zoku勇者 ドラクエⅨ編 34
働く4人組・3
その日。覚悟はしていた物の、次から次へと押し寄せる客の波に
ジャミル達は飲み込まれそうに。約一名飲み込まれ悲鳴を上げた
者がいた。……誰だかはご想像にお任せします。
「押さないで下さい、ご順番にお願いします!お名前の確認を!済み次第
担当の者がお部屋にご案内させて頂きますので!!」
「早くしてよ、こっちは遠い処から来てもう足がパンパンなのよ!」
やたらと派手な厚化粧のおばさんが文句を言う。……足が腫れてるのは
元からじゃねえかよと思うジャミルだが、怖いので黙っていた。
「ええと、ブス・ダッテノヨ様……、と、アルベルトさん、此方の方を
お願い出来ますか?」
「はい、お任せを、さあお客様、お荷物をお預け下さい、僕がお部屋まで
ご案内致します」
「!あらっ、まあ~、素敵なボウヤねえ~ん、こ~んな素敵なコがこの
宿屋の従業員なんて雇う方もいいセンスしてるじゃなあ~い!んふふ~、
じゃあしっかりお部屋までお姉さんをエスコートしてね~ん!」
「はい、お客様、此方でございます……、足下にどうぞお気を付け下さいませ」
アルベルトは動じずに客をきちんと部屋までエスコートする。その姿に
ジャミル達も、見ていた従業員達も呆然、感心せずに得ない状況だった。
「凄いなあ~、アルってば……、目の色一つ変えないし……」
「ダウド、感心してる場合じゃないでしょ、私達だってお持て成し
させて頂くのよ!」
「ダウドさん、此方のお客様のご案内をお部屋までお願いします!」
「……オウ、兄ちゃん、悪ィのう……、はよ荷物持って貰えんか……、
こっちゃ肩がこってしょうがないんじゃ……、のう……」
「……ぎょえええーーーっ!!」
ダウドに与えられた客は、白背広スーツ着用に顔中傷だらけの男。
……ダウドはビクビク、しっこを漏らしそうになりながらも客を
部屋まで連れて行った……。
「ママあ~、つまんないよう~、お腹すいたよう~、もう疲れたよう~……」
「ボウヤ、静かにして、我慢しなさい……、はあ、それにしても何時に
なったらお部屋まで案内して貰えるのかしら……、子供が言う事を
聞いてくれなくて困ったわ……」
「モンちゃん、お願いね!」
「モンっ!こんにちはー、モンっ!」
アイシャがウインクすると、モンはダダを捏ねしゃがみ込んでいる
子供の処まで飛んで行く。するといじけていた子供は忽ち笑顔になった。
「お客様にモンもお持て成ししますモン、♪モン、モン、モン~っ!
ぽーこぽこ!」
「わあっ、可愛いぬいぐるみさんだあ!あははっ!太鼓叩いてるーっ!」
「まあ、本当ね、可愛いわー!」
この間の親子連れとは違い、可愛いと言われモンは上機嫌になり、
此処の宿で借りた玩具の太鼓を叩き始めた。子供は大喜びで疲れて
いた事など忘れ、モンにすっかり夢中だった。
「うふふ、モンちゃんありがとうーっ!よーし、私も頑張るわよーっ!」
アイシャも張り切り、従業員達の人と力を併せ、迎える客の
接待は順調……、でもなく……。やはりちゃんと待っていられない
客もいる訳で……。
「早くしろよっ、何分待たせんだよっ!モタモタすんなっ!!」
「……態度わりいなあ~、こっちだって人手が足んねえんだってのっ!
……全く!!」
ジャミルが愚痴るが、案内する客はまだ半分も済んでいない。当然、
此処に来る客は予約の客だけではない。皆はもうてんてこ舞い状態だった。
「リッカ、どうしましょう、やはりとても私達だけではこの数の
お客様の応対は手に負えないわ、無事にお部屋にお送りしたその
後の事も考えないと……」
「どうしよう……、こんな時、レナさん達が力を貸してくれたら……、
やっぱり……、皆がいてくれないと……、私、駄目だよ……」
ロクサーヌは目眩を起こし、リッカも弱気になり掛けて来た。その時……。
「お客様、大変申し訳ございませんでした!さあ、皆、モタモタしないで!
お客様にお持て成しをさせて頂くのよ!真心を込めて!!」
「レナさん!皆さんっ!!」
「了解です!!……皆、行動開始っ!!」
「す、すげえ~……」
ストを起こし、出て行ったレナと大半の従業員達がこぞって戻って
来たのである。レナ達はチームワークを屈し、待たせている客を
どんどん部屋へと誘導する。その手際の良さ、プロっぷりにやっぱり
職人だなあと、4人は開いた口が塞がらず……。
「レナさん、皆さん、有り難う、……戻って来てくれたんですね……」
「偉いわ、レナ……」
「何をしているのっ、あなたはっ!そんな暇ないでしょっ!ほらほら、
さっさと動きなさいっ!!……ロクサーヌも又後でね……」
「は、はいっ!!」
「チャオ!ふふふ……」
「それから……、私の方も後でリッカさんに話があるのよ、……あなたは
この宿の未来を担う大事な宿主なんだから……、まだまだ全然甘いの、
ちゃんとしっかりして貰いたいの、私達皆、この宿屋が大好きなの、
あなたのお父様が命を掛けて築き上げ、こんなに立派にして下さったのよ、
私達従業員の皆の心の故郷でもあるんだから……」
「レナさん……」
レナは躊躇せず、リッカにビシビシ。最初はジャミルも、彼女は
リッカの才能に只の妬みと嫉妬でリッカに嫌がらせをしているのかと
思った。それならば、とことんリッカの話と悩みも聞いてやろうと
思った。だが、朝のレナの態度は、明らかに心の本心はリッカの将来と
この宿の未来を心配している様な口ぶりを見せていたのが何となく
分かったのである……。リッカの才能に嫉妬していた気持ちは
少なからず本当にあったのだろうが、辛く当たったのは宿主と
してまだまだ未熟な彼女へのいわゆる愛情の裏返し、スパルタ
なんだと。これからまだまだ成長していくであろうリッカへと。
(……やっぱり、アンタ本当は……、リッカの事、いつも心配して
くれていたんだな……、ま、性格と態度は最悪だけど……)
此処での4人のお仕事体験記も間もなく終わりを迎えようとしていた。
駆けつけてくれたレナと従業員達の協力で危機を乗り越え、本日分の
宿泊客の接待を無事に終える事が出来た。時刻は既に22時を回っていた。
ジャミル達も碌に夕食を取れない程、今日は忙しかったが、それでも
無事仕事を終えられた事に満足感を見いだしていた。夕方には昨日から
出張外出していたルイーダも帰宅。接待に加わる。そして今、お疲れ
モードで寛ぐ従業員達に休憩室にて、温かいコーヒーをお持て成し
しながらご苦労様の言葉を掛けていた。
「本当に今日は皆お疲れ様だったわね、明日も又忙しいから、
僅かな時間とは思うけれど、ゆっくり休んで頂戴ね、ジャミル達もね、
今日は本当に有り難う……」
「へへへ……、ま、色々慣れてっから……、これぐらい……」
そう言うジャミルだが、直後勢いよく腹を鳴らし、アルベルト達に
呆れられる。尚、空腹には慣れていない模様。
「そうよね、夕ご飯もそこそこだったんだもの、今の時間帯で
良ければ、厨房に皆のご飯が用意してあるから食べて来なさい、
お腹空いたでしょ?」
ロクサーヌの気遣いに……マジ!?と、目を輝かせるジャミルだが、
糞真面目なアルベルトがしゃしゃり出、ジャミルはブンむくれた。
「でも、食事をしていないのは皆さんも同じ筈ですし、僕らだけが
先に頂く訳には……」
「いいのよっ、育ち盛りのお子様が何言ってんの!ささ、さっさと
行って来なさい、夜遅く食べると太るんだから、沢山食べてお腹を
膨らませて来なさいな、明日のあんた達のお腹がどれだけ出るか
楽しみだわよ!」
うわ、相変わらず口ワリィなあ~と、毒舌のジャミルは思うが。
レナはレナなりに4人に気を遣っているのである。太る……、の
言葉にアイシャは少々困惑気味であったが、彼女の気持ちに
甘えさせて貰う事にし、ルイーダを始めとする他の従業員達にも
頭を下げ、4人は厨房へと走って行くのだった。
「ジャミル、皆、本当に今日はありがとう!ゆっくり休んでね!」
「おう!お前もな、またな!」
ジャミルはリッカに手を振る。リッカに向けたジャミルのその笑顔に
リッカは心から安心する。
「相変わらず愚痴っぽいわねえ~、アナタ……、素直じゃ無いんだから……」
「うるさいのっ、全くもう、当たり前よ、こっちは大変だったんだから!
アンタ、帰るのが遅いのよ!全く!ああ嫌だわ、肩がこる……、ねえ、
肩揉んでよ、ルイーダ!」
「はいはい、レナったら本当に我儘で困るわ、ふふふ……」
「うるさいのっ!……ああ、そこそこ、あ~っ!やっぱりアンタの
マッサージ最高だわ!」
ルイーダはレナの我儘に苦笑しながらも、肩をマッサージして
あげるのだった。
「あの、レナさん、皆さん、……この度は……、本当に申し訳
ありませんでした……、レナさんの言うとおりです、私、まだまだ
宿主として本当に甘かったと認識しました、ジャミル達の事も、
皆さんのご意見も聞かず、私の独りよがりで、勝手に決めて
しまって……、ジャミル達にも結果的に迷惑を掛ける事に
なってしまったし、何とお詫びしたらいいのか……」
「リッカさん……」
従業員達は謝り出したリッカの姿に胸を痛める。……レナと共に
一時的にストを起こした従業員達も……。しかし、ルイーダは
リッカを見つめるレナの目がこれまでと大分違っている事に気づく。
「今更謝ったって遅いのよ!……朝のチンピラ男の件もだわ!
だからアンタはまだまだ宿主として未熟だって言ってんの!
もしも何か遭った後じゃどうにもならないのよっ!!」
「レナさん、もしかして……、見てたんですか……?心配して
くれたんだ……」
「!!ち、違っ!たまたま通り掛かって現場を見ちゃっただけよっ!
べ、別に全然心配なんかしてなかったわよっ!!」
顔を赤くしてムキになるレナの姿にロクサーヌもルイーダも
くすくす笑う。……明らかに心配している……。
「……してないのっ!ま、まあ、あの子達は本当にアタリだったわね、
ガキんちょの癖にムカつくほど動いてたし……、それは認めるわ、
本当にいてくれて良かったわ、た、たまたまよっ!たまたまっ!
アタリだっただけっ!……其処のアンタ達っ!いつまでも笑ってんじゃ
ないわよっ!!」
「レナさん、有り難うございます……」
チクチクではあった物の、レナもジャミル達の事を認めてくれた。
いてくれて良かったと言ってくれている。ただ、それだけでリッカは
本当に嬉しかった。幸せだった……。
「バ、バカねっ、……いつもこんな上手くいくとは限らないんだからねっ!
もし、今後新しい従業員やバイトを雇う時があったら気をつけなさいよ!
宿を壊されたらたまんないわ!」
「はい……」
「そう言えば、レナ、あなたリッカに話があるんじゃないの?先輩と
してのアドバイス……、これまでお互いに、リッカもレナも、少し
躊躇していた部分があったんじゃないかしら、伝える事はきちんと
伝えないとよ、レナ……」
「そう……、ですね、私、もっともっとレナさんに色々
教わらなくちゃいけない事も沢山あったんだと思います、
でも、レナさんが怖くて遠慮していた部分もあったのかな……」
「何ですって……?怖い……?失礼ねっ!私の何処が怖いのよっ!!」
「ほらっ、怖いですよっ!!」
「2人とも、落ち着きなさい、でも、大分あなた達、距離が
縮まってきたんじゃないのかしら?顔が全然違うもの、
活き活きしてるじゃない、大分スッキリしてきたわね……」
「……ルイーダっ、何処がよっ!」
「……縮まってないですよっ!」
ムキになり、声を揃えるレナとリッカの姿に再びロクサーヌと
ルイーダは溢れる笑みを堪えきれず……。
「……とにかくっ、きょ、今日は疲れたからあんたへのお説教は
又明日にするわ、いい?これからは宿王の娘だろうが何だろうが、
もう遠慮しないからね!あんたをこの宿の未来の為、立派な
宿王に仕立て上げて見せるわ!覚悟しなさいよっ!!」
「此方こそっ、望む処ですっ!私、負けませんからねっ!!」
「あらあら、まあ……、ねえ、ルイーダ、どうしましょうか……?」
「でも、レナもリッカも本当に仲良くなれて良かったわね……」
火花を散らす2人の姿にロクサーヌもレナも……、従業員達も……、
心から笑い合い、笑顔を見せるのだった……。
「……だからあんた達っ、何笑ってんのよっ!!」
「そう言えば、ジャミル君達、明日にはもう此処を立っちゃうん
だったわね……」
「淋しくなりますね……、あの子達、沢山頑張ってくれました
ものね……」
「本当に火が消えた様に静かになっちゃいますね……」
ロクサーヌの言葉に従業員達もしんみり。最初、4人組を警戒し、
雇う事を懸念していた従業員達も……。あの騒がしさにすっかり
慣れてしまっていた。
「何よ、あんた達、何落ち込んでんのよ!静かになっていいでしょ!
……そうよ……」
「ふふ、レナ、本当はあなたも淋しいんでしょ?少しは素直に
なりなさいね、ね……」
「……だからっ!ち、違うって言ってるでしょっ!」
レナはルイーダにムキになって突っかかる。構っているんである。
だが、レナの顔は赤い事から、やはりツンデレているのが誰の目にも
丸わかりだった……。
「あーもうっ!リッカっ!」
「……は、はいっ!」
「さっさと行ってお別れの挨拶でも何でもしてきなさい!あの子らもう
寝ちゃうわよ!?話したい事も積もる話もまだ沢山あるんでしょ!
ほらほら!アンタも明日又忙しいんだからね!」
レナはリッカの背中を押す。今回、ジャミル達とは殆ど、仕事、
仕事で、碌に雑談も交わす時間も無かった。また、旅に出て
しまえば暫く会えなくなってしまう。ロクサーヌも優しくリッカの
背中に触れ、ルイーダも頷いた。
「行って来なさい、リッカ、それからこれをあの子達に渡してあげてね」
「……ルイーダさん、これって……」
「ええ、私達従業員皆の気持ちよ、レナの分も入ってるから……」
「……だから余計な事言わなくていいんだったらっ!!……そりゃ、
あれだけ働いてくれて、幾ら無謀な飛び入りだからって払わない訳に
いかないでしょ、あんたが渡してあげなさいな……」
ルイーダがリッカへと手渡した紙袋。レナやロクサーヌ、ルイーダ、
従業員皆からの4人への感謝の印だった。
「……皆さん、本当に有り難う……、私、直ぐに渡して来ます!」
リッカは袋を抱き締め休憩室を飛び出して行った。その姿に皆も
微笑んで見守る。
「全くもう、ヤキモキさせるんだから……」
「ホントにね、レナ、あなたもね……」
「……ルイーダっ!だからアンタはどうして人の神経を逆なでする
様な言い方するのよっ!!」
「さあ~?お互い様じゃないかしら~?」
そして、リッカは急いで4人のいる厨房へと。やっとちゃんと皆と
お喋り出来る。例え僅かな時間でも……、とにかく色々話したい、
皆の冒険の話を沢山聞きたい、……しかし……。
「ど、どうしたのっ!?大丈夫っ!?」
「あ、リッカさん、お坊ちゃんがどうも……、食い過ぎて動けなく
なっちまったみたいで……、あっしの料理がうめえうめえ言ってくれて、
沢山食べてくれたのは嬉しかったんですが……」
リッカが中に入ると、椅子に座ったまま腹を押さえて呻いている
ジャミルの姿……。側には呆れて見ている……、見守っている
アルベルト、アイシャ、ダウド、そして、ダウドの頭に乗って
遊んでいるモンの姿が……。アルベルトの話によると、沢山
お代わりして下さいねとコックに言われ、遠慮せず食い捲った結果、
こうなったんだとか……。今日は大食いのモンよりも凄い姿になっていた。
「……オイラ情けないです、友人として……、いつもの通りです、
……とほほのほお~……」
「いつもいつも言ってるでしょ!限度を弁えないからこうなるのよっ!!」
(ホントコイツバカ……、ぷぷ、か、観察観察……!)
「ぐるじい~……、う~……、て、テメーらうっせえ……、う、げふ……」
アルベルトは横目でジャミ公の丸い膨れた腹を見て、スリッパで一発
叩いたら腹もへこむのではないかと思い……。
「……やめろっつーんだよっ!!腹黒っ!!」
「ちっ……」
「凄いお腹だね、ジャミル……、ちょっと触っていい?」
「お腹、ポコポコモーンモン!」
「おーいっ、何だよリッカっ!オメーまでっ!む、む、む……、
げふ、むっぷ!!」
ジャミ公は普段が小柄な体格の為、膨れた腹が目立って余計に
みっともない姿と化していた。
「やっぱり……、ダーマで又転職し方がいいんじゃないかなあ……、
お相撲さん……あいてっ!!」
ジャミルは伸ばせるだけ足を伸ばし、横にいたダウドに蹴りを入れるのだった。
(……う~ん、皆と沢山お喋り出来ると思ったんだけど、これじゃあ……)
リッカは溜息をつく。厨房はもうアホ丸出し、大騒ぎである。
「あのね、これ……、皆の気持ちなの、どうか受け取って下さい……」
リッカはアルベルトに代表で小袋を渡す。アイシャもダウドも
びっくり。目を丸くする。ちゃんと喋れない状態のジャミ公は
腹を丸くし、唸ったまま……。いや、僕らは本当に……、そんな
つもりで手伝いをしたんじゃないんだからと遠慮するが。それでも
リッカは、皆の気持ちを代表し、言葉を伝えるのだった。
「ううん、私、本当に皆には感謝してるの、皆が来てくれなかったら……、
私、オドオドしたままで、レナさんともちゃんと向き会えなかったかも
知れない、又頑張ろうって思えたのも皆のお陰だよ、手伝ってくれて
レナさん達も有り難うって、だからこれはレナさん達、従業員さん達の
感謝の印なの、皆に久しぶりに会えて良かった、本当に有り難う……」
「リッカ……、僕達の方こそ……、有り難う……、感謝するよ……」
「私達皆で大切に使わせて貰うね……、本当に有り難う……」
「えうう~、オイラももっと精進しなくちゃ……、皆に申し訳
ないよお~……」
「ジャミル……、色々有り難う……」
「リッカ……、お、おま……、!?」
リッカは最後にジャミルに近づく。そして悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ジャミル、明日までにその膨らんだお腹、引っ込めなくちゃね、
……じゃないと、もうジャミルにはお持て成ししてあげませんよーだ!」
「ちょ、おま……、何か意地悪くなって来てねえ?……あのレナオバアに
影響され……、う、う、げっふう!」
「あははははっ!」
リッカの気持ち、レナを始めとする従業員達、皆の気持ちに甘えさせて貰い、
アルベルトが代表で小袋を受け取る。厨房にいたコック、職人さん達からも
拍手が巻き起こるのだった。リッカは本当はもっと皆と沢山話をしたかった。
しかし、ジャミ公がああなってしまった以上、今回は我慢するしかなかった。
冒険の話は又今度会えた時まで我慢しよう。だから、私、もっともっと、
この宿屋の宿主として、又皆をお持て成し出来る様、沢山頑張るから……。
だから……、又会おうね、約束だよと……。そして、リッカと
セントシュタインに再びの別れを告げ、4人の新大陸への又新しい
冒険が始まる。ついでに、ジャミルは出発前に、カマエルにお寄りの
際には錬金をお忘れ無くと散々カマエルに念を押されたのであった。
リッカの成長も無事に見届けた4人は安心して再び大海原へと戻る。
又会える日を楽しみに、これから向かう新大陸への冒険に胸を
弾ませていた。のんびりと航海を楽しみながら。……だが海上では
モンスターも出るので、年中のんびりと言う訳にはいかないのだが。
「ねえ、ジャミル、ニードはどうしてるのかなあ?」
「ん?そうだな、すっかり忘れてたな、あいつもウォルロで宿屋を
経営してるんだったっけ……」
モンにそう言われてジャミルはやっと思い出した。リッカの事は
心配なかったが、此方はちゃんと元気でやっているのだろうか、
気になってきていた。
「だあれ?ニード?」
「ああ、最初に地上でリッカと一緒にダチになったのさ、
ツッパリ野郎で変な奴だったけどな、どうしてるかなと
思ってさ……、リッカがセントシュタインへ移住した後、
村でリッカの宿を引き継いだんだ」
「そっか、それじゃ気になるわよね、又落ち着いたらその子にも
会いに行くといいわよ!」
「そうだな、会えるといいな……」
「モンっ!ニードの頭、どれぐらい長くなってるのかな?楽しみモン!」
「……あいつの先端の髪の事か?伸びてねえっての、たく……」
「もう、モンちゃんたら……、ふふっ」
アイシャの言葉にジャミルは笑顔を見せた。この世界で知り合った
沢山の友達。これから先、訪れるあろう場所で又新たな沢山の友と
出会える事を信じて……。
「わっかンないわよー、もしかしたらもう宿屋経営破産してたりして……」
「……おいおい……」
サンディの毒舌にジャミルは顔をしかめるが、経営者がニードと言うだけ
あって、あり得ない事ではなかった……。しかも、リッカと違い、
此方は質が悪い。……ジャミルは段々心配になってくるのだった……。
「ま、まあ、取りあえずは大丈夫だろと思う事にして……、アルーっ、
休憩しようや!」
ジャミルはずっと舵を取ってくれているアルベルトに休憩を持ち掛ける。
船を岸に止めて船室でおやつ休憩タイムへと突入する。これから向かう
新大陸への進路先も決めなければならない為。4人は休憩室にて、
セントシュタインを出発する前に、宿屋の従業員達がお土産に
持たせてくれたお菓子をむさぼり食っていた。最も、代表で
むさぼり食っているのは、約一名と約一匹であるが。
「んーっ、うめーっ、我は満足であるぞよ!」
「モンも満足であるぞよ、モンっ!」
「……全くもう、君達は……、あれだけ腹を膨らませておいて……、
萎んだらすぐこうなんだから……、ジャミル、喉元過ぎれば熱さを
忘れるって言葉を君は知らない?」
「知らん、俺は今が美味ければそれでいい」
「……そう……」
「いいんだモン!」
アルベルトは意地汚い飼い主と、その相棒であるモンを交互に見つめる。
静かに紅茶を啜りながら……。頼むからたまには上品に食えとも思うの
だったが……。古代の原始人の調教はやはり無理がある。
「……ちょ、ジャミルっ、それオイラの分のマドレーヌだよっ!」
「わりいなあ、つい手が出た、……ついでに屁も出た……」
「……うわ!」
……ダウドは慌て、残りの自分の分のおやつを確保しながら急いでその場から
自主避難するのだった。
「そう言えば、今日の夕ご飯当番、確かアイシャだったよネ?」
「……う、うっ!?」
サンディの呟きにジャミルは食べていたクッキーを喉に詰まらせ、
慌てて紅茶を飲む。そして現実に返り、絶望してみるのであった……。
「……ま、アタシは食べないから知らないケド……、ご馳走サマ、
じゃあ又ねーっ!」
サンディは専用おやつのトロピカルハチミツドリンクを飲み終えた後、
さっさと姿を消す。……恐る恐る、自分の席の横を見ると……。
満面笑顔のアイシャが……。
「そうよ、ジャミル、そんなに食べたら夕ご飯食べれなくなっちゃうわよ!
程々にしておいてね、あっ、今日はスペシャルカレーだからね!」
「……まーたカレーかよおおおっ!!」
「いつもスペシャルの様な気がするんだけどさあ……、そんなに気を
遣わなくていいよお……、とほ~……」
「……ダウド、諦めて腹を括った方がいいよ、君もね……」
「ううう~……」
覚悟はしているものの、アルベルトもダウドも既に涙目になって
いるのであった……。アイシャが真面な料理を作る日は……、果たして
来るのだろうか……。男性陣は涙目になりながら、セントシュタインの
宿で出して貰った特製美味料理の数々を思い出していた……。もう
あの味は暫く味わう事が出来ないのだから……。
「諦めたらアカン、お前らも、せ、せめて脳内で味を保管するんだ……、
思い出すんだ、目玉焼きが乗った特製ハンバーグ、サラダ、スープ、
……シチュー……、スイーツ……、はうはう……」
「……ごくり……」
「えーと、そろそろ準備しなくちゃ、ねえ、モンちゃん、今日はねえ、
キーマカレーって言うのに挑戦してみたいの、お手伝いしてくれる?
えーと、味付けにはハバネロをたっぷりと……、それからお味噌と
ラー油と後、豆板醤と濃厚牛乳……、あとあとねえ……」
「……」
やはりアイシャには敵わず……。せめて脳内で味おうと思った
特製料理もアイシャのキーマカレーに悉く潰されたのだった……。
「……勘弁して下さいいーーっ!!」
zoku勇者 ドラクエⅨ編 34