zoku勇者 ドラクエⅨ編 35
アルベルト、修行する
此処2、3日は何事も無く、快適な船旅であった。だが、
海を進むにつれてどんどんと周囲の気候がおかしくなって
きていた。……蒸し蒸しと異様に暑いんである。4人は暑さで
眠れず、夜は涼しくなる筈が、熱帯夜に困っていた。
「あづい、あづい、あづいよおお~……」
「本当に熱帯夜だね……、どうしたんだろう……」
「まいったなあ~……」
眠れない男衆は少しでも夜風を浴びようと甲板に出てみる。
其処にモンを連れたアイシャも甲板に上がって来る。
「よう、お前もか……、困るよな……」
「うん、暑いのも困るけど、モンちゃんが我儘言っちゃって、
困ってるのよう……」
「……あづいあづい、あづいモンーーっ!!いちごのアイスクリームっ!
シャーーっ!」
普段からサンディと並んで我儘なモンが大人しくしている筈はなく、
アイシャを困らせている様だった。
「……ま、暑いハズっしょ、アンタら、あれ見てみ?」
「……?お、おお……」
サンディに言われ、ジャミルは甲板から身を乗り出し目をこらして
暗い海を確認。よく見ると、目先には大陸が有り、其処には広大な
砂漠の地平が広がっていたのである。
「新大陸かもな……、でも、砂漠かあ~……、ま、これもお約束って奴だな……」
「オ、オイラ嫌ですよ、……只でさえ暑いのにっ!!」
「分かった、じゃあお前は暫く此処にいろ、俺らの探索が終わるまで
船で留守番してろや、何日掛かるか分からねえけど、その間に干からび
ねえようにな……、暑いからな、スルメになるなよ」
「あう、行きます……、ジャミルのタコ……」
どっちにしろ、文句を垂れた処でダウドに選択権はない。此処で黙って
皆を待っていてもミイラ化待ったなしだった。
「ふぁ、じゃあ……、私達、明日に備えて我慢してもう休むね……、
暑いけど……」
アイシャはモンを連れ船室まで戻って行く。尚、さっきまで文句を
言って暴れていたモンはいつの間にか爆睡していた。
「ぷうぷう、……ぷっ」
「ちょ、やだ、モンちゃんたらっ!おならしちゃっ、もうーっ!」
アイシャに抱かれたまま、気持ち良かったのかモンは寝屁。呆れながらも
アイシャはそのまま部屋へと入っていった。
……翌日。一行は少しでも気温が涼しい内にと、西側の岸に船を着け、
砂漠大陸に上陸、潜入する事に。
「町も何もなかったらアウトだよお~……、うう~……」
「ま、行ってみるしかねえな、アルもアイシャも平気か?」
「うん、僕は大丈夫」
「私もよ」
「よし、……ちら……」
ダウド以外の3人は目線でダウドの方を見る。じっと見つめられ、
ダウドは大慌てになるのだった。
「……何だよお!平気ですよお!!」
「だな、じゃあ行くか……」
こうして、相変わらず煮え切らないダウドに無理矢理返事をさせ、
一行は砂漠の中を歩き出す。サンディはさっさと発光体になり、
ジャミルの中に姿を消している。モンはダウドの頭の上、いつもの
定位置……。
「モン、ねえ、たまには飛んで移動してくれない……?」
「やーモン!」
「あうう~……」
今日も始まったダウドの愚痴とモンの我儘。其処にこの大陸での
モンスターがお出迎えしてくれる。ジャミルとアルベルトは
それぞれの破邪の剣を構え、アイシャはいつでも魔法を発動
出来る様、体制を整える、……ダウドは困っている。出現
モンスターはウパパロン、顔は蛇の様であるが、外観はダチョウの
様に足の長いモンスター、デザートランナー。
「あううーーっ!!」
「シャアーーっ!!」
「行くぞおおーーっ!」
まずは突撃切り込み隊長、ジャミ公、デザートランナーに突っ込む。だが、
デザートランナーは長い足でひょいっと素早く動くと、ジャミルの攻撃を
交わすとアイシャの方へと回る。
「っと!……アイシャっ!」
「はーい、私は大丈夫よっ!えいっ、ヒャドーっ!当たったわーっ!」
「こっちの方がやばいかもね、数が多いし……」
アルベルトが頬に汗を滲ませる。バイキングカブトを被った
オレンジ色のウーパールーパー系のモンスター、ウパパロン。
以前にツォの海辺の洞窟にもこんな様な敵がいたが、向こうは
水棲系だったのに対し、此方は炎系の様である。……その証拠に、
ウパパロンは揃って此方に向かって集団で火の息を吐いてきた。
「う、うっ!?」
「……やべえっ!!」
3匹で一斉に火を吐かれてはたまったモンではない。男衆は初っぱなから
大ダメージを追ってしまいそうに……。デザートランナーの方が片付いた
アイシャが急いで駆けつけ、ヒャダルコをウパパロン集団にお見舞いする。
「みんな、大丈夫!?」
「俺の方は何とか……、ただ、アルの方が火傷したみたいだ……」
「僕も大丈夫だよ!」
「無理しちゃ駄目よっ!……もうっ、しつこいんだからっ!!」
再び襲ってきたウパパロン集団に向け、アイシャのヒャダルコ乱舞で
ウパパロンはバタバタとその場に音を立てて倒れた……。だが、彼女も
1回の戦闘だけで大分MPを使ってしまった様だった。
「はあ、こんなに苦戦するなんざ……、まだまだ俺らは此処の場所じゃ
新米ってとこだな……」
「新しいお米のご飯は美味しいモンモン!」
「モン、その新米じゃないから……、有り難う、ダウド、大分良くなって
来たから、もう平気だよ、アイシャも有り難う!」
「うん、もしもまだ痛みがある様だったらいつでも言ってね……」
「じゃあ、ジャミル、先に進みましょうか」
「ああ……」
アルベルトが大丈夫らしいので、一同再び砂漠を動き出そうとする。
だが、其処にまたまたウパパロン集団が出現したのだった……。
「冗談じゃねえってのっ、んなに何度も戦えるかっ!逃げるぞっ、お前らっ!!」
「あわわわーーっ!!」
ジャミルの言葉に一番最初にダウドが反応し、逃げ出そうとする。
今の状態ではとてもではないが、これ以上戦えないのをアルベルト
自身も分かっていた。MPの尽きかけたアイシャも……。そして、
まだまだこの世界に蔓延る強敵との力の差を今日は特に4人は
思い知らされた。LVを上げ、強くなっても向かうその先には
それ以上の強敵が常に待ち構えている事を……。
「……あ、ああっ!?」
「アルっ!!」
ウパパロン集団に追い掛けられる中、体力の無いアルベルトが倒れてしまう。
暑さにも相当やられていたが、堪えていたのであった……。
「……ジャミルっ、アルが大変よっ!!」
「ひえええーーっ!!」
「野郎ーーっ!いい加減にしろーーっ!!……アルーーっ!!」
ジャミルはウパパロン集団に向かって決死のダイブキックで突っ込み、
ウパパロン集団を蹴り捲ると、倒れているアルベルトを救出、背中に背負い、
再び仲間と共に急いでその場から逃走する……。更に厄介な事に、デザート
ランナーも後ろから一緒に走って来た……。
「ごめん、僕、やっぱりトロいから……、迷惑掛けちゃって……」
「んな事言ってる場合じゃねえってのっ!いいから暫く休んでろよっ!」
「……ジャミル、僕……」
アルベルトはジャミルに背負われたまま背中の上で項垂れていた。そして、
根が真面目な為、悩み始めるのである。自分もこのままでは駄目だと……。
もっと強くなりたいと……。
……4人は砂漠の中をモンスター集団に追われ、あっちゃこっちゃへと
只管走り回っていた。アイシャはヤケになっているのか、これで5キロは
痩せたわあーっ!……と、。実は走り回っている際、近くに建物らしき物が
あったのだが、追われていて気づかない4人はそのまま素通りしてしまったの
だった。……漸くモンスターから解放された時には既に夜になっていた。
運良く見つけたオアシスで身体を休め、今夜は其処で眠る事に……。
「ぐうぐう、すーすー……」
「モンモン、ぷうぷう……」
「よく寝るなあ、あのコンビはよ……」
「ダウドもモンちゃんも疲れてるのよ、私もそうよ、アルも……、ジャミルも
そうでしょ?」
「まあな、逃走中はもう懲り懲り……、って、言う訳にもいかねえんだろうな……」
ジャミルとアイシャは鼻提灯を出して眠っているダウドとモンの方を見つめる。
だが、アルベルトは座ったまま只管無言……。
「アル?」
「ん?あ、ああ、ごめん……」
しかしジャミルはアルベルトが眉間に皺を寄せているのを見て、又何か
1人で悩み出したのを察知。突っ込んでみる事にした。
「言ってみろよ……、お前がそう言う顔してる時は絶対何か言いたい事が
あるんだろ?いいから言ってみ……」
「アル……、もしかしてさっきの事、気にしてるの?別にいいのよ、
そんなの……、ねえ?」
アイシャはジャミルの方を見て同意を求める。ジャミルもその事で
アルベルトが気にして悩んでいるのなら、もういいから早く気分を
変えろと思ったが、どうもアルベルトは納得がいかない様だった。そして、
ぽつりと言葉を漏らす。
「僕も……、転職したいんだ、もっとこう、自分に合った職業があるんじゃ
ないかと……、はっ、ご、ごめん……、先に進まなくちゃならないのにね、
転職すれば又1からLVはやり直しだし、返って迷惑掛けてしまうよね、
……我儘言ってしまって……」
アルベルトの呟きを聞いて、以前にダーマで自分もいつか上級職に
チャレンジしてみたいとアルベルトが言っていたのを思い出す。ジャミルも
盗賊に転職し、LV1状態になり、初期状態で敵に何度もボコられ、
皆に迷惑を掛けたのだから、だから……。
「いいんじゃね?付き合うよ、お前がそう決めたのならさ……」
「ジャミル……?」
俯いていたアルベルトは漸く顔を上げ、ジャミルの方を見た。
「転職してヘタレになったのは俺も同じだしさ、いいよ、又ダーマに戻ろう、
オメーに合った職業をとことん探して見ろよ、それにこのままじゃ、俺らも
弱くて苦戦するばっかだしな、ま、又修行するんも必要だしな……」
「ほ、本当に……?」
「うん、私もいいと思うわ、ダウドもきっと賛成してくれるわよ!」
「アイシャ……」
「ぶうぶう、アイス100個食べるんだモン、……ジャミルにはあげないモン!
……ぶうぶう……」
「……こいつ……、ま、我儘なのはコイツもだから……、そう言う事、
決まりだな、よし、明日はルーラでダーマに行こうや、決まりっ!」
ジャミルは寝言を言っているモンの顔を横にうにょうにょ引っ張る。
それを見てアイシャはくすっと笑う。そしてアルベルトの手をそっと握った。
「頑張ってね、アルに適してる職業がきっと見つかる筈よ!」
「有り難う、ジャミル、アイシャ……」
……そう言う事で、再びダーマへの来訪が決まる。サンディは
最初ぶつくさ文句を垂れていたが、最終的にしぶしぶ同意して
くれたのだった。アルベルトの気分も落ち着き、眉間の皺も漸く
消えたのだった……。
そして、夜中……。
「……みんな、寝たわよね、大丈夫よね……」
アイシャは1人、野郎共が爆睡しているのを確認。のそのそ
起き出す。そして着ている一式も脱ぎ出す。こっそりと夜中の
水浴びに起きたのだった。
「ふふっ、綺麗な泉……、折角のオアシスだもん、勿体無いよね……」
「寝れん……、暑い所為かな……、……お?」
お約束……。目を覚ましてしまったジャミルは、アイシャがごそごそ
起き出したのに気づいてしまうのだった。
「らん、らん、ららん……、るるる~ん」
「お……、おおおおっ!?……っ!」
更に見てしまう。泉へと向かう全裸のアイシャの姿を……。胸はないが、
か細い小さな身体、小さなおしり……、困って大声を出しそうになったが
慌てて堪えるのだった……。気づかないふりをし、只管耐えるのだが……。
自分の中の天使と悪魔が既にバトルを始めていた……。
「……こら、いい加減にしろ!オメー今回は天使の役だろが!慎め慎めっ!」
「うるせー!見たいモンは見ろっ!見ちまえっ!自分に正直になれっつーの!
大体俺に羞恥心なんてモンはねーんだっつーの!!」
「……うるせー黙れこの野郎!!」
「何おー!?オメーこそ黙れこの野郎っっ!!」
「……」
結局、天使だろうが悪魔だろうが、両方ともジャミルなんである。
……結果……。
「……ふうっ、気持ちいーい!やっぱり冷たいお水って最高ーっ!」
冷たい泉から顔を出すアイシャ……。水飛沫と共に、彼女の小さなお胸が
露わになる……。結局、悪魔の方が勝ってしまった奴はやっぱりヨコシマ
心に負け、水浴びを覗いてしまったのだった……。そして、お約束発動……。
「ひっ、くしっ!!……あ……」
「!?だ、誰っ!?……」
「は、はうーっ!?あうあうあうっ!!」
……ブッ!!
「そのおなら……、ジャミルでしょーーっ!!」
「ち、ちが、俺じゃねえ……、あ、あ、あ、あ……、
……きゃああーーーっ!!」
「ジャミルの……ばかあああーーーーっ!!」
砂漠中に響き渡る悲鳴……。翌朝、皆の前には不機嫌全快面のアイシャと、
顔中フルボッコにされたジャミルが現れたのだった……。
「オメーな、又言うけどよ、前の話で俺に意気地がねえだのと
なんやかんや言ってたのはマジで何処のどいつだっ!!おお~、
……いってええ~……」
「……こ、これはこれ、そ、それはそれなのっっ!!」
新大陸に踏み入れた物の、アルベルトの願いを聞き入れ、4人は一度撤退し、
再びダーマへと。大神官達は久しぶりに訪れた4人の姿に驚いていたが、
直ぐに歓迎してくれ話も聞いてくれた。
「お久しぶりです、皆さん、……そうでしたか、アルベルト殿、あなたも
転職を……、分かりました、必ずそなたを導く運命の職業が見つかる筈、
心ゆくまでどうぞゆっくりと考え、お決めになると良い、儂もできる限りの
事はお手伝いさせて頂きます、大神官として……」
「有り難うございます、大神官様……」
大神官に挨拶も済み、4人はそれぞれに別れて行動する事に。最も、
今回此処で大きな役目を果たすのはアルベルトなので、他の3人は
良い報告を信じ、只管待つだけだった。
「みんな、有り難う、後は僕1人で大丈夫だから……」
「そうか、じゃあ俺ら、此処で暫く休んで待たせて貰うよ、ま、焦らず
じっくり探して来いや……」
「頑張って、アル!」
「いい知らせ待ってるよお……」
「モンモン!」
「ま、しょうがないか、アンタトロいんだから、ちゃっちゃと早く
決めてくんのヨ!」
「うん、じゃあ……」
皆が地下酒場へと移動した後、アルベルトは1人で大広間へと動き出す。
此処で転職を受けた様々な職業人達に色々とアドバイスして貰ったり、
話を聞いて貰おうと思っていた。
「……普段から動きが鈍い僕はやっぱり魔法を使う方が合っているのかも
知れない、でも……」
PTの打撃面での勢力を考えると、やはりジャミルだけに任せておくのは
彼が大変だろうし、心苦しい処であった。攻撃、魔法、両方をいかせる職業が
あればと……、そう考えていたが……。
「兄ちゃん、転職に来たのかい?」
「ええ、何かお勧めの良い職業がありましたら……、是非教えて下さい……、
沢山あるんですけど、何にしたらいいのか迷っていまして……」
アルベルトは大広間入り口付近をチョロチョロしていた戦士風の男に尋ねる。
だが、男は黙って首を横に振った。
「いや、それは違うな、人によって何が得意で不得意なのか、
何が自分に合っているのか、本人次第だろ?それは自分で
試してみるしかねえんだ、人に言われて決めるもんじゃねえだろ、
良く考えな、……兄ちゃんの為だよ……」
「そう……ですね……」
男は行ってしまう。そして、残されたアルベルトも全く
その通りかな……、と言う心境になって来た。ジャミルが
盗賊を選んだのも、それに適しているのを本人が一番良く
分かっていたから。盗賊は職業の中でも下級職である。
それでもジャミルにとっては天職なのだから。
「羨ましいな、下級とか、上級、関係なく……、僕にもそんな職業が
見つかれば……」
「……キミ、美しい、いい目をしているね……」
「……?」
ビーバーハットを被ったキザなヤサ男がアルベルトに近づいて来た。
……アルベルトの顔を只管じっと見つめている。もしかしたら、
……なのかもと思い、汗が滲んで来た……。
「何か勘違いしていないかい?ボクはスカリオ、魔法戦士だよ……」
「魔法戦士……、と、言う事は……、その職業は魔法と攻撃、両方を
使い熟せる職業と言う事でしょうか……?」
スカリオはふふんと笑う。段々とアルベルトが興味を持ち始めて
来たからである。
「キミからは何だかフォースに近い何か、そんな様な気を感じるのさ、
びんびんとね……」
「フォース……?」
モンが此処にいれば、トンカツに掛けるんだモン、いや、それ、
ソースだから……と、ボケと突っ込みが始まる処であった。
「どうかしたのかい?」
「……い、いえ、何でも……」
「魔法戦士とは、エレメンタルパワーを操る自由な騎士、そして、
フォースを纏い、華麗に!……戦う!そして、鮮やかに魔物を葬る
上級職業なのさ!」
「じょ、上級職……」
「キミは戦士みたいだけど、見た処、体格からして、魔法の方が
得意そうだね、どうだい?トレーニングを受けてみるかい?今から
ボクが出す課題を無事熟したら、魔法戦士の資格をあげるよ、どう?」
「……は、はいっ!是非っ!」
スカリオはアルベルトが素直に返事を返したのにますます気に入る。
そして満足そうにふんふんと頷いた。
「いい返事だね、そうこなくちゃ……、魔法戦士になるにはまず、
大自然に眠るパワーを使いこなす事さ、そうしたらキミもフォースを
宿せるよ、なに、カンタンな事だよ、魔結界を張って敵に止めを
刺せばいい、そうだな、メタルスライムを3匹、魔結界を張って
倒して貰おうか……」
「……魔結界か、確か使えるのは魔法使いのアイシャだけだったなあ……」
「それから、止めを刺すのは魔結界を張った本人だけだからね、
そこんとこ、よーく気をつけておくれよ、魔結界を張ると自然の
パワーを集める事が出来る、どうだい?……やってみるかい?」
「は、はいっ!やりますっ、僕、必ず課題を熟して見せます、ではっ!」
アルベルトは急いで地下にいる仲間達の元へと知らせに走って
行った。これには唯一、PTで魔結界を張れるアイシャの力が
必要不可欠である。彼女ならきっと力を貸してくれると……。
そう思い、更にダッシュになる……。スカリオはカンタンだろと
言っていた。だが、この試練がどれだけ困難で大変なのかを
アルベルト達は身を持って思い知らされる事に……。
「……ああ、いいね、いい返事だ……、この試練を無事熟したら、
キミも魔法戦士の仲間入りだよ、ボクが与えたトレーニングに
全力で取り組むキミの姿、考えただけでゾクゾクするよ……」
そして、アルベルトは地下酒場で寛いでいたジャミル達に報告する。
皆は勿論了解してくれ、アイシャもトレーニングの参加を喜んで
承諾してくれた。……のだが……。
「有り難う、又暫く手間を取らせてしまう事になるけど……、宜しく
お願いします……」
アルベルトは皆に丁寧に頭を下げた。それを見てアイシャは笑う。
「アルったら、今更畏まらなくてもいいのよう、私達、仲間でしょ?」
「モンモン!」
「あ、あはは……、だね……」
アイシャの言葉にアルベルトも照れて誤魔化す。だが、ジャミルが
笑っていないのに気づく……。
「ジャミル、どうしたのさ、その顔……、トレーニングの件、
了解したんじゃないの?何でそんな複雑そうな顔をしてるのさ……」
「ああ……」
ダウドがジャミルを突いてみると、ジャミルは漸く口を開く。
いつもと違い、今日はこっちの方に眉間に皺が寄っている
状態である……。
「別にそれはいいのさ、アルが漸く見つけた職業だからな、ただ……、
俺が気になってんのはよ、トレーニング受けるのはアルなんだろ?
……話聞いてると、まるでアイシャが受けなきゃならねえトレーニング
みてえじゃんかよ……」
「あう……」
珍しくジャミ公に突っ込まれ……、アルベルトはその場に固まるのだった……。
「……そうだよね、それではアイシャ任せになってしまう……、
良くないよね……、じゃあ、僕が魔法使いに1から転職して……、
魔結界を習得……」
「うわ……」
「ちょっとッ!んなメンドクセーことしなくていいっつーの!まーた
時間食うよッ!」
ダウドは顔を顰め、飛び出したサンディは怒り出す。それでも糞真面目な
アルベルトは又悩み出すのだった……。
「いいのよっ、アルっ、だから気にしないでっ、私、アルのお手伝いが
出来るなら頑張るから!ねっ、任せていいよっ!」
「アイシャ……」
「モンも付いてるモン!」
「……オイラの頭に……ね……」
「そうだよっ、ジャミ公、アンタも余計な事言うんじゃねーってのっ!」
……そうは言うが、結局メタルスライムに止めを刺すのは力の無い
アイシャの役目なんである。ジャミルはそれが心配で言っているので
あるが……。でも、彼女も何とかアルベルトの力になろうと張り切り
だしたのでもう止められる筈が無かった。
「しゃーねえ、俺らも全力でフォローするから……、此処は一致団結
するしかねえか……」
「あはっ、ジャミルっ!」
「ジャミル、ほ、本当にいいのかい……?」
「ああ……」
「わっ、さっすがジャミルっ、フトコロがおっきーネっ、
そーこなくちゃだよッ!あそこは小さいケド!んじゃあ、
アタシは又引っ込みマースっ!」
「……とにかく……、だ……、アイシャは武器をこれに持ち替えろ、
カラコタで何となく買っておいたんだ……」
ジャミルはアイシャに毒針を渡す。これでメタルスライムにチクチク
ダメージを与えよう作戦である。運が良ければ一撃で急所を突ける事も
有る為。
「ありがとうっ!よーしっ、私頑張るねっ!」
益々張り切りだしたアイシャを見て、ジャミルは、だから
本来なら……、と、思うのだが……。本来頑張らなくては
ならない張本人は、アイシャに対し、申し訳なさが一杯で、
小さくなっているのだった。何はともあれ、トレーニングも
本格開始になり、4人はあの場所へとジャミルのルーラで飛ぶ。
ベクセリアの遺跡、低確率ではあるが、其処にはメタルスライムが
出現する……。
「よし、さっさと済ませようぜ、前に来た時とは俺らのLVも段違いだ、
此処の敵なんか訳ない筈さ!」
「はっはっはー!だよねえー!」
「……」
ダウドは異様に元気がいい。まあ、ほおっておいて……、まずは
肝心のメタルスライムを探さなくては話にならんのである。4人は
取りあえず遺跡内をランニングする事に。……しかし、やはりと言うか、
メタルスライムが出現する確率は相当低く、雅に運……、だった。そして
運良く遭遇しても……。
「逃げやがった……」
こうである。厳しい現実の中、とほほのほ~で、4人は更に
遺跡内を只管ぐるぐる周りマラソンする。傍から見れば
何やってんですか状態だった。最初は元気が良かったダウドも……。
「……疲れたよお~……」
「モンもお腹空いたモン……、げっぷが出るほどキャンディー
食べたいんだモン……」
ダウドも愚痴を言い始め、モンの腹もそろそろ鳴ってくる……。
事が一向に上手く進まない状況でジャミルも段々苛々が
募ってくる……。
「あの、ねえ……、みんなは先に戻っていいよ?私達2人で頑張れば
いいんだから、ね?アル……」
「う、うん……」
「……んな訳にいかねーっつんだよっ、畜生、糞メタルめっ!」
「あっ、ジャミル、出たモン!」
「ん?おおおっ!?」
「ピキ……」
遂に待望の逃げないメタルスライム登場。メタルスライムは此方に
メラを放ってくる。攻撃して来てくれるとそのターンは逃げないのが
確定なので異様に嬉しくなる。そして2ターン目も逃げなかった。
何だか段々運が向いてきた様である。しかし。
「よしよし、確実にダメージも与えてる、このまま行けば後、
2,3発で仕留められる筈、アイシャ、止めは頼むぜ!」
「はあーいっ!」
「れっつごーモンモン!」
「……逃げるなよ、逃げるなよ……、あ……」
会心の一撃!……メタルスライムを倒した!
「……だーうーどおおお!何で肝心な時にオメーはあああっ!!」
「だって決まっちゃったんだよおお!……何だよおおお!!」
「……あのね、君達……、いい加減にしないと……、……」
揉めだした2人を見て、アルベルトも切れそうになるが、落ち着いて
考える。今回はそう言う訳に行かなかった。先に進まなければならない中、
何せ、自分の修行の為に皆は付き合ってくれているのだから……。
こんな事になっているのも全ては我儘を言い出した自分の所為なのだから。
黙って事が収まるのを待つしか無かった……。堪えて今回はスリッパも
お休みである。
「アル、大丈夫……?疲れてない……?」
「う、うん、有り難う、アイシャ……」
顔中アザだらけになって漸く我に返り、どうにかバカ2人の殴り合いも
収まる。再び4人はメタルスライム狩りへと動き出す。こんなんで
本当に無事にトレーニングは終わるのだろうか。まだまだ前途多難で
ある。……とにかく今は一匹でもメタルスライムを成敗したかった……。
アルベルトの中にも皆に対して益々申し訳なさが募って来るのであった……。
(……無事に魔法戦士になる事が出来たなら……、僕もこれまで以上に
頑張らなくちゃ……)
だが、余りトレーニングは上手く進まないまんま、夜になってしまう。
今日は徹夜覚悟だった。4人は安全な場所で持参した焼きおにぎりを
食べ始める。
「モンちゃん、みんな1人一個ずつだからね、我慢してね……」
「モンブ~……、ブッブッブ~……」
「デブ座布団、それ、アンタ共食いじゃネ?今度からデブムスビって
呼んでアゲよーか?
「……シャアーーっ!!」
「うん、美味いな……」
「美味しいねえ~!」
疲れていた4人ではあるが、美味しい焼きおにぎりに顔が綻びはじめる。
トレーニングは確かに大変である。だがアルベルトは感じる。
……こうして皆が、仲間が、いつも一緒にいてくれる事、一緒に
過ごせる事、心からの幸せに。
「ふふっ……」
「何だよ、アル……」
「何でも無いよ、それよりもジャミル、ご飯粒付いてるよ……」
「……あ?い、いいんだよっ!!それよりも早くオメーも飯
食っちまえっつーの!」
「あははっ!」
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