ねえだろとジャミルは思うが……。
「……オホホ、アンタもうるさくて嫌モンザマスなのよネ~!おほほ、
お~ほほほ!」
「何ヨっ、デブ座布団っ!!」
「シャアーーっ!!」
……この2人は遊んで貰っていて……、何か出来る事はねえかとジャミルは
悩み出す。もしかしたらお節介かも知れないが……、4人は同じ気持ちだった。
確かに、ルーフィンの心にはいつまでもエリザがいて欲しい、だが、エリザの
父親が心配してくれている様に、やはりルーフィン自身のこれからの未来も
考えた方がいいのではないかと……。
「ねえねえ、考えててもしょうがないよっ!私、まずはルーフィンさんの為に
お台所をお借りして美味しい夕食を作らせて貰おうと思うのっ!」
「……それだけはよせーーっ!!」
「人類の平和の為にーーっ!!」
「オイラ達の未来もないよおおーーっ!!」
「……何よおーーっ!!」
「モンよおーーっ!!」
男性陣は泣いて喚いてアイシャの破壊クッキングを阻止。
此処では何とか諦めてくれたが、船に戻ったら、
……新レパートリーの青椒肉絲を作るからねっ!と、
脅しを掛けるのも忘れず。結局その日は仕事から帰った
ルーフィンが作ってくれた夕食を一緒に頂いた。簡単な
肉料理ではあったが、隠し味のワインが効いていて実に
美味であった。
「久しぶりですね、こんな賑やかなのは……、エリザが
いなくなってから、いつも夕食は本当に独りでしたから……、
最も、仕事の傍ら、いつも研究室で食べてましたけどね、
あ、す、すいません、又僕はこんな……」
「い、いや……、けど先生、料理スゲー上手いんだなあ!」
「モンモン!うんまいなあ!モン!」
「そ、そうでしょうか……、はは……」
ジャミルとモンは大口を開け、夕食をガツガツ。飼い主、連れ、全くの
素振りのアホコンビにアルベルトは呆れ、ルーフィンに慌てて謝るが、
いいんですよと笑う。
「はは、ははは……、処で、皆さんはいつまで此処に?」
ルーフィンに聞かれ、ジャミルは食べる手を止め、仲間達の方を見る。
本当は少しだけ顔を見たら戻るつもりだったのだが……。
「うん、元々ちょっと又、遺跡に用があって、その帰り、先生の処へと
思ってさ……」
「そう……、ですよね、皆さんも冒険者さんなんですから、
お忙しいですよね、出来れば、もう2、3日、此処にいて……、
あ、す、すいません……」
「先生……?」
「あの頃の僕は……、何も知らなかった……、自分さえよければ、
仕事や研究に没頭するばかりで……、何事も結果に満足出来たなら
それでどうでもよかった、誰かがいつも側にいてくれる事の本当の
幸せに……、気づけなかった、……僕は……」
「あのさ、先生……」
「あ……、本当に今日は僕……、おかしいですね、ははは、はは……、
少し夜空の下を散歩でもしてきましょうかね……、ど、どうぞ、皆さん
お構いなく、ごゆっくりと……」
ルーフィンは笑いながら再び外に出て行く。……やはり明らかに町長に
言われた事を、……返答にずっと悩んでいるのかも知れなかったが……。
「ねえ、ジャミル、行ってあげて、ルーフィンさん、きっとエリザさんの
所よ……」
アイシャにそう言われるが……、普段実際こう言う事に無知であるから、
ジャミルも困っているんである。
「……俺が言ったって何もしてやれねえし、どうにもなんねえよ……」
「いや、君だからこそ、いいんじゃないかな……」
「アル?」
「君のその、人を引き付ける明るい素直な性格がルーフィンさんの心の鍵を
開ける切欠にもなったんだ、だから僕らが此処に来た時に、本音をポロリと
打ち明けたのも、きっと……」
「だよねえ、オイラも最初変わりっぷりにびっくりしたし、……あのツンツン
頑固頭が……、っと、やっぱり少し誰かさんの影響受けちゃったのかもねえ~!」
「ホント、あのおっさんも頼むから影響されすぎてアホにだけはならないで
欲しいよネ!」
「……ヘタレもガングロもうっせーぞっ!……分かった、何も出来ねえけど、
俺が何とか話してみる……」
「あはっ、それでこそジャミルよっ!」
「モンーっ!」
「うん、久々にアンタが元・天使だってコト、忘れてたわ、
此処はいっちょ、久々にカウンセラーいっちょいっときましょ
ーカっ!」
アイシャとサンディ、女子共に押され、半分渋々ではあったが、
ジャミルもルーフィンを追って外へ……。行き先は一つ、……彼の
最愛の愛しき妻が眠る場所……。だが、実際、近づいてくる墓地を
前にし、本当にどうルーフィンと何を話をしたらいいのか……、
現時点では全く分からず……。
「いた、やっぱり……、先生……」
ルーフィンはやはり丘の上の墓地にいた。薄暗い闇の中、愛しき妻、
エリザが眠る墓の前に……。
「やあ、エリザ、……今晩は、来てしまったよ、……君に逢いたくて
……ね、……、僕はどうしてしまったのかな、最近とても夜の闇が怖い、
独りでいるのが不安になる、ルーくん子供みたいって君は笑うかな?
……怖いんだ……、こんな事は……」
「……先生……」
「……先生……」
こっそり暫く様子を見ようと思ったのだが、ついジャミルは声を出して
しまった。突如、薄暗い周囲から聞こえた声にルーフィンは最初戸惑って
いたが、後ろを振り返り、そして声の主に納得。
「ジャミルさん……」
「あ、あはは、俺も散歩……で、此処通り掛かったら、先生がいたからさ!」
「あなたも嘘が下手ですね、普通こんな処、夜に散歩に来る訳がないじゃない
ですか、僕を心配して来てくれたのではないんですか?」
「あう~……」
項垂れるジャミ公を見てルーフィンが笑う。……のだが、直ぐに顔を曇らせた……。
「不思議です、やはりあなたといると僕は素直になれる……、ジャミルさん、
僕は、本当は……」
「やっぱり……、独りは寂しいんだろ……?」
「……そう……かも知れません……」
ルーフィンはそう言うと愛しい妻が眠る場所の前に腰を下ろす。ジャミルも
ルーフィンの隣へ腰を落ち着け座る。……2人は暫くそのまま何も喋らず
押し黙っていた……。
「俺だってそうだよ、今はあいつらが一緒にいてくれるから……、でもさ、
もしも……って、時々考える事があるんだ、……耐えらんねえよ……」
「そうですね……、でも、遅かれ早かれ、人間はいつか神の元へと
帰ります、それはもう決められている事……、僕達は別れの時が
訪れるのが早かっただけです、こうやって項垂れていてももう
エリザは帰って来ませんし、仕方の無い事なのですがね、いつか、
僕も……」
それまで座っていたルーフィンは立ち上がると幾千の星が瞬く夜空を見上げる。
……もしかしたら、この夜空の何処かにいるかも知れないエリザを探して
いるのではないかと……、ジャミルはそんな気がしてならなかった……。
「あれから色々と考えてみました、お義父さんに伝える言葉も……、
僕はやはり今のまま、このままでいる事にします……」
「やっぱりな、そう言うと思ったよ、あんたも頑固だしな……」
「ジャミルさんに言われたくないです、アルベルトさんから
色々聞いてます、言い出したら何が何でもその通り実行しないと
気が済まない変な男なんだと、でも失敗する確率も多いのだとか……」
「あいつ……、で、でも、まあ……、先生、あんた本当にいいのかい?」
「ええ、確かに独りでいる夜の闇は孤独で淋しい時があります……、
でも……、あなたと話していて、たった今感じました……、
もしかしたら気弱な僕をエリザがこっそり見守ってくれていて
笑ってくれるかも知れない、そう考えたらヘタレな僕でいるのも
楽しいかなと……」
「たく……、心配して損した……、先生、ヘタレなら俺んちのダウドに
弟子入りするか?」
「いえ、免許皆伝の彼には敵わないでしょうね……」
ルーフィンは再びジャミルに笑顔を見せる。だが、悩んでいた彼も
いつの間にか本当の笑顔を見せていた事に気づく。やっぱりルーフィンは
新しい生活を送るよりもエリザとの思い出の中でこれからも生きていく方が
幸せなのかも知れないと……。人によって何が幸せかなんて、本人でないと
分からないのだから……。
「さあ、戻りましょうか、段々と風が冷たくなって来ました、明日、
お義父さんにはきちんと伝えるつもりです……」
「ああ、俺らも一緒に行くよ、久々にあそこん家にも挨拶したいからな!」
「はい、ではお願いしますね、……エリザ、またね……」
ルーフィンとジャミルは墓地を後にし、2人でのそのそ帰り道を
歩いて行った。そして、翌日……。ルーフィンはエリザの父親に
素直に自分の気持ちを伝える。……これからもどうかエリザと
一緒にいさせて下さいと。町長、……父親は呆れて凄い剣幕で
泣いていた。ルーフィンの頑固さに……。
「この……、バカ息子めが、人が折角……、見合いの席まで
用意しようと……」
「あなた、本当は嬉しいんでしょう?……私もそうですよ……、
先生、有り難う……」
「……馬鹿者っ、な、何が嬉しいか!こ、これは呆れて泣いておるんだっ!
うう~……」
「ジャミルさん達もお久しぶりですね、来てくれて有り難うございます……」
「おお、ジャミル殿……、皆さん、済まない、こ、このバカ息子の所為で、
こ、こんな……、みっともない場面を……、う、うう~……、うう~っ!!
……ひ、ひい~っぐしっ!!」
「……い、いや、ぷぷ……」
……ジャミルは鼻を赤くして号泣し続ける町長の姿に吹きそうになったが、
アルベルトに足を踏まれる。そんなこんなで、無事に自分の意思をちゃんと
義理父へと伝える事が出来たルーフィンの顔は綻んでいた……。
「ジャミルさん、皆さん、有り難う……、皆さんが来てくれて本当に
嬉しかったです、お陰で僕もちゃんとお義父さんと話をする事が出来ましたし、
これからはもう一人の困った僕とも仲良くなれそうです……」
「へ?もう一人?ルーフィンさん、も、もしかして……、ドッペルゲンガーと
知り合いなんじゃ……」
「……」
ルーフィンとジャミルは顔を見合わせて笑う。話について行けないヘタレ免許
皆伝の主はちょ、二人だけ何か知っててずるいっ、オイラにも教えてよお~っ!
と、ぎゃんぎゃん捲し立てた……。
「あ~、おもしれえ……、じゃ、先生、俺らももうそろそろ行かなきゃ
だけど……、又絶対遊びに来るよ!」
「はい、又会える日を楽しみに……、皆さんどうかお元気で!」
「又会いましょう……」
「えへへ、元気でねえ~……」
「私、今度来た時は、絶対美味しいお料理をルーフィンさんに作……、
……んん~っ!!」
……らせねえと、ジャミルは冷や汗を掻きながら慌ててアイシャの
口を塞いだ……。
「せんせー、ばいばいモンモン!また美味しいご飯作ってねー!」
「はい、モンさんも、有り難う……」
ルーフィンは4人、そしてモンとも握手。ジャミル達はベクセリアに
別れを告げた。今度はアルベルトの修行の為、ダーマへと戻ったのだった。
……それから後、ダーマに戻った一行はアルベルトを魔法剣士へと
無事に転職させる。数日間の修行の内、アルベルトのLVも15
近くになる。だが、アルベルトのトロさは半端ではない為、修行中は
ジャミル転職時直後以上のヘタレと化す。けれど仲間達は、時に鼻血を
出し、倒れ、棺桶に入るアルベルトを支えながら共に修行を熟した。
……マジ、ホントにお節介連中!と、サンディは呆れていたが。
そして、再びグビアナ砂漠……
「よし、リベンジだな、アルに付き合って俺らのLVも一緒に上がったし、
もう此処の敵も訳ねえ筈……だよな!」
「みんな、有り難う……、僕、本当に……、何て言ったらいいのか、
僕、僕……、ああ~っ!!」
……だが、アルベルト、不意打ちで出現したウパパロン集団に
先制攻撃で火を吐かれ、ぶっ倒れたのだった……。
「……アルーーっ!!」
やはりまだまだ此処の敵には当分苦戦する様である……。
「はあ、町だ、やっと見つけたぜ……」
「ううう~、良かった、良かったよおおーーっ!」
「……モンーーっ!!」
(プ、このコンビ、相変わらずマジバカ、超ウケる……)
「アル、大丈夫……?」
「……ら、らいりょうりゅ、ふにゃはらひい~ひゃよ……」
アイシャに支えられて、やっと歩いているアルベルトだが、町に
辿り着いた時点で、HPは半減状態、もうフラフラだった。
大丈夫だよと、何とか言葉を返したいのだが、砂漠道中の暑さも
あった為か、ちゃんと言葉が発せず。
「と、まずは宿屋で休むか、それからだな……」
とにかく休みたかった一行は宿屋を探し、休憩タイムへと入る。……漸く
宿屋のルームへと案内された時はもう、4人共一斉にベッドに突っ伏して
寝てしまった。まだ夕方なのに……。
「ちょっと、アンタら何っ!だっらしないわねえ~!そんなんでこの先
どーすんのヨ!」
「うるっせえなあ~、オメーは大体バトル中はほぼ何もしねえんだから
黙ってろっての!……皆疲れてんだよ!」
「フンだっ!もっとしっかりしなさいよネ!」
「……」
砂漠道中何もせず糞威張り状態、一人元気なサンディにジャミルは
カチンと来ていたが、取りあえず消えてくれたので一安心。うるさくて
休めやしねーわと思った……。
「夜になったら多少は動きやすくなるだろ、……もう少し休もうや……」
「うん、オイラも賛成……」
「……ふにゅふにゅ、すうすう……」
「みんな、僕の為に本当にごめん……、……すやあ~……」
4人共、そのままベッドに入った状態のまま、起きられず……。漸く目を
覚ました時には時刻はもう、夜の21時近くだった……。
「……ひえええ~っ!!」
「吸血鬼の気持ちが分かるよお~……」
「……モン、お腹空いたモンっ!!」
腹が減ってデブ座布団皇太子の機嫌が悪くなっている……。非常に
マズい状態である。
「あわわわ!寝過ぎて宿屋の夕食も頂けなかったね!さあ、アイシャ、
起きよう、アイシャ……」
「……う、ううう~、嫌なのよう~、ジャミルったらっ、又そんなに
餃子食べるっ!臭いわっ!……近づかないでっ!!……わあ、おっきい
肉まんっ、いただきまーす!!」
「……どういう夢見てんだよっ!……このっ!」
「アイシャ……、困ったなあ……」
アルベルトが揺さぶってもアイシャはまだ目を覚まさず……。今日は彼女も
相当、ダーマから続く此処連日の鬼畜バトルに付き合い、かなり疲れが
堪っている様であり、全然目を覚まさない。
「モン!お腹空いてもう怒りのチンポンポコリンモン!!
……シャアーーっ!!」
「あだだだ!モンっ、オイラに噛み付くのやめてよおーーっ!!」
「まいったな、こりゃ……」
アイシャを置いて行く訳にいかず、腹が減って暴れ出したモンを前に、
男性陣達は困っていた。其処にサンディが再び顔を出す。
「ネ、アイシャはアタシが見ててあげるカラさあ~、アンタらだけで
行ってくれば?……取りあえずこいつ、マンプクにさせておかないと
うるさくてしょーがネーじゃん!もしも目を覚ましたら、外出したって
ちゃんと言っておいてあげるからサ」
「シャシャシャのシャーー!!」
ジャミルはサンディとモンを交互に見比べる。確かにこのままでは、
ダウドがモンに食われ兼ねない勢いだった……。ジャミルは等々折れ、
サンディに頼もうとするのだった。
「悪ィなあ、んじゃあ、頼んでいいか?」
「うん、いーケドさ、あんたら結局はこのサンディちゃんがいないと
駄目なんだから!感謝しなさいってのよネ!マジっ、アホっ!!」
「この……、ガングロめえ~……」
サンディは上から目線でふふんと半目になり、腕組みをし、まるで女王サマ
気分でジャミ公を見下す。しかし、今はサンディに頼む他はなかった。
どっちみち、もしもアイシャが一人で目を覚ました場合、置いて行かれた事が
分かれば機嫌を損ねて怒り狂うだろう。……モンも腹が減って暴れ出した為、
どうしても外に出掛けなくてはならない事、ちゃんと事情を説明して貰う、
その役目も必要だった……。
「……しゃ~ねえ、アイシャにこれも伝えておいてくれよ、土産に
ジャンボ肉まん買ってくるからってさ……」
「そんなモン、売ってるの?この砂漠に……あるの……?」
「分からん……」
ダウドに突っ込まれ、ジャミ公は困る……。だが、腹が減っており、何か
食べたいのはジャミ公も同じ。
「いいヨ、アタシの土産もネ、シャーネルナンバー10の香水っ!」
「……んなモン買えるかあーーっ!!」
「ジャミル……、サンディ、それは無理だけど、何か可愛いアクセサリーでも
見つけたら、見繕って買ってくるよ……」
又切れそうになるジャミルを抑えながらアルベルトがサンディに交渉。ま、
それで手をうってあげるわヨと、漸く納得してくれた。
「さ、早く行った行った!……アイシャ、この調子じゃ当分目を覚まさないと
思うわヨ……」
「むにゅうう~……」
男性陣は枕を握り締めて眠り続けるアイシャの姿に溜息をつく。そして、
サンディに全て任せると、夜の町の探索外出へ出発するのだった。
「やっぱり、僕の所為だね、アイシャには無茶させちゃったなあ、
……あ、ご、ごめん、ジャミルとダウドにもだよね……、僕、
迷惑掛けっぱなしで……」
「シャシャシャのチンチンモモモ~ン!」
ぷう~……。
「モン……、あ、別に、オイラだってこうだし、ねえ、アル?
全然迷惑だなんて思ってないよお……、むしろ迷惑なのは、
モンのおなら……」
「そうだよっ、だからいいっての!お互い様なんだよっ、……又言ったら
オメーもデコピンデビューだぞ、いいんだよ、……仲間なんだからよ……、
たく、毎回言わせんなよな……」
「ジャミル……」
「ふん……」
「二人とも、本当に有り難う……」
「えへへ!」
アルベルトへ顔を背けて会話をするジャミルのその顔は赤かった。やっぱり
どうしようもないツンデレジャミ公なのであった。
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