続・吾輩は逍遥である

続・吾輩は逍遥である

ある日、無田口家の庭の隅に瀕死の状態で紛れ込んで横たわる野良猫がいた。それをこの家の奥さん(加奈子)が見つけた。それがこの猫と無田口有三、加奈子夫妻との出会いであった。その猫の風貌が、以前飼っていた猫で病死してしまった逍遥と良く似ている事から、この家の主の無田口有三は、その猫が気にいってしまい「逍遥(しょうよう)」と言う名前を付けて家で飼う事にしてしまった。格してその猫が、2代目逍遥としてこの家に住むことになる。

2代目逍遥の目を通して物語は展開していく。今回は、近くに住んでる牟田口氏の友人である東北訛りの元警察官大山泰三さんの再婚問題、牟田口有三先生の浮気疑惑などなど・・・相変わらずドタバタと物語は賑やかに展開する・・・。

第1章 2代目逍遥誕生

2月というのに妙に暖かい昼下がりであった。

吾輩は必死の力をふりしぼって、その家の庭先に潜り込んだ。庭の隅の方のツツジの木の下にその疲れた身体を横たえるとすぐにものすごい睡魔に襲われそのまま眠りについてしまった。

それから、どの位時間がたったのだろうか・・・・。

涼やかな優しい声で眼を覚ました。どうやらその声の主は、家の中の誰かに私の事を伝えてるようである。そのうち、その女の人が吾輩のすぐ側にやって来た。吾輩は寝たふりをして少し薄目を開けてその涼やかな優しい声の主を盗み見た。その女の人は、優しげでとても綺麗な人であった。それに身体からいい香りをさせていた。吾輩のすぐ側に座って白く細い指で吾輩の身体を優しく撫でてくれている。疲れ果てた吾輩の身体には何とも言えないほどの心地よさである。

しかし、この至福の時間も玄関から出てきたしゃがれた声の主の出現で一瞬にして邪魔されてしまったのである。吾輩は、その声の主の方をチラっと盗み見た。その声の主は、モジャモジャ頭に髭面で痩せて何とも風采があがらない男である。吾輩の頭が忙しく回転する。

「この二人の関係って!?父と娘・・・ま、まさか夫婦って事はないよなあ・・・ニャ~~ん!」

まあその辺の所は、ゆっくりと観察するとするか・・・と吾輩は寝たふりを続けた。

「加奈ちゃん!どうした?何かいるの?」

男は、しゃがれた声で尋ねた。

「有さん!猫ですよ。何かすごく疲れているみたい・・・」

と女の人がその男に心配げに語りかける。男は吾輩の事をじっと見ている。そして、女の人に話しかける。

「だいぶ、くたびれてるなこの猫は・・・とにかく家の中に連れて行こうか!加奈ちゃん!」

と男は、吾輩をひょいと抱き上げた。

「う・・・乱暴だな!吾輩は腹ペコでフラフラしてるんだから・・・優しく抱き上げてよ~~ニャ~ん!」

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、私をむんずと抱いて家の中にドタドタと入って行った。吾輩は、本が一杯積まれた応接間だか書斎だか解からん部屋のソファーにどんと置かれた。

「もう~~ほんとに乱暴なんだからこの人は・・・ニャ~~ん!」

吾輩がソファーで少し頭を上げてキョロキョロしてると、

「さあ~ミルクですよ。お腹空いてるんでしょう。ゆっくり飲んでね!」

と女の人が優しく私の鼻先にミルクを置いてくれた。吾輩は、頭だけを持ち上げてそのミルクをえらい勢いで飲み始めた。

「お~~~そうとう腹が減ってたんだな、この猫!」

と男が吾輩を見て感心してる。

「変なとこで感心するなよ・・・おっさん!・・・ニャ~ん!」

「そうねえ~すごい勢いねえ〜あらら、落ち着いて飲んでね~~」と女の人が優しい眼差しで言った。

ミルクを全部飲み終えて満足して吾輩は、そのままソファーに横になった。お腹が一杯になってぼんやりとした頭に二人の会話が聞こえて来た。

「加奈ちゃん、この猫ここで飼ってやろうと思うけど・・・どうだろうね?」

男が女の人に言った。

「そうねえ~可哀想だし・・・そうしてあげましょうか!」

と女の人が頷いた。

「しかし・・・良く見るとこの猫は、逍遥に似てるなあ・・・。そうだ!二代目の逍遥って名前にしちゃうかなあ・・・」

「そうねえ~ほんとに逍遥ちゃんに似てるわね!そうしましょう!逍遥ちゃんって名前に!」

どうやら、そんな訳で吾輩はこの家で飼われる事になり、名前は逍遥と付けられたらしい。

「吾輩には、竜の介と言うれっきとした名前があるんだけどなあ・・・でもまあ、いいか・・・これから、この家に厄介になるわけだし、郷に入っては郷に従えだもんな・・・ニャ~~ん!」



「ここで読者諸君には、この家の二人には内緒で吾輩の事を少しお話しておかねばならない。吾輩は、3ヶ月までは、野良猫ではなく飼い猫だったんだ。ある大学教授に飼われていた・・・というより教授の奥さんに可愛がられていたんだ。でもその奥さんが2年前に亡くなり、それからは教授に世話になっていたんだ。その教授も3ヶ月前に突然亡くなってしまって、それからは教授の身内がこの家に集まり・・・遺産相続やらなんやらでケンケンガクガク連日揉めてさ、吾輩は全然面倒を見てもらえなくて・・・とうとう頭に来てこの家を飛び出してしまったって訳。それからはホームレスって状態で3ヶ月過ごして訳。ずっと飼い猫だったので、外の世界に出ても勝手が解らず、実に難儀な事で一日の食にも事欠く始末だったんだ。その上外の猫の世界にも縄張りって言うものがあって、新参者の我輩は仲間に入る事もできやしない。そんな日々を送りながら北へ北へと向かって、今日この家にたどり着いたって訳なんだ。実は前の家にいる時は、竜の介って呼ばれていたんだ。ふぁ~~ここまで話したら眠くなった。もう寝てもいいかなぁ~~~ニャ~~ん!」



吾輩は、お腹も一杯になったしものすごい睡魔に襲われてそのまま深い眠りに落ちて行った。

第2章 大山泰三氏登場!

随分と長い間寝ていたのだろうか、吾輩が目をさますと外はもう真っ暗だった。吾輩が寝ていた部屋も真っ暗で誰もいなかった。廊下を挟んだ向こうの部屋、たぶん台所だろうか・・・そちらは電気がついていて何やら賑やかな笑い声が聞こえる。男の人・・・いやいや、私の今度の飼い主は有三さんだったな・・・と加奈子さんの他にもう一人誰かいるらしい。吾輩は、ミルクと睡眠ですっかり元気になったので少しこの家の事を知らなきゃダメだなと思ってソファを降りて台所の方に向かった。元々好奇心は、旺盛な吾輩である。みんなの所に行く前に少し二階を探検して見ようと思いみんなに気づかれないようにそっと階段を登った。

どうやら二階は、二部屋のようである。洋室のドアが開いていたので覗いて見ると、寝室らしい・・・ベットはダブルである。綺麗にベットメーキングがしてあった。この寝室にあの綺麗な加奈子さんと不細工な有三さんが一緒に寝るのか・・・と吾輩は複雑な気持ちでその寝室を眺めた。まあ、いいか夫婦だもんな。さらに眺めると廊下を挟んだ反対側がどうやら和室のようだ。

「なるほど、二階はこういう感じか・・・ニャ~~ん」

吾輩は、しっかりと頭にインプットした。そっと下に降りると台所に入って行った。瞬間!吾輩は度肝を抜かれた。お酒のせいなのか元々なのか、メチャメチャ!でっかい声で話してるおじさんが吾輩の方に背中を向けて座っていた。広い肩幅、坊主頭のぶっ叩いても倒れそうもないようなガッチリした身体。

「何だ?このおっさんは?何物?~ニャ~~ん!」

吾輩の鳴き声を聞いて、吾輩を見つけた加奈子さんが優しく言った。

「あら!逍遥ちゃん起きたの?もう大丈夫なの?」

吾輩は、「にゃ~~~~~~ん!」とチョット甘えた声で答えた。

「だったら、ご飯用意してあるから食べてね!」と吾輩のご飯の場所へと案内してくれた。

「有三さ~、このネゴが二代目逍遥がい?」

でっかい声でそのおっさんが有三さんに聞いた。

「そうなんです泰三さん、似てるでしょう!逍遥に!」

「たすかに、似でんなあ~~こっつの方が前の逍遥より、でいぶ若げいげんじょ!似でんなあ・・・」

とこの泰三と呼ばれる大きな声の坊主頭のいかついおっさんが吾輩を見てひどい東北訛りで言った。吾輩は、三人の会話に耳を傾けながらご飯をペチャペチャ食べていた。

「そういえば、静ママのとこの花子いだっぺよ!」

「ああ~いましたねえ~逍遥の亡くなる時、心配して窓の外で泣いていたので家に入れてやったら・・・逍遥の顔をペロペロと舐めてましたね。猫同士、もう逍遥は助からないって言うのが解ったんでしょうね。夢中で舐めてましたっけね・・・」

「ほんとに、花ちゃん寂しそうだったわね・・・頑張れ!頑張れって言ってる感じでしたもの・・・」

と加奈子さんがしんみりと言った。

「その花子だげんじょ、このめい店の前通ったら、何か寂すそうにしゃがんでたわ。ママに聞いたら逍遥が死んでがらは、あんまり外さもいきたがらね~らすいわ!」

「そうなんですか、逍遥とすごく仲良かったもんねえ~きっと、寂しいんだろうねえ・・・」

と有三さんも何かを考えるような顔で言った。

「可哀想ね~花ちゃん!逍遥がいなくて寂しいんでしょうねえ・・・」

「そうなんだ~花子って猫は、前の逍遥さんのガールフレンドだったんだな・・・そうだ!この家に住む事になったんだし、花子にも興味があるし会ってみようかな、よ~~し明日から少し近所を探検して見ようっと・・・ニャ~~ん!」

と吾輩は思った。

「おれ家の風も、最近は元気になったげんじょ!逍遥が死(す)んで3日くれいは、飯もくわねがったなあ~」

「そうだったんですか~風ちゃんもご飯食べなかったんですか・・・風ちゃんも逍遥と仲良かったですものね・・・」

「おやおや!風だって?今度は何物?泰三おっさんのとこに居るのか・・・よしよしこれも探検して見ようっと・・・ニャ~ん!」

「今思うと逍遥は、いい子だったしみんなに好かれていたんですね・・・」

と有三さんが逍遥の記憶をたどるようにしんみり言った。

「そう言えば、有三さもすばらく落ち込んでいだっぺよ~ガハハ」

と泰三さんが、その場のしんみりした空気を吹き飛ばすように大きな声で笑った。

「そうなんですよ、有さんは暫く食欲が無いって・・・ご飯もあまり食べなかったし、大好きな酒もほとんど飲まなかったですよ・・・執筆もほとんど進まなかったようだし・・・」

と加奈子さんが言った。

「ガハハ~~有三さんの執筆はいづも進まねべよ!」

と泰三さんが豪快に笑いながら茶化した。有三さんは頭を掻きながらニヤニヤと笑った。加奈子さんは、二人につられて笑っていた。

「案外、この大山泰三おっさんは見てくれはゴツいけど面白いおっさんかも!?~ニャ~~ん!」

「そうだ、泰三さん!向こうの部屋で一杯やりましょうか?」

「んだな~いっぺいやっか!」

「じゃ、お酒の用意しますね」と加奈子さんは食堂のテーブルから立ち上がった。

「いづも、すまねすなあ~~」と泰三おっさんも椅子から立ち上がり加奈子さんに言った。

「いいえ~どういたしまして~」と加奈子さんが泰三さんを見て微笑んだ。

二人が向こうの部屋に向かったので吾輩も二人について行った。ソファの上に飛び乗り横になったと同時にまた睡魔が襲って来た。どうやら吾輩の体力もまだ完全には戻ってないらしい。

しばらくして目が覚めたが・・・飲み会はまだ続いているようだ、相変わらず豪快な泰三おっさんの東北訛りの大きな声と笑い声が部屋中に響いていた。そんな喧騒も気にすることなく・・・吾輩は、明日からの探検の事を思いながら深い眠りについた・・・・。

第3章 2代目逍遥探検に出る

「ファ~~ニャ~~~ん!」

大きなアクビと共に吾輩は、目覚めた。朝である・・・何時頃だろうと時計を見ると8時半を指していた。
突然耳をつんざくような、「ブファ~~~ぐぐぐグ~~~~」となんともけたたましい音が聞こえて来た。

「なんだ?このやかましい音は?ニャ~~ん」

吾輩は、部屋を見渡した。

「ああ~~有三さんだ!この音は、イビキなんだあ~~~ニャ~ん」

何とも有三さんが簡易ベットから落ちそうになって、大きな口をあけてイビキをかいて寝ている。

「有三さんは、起きてる時も格好が悪いけど・・・寝てる時は更にひどいなあ~~ニャ~ん!」

と吾輩は思った。

「そうだ!ついでにチョットこの部屋も探検してみるかな・・・ニャ~~ん!」。

うむうむ・・・この部屋は、リビング兼書斎らしいなと吾輩は思った。大きな机とソファーに簡易ベット・・・それに本の山・・・そうか、有三さんって物書きなんだ。でも、この格好悪い有三さんってどんな物書くんだろうな・・・と吾輩は、少し興味を持った。

それから吾輩は、台所に入って行ったが誰もいなかった。居るべきはずの加奈子さんがいない・・・・。でも吾輩の食事は、ちゃんと用意してあった。

「美味しそう!加奈子さんの手作りだな!ウフ・・・ご馳走さま~ニャ~~ん」

吾輩はゆっくりと食べながら、加奈子さんはお仕事に行ったんだな・・・と思った。それにしても手作りのご飯は、前の飼い主の教授の奥さんの時以来だから3年ぶりかなあ・・・と吾輩は感激しながら食べた。

「それにしても、加奈子さんは美人だし料理も上手いんだな・・・美味しい、ニャ~ん!」

吾輩は、ゆっくりと味わいながら食べた。

「さて、お腹も一杯になったし花子って猫に会いに行こうかな~ニャ~ん」

と吾輩は、一つ伸びをして玄関の方に歩き出した。

「そうだ!その前に泰三おっさんの所の風とか言ったなあ・・・そいつにも会わなきゃな・・・風って変
な名前だなあ・・・どんな猫だろう?まあ、とにかく!探検だ!~~ニャ~ん!」

とばかりに吾輩は、玄関を飛び出し通りに出て駅の方に向かって歩き出した。家を出て少し歩くとポストに新聞を取りに出てきた坊主頭の泰三おっさんと出くわした。

「お~~なんダッペ!2代目君!お散歩がい!どごさいぐだ・・・」

とでっかい声で吾輩に話しかける。

「何処に行こうと勝手だろうが・・・ニャ~~ん!」

と思ったが、そこは吾輩も大人である。泰三さんの足もとに身体を摺り寄せた。

「お~そうだ!風に会ってけばよかっぺ!2代目よ!こっちさこぉ~風に会わすがらよ!」

と大きな声で吾輩を呼んだので、泰三おっさについて門の中に入るとそこに居たのは・・・。

「ぎゃ~~~風って犬かよっぅ!・・・・ニャ~~ん!」

と吾輩は、ビックリして風を見ると・・・風もビックリしたように吾輩をジロジロ見てるが吠えない!

「お~~風のやろ!吠えねなあ・・・そうが2代目が、めいの逍遥と似でっからがな・・・ガハハ」

と泰三のおっさんがでっかい声で言った。

「おっさん!そんなでっかい声で言わなくても側にいるだから聞こえるよ!ニャ~~ん!」

と言いたかったが吾輩は、黙っていた。

「おい!2代目!風も暇だっぺから、ゆっくり話でもすてげや・・・ガハハ」

と言いながら泰三おっさんは、吾輩を置いて玄関の方に行ってしまった。風は、興味ありげに目を見開いてじっと吾輩を見ていた。

「しょうがないなあ・・・挨拶でもするかあ~ニャ~~ん!」

と吾輩が思ったら風の方から話しかけて来た。

「おまえ、逍遥じゃないよなあ・・・逍遥は死んだもんなあ・・・ワン」

「逍遥だよ!昨日から逍遥って名前になったんだ~ニャ~~ん!」

「!?と言う事は、2代目逍遥かあ・・・じゃ、先生の所で飼われたのかあ・・・それにしてもおまえは、前の逍遥に良く似てるなあ~てっきり逍遥が来たのかと思ってしまったぞ・・・ワン!」

先生って誰の事だ?もしかして有三さんの事かなと吾輩は思った。それにしても風さんって、吾輩よりだいぶ年上そうだなあ〜何て呼ぼうかな・・・風さん!?いやいや、風おじさんかな?そうだな、風おじさんって呼ぼうかな。

「風おじさんは、前の逍遥さんとお友達だったの?ニャ~ん!」

「そうだよ!良く逍遥は、私の所に来て話していったよ。あいつは、優しくていいやつだったなあ~ワン!」

「そうなんだ!風おじさん!もっと前の逍遥さんの事や有三さんや加奈子さん、それに泰三のおっさんの事も聞かせてよ~ニャ~ん!」

「そうか~聞きたいか!おいらも退屈してたところだから~いいぞ!教えてやるわ~ワン!」

吾輩は、花子に会うのは明日の楽しみにして今日は、ここで風の話をゆっくり聞く事にした。

第4章 2代目逍遥、花子と対面する

「ふにゃ~~~~ふぁ~~~ニャ~~ん!」

この家に吾輩が来て、二日目の朝があけた。相変わらず有三さんは、簡易ベットから落っこちそうになって大いびきをかいて寝ていた。台所の方に行くと丁度階段から加奈子さんが降りてきて吾輩に優しく言った。

「あら、逍遥ちゃん~おはよう!ご飯は、いつのも所にあるからね。私は今からお仕事に行って来るね!」

と吾輩の頭を撫でてくれた。吾輩は、甘え声で

「にゃ~~~ん~~~ん!」

と答えた。加奈子さんが、玄関の方に歩いて行ったので吾輩も加奈子さんを見送るべく玄関に向かった。

「あら、逍遥ちゃん!見送ってくれるのありがとう!じゃ、行ってきます~」

と吾輩の頭を撫でて加奈子さんは、門の方に歩きながら吾輩の方を見て手を振った。吾輩は、加奈子さんの姿が門の外に見えなくなるまで見送った。それから吾輩は台所に戻り、加奈子さん手作りの美味しいご飯を食べながら、昨日風おじさんに聞いた事を頭の中で思い出していた。そしてご飯を食べ終え、定位置のソファに戻った。

「今日は、花子に会いに行くんだけど・・・その前に昨日、風おじさんに聞いた事を整理しなきゃなあ~ニャ~ん!」

「え~~と、先代の逍遥さんは8歳でこの家に来て6ヶ月目に病気で亡くなったんだったな・・・。それと先代の逍遥さんは、有三さんの事を先生って呼んでいたんだって風おじさんが言っていたな。そうだ!これから吾輩も有三さんのことは先生って呼ぼうと決めた。先生の奥さんは、10年前に癌で亡くなったんだって、お子さんは、居なかったそうなんだ。加奈子さんは、先生の書いた物を掲載してる出版社に勤めていたんだ。先生に口説かれて後妻に入ったそうなんだ。よくまあ~加奈子さんみたいに綺麗な人があの先生の奥さんになったなあ・・・それが吾輩にはすごく不思議な事に思える。それから、風おじさんの飼い主の大山泰三おっさんは、元警察官で定年退職したんだったな。泰三おっさんも奥さんを20年前に病気で亡くして、それから一人娘の真里さんを男手で育てたらしいんだ。でも仕事が刑事だったんで時間も不規則だったし、真里さんがまだ小さかったから、先生の奥さんが自分の子供のように可愛がって手助けをしてくれたんだ。先生と泰三おっさんは、ウマが合うと言うかとても仲がいいらしいわ。さてこれから会いに行く、花子は10歳だって風おじさんが言っていたなあ~。駅前の喫茶店「しずか」のママに飼われているんだってさ、「しずか」は先生も泰三さんも常連客でほとんど毎日行ってるんだったな~ニャ~~ん!」

吾輩は、風おじさんから聞いた事で大体の事は2日めにして把握できた。

「うふ~吾輩って天才かも~ニャ~~ん!」

なんて思いながら、いよいよ花子に会うべく玄関に向かって歩き出した。泰三おっさんの家の前に来たので、風おじさんに挨拶しようと門を入ったら、泰三おっさんが出てきて吾輩に声をかけた。

「お~~2代目、何だっぺ!風のとこさ来たんか?まあ、ゆっくりすてげや!ガハハ」

と大きな声で言って門を出て行った。風おじさんは、小屋の前で気持ち良さそうに寝ていた。

「風おじさん!おはよう!ニャ~~ん!」

「むにゃむにゃ~何だ!逍遥かあ~~~ふぁ~~~~ワン!」

と一つ大きなアクビをして吾輩を寝ぼけ眼で見た。

「風おじさん~昨日は、色々教えてくれてありがとう~ニャ~ん!」

「なんの!なんの!何でも解からん事は、遠慮しないで聞いてくれや~おまえはこれから花ちゃんのとこに行くのか?~ワン!」

「うん、花おばちゃんのとこに行ってくるよ~ニャ~~ん!」

「そうか、オイラも一緒に行きたいが繋がれてるから行けんわ!花ちゃんにヨロシクな!花ちゃんは結構気難し所があるから逍遥好かれるといいなあ・・・ワン!」

「うん、好かれるように頑張るよ!じゃ、行って来るね!ニャ~~ん!」

と風おじさんに挨拶して吾輩は、門の方に向かった。喫茶「しずか」は駅の側にあるので泰三おっさんの所からは5分くらの所にある。吾輩は、「しずか」に向かって走り出した。

「喫茶「しずか」・・・あは~これだな!古い店だなあ~~あれ、泰三おっさんが入って行ったわ・・・ニャ~~ん!」

店の前から周りを見ると、一階の屋根の上に白い猫が座ってこちらを見ていた。

「あは~~あれが、花おばちゃんかな?何か貫禄あって怖そうだな~~ニャ~~ん!」

と思いながら恐る恐ると吾輩も屋根に飛び乗り近づいて行った。

「ありゃ!花おばちゃん!吾輩を警戒してないなあ~~優しい顔で見てるわ!ニャ~~ん!」

ニャ~ニャ~~んと吾輩は、花おばちゃんに挨拶すると、

「ミャ~~~ン!おまえが先生のとこに飼われたと言う2代目逍遥かい?」

と挨拶を返しながら、花おばちゃんの方から吾輩に話しかけて来た。

「そうです!逍遥です!ヨロシクお願いします!ニャ~~ん!」

「そうか、そうか~逍遥かあ~~確かに前の逍遥に良く似てるわね~おまえさんは、何歳だい?ミャ~~~ン!」

「僕は、6歳です!ニャ~~ん!」

「そうか、6歳かあ~~若いんだね。私は花子だよ、ヨロシクネ!ミャ~~~ン!」

と花おばちゃんは、優しい顔で言った。風おじさんは、花おばちゃんは気難しいって言ってたけど・・・結構優しそうなおばちゃんじゃないかと吾輩は思った。

「花おばちゃんは、ここでの先生や泰三さんの事、何でも知ってるんでしょう?ニャ~~ん!」

と吾輩が尋ねると花おばちゃんは大きく頷いて、

「そりゃ!色んな事知ってるわよ!この喫茶店は、常連客ばっかりだから私が店にいても誰も嫌がらないしネ。みんな挨拶してくれるわよ。それに喫茶店の中にも私の定位置が日当たりのいい窓のとこにあるからいつもそこに座って寝たふりして店のお客さんを観察してお話を聞いてるんだわ!だから、先生の事も泰三さんの事も色々知ってるさ~ミャ~~~ン!」

「そうなんだ!いいなあ~~。じゃ、店での二人の事色々と教えて下さいね!ニャ~~ん!」

「ウフフ~いいわよ!色々と教えてあげるわね。先生と今の奥さんの加奈子さんのデートの時なんかメチャメチャ面白かっただから~~先生いい年してすごく純情でさ~~ミャ~~~ン!」

「うわ~~そうなんだ!聞きたい!聞きたい!ニャ~~ん!」

吾輩は、すっかり花おばちゃんに打ち解けて、それから長い間花おばさんの話を色々と聞かせて貰っていると前方から、あの独特の風体の先生が頭を掻き掻きこっちに歩いて来る姿が見えて来た。

「おや!おや!先生の登場だね~~泰三さん来てるし・・・きっとここに来るわよ~ミャ~~~ン!」

と花おばちゃんが言った。案の定花おばちゃんの言うように先生は、吾輩には気づかず扉をあけて中に入って行った。

「さて、先生と泰三さんは今日は、何の相談かな?ミャ~~~ン!」

と花おばちゃんは、楽しそうに言った。

「じゃ、逍遥ちゃん~私は中の定位置に行って二人の話聞いてくるからね。また話してあげるから明日お出で~~ミャ~~~ン!」

「解った!明日楽しみにしてるねえ~ニャ~~ん!」

「またね、逍遥ちゃんはそこで昼寝でもしてけばいいわ~ミャ~~~ン!」

と言って花おばちゃんは、軽い身のこなしで屋根から降りて行った。吾輩は、この日当たりのいい屋根の上で少し休んで行こと思った途端に睡魔が襲って来た。

第5章 謎の女?泰三さんに接近中

この家に来て三日目の朝を迎えた。先生は相変わらずでっかいイビキをかいて、簡易ベットから落ちそうになって寝ていた。加奈子さんは、もうお勤めに行った見たいで台所にも居なかった。今日は土曜日なのにお勤めなんだなあ・・・加奈子さん大変だなあ・・・それに比べて先生は!?と吾輩は、思った。いつものように加奈子さんが作ってくれた朝食をいただいた。

「美味いな~~ニャ~ん!」

ご飯を食べながら、今日は花おばちゃんのとこに行って先生と泰三さんの昨日の事を聞く事を思い出した。ご飯を食べ終えて、大きなアクビを一つして玄関へと向かった。

「玄関へ行っても戸が開いて無いだろう!どうやって逍遥出るんだい?」

って読者の皆さんは、思ってるんでしょうねえ・・・。

でも大丈夫なんです!玄関の横の方に先代の逍遥ちゃんの時に出入りしてた所が作ってあるんです。吾輩もそこから出入りしているのである。

門を出て大通りを駅の方に歩き出した。途中、泰三おっさんの家に寄り風おじさんに朝の挨拶をして、走って花おばちゃんの所へ向かった。花おばちゃんは、昨日会った屋根の上で待っていた。

「花おばちゃん~~おはよう!ニャ~~ん!」

「はい、おはよう!逍遥ちゃん来たわね~ミャ~~~ン!」

「花おばちゃん~〜〜昨日の先生と泰三おっさんのお話今日は聞かせてくれるんだよね~ニャ~~ん!」

「いいよ!聞かせてあげるわよ~~ミャ~~~ン!」と言って花おばちゃんは、話はじめた。

ここからは、花おばちゃんの喫茶店内のお話だから吾輩は興味深々それを聞くことにした。

私が店の定位置に座ると、二人の会話が聞こえて来たのだ・・・ミャ~~~ン!。

「ところで泰三さん、私に話したい事ってどんな事ですか?」

「お~有さん、聞いてくれっか!じずわな・・・こごの隣にすずらんって言うスナックあっぺよ!」

「あ・・・ありますねえ~確か年の頃40位のママさんでしたね・・・」

「有さん~行ったごとあんのがい?あのママは、沙織って言うんだわ!」

「一度だけ、出版者の人と行った事ありますよ。ママさん沙織さんって言うんですか。綺麗な人ですよね・・・。泰三さんすずらんに行ってるんですか?」

「いや、すずかママのとこが3ヶ月前に夜のスナックやめっちまったべよ!そんで、3ヶ月前から週に2回ばっかし、顔出してんだわ・・・ガハハ」

「そうなんですか~そこで何かあったんですか?例えばママさんに惚れちゃったとか?」

「すずらんのママがい?それは、ながっぺよ!ワスとは、歳はなれ過だっぺよ!ガハハ」

ははぁ~~泰三さん、誰か気になる女性が出来たなと私は思った。でも泰三さんは、前にしずかに勤めていた葉子さんとデートした時、クラシックのコンサートに行って大失態を演じた経験があるからなあ・・・今度も何かやらかすんじゃないかな・・・と思ったが眠ったふりをして二人の会話を聞いていたのだ~ミャ~~~ン!。

「じゃ、誰か違う女性に出会ったんですかすずらんで?誰かとデートの約束でもしたとか・・・」

「いや~~まんだ、そこまではいってねえげんじょ・・・実は、こねだカウンターに座ってママと喋ってたら、突然歳の頃50過ぎぐらいの女が入いって来て、ワスの隣に座ったんだわ!」

「ほう~そうなんですか・・・何者何ですか?その女性は?」

「まだそん時は、はずめてあったで何者がわがねがったげんじょ、いきなりワスとママの会話にへいり込んで来て喋り出すたんで・・・ママは、他のお客の方に行ったんだわ!」

「ほお~~ママさんは、気きかしたのかな?じゃ、その後は泰三さんはその彼女と飲み始めた訳ですね・・・」

「んだ!彼女も酒強くってよ、二人で盛り上がって・・・話してる内に彼女も東北は山形の出身だって言うんで更に盛りあっがって・・・えらぐ長げいごと喋っちまって・・・その日は、家にけいったのは、午前様ってわけだ!」

「あらら~そんなに盛り上がったんですか!・・・でそれから、どうしたんですか?」

「それがら、すずらんで5,6回飲んだすな・・・何回か飲んでる内によ・・・ワスは、彼女を好ぎになっちまったってわけだ・・・彼女に会うと・・・何か、心臓が・・・」

と言って、泰三さんは照れながら坊主頭をゴシゴシと掻いている~ミャ~~~ン!

「そうですか、好きになったんですか・・・。心臓もドキドキ!ですか~~いや~泰三さん少年のようですねえ・・・アハハ」

「そだごど、有さんに言わっちゃくねいなぁ・・・有さんだって、ホラ加奈子さんとデートの時は緊張すすぎて大変だったぺよ・・・コーヒーズボンさこぼしたりすてよ・・・ガハハ」

「いや~~それを言わないで下さいよ!」と先生も頭を掻きながら照れ笑いを浮かべた。

「まあ、それはともかく・・・それからどうしたんですか?彼女とは・・・」

「そうだったな!親すくなるうち、彼女の方も色んな事話してくっちっよ。どうも5年前に旦那とは、す(死)ね別れらすいんだ・・・子供は居ねがったらすく、今は一人でブテックかなんかすてるだどよ!」

「ほお~そうなんですか・・・ブテック経営で一人暮らし・・・うむうむ・・・」

「そんで、ある日彼女が言ったんだわ!私泰三さんなら再婚すてもいいわ!ってな・・・」

「ええ~~~~~そう言ったですか・・・フムフム・・・それで泰三さんはメロメロですか?」

「そら、うれすべよ!メロメロになっぺよ・・・でも、彼女は今すぐは出来ねいって・・・今お店の経営が思わすくなくて借金があって、それを整理すてからじゃないと・・・って言うんだ。そんでよ、いくら借金があるんだって、ワスが聞くと・・・300万借金すてるって・・・」

「へえ~300万ですか・・・大金ですねえ~~。・・・ぇ!?待てよ!まさか泰三さん、もしかしてそのお金・・・・」

先生が心配そうに尋ねた。

「お~~その、もすかしてだっぺよ!300万位ならワスにも何とかなるすなあ・・・でも、彼女はそれは出来ねって、まだ泰三さんとはすり合って間もねいし・・・借りるわけさいかねと・・・何度も断ったけど・・・」

「断ったけど・・・貸しちゃったんですか・・・むむ・・・泰三さんらしいなあ〜」

「んだ!貸すたよ・・・そすたら、彼女来月には必ずけいすからって・・・何度も何度も頭を下げたす!」

「う~~~~ん、それって先々月の事ですよねえ・・・じゃ、もう1ヶ月立ちましたよね・・・それで返してくれたんですか?」

「いや返すてもらってねえ・・・今月も2度ほどすずらんであったけんじょど・・・彼女、借金の話はすねえいし、ワスも聞かなかったす・・・惚れた弱みもあるすなあ・・・」

私は、泰三さんの話を聞いてて、こりゃ泰三さん女に弱いから騙されているんじゃないのかなと思った・・・ミャ~~~ン!

「それで、私は何をすればいいんですか?」

「いや、ワスと一緒に一度彼女の店を見に行って欲すいんだわ!何か一人だと・・・心細くってなあ・・・」

「アハハ~元刑事が何を言ってるんですか・・・勿論、泰三さんの頼みだもの一緒に行きますよ!」

「そうがあ~ありがでぃ~~持つべきもの友だなあ~~ガハハ」

「ところで、そのお店の場所は聞いてるんですか?」

「勿論!聞いでっぺよ~元刑事だがんなあ~その辺は抜かりねいど~~ガハハ」

「解りました!じゃ明日は、チョット原稿の締切りがあるので明後日ではどうですか?」

「よがっぺ、じゃ明後日有さんヨロスク頼むす!じゃ、有さん今から一杯やりに行っか!ガハハ」

「いいですね!やりましょう!」

と二人は、意気投合してしずかを出て行ったのだ~ミャ~~~ン!

「・・・と言う話だったんだよ!逍遥ちゃん、解った?ミャ~~~ン!」

と花おばちゃんは、吾輩に言った。

「うん、ありがとう!花おばちゃん!逍遥も大人だから解るよ。でも泰三さん、大丈夫なのかなあ?300万も貸して・・・それにうちの先生、加奈子さんはお仕事してるのに酒盛りなんかしてていいのかな?ニャ~~ん!」

「泰三さんは、私も心配だわね。泰三さんて顔は、怖いけど女性にはからっきし純情だし、頼まれると嫌と言えない人だからね・・・お宅の先生は毎度の事だから心配ないわよ~~ニャ~~ん!」

「そうなんだ!泰三おっさん心配だなあ・・・・あ、もう加奈子さん帰ってるかも知れないから、帰るネ!花おばちゃん~今日は、ありがとう!ニャ~~ん!」

「うんうん、またお出で逍遥ちゃん!~~ミャ~~~ン!」

花おばちゃんは、ニコニコして吾輩を見送ってくれた。吾輩は、しずかを後にして我が家に向かった。

第6章 泰三さんの恋の行方?

そう言えば、昨夜は先生遅くに帰って来たなあ・・・それから加奈子さんと何やら話していた見たいだ。吾輩は眠くて眠くて寝てしまったから話の内容までは解らないけど・・・。

「明日は、日曜だから加奈子さんはお休みかなぁ?だといいなぁ・・・。そうだ明日は、先生は泰三おっさんと例の女の所に行く日だなぁ、でも明日は、何か変な予感がするな・・・ニャ~~ん!」

明日は、何となく忙しそうだから、吾輩も今夜はもう寝るかとソファーに横になると同時に寝てしまった。

そうして、吾輩の逍遥としての4日目の朝が来た。目覚めるといつもの煩いイビキと簡易ベットから落っこちそうになって寝ている先生がいなかった。オヤ!今日は先生起きるの早いなあ・・・そうだ!今日は、泰三おっさんと例の女の所に出かけるんだったなあ・・・なんて考えながら台所の方に行くと先生が髪はオールバックに綺麗にとかして、ハイネックのセーターをキチンと着て台所のテーブルでコーヒーを飲んでいた。

「やあ~逍遥君、おはよう!元気かな?アハハ」

と先生は読んでる新聞から目をあげ陽気に吾輩に話しかけて来た。

「ニャ~ン〜ニャ~ン〜・・・」

吾輩が甘えた声で応えると先生は満足そうにうなづき新聞にまた目を落とした。

「あれ?加奈子さんは、いないなぁ・・・今日もお仕事なんだなぁ~~ニャ~ん!」

吾輩のご飯は、いつもの場所に置いてあった。ご飯を食べたらまた眠くなったのでソファーでウトウトしてると、ガラガラと玄関の開く音がした。

「おはよう!有三さ~~あがんど!ガハハ」

相変わらず、大きな声で怒鳴るように言うとドタバタと先生の居る台所に入って行った。

「あれ!加奈子さんは?今日もすごとがい・・・大変だな~」

「今、丁度担当の本が出版されるんで忙しいんですよ。あ、泰三さんコーヒー飲みますか?」

「お~~もらべ~~」

「ところで彼女の家は、何処なんですか?」

「☆☆駅だわ!ここがら3つ目の駅だなあ〜」

「そうなんですか、じゃ近いですね。コーヒー飲んで一服したら出かけますか?」

「んだな~そうすっぺ!」

どうやら、話がまとまったようだわ~ニャ~~ん!。それじゃ、吾輩も風おじさんの所へでも遊びに行くかなと思ってソファーから降りて台所に顔出すと歩き出した。

「お~~2代目、お出かけがい~風のどこさでも行ぐのか?ガハハ」

と泰三おっさんが陽気に笑いながら声をかけた。吾輩は、ニャ~ん!と答えて玄関に向かった。外に出ると冬晴れでいい天気である。風が少し冷たいけど気持ちがいい。吾輩は、大きなアクビと伸びを一つすると泰三おっさんの家に向かった。風おじさんは、相変わらず小屋の前でノンビリと寝ていた。

「風おじさん、おはよう~~ニャ~ん!」

「お~逍遥来たのか!おはよう~ワン!」

「今から、うちの先生と泰三さん出かけるだよ~ニャ~~ん!」

「そうか!どうなるんだろうな・・・うちの大将は、女にからっきしダメだからなあ・・・ワン!」

と風おじさんは、何か思案気な顔をして行った。何気なく門の方を見ると先生と泰三おっさんが通り過ぎた。

「あ!先生と泰三さんだ!風おじさんチョット見てくるね~ニャ~ん!」

と吾輩は、門の方に向かった。がっしりした体格の泰三さんは、坊主頭にヨレヨレのトレンチコートでまるでコロンボ刑事のようだなあ・・・と吾輩は思った。先生はと見ると痩せ型の身体で髪はオールバックでびしりと決め、黒のコート来て颯爽と歩いていた。

「目立ち過ぎだよな先生!主役は泰三おっさんなのに、まるで先生が女性に会いに行く見たいだ!ニャ~~ん!頑張ってね!泰三おっさん、みんなで応援してるからね~~~」

二人の後ろ姿を見送っていると、向こうの方から白い猫が歩いて来た。

「あ!花おばちゃんだ!ニャ~~ん!」

「あら、逍遥ちゃん!おはよう!ミャ〜ん!」

「花おばちゃん~おはよう!ニャ~~ん!」

「二人で行ったわね!今すれ違ったわ・・・泰三さんは、ヨレヨレのコートだったけど、お宅の先生はビッシと決めてたわね。どっちが主役か解らないわね・・・ミャ〜ん!」

と花おばちゃんは笑いながら言った。吾輩と花おばちゃんは、風おじさんの方に向かった。

「お~~花ちゃん、久し振りだね・・・元気そうだねえ~ワン!」

と風おじさんが嬉しそうに言った。

「ほんとにお久しぶりです。風さんもお元気そうで何よりですね。ミャ〜ん!」

それから、三人いや三匹で泰三さんの恋の行方やら、色んな事を時間も忘れて話しこんだ。気がつくと陽がだいぶ西の方に傾いていた。

「あら!もう夕方ね・・・だいぶ寒くなって来たわね・・・しずかママが心配するから、そろそろ私は帰るわ!風さん、逍遥ちゃん~今日は楽しかったわ!またお話しましょうネ!そうそう、逍遥ちゃん!今日の泰三さんの恋の行方は、また聞かせてね・・・じゃ、またね~~ミャ〜ん!」

吾輩は、花おばちゃんを門まで見送って通りの方を見ると加奈子さんが向こうから歩いて来た。

「あら!逍遥ちゃん!今花ちゃんとすれ違ったわ!そうか、三人でお話してたのね!そうそう、逍遥ちゃんお腹すいたでしょう?今日は、有さんもいなかったからお昼食べてないでしょう!用意するから帰りましょう~」

と加奈子さんが言った。そうか、話に夢中で忘れてたけどお昼食べてなかったなあ・・・と思った途端、急にお腹が空いて来た。

「風ちゃんも食べてないわね・・・じゃ、風ちゃんも一緒に食べましょう!」

と加奈子さんは、風おじさんの鎖を外して一緒に我が家に向かった。風おじさんも嬉しそうに尻尾をフリフリしながらついて来た。加奈子さんの作ってくれた、美味しいご飯を風おじさんと食べてノンビリしてると外はもうすっかり暗くなった。それから1時間ほどたった頃だろうか、先生と泰三おっさんが帰って来た。

「ただいま~~」

見ると泰三おっさんもいつもと変わらない感じだった。おや、もしかして泰三おっさん、上手くいったのかなと吾輩は、思った。

「おかえりなさい~~お食事の用意してありますから~泰三さんもどうぞ!」

加奈子さんが、台所の方から出て来た。

「すまねすなあ、いづも・・・じゃ言葉に甘っち、よばれっか!じゃ、その前に家さけいって着替えてくるす!お~~風もいだ
のが、ご飯もらったのがぁ~いがったなあ!加奈子さん、風まですまねすなあ~」

と泰三おっさんは、頭を下げた。

「どういたしまして~~じゃ、お待ちしてますね!」

と加奈子さんは、微笑みながら言った。泰三おっさんは、風おじさんを連れて家に帰って行った。

しばらくして、泰三おっさんがいつものカーデガン姿でやって来た。そして、台所で加奈子さんが用意した鍋を三人で食べ始めた・・・と言うより飲み始めた。吾輩は、今日の泰三おっさんの恋の行方が聞きたくて台所をウロウロしてたが中々その話が始まらないのでいつものソファーの定位置に横になった。

そのうちに、三人がお盆にお酒やツマミを持ってリンビング兼書斎にやって来てまた酒盛りが始まった。やっと泰三おっさんの恋の話が始まるなと吾輩は思った。

「ところで、泰三さんの例の女性はどうだったんですか?」

と加奈子さんが切り出した。

「いや~~~それがねえ・・・居なかったんだよ!」

と先生が頭を掻き掻き言った。

その瞬間!泰三おっさんは、お猪口の酒を一気に飲むと立ち上がり直立不動で!加奈子さんに向かって敬礼をした。

「いや~~加奈子さん!聞いでくれっがい!不肖大山泰三は、まだすても!すつれん(失恋)すてすまったす!ガハハ」

と泰三さんは、剽軽に大きな声で言いながら、いつものように笑ったけど・・・吾輩は、いつもの泰三おっさんの笑いと違うなと感じた。もしかして話が泰三さんに悪い方に展開したんじゃないかなと思うとチョット悲しくなって来た。

第7章 泰三さんは、優しい人

「え!どういう事?なんですか?」

加奈子さんが、キョトンとして聞いた。

「有三さ!加奈子さんに話すてけろ!ワスは、筋道立てて話すの苦手だがんな~」
「解りました、加奈ちゃんには私が話しますわ!」

さあ、いよいよ泰三おっさんの恋の行方が解るぞ・・・と吾輩もドキドキして来た。

「☆☆駅で、降ると泰三さんが聞いてた場所は、駅から5分位の所の飲み屋街だったわ。ブテックって聞いていたけど・・・そうじゃなくて、個人がやってる居酒屋だったんだ。」
「あら!そうだったの~居酒屋さんだったの!」
「うん、そうなんだ。でもその店は、休業の貼り紙がしてあった・・・。たまたま、隣のスナックのおばさんがいたので彼女の事を泰三さんが聞いて見たんだ。おばさん最初の内は話すのを渋っていたけど、流石に泰三さんは、元刑事だけあって聞くのが上手いなあと思ったわ・・・。段々おばさんが打ち解けて話してくれた。それによると、最近近くにチェーン店の居酒屋さんが出来て彼女の店のお客がめっきり減ってしまったらしい、それで経営が立ちいかなくなってしまったらしいだ。なんとか立て直そうと借金して店を改装したりして、頑張って見たけど、とうとうどうにも立ちいかなくなり、借金もかさんで、とうとう店をたたんでしまったと言うことだった。そして、彼女は1週間くらい前に何処かに引っ越して行ってしまったらしいんだなあ・・・」
「あらら~そうなんですか・・・・」

加奈子さんは、チョット悲しそうな顔をして頷いた。泰三おっさんはと言うと酒をチビリチビリ口に運びながら目をつむって聞いていた。

「それと、実は彼女には旦那さんらしい人が居た事も解った。店の二階に彼女は、住んでいたらしいんだけどそこには、同じ年齢位の男の人が居たらしい、病弱らしく一日中ゴロゴロしてて、働いてもいないようだったとそのおばさんは言っていた。さだかではないけど、多分その男が旦那さんだろうとも・・・言っていたなあ・・・。子供はいなかったようだけどね。」
「え~~そうなんですか・・・と言う事は、泰三さんが聞いてた話とだいぶ違う事になりますね・・・。」

と加奈子さんは、神妙な顔で泰三さんの方に言った。突然泰三さんが、目を開けて先生と加奈子さんの方を見ながら言った。

「じずわな・・・ワスは、なんどなぐ・・・そげなごとでねいがど・・・思っでだんだ・・・」
「え~~~~た、泰三さん!そうなんですか?」

と先生は、素っ頓狂な声を上げた。吾輩もビックリしてソファーから落っこちそうになった。

「んだ!ワスも長げえごと、刑事って商売やってだがんなあ・・・感がはだらぐんだ!恋には、まったくうどいげんじょな!」
と泰三さんは、頭を掻き掻き言った。
「じゃ、参考までに聞きたいんですけど、泰三さんが薄々感じていたって言うのは感だけじゃないでしょう!何か他にも根拠があったんじゃないですか?」

と先生が泰三さんに聞いた。加奈子さんも泰三おっさんを見ながら頷いていた。

「んだ!すずらんで彼女と飲んでる時何だげんじょ!彼女のコートとかバックをなにげな見だんだ!なげいごと刑事なんて商売やってたんべよ。ついつい持ち物など見る癖がすみこんでんだなあ・・・バックはブランド物らすいんだげんじょ、何かはす(端)の方がでいぶくたびっちたし、コートの袖口なんかも、でいぶくたびっちたんだわ。こりゃ、結構金に困ってじゃねいがなあ・・・と思っだわ!」
「なるほど、そうだったんですか〜」
「そんなの見で、私泰三さんなら再婚すてもいいわ!なんて言わっち見なんしょ・・・ワスは、このオナゴ助けてやんねど駄目だッペなあ〜って思ってすまったんだ。惚れた弱みっちゅ〜やずだな・・・でも、旦那さんらすき者までいだっちゅうのは想像すなかったげんじょなあ・・・」

と泰三さんは、頭を掻きながら笑った。その笑いはいつもの豪快な笑いではなかった。

「そうだったんですか・・・泰三さんは、優しいですものねえ・・・」
と加奈子さんがしんみりと言った。
「そうか、そうだったんだ!泰三おっさんは、優しい人なんだなあ・・・と言うよりお人好しかな・・・にゃ〜〜ン!」

と吾輩は、思った。

それから、暫く三人は無言で飲んでいたが突然泰三さんの口から歌らしきものが小さく流れて来た。

列車の窓に 僕の顔が映る
なんて惨めな 姿なんだろう
たわむれだと 思って恋に
うちのめされて しまうなんて
こうして誰もが 大人になっていく
そんな話を どこかできいたっけ
人間どうしの 辛い別れと言うべきを
今僕が 演じてる

「あ!泰三さん・・・それウィスキーの小瓶ですよねえ〜〜僕もその歌好きで良く歌いましたよ」
と先生が言った。
「んだ!ウィスキーの小瓶だ!歌っていうどこの歌すか、ワスはすらんからなあ・・・」

と泰三さんは、また頭を掻きながら照れたように言った。

「いい歌ですね・・・でもチョット悲しい・・・失恋の歌でしょう?」

と加奈子さんがしんみりと言った。

突然!泰三さんが立ち上がって言った。

「有三さ!めんどかげたげんじょ!すまねすなあ・・・でもこの話すはこれで終わりにスッペよ!湿っぽくて駄目だわ!ガハハ!」

と泰三さんはキッパリと言って、いつものように豪快に笑った。

「そうですねえ〜泰三さんがそう言うならそうしましょう!」

と先生も苦笑いを浮かべて言った。加奈子さんも頷いていた。それから、長い時間三人のお酒とお話は続いていた。

「今日は、長い一日だったなあ・・・ニャ〜〜ん!」

と思いながら吾輩はソファーに横になると、三人の会話は吾輩の耳から段々と遠くなっていった。

終章

泰三おっさんと謎の女(ほんとは翠さんと言うんだ~ニャ~~ん!)の騒動から1ヶ月がたった。季節は3月になり吾輩が、この家に紛れ込んで2代目逍遥となってからも1ヶ月以上がたった。

「もっと長く居たような感じだけど、まだ1ヶ月なんだなあ・・・ニャ~~ん!」

吾輩にとっては、幸せな1ヶ月だったなあ・・・と思った。3月になって一日一日と温かくなって来た。無田口家の庭の白梅も花を一杯つけて満開である。

泰三おっさんは、いつもの元気なおっさんになっていた。相変わらず週に3回は、夜に尋ねて来て先生と加奈子さんと三人で酒盛りをしている。その時の泰三おっさんは、すごく嬉しそうだ。いつも一人でいるからこうして皆でいるのは、楽しいんだろうなと吾輩は思った。

先生はと言うと、相変わらず仕事をしてるのかどうか良く解らない・・・時折机に向かって何か書いている・・・時々出版社から原稿を取りに来る人もいる。こんなコンピューターの時代なのに、うちの先生は、パソコンも携帯も持ってはいない。太い万年筆で原稿用紙に何か書いている。暫く机に向かっていたかと思うと、午後には泰三おっさんが現れ、二人揃って「しずか」に出かけて行くのが日課となっている。

「こんな、時代遅れの先生の書いたものなんて読む人いるのかなあ・・・ニャ~~ん!」

と吾輩は思ってしまう。

加奈子さんは、相変わらず忙しいのか土日も無く仕事に出かけて行く。それでも掃除やご飯の支度などはキチンとこなしている。吾輩のご飯だって、手作りで作ってくれている。ほんとに加奈子さんって、美人だし、優しいし、お仕事もしてるし・・・すごい人だなあ~~って吾輩は、いつも感心してしまう。

さて、吾輩はと言うと・・・風おじさんの所に行ったり、花おばちゃんの所に行ったりして毎日を過ごしている。今日もこれから花おばちゃんの所に行くのだ。途中、風おじさんの小屋を覗いたけど、風おじさんは居なかった。きっと、泰三おっさんと散歩にでも行ったのだろうと吾輩は思った。

しずかの一階の屋根でいつものように花おばちゃんと話していると向こうの方から先生と泰三おっさんが歩いて来るのが見えた。

「あ~~~来ましたね、お二人!・・・今日はね、チョット面白い事・・・いや、チョットいい話しかな?泰三さんに起こるから、逍遥ちゃんここでお昼寝でもして待っててね・・・ニャ~ん!」
「え~~チョットいい話・・・泰三さんに?何だろうなあ・・・ニャ~~ん!」
「後で聞かせてあげるから、待っててね~~ニャ~ん!」

と言うと花おばちゃんは、身軽に屋根から降りてお店に入って行った。吾輩は、天気もいいし急に眠くなって来たのでお昼寝して待つことにした。

★ここからは、花おばちゃんの観察日記だよ~~。

私が、店の定位置にいつものように座っていると、先生と泰三さんが何かニコニコしながら大きな声で話しながら入って来た。丁度店には、先生と泰三さん以外のお客さんは居なかった。

「お~~花子!元気があ~~~ガハハ」

私は、片目をあけてチョット頷いてそのまま寝たふりをしていた。

「ママ~~コーヒーの濃ぇ~~やづ、ふたっつ~~」

と泰三さんが、大きな声で静ママに言った。そんなに大声出さなくても聞こえるのに・・・と私は思った。

やがて、静ママがコーヒーを持って出てきた。コーヒーのいい香りがあたりに漂う。私は、コーヒーは飲めないけど・・・この香りは好きなのである。

「おまちどうさま~~」

と静ママは、先生と泰三さんの前にコーヒーを置いた。それから、泰三さんの方を見ると言った。

「泰三さん!実は・・・・」
「ん!?なんだっぺ!ママ~~ワスに惚れたとでも言うんだっぺが~ガハハ」
「実は、そうなんです!なんてね・・・と言うような話でなくて、今日は真面目なお話よ!」
「真面目な話!?ん!?真面目な話すがあ・・・なんだっぺ!」

と泰三さんは、先生と顔を見合わせてキョトンとした顔をしている。

「実はね、昨日先生と泰三さんが帰った後に店に翠さんが来たんですよ!」
「え~~~~翠さんって、例の彼女!?ですか・・・・・」

先生がビックリ!して素っ頓狂な声をあげたが、泰三さんは、別に驚いた様子でもなかった。

「それでね、これを渡して下さいって・・・この封筒をあずかりました。私は預かれないから、直接渡せばと言ったんですけど・・・これから遠くの街に行かなければいけないのでママから泰三さんに渡して欲しいって懇願されましてね、預かったんです。じゃ、確かに泰三さんにお渡ししましたよ。先生が証人ね。ウフ」

と静ママは、泰三さんの手にその封筒を渡すと先生にウィンクして奥に引っ込んだ。泰三さんは、暫く真面目な顔で封筒を見ていたが・・・いきなり封を開いた。中にはお札とピンクの封筒が入っていた。そのピンクの封筒を丁寧に開けると泰三さんは、ゆっくりと目を便箋に落とした。いつも見る泰三さんの人のいい陽気な顔と違って、すごく真面目な顔で読んでいた。先生は、泰三さんの顔とその便箋を交互に見ていた。やがて、泰三さんは便箋から目を上げて先生に便箋を差し出した。

「有三さ~~読むがい!」
「え、読んでいいんですか?」

泰三さんは、頷いた。先生は、泰三さんから便箋を受け取ると視線を落とした。私は、丁度先生の後ろに居たのでその手紙を盗み見る事が出来た。

翠さんって女性からの手紙には、次のような事が書いてあった。

「あなたは、私の事を怒っているでしょうね・・・。あなたの人の良さを利用してお金を出させて、そして、すぐに姿を消してしまった私を悪い女だと思っているでしょうね・・・。そう思われても仕方がない行為を、あなたにしてしまいましたものね。

私は、あなたと飲んでお話してる時が凄く楽しくて、借金の事や嫌な事も全て忘れられたんです・・・。何度かお会いして飲んでお喋りしてる間に、私はあなたの事がどんどん好きになって行きました。あなたも私の事を気にいってくれていたようですね・・・。

私が「泰三さんとなら再婚しても良いわ!」って何気なく言った時のあなたの少年のような笑顔を今も忘れる事が出来ません。
でも私には、旦那が居たんです、この事をあなたには、とても言えませんでした。何故なら、言ったらあなたと終わりになってしまう事が怖かったのです。あなたとこのままずっと繋がっていたくて「泰三さんとなら再婚しても良いわ!」って言ってしまったのです。

私が借金の話をした時、ずっと黙って聞いていたあなたが、突然言ってくれましたね。借金は、幾らしてるの?って・・・私が300万円って言ったら、暫く天を仰いで何かを考えていたあなたが、私の方を向いていいましたね。300万貸してあげるからそれで借金返せばって・・・私は、一瞬!嘘?って思ったけどあなたの真剣な顔を見たらこれは、本気で貸してくれるって思ったんです。それからは、私の演技です。300万直ぐにでも喉から手が出るほど欲しかったけど、簡単に借りたんじゃ、怪しまれると思って・・・何度かお断りして、あなたを安心させてそのお金を借りたんです。そのお金で借金を返済して、その日の内にあそこから消えたのです。

やっぱり、私は悪い女ですね。あなたのようないい人を騙したんですから・・・ひどい女だと自分でも思います。

本当に、あなたの行為を裏切り、ご迷惑をおかけしました事を深くお詫びします。勿論、あなたを騙した事がお詫びして済むなんて、思っていはいませんが今はそれしか方法がないんです・・・・。

同封のお金150万は、借りたお金の半分しかありませんがお受け取り下さい。残りのお金も必ずお返ししますので申し訳ありませんがもう暫く待って下さい。

ご迷惑をおかけしてほんとうにごめんなさい。」

先生が手紙を読み終わって、老眼鏡がずり落ちそうな顔あげて泰三さんを見た。泰三さんも黙って先生の顔を見た。

「泰三さん!翠さんは、悪い人じゃ無かった見たいですねえ・・・」

と先生がしんみりと言った。

「そだごどは、ワスは解っていだよ!長げいごと、刑事なんて商売すてたがらなあ・・・人の良す悪すは、結構みる目あんど!ガハハ」

と泰三さんは、明るく豪快に笑った。

「あれれ~泰三さん・・・明るいですねえ~~」

と先生は、ビックリした顔で泰三さんを見た。

「ガハハ~~もう、終わったごどだっぺよ!いいんだよ!」

と豪快に笑いながら言って、静ママを呼んだ。

「ママさん、ひとづ頼まっちくろ!あのおなごに手紙出すてくろ!住所すってんだろママわ・・・」
「あら!どうして解ったんですか?」

と静ママはビックリしたように言った。先生もビックリしたのか口をポカ~~んとあけ、ズリ落ちそうな老眼鏡もそのままで見ている。

「そりゃ、すっかりすた静ママの事だっぺよ、物預がんのに住所も番号も聞かねえはずながっぺよ!ガハハ」
「さすがねえ・・・泰三さん!元刑事!かっこいいわ!~~彼女の住所泰三さんに教えましょうか?」
「いや!住所はいらねす・・・ただ、手紙にはこう書いてくろ。ワスは、おめのごと悪いおなごだなんてちっとも思ってネイし、何ともおもってねえ・・・それと残った150万は、返さなぐでいいがら、ワスがらの餞別だからとっておけって書いてくろや!」
「あら~返さなくていいですかあ~~泰三さんて気前いいんですね・・・そんなに気前がいいのに何で女性に失敗するでしょう・・・」

とママは泰三さんにウィンクした。泰三さんは頭を掻きながら苦笑いを浮かべていたがその内トイレに立った。その隙に静ママが先生に言った。

「ねえ~先生!泰三さんって良い人なのに女運悪くないですか?前の葉子さんの時も駄目だったでしょう!」
「あは~、あれね・・・あれは多分コンサートの失敗が無くても駄目だったんだと思いますよ。あの彼女葉子さんって名前だったでしょう・・・実は、亡くなった泰三さんの奥さんも陽子さんって言うんですよ。泰三さんは、見合いで結婚したらしいんですが、素敵な人でしたよ泰三さんの奥さんわ!だから絶対に「ようこ」って人とは再婚はしませんよ!」
「そうだったんですか~~なるほどね!泰三さんていいとこあるのねえ・・・奥様を愛していたのねえ〜〜」

と静ママは、頷きながら奥に戻って行った。

さあ~話しも終わったようだし私も逍遥ちゃんの所に戻ってこの話をしてやろうと店を出て屋根の上の逍遥ちゃんの所に向かった。逍遥ちゃんは、身体を伸ばして寝ていた。さっきの店での話を逍遥ちゃんに聞かせてあげると逍遥ちゃんは、興味ありげに目をパチクリさせて大きく頷きながら聞いていた。

それから、何日か過ぎて日曜日がやって来た。どうやら今日は、加奈子さんもお休み見たいだ。朝から洗濯やら掃除やらをしている。先生はと言うと相変わらず簡易ベットから落ちそうになって口をあけて寝ている。何もない日曜日の穏やかな朝である。
やがて、先生も大きなアクビをして起きて来た。そして庭に出て体操まがいの運動を少ししている。そんな時に風おじさんを引いて必ずやって来るのが泰三さんである。それで先生と二言、三言話しをすると帰って行く。どうやら今日も、夕飯を食べにと言うか、酒盛りに泰三おっさんがさんがやって来る話がまとまったようだ。

こうして、今日もまた無田口家の何の変哲もない穏やかな一日が始まった。すっかりこの家に慣れた吾輩逍遥は、今日は何処に行こうか?なんて考えてる内にまた眠くなって来たので定位置のソファで眠ることにした。

それでは、皆さん~長く付き合ってくれてありがとう!また、何時の日にか、お会いしましょう!

さようなら・・・お・や・す・み~~ニャ~~ん!(^_-)-☆

続・吾輩は逍遥である

拙い文章で綴った自作の小説を無事に最終章まで完成することが出来た。

第1作が主人公初代逍遥の死と言う結末で終わったので、第2作は出来るだけハッピーエンドで終わるのがいいかなと試行錯誤して悩んだが、何とかハッピーエンドで終了出来たかなと思っている。さほど文才がある訳ではないので、悪戦苦闘だったがようやっと終章まで持って行くことが出来てホッとしている。

もし暇な時間があったら、一読していただけると嬉しいのだが・・・。

続・吾輩は逍遥である

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 成人向け
更新日
登録日
2013-01-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第1章 2代目逍遥誕生
  2. 第2章 大山泰三氏登場!
  3. 第3章 2代目逍遥探検に出る
  4. 第4章 2代目逍遥、花子と対面する
  5. 第5章 謎の女?泰三さんに接近中
  6. 第6章 泰三さんの恋の行方?
  7. 第7章 泰三さんは、優しい人
  8. 終章