アイ、アイ、アイ
捨てられたように身を投げて、ゴミのように拾われる。そんな自傷めいた行為を誰も通らない路地裏の一角で行う意味はきっと、ないんだろうなってとっくの昔に気付いていたのに、集積された本物のゴミの上に天を仰いで倒れ込む。そんな劇的な瞬間を何度も何度も繰り返して、背中を軽く痛めたり、お気に入りのジーパンのお尻辺りを随分と汚したりして、スプレー缶の落書きが四方の壁のあちこちに施された景色の中に潜む。そうやって一晩、一晩と積み重ねていけば、あの深海魚のように、この感覚のいずれかが衰えて特定のどこかが異様に特化する。見たいものだけ見える目とか、聴きたいことだけが届く耳とか、そんな都合のいいものでもいいし、知らなかったこととか、分かりたくもなかった物事に気付ける不都合なものでもいいから、それ専用の景色の中で死ぬまで生きる。そういう夢想を繰り返して見失える体重を1グラムも取り戻さないまま、埋もれたかった。消えたかった。/心底疲れた顔をして、川面を撫でる優しい風に髪を乱される。乾いた喉を潤す水も、酒も、何もここにはない。抱かれたばかりの身体に残る快感も、胸を抉るほどの痛みに負けてる。だから言葉も出てこない。耳鳴りも酷い。おまけに予想より早く昇ってきた朝日に視界を潰されて私はもう、何をすればいいのか。してあげたいことは山ほどあるのに。それら全てが石となって、砂となって私の元を去り始める。その分だけ軽くなった頭を振ってももう何も出てこない。あるのはこの形だけ。あの子が力一杯に抱き締めた、その最後の痕跡を残す柔らかい粘土みたいなこの身に刻まれた救いだけ。間違って届いた手紙みたいに唐突に現れては、困った顔で私を見つけた。その宛先を知ろうと目を合わせ、肌に触れ、確かめた。舞い上がらない訳にはいかなかったよね。だって、大好きだったから。あの子が口しないこの言葉を私はまだ、噛み砕けないままでいる。
アイ、アイ、アイ